鐵道震害調査書/第一編/第三章/第二節/一
第二節 橋梁
一 東海道󠄁本線六郷󠄁川橋梁
構造󠄄槪要 (附圖第四十二參照) 本橋梁は蒲田川崎間汐留起󠄁點9哩49鎖󠄁68節󠄂5の六郷󠄁川に架設せるものにして,蒲田寄(東京方)に於て徑間39呎6吋,上路鈑桁92連を以て4線23徑間を塞ぎ,次󠄁に徑間39呎15⁄16吋,35呎71⁄2吋,30呎19⁄16吋26呎73⁄4吋の各1連を以て1徑間を構成し,最後に徑間110呎複線用曲弦ワーレン型構桁10連を並列して5徑間を作り,全󠄁長1,645呎33⁄16吋なり。
橋梁上線路は平󠄁坦直󠄁線にして,その方向は南37度38分󠄁西なり。架橋地點一帶の地質は施工當時の圖󠄃面に依れば上面は砂層,軌條面下26呎より34呎迄は砂礫層,34呎より88呎迄は軟靑粘土層にして,以下は軟岩盤なり。
東京方橋臺及び橋脚第一號󠄂乃至第二十三號󠄂の基礎は混凝土工,橫濱方橋臺及び橋脚第二十四號󠄂乃至第二十八號󠄂の基礎は煉化石井筒工中埋混凝土を採󠄁用せり。混凝土工基礎根入は橋臺に於て13呎,橋脚に於て8呎乃至10呎,橋脚井筒根入は40呎乃至73呎,橋臺井筒根入は79呎なり。
橋脚第一號󠄂乃至第二十三號󠄂は汽車線電車線に各1基の複線用橋脚を用ひ,第二十四號󠄂架違󠄄橋脚は直󠄁徑12呎の圓形井筒4個を沈下し,これを連ねて1基の橋脚を構成す。第二十五號󠄂乃至第二十八號󠄂橋脚は川上並に川下に直󠄁徑14呎6吋の圓形井筒各1個,中央に長徑21呎6吋,短徑14呎6吋の楕圓形井筒1個を沈下し,各別に井筒の上に高17呎5吋の軀體を建󠄁造󠄁して橋脚となす。橫濱方橋臺は前󠄁方に直󠄁徑12呎の圓形井筒4個,後方に同2個を沈め,これを連ねて1基の橋臺を造󠄁れり。
兩橋臺及び第二十四號󠄂橋脚軀體工は粗石煉化石混用にして,その他の橋脚軀體工は粗石積なり。
本橋梁は明治四十三年十二月改築工事に着手し,同四十五年六月竣功せるものにして,設計荷重は構桁鈑桁共にE43,橋桁使󠄁用材料は總て鋼なり。
被害󠄂狀況 (附圖第四十三乃至第五十二並に寫眞第二百二十八乃至第二百三十四參照) 東京方橋臺は電車線,汽車線の接合部に上部に於て41⁄2吋基礎に於て7吋の縱龜裂を生じ,橋臺全󠄁體約2吋沈下し,電車線橋臺は約5吋進󠄁出,汽車線橋臺は基礎に於て約8吋前󠄁進󠄁し,バラス止は桁に接觸せり。橫濱方橋臺はバラス止より井筒上端拱に至るまで幅約1⁄2吋乃至1吋の縱龜裂4條を生じ,東京方に約3吋前󠄁進󠄁せり。橋臺及び橋脚の上昇並に沈下を測定するに當りて何等根據となすべきものなきも,測量の結果橫濱方橋臺及び架違󠄄橋脚は比較󠄁的變化少きを以て橫濱方橋臺を基準として測定せしに,橋脚は何れも沈下又󠄂は上昇をなせり。
而して汽車線に於ける沈下の最大なるは第五號󠄂橋脚の約11⁄2吋,上昇の最大なるは第十五號󠄂橋脚の約4吋,又󠄂電車線に於ける沈下の最大なるは第六號󠄂橋脚の約11⁄2吋,上昇の最大なるは第十五號󠄂橋脚の約11⁄4吋なり。
第二十四號󠄂架違󠄄橋脚は縱に床石面より井筒上端拱に至る間,幅約1⁄2吋乃至2吋の縱龜裂3條を生じ,第二十六號󠄂川上方圓形橋脚は軀體切斷して川上方に約1呎移動傾斜󠄁し,構桁のため辛うじて轉倒を免れ(附圖󠄃第四十五,及び寫眞第二百三十參照),又󠄂同川下方圓形橋脚は桁下約25呎地盤附近󠄁の所󠄁に於て基礎井筒並に中埋混凝土破壞せり(附圖󠄃第四十六,第四十七並に寫眞第二百三十二乃至第二百三十四參照)。第二十七號󠄂川上方及び川下方圓形橋脚,第二十八號󠄂川上方及び川下方圓形橋脚並に楕圓形橋脚は共に河底附近󠄁に於てその基礎井筒破壞せり(附圖󠄃第四十六第四十八乃至第五十二參照)。尙測量の結果によれば,第二十七號󠄂川下方橋脚は約31⁄4吋第二十八號󠄂川上方橋脚は約11⁄4吋同楕圓形橋脚は約1⁄2吋の沈下をなせり。
東京方より第一號󠄂電車線構桁はその輾子端に於て6吋餘川上方に,同汽車線構桁は桁全󠄁體に約2吋川下方に移動せり。第二號󠄂電車線構桁は第二十六號󠄂川上方圓形橋脚傾斜󠄁のためその川下方に,輾子端は沓より川上方に外れて橋脚上に落下し,且東京方に約3吋移動せり。尙同汽車線構桁は川上方に約58⁄8吋移動せり。又󠄂第二十六號󠄂川上方橋脚切斷傾斜󠄁せしため,第三號󠄂電車線構桁は川上方に牽かれ,川下方固定端に於て沓より川上方に外れて橋脚上に落下し,沓も亦河中に轉落せり。尙同汽車線構桁は川上方に約8吋移動せり。第四號󠄂電車線構桁は固定端に於て川上方に外れて橋脚上面に落下し,輾子端に於て川下方に約2吋移動せり。尙同汽車線構桁は固定端に於て川上方に約63⁄4吋輾子端に於て川下方に約2吋,全󠄁體に橫濱方に約3吋移動せり。第五號󠄂電車線構桁は約4吋橫濱方に移動してバラス止に接觸し,同汽車線構桁も亦約4吋橫濱方に移動せり(附圖󠄃第四十二參照)。而して構桁と沓との連結ボールトは殆ど全󠄁部切斷又󠄂は屈曲せり。
構桁の移動に關しては主桁の間隔󠄁に何等の變化も認󠄁められざるに,一方の沓は川上に移動し,他方の沓は川下に移動せる如き不合理の點なきに非ず。然れども本調󠄁査は床石を正しきものと假定して計りたる結果に基くものなるを以て,如上の數字は果して事實上の移動なるか,施工當時の誤󠄁差なるか,明瞭を缺くの嫌󠄁あれども暫くその儘を揭載することゝせり。
應急󠄁工事 (附圖第四十四及び第四十五參照) 東西兩橋臺進󠄁出のためバラス止の桁に接觸せし部分󠄁はその部を缺取り,第二十四號󠄂架違󠄄橋脚の龜裂に對しては,鈑桁の下に4組,構桁電車線と汽車線との主桁には共通󠄁に1組の木製假橋脚を作りてこれを保持せしめたり。
第二十六號󠄂川上方圓形傾斜󠄁橋脚に對してはその兩側に各1組の木製假橋脚を作りて主桁を支󠄂へ,且橋脚の轉倒を防ぐため切斷上部の川上方半󠄁分󠄁を垂直󠄁に缺取りたり。構桁の各方面に向ひて移動せるものはジヤッキを用ひて出來得る限り舊位置󠄁に復し,沓の轉落せるものは木材を以て假桁受を作りて開通󠄁せしめたり。