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馬来軍制定の慰安所関連取締規定

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馬来監達第28号 慰安施設及旅館営業取締規程

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第1章 総則

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第1条 本規程ハ軍人軍属並ニ一般邦人ヲ対象トスル慰安施設及旅館ノ整備並ニ営業取締ニ関スル事項ヲ規定ス
第2条 本規程ノ運用ニ当リテハ常ニ軍ト緊密ナル連絡ヲ保持シ之ガ協調ニ勉ムヘシ
第3条 慰安施設及旅館ハ軍人軍属並ニ一般邦人ノ士気ヲ興揚シ日本人タルノ品格ヲ保持スルコトヲ主眼トス
第4条 慰安施設ハ処理上之ヲ下ノ如ク区分ス

  1. 娯楽施設(映画、演劇、演技、読書、音楽、運動)
  2. 飲食施設(喫茶、食堂、料理屋)
  3. 特殊慰安施設(慰安所)

第5条 慰安施設ハ特ニ下士官以下ノ教育情操ヲ助成スル堅実ナル娯楽施設ノ整備ヲ第1義トシ飲食施設及特殊慰安施設ハ必要ノ最小限度ニ止メ且ツ酒乱ニ陥リ易キ(例ヘバ日本式カフエーノ如キ)施設ハ之ヲ避クルモノトス
第6条 飲食施設及特殊慰安施設(慰安所)ハ其ノ営業場所ヲ考慮シ現地人ニ対スル文化施策ニ悪影響ヲ及ホサザル如ク努ムベシ
第7条 慰安施設ノ経営者ハ邦人ニ限定スルヲ本則トスルモ従業員ハ為シ得ル限リ現地人ヲ活用シ邦人ノ使用ハ最小必要限度ニ止ムルモノトス
第8条 慰安施設営業ヲ下ノ如ク区分ス
 1. 軍専用
   一般人ノ出入利用ヲ許サザルモノ
 2. 軍利用
   一般人ノ出入利用ヲ許スモ軍人軍属ニ対シ特ニ利便ヲ与フルモノ
 3. 其ノ他ノ営業
   上以外ノモノ
第9条 軍専用及軍利用ノ認定ハ軍ニ於テ行フ
第10条 本規程に於テ軍トアルハ第2師団長又ハ第2師団長ノ指示スル独立守備隊長ヲ謂フ
第11条 海軍ノ所管ニ属スル慰安施設及旅館ハ軍政機関ニ於テ関与セザルモノトス

第2章 営業処理

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第12条 下記事項ハ地方長官ニ於テ処理スベシ

  1. 営業ノ許可、禁止、停止
  2. 営業ノ譲渡及営業所移転ノ許可
  3. 稼業婦ノ就業及就業所変更ノ許可
  4. 営業者及稼業婦ノ廃業許可

第13条第19条 略
第20条 軍専用及軍利用店ノ販売価格、代金、サービス料等ハ別途定ムル所ニ依ル
第21条 地方長官ハ慰安施設及旅館ノ営業者並ニ従業員ニ対シ毎月1回健康診断ヲ行フベシ
     前項ノ外稼業婦ニ対シ毎週1回検微ヲ行フベシ
第22条 地方長官ハ一般衛生管理ニ関シ必要アルトキハ関係軍隊に援助ヲ求ムルコトヲ得

第3章 監督

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第23条 地方長官ハ各営業者及従業員ニ対シ馬来監達第29号慰安施設及旅館営業順守規則(以下単ニ遵守規則ト称ス)ノ励行ニ付取締ヲ行フベシ
第24条 新ニ営業ヲ許可セントスルトキハ遵守規則ノ励行ヲ許可条件トシ既設営業ニ対テハ之ニ拠ラシムル如ク措置スベシ
第25条 地方長官ハ営業開設ニ当リテハ公安風俗及衛生上支障ナキ様営業所ノ構造設備ヲ為サシムベシ
第26条 地方長官ハ慰安施設及旅館営業者名簿並ニ稼業婦名簿(様式適宜)ヲ備付ケ異動ノ都度整理スベシ
前項ノ外稼業婦ニ対シ証票(様式適宜)交付シ就業中之ヲ携帯セシムルモノトス
第27条~第29条 略

第4章 雑則

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 (略)

付則

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本規程ハ昭和18年12月1日ヨリ之ヲ施行ス
以下略

馬来監達第29号 慰安施設及旅館営業遵守規則

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                                  昭和18年11月12日
第1条 慰安施設及旅館営業者ハ軍及軍政監部ノ別ニ指示スル事項ノ外本則ヲ遵守スベシ
第2条 慰安施設営業者ハ営業ノ区分ニ従ヒ店頭見易キ箇所ニ附表第1号ノ標識ヲ掲クベシ但シ軍関係ニ非ザルモノハ此ノ限リニ在ラズ
第3条 従業員ヲ雇入レ又ハ解雇シタルトキハ其都度附表第2号様式ニ依リ所轄地方長官ニ届出ツベシ但シ遠隔ノ地ニアリテハ所轄警察署を経由スルコトヲ得
第4条 営業者ハ附表第3号及第4号様式ノ従業員名簿ヲ備付ケ異動ノ都度整理シ置クベシ
第5条 営業者ハ各営業種別毎ニ組合ヲ組織シ所轄地方長官ノ認可ヲ受クベシ
第6条 営業者稼業婦ヲ雇入レタルトキハ別冊芸妓、酌婦[注釈 1]雇用契約規則ニ基キ雇用契約ヲ定メ所轄地方長官ノ認可ヲ受クベシ
第7条 営業者ハ下ノ事項ヲ遵守スベシ

  1. 外部ヨリ見透シ得ル場所ニ於テ婦女子ヲシテ客ト戯レ或ハ異様ノ服装又ハ見苦シキ姿態ヲナサシメザルコト
  2. 婦女子ヲシテ遊興ヲ勧誘セシメザルコト
  3. 婦女子ヲシテ客ニ随伴外出セシメザルコト
  4. 社交ダンスヲ行ハセシメザルコト
  5. 営業所ハ常ニ清潔ニシ衛生上遺憾ナキヲ期スルコト
  6. 従業員ノ保険衛生上必要ナル設備ヲナシ又冗費ヲ節約セシメ堅実ナル生活ヲナサシムル様常ニ指導監督スルコト
  7. 営業時間ハ12時ヨリ24時マデトス
  8. 何等ノ名義以テスルヲ問ハズ客ニ所定以外ノ料金ヲ請求セザルコト

第8条 営業者ハ所定ノ販売価格料金サービス料其他之ニ準ズルモノヲ各客室ニ掲示シ置クベシ
第9条 営業者及従業員ハ地方長官ノ指示シタル所ニ依リ健康診断ヲ受クベシ稼業婦ハ前項ノ外検微ヲ受クベシ
第10条 営業者及従業員ハ軍ノ衛生巡察ヨリ指示注意ヲ受ケタルトキハ之ニ従フベシ
第11条 稼業婦ハ就業認可ヲ受クルニ非ザレバ就業スベカラズ
第12条 営業者及従業員ハ軍政監ノ許可ヲ受クルニアラザレバ転業転籍ヲ為スコトヲ得ズ
前項ノ許可申請ハ所轄地方長官ヲ経由スベシ
第13条 営業者及稼業婦ニシテ廃業セントスルトキハ所轄地方長官ニ願出許可ヲ受クベシ
第14条、第15条 略
第16条 営業者(兵站旅館ニシテ一部ノ委託経営に属スルモノヲ除ク)ハ現金出納簿(様式適宜)ヲ備ヘ尚所要ニ応ジ補助簿ヲ備ヘ日日収支ヲ明確ナラシムベシ
第17条 略
第18条 特殊慰安施設(慰安所)営業者ハ毎月附表第7号ノ収支計算書ヲ翌月10日迄ニ所轄支部警務部経由ノ上軍政監に提出スベシ
第19条 営業者ハ本則ノ外地方長官ノ指示命令ヲ遵守スベシ

付則

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本規則ハ昭和18年12月1日ヨリ之ヲ施行ス

附表第1号 「軍専用」「軍利用」標識 : 略

附表第2号 従業員雇用(解雇)届

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従業員雇入(解雇)届
従業 種別
本    籍
住    所
氏    名
性    別
年    齢
種  族  別
従業ノ種別
雇入 年月日
解雇 年月日
    昭和  年  月  日

            営業所

                                営業者         印

   州(市)長官殿

附表第3号 1. 従業員名簿(其ノ1)表紙: 略

附表第4号 2. 従業員名簿(其ノ2)

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従業員名簿(其ノ2)
従業員種別 氏   名 年齢 性別 種族別 本籍 雇入(解雇)年月日
住所 雇入 解雇












附表第5号 収支計算書(料理屋喫茶店旅館等): 略

附表第6号 資産負債内訳表

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          資産負債内訳表
                       昭和  年  月現在
業種           屋号       氏名

資    産 負    債
科  目 摘  要 金 額 科  目 摘  要 金 額
固定資産 資 本
営業用設備什器 自己資本
借入資金

開業費 買掛金

貸付金 何々

棚卸資産

預金
現金
何々

 右御届ニ及候也

           昭和  年  月  日

                     右(営業者氏名)          印

 馬来軍政監部長殿

附表第7号 収支計算書(慰安所)

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        収 支 計 算 書            昭和  年  月  日
  何々倶楽部                営業者氏名

収 入 支   出
科  目 摘  要 金 額 科  目 摘  要 金 額
玉代総収入 玉代(稼業婦ニ払戻)
雑収入 賄代
光熱費
衛生費
組合費
家賃
給料
営繕費
雑費
本月利益
備考1. 投資額(稼業婦ニ貸与シアル前借金及開業迄ニ特ニ要シタル経費)

(イ)当初ノ金額
(ロ)現在迄ニ回収シタル額

前月迄ノ回収額
本月回収額

        計
(ハ)差引未回収額
  2. 人員数   (イ)稼業婦    名  (ロ)其他使用人   名
 右御届ニ及候也
       昭和  年  月  日
                   右何内            印
 馬来軍政監部殿

資産負債内訳表説明事項

  1. 本表ノ勘定科目ハ業態ノ主要項目ニ就キ設定シタルナルヲ以テ指定以外ノ資産負債ニ対シテハ経営者ニ於テ其ノ性質ヲ明確ナラシムルベク区分設定シ各勘定科目ノ月末現在高ヲ計上スルモノトス
  2. 固定資産ニハ開業ノ為ニ要シタル建物及工作物ノ新築模様替ヘ等ニ要シタル金額ヲ計上ス
  3. 開業費ニハ開業ニ至ル間ニ於ケル従業員ノ給料及旅費其他ノ諸掛ヲ計上ス
  4. 貸与金ニハ従業婦ニ対シテ貸与ヲ為シタル債権額ヲ計上ス
  5. 損益計算上諸公課及支払利子等ニ対シ機関計算ヲ為シタル引当金ニ対シテハ之ヲ負債ニ計上ス

(別冊) 芸妓、酌婦雇用契約規則

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第1条 営業者芸妓酌婦(以下稼業婦ト称ス)ヲ雇入レンとスルトキハ其ノ契約ヲ下記標準ニ依リ為スベシ
但シ従来ノ契約中稼業婦ノ利益ニ属スルモノニシテ其ノ契約ヲ存続セントスルトキハ此ノ限リニ在ラズ
1. 稼業婦ガ稼業ニ依ル収益金ヨリ強制貯金ヲ控除シタル残高ノ収得歩合ハ下記ニ拠ルベシ
(イ)稼業婦稼高ノ配当歩合
   債務残高      雇主所得     本人所得
   1,500円以上   6割以内     4割以上
   1、500以内    5割以内     5割以上
   無借金        4割以内     6割以上
(ロ)前借金及別借金ハ総テ無利子トス
第2条 稼業婦ニ関スル下ノ費用及物品ハ雇主ノ負担トス

  1. 居室」、戸棚、衣類箪笥、消毒用器具
  2. 寝具一式
  3. 食費、燈火
  4. 消毒薬品
  5. 健康診断ニ要スル費用お

第3条 雇主ハ稼業婦ノ毎月稼高ノ百分ノ三ヲ司法長官ノ指定スル郵便局ニ稼業婦本人ノ名義ヲ以テ貯金シ稼業婦廃業ノ時本人ニ交付スルモノトス
第4条 稼業婦ノ配当所得金ヲ以テスル前借金返済ハ毎月其所得ノ三分ノ二以上トシ残金ハ稼業婦ノ自由トス
第5条 稼業上ニ基因スル妊娠分娩及疾病ニ要スル諸費用は雇主、稼業婦折半負担トシ其ノ他ニ基因スルモノハ稼業婦ノ負担トス但シ此ノ場合ニ於テモ雇主ハ見舞金トシテ適当ノ補助ヲナスモノトス
第6条 遊客其他ヨリ稼業婦ニ於テ直接収受シタル金品ハ総てテ稼業婦ノ収得トス
第7条 遊興費ノ不払ハ総テ営業主ノ負担トス
第8条 稼業婦廃業シタルトキハ雇主ハ稼業当日迄ノ稼高ヲ清算スベシ
第9条 稼業婦ガ本契約締結ノ日ヨリ満六カ月以内ニ於テ雇主ノ意ニ反シテ解約セントスルトキハ雇主ニ対シ相当額ノ違約金ヲ補償スルモノトス但シ其ノ金額ハ所轄地方長官ノ承認ヲ得テ決定スベシ
第10条 雇主ハ様式第1号ノ貸借計算簿及様式第2号ノ稼高日記帳各二通ヲ調整シ其ノ各一通ヲ稼業婦ニ交付シ毎月末計算ノ上整理シ置クベシ
第11条 稼業婦一時ニ別借百円以上為ナントスルトキハ所轄地方長官ノ認可ヲ受クベシ
第12条 下ノ場合ニ於テハ貸借計算簿及稼高日記帳ヲ所轄地方長官二提出シ検閲ヲ受クベシ

  1. 稼業婦ノ開業就業所ノ変更又ハ廃業セントスルトキ
  2. 別謝金ノ認可ヲ受クルトキ
  3. 契約ヲ変更セントスルトキ
  4. 亡失、棄損等ニ依リ帳簿ヲ変更セントスルトキ

第13条 本則ニ定メタル事項以外ノ雇用関係ヲ契約セントスルトキハ其都度所轄地方長官ノ認可ヲ受クベシ
第14条 本則施行ノトキ契約シアルモノハ本則ニ依リけ契約シタルモノト見做ス但シ稼業婦ノ不利益トナル事項ハ本則ニ適合スル如ク変更スベシ

様式第1号 貸借計算書

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年月日 貸借理由 貸借金額 返済金額 差引現在額 雇主印 稼業婦印





様式第2号 稼高日記帳

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      稼高日記帳          (   月分)
月  日 金 額 月  日 金 額
1日 21日
2日  22日
4日  24日
5日  25日
6日  26日
7日  27日
8日  28日
9日  29日
10日  30日
11日  31日
12日  月 末 計 算
13日   
14日  強制 貯金 
15日  上 合 計
16日  稼業婦収得金
17日  上ノ中返済金
18日  差引 残額
19日 
20日 

注釈

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  1. 娼妓と同じ。日本帝国国外では、国際的な廃娼運動を考慮し、「娼妓」を「酌婦」と称した

関連資料

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