風景唱歌
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地理敎材 風景唱歌
大和田建樹作
花 の都 の春 ふかく かをるや雲 の上 野 山 山 かと見 えて木 のもとを ゆくは櫻 をみる人 か東 照 宮 の石 段 を おるれば前 に忍 ばずの池 水 ひろくたゝへたり うかべる鴨 もたのしげに- あすは
飛 鳥 の山 さくら わか葉 のかげに散 步 せん もみぢの頃 にあらねども王 子 の瀧 も音 たかし 秋 は心 の雲 はれて月 の光 の墨 田 川 墨 繪 に似 たる水 神 の森 のながめもおもしろや月 にうかれて舟 出 する なみぢの末 の安 房 上 總 雲 間 に高 く晝 ならば鋸 山 も見 ゆべきに九 十 九 里 濱 ゆきすぎて銚 子 の浦 を見 わたせば犬 吠 崎 の燈 臺 は逆 まく波 をてらすなり根 利 〔ママ〕の川 水 ゆたかにて藍 の如 くに流 れたる中 を白 帆 の四 つ五 つ ゆくもしづけき御 代 のさま鹿 島 香 取 の宮 めぐり すまして渡 る舟 の道 霞 が浦 のほの〴〵と かすむもうれし日 はいでゝ雲 井 はるかに立 つ駒 の耳 かと見 ゆる筑 波 山 春 はわらびを取 りにゆく をとめの歌 もひゞくなり夏 もすゞしき日 光 の山 にとゞろく瀧 の音 千 軍 萬 馬 の馳 せちがふ聲 こそをこれ谷 底 に見 とれて今 日 も日 をくらす日 ぐらし門 のうつくしさ三 百 年 の泰 平 を ひらきし人 を忘 るなよ八 幡 太 郞 が道 もせに ちると詠 ぜし山 ざくら のこらぬ世 にもなほのこる花 の勿 來 の關 のあと八 百 八 島 雪 はれて きのふにかはる朝 げしき來 てみる人 を松 島 の松 に嵐 の聲 もなし安 倍 の貞 任 宗 任 の たゝかひありし衣 川 衣 のたても秋 ふけて むかしかたるは月 ひとり越 後 の海 の波 のうへ ほのかにみゆる島 かげは佐 渡 かあらぬか承 久 の うらみや今 に殘 るらん信 濃 に名 所 はをほけれど まづ姥 捨 の秋 の月 鏡 臺 山 にさしのぼる影 は神 代 のまゝにして諏 訪 のみづうみ冬 の來 て わたる氷 の橋 の上 雪 ふく風 の寒 さをも忘 れてゆくか旅 人 は甲 斐 の御 嶽 にゆく人 は岩 のけしきを見 のこすな天 目 山 の草 わけて歷 史 のあとも尋 ぬべし身 延 まうでのかへりには早 くもあとに走 りゆく嚴 を舟 にてながめつゝ富 士 川 下 る愉 快 さよ高 ねは蓮 の花 に似 て立 てるするがのふじの山 そのうつくしさ潔 さ さながら國 の姿 にて- あたりに
陸 のかげもなき遠 州 洋 の波 まより かたち正 しく雪 白 く ながめし友 は此 山 よ 昔 は關 を置 かれたる要 害 一 の箱 根 山 今 は七 湯 にゆあみして湖 水 に遊 ぶ有 難 さ伊 豆 の熱 海 の温 泉 は冬 あたゝかに夏 すゞし手 にとるばかり大 島 の煙 もみゆる海 の上 武 州 金 澤 八 景 を能 見 堂 よりながむれば乙 艫 の歸 帆 瀨 戶 の月 まだ見 ぬ琵 琶 湖 ぞ思 はるゝ石 段 たかき鶴 が岡 砂 原 ひろき由 井 が濱 濱 のけしきは長 谷 寺 の山 より見 るが第 一 ぞ琵 琶 湖 の名 所 をかぞふれば粟 津 のあらし比 良 の雪 瀨 田 の夕 日 のかげ消 えて堅 田 に雁 の聲 すなり月 おもしろき石 山 の寺 までひゞく三 井 のかね矢 走 の舟 も唐 崎 の雨 にや道 をいそぐらん音 にひゞきし養 老 の瀧 は汽 車 より道 三 里 孝 子 のほまれ今 もなほ語 りつたへて人 ぞ見 る鵜 飼 の名 所 は長 良 川 暗 も忘 るゝ笧 火 に よりくる鮎 を照 らさせて鵜 つかふさまぞおもしろき空 もおぼろにきのふけふ かすみそめたる月 が瀨 の梅 みる頃 となりにけり ゆけや汽 車 にて車 にて見 わたすかぎり白 妙 に かをり滿 ちたる梅 林 天 下 の春 にさきだちて鶯 やどす花 はこれ花 にもまさる風 景 は二 見 の浦 の朝 日 かげ二 つの岩 の間 より のぼる光 は千 代 までも
JIS X 0208版
[編集]地理教材 風景唱歌
大和田建樹作
花 の都 の春 ふかく かをるや雲 の上 野 山 山 かと見 えて木 のもとを ゆくは櫻 をみる人 か東 照 宮 の石 段 を おるれば前 に忍 ばずの池 水 ひろくたゝへたり うかべる鴨 もたのしげに- あすは
飛 鳥 の山 さくら わか葉 のかげに散 歩 せん もみぢの頃 にあらねども王 子 の瀧 も音 たかし 秋 は心 の雲 はれて月 の光 の墨 田 川 墨 繪 に似 たる水 神 の森 のながめもおもしろや月 にうかれて舟 出 する なみぢの末 の安 房 上 總 雲 間 に高 く晝 ならば鋸 山 も見 ゆべきに九 十 九 里 濱 ゆきすぎて銚 子 の浦 を見 わたせば犬 吠 崎 の燈 臺 は逆 まく波 をてらすなり根 利 〔ママ〕の川 水 ゆたかにて藍 の如 くに流 れたる中 を白 帆 の四 つ五 つ ゆくもしづけき御 代 のさま鹿 島 香 取 の宮 めぐり すまして渡 る舟 の道 霞 が浦 のほの/″\と かすむもうれし日 はいでゝ雲 井 はるかに立 つ駒 の耳 かと見 ゆる筑 波 山 春 はわらびを取 りにゆく をとめの歌 もひゞくなり夏 もすゞしき日 光 の山 にとゞろく瀧 の音 千 軍 萬 馬 の馳 せちがふ聲 こそをこれ谷 底 に見 とれて今 日 も日 をくらす日 ぐらし門 のうつくしさ三 百 年 の泰 平 を ひらきし人 を忘 るなよ八 幡 太 郎 が道 もせに ちると詠 ぜし山 ざくら のこらぬ世 にもなほのこる花 の勿 來 の關 のあと八 百 八 島 雪 はれて きのふにかはる朝 げしき來 てみる人 を松 島 の松 に嵐 の聲 もなし安 倍 の貞 任 宗 任 の たゝかひありし衣 川 衣 のたても秋 ふけて むかしかたるは月 ひとり越 後 の海 の波 のうへ ほのかにみゆる島 かげは佐 渡 かあらぬか承 久 の うらみや今 に殘 るらん信 濃 に名 所 はをほけれど まづ姥 捨 の秋 の月 鏡 臺 山 にさしのぼる影 は神 代 のまゝにして諏 訪 のみづうみ冬 の來 て わたる氷 の橋 の上 雪 ふく風 の寒 さをも忘 れてゆくか旅 人 は甲 斐 の御 嶽 にゆく人 は岩 のけしきを見 のこすな天 目 山 の草 わけて歴 史 のあとも尋 ぬべし身 延 まうでのかへりには早 くもあとに走 りゆく嚴 を舟 にてながめつゝ富 士 川 下 る愉 快 さよ高 ねは蓮 の花 に似 て立 てるするがのふじの山 そのうつくしさ潔 さ さながら國 の姿 にて- あたりに
陸 のかげもなき遠 州 洋 の波 まより かたち正 しく雪 白 く ながめし友 は此 山 よ 昔 は關 を置 かれたる要 害 一 の箱 根 山 今 は七 湯 にゆあみして湖 水 に遊 ぶ有 難 さ伊 豆 の熱 海 の温 泉 は冬 あたゝかに夏 すゞし手 にとるばかり大 島 の煙 もみゆる海 の上 武 州 金 澤 八 景 を能 見 堂 よりながむれば乙 艫 の歸 帆 瀬 戸 の月 まだ見 ぬ琵 琶 湖 ぞ思 はるゝ石 段 たかき鶴 が岡 砂 原 ひろき由 井 が濱 濱 のけしきは長 谷 寺 の山 より見 るが第 一 ぞ琵 琶 湖 の名 所 をかぞふれば粟 津 のあらし比 良 の雪 瀬 田 の夕 日 のかげ消 えて堅 田 に雁 の聲 すなり月 おもしろき石 山 の寺 までひゞく三 井 のかね矢 走 の舟 も唐 崎 の雨 にや道 をいそぐらん音 にひゞきし養 老 の瀧 は汽 車 より道 三 里 孝 子 のほまれ今 もなほ語 りつたへて人 ぞ見 る鵜 飼 の名 所 は長 良 川 暗 も忘 るゝ篝 [1]火 に よりくる鮎 を照 らさせて鵜 つかふさまぞおもしろき空 もおぼろにきのふけふ かすみそめたる月 が瀬 の梅 みる頃 となりにけり ゆけや汽 車 にて車 にて見 わたすかぎり白 妙 に かをり滿 ちたる梅 林 天 下 の春 にさきだちて鶯 やどす花 はこれ花 にもまさる風 景 は二 見 の浦 の朝 日 かげ二 つの岩 の間 より のぼる光 は千 代 までも
- ↑ 底本では竹冠に「册」
この著作物は、1927年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。
この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。