陸戦教範
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綱領
[編集]第一
[編集]- 軍隊ノ用ハ戦闘ニ在リ故ニ百事皆戦闘ヲ以テ基準ト為スベシ戦闘一般ノ目的ハ敵ヲ圧倒殲滅シテ速ニ戦捷ヲ獲得スルニ在リ而シテ確固タル軍人精神ヲ基礎トシ軍紀至厳ニシテ攻撃精神充溢セル軍隊ハ克ク戦捷ヲ完フシ得ルモノトス
第二
[編集]- 軍紀ハ軍隊ノ命脈ナリ上指揮官ヨリ下一兵ニ至ルマデ脈絡一貫克ク一定ノ方針ニ従ヒ衆心一致ノ行動ニ就カシメ得ルモノ即チ軍紀ナリ而シテ軍紀ノ要素ハ服従ニ在リ全軍ノ将士ヲシテ至誠上長ニ服従シ其ノ命令ヲ確守スルヲ以テ第二ノ天性ト成サシムルヲ要ス
第三
[編集]- 軍隊ハ常ニ攻撃精神充溢シ士気旺盛ナラザルベカラズ蓋シ勝敗ノ数ハ必ズシモ兵力ノ多寡ニ依ラズ精練ニシテ且攻撃精神ニ富メル軍隊ハ克ク寡ヲ以テ衆ヲ破ルコトヲ得ルモノナレバナリ
第四
[編集]- 陸戦隊ハ戦闘、警備等ニ方リ複雑困難ナル情況ニ於テ各級職員ノ臨機善処ヲ必要トスルコト屡ナリ故ニ隊員ハ機敏ニシテ剛毅、周密ニシテ果断克ク操式教範ニ通暁シ之ガ活用ヲ誤ラザルノ用意アルヲ要ス
第一篇 戦務
[編集]第一章 指揮及連絡
[編集]要旨
[編集]- 第一
- 指揮及連絡ハ軍隊活動ノ脈絡ニシテ百般ノコト皆之ニ基ク而シテ指揮ハ主トシテ命令ニ依リ連絡ハ報告及通報ニ依ルモノトス
- 第二
- 指揮ノ基礎ハ決心ナリ而シテ決心ハ任務、敵情、地形及我軍ノ状態等ニヨリ決スルモノニシテ特ニ任務ハ其ノ基礎ヲ為スモノトス決心ハ指揮官ノ堅確ナル意志ニ依ルベキモノニシテ常ニ徹底的ナルヲ要シ一度定メタル決心ハ重大ナル理由アルニ非ザレバ之ヲ改変スベカラズ然レドモ若シ決心ヲ新ニスルヲ要スル事情ヲ生ジタル場合ニハ其ノ改変ノ時機最適切ナラザルベカラズ
- 第三
- 決心ヲ為スニ当リ敵情ヲ正シク判断スルコトハ最肝要ナリ之ガ為各種ノ手段ヲ尽シテ其ノ資料ヲ得ルコトニ努ムルヲ要ス而シテ敵ノ企図ハ多クノ場合不明ナルベシト雖モ戦術上至当ナル行動竝ニ其ノ為シ得ベキ動作及慣用戦法等ヲ攻究セバ之ガ推定上大ナル過誤ナキヲ得ベシ
- 第四
- 決心ヲ為スニ当リテハ敵ニ対シ常ニ主動ノ位置ニ立チテ動作ノ自由ヲ獲得スルニ努メ且敵ノ意表ニ出ヅルコト肝要ナリ又決心ヲ為スニハ眼前ノ小利ニ眩惑セラルルコトナク常ニ大局ヲ逸セザルヲ要スルト共ニ其ノ時機適当ニシテ遅速アルベカラズ情況充分明瞭ナラザルノ故ヲ以テ決心ノ時機ヲ遅延セシムルハ不可ナリ又過早ニ決心シテ情況ノ変化ニ依リ更ニ之ヲ改変スルガ如キハ指揮官ノ過誤ニ属スルモノトス
- 第五
- 正確ニシテ時機ニ適合シタル報告、通報ハ各指揮官ニ正当ナル情況判断ヲ為ス基礎ヲ与ヘ以テ指揮及協同動作ヲ適切ナラシムルモノナリ故ニ指揮官及各部隊長ノ間ニ適切ニ連絡ヲ保ツコトハ極メテ緊要ナリ
- 然レドモ特殊ノ場合ニハ受ケタル命令若ハ報告、通報ヲ所要ノ期間秘密ニ保ツヲ要スルコトアリ
第一節 命令、報告及通報
[編集]- 第六
- 命令ハ発令者ノ決心ヲ表示シ受令者ニ任務ヲ課スベキモノニシテ受令者ノ処断ニ委スベカラザル事項ヲ簡明確切ニ示シ過度ニ受令者ヲ拘束セザルヲ要ス然レドモ受令者ノ識量性質ヲ顧慮スルコトモ亦肝要ニシテ要スレバ行動ノ準拠トナルベキ大要ヲ指示スルヲ可トスルコトアリ
- 第七
- 命令ハ其ノ実行ニ至ル迄情況ノ変化測リ難キトキ又ハ発令者情況ヲ予知スルコト能ハザル為受令者ヲシテ現況ニ応ジテ適当ニ処断セシムベキトキ等ニハ殊ニ簡単ニシテ細事ニ亙ラザルヲ要ス
- 第八
- 命令ニハ憶測ヲ加ヘ将来ヲ希望シ又ハ之ヲ命ジタル理由ヲ示シ或ハ未然ノ形勢ヲ予想シテ一々之ニ応ズル処置ヲ定ムルガ如キコトヲ避クルヲ要ス
- 第九
- 命令ハ適当ノ時機ニ受令者ニ達スル如ク発スルヲ要ス是レ早キニ失スレバ情況ノ変化ニ伴ヒ之ヲ更正スル必要ヲ生ジ遅キニ過グレバ受令者適当ナル処置ヲ為ス余裕ヲ得ザレバナリ
- 第十
- 数部隊ヲシテ協同動作ヲ為サシムル場合ニハ通常同一ノ命令ヲ以テ其ノ任務ヲ附与スルモノトス而シテ受令者ガ命令受領後処置ニ多クノ時間ヲ要スルトキ或ハ部隊ヲシテ速ニ所要ノ位置ニ就カシムルヲ有利トスル場合等ニ在リテハ先ヅ各別ニ其ノ要旨ノミヲ示シ後完全ナル命令ヲ下スヲ可トスルコトアリ
- 第十一
- 作戦命令ハ左ノ順序ニ依リ述ブルヲ通例トス
- 一、敵軍及友軍ノ情況(受令者ノ為ニ必要ナルモノニ限ル)
- 二、指揮官ノ決心
- 三、各部隊ノ任務
- 四、発令者ノ所在及要スレバ其ノ行動連絡ノ方法等
- 作戦命令ハ左ノ順序ニ依リ述ブルヲ通例トス
- 第十二
- 直接作戦ニ関係ナキ事項ハ通常日令トシテ令示スルモノトス
- 第十三
- 敵情ハ探索シテ得タル情報ト自己ノ観察トヲ綜合シテ判断スルヲ最確実ナルモノトス故ニ各部隊長ハ探知シ得タル情況ノ内必要ナルモノハ自己ノ現状竝ニ爾後ノ企図等ト共ニ速ニ上級部隊長ニ報告シ且要スレバ之ヲ部下竝ニ比隣部隊ニ通報スルコト肝要ナリ又長期ニ亙ル警備ノ如キ場合ニ在リテハ指揮官ハ各方面ヨリ得タル情報ヲ綜合シテ毎日一定ノ時刻ニ之ヲ所要ノ部隊長ニ通報スルヲ可トスルコト多シ
- 第十四
- 報告ノ時機ハ情況ニ依リ一定シ難シト雖モ初メテ敵ヲ発見シタルトキ、有力ナル部隊ト遭遇シタルトキ、敵ノ占領ヲ予想シタル地点等ニシテ敵ガ未ダ之ヲ占領シアラザルトキ及一任務ヲ達成シタルトキ等ニハ必ズ報告スベキモノトス又一定時間中ニ於ケル形勢変化ノ有無ヲ報告スルコトハ大ニ価値アルモノトス
- 第十五
- 指揮系統ヲ有スル部隊長間ノ命令、報告、通報ノ伝達ハ其ノ系統ヲ逐ヒテ之ヲ行フモノトス然レドモ特ニ事急ナル場合ニハ此ノ順序ニ依ルコトナク直接所要ノ部隊長ニ伝達スルコトヲ得此ノ場合ニ在リテハ中間ニ於テ省カレタル部隊長ニハ成ルベク速ニ其ノ旨ヲ別報スルヲ要ス
- 又友隊ニ対スル通報ハ相互ノ協同動作上直接関係ヲ有スル部隊長ニ伝達スルヲ通常トスレドモ危険ノ迫レル部隊其ノ他特ニ必要ナル部隊ニハ先ヅ直ニ通報スルモノトス
- 第十六
- 地形ニ関スル適切ナル報告通報ハ重要ナル価値ヲ有スルモノトス故ニ報告ニハ其ノ要求ナキ時ト雖モ成ルベク之ヲ附加スルヲ可トス特ニ現地ト地図ト相違シタル場合ニ於テ然リトス
- 第十七
- 指揮官ト遠隔シタル部隊ノ長ガ自隊ノ状態及爾後ノ企図ニ関スル事項ヲ上級指揮官竝ニ関係友隊ニ知ラシムルハ其ノ画策ヲ適当ナラシメ他部隊ヲシテ協同動作セシムル為必要ナルヲ以テ他ノ報告、通報事項ニ之ヲ附加スルノミナラズ要スレバ特ニ之ヲ報告若ハ通報スベシ
- 第十八
- 報告ニハ自己ノ目撃シタルコト他人ヨリ聞知セシコト若ハ自己ノ推測ニ係ルコト等ヲ判然区別スルヲ要ス而シテ自己ノ目撃セシモノヲ除クノ外其ノ出所ヲ明示シ推測ニ係ルモノハ其ノ理由ヲ附スルヲ要ス
- 第十九
- 敵情ニ関スル報告ハ簡明ニシテ左記四件ヲ具備セシムルニ努ムルヲ要ス
- 一、時刻
- 二、場所
- 三、兵力(兵種、員数)
- 四、動静(行動、配備及其ノ他ノ状態)
- 敵情ニ関スル報告ハ簡明ニシテ左記四件ヲ具備セシムルニ努ムルヲ要ス
- 第二十
- 戦闘一段落ヲ告ゲタルトキハ各部隊長ハ直ニ先ヅ戦闘概報ヲ直属上官ニ提出シ時機ヲ得次第戦闘詳報ヲ提出スベシ
- 戦闘概報ニハ概ネ左記ノ内必要ナル事項ヲ示シ為シ得レバ主要ナル時機ニ於ケル彼我ノ対勢ヲ明ニセル要図ヲ添附スルヲ可トス
- 戦闘前ニ於ケル彼我ノ対勢、戦闘経過ノ概要、戦闘後ニ於ケル彼我ノ対勢及敵情判断竝ニ之ニ対スル自己ノ企図、彼我損害ノ情況、消耗弾薬及残弾ノ概数其ノ他重要ナル事項
- 第二十一
- 伝令ヲ以テスル報告、通報ハ特ニ簡単ナル事項ノ外成ルベク口頭ニ依ルヲ避ケ筆記シテ送達スベシ
- 第二十二
- 命令、報告及通報等ニ用フル語句ハ簡単確切ニシテ平易ナルヲ要シ理解困難ナル章句或ハ不必要ナル形容詞等ノ使用ハ之ヲ避ケ受領者ガ如何ニ解釈スベキヤヲ考察シ文書ニ記載セバ必ズ之ヲ復読スルヲ要ス
- 第二十三
- 命令ニハ通常其ノ固有ノ隊名(第一大隊命令等)或ハ軍隊区分ニ依リテ成リタル部隊等ノ名称(前衛命令等)ヲ冠ス
- 報告ハ種類ニ応ジテ報告者ノ隊名事項等ヲ冠ス例ヘバ「第一中隊戦闘概報」「第一将校斥候報告」等ノ如シ
- 第二十四
- 命令、報告及通報ヲ文書ニ記載スルニハ項ヲ分チ数字(一、二、三等)ヲ附シ列記スルヲ例トス而シテ特ニ書式アルモノノ外緊要ナル事項ハ之ヲ始メニ記載シ一事件ニ関スルモノハ行ヲ分チテ一項中ニ記載シ且発送日時、発送地、発令者又ハ報告者ノ職氏名及必要ニ応ジ配布先ヲ記入スルモノトス
- 第二十五
- 命令、報告及通報ニ用フル日時ニハ本日、明日、昨日、先刻、唯今等ヲ避ケ暦日ヲ用フベシ又時刻ニハ午前、午後ノ別ヲ必ズ冠スルモノトス例ヘバ三月十一日若クハ明十一日、昨九日、午前八時、午後三時等ノ如シ又十二時ノ呼称ハ通常何日正午若ハ何日夜十二時ト呼称シ誤リヲ避クルヲ可トス
- 全夜ニ亙ル事件ヲ示スニ夜ナル語ヲ用フルヲ要スルトキハ単ニ某日夜ト称ス此ノ場合夜トハ某日夕刻ヨリ其ノ翌日ノ明ケ方迄ヲ指スモノトス
- 第二十六
- 地名ハ殊ニ明瞭ニ示シ且地図ト同文字ヲ用フルヲ要ス一地方ニ於テ同一ノ地名アルトキハ若ハ著名ナラザル地名ハ精密ニ示スヲ要ス例ヘバ「何町ノ北東何十米ニ在ル何村等」ノ如シ又字名或ハ俗称ニシテ地図ニ記載ナキモ之ヲ用フレバ其ノ地点明瞭ナルトキ或ハ地図ノ地名実称ト異ナル場合ニ於テハ必ズ先ヅ地図ニ記載シアルモノヲ用ヒ其ノ次ニ註釈的ニ字名或ハ俗称又ハ実称何々ト示シ又読ミ難キ地名ヲ文書ニ記スニハ振リ仮名ヲ附スベシ例ヘバ「不(い)入(りや)斗(まず)」ノ如シ外国ノ地名ハ漢字ヲ用フルモノニ在リテハ漢字ヲ以テ記載シ其ノ呼称ハ我国慣用ノ発音ニ従ヒ例ヘバ上海(シャンハイ)青島(セイトウ)等ト呼称シ然ラザルモノハ片仮名ヲ以テ記載シ「 」ヲ附スルヲ通常トス
- 道路ハ疑ナキ街道ノ外ハ之ニ関スル著名ナル二個以上ノ地名ヲ以テシ文書ニハ「何村-何村道」ノ如ク記ス
- 某地点又ハ道路ヲ包含スル地区ノ指示ヲ為スニ際シテハ之ヲ包含スルヤ否ヤ疑ハシキ懸念アルトキハ地名又ハ道路ノ名称ノ次ニ(含ム)又ハ(含マズ)ヲ明示シ或ハ某地及其ノ附近若ハ道路及其ノ以南等ト示シテ明瞭ナラシムベシ
- 第二十七
- 前後左右ハ自軍ノ向フ方向ヲ基準トシテ呼称スルモノニシテ特ニ敵軍ニ就キ謂フトキハ「敵ノ」ノ二字ヲ冠シ「敵ノ後方」「敵ノ左翼」等ト称ス
- 河川ノ右岸、左岸トハ下流ニ面シテ呼称スルモノトス
- 第二十八
- 我兵力ヲ表スニハ隊名ヲ以テスルヲ例トス固有部隊中其ノ一部ヲ欠クカ或ハ他ヨリ来リテ加ハリタルモノアルトキハ其ノ隊名ノ次ニ註釈的ニ之ヲ示ス例ヘバ第一大隊(第三中隊欠)第二中隊(機銃一小隊ヲ加フ)等ノ如シ
- 第二十九
- 文書ヲ以テスル命令、報告及通報等ハ字体ヲ正シク鮮明ニ記註シ光線不充分ナル時ニモ通読可能ナルヲ要シ且誤リ易キ文字例ヘバ二トニ、八トハ、力トカ等ハ特ニ明瞭ニ記載スルコト緊要ナリ
第二節 要 図
[編集]- 第三十
- 命令、報告、通報ニ要図ヲ添フルトキハ其ノ意ヲ明示スルヲ得ルノミナラズ命令、報告、通報ヲ簡単ナラシムルコト多シ
- 写真ヲ要図ニ替ヘ又ハ要図ト併用セバ便益多キコト多シ
- 第三十一
- 要図ハ其ノ目的ニ応ジ単ニ必要ナル事項竝ニ所要ノ関係位置等ヲ簡明ニ記載スルニ止メ時宜ニ依リ必シモ尺度ニ拠ルヲ要セズ又距離ハ数字ヲ記註スルヲ以テ足レリトス
- 第三十ニ
- 要図調製ノ要領左ノ如シ
- 一、符号及図式ヲ使用ス(図式ハ五万分ノ一以下ノ陸図ノ欄外ニ在リ)
- 二、隊標、隊号其ノ他戦術上ノ記註ニハ味方ハ青色、敵ハ赤色ヲ用フ
- 三、隊標ハ現ニ面シアル方向ニ頭ヲ向ケ隊号、図式ハ北ヲ上トス
- 四、指揮官ノ位置ハ全般ニ大ナル関係アルヲ以テ特ニ明瞭ニ示スベシ
- 五、戦闘ノ各時機ヲ示スニハ左例ニ依ル(省略)
- 六、水流、池、湖、海ハ淡キ青色ヲ用フ
- 七、要図ノ範囲外ニ在ル部隊ヲ示スニハ右要領ニ依リ欄外ニ現在地点、任務運動、方向等ヲ記註ス
- 八、要図ニハ左記事項ヲ記入ス
- 表題、月日時刻、方位、尺度、調製者職氏名
- 要図調製ノ要領左ノ如シ
- 第三十三
- 要図ニ用フル符号ノ規定左ノ如シ(省略)
- 第三十九
- 伝令ノ人選ニハ充分注意ヲ要シ特ニ重要ナル命令、報告若ハ通報ノ伝達ニハ将校ヲ用フベシ又伝令ハ情況ニ依リ軽装セシメ且道路良好ナルトキハ成ルベク車馬ヲ利用セシムルヲ可トス
- 第四十
- 命令、報告若ハ通報ノ趣旨重要ナルカ或ハ途中安全ナラザルトキハ二人以上ヲ同行セシムルカ若ハ道路ヲ異ニシテ数使ヲ用フベシ
- 第四十一
- 通信頻繁ナル場合ニハ要スレバ中間ニ逓伝ヲ配置スルヲ可トスルコト多シ若シ両地間ノ距離遠大ナルトキハ之ヲ逓伝哨ト為スコトアリ而シテ一逓伝哨ノ人員ハ通常三名以上トス
- 第四十二
- 伝令ヲ以テ命令、報告若ハ通報ヲ送達セシムルニハ発信者ハ伝令ニ受信者及其ノ所在ヲ確実ニ示シ要スレバ経路、速度、危険ニ遭遇シタルトキノ処置、伝達後ノ行動等ヲ指示スベシ
- 第四十三
- 伝令ハ任務ヲ終リ帰著セバ直ニ命ゼラレタル上官ニ其ノ旨ヲ届クルモノトス
- 又口頭ヲ以テ命令、報告若ハ通報ヲ伝フルトキハ出発前竝ニ帰著後其ノ事項ノ全部又ハ要旨ニ就キ復唱スベシ
- 第四十四
- 伝令ハ自己ノ行動ニ依リ我所在等ヲ敵ニ察知セラレザル如ク注意スルヲ要ス然レドモ之ガ為其ノ任務遂行ヲ遅延スベカラズ
- 第四十五
- 信号ニハ旗旒、手旗、喇叭、携帯信号燈、信号拳銃、火箭、号火、号星、布板等ヲ用フ
- 信号所ヲ設置スル場合ニハ位置ノ選定ニ関シ現状竝ニ将来ノ情況ヲ顧慮スルヲ要シ多クノ場合指揮官ノ近傍ヲ可トス若シ其ノ位置離隔スルノ已ムヲ得ザルトキハ指揮官トノ間ニ連絡ノ設備ヲ為シ置クヲ要ス
- 第四十六
- 必要ニ応ジ信号ニ従事スル者又ハ特ニ指定シタル者ヲシテ対空通信ニ注意セシムルヲ要ス又飛行機ヨリスル通信筒投下位置及布板信号ノ位置ハ飛行機ヨリ発見容易ナル地点ヲ選ビ且必要ニ応ジ標示ヲ為スベシ
- 第四十七
- 電話ハ防禦ニ在リテハ勿論攻撃ニ於テモ之ヲ利用セバ便益多シ特ニ駐軍間ハ多クノ場合幹部ノ所在間ニ電話ヲ架設スルヲ可トス然レドモ近距離ノ通信ニ電話ヲ濫用セバ伝令ヲ使用スルヨリモ却テ遅延スルコトアルニ注意スルヲ要ス
- 第四十八
- 電話網ノ構成ハ最注意ヲ要シ現状竝ニ将来ノ情況ヲ顧慮シテ之ニ適応スル如ク定メザルベカラズ
- 第四十九
- 電話所ノ位置ハ左ノ諸件ヲ顧慮シテ定ムルヲ要ス
- (イ) 連絡スベキ指揮官ノ所在地ニ近キコト
- (ロ) 成ルベク敵眼及敵火ニ対シ掩蔽シアルコト
- (ハ) 地絡線ノ設置ニ便ナルコト
- (ニ) 成ルベク風雨ヲ避ケ且騒音ノ為通信ヲ妨害セザルコト
- 電話所ノ位置ハ左ノ諸件ヲ顧慮シテ定ムルヲ要ス
- 第五十
- 電話線ヲ架設スルニハ通常二名ヲ以テ行ヒ一名ハ電話線ノ絡車ヲ背負ヒ延線シ乍ラ前進シ他ノ一名ハ人馬等ノ被害ヲ受ケザル如ク成シ得ル限リ地物ヲ利用シテ其ノ線ヲ附近ノ樹木、民家ノ軒端等ニ懸ケ或ハ埋設スル等ノ手段ヲ採ルモノトス、道路ヲ横切リテ懸架スル場合ニハ成ルベク高クシテ被害ヲ減少セシメ且要スレバ布片等ヲ附シ通行シ其ノ被害ヲ少カラシムルヲ要ス
- 電話線ハ通常ノ地形ニ於テハ一時間ニ約四千米ヲ架設スルコトヲ得且一般ニ四百米ノ架設ニ五百米(絡車一巻)ノ電話線ヲ要スルモノトス
- 第五十一
- 電話ハ所要ノ事項ヲ直接ニ通話シ相互ノ意志ヲ疎通セシムルヲ其ノ特色トス故ニ之ヲ使用セントスル場合ニハ努メテ相互ノ責任者自ラ対話スルヲ要ス若シ電話手ヲ介シテ通話スル場合ニハ通話事項ヲ筆記シテ交付スルヲ可トス
- 第五十二
- 電話ヲ以テ命令、報告若ハ通報ヲ伝達スルニ当リテハ受領者ハ必ズ復唱シ長キ通話ニハ一句毎ニ之ヲ筆記シ後更ニ其ノ全文ヲ復唱スルモノトス
- 第五十三
- 敵意ヲ有スル地方ニ於テ電話ヲ架設シタル場合及戦闘間ニ在リテハ保線ニ関シ特ニ注意スルヲ要ス
- 第五十四
- 電話ハ屡不通トナルコトアリ故ニ重要ナル命令、報告若ハ通報ハ通信状態良好ナル場合ト雖モ之ト同時ニ筆記シテ別ニ送致スルヲ要スルコトアリ地方ノ電信ヲ利用スル場合モ亦然リ
- 第五十五
- 無線電信ハ主トシテ海上部隊若ハ航空機ト陸戦隊トノ間ノ通信ニ使用ス無線電信所ハ成シ得レバ陸上ニ開設シ止ムヲ得ザル場合ニハ海上ノ情況ニ応ジ一時無線電信機ヲ搭載シタル舟艇ヲ陸岸ニ近ク位置セシメ代用スルコトアリ
第二章 捜索及偵察
[編集]- 第五十六
- 捜索及偵察ノ目的ハ敵ノ位置、兵力、動静、施設、地形、其ノ他所要ノ事項ヲ探知スルニ在リ之ガ為タトヒ他ヨリ得タル情報ニ依リ敵情略明カナルトキニ於テモ其ノ実施ハ尚欠クベカラザルモノトス捜索及偵察ハ通常斥候ヲ用ヒ情況ニ応ジ小部隊ヲ用フルコトアリ特ニ航空機ノ使用ハ其ノ価値頗ル大ナリ又諜報機関ヲ巧ニ利用セバ便益多キモノトス
- 第五十七
- 敵ト近接スルニ至ラバ捜索及偵察ハ間断ナク行ヒ情況切迫スルニ従ヒ益周密ナルヲ要ス特ニ戦闘間ニ於テハ敵ノ正面ノミナラズ其ノ側背ニ対シ注意スルコト肝要ナリ
- 第五十八
- 警戒部隊又ハ第一線部隊ノ長ハ通常近距離ノ地域ニ対シ綿密ニ捜索又ハ偵察ヲ行ヒ遠距離ニ亙ル捜索又ハ偵察ハ主トシテ指揮官ノ任トス
- 第五十九
- 捜索又ハ偵察ニ用フル部隊若ハ斥候ノ兵力ハ任務、敵情、地形之ヲ派遣スル部隊ノ大小、報告送達ノ方法、特ニ土民ノ事情等ヲ考慮シテ定ムベキモノニシテ通常少クモ三名以上ヲ用フ而シテ本隊ノ兵力ヲ成ルベク減ゼズ且斥候ノ潜行性ト敏捷性トヲ害セザル為必要ノ最小限度ノ兵力ニ止メ且適時之ヲ主隊ニ復帰セシムルコトニ注意スルヲ要ス是レ捜索又ハ偵察ニ用フル兵力ノ多キハ必シモ其ノ周密ナル所以ニ非ラズシテ単ニ兵力ノ分散ニ過ギザルコトアルノミナラズヤヤモスレバ無用ノ戦闘ヲ引キ起シ易キヲ以テナリ
- 斥候特ニ其ノ長ノ人選ニハ充分留意スルコト肝要ナリ又情況ニ依リ通訳ヲ附スルヲ可トスルコトアリ
- 第六十
- 敵ノ兵力、企図、配備、諸施設等ヲ確ムル為各種ノ手段ヲ以テスルモ尚偵察ノ目的ヲ達成スルヲ得ザルトキハ攻撃ノ手段ヲ取リ強行偵察ヲ為スノ已ムヲ得ザルコトアリ此ノ場合ニ於テハ攻撃ニ用フル兵力大ナルニ従ヒ敵トノ離脱益困難ナルニ至ルニ注意スルコト肝要ナリ
- 第六十一
- 斥候ハ現在ノ情況ニ通ジ且判断力ヲ要スルヲ以テ緊要ナル任務ノ為ニハ其ノ長トシテ将校ヲ用フベキモノトス然レドモ将校ヲ派遣セバ残余ノ部隊ノ活動力ヲ減殺スベキコトモ亦顧慮スルヲ要ス
- 第六十二
- 情況ニ依リ期間ヲ指定シテ一地ニ斥候ヲ潜伏セシメ敵情ヲ偵察スルヲ有利トスルコトアリ此ノ斥候ハ特ニ駐軍警備等ノ場合ニ用ヒラルルコト多シ
- 第六十三
- 斥候ハ成シ得レバ之ヲ軽装セシメ其ノ全部又ハ一部ニ自転車、自働車等ヲ利用セシムルヲ可トスルコト多シ情況ニ応ジ斥候ニハ地図、双眼鏡、信号器具等ヲ携帯セシメ携帯弾薬、糧食ヲ増加スルヲ可トスルコトアリ又自働車、橇等ヲ利用スルトキハ之ニ機銃ヲ搭載スルヲ有利トスルコト多シ
- 第六十四
- 捜索又ハ偵察ノ為斥候ヲ派遣スルニ際シテハ其ノ主目的ヲ明示シ要スレバ取ルベキ行動ノ概要帰著スベキ時刻、地点等ヲ令シ且現状及関係アル他ノ斥候ノ行動等ヲ示スベシ而シテ斥候ニハ其ノ目的達成ノ為必要ナル時間ヲ与フルコト肝要ナリ
- 第六十五
- 敵情ノ捜索又ハ偵察ノ為部隊ニ先行シ遠ク派遣スル斥候若ハ小部隊ノ長ニハ明瞭ニ現在ノ情況我軍ノ企図竝ニ捜索又ハ偵察スベキ主目的ヲ示シ其ノ実施方法ニ就キテハ通常之ヲ拘束セザルヲ可トス然レドモ必要ニ応ジ通過スベキ地方等ヲ指示スルコトアリ
- 航空機ヲ使用スルトキモ亦概ネ之ニ準ズ
- 第六十六
- 捜索又ハ偵察ノ任務ヲ受ケタル部隊若ハ斥候ノ長ハ出発ニ先チ計画ヲ立テ部下ニ情況、任務及計画ノ大要ヲ知ラシメ要スレバ分担ヲ定メ装具ニ関シ所要ノ指示ヲ与ヘ装填ヲ為シ必要ナル記号ヲ定ムルモノトス
- 第六十七
- 斥候ハ屡非常ナル危険ト困苦トニ遭遇スルコトアルヲ以テ剛胆沈著ニシテ忍耐力ニ富ムヲ要スルト共ニ各種ノ徴候ニ対シ細心ノ注意ヲ払ヒ不意ノ危害ヲ予防スルコト肝要ナリ特ニ敵意ヲ有スル住民地ニ於テハ同一地点ヲ再三通過シ又ハ住民地其ノ他顕著ナル地点ニ長ク止マル等ハ避クルヲ可トス
- 第六十八
- 捜索又ハ偵察ニ任ズル部隊若ハ斥候ハ視察ヲ以テ主要ナル手段トス故ニ成ルベク地形、天象等ヲ利用シ遮蔽シテ任務ヲ達成スルコトニ努ムベシ若シ敵ニ遭遇シタルトキハ多クノ場合戦闘ヲ避ケ其ノ任務ノ達成ニ努ムルヲ可トスレドモ情況ニ依リ敵ノ小部隊若ハ斥候等ハ之ヲ駆逐スルヲ必要トスルコトアリ又突然至近ノ距離ニ於テ敵ニ遭遇シ之ヲ避クルノ余裕ナキトキハ機先ヲ制シテ急射撃ヲ行ヒ若ハ突撃ヲ決行スベシ敵兵優勢ナリトモ決シテ退却スベカラズ是レ此ノ際ノ退却ハ敗滅ニ陥ルモノナレバナリ
- 第六十九
- 捜索又ハ偵察ニ任ズル部隊若ハ斥候ハ眼前ノ情況ニ眩惑セラレ其ノ主任務ヲ没却シ或ハ敵ノ陽動又ハ宣伝ニ惑ハサレ或ハ地形ニ迷ヒテ方向ヲ誤ル等ノコトナキ様注意スルヲ要ス特ニ夜間又ハ地図不完全ナル地方ニ於テ然リトス
- 第七十
- 斥候ハ情況ノ許ス限リ道路ヲ利用シテ行動スレドモ屡陰蔽地ヲ通過シ又ハ遠ク迂回スル等ノコトアリ之ガ為ニ費シタル時間ハ駈歩ヲ以テ回復スルヲ要スルコト多シ本隊行進中ナルトキニ於テ特ニ然リトス
- 第七十一
- 斥候ハ逐次ニ目標ヲ定メテ躍進シ著シク長大ナラザル開濶地ハ一挙ニ之ヲ通過シ成ルベク躍進中遂ニ於テ遅疑停止セザルヲ可トス一地点ニ躍進スルニハ努メテ蔭蔽物ヲ利用シテ充分各方面ヲ偵視シタル後決然前進スルヲ要ス
- 第七十二
- 斥候ハ敵情地形ニ応ジ集囲スルコトナク適宜分散シテ行進スルヲ可トスルコトアリ而シテ此ノ場合敵ニ発見セラレザル為ニハ成ルベク相互ニ近接セザルヲ可トスルコト多キモ一般ニ連絡容易ナル場合ト雖モ其ノ距離ハ百米ヲ越エザルヲ可トス
- 第七十三
- 小森林等ノ蔭蔽物ヲ捜索スルニハ各兵適当ナル距離ヲ以テ互ニ連絡ヲ保チツツ行進スベシ而シテ外側ニ位置スルモノハ蔭蔽地周縁稍内方ニ在リテ外方ヲ通視シ得ル如ク行進スベシ起伏地ノ捜索モ亦之ニ準ズ
- 第七十四
- 斥候短キ隘路ヲ通過スルニハ成シ得ル限リ各方面ヨリ其ノ前方ヲ視察シタル後要スレバ射撃ヲ準備シテ躍進スベシ
- 第七十五
- 斥候住民地ヲ捜索スルニハ先ヅ遠方ヨリ充分ニ偵視シ敵兵又ハ防禦工事ノ有無等ヲ確メタル後広正面ノ隊形ヲ以テ住民地ニ接近シ其ノ入口ニ至リ為シ得レバ住民ニ就キ敵情ヲ尋ネ内部ノ捜索ニ従事スベシ住民地内部ノ捜索ニ於テ斥候ヲ分派スルニハ通常二名以上ヲ同行セシムルヲ要シ敵兵伏在ノ疑アル建築物等ニハ特ニ注意スベシ又一部ヲシテ住民地外縁ニ沿ヒ警戒セシムルヲ要スルコト多シ
- 第七十六
- 斥候休憩スルニ当リテハ適当ナル潜伏所ヲ選ビ且警戒ヲ中絶セザルヲ要ス又火器及遺留物ニ対シ充分注意スルコト肝要ナリ
- 第七十七
- 敵ノ陣地、構築物等ヲ偵察スルニハ夜間ヲ利用スルヲ可トスルコト多シ而シテ夜間斥候ハ音響ヲ聞キ取ルコトヲ努メ又低所ヨリ透シ見ルヲ利トスルコトアリ
- 第七十八
- 斥候ハ初メテ敵ヲ発見シタルトキ、有力ナル部隊ヲ発見シタルトキ、我軍ニ大ナル危害ヲ与フベキ事件発生シタルトキ、指揮官既知ノ情況ト相違セル重要事項ヲ発見シタルトキ又ハ情況ノ激変ヲ認メタルトキ等ハ速ニ之ヲ報告スベシ某地方ニ於テ未ダ敵兵ヲ発見セザルコト若ハ一定時間中ニ於ケル形勢変化ノ有無ヲ報告スルコト等ハ指揮官ノ為極メテ緊要ナルコトアリ又地形ニ関スルコトハ特ニ命ゼラレザル場合ニ於テモ報告スルヲ要スルコト多シ
- 第七十九
- 報告ハ其ノ時機ヲ失スルトキハ全ク価値ヲ失フモノトス故ニ斥候長ハ報告ノ時機ニ注意シ其ノ方法ニ関シ予メ考慮スルヲ要ス
- 第八十
- 斥候敵ヲ監視スル等ノ為駐止久シキニ亙ルトキハ異状ノ有無ニ関セズ時々報告ヲ為スベキモノトス是レ指揮官ヲシテ情況ノ変化ナキコト及斥候ノ無事ナルコトヲ知ラシメンガ為ナリ
- 第八十一
- 斥候ハ住民ノ意向態度、敵兵宿営ノ跡、通信交通機関ノ設置方向或ハ破壊ノ方法等ヲ綿密ニ観察スルトキハ之ニ依リ敵ニ関スル重要ナル情況判断ノ資料ヲ得ルコトアリ
- 第八十二
- 情況考察ノ資料ヲ得ル為諜報ノ利用ハ大ニ有利ナルモノニシテ特ニ長期ノ駐軍ノ場合ニ於テ然リトス而シテ其ノ利用ハ最綿密ナル注意ヲ要シ住民ノ感情ニ就キ充分顧慮スルヲ要ス
- 第八十三
- 住民ノ言ヲ聞キ又ハ新聞紙、信書、電信(発受信紙)其ノ他敵ノ使用シタル建築物、郵便局、通信所、官公署等ニ在ル書類ニ依リ重要事件ヲ探知シ得ルコトアリ
- 又捕虜或ハ遺留シタル傷病者ノ言竝ニ其ノ携帯セル書類ハ敵情ヲ知ルニ重要ナル材料トナルモノナリ
- 第八十四
- 間諜ノ使用ハ大ニ有利ナルコトアレドモ彼等ニ対シテハ細心ノ注意ヲ要ス而シテ間諜ニハ我知ラント欲スル点ノミヲ明瞭ニ示シ我目的トスル所ハ決シテ之ヲ知ラシムルベカラズ
第三章 行軍
[編集]要旨
[編集]- 第八十五
- 行軍ハ軍隊所要ノ時機ニ所要ノ地点ニ達シ戦備ヲ整ヘ在ルヲ目的トス而シテ其ノ計画ノ適否竝ニ実施ノ確否ハ諸般ノ企図ニ大ナル影響ヲ及ボスモノトス
- 行軍中ハ特ニ軍紀ヲ厳粛ニシ士気ヲ振作シ術生ニ注意シ且為シ得ル限リ給養ヲ良好ナラシムルヲ要ス
- 第八十六
- 行軍ハ敵若ハ住民ニ対スル警戒ノ要否ニ依リ通常行軍及警戒行軍ニ別ツ
第一節 通常行軍
[編集]- 第八十七
- 通常行軍ハ其ノ目的ヲ達シ得ル範囲ニ於テ成ルベク行軍ヲ容易ナラシムル為集合時刻、出発時刻、行進路、行軍序列等ハ総テ便宜ニ従ヒ之ヲ定ムルモノトス
- 第八十八
- 通常行軍ニ於テ出発時刻ハ主トシテ左ノ諸件ヲ考慮シテ適当ニ定ムルヲ要ス
- 目的地ニ到著スベキ時刻、目的地マデノ距離、道路ノ状態及使用シ得ベキ交通機関、日出、日没及月出、月没ノ時刻、季節及天候、軍隊ノ状態、途中ノ行事、宿営地ノ情況等
- 第八十九
- 銃隊ノ行軍隊形ハ道路幅ニ応ジ適当ナル正面幅(其ノ地ノ交通規則アルトキハ平時ニ於テハ之ニ従フ)ノ側面縦隊トシ通常指揮小隊ハ其ノ隊ノ先頭ニ位置セシム
- 速歩ヲ以テ行進スルトキハ通常各員ハ操式ニ定ムル位置ヲ定メ(陸戦隊本部及大隊本部ノ序列ハ概ネ分列式ノ場合ニ準ズ)大隊長ハ要スレバ掌信号兵ノ位置ヲ指定シ通常速歩行進譜ヲ吹奏セシム
- 途歩行進ニ在リテハ中隊長及小隊長ハ其ノ中隊若ハ小隊ヲ監視スルニ便ナル位置ヲ占ム但シ小隊長一名ハ中隊ノ後尾ニ在リテ行進スルヲ可トシ押伍列ニ在ルモノハ通常小隊ノ先頭及後尾ニ別レテ位置スルモノトス機銃隊及附属隊ノ行軍隊形ハ銃隊ニ準ズ
- 又行軍長時間ニ亙ルトキハ部隊ノ行軍順序ヲ適宜変更スルヲ可トス
- 第九十
- 行軍中ハ道路ノ障碍除去其ノ他ノ為ニ所要ノ人員ヲ適当ノ距離ニ先行セシムルヲ可トスルコト多ク且要スレバ予メ道路偵察ヲ行フベシ
- 第九十一
- 軍隊ハ道路ノ便利ナル一側(交通頻繁ナル所ニ在リテハ平時ハ其ノ他ノ交通規則ニ従フ)ヲ行進シ他側ヲ空ルヲ可トス但シ炎熱ノトキ又ハ道路ノ状態ニ依リ縦隊ヲ両側ニ別チ中央ヲ空ルヲ可トスルコトアリ
- 第九十二
- 軍隊市街地通過中等特ニ其ノ威容ヲ保ツヲ要スルトキハ速歩行進ヲ為スヲ例トス
- 第九十三
- 途歩ニ在リテハ歩ヲ調フルヲ要セズ剣ハ鞘ニ納メ銃ハ各兵ノ欲スル所ニ従ヒ右肩或ハ左肩ニ担ヒ又ハ背負革ヲ以テ肩ニ懸クルモノトス但シ情況ニ依リ銃ノ携行法ヲ一定スルヲ可トスルコトアリ
- 途歩中ハ特別ノ場合ヲ除クノ外ハ談話、軍歌、喫煙ヲ許スモノトス
- 第九十四
- 行軍中各兵ハ努メテ前後ニ重リテ隊ノ正面幅ヲ拡張セザルコトニ注意スベシ又已ムヲ得ズ隊列ヲ離ルルヲ要スルトキハ小隊長若ハ分隊下士官ノ許可ヲ受クベシ
- 第九十五
- 行軍中一部ニ生ズル隊ノ縦長ノ変化ハ仮令小ナルモ漸次他ノ部隊ニ大ナル影響ヲ及ボスモノナルヲ以テ先頭ノ分隊下士官ハ努メテ歩度ヲ斉一ニシ各兵ハ伍間ノ距離ヲ伸縮セザルコトニ注意スベシ
- 隊ノ縦長ノ変化ヲ調節スル為諸部隊間ニ置クベキ距離ハ道路、天候等ノ関係ニ依リ適宜定ムルヲ要スレドモ左ニ示スモノハ一般ノ場合ニ於ケル標準トス
- 中隊、機銃中隊後ニ 十歩
- 大隊 後ニ 二十歩
- 各附属隊 後ニ 五歩乃至十歩
- 交通頻繁ナル市街地ニ在リテハ小隊毎ニ若干ノ距離ヲ置クヲ可トスルコトアリ
- 第九十六
- 軍隊ノ行軍速度ハ各種ノ情況ニ依リ差異アレドモ通常一粁ヲ行クニ約十二分ヲ要ス然レドモ急ヲ要スルトキハ更ニ大ナル速度ヲ以テ行軍スルコトヲ得ベシ又一日ノ行程ハ通常二十五粁(六里半弱)乃至三十粁(七里半強)トシ情況ニ応ジ休憩時間ヲ減少シ或ハ昼夜ノ別ナク行軍スルヲ要スルコトアリ
- 第九十七
- 長途ノ行軍ニ於テハ機銃隊及附属隊ニハ成ルベク車馬ヲ利用セシムベシ車馬ヲ利用スルコト能ハザル場合ニハ必要ニ応ジ銃隊其ノ他ヲシテ之ヲ援助セシムルヲ可トスルコト多シ
- 第九十八
- 長キ行軍ニ於テハ出発後一時間乃至二時間毎ニ被服装具ノ改装竝ニ両便ニ要スル適当ナル少時間ノ休憩ヲ行フヲ通常トス又食事ノ為ニハ三十分乃至一時間ノ休憩ヲ行フモノトス
- 休憩ヲ行ハントスルニ当リテハ所要ノ人員ヲ先遣シテ休憩地ノ偵察及所要ノ準備ヲ為サシメ或ハ交通ヲ妨碍スル懸念少キトキハ道路上ニテ叉銃休憩セシムル等ノ方法ヲ講ジ休憩ニ際シ徒ニ繁雑ナル動作ヲ為シテ休憩時間ヲ減ズル等ノコトナキヲ要ス
- 休憩地ハ季節、天候等ニ応ジ適当ナル様注意スベシ
- 第九十九
- 夜行軍ハ軍隊ヲ疲労セシムルコト大ナリト雖モ特ニ必要ナルカ又ハ炎熱ノ際等ニハ之ヲ行フコトアリ夜行軍ヲ為スニ当リテハ其ノ方向ヲ確実ニ保持スルコト特ニ必要ナリ之ガ為部隊ノ集結ヲ保持シ、嚮導ヲ附シ後続部隊ヲシテ進路ヲ誤ラシメザル為所要ノ連絡兵ヲ配シ若ハ適宜ノ標識ヲ設ケ道路ノ障碍ヲ除キ或ハ之ヲ迂回シ以テ兵員疲労ノ原因ヲ除キ且休憩ハ時間ヲ短縮シ回数ヲ増加スル等ノ処置ヲ必要トス
- 第百
- 行軍スル軍隊ノ大患ヲ為スモノハ炎熱及厳寒ナリ炎熱ニ際シ起リ易キハ熱射病ニシテ之ガ予防トシテハ睡眠ヲ充分ニシ、飲酒ヲ慎ミ、成ルベク昼間ノ酷暑時ヲ避ケテ行軍シ、要スレバ列間及部隊間ノ距離ヲ開キ、休憩ヲ頻繁ニシ、且其ノ位置ヲ適当ニ選ビ、空腹ナラシメズ、適度ニ水分ヲ取ラシメ又屡頭部胸部ニ冷気ヲ入ルル等ノコト必要ナリ其ノ他腐敗シタル食物、湿メリタル被服、害虫等ニ対シ注意スルヲ要ス
- 厳寒ニ際シ最恐ルベキハ凍死凍傷ニシテ殊ニ夜行軍ニ於テ甚ダシトス而シテ其ノ予防法ハ手足耳鼻等ニ油脂ヲ塗リ休憩ハ回数ヲ多クシ時間ヲ短クシ、努メテ運動ヲ為サシメ、行進中モ時々手ヲ動カシ得ル為銃ハ背負革ニテ肩ニ懸ケシムルヲ可トシ、空腹ナラシメズ、飲酒ト屋外ノ睡眠トヲ禁ジ、被服特ニ手袋、靴下等ノ湿リタルトキハ出来得レバ速ニ之ヲ交換セシメ、身体ノ湿リタルトキ若ハ甚ダシク凍痛ヲ感ズルトキハ直接火熱ニ触レシメザル等ノ注意ヲ要ス
- 第百一
- 道路不良ナルカ或ハ炎熱ノトキ若ハ積雪甚ダシキトキハ先頭部隊ヲ時々交代セシムルヲ可トス
- 第百二
- 行軍中橋ヲ通過スルニハ其ノ強度ニ応ジ各部隊間ノ距離ヲ開キ又ハ部隊ノ正面幅ヲ減ズベシ何レノ場合ニ於テモ特ニ堅牢ナル橋ノ外速歩若ハ駈歩ヲ用ヒザルヲ可トス又所要ノ補修ヲ為シ強度ヲ増加スルヲ要スルコトアリ
- 第百三
- 氷上ヲ通過スルニハ成ルベク灰、木屑、土砂、藁等ヲ撒キ或ハ氷面ヲ粗ニスル等ノ手段ヲ講ジテ滑走ヲ予防シ若シ氷ノ厚サ充分ナラザルトキハ板ヲ敷キ或ハ各兵ノ間ヲ開ク等ノ注意ヲ要ス
- 第百四
- 軍隊行軍ノ為道路橋等ノ修築ヲ要スル場合ニハ成ルベク工作隊ニ所要ノ人員ヲ附シ先行セシムルヲ可トス
- 第百五
- 必要ニ応ジ橋ヲ構築スルニハ先ヅ充分偵察ヲ行ヒ使用ノ目的、工事ニ使用シ得ル人員、材料及時間等ニ従ヒ架橋点、橋ノ型式及大サ等ヲ決定スルヲ要ス
- 架橋点決定上顧慮スベキ要件概ネ左ノ如シ
- 河幅狭キ所、水勢緩カニシテ水深浅キ所、両岸ニ施スベキ作業僅少ナル所、河底ノ土質支柱ヲ打チ込ムニ適スル所、附近ニ於テ架橋材料ヲ得ルニ容易ナル所、道路ニ近キ所
第二節 警戒行軍
[編集]- 第百六
- 警戒行軍ニ於テハ情況ニ応ジ適当ナル行進路ヲ選ビ出発時刻ヲ定メ捜索ヲ行ヒ、警戒隊ヲ配シテ警戒シ、本隊ノ行軍序列ヲ適当ニ定メ要スレバ航空機ニ対スル遮蔽ニ注意スルヲ要ス
- 第百七
- 本隊ノ行軍序列ハ情況ニ応ジ敵ニ遭遇シタル場合戦闘ニ便ナル如ク定ムル外附属隊ノ位置ヲ適当ニ選ビ之ガ掩護ニ対シ注意スルヲ要ス
- 第百八
- 警戒行軍ニ於テハ要スレバ装填ヲ行ヒ住民地、蔭蔽地、夜間等ニ在リテハ著剣ヲ為スモノトス
- 第百九
- 敵意ヲ有スル住民ニ対シ警戒ヲ要スル行軍ニ在リテハ本節ニ依ル外警備ニ関スル章ニ依ルベシ
- 第百十一
- 行軍間警戒隊ノ任務ハ主トシテ不意ノ襲撃ヲ予防シ敵ノ視察ヲ妨グ且本隊ノ行進ヲシテ渋滞ナカラシムルニ在リ而シテ其ノ位置ニ従ヒ前衛、後衛及側衛ニ別チ市街地通過ニ当リ厳重ナル警戒ヲ要スルトキハ本隊ノ両側ニ警戒兵ヲ配シ或ハ行進路ト交叉スル道路ヲ兵力若ハ移動障碍物ヲ以テ閉塞スル等ノ為通常特殊ノ警戒隊ヲ置クモノトス又別ニ行軍間敵ノ航空機ニ対シ警戒スル為特ニ所要ノ警戒隊ヲ定ムルヲ可トスルコトアリ
- 第百十二
- 警戒勤務ハ之ニ服スル部隊ヲ著シク疲労セシムルノミナラズ往々兵力分散ノ弊ニ陥ルコトアルヲ以テ必要以上ノ兵力ヲ用フルハ避クルヲ要ス
- 又行軍長時間ニ亙ルトキハ適当ノ時期ニ警戒隊ヲ交代セシムルヲ可トス
- 第百十三
- 警戒隊ノ兵力及編制ハ我軍ノ目的、部隊ノ大小、敵ノ兵力、兵種、敵情、地形及明暗ノ度等ニ従フベキモノニシテ努メテ建制ヲ保チ通常銃隊ノ三分ノ一乃至六分ノ一ヲ用ヒ情況ニ依リ機銃隊及工作隊ノ一部ヲ之ニ属スルコトアリ又成ルベク多数ノ自転車伝令等ヲ附スルヲ可トスルコト多シ
- 警戒隊ハ通常前衛及後衛トシ必要ニ応ジ側衛ヲ配スルモノトス
- 第百十四
- 前衛及後衛ノ長ハ更ニ前方若ハ後方ニ尖兵ヲ出スヲ通常トス但シ小ナル部隊ニ在リテハ本隊ヨリ直接尖兵ノミヲ出スコトアリ尖兵ノ兵力ハ情況、地形ニ依リ定ムベキモノナレドモ通常小隊長ノ指揮スル一箇分隊以上ヲ以テ之ニ当ラシメ必要ニ応ジ一箇小隊ニ及ブコトアリ
- 前衛ハ必要ニ応ジ前後及側方ニ警戒ノ為尖兵若ハ斥候ヲ出スヲ要ス
- 第百十五
- 夜間又ハ濃霧ノ際若ハ森林地内等ニ在リテハ成ルベク兵力ヲ集結シアルヲ要ス故ニ警戒隊ハ之ヲ数個ノ梯隊ニ区分スルコトナク通常所要ノ本隊ノ前方近距離ニ備フルモノトス
- 第百十六
- 警戒隊ノ兵力及編制ヲ例示セバ左ノ如シ(省略)
- 第百十七
- 前進ニ於ケル本隊ト前衛トノ距離ハ我目的、敵情、部隊ノ大小、地形及明暗ノ度等ニ応ジ適当ニ定ムルヲ要ス此ノ巨利ハ敵ニ遭遇シタル場合ニ本隊ヲシテ時間ノ余裕ヲ得セシメ且本隊ノ行進ヲシテ渋滞ナカラシメンガ為長遠ナルヲ欲スト雖モ又一面本隊ヲシテ時機ヲ失セズ戦闘ニ加ハルコトヲ確実ナラシメンガ為之ニ適スル距離ヨリモ長遠ナラザルヲ要ス
- 第百十八
- 退却ニ於ケル本隊ト後衛トノ距離ハ本隊ノ行進ヲ遅滞セシメザル為通常前進ニ於ケル本隊ト前衛トノ距離ヨリモ最大ナルヲ可トス
- 第百十九
- 本隊ト前進ニ於ケル後衛及退却ニ於ケル前衛トノ距離ハ情況地形ニ依リ其ノ目的ニ応ズル如ク定ムルモノトス側衛トノ距離モ亦同ジ
- 第百二十
- 一箇大隊ヲ基幹トスル場合ニ於ケル警戒隊ノ区分竝ニ其ノ関係位置ノ標準ヲ例示セバ左ノ如シ(図無し)
- 第百二十一
- 警戒隊ハ其ノ任務ヲ遂行スル際士気ヲ緊張シ、行進路附近ノ捜索ヲ行ヒ、警戒ヲ厳ニシ敵ノ急襲ニ備ヘ、本隊トノ連絡ニ注意シ能ク指揮官ノ意図ヲ体シテ妄動スベカラズ然レドモ必要ニ際シテハ全力ヲ尽シテ戦闘ニ従事スルヲ要ス
- 第百二十二
- 警戒隊ノ長ハ斥候ヲ使用シテ必要ナル住民地、森林、波状地等ノ捜索及所要ノ偵察ヲ行ヒ警戒ヲ周密ナラシムルヲ要ス而シテ斥候ノ派遣ハ成ルベク派遣スベキ地点ニ達セバ直ニ出発セシメ得ル如ク其ノ地点ニ到達スル以前ニ於テ任務ヲ与ヘ置クベシ
- 第百二十三
- 行軍中ノ軍隊停止セバ警戒隊ハ特令ナケレバ警戒ノ任務ヲ継続スベキモノトス之ガ為警戒隊ハ速ニ所要ノ配備ヲ為スヲ要ス特ニ戦闘開始ニ当リテハ手段ヲ尽シテ本隊ノ展開掩護ニ任ズベキモノトス
- 第百二十四
- 行軍間小ナル部隊ハ常ニ大ナル部隊ノ進退ニ従フベク又各部隊ハ相互ニ連絡ヲ取ルベキモノナレドモ大ナル部隊ハ小ナル部隊ニ対シ主トシテ連絡ヲ保持スベキモノトス但シ尖兵ノ如ク不規ノ運動ヲ為スモノハ自ラ本隊若ハ警戒隊ニ対シ連絡ヲ取ルベキモノトス
- 第百二十五
- 警戒隊ハ密集隊形ニ在リテモ通常展開後ノ部隊ニ準ジ発進停止ニハ散兵ニ対スル号令ヲ用ヒ部隊ハ正規ノ姿勢及歩法ヲ取ルヲ要セズ
- 情況ニ依リ本隊ニ対シテモ之ヲ適用スルコトヲ得
- 第百二十六
- 前進ニ於ケル前衛ハ敵ノ小部隊ヲ駆逐シ、行進路上ノ障碍ヲ除去シ、成ルベク本隊ノ前進ヲ遅滞セシメズ、敵ニ近接スルニ至ラバ其ノ行動、兵力、陣地等ヲ偵察シ且敵ニ対シ本隊ノ行動ヲ蔭蔽シ本隊ノ展開ヲ掩護ス要スレバ要点ヲ占領シ又敵ヲ追撃スルニ当リテハ速ニ之ニ追及シ其ノ主力ヲシテ抗戦スルノ已ムヲ得ザルニ至ラシムル等敵ニ対シ獲得シ得ベキ利益ハ之ヲ逸セズ獲得スルト共ニ各個ニ撃破セラレザル如ク注意スルコト肝要ニシテ之ガ為軽挙ニ無謀ノ戦闘ヲ引キ起スコトヲ避クルヲ要ス
- 第百二十七
- 後衛ハ本隊ノ防衛ニ任ズルモノトシテ後方ノミナラズ側方ヨリ迂廻スル敵特ニ乗馬隊、自働車隊等軽快部隊ニ対シ特ニ注意スルヲ要ス側衛モ亦同ジ
- 第百二十八
- 退却ニ於ケル後衛ハ成ルベク行進シツツ本隊掩護ノ任務ヲ達成スルニ努ムベシ然レドモ敵ヲ拒止スル為情況ニ応ジ陣地ヲ占領シ若ハ非常ノ場合ニ際シテハ逆襲ヲ決行スルヲ要スルコトアリ而シテ後衛ハ独力ヲ以テ事ニ当リ通常本隊ノ援助ヲ期シ得ザルコトヲ顧慮スルヲ要ス
- 第百二十九
- 退却ニ際シ若ハ退却中道路ノ閉塞、橋ノ破壊等ヲ行フヲ要スルコトアリ此ノ場合ニハ多クハ之ガ準備ニ時間ヲ要スルヲ以テ其ノ実施ニ従事スベキ工作隊等ハ適宜先行セシムルヲ可トス、然レドモ其ノ実施ハ通常後衛長ノ指揮ヲ受ケシムルモノトス
- 第百三十
- 側衛ハ斥候ノミニテハ不充分ナル場合ニ出スベキモノニシテ通常前衛若ハ後衛ト略斉頭ニ位置セシムルモノトス
- 第百三十一
- 側衛ハ本隊ノ行進路ト成ルベク併行シテ行進スベシ然レドモ情況ニ依リ陣地ヲ占領シ若ハ攻勢ヲ取リテ本隊ノ通過ヲ掩護スルヲ要スルコトアリ如何ナル場合ニ於テモ側衛ハ本隊又ハ他ノ警戒隊トノ連絡ニ関シ特ニ注意スルヲ要ス
- 第百三十二
- 尖兵出発ニ際シテハ概ネ斥候ニ準ジテ部署シ通常尖兵長自ラ伝令及要スレバ斥候ヲ従ヘ前衛尖兵ニ在リテハ尖兵主力ノ前方ヲ、後衛尖兵ニ在リテハ後方ヲ行進シ主トシテ道路附近ヲ捜索警戒ス而シテ尖兵主力ハ其ノ先任者ヲシテ引率セシムルヲ可トスルコトアリ
- 第百三十三
- 尖兵長ハ前衛本隊若ハ後衛本隊或ハ本隊トノ距離ヲ著シク伸縮セズ且連絡ノ確実ヲ計ル為通常後尾若ハ先頭ノ分隊下士官ヲシテ連絡兵ノ配置ヲ掌リ連絡ノ任ニ当ラシムル前進ニ於ケル前衛本隊ト尖兵トノ距離ハ情況地形ニ依ルベキモノナレドモ通常ノ場合ニ在リテハ大約三百米ヲ可トス
- 第百三十四
- 前進ニ於ケル前衛尖兵ハ概ネ斥候ニ準ジ動作スベキモノニシテ行進路ノ近傍ヲ成ルベク広ク捜索シ的ノ斥候ノ如キハ之ヲ駆逐シテ前進スルヲ要ス然レドモ有力ナル敵ノ部隊ニ対シテハ濫リニ戦闘ヲ引キ起スベカラズ
- 第百三十五
- 本隊ヨリ直接出サレタル尖兵ハ前衛若ハ後衛ノ任務ヲ併セ有スルモノトス
- 第百三十六
- 市街地通過ノ際尖兵ハ家屋ノ入口、窓、屋上等ニ注意スルヲ要ス