読本編纂及教授等ノ意見書

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読本編纂及教授等ノ意見書[編集]

○読本編纂及教授等ノ意見書 曩ニ師範学校及小学校ニ於ケル国語教授ノ実況取調ノタメ関西地方ヘ出張ヲ命ゼラレタル文部省嘱託員文学士保科孝一、同岡田正美、同藤岡勝二ヨリ文部大臣ニ提出セシ読本編纂及教授等ニ関スル意見書左ノ如シ(文部省)

読本編纂上ノ欠点[編集]

緒言[編集]

普通教育ニ於テ吾人ノ最モ重要視スルモノハ読本ナリ。読本ハ実ニ智育ノ淵源ニシテ児童ハ是ニ依リテ智識ヲ啓発シ是ニ依リテ思想発表ノ要素ヲ涵養ス。故ニ普通教育ノ主脳タル読本ハ其編纂ニ就キテ将タ其教授ニ就キテ十分ノ注意ヲ要スルハ言フヲ俟タズ。然ルニ現時ノ如ク編纂及教授両ナガラ妥当ナラザル以上ハ普通教育ニ於テ円満ナル効果ヲ収ムルコト素ヨリ望ミ得ベカラズ。是レ余輩ガ転タ憂心忡々タラザルヲ得ザル所以ナリ。

現今教育社会ハ等シク小学読本ニ適当ナルモノナキコトヲ承認シ一日モ夙ク良好ナル新読本ノ顕出センコトヲ俟テリ。現今世ニ行ルヽ読本ノ数決シテ尠シトセザレドモ仔細ニ之ヲ検シ来レバ孰モ多少ノ欠点ヲ有セザルハナシ。此ノ如キ不備不完ノ読本ヲ以テシテハ教育者被教育者共ニ無用ノ労多ク而モ功ノ是ニ伴ハザルハ自然ノ数ナリ。故ニ速ニ其欠点ヲ改良スルコト実ニ刻下ノ急務ナリト信ズ。

現時ノ読本ハ一般ニ不完全ナリトハ殆ド教育界ノ輿論ナリ。然ラバ則チ如何ナル点ニ於テ不完全ナルカ余輩ハ其ノ主要ナル点ヲ左ニ列挙シテ聊カ卑見ヲ陳ベントス。

分量[編集]

現今読本ノ編纂者ハ多クハ普通教育ノ経験ニ乏シク実際鞭ヲ採リテ児童ヲ薫陶セシコトナキガ如シ故ニ尋常科ニ於ケル児童ハ幾何ノ程度マデノ事実ヲ咀嚼シ得ルカ又毎時ノ講読ニ於テ幾何ノ分量ヲ教授シ得ルカヲ知ラズ漫ニ臆測ヲ以テ其程度ト分量トヲ判定シ而シテ読本ヲ編纂セシモノ多キニ居ル故ニ実際ノ教授ニ於テ僅ニ一字一句ノタメニ無慮数十分ヲ費シテ猶ホ明瞭ニ会得セシムルコトヲ得ザルガ如キコト往々之アリ。現時ノ読本ハ毎学年紙数多キモノ二冊ヲ講読セシムル慣例ナレドモ此ノ如キ分量ハ実際教授上ノ経験ニ照シテ定メタルニアラズ。何等ノ標準モナク単ニ臆測ヲ以テ編纂セシモノナルガ故ニ今日実際ノ教授上既ニ幾多ノ困難ヲ存セリ。即チ精細ニ各字句ノ意義ヲ咀嚼セシメ毎課ノ大意ヲ概括セシメ或ハ字画ヲ諳記セシメントセバ予定ノ分量ヲ修了セシムルコトヲ得ズ。若シ強テ予定ノ分量ヲ修了セシメントセバ勢匆々ニ読過シ去ラザルベカラズ。然ルニ現今各学校ニ就キテ教授ノ実況ヲ視察スルニ教員ハ読本教授ノ本旨ヲ忘レテ徒ニ予定ノ分量ヲ修了セシメンコトニノミ汲々トシテ児童ガ果シテ完全ニ其意義ヲ会得シ得タリヤ否ヤハ毫モ与知[1]セザルガ如キ風アリ。之ガタメ生徒ノ読書力、文字力ノ進歩ハ意外ニ遅々タルモノアルハ事実ナリ。然レドモ此ノ如キハ独リ教授法ノ拙劣ニノミ帰スベカラズ。読本ノ分量其当ヲ得ザルモノ亦実ニ与テ力アリト信ズ。

語詞及文字[編集]

読本中ニ用ヒタル語詞ヲ見ルニ漢語アリ古語アリ俗語アリ漢語中ニモ抽象的ニシテ容易ニ理解シ難キアリ字画複雑ニシテ応用ニ不便ナルアリ古語中ニモ徒ニ婉麗ナルノミニシテ意義透徹セザルモノアリ古雅ナレドモ既ニ死語ニ属セルアリ。此ノ如キ語詞ヲ数ニ於テ制限鳴ク将タ程度ニ於テ調和ナク漫ニ使用スルガ故ニ児童ノ苦シム所決シテ鮮シトセズ。抑〻普通教育ノ主眼ハ単ニ語詞運用ノ練習ニノミ存スルニアラズ。之ト共ニ智識ノ啓発ト思想ノ発展ト並ニ其表彰トニ注意セザルベカラズ。難解ノ語詞ヲ羅列スルコト必シモ智識啓発ノ手段ニアラズ。必シモ思想表彰ノ捷径ニアラズ。寧ロ之ヲ阻害スルコト尠カラザルナリ。若シ智識ノ啓発ト思想ノ表彰トヲ以テ読本教授ノ主要ナル目的ナリトセバ読本ニハ事実ヲ精細ニ描記シテ児童ヲシテ其記事ノ真意ヲ明ニ了解セシメ之ト同時ニ児童ヲシテ其思想ヲ円満ニ発表スル方法ヲ学バシムレバ足ラン。佶倔ナル漢語ヲ羅列シ難解ナル古語ヲ挿入シテ徒ニ文飾ヲ衒フノ要ナシ。彼ノ漫ニ漢語或ハ古語ヲ挿入シタルガタメ事実ヲシテ却テ朦朧タラシムルガ如キハ甚ダ不可ナリ。

読本教授ノ本旨ハ児童ヲシテ単ニ智識ノ啓発ニ力メシムベキノミナラズ之ト同時ニ適当ナル言語ト文字トノ運用力ヲ養成セシムルコトニ在リ。故ニ時ニ漢語ヲ挿入シ時ニ古語ヲ混淆スルハ素ヨリ必要ナルコトナレドモ之ヲ挿入混淆スルニ於テハ必ズ其外形ト内容トニ注意セザルベカラズ。

抑〻文字ノ外形複雑ナルトキハ啻ニ衛生上ニ有害ナルノミナラズ其字画ヲ正確ニ習熟セシムルニ於テ多大ノ困難ト時間トヲ要スルハ明ナリ。文字ヲ見テ之ヲ習得スルコト困難ナルガ故ニ之ヲ自ラ書写スルコトハ一層困難ナリ。余輩嘗テ某校ノ尋常四年ニ於テ漢字ヲ出シテ之ニ仮名ヲ附セシメシニ

  • サル
  • キツネ
  • モノ
  • ネコ
  • タヌキ
  • タヒ
  • イハシ
競争
  • カヾミ
英雄
  • コンナン
教員
  • キョイク
  • カズ
  • トコロ
  • オニ

等ト答ヘシモノ少ナカラザリキ。又仮名ヲ示シテ之ニ対スル漢字ヲ書カセシメタルニ

カラカサ
ヨコハマ
ヤネ
  • 至銀
ハオリ
  • 羽職

等ト書キタルモノ亦多シ。是レ皆習得ノ困難ナル証ニシテ甚シキハ作文ニモ摘書ニモ大ニ創意的文字ヲ用ヒルモノアリ。即チ。

アマノハシダテ
  • 女僧橋立
カウモリガサ
  • 高森笠
  • 光森笠
  • 扁幅差
キンギヨ
  • 金業
カラカサ
  • 外〓
カツパツ
  • 勝発
ヒバシ
  • 火橋
カラカサ
ヱノグ
  • 図具
シケン
  • 拭〓

ノ如シ。尚ホ高等科四年ノ生徒ニ於テ

オキ
〓岐
ヤブル
彼ル
ゾクグン
賦軍
ヨロコブ

ノ如キ杜撰ナル文字ヲ創造スルニ至ル。是レ皆此種ノ困難ヲ証明スルニ足ルモノナリ。現時普通教育ノ読本講読ニ於テ字義ト字画トノ教授ヲ見ルニ字画諳誦ノ練習ハ字義ヲ習得スルヨリモ遙ニ困難ニシテ之ニ倍蓗スル時間ヲ浪費セルガ如シ。即チ現今読本ノ教授ハ凡テ三段ヨリ成レリ。一ニ素読、二ニ講読、三ニ文字ノ諳誦是ナリ。而シテ此三段中最モ多大ノ困難ヲ感ズルハ文字即チ字画ノ諳記ニ在ルハ世人ノ普ク承認スル所ナリ。ドクトル[3]グラッドストーン曰ク英語ノ綴字法ガ表音的ナラザルガタメニ教育上毎年損失スル所実ニ五十万磅ノ上ニ出ヅト。単ニ綴字ノ表音的ナラザルガタメニスラ既ニ此ノ如キ多大ノ損失アリ。現時我邦ノ如ク漢字濫用ノ結果字画諳記ノタメ無用ノ時間ト労力トヲ浪費スルニ於テ年々損失スル所ヲ算シ来ラバ其額幾何ニ上ルベキカ。蓋シ予想外ニ出ルモノアラン。故ニ字画複雑ノ程度ト児童智識ノ程度トニ就キテハ精緻ニ思慮セザルベカラザルナリ。

次ニ字義ノ難易ニ就キテモ常ニ十分ノ注意ヲ要スルコト言フヲ俟タズ。即チ意義深淵ニシテ実際ヨリ遠ク隔離セル抽象的ノ語ハ児童ニハ頗ル困難ナルモノナリ。抽象的ノ語ハ児童ニ了解セシメ難キハ勿論現今ノ小学教師スラ未ダ明ニ正シク説明ヲ与ヘ得ル者多カラザルベシ。教師已ニ難シトスル所ナルヲ以テ従テ其教授上文字ニ就キテハ常ニ児童ヲシテ直覚的ニ諳記セシメントスル弊少ナカラズ。是ヲ以テ其等ノ文字ヲ応用シタル作文ニ於テハ其応用法甚ダ妥当ナラザルノミナラズ容易ナル文字ヲ用ヒテ不可ナルコトナキガ如キ場合ニ於テスラ往々徒ニ難解ナル漢字ヲ用ヒントスル弊アリ。故ニ文字ノ外形ニ注意スルト同時ニ其内容ヲモ考察シ以テ外形及内容ヲシテ児童ノ智識ニ調和セシムルコトヲ力メザルベカラズ。

要スルニ読本ニ使用スル語ニ就キテハ左ノ四段ニ分類シテ考慮スベキナリ。

  1. 字義字画共ニ容易ナルモノ
  2. 字義困難ニシテ字画容易ナルモノ
  3. 字義容易ニシテ字画困難ナルモノ
  4. 字義字画共ニ困難ナルモノ

以上四段ニ準拠シテ語ノ価値ヲ定メ次ニ児童ノ智識ニ応ジテ相互ノ調和ヲ図リ学年ノ進ムニ従ヒテ段階的ニ其困難ノ程度ヲ高メザルベカラズ。現時ノ読本ハ実ニ此点ニ於テ看過スベカラザル欠点ヲ有ス。換言スレバ字義字画ノ難易ノ程度ニ顧慮スルコトナク此程度ト学年ト相恰当セシメンコトヲ力メズ。其結果現今ノ如ク高等一二年ハ比較的困難ニシテ高等三四年ハ比較的容易ナルガ如キ状態ヲ呈スルニ至レリ。

抑〻思想ノ表彰ニ於テハ言語ハ主タリ文字ハ従タリ。然ルニ現時ノ普通教育ハ寧ロ従ノタメニ甚シク苦メルガ如シ。元来文字ノ職分ハ言語ヲ精緻詳細ニ表彰スルニ在リ。必シモ字画ノ如何ニ関スルコトナシ。故ニ吾人ハ複雑ナル文字ヲ成ルベク簡単ニ省略シテ其習熟ノ労ヲ減ゼシムルト同時ニ衛生上ノ外ヲ避ケシムルコトヲ図ラザルベカラズ。即チ漢字ノ外形複雑ナルハ之ヲ省略シテ簡単ト為シ平仮名ノ異体ハ凡テ之ヲ廃棄シテ一定ノ体形ニ準ハシムルハ実ニ今日ノ急務ナリ。

読本編纂者ハ文字ノ数ニ就キテモ亦深ク注意セザルベカラズ。即チ編纂者ハ先ヅ予メ読本ニ使用スベキ文字ヲ計算シ児童ガ一学年間ニ於テ習熟シ得ベキ数量ヲ考ヘザルベカラズ。例ヘバ尋常三年ノ読本ニ使用シタル文字ノ外形ト内容トヲ考察スルト同時ニ其数ヲ計算シ以テ其学年ノ生徒ガ之ニ堪ヘ得ルヤ否ヲ研究シ次ニ尋常四年、次ニ高等一年ニ至ルニ従ヒテ以上ノ三点ト生徒ノ智識トノ調和ニ注意シ各学年ノ連絡ヲ維持スルニ力ムルヲ要ス。然ルニ現時ノ読本ハ外形ト内容トニ注意セザルノミナラズ其数量ニ就キテ精査セザルガ故ニ啻ニ学年間ノ連絡ヲ失却セルノミナラズ実際ノ教授上ニ非常ノ困難ヲ存セリ。

文体[編集]

現今ノ読本ニ於テ看過スベカラザル一大欠点ハ文脈ノ統一毫モナキコト是ナリ。或ハ漢文調アリ和文調アリ或ハ雅俗混淆体アリ書簡文体アリ或ハ古歌アリ漢詩アリ新体詩アリ。僅々一巻ノ読本中ニ此ノ如ク雑多ノ文体ヲ収ムルノ意果シテ何処ニカ在ル余輩窃ニ之ヲ怪マザルヲ得ズ。蓋シ編者ガ斯ク数種ノ文体ヲ収ムル所以ハ児童ヲシテ現今存在セル各種ノ文体ヲ悉ク玩味セシメントスルニ在ラン。果シテ然ラバ余輩ハ之ニ向ヒテ一言セザルベカラズ。抑〻我邦ニ於テ現今斯ク雑多ノ文脈ヲ存在セシメ更ニ其統一ヲ期スルコトナキハ思想ノ交換上既ニ多大ノ阻害ヲ存セシムルコト明ニシテ是レ実ニ我邦普通教育ノ失態ナリ。是ヲ以テ余輩ハ夙ニ之ガ統一ヲ望ムコト切ナリ。然ルニ現今ノ読本編纂者ノ如ク此等諸体ノ文ヲ毫モ取捨撰択スルコトナクシテ等シク学バシメントスルハ全ク本末ヲ誤レルモノナリ。抑〻世人ヲシテ単ニ歴史的ノ方面ヨリ此等諸種ノ文体ヲシテ将来尚ホ久シク通用セシメントスルハ頗ル不可ナリ。殊ニ普通教育ニ於テ此等ノ文体ヲ教授スルガ如キハ実ニ国語教育ノ真意ヲ解セザルモノニシテ謬レルノ甚ダシキモノト謂フベシ。余輩ハ今日普通教育上此ノ如キ方針ヲトルコトノ不可ナルヲ断言シテ毫モ憚ラザルナリ。

現今我邦ニ於テ文体ノ統一ヲ保タザルタメニ児童ノ思想ノ発展ヲ阻碍スルコト少ナカラズ。試ニ之ヲ今日ノ小学生徒ノ作文ニ徴セン。一編中ニ種々雑多ノ原素ヲ包含シ文脈全ク滅裂シ彫琢ノ痕跡徒ニ繁クシテ文意疎通セズ。是レ児童ノ文辞ノ修飾ニ齷齪シテ自己ノ思想ヲ精緻ニ表彰センコトヲ努メザルガ故ナリ。否努メザルニアラズ。努ムルニ遑ナキガ故ナリ。此ノ如キ弊害ハ何ニ原因スルカ。是レ全ク小学読本ノ文体ノ統一ナキガタメニ児童ハ雑多ノ形式ヲ綜合スルニ苦ミ其結果思想萎靡シテ舒[4]ヒズ礙滞シテ進マザルニ因ルナリ。抑〻小学生徒ノ頭脳ハ甚ダ単純ナルモノナルガ故ニ雑多ノ文体ヲ消化シテ之ヲ運用スルガ如キハ頗ル困難ナルコトニシテ是レ徒ニ思想ノ紛乱ヲ惹起セシムルニ過ギズ。其効果ヲ収メントスルガ如キハ実ニ木ニ縁リテ魚ヲ求メントスルヨリモ難シ。畢竟今日ノ読本ニ雑多ノ文体ヲ収容スルハ編者ガ全ク普通教育ノ実情ヲ知悉セザルニ原因セズンバアラズ。

読本ノ文体ハ作文ト密接ノ関係ヲ有スルコトヲ忘ルベカラズ。今日ノ如ク文体ニ一定ノ形式ナキハ啻ニ実際ノ教授上ニ非常ノ困難ヲ与フルノミナラズ之ガタメニ生徒ヲシテ読本ノ趣旨ヲ解スルニ遑ナカラシメ従テ生徒ノ思想ノ発展ヲシテ大ニ遅滞セシム。是レ思想ト形式ト相乖離シテ調和セザルガタメナリ。余輩之ヲ某教員ニ聞ケリ。作文科ニ於テ尋常科ノ間ハ言文一致体ヲ取ルコト多キニ依リ自己ノ思想ヲ比較的精緻ニ表彰スルコトヲ得レドモ更ニ進デ高等科ニ至レバ読本ノ文体漸ク複雑ト為リ作文教授ニ於テモ亦種々ノ形式ヲ取ルガタメニ生徒ハ此ノ形式ニ習熟センコトニ徒ニ苦心シテ思想アレドモ而モ形式ノ之ニ伴ハザルヲ恐レテ敢テ之ヲ表彰スルコトヲセズ。又其形式ニ習熟センコトヲノミ勉ムルガ故ニ思想ノ発展比較的ニ遅滞シテ形式ニ習熟シタル頃ニハ思想既ニ萎縮セルモノアルニ至ルト。果シテ然ラバ是レ豈ニ憫然ノ至ナラズヤ。実ニ小学生徒ハ其思想又ハ事実ヲ適切ニ記述スルニ拙ニシテ却テ難解ナル漢語ヲ挿入シ若クハ婉麗ナル雅言ヲ羅列シテ空中ノ楼閣ヲ描出スルニ巧ナリ。是レ其冠履転倒ノ謗ヲ被ル所以ナリ。此ノ如キハ旧来作文教授法ノ習慣ノ然ラシムル所ナリト雖モ亦読本ニ於ケル文体ノ不斉一ノ致ス所ナラズトセンヤ。

要スルニ読本ハ児童ノ読書力ヲ養成シ併セテ思想ノ発展ヲ舒長スルモノナルガ故ニ成ルベク詳細ニ事実ヲ記述シ実用上ヨリ懸隔セル難解ナル漢語ノ如キハ之ヲ避ケテ用ヒズ。而シテ文体ヲ統一シテ児童ノ思想ヲシテ寛闊ニ舒長セシムルコトヲ力メザルベカラズ。今日ノ如ク読本ニ雑多ノ文体ヲ収ムルコトハ中学以上ニ於テハ或ハ可ナラン。然レドモ小学校ニ於テハ現時教育ノ程度ニ徴シテ断ジテ不可ナリ。余輩ハ速ニ之ヲ改良シテ以テ現時ノ小学教育ニ蟠崛セル多大ノ障害ヲ除去センコトヲ切望スル所ナリ。

文辞ノ修飾ニ就キテ一言セン。現時ノ読本中ニ或ル事実ヲ叙述スルニ当リテ密接ナル関係ヲ有セザル故事、譬喩、熟語、縁語等ヲ強テ挿入シタルモノ多シ。僅ニ数語ニ過ギザル故事モ其淵源ヲ調査セントスルトキハ独リ教員ノ労多キノミナラズ児童ヲシテ其主旨ト故事トノ関係ヲ明ニ暁得セシメントスルハ甚ダ困難ナルコトナリ。学年ニ応ジテ相当ノ修飾ヲ教フルコトハ素ヨリ妨ナシト雖モ其程度ニ応ゼズ漫ニ修飾シタル文辞ヲ挿入シタルガ如キハ啻ニ何等ノ効果ナキノミナラズ教授上ニ非常ナル障害ヲ与フルコト明ナリ。譬喩ノ如キモ亦然リ。抑〻譬喩ハ其主旨トノ関係ヲ暁得シテ始テ趣味ヲ感ズルモノナリ。然ルニ児童ハ其関係ヲ了解シ得ズ。主旨ハ主旨、譬喩ハ譬喩トシテ各別ニ之ヲ了解スルガ故ニ其趣味全ク没了シ去ルニ至ル。素ヨリ教授上ニ於テ故事ノ淵源ヲ丁寧ニ反復シテ解釈シ譬喩ノ照応ヲ説明セバ児童ト雖モ強チ之ヲ会得シ得ザルニアラザルナリ。聞ク文部省ニ於テ編纂シタル読本中ニ「以太利ノヴェニス[5]市ト地中海ト毎年結婚ス」ト云フ句ヲ挿入シタリ。此故事ノ淵源ヲ捜索スルタメ教育者ノ苦心セシコト実ニ尠カラザリシト云フ。余輩ハ此ノ如キ無味淡々タル意義ヲ譬喩的ニ表彰シ為ニ教育者ヲシテ無益ニ時間ヲ浪費セシメ而モ之ガタメ些少ノ趣味ヲモ喚起セシムルヲ得ザリシハ甚ダ不可ナリト信ズ。此ノ如キ譬喩ヲ用ヒンヨリハ寧ロ事実ノ真相ヲ直写センニ若カズ。此等ノ欠点ハ現時ノ読本中其例ニ乏カラズ。故ニ将来読本ノ編纂者ハ宜シク児童ノ智識ノ程度ニ遵拠シテ之ヲ取捨スベシ。実際ノ経験ニ徴セズ漫ニ之ヲ挿入スルコトハ須カラク避ケザルベカラザルナリ。

読本中記載ノ事実[編集]

読本ノ価値ハ巻中ニ収容シタル事実ノ撰択ト記述ノ良否トニ因リテ定マルモノナレバ編纂者ハ此二者ニ就キテ注意スベキコト勿論ナリ。現時ノ読本ハ果タシテ此二者ニ於テ遺憾ナキヤ否。記述法ノヨロシキヲ得ザルコトハ既ニ述ベタルガ如シ。今左ニ事実ノ撰択如何ニ就キテ少シク論ゼントス。

現今ノ読本中ニ収容シタル事実ハ国体、政体、教育、伝記、チリ、博物、理学、文法、和歌、新体詩、書簡等ナリ。此等ノ事項ヲ収容スルコトハ素ヨリ毫モ妨ナシト雖モ其等ノ事実ハ児童ノ智識ト甚シク懸隔スベカラズ。抑〻児童ノ頭脳ハ単純ニシテ抽象シ若クハ綜合スルニ拙ナルモノナレバ実際ヨリ大ニ隔レルモノハ之ヲ捕捉スルニ於テ困難ヲ感ズルコト尠カラズ。然ルニ現時ノ読本ノ如ク甚シク実際ヨリ遠カレル事実ヲ漫ニ収容セルハ甚ダ不可ナリ。是レ編纂者ノ宜シク注意スベキ点ナリ。又甚シキ偏局ナル事実ヲ記載スベカラズ。例ヘバ山間ノ児童ハ海ノ観念ヲ有セズ海辺ノ者ハ山ノ智識ヲ欠ク故ニ海若クハ山ニ関スル一般ノ事実ハ之ヲ了解セシムルコト難カラズト雖モ其一局部ニ限レル特種ノ事実ハ其観念ヲ得シムルコト甚ダ困難ナリ。其他「振子」ニ就キテ或ハ「言語ノ係結」ニ就キテ或ハ「江戸見」ニ就キテ記述セルモノヽ如キハ余リニ偏局ナル謗ナキニアラズ。或ハ和歌ニ於テ短歌ハ尚ホ可ナレドモ「孝女白菊ノ歌」ノ如キ長編ノ新体詩散文ニ於イテ夫ノ「常陸帯ノ序」ノ如キハ共ニ収容スベキモノニアラズ。是レ実ニ児童ハ未ダ和歌ノ幽玄婉雅ナル風韻ヲ味フ力ヲ有セズ言外ノ余情ヲ掬スルガ如キ素ヨリ為シ得ベキコトニモアラズ。又教員ノ文字鎖、縁語等ノ説明ニ苦メルコトハ余輩ガ管見シタル処ナレバナリ。若シ夫レ名家ノ書簡文ノ如キ或ハ俳句ノ如キヲ収容スルニ至リテハ到底其趣意ノ存スル所ヲ知ルヲ得ズ。殊ニ名家ノ書簡文ノ如キ其文意ヲ明瞭ニ了解センガタメニハ之ニ関聯スル当時ノ歴史ヲ調査シ筆者ノ境遇ヲ詳ニスベキ必要アリ。此必要ノタメニ教員ハ大ナル困難ヲ感ズベク生徒モ亦真意ヲ知悉スルニ苦ム所実ニ大ナルベシ。故ニ将来読本ヲ編纂セントスル者ハ宜シク此偏局ナル事実ヲ避クルト同時ニ新体詩、俳句、名家ノ書簡文等ハ断ジテ之ヲ省クベキナリ。偏局ノ事実ト雖モ精細ナル図解ヲ添ヘ詳密ニ記述セバ未ダ必シモ之ヲ排除スルヲ要セザルベシ。唯今日ノ如キ雑駁ナル記述法ト拙劣ナル絵画トヲ以テシテハ何等ノ利益ヲモ与ヘザルノミナラズ却テ有害ナル結果ヲ生ゼシムベシ。

又記載ノ事実ハ無味乾燥ニシテ講読ノ際児童ヲシテ快味ヲ感ゼシムルコト能ハザルモノナルベカラズ。然ルニ現今ノ読本中ニ屡〻零砕ノ事実ヲ収容シ或ハ無味ナル記述ヲ為セルモノアルガ如キハ甚ダ採ラザル所ナリ。此ノ如キハ読者ニ快感ヲ起サシメザルノミナラズ却テ苦痛ヲ感ゼシムルコトアリ。是レ教授法ノ如何ニ依リテハ或ハ趣味ヲ感ゼシムルコトヲ得ザルニアラズト雖モ此ノ如キハ余輩ノ採ラザル所ナリ。読本記載ノ事実ハ古書ヨリ抜萃シタルモアリ編纂者自ラ記述シタルモアリ。其抜萃ニ係ルモノハ断編ナルガ故ニ通読シテ往々其大意ヲスラ概括シ得ザルモノアリ。加之此等ハ或ハ太平記或ハ折タク柴ノ記或ハ大和俗訓或ハ其他ヨリ取レルガタメニ従テ其文体大ニ異ナレリ。編纂者ノ記述ニ係ルモノハ記述ノ方法往々甚ダ粗略ニシテ時ニ或ハ生硬ナル熟語ヲ挿入スルコト多シ。故ニ生徒ハ其等ノ文辞ノ理解ニ苦ミ為ニ有益ナル事実ヲ記載セリト雖モ遂ニ其全編ノ意義ヲ了解スルコト能ハザルコトアリ。此ノ如キハ現今ノ読本ニ於ケル一大欠点ナリ。故ニ古書其他簡略ニ過ギテ意義明瞭ナラザルモノハ之ヲ改刪シテ明瞭ナラシムベク又其文体モ必要ニ當リテハ十分ニ之ヲ改竄シテ以テ児童ノ智識ニ適応セシムル様注意スベシ。其編纂者自ラノ記述ニ係ルモノハ其前後ト調和ヲ失ハザル限ニ於テ成ルベク平易ノ語ヲ用ヒテ精細ニ記述センコトヲ要ス。換言スレバ抜萃ニ係ルモノモ記述ニ係ルモノモ共ニ或ハ生硬ナル或ハ佶倔ナル語ヲ省キ一定ノ文体ニ依リテ事実ヲ精細ニ叙シテ其真意ヲ明瞭ニ了解セシメ併テ思想ノ発展ヲ舒長セシメンコトニ努メンコトヲ要ス。

程度[編集]

読本ノ編纂上ニ於テ分量ト相関聯シテ最モ精密ナル調査ヲ要スルハ程度ノ難易ニ在リ。即チ分量ト程度トハ常ニ相関聯スル者ナレバ分量ノ均衡ヲ保タントスルニハ先ヅ程度ノ難易ト相照応シテ考察セザルベカラズ。分量寡少ナリト雖モ其程度困難ナルトキハ教授上精粗其度ヲ計ルコト能ハズ。故ニ厳密ニ分量ト程度ト調和センコトヲ要ス。例ヘバ二年級ノ生徒ハ一年級ノ生徒ヨリハ智識幾何カ進歩スベキヲ以テ読書力文字力モ遙ニ増加スベキコト明ナリ。故ニ毎学年分量同一ナリトモ其程度ニ於テ段階ヲ附スレバ共ニ均衡ヲ保チ調和ヲ得従テ教授上自ラ祖ニ陥ラズ煩ニ流レズ生徒ヲシテ完全ニ読本ノ意義ヲ咀嚼セシメ併テ其趣味ヲモ了解セシムルコトヲ得ベシ。然ルニ現今ノ読本編纂者ハ此分量ト程度トノ調和ヲ研究スルコト甚ダ疎漏ナルガ故ニ彼ラガ認テ容易ナリトセルコトモ実際ノ教授ニ於テ非常ノ困難ヲ感ジ意外ニ多数ノ時間ヲ浪費スルコトナキニアラズ。之ニ反シテ編纂者ガ認テ困難ナリトスルコトモ児童ハ殊ノ外容易ニ了解スルコトナキニアラズ。之ガタメ教授上往々違算ヲ生ジ三年級ノ読本ガ二年級ノモノヨリモ実際ノ教授上比較的容易ナルガ如キコト余輩ノ屡〻見ル所ナリ。此ノ如キハ畢竟編纂者ガ実際教授上ノ経験ニ乏シク単ニ自己ノ主観ニノミ憑拠シ倉卒ニ其難易ヲ判断シテ其程度ヲ測定シ去リタルニ因ルモノニシテ現時ノ教育上ニ障害ヲ遺スコト多大ナリ。余輩之ヲ某教員ニ聞ケリ。現時高等科所用ノ読本ハ一年級二年級ニ於テ比較的困難ナリ。尋常四年ノモノト高等一年ノモノト懸隔甚シキガ故ニ尋常科ヲ卒ヘテ高等科ニ進入シ来レル生徒ハ往々此急激ナル困難ニ倦飽シテ中途ニ退学スル者尠カラズト。是レ読本編纂ノ不完全ナ[6]ルガタメ能力薄弱ナル児童ヲシテ学課ノ趣味ヲ了解スルニ遑ナカラシメ而シテ中途ニ挫折シテ退学セシムルニ至ルモノニシテ教育上決シテ軽々ニ看過スベカラザル事実ナリ。

単ニ高等科用ノ読本ニ就キテ言ハンニ一年級ト二年級トハ非常ニ困難ニシテ啻ニ予定ノ分量ヲ満足ニ修了シ能ハザルノミナラズ殆ド其趣味ヲ了解セシムル遑ナク児童ヲシテ其困難ナルガタメニ倦怠セシムル傾ナキニアラズ。之ニ反シテ三年級ト四年級トハ一年級ト二年級トノ読本ニ比シテ程度上左程ノ逕庭ヲ見ザルガタメ講読モ速ニ進歩シテ予定ノ分量ニテハ到底不足ナルヲ免レズ。同時日ヲ以テシテ一ハ僅ニ一度読過スルスラ困難ナルニ一ハ数回復読シテ猶ホ余アルガ如キハ是レ皆編纂者ノ前述ノ如キ詳密ナル調査ヲ卒ヘズ単ニ尋常科ハ易カラザルベカラザル高等科ハ少シク程度ヲ高メザルベカラズト云フガ如キ簡単ナル尺度ヲ以テ程度ノ標準ヲ断定シタルニ因ル。読本編纂者ハ勿論読本検定ニ与ル者ハ特ニ此等ニ注意アランコトヲ希フコト切ナリ。[7]

読本教授ノ欠点[編集]

緒言[編集]

円満良好ナル教育ハ教科書ノ完全ナルト教授法ノ良好ナルトニ依ラザルベカラズ。教科書ニ関シテハ余輩既ニ前章ニ於テ是ヲ尽シタリ。今茲ニ教授上ニ就キテ少シク言フ所アラントス。

読方[編集]

現今小学校ノ児童ガ読本ヲ読習スル実況ヲ観察スルニ彼等ハ単ニ文字ヲ眼ニ見テ教師ノ口音ヲ模倣スルニ過ギズ。教師ノ発音読方共ニ正当ニシテ児童ガ之ヲ模倣スルコト又誤ナカリセバ余輩亦何ヲカ言ハン。然ルニ教師ノ発音読方ハ屡〻正当ナラザルコトアリ。其教授ノ方法モ亦宜シキヲ得ザルコト多シ。是ヲ以テ児童ハ縦ニ自己ノ訛音ヲ用ヒテ更ニ怪マズ。教師亦之ヲ咎メザル有様ナリ。此ノ如クニシテ地方ノ訛音ハ更ニ矯正セラルヽコトナク読方ノ改善ハ遂ニ期望スルコト能ハザルナリ。然レドモ是レ只生徒教師等ノ罪ニアラズ。実ニ彼等ガ居住セル土地其物ノ慣習与テ力アルコト明ナリ。蓋シ小学ノ教師ハ概ネ其地方ノ出身者ナルヲ以テ自己ノ訛音ヲサトラズ得々トシテ之ヲ生徒ニ教授シ生徒モ亦往々誤謬ヲ伝ヘ其地方ノ発音読方ハ共ニ紛雑ヲ極メテ痼疾ヲ成シ遂ニ之ガ矯正ノ術ナキニ至ル。此故ニ仮令他国人ノ来リテ教鞭ヲ執リ進デ之ヲ矯正セント勉ムルコトアルモ其効果ヲ収ムルコトヲ得ズ。是レ皆生徒ノ家庭ガ偉大ナル勢力ヲ有スル所以ニシテ此大勢力ハ此等良教師ヲシテ施スベキ術ニ窮セシムルニ至ル。国語ノ統一教育ノ円満ヲ企図スル者豈ニ慨嘆セザルベケンヤ。

児童ノ智識漸ク開発シ多少読本ヲ通読スルヲ得ルニ至リテモ彼等ハ徒ニ誦読ノミニテ其意ヲ解セズ。従テ句読乱レ抑揚当ヲ失シ之ヲ聴ク者ヲシテ一種ノ歌謡ヲ聴ク思アラシメ而モ其意識ノ那辺ニ在ルカヲ疑ハシム。今読方ヲ類別シテ其梗概ヲ示セバ左ノ如シ。

甲 句読上ヨリシタル分類
  • 一 文章トシテ之ヲ読ムニアラズシテ只語ヲ箇別ニ読続クルモノ
  • 一 句読点ニ注意セズ猥リニ文章ヲ切リテ読ムモノ
  • 一 文章トシテ読ムコトナク只読続クルモノ
乙 音調ノ上ヨリシタル分類
  • 一 語句トモ平調ナルモノ
  • 一 語句トモ終ノ方高調ト為ルモノ[8]
    • イ 語ノ終ノ常ニ上ルモノ
    • ロ 句ノ終ノ常ニ上ルモノ
    • ハ 句読上ニ注意セズシテ読切ル場合ニ其終ノ常ニ下ルモノ
文章ノ意義ニ応ズル読方ヲ為シ能ハザルモノ(是レ一般ノ通弊ニシテ素読ノトキ其文章ヲ了解スル者ナキガ如シ。素読ハ素読トシ講義ハ講義トシテ別々ニ考フル者多シ故ニ正シク文章ノ意義ニ応ズル読方ヲ為サシメントスルニハ教師ハ既ニ生徒ガ文意ヲ解シタリト認メタル後ニ於テ更ニ素読ニ力ヲ入レシムベキコト必要ナリ)

右諸条ニ於テ陳述シタル所ノ概要ハ生徒ヲシテ文意ニ剴切ナル音声ノ高低、緩急、断続ヲ学習セシムルニ在リ。即チ聴者ヲシテ其素読ニ依リテ文意ヲ了解セシメンコトヲ力メシムルニ在リ然リト雖モ文意ヲ了解セザル人ヲシテ此ノ如キ読方ヲ為サシメントスルコトハ到底望ミ難キ所ナルガ故ニ前述ノ如ク講義ノ後更ニ素読ヲ習ハシムルヲ要ス。尚ホ之ト同時ニ勉テ句ノ終ニ於ケル音調ヲ強高ナラシメンコトヲ要ス。此ノ如キハ独リ児童ノミナラズ教師モ亦勉テ之ガ練習ヲ為サヾルベカラズ。即チ其教授ノ際勉テ活読(前述ノ如キ剴切ナル読方ヲ云フ)ヲ為シテ其模範ヲ生徒ニ示シ生徒ノ不正ナル読方ヲ矯正スルヲ要ス。蓋シ活読ハ聴ク者ヲシテ明ニ文意ヲ了解セシムル益アルノミナラズ自己ノ発音説話トニ対シテ心裡ニ起ル観念トヲ常ニ一致セシムルヲ以テ思想従テ明瞭ト為リ練習ノ際自然ニ「リズム」ヲ会得スルニ至ルベク尚ホ進デ他人ノ文章ヲ玩味スルトキニ当リテモ一種ノ妙ト法トヲ解スルヲ得ベシ。従テ自ラ文章ヲ創作スルニモ其妙ト法トヲ応用スルコトヲ知ルニ至ル。之ヲ要スルニ現今ノ状況ニ於テハ文章ヲ正当ニ音読スルコト能ハザルモノ、某音ヲ純正ニ発音シ能ハザルモノ、文章ヲ活読スルコト能ハザルモノ等其欠点何ノ学校ニモ存セルガ如シ。故ニ茲ニ特書シテ当局者ノ猛省ヲ望ム。

解釈[編集]

本項ニ就キテハ用語及解釈ノ方法ニ分チテ説述スベシ。

用語[編集]

小学校ニ就キテ児童ガ読本ヲ講読セルヲ聴クニ大声滔々毫モ渋滞スル所ナキハ大ニ賞スベキガ如シト雖モ熟〻之ヲ聴クトキハ其用語適切ナラズ又甚ダ慎重ヲ欠クモノ多キハ大ニ慨スベキ事実ナリ。是レ蓋シ其用語ハ其土地ノ方言ニアラズシテ講読上ニ於ケル一種ノ言語ナルガ故ナルベシ。其一種ノ言語トハ所謂講釈語是ナリ。児童ハ読本ノ読方ト之ニ対スル講釈語トヲ教授セラルルガ故ニ其儘之ヲ鸚鵡的ニ諳誦シテ滔々之ヲ講釈シ今日シモ亦之ニ満足セルガ如シ。然レドモ此ノ如キ滔々タル講釈モ単ニ口頭ニ止リテ毫モ心裡ニ之ヲ解セザルヲ知ラバ思半ニ過ルモノアラン。

抑〻読本教授ノ本旨タル其文章ノ意義ヲ会得セシメ次ニ自己ノ思想ヲ表彰セントスルニ当リテ適当ナル用語ト形式トヲ自由ニ撰択適用スルコトヲ得シムルニ在リ。然ルニ今日ノ如ク所謂講釈語ノ別ニ存在シテ之ト其文章トノ間ニ密接ノ関係アリヤ否ヲモ知ラズ。況ヤ講釈語ト自己ノ平常ノ方言トノ関係及ビ講釈語ト自己ノ思想トノ関係ヲ了解セザルニ於テハ遂ニ教授ノ効果ヲ収ムルコト能ハザルハ明ナル事実ナリ。故ニ今其実効ヲ挙グル方法ニ就キテ論ゼントス。

此方法ニ二種アリ。其一ハ所謂講釈語ヲ廃棄シテ自己ノ方言ヲ以テ解釈セシムルト其二ハ所謂講釈語ヲ採用スルニ當リテハ之ヲ根本的ニ了解セシムルト是ナリ。第一ノ方法ハ自己ノ思想ニ最モ適切ナル方言ヲ用ヒテ文章ヲ解釈スルモノナルガ故ニ文章ヲ会得スル上ニ於テハ其便多ク其効果モ亦収メ易シト雖モ之ガタメ其地方ノ方言愈〻勢力ヲ得テ旧来各地ニ蟠崛セル方言ハ永ク保存セラレテ国語統一ノ大方針ニ対シ妨害ト為ルコト亦尠カラズ。故ニ国家百年ノ長計ヲ慮ル者ハ断ジテ此法ヲ避ケザルベカラズ。第二ノ方法ハ講釈語ヲ使用セシムルニ当リテ特ニ其地方若クハ児童ガ了解シ易キ他ノ言語ヲ以テ根本的ニ之ヲ会得セシメントスルモノナルヲ以テ教授者ノ伎倆ヲ要スルコト甚ダ大ナリ。故ニ熱心ニシテ着実ナル人ニアラズンバ其任ニ当リ難キ所ナキニアラズト雖モ将来必ズ教育上ニ実行セラルベキ国語統一ノ方針ニ対シテハ甚ダ必要ナルモノナリ。余輩ハ現今小学校教師ノ実力能ク此任ニ堪フベキヤ否ニ就キテハ疑ナキ能ハズト雖モ彼等ニシテ熱心ナル以上ハ之ヲ実行セシメテ可ナリト信ズ。而シテ現今使用セル講釈語ハ東京地方ノ方言ニシテ将来普通国語ト為ルベキ傾向ヲ有スル有望ナルモノナレバ他日大ニ便宜ヲ得ルコトアルベシ。之ヲ要スルニ余輩ハ解釈ニ於テ思想ト言語ト文章トノ聯絡ヲシテ完全ナラシメンコトヲ希望シ之ト同時ニ一方ニ於テハ国語統一ノ大目的ニ向ヒテ鋭意進行センコトヲ希望スルモノナリ。

茲ニ敬語ニ就キテ一言センニ記事若クハ言語上ニ於テ尊長ニ対スル場合ニハ其序ニ応ジテ相当ノ敬語ヲ用ヒシムルコトヲ要ス。或ル地方ノ如キ全ク此点ニ注意セズ甚ダシキハ 皇上ニ対シ奉ル敬語ヲモ知ラザル者アリ。是レ教育上又社会ノ秩序上決シテ看過スベカラザル事実ナリトス。此ノ如キハ任ニ在ル者宜シク細心留意シテ速ニ何等カノ施ス所ナカルベカラザルナリ。

解釈ノ方法[編集]

小学生徒ガ通例彼ノ講釈語ヲ用ヒテ読本ヲ解釈スルヲ聴クニ其解釈ノ方法甚ダ妥当ナラザルモノアリ。即チ一語ヲ解釈スルニ之ト同意義若クハ類似ノ意義ヲ有スル他ノ単語ヲ以テ之ニ当ツルニ過ギズ。是レ現今最モ普通ニ行ハルヽ所ナリ然レドモ此ノ如ク解釈ニ用ヒル語ハ其意義ヲ生徒ガ既ニ了解シタルモノナリヤ否。更ニ此点ニ注意スル者ナキガ如シ是ヲ以テ「銀三枚」ヲ「御金ヲ三両」、「若者」ヲ「わかうど」、「禄」ヲ「知行」ト釈スル類比々皆然リ。

此解釈ハ或ル程度マデハ已ムヲ得ザルモノナリト雖モ。或ル程度以上ニ於テハ頗ル不完全ナルモノト謂ハザルベカラズ。否解釈ト云フ名称ヲ施スコト能ハザルモノナリト謂フベシ。此ノ如キ解釈ハ勉テ排斥シ成ルベク事物事理其物ヲ平易ニ解説スルコトヲ教ヘザルベカラズ。換言スレバ児童ヲシテ円熟ニ其意義ヲ了解セシメ単ニ形式ニ流レシムルコトヲ避ケザルベカラズ。

前述ノ如ク彼等ノ解釈法ハ一ノ単語ニ換フルニ他ノ単語ヲ以テスルニ止マルガ故ニ句ノ解釈ト云フベキモノヽ如キハ現今ノ解釈法中殆ド見ルコトヲ得ズト断言シテ憚ラザルナリ。即チ此句ノ意義ハ如何本文ヲ離レテ他ノ言語ヲ以テ言換フルトキハ如何ナルコトヽ為ルカ等ヲ問ハヾ全ク答フルコトヲ得ザル者多キニ居ラン。例ヘバ「縄の両端をつなぐに両大船を以てす」ヲ釈スルニ当リテ如何ニシテモ「縄の両端を両大船につなぐ」ト言換フルコト能ハザルガ如キ又「甚い哉公の国を思はざるや」ヲ釈スルニ「ひどいことやなあ、殿さんの国を思はないことやなあ」ト言フ外遂ニシテ「公の国を思はざることの甚い哉」ト解シ去ルコト能ハザルガ如キ是ナリ。此等ノ例ハ実ニ夥多ニシテ枚挙スルニ遑アラズ。此ノ如キ欠点ハ一日モ忽セニスベカラザルモノニシテ殊ニ現今ノ如ク諸種雑多ノ文体ヲ収容シタル読本ヲ使用スル以上ハ此点ニ於テ更ニ一層ノ注意ヲ用ヒザルベカラズ。若シ夫レ一歩ヲ誤ランカ其害実ニ鮮少ナラザルベシ。

更ニ眼ヲ転ジテ彼等ノ講釈スル所ト本文トヲ対比センガ彼等ガ語法上ノ形式ニ関スル注意ノ少キコト実ニ驚クベキナリ。助動詞天爾遠波ノ如キニ於テ特ニ甚シキモノアリ。現在ノ時ヲ以テ記述セル者ヲ過去ニ言成シ反語ニ書ケルモノヲ直説ニ言換ヘ句ノ断続等ハ更ニ顧ズシテ縦ニ断続セシメ更ニ本文ノ形式ニ鑑ミザルガ如キハ実ニ不可ナリ。此ノ如クニシテ文法上ノ形式ハ全ク無視セラレ講読ハ本文以外ニ独立セル姿ヲ成シ従テ其作文ニ於テモ此等ノ誤謬ヲ以テ満サルヽコト豈ニ浩歎ニ堪フベケンヤ。其弊ノ及ブ所実ニ大ナルモノアルベシ。故ニ之ガ教授法ヲ改ムルコト目下ノ急務ナリ。

読本編纂法及教授法ニ就キテ将来取ルベキ方針[編集]

緒言[編集]

我邦現今ノ言語ノ如ク外形ニ於テ将タ内容ニ於テ彼此乖離シ首尾滅裂シテ更ニ整頓セルナキモノ殆ド他ニ其比ヲ見ズ。是レ古来我国語上ニ何等ノ人為的彫琢ヲモ加ヘシコトナク専ラ自然ノ変転ニ委シテ毫モ顧慮セザリシニ原由セズンバアラズ。抑〻言語ハ終始生長シ衰凋スル活物ニシテ古往今来幾多ノ変遷ヲ経テ今日ニ至レルモノニシテ吾人智識ノ開発ノ言語ニ依ルコト実ニ多大ナリ。若シ夫レ言語ニシテ完美ナラザランガ人文ノ進歩何ニ依リテ期スルヲ得ン。我邦ノ言語ノ如キ不完不備ナルモノヲ以テ智識ノ啓発ト社会ノ進歩トヲ希望スルハ百年河清ヲ俟ツト一般ニシテ何ノ日カ其目的ヲ達スルヲ得ン。是レ国語改良ノ一日モ忽セニスベカラザル所以ナリ。

国語改良ノ急務タルハ余輩呶々ヲ俟タズシテ明ナリ。実ニ此事業ニシテ一日遅延セバ国家ノ教育ニ於テ一日ノ損失アリ。一月之ヲ放棄セバ実ニ一月ノ損失アリ。日進月歩ノ今日教育上ニ一日一月ノ損失アラシメバ国家永遠ノ不利果タシテ如何ゾヤ。

現時国語ハ不完不備ナルガ故ニ従テ読書作文亦不完全ニ不整頓ナリ。此不完全ニ不整頓ナル読書作[9]文ヲ以テシテモ普通教育ニ於ケル国語教授ノ効果ヲ収メントス是レ豈ニ得ベケンヤ。然レドモ此ノ如キ不利モ国語調査会開設セラレ標準語ノ制定文体ノ統一等大成セラレタラン暁ニ於テハ自ラ消滅スベシト雖モ之ヲ未来ノ国語調査会ニ俟タントスルガ如キ緩慢ナル手段ハ国家教育ノ状況ニ徴シテ余輩ノ取ラザル所ナリ。実ニ今日国語教育ノ不完全ナルハ予想外ニ出ヅルモノアリ。切ニ望ムラクハ文部省ハ速ニ読本編纂及読書教授ノ方針ヲ指示シ以テ国語教育上ニ於ケル刻下ノ欠点ヲ除去セラレンコトヲ。其指示セラレルベキ方針ニ至リテハ項ヲ改メテ左ニ之ヲ述ベントス。

読本ノ編纂[編集]

余輩ハ既ニ現時ノ読本ニ於ケル五箇ノ欠点ヲ述ベタリ。即チ分量、語、文体、事実、程度是ナリ。是レ将来編纂セラルベキ読本ニ於テ当ニ改良スベキ点ナリ。故ニ文部省ニ於テ予メ編纂方針ヲ指示シ之ニ依リテ厳正ニ審査セラレンコトヲ要ス。其指示セラルベキ方針ノ細目ヲ挙グレバ左ノ如シ。

  1. 読本ノ分量ハ実際ノ教授ニ関係スル所大ナルガ故ニ編纂者ハ予メ生徒ノ学力ヲ研究調査シテ適当ナル分量ヲ定ムルコト。
    但シ教員ハ規定ノ分量ヲ読過セントシテ粗雑散漫ニ流レザランコトヲ勉ムベキコト。
  2. 語ハ成ルベク平易ナルモノヲ撰ビ漫ニ生硬ナル漢語ヲ挿入スルガ如キコトヲ避ケ実用ヨリ遠カルコトナキコトヲ努ムベシ。漢語ヲ挿入スルニ当リテハ予メ其外形ト内容トニ注意シ併テ一学年中ニ於テ十分学習シ得ベキ数量ヲ調査スベキコト漫ニ漢語若クハ雅言ヲ挿入シ児童ヲシテ之ガ諳記ニ全力ヲ注ガシメ為ニ却テ事実ノ大意ヲ失却セシムルガ如キコトナキコトヲ注意スベキコト。
    平仮名ノ異体ハ何等ノ利益ナクシテ却テ之ヲ習得スルコト困難ナルガ故ニ一定ノ字形ニ改メ従来ノ異体ヲ廃スベキコト。
    但シ異体ノ仮名ハ読本ノミナラズ習字上ニ於テモ亦之ヲ廃スベキコト。
  3. 従来ノ如ク雑多ノ文体ヲ用フルトキハ生徒ノ頭脳ヲ紛乱セシメ思想ノ発展ヲ阻碍スルガ故ニ成ルベク一種ノ文体ニ局ルコト其文体ハ漢文直訳ニ偏セズ擬古体ニ傾カズ平易ナル普通文ヲ撰ブベキコト。
    文辞ノ修飾ハ学年ノ程度ニ応ジテ之ヲ加ヘ漫ニ故事、譬喩、縁語等ヲ挿入シテ主旨ヲ乖離セシメザルコトヲ力ムベキコト。
    新体詩俳句名家ノ書簡文ハ必ズ編入スベカラザルコト。
    但シ学年ノ程度ニ応ジテ偶〻詩歌ヲ挿入シ或ハ実用ニ必要ナル書簡文ノ体裁ヲ指示スルコトハ差支ナキコト。
  4. 読本中ニ記載スベキ事実ハ偏局ニ過ギタルモノナルベカラザルコト又抽象的事項ヲ多ク収容セザルコトヲ注意スベキコト。
    新体詩俳句名家ノ書簡文等ハ読本ニ収容スベカラザルコト。
    事実ハ成ルベク精緻詳密ニ描記シ生徒ヲシテ明晰ニ其観念ヲ取得セシムルコトヲ努ムベキコト。
    挿図ヲ要スルトキハ鮮明ニシテ精細確実ナルモノヲ撰ブベキコト。
  5. 読本ノ程度ト学年ノ程度トハ常ニ調和セシメ乖離セザル様編纂スベキコト。

読本ノ註釈ヲ作ルコト[編集]

今回巡視シタル各府県中読本教授ノ方法ハ必シモ悉皆同一規ニ出ヅルニアラズ。或ハ全編ノ大意ヲ概括セシメ或ハ各語ノ意義、仮名遣、語法等其他語ノ上ニ就キテ精細ニ詳密ニ教授セルモノナキニアラザリシガ多クハ繁簡宜シキヲ得ズ或ハ素読ノ後粗雑ニ講義シ去リ生徒モ単ニ教師ノ口吻ニ擬シテ鸚鵡的ニ諳誦セルニ過ギズ各語ノ意義ハ勿論全編ノ大意ヲモ概括シ得ザルモノ多ク口ニ之ヲ講ズレドモ実ハ全ク了解セザルガ如キモノ尠カラズ。甚シキハ講義ヲ以テ単ニ所々口語ニ換フレバ可ナリト信ジ字義ノ如何、句ノ釈義ノ如キハ毫モ顧ミザルモノアリ。或ハ字義ヲ釈シテ正鵠ヲ失スルモノアリ或ハ釈語ノ方却テ了解ニ困難ナルモノアリ。例ヘバ「仏教」ヲ釈シテ「現世に於て悪を為したる者は死して地獄に落ち善を行ふ者は極楽に往くことを教へたるものなり」と云フガ如キ迂遠ノ解ヲ下シ或ハ「禄」ヲ釈シテ「知行」ト云ヘドモ知行却テ了解ニ困難ナルガ如キ解釈ヲ為スモノアリ。此ノ如キハ畢竟教師ノ学力不足ニシテ生徒ノ智識ノ程度ヲ十分考察シ之ニ適スル妥当ナル解釈ヲ簡明ニ教フルコト能ハザルガタメナリ。現今教師ニ人物乏シキハ一般ノ認知スル所ニシテ都府ニ在リテハ稍〻善良ナレドモ一度足ヲ村落ニ入ルレバ実ニ思半ニ過グルモノアラン。某校ニ於テハ漸ク高等小学校ヲ卒業セシニ過ギザル者ヲ挙ゲテ高等科ノ講読ヲ担当セシメタルヲ見タリ。此ノ如キ人物ニ頼リテ教育ノ効果ヲ円満ニ収容セントスルハ豈ニ至難ナラズトセンヤ。

然レドモ今日ノ如ク小学生徒ノ読書力ニ幼稚ナルト教育上ニ統一ナキトハ独リ之ヲ教師ノ不能ニノミ帰スベカラズ。読本ニ良好ナル者ナキコトモ亦与テ力アルハ勿論ナリ。故ニ今日ニ於テ此欠点ヲ排除シ円満ナル効果ヲ得ント欲セバ速ニ教師ノ養成ト読本ノ改良トニ着手セザルベカラズ。然レドモ是レ朞年ニシテ成効シ得ベキコトニアラザルガ故ニ成ルベク鋭意之ガ改善ノ策統一ノ方法ヲ力メザルベカラズ。即チ各県下読本教授ノ統一ヲ望ム便法トシテ読本ノ字義ヲ解釈シタル注釈書ヲ編成シ各教師ヲシテ善ク之ニ遵拠シテ斉一ニ教授セシメ以テ粗雑ナル教授法ヲ改メシムルヲ要ス。若シ注釈書出ヅルトキハ解釈ノ標準定ルヲ以テ教授上多少ノ労ヲ減ズルコトヲ得ルト同時ニ旧来ノ如ク各自縦ニ杜撰ノ解釈ヲ下スガ如キ危険ヲ除クコトヲ得少ナクトモ一県下若クハ一郡下ニ於テ斉一ナル効果ヲ収ムルコトヲ得ベシ。是レ目下ノ最大欠点タル教授ノ統一ナキコトヲ改メ得ル捷径ナルガ故ニ宜シク此挙ニ出デンコトヲ希望ス。

視学官若クハ官立学校教授等ヲシテ授業法ヲ監督セシムルコト[編集]

前述ノ如ク読本編纂及教授上ノ方針ヲ指示シテ内部ヨリ着々改良ヲ図ルト同時ニ主務省ハ外部ヨリ孜々好果ヲ収メンコトニ尽力セザルベカラズ。即チ旧来ノ如ク視学官ヲシテ単ニ学校ノ設備及管理ヲ視察セシムルニ止メズ普ク学科ノ教授法ヲモ監督セシメ以テ其欠点ヲ改良シ其不足ヲ補充シテ其統一ヲ保持スルコトヲ力メシムベシ。故ニ速ニ視学制度ヲ改正シ視学官ヲシテ専ラ各科ノ教授法ヲモ監督セシメ各自担任区域ノ学校ニ於ケル各学科ノ教授ニ就キ十分ニ責任ヲ負ハシメ以テ其職責ヲ明ニセシメ若クハ官立学校教授等ヲシテ各学科ノ教授法ヲ視察セシメラレンコトヲ希望ス。尚ホ現今読本ノ編纂及教授上ニ存セル欠点ハ之ヲ精細ニ研究スルトキハ幾多ノ改良ヲ要シ補正ヲ加ヘザルベカラザルモノアルベシ。然レドモ今ハ単ニ主点ノミヲ略述シテ細末ニハ及バザルナリ。

脚注[編集]

  1. ここまで189ページ
  2. 廣實
  3. ドクトルに左線
  4. ここまで190ページ
  5. ヴェニスに二重傍線
  6. ここまで191ページ
  7. ここまで192ページ
  8. ここまで4489号203ページ
  9. ここまで204ページ

この著作物は、1955年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、環太平洋パートナーシップ協定の発効日(2018年12月30日)の時点で著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以上経過しています。従って、日本においてパブリックドメインの状態にあります。


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