貴族院議事速記録/興亜院予算について (1939年2月25日)
原文
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訳文
[編集]- (第一部第二類) 105
- 第74回 帝国議会 貴族院 予算委員第一分科会(歳入、大蔵省)議事速記録第1号
- 委員氏名
- 主査 子爵 前田利定 君
- 副主査 男爵 矢吹省三 君
- 公爵 島津忠承 君
- 子爵 大河内輝耕君
- 子爵 八条隆正 君
- 河井弥八 君
- 勝田主計 君
- 加藤敬三郎君
- 江口定条 君
- 久恒貞雄 君
- 兼務
- 男爵 千秋季隆 君
- 三井清一郎君
- 森平兵衛 君
- 山本米三 君
- 氏家清吉 君
- 昭和14年2月25日(土曜日)午前10時19分開会
○主査(子爵前田利定君) これより第一分科会を開きます。まず、第2号昭和13年度歳入歳出総予算追加、特第1号昭和13年度各特別会計歳入歳出予算追加、追第一号予算外国庫の負担となるべき契約に関する件、此の三案を束ねまして議題にしまして、大蔵大臣から追加予算各案のご説明をわずらわすことに致します。
○国務大臣(石渡荘太郎君) 昭和13年度歳入歳出総予算追加第11号、同各特別会計歳入歳出予算追加特第1号、予算外国庫の負担となるべき契約に関する件追第1号についてご説明致します。今回提出致しました昭和13年度歳入歳出総予算追加第2号は歳入780余万円、歳出1980万余円でありまして、差引歳入不足額1900余万円となって居るのでございまするが、この歳入不足額は、昭和13年度予算実行上、行いました歳出節約による財源余裕額の中から充当する計画でございます。右歳入予算の内訳は、森林収入の増加14万余円、刑務所収入の増加230余万円、職業紹介事業に伴う地方負担金の増加120余万円、官立大学特別会計資金部より繰入の増加40余万円、治水事業費分担金の増加120余万円、輸出資金前貸補償収入210余万円、其の他20余万円であります。
次に歳出予算に計上致しました金額は、経常部1440余万円、臨時部530余万円でありまして、その大部分は昨年中において第二予備金から支出致しましたもの、本年度内所要額及び補充費途に属する経費の増額に関するものであります。今その主なる経費を申し述べますれば、検丁及び新兵旅費の増加150万余円、警察費連帯支弁金の増加300余万円、内国税払戻金の増加770余万円、小額紙幣製造費の増加54万円、興亜院に関する経費40余万円、興亜院連絡部設置に関する経費160万円、刑務所軍需作業施行等に要する経費の増加170余万円、小学校教員俸給費臨時補助の増加10余万円、農林省所管災害其の他施設費の増加210余万円、国有林臨時木材増産に関する経費10余万円等であります。
右のうち興亜院に関する経費は、支那事変中、支那において処理を要する政治、経済及び文化に関する事務等を掌らしめるため、昨年12月内閣に設置せられました興亜院の経費でありまして、右の一部は先に取りあえず第二予備金より支出致したのでありますが、その本年度内所要額と、興亜院連絡部設置に伴い増加を必要とするに至った額とを計上したのであります。また、興亜院連絡部設置に関する経費は、支那に於ける興亜院の事務の連絡を掌らしめるために現地に連絡部を設置せむとするものであります。小額紙幣製造費の増加は、昭和14年度において回収せらるべき流通不便銀貨幣の引換に充てるため、小額紙幣の製造を更に増加する必要があるのでございまして、これに要する経費の増加を計上致したのであります。小学校教員俸給臨時補助の増加は、今回の事変に依って召集致されました小学校教員の補充のため、財政に困難を来せる市町村に対し、その俸給費の一部を補助するものでありますが、その後の情勢に依り、更に増加を必要とするに至ったものであります。農林省所管災害その他施設費の増加は、昨年各地に於きまする暴風雨等のため、損害を蒙りたる耕地、林地等の復旧費その他に対する補助等に要するものでありまして、その一部は曩に第二予備金から支出したのでございますが、その本年度内所要額を計上した次第でございます。検丁及新兵旅費、警察費連帯支弁金、内国税払戻金等は、いずれも補充費途に属する経費でございますが、予算が不足致しましたのでその増額を計上した次第であります。
次に、昭和13年度各特別会計歳入歳出予算追加特第1号は、対支文化事業、造幣局、大蔵省預金部、関東局、海軍工廠資金、帝国大学、官立大学、帝国鉄道、朝鮮総督府、台湾総督府、樺太庁、健康保険及簡易生命保険の各特別会計に関するものでありまして、いずれも必要避くべからざる経費として計上した次第であります。予算外国庫の負担となるべき契約に関する件追加第1号は、一般会計においては昨年の災害による自作農創設維持資金の償還猶予に伴う臨時助成金に関するもの外三件でありまして、特別会計においては海軍工廠資金特別会計の造船造兵材料購入費に関するものでございます。何卒ご審議の上、ご協賛あらむことを希望します。
○主査(子爵前田利定君) 皆さまに申し上げるまでもございませんが、ただ今大蔵大臣のご説明の中、歳入全部と、それから大蔵省所管の歳出だけが此の第一分科の担当であります、ただ今大蔵大臣は全部に亙って歳出のご説明がありましたけれども、第一分科としましてはその中の大蔵省所管の歳出だけ審議する訳でありますから、念のために申上げ置きます。
○国務大臣(石渡荘太郎君) 次に昭和13年度大蔵省所管歳出予算追加第2号についてご説明したいと存じます、今回提出しました昭和13年度大蔵省所管歳出予算追加第2号の金額は、経常部797万余円、臨時部264万円でございまして、合計1062万余円でございます。ただ今説明しました内国税払戻金の増加、小額紙幣製造費の増加、興亜院並に同連絡部に関する経費の外、恩給分担支出金の増加は補充費途に属する経費でありまして、予算に不足を告げましたので、その増額を計上したのであります。北支那開発及び中支那振興特殊会社補給金は、両会社初営業年度における投資及融資に対する収入の不足額を補給するため、計上した次第であります。
次に、昭和13年度大蔵省所管特別会計歳入歳出予算追加特第一号中造幣局特別会計資金部に於ける計上額は、歳入1546万余円、歳出5211万余円でございまして、これは流通不便貨幣引揚高等の増加を要しまするのと、地金売払代を増加するため、追加計上したのであります。さらに、大蔵省預金部特別会計におきましては、郵便貯金の増加に伴いまして、これが事務取扱費の財源としまして、通信事業特別会計業務勘定への繰入金増加のため、歳出133万円を計上したのであります。なお、関東局各特別会計におきましては、刑務所収容者増加のため、収容費に不足を告げましたのと、死亡賜金その他の予算に不足を告げますとのため、歳出38万余円を計上したのであります。以上は大体の説明をした次第であります。
○主査(子爵前田利定君) ただ今ご説明になりました追加予算の歳入並びに大蔵省所管の歳出各特別会計の中、大蔵省所管の特別会計について何かご質疑ございますならば、この際ご質疑を願うことにします。
○子爵大河内輝耕君 此の予算を拝見しますと、支那に関する経費が重要な部分を占めて居るように存じますが、この支那の経営、即ち政治、文化、経済にわたっての経営の方針は、衆議院でも詳細ご説明があったと承って居ります。この際、もし興亜院の当局がお出でならば、伺いたいと存じますが……。
○政府委員(日高信六郎君) ただ今ご質問のございました点につきまして、興亜院の政府委員としまして一応ご説明したいと存じます。昨年12月に定まりました興亜院の官制によりまして、主として支那事変にあたって、支那において処理を要する政治、経済、文化に関する事務及びそれに関する諸政策の樹立に関する事務、そういう各庁の支那に対する行政統一保持に関する事務というようなことを主としまして、興亜院が出来たのでございます。ただ今、ただし外交に関するものはこれを除くということになって居ります。
ただ今まだ事変進行中でございまして、現地におきまして、各方面において軍事行動が行われている際でございますので、そちらの統帥方面、または軍事上の必要、軍事行動の方面と同時に支那に関しまする各方面の事務、また将来を見透しましてのいわゆる新秩序の確立ということに向って、進んで参ります計画というようなものが、非常に密接な関係がある訳でございます。その点につきまして政府部内におきましてこういう役所が出来まして、そうしてこの事務を司ることになった次第でございます。また、現地におきましても、ただ今申しましたような趣旨に基きまして、軍事上の行動、またその方面の必要、そういうことと密接に連絡をしまして、事務を遂行して参りますという趣旨におきまして、連絡部というものが出来ることになっておりました。この方につきましては、特に治安関係その他におきまして、軍の方との関係を密接にしまして、また事務の遂行上、非常に両方相調和して行く必要があるのでございます。その点につきまして興亜院連絡部の現地の機関につきましては、関係各方面と折衝中でございます。大体において3月からこれを置くということが出来るという見込でございます。それでただ今申しましたように、連絡部の方におきましては、軍事及警備に関係があります点が色々ございます。その点につきましてそれに関しまする事項については、各々その地方に於ける、陸軍及び海軍の最高指揮官の指揮を受ける、こういう風にしております。
○子爵大河内輝耕君 私の伺ったのはそういうことばかりでなく、政治、文化、経済の全体についての計画が伺いたい。それを伺っておる。
○政府委員(日高信六郎君) ただ今お話のございました点は、最も重大な点なのでございまして、政治、経済、文化と申しまして、そのいずれも非常に密接な関係がある次第なんでございます。その点につきましてただ今申上げましたように、軍事の進行中でございますので、その点から現実第一に差掛って必要な軍事上の要求、また、いわゆる事変を処理して行きますための差し掛っての必要、その軍事上の要求ということが、どうしましても、第一に参りますであります。それと同時にその先を睨んで行くと、こういう両方の点が非常に必要になっておるのでございまして、特に経済の点につきましては、その日本軍の占拠して居ります地域が段々拡まつて参ります。その政治上また経済上の重要性のあります所は、殆ど我が軍の占拠する所となって居ります。その地方におきまして如何なる工合にこれを処理して参りますか、また、如何なる復興建設というような事業に手を染めまして、そのやり方によって支那の民心を把握して参りますということが、やり方に依りまして、またこれがただ今の事変の処理ということでございますと同時に、将来のいわゆる新秩序の確立という方角に向かって行くのでございます。
唯今申上げましたように軍事上の早急の必要ということがございますので、それと同時にその先を睨む、此の両方から必要がございますので、経済及び文化に関しまする種々の施設というものも、政治上の点から考えまして両方の調和を睨みながら行くということが必要だと思われるのでございます。その上、またこれは日満支三国のあいだの調和を取りまして、各方面の策を行って行かなければいけないのでございますから、その点につきまして日本の国内におきまする、あるいは生産力の拡充計画でございますとか、あるいはそれに実行に要しまする物資動員計画というようなものとも睨み合わせまして、そうして全体として調和の取れました復興建設の計画をすることが、必要だと思われるのでございます。でございますから、興亜院の職務としまして、もっとも重きを置く必要があると思っております点は、政治、経済、文化の全部をよく相調和を取り、日満支三国のあいだの現状をよく睨みまして、よくそのあいだに行き違いのないように、また各地方におきまして北支、中支、南支、何れもその趣きを異にして居る点もありますので、そういう点を能く睨みまして、全体として統一の取れた「プラン」によって進んで行きたい、こういう気持で参って居る次第であります。
○子爵大河内輝耕君 私の伺っておるのは、大体のお気持はよく分っておるのです、そういうことを伺っておるのじゃない。衆議院において計数をご示しになって、例えば鉄はどのくらい、外の貴金属はどのくらい、それから棉花はどうするのだということを衆議院でご説明になったことを伺っておる。それをもう一遍、ご説明を願いたい。つまり数字を伺っておるのです。
○国務大臣(石渡荘太郎君) ただ今大河内さんからのお尋ねは、大体におきまする今日の支那方面における経済振興開発等の問題に関係しておる問題であると思うのであります。これはご承知の通り、今日計画されて居りますものは大体において北支においては北支開発株式会社、上海方面におきましては中支那振興株式会社が、主な産業についてはその会社における会社設立当時からの計画がございまして、それが今日実行されて居る点もございます。まだ実行されない点もございます。結局、北支方面における所の今日の計画というものは主としてこれ等の計画であると存じます。なお、政府委員からご説明します
○政府委員(日高信六郎君) ただ今大蔵大臣からお話がございましたような点につきまして、少しご説明申し上げたいと思います。経済上の開発計画についての点でございますが、先ほど申し上げましたように、北支、中支、多少趣が違っておる所がありますので。北支におきましては日満両国との地理的又経済的の関係が余程深いのでございます。また、特にでございますが、国防上、経済上密接な関係が生ずるのでございます。その点につきまして、北支の多くの国防資源というものを開発するということが主眼になっております、ただ今の会社の名前も北支開発会社ということになっておるのでございます。それでその国防資源、殊に地下に埋蔵して居ります鉄とか石炭とか金とか、また、「アルミニウム」原料でございます礬土でございますとか、あるいは地下ではございませぬが、棉業、そういうようなものを開発しまして、そうしてそれを統一ある計画の下に、開発会社の統合調整の下にやって行きます。またこれを有用に使いますために、必要な交通機関の整備、鉄道又港湾、そういうものの設備も開発会社の統制の下にやって参る、また、そういうために必要でございます電気の発送電の事業、こういうこと、また一般の交通通信事業、これも開発会社の手においてやって参ります。こういう風な大体の筋合でございます。また農業につきましては、北支におきまして、日本側から観ましても棉花又北支蒙疆方面におきまする畜産、そういうものが非常に重要性があるのでございます。
ただ、全面的の考え方としましては、農業につきましては特に支那の民衆生活と密接な関係もございますし、またこれが実施開発ということにつきましては支那の民衆の協力と申しますか、皆がその気持になってやって行くということを呑み込む点が必要でございますので、そのためにこの点につきましては主として支那の政府側の施策を助ける、こういうようなやり方になっておるのでございます。例えば棉花の方を申上げますと、実はこれは事変前から余程日本側でも注意をしまして種々の施策を試みつつあったのでございます。現に北京にも中央農事試験場がございまして、それを外務省の予算でございましたが、それに日本側から技術的又資本的の援助をしておりましたのであります。それなども、この度はもう少ししっかりしたものにして研究をいたす、また、指導奨励の機関としまして、支那側に前からございました棉花改進会というものがございましたが、それを支那の実業部が主となりまして、それを改組強化しまして、それに対しまして日本側から補助、援助をするというやり方をいたすことになっておるのであります。その方は、日本棉花会社が外務省の方に政府から補助金を出しましてやらせる、こういうことになって居ります。これは従来の経緯もございまして、差しあたり拓務省の方から予算が出ることになっておるのであります。そうしまして大体これは非常に治安の回復ということと最も密接な関係があるのでございまして、差しあたりの所としましては、そういう技術的の研究、また、優良種子の配給、それから指導奨励のことをやっておりまして、また、それから段々棉花改進会を拡充してどんどん進めて行く、また、それのためにいわゆる合作社というものの設立を助成して、そうして農民経済を段々組織化して、それからまた、自然繰棉工場であるとか「プレス」工場であるとかいうものを作りまして、そうして、棉花の量を良くして、そういうことをしまして差しあたりの所の見当としましては、3年のあいだに、事変前に北支那から出ておりましただけの産量、即ち年産500万「ピクル」だということでございますが、その事変前の見当まで引きあげて参る、それからまた、さらに努力しまして、耕地面積を拡げ、収穫量を増し、質を改良して行く、そういうことをやって行きたい。こういうのでございまして、それで北支開発会社としまして、昨年11月の7日に創立になりましたのでございまして、まだ事業が緒についたばかりでございますが、その中、種種な今まで事変以来ただ今申しましたような各方面の点につきましては、あるいは軍の差しあたりの必要のため、あるいは又実際上の開発の緒につくという意味からしまして、日本側におきまして種々仕事をして居った点があるのでございます。
その一番大きなものは興中公司が取りあえず引受けてやっておりました仕事が相当沢山あるのであります。例えば、今の竜煙の鉄鉱でございますとか、あるいは井径その他の炭鉱を運営しておりますとか、それからまた前からもしておりましたが、塩業でございますとか、また、各方面の電気の事業、また「バス」の仕事、そういう風な仕事には、興中公司が今まで投資融資をしておりまして仕事をしておったのでございます。それで北支開発会社としましては、この興中公司の仕事は漸次、肩替もしくは子会社に吸 しまして、最後には興中公司自体が発展的解消と申しますか、吸収されてなくなってしまう、こういうことがあるのであります。その点に付きましては、既に興中公司の総ての株式は会社の方に肩替になりましたので、その点から申しますと興中公司が今まで投資融資をして仕事をしておりましたものは、ある意味におきまして大体において開発会社の子会社になりました興中公司の孫見たようなものになっておりますので、その点で開発会社のある程度の統制に既に服したと申されると思うのであります。
また、その中には電業その他につきまして開発会社の方から既に投資融資を開始したものもございます。例えば済南の電気でございますとか、それから最近芝罘に電気がございまして、そういうものには開発会社の方から既に金が入ることになっております。済南などは入りましてございます。それから先ほど申しました通信の点でございますが、通信につきましては華北電話会社というものが昨年から出来ております。これは十分に支那側で設備をしてやっておりました有線無線の国内電信電話、それからまた日本、満洲等の接壌地との通信でございますが、その会社の方はすでに出来上っておりまして、それにはすでに開発会社の方から融資をしまして、いずれこれは本式の投資に引き直すことになるのであります。これはすでに開発会社の子会社と申してもよろしいだろうと思っております。この事業は大変成績がよいと聞いております。全部につきまして開発の計画というものを現地におきまして、此の会社が出来ます前から計画しておりますのがあるのでございます。これはただ今申上げましたような重要の鉱産物、その他につきまして一種の四年計画でございまして、昭和17年を限度としまして、目標としまして開発計画が一応出来ましたのでございます。ただ先ほど申上げましたように、その点につきましてはその実現のためには色々なる要件がございますので、非常に治安ということにも関係がございますばかりでなく、その全体の計画としましても、日満と両方睨み合して、有無相通ずるという気分からやって行く必要もございます。
またそれを実行しますために必要なる資材、資金というようなものにつきましては、日本側の計画と睨み合いして行く必要がございます、その点につきましては更に検討を加えて、企画院その他ともよく連絡を執りまして、そうして先を睨みながら著実に計画をたてて行きたい、そういう気持でありまして、来年度の計画につきましても、実はただ今現地から各方面の係官を呼び集めまして、そうしてそういう点につきまして計画の実現に必要なる所要の資材というようなものにつきまして説明を求め、又審査をしておる次第であります。数日前から始めております。
先ほど申し落しましたですが、石炭につきましても石炭の液化ということも考えてやって見たいという計画でございまして、その方面につきましての研究もしておる次第でございます。中支那の方は北支那と多少趣が違っておる点もございますのでありますが、また一方から申しますと、非常に戦争のために重要な経済上の中心、また生産の設備などが破壊されておるのが多いのでございます、中支那振興会社の方ではまずこれらの復興事業、それから各種の民衆の生活と申しますか、また産業の復興と申しますか、そういうように必要な設備、こういうものをやります日支合辦の子会社というものを作って行く、また産業の開発をやるということを主としておる次第でございます、全体としまして揚子江の流域全体の経済上の価値は非常に大きいのであります、殊にその下流の方の所謂「デルタ」地方と申しますか、上海、南京、蕪湖の辺迄の点、特に南京辺りまでの点であります、その点につきましては土地が非常に肥沃な地もございますが、此の点におきまして、日支間の鞏固なる経済上の結合をしたい、こういうのが主眼でございます。
こちらの方は子会社が割合に沢山出来ておりまして、ただ今の所で八つばかり出来ております、i一番最初に出来ましたは華中鉄鉱会社でございます。これは安徽省、江蘇省、特に安徽省にございまして、太平鉄山、桃中鉄山等は前から知られておる所でございます、その他の鉄鉱の開発ということを主としまして出来夕会社でございます、すでに安徽省の方の太平鉄山方面におきましては、事業を開始しまして鉱石を掘出しておる所まで参りました。それから交通方面でございますが、ご存じの通り上海方面、あちらの方の運河「クリーク」等の水運が交通上、また物資の運搬上非常に重要なのでございます。それにつきましても上海内河汽船会社というものを作りまして、支那側からも相当の持船を出しまして、これは小さな船が主でございます。小蒸汽船でございますとか、曳船でございますとか、そういうものが主でございます。そういうものが出来ております。
それからまた自動車の力は華中都市自動車会社が出来ておりまして、上海、南京、杭州、蘇州等というような所に自動車業「バス」の営業をやる。それからまた電気方面でございまして、華中水電会社というものを作りまして、それは電灯と水道でございます。これはただ今では上海を主としてやっておるのでございますが、南京、杭州、鎮江、その他の方にも及しまして復旧開発の事業に当りたいとこういうことで、これは大変あちらこちら傷んでおりましたので、支那側で壊して逃げましたりなんかしまして、復旧の事業が第一に急務でございます。差当り軍の方が必要としますものは占領直後は軍管理でやっておりますが、段々落ついて参りますに従いまして、そういう風な地方を華中水電会社でやるということになっております。
ただ今の所では上海を主としてやっておりますが、新しい区域にも拡げて行きたいという案が出来ております。電気通信の方は主として対外無線通信、それからまた地方的の有線電信電話でございます。そういうもののために華中電気通信会社が出来ておりまして、そうしてこれは昨年秋から動いております。東京と上海とのあいだの無線電話等も動くようになっております。それから華中水産会社がございまして、そちらの方は日支協力しまして、水産物、漁獲物を得るということが主でございまして、差当りの所では上海に魚市場が出来て大変成績が好いようでございます。
それから上海に恒産会社というのが出来ております。これは上海におきまする大きな都市計画、これを支那の維新政府の方で計画しておるのでございます。これと相応じまして、土地開発また都市計画の実現ということのために働くことになっております。それから最近ガス事業をやるがために、ガス会社がごく最近出来ました。ただ今の所ではそういう点でございますが、まだ大きな点としまして、揚子江の航運の点がございますので、この点につきましては英国の勢力等に頡頑して負けないために、国策的の会社を作る必要があるのじゃないか、こういう点につきまして関係方面において種々考究中でございます。大体のことをごくざっとしたことでございますが、それだけの事を申し上げます。
○子爵大河内輝耕君 大体よく分りましたですが、四年計画というものは北支の方じゃあるが、まだこれから審査しなければ確定しないというお話ですし、南支の方についてはそれがあるかも知れませぬが、まあそれすら有るか無いか分からないというような状態で、甚だ漠然たる状態であるということはよく分っております。今日はそれ以上きっぱりしたものを求めるのは、むつかしかろうと思います。その意味はよく分っておりますが、ただし大体の観念を得るためには、大体漠としたもので差支えありませぬから、未定のままでよろしうございますから、四年計画というものは具体的に説明は戴けますまいか。そうすると大体の意味がよく分ります。
○政府委員(日高信太郎君) ただ今お話の点でございますが、実はこの開発計画は今申し上げましたように、17年度迄の四年計画でございまして、主要の交通、運輸、通信、主要鉱山、主要の工業、発送電事業のそういうようなものでございまして、ただ今も申し上げましたように、日本側の生産力拡充計画と非常に密接な関係があるのでございまして、この点につきましては生産力拡充計画はこの前企画院総裁から確か秘密会でございましたか、ご説明があったと思いますが、それに関聯しておる次第でございまして、いつかただ今のお話もございますので、適当な機会に数字を挙げてご説明したいと思います。
○子爵大河内輝耕君 いつごろ願えますか。ただ今ご願いしてよろしうございますか。もう少し後にしますか。どういうご都合でございますか。
○政府委員(日高信太郎君) はななだ勝手でございますが、今申し上げましたように、日本側の計画と一緒になっておるような次第でございます。もし将来適当な機会がございましたならば、秘密会ででも申し上げることにしたいと思います
○子爵大河内輝耕君 速記を止めて戴きます。
○主査(子爵前田利定君) 速記中止〔速記中止〕
○主査(子爵前田利定君) 速記を始めて······政府から要求がございましたから、秘密会にします。委員及びその関係の政府委員以外のその他の方々のご退席を願います
- 午前十一時六分秘密会に移る
- 午後零時十一分秘密会を終る
○主査(子爵前田利定君) それでは秘密会を解きます。会議を再開します。追加予算につきまして別にもうご質疑あらせられませぬか。
○子爵大河内輝耕君 なお二三点伺いたいと思いますが、実は討議の前でもよろしうございます。
○主査(子爵前田利定君) 討議の前にお願いしませう。それでは別にご異存ございませぬか······。今日はこの程度に止めまして、会を閉じまして、明後日月曜日の午前十時から残れる追加予算のご質疑を願い、それが終りました次第に、追加予算の討議に入りたいと思います。それが終りましたら、昭和14年度の予算の大綱を大蔵大臣からご説明を煩はす、それと伴って本予算の質疑を開始する、こういうことにしたいと思います。今日はこれで散会します。
- 午後零時十三分散会
- 出席者左の如し
- 主査 子爵前田利定 君
- 副主査 男爵矢吹省三 君
- 委員
- 公爵島津忠承 君
- 子爵大河内輝耕君
- 子爵八条降正 君
- 河井弥八 君
- 加藤敬三郎君
- 江口定条 君
- 兼務
- 森平兵衛君
- 国務大臣
- 陸軍大臣 板垣征四郎君
- 大蔵大臣 石渡荘太郎君
- 政府委員
- 興亜院総務長官 柳川平助 君
- 興亜院部長 日高信六郎君
- 同 鈴木貞一 君
- 関東局事務官 沼田竜太郎君
- 大蔵政務次官 松村光三 君
- 大蔵省主計局 長谷口恒二君
- 大蔵書記官 永井匀 君
- 同 氏家武 君
- 同 松隈秀雄 君
- 預金部資金局長 広瀬豊作 君
- 専売局長官 荒井誠一郎君
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