裁判官忌避申立却下決定に対する即時抗告の決定に対する特別抗告事件(最高裁判所第一小法廷昭和48年10月8日決定)

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裁判要旨[編集]

一 訴訟手続内における審理の方法、態度などは、それ自体としては裁判官を忌避する理由となしえない[1]

二 公判期日前の打合せから第一回公判期日終了までの裁判長の訴訟指揮権、法廷警察権の行使の不当を理由とする忌避申立は、本件のような事情(判文参照)のもとにおいては、訴訟遅延のみを目的とするものとして、刑訴法24条により却下すべきものである。

決定[編集]

主文[編集]

 原決定を取り消す。

 本件忌避申立を却下する。

理由[編集]

 本件抗告の趣意は別紙添付のとおりである。 

 所論第一点は判例違反をいうが、所論引用の判例はすべて事案を異にして本件に適切ではなく、同第二点は憲法三七条違反をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な抗告理由にあたらない。

 しかしながら、所論にかんがみ、職権をもつて調査すると、本件は、東京地方裁判所刑事第二六部に係属する被告人Aに対する傷害被告事件における昭和四八年六月六日の第二回公判期日において、弁護人後藤孝典、同鈴木一郎、同錦織淳、同山紀洋、同浅野憲一から、裁判長裁判官船田三雄に対する忌避申立があつたところ、右第二六部は、右忌避申立を、訴訟遅延のみを目的とするものであるとして、刑訴法二四条により却下したので、右弁護人らから即時抗告がなされ、次いで同年七月三一日東京高等裁判所が、前記被告事件の第一回公判期日における裁判長の措置には妥当を欠くものがあるとも考えられるとし、本件事案の特殊性および本件審理の経過にかんがみると、少くとも、被告人および弁護人の立場からすれば、不当な訴訟指揮であると判断される余地なしとせず、また、弁護人に訴訟遅延を意図したと思われるものはないとし、これらの事情を総合すると、被告人および弁護人らが、その立場で、本件裁判長の右のような訴訟指揮などから推し量つて、不公平な裁判をするおそれがあると判断することもありえないわけではなく、本件忌避申立をもつて、単に本件裁判長の訴訟指揮権あるいは法廷警察権の行使に対する不服をいうにすぎないもので、訴訟遅延の目的のみによるものであることが明らかであるとはいえない旨判示して、前記第二六部の決定を取り消し、本件忌避申立事件を東京地方裁判所に差し戻したものであることは、記録によつて明らかである。

 ところで、元来、裁判官の忌避の制度は、裁判官がその担当する事件の当事者と特別な関係にあるとか、訴訟手続外においてすでに事件につき一定の判断を形成しているとかの、当該事件の手続外の要因により、当該裁判官によつては、その事件について公平で客観性のある審判を期待することができない場合に、当該裁判官をその事件の審判から排除し、裁判の公正および信頼を確保することを目的とするものであつて、その手続内における審理の方法、態度などは、それだけでは直ちに忌避の理由となしえないものであり、これらに対しては異議、上訴などの不服申立方法によつて救済を求めるべきであるといわなければならない。したがつて、訴訟手続内における審理の方法、態度に対する不服を理由とする忌避申立は、しよせん受け容れられる可能性は全くないものであつて、それによつてもたらされる結果は、訴訟の遅延と裁判の権威の失墜以外にはありえず、これらのことは法曹一般に周知のことがらである。

 本件忌避申立の理由は、本件被告事件についての、公判期日前の打合せから第一回公判期日終了までの本件裁判長による訴訟指揮権、法廷警察権の行使の不当、なかんづく、第一回公判期日において、被告人および弁護人が、裁判長の在廷命令をあえて無視して退廷したのち、入廷しようとしたのを許可しなかつたことおよび必要的弁護事件である本件被告事件について弁護人が在廷しないまま審理を進めたことをとらえて、同裁判長は、予断と偏見にみち不公平な裁判をするおそれがあるとするものであるところ、これらはまさに、同裁判長の訴訟指揮権、法廷警察権の行使に対する不服を理由とするものにほかならず、かかる理由による忌避申立の許されないことは前記のとおりであり、それによつてもたらされるものが訴訟の遅延と裁判の権威の失墜以外にはない本件においては、右のごとき忌避申立は、訴訟遅延のみを目的とするものとして、同法24条により却下すべきものである。

 しかるに、原決定が、本来忌避理由となしえない本件裁判長の訴訟指揮権、法廷警察権の行使の当否について判断を加えて、本件簡易却下を不相当としたのは、忌避理由についての法律の解釈適用を誤り、ひいては事実誤認をきたしたものであつて、これを取り消さなければ著しく正義に反するものと認める。

 よつて、同法411条を準用し、同法434条、426条2項により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

 昭和四八年一〇月八日

  最高裁判所第一小法廷

      裁判長裁判官 下田武三

         裁判官 藤林益三

         裁判官 岸盛一

         裁判官 岸上康夫

脚注[編集]

  1. この要旨は民事裁判においても引用されている。

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