Page:樺太アイヌ叢話.pdf/131

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居た時であつた。突然沖に二艘の軍艦が現はれた。扨て何處の軍艦だらう、日本か露西亞かと、小田寒のアイヌが心配して居ると、相濱の沖に「ドドーン」と大砲の音がする。始めて大砲の音を聞いた土人等は、何の音だらう。雷の音でもなし、不思議に思つて居た樣だが、軍艦から打ち出す砲聲であつた事が判つた。一發二發と數へたら、何んでも、十二發か打つた樣だ。さあ大變相濱の土人が全滅したに相違ない。誰か二三人偵察して來よと云つた處、前記小田寒の稿に記載した。

 露兵を退却せしめた、土人タムケノアイヌの外二人が行くと云ふので三人が相濱に向つた。夕景になり彼等は直ぐに歸つて來た。併して彼等の報吿に依れば、其軍艦は日本の軍艦であつて、人には別に傷はないが、危くチユサンマ(アイヌ婦人)木村愛吉氏の姪が今少し遲れて自己の居所を立ち去つたら、砲彈の破片に當つて死ぬ所であつたが、幸に早く立去つたので命びろひをした。又家の橫張の處に彈丸の破片が當つて殘つて居た。其砲彈の破片を、木村愛吉氏が額に揭げ紀念として保存してあつたと、報吿したので皆も安心した。

 最初沖合に軍艦が二艘見えてあつた一艘は內淵の沖に一艘は此の沖に碇留した何國の軍艦か判らないが、軍艦より發砲したから危ないから逃げろと云ふので、家內全部屋外に出で川邊の窪んだ處に皆