血液製剤の安全性の向上及び安定供給の確保を図るための基本的な方針 (平成17年4月1日適用)
血液製剤の安全性の向上及び安定供給の確保を図るための基本的な方針
我が国の血液事業は、昭和三十九年の閣議決定を契機として、関係者による多大の努力が積み重ねられてきた結果、輸血用血液製剤については昭和四十九年以降、国内自給が達成されている。しかしながら、血漿分画製剤の一部については、相当量を輸入に依存している状況にある。このような現状を踏まえ、血液製剤(安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(昭和三十一年法律第百六十号。以下「法」という。)第二条第一項に規定する血液製剤をいう。以下同じ。)の安定的な供給が確保され、かつ、国内自給が推進されるよう一層の取組を進めることが必要である。
我が国は、過去において、血液凝固因子製剤によるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染問題という、深甚な苦難を経験しており、これを教訓として、今後、重大な健康被害が生じないよう、血液製剤の安全性を向上するための施策を進めることが必要である。
本方針は、これらの経緯等を踏まえ、法の基本理念である血液製剤の安全性の向上、献血によって得られた血液による国内自給の確保、血液製剤の安定供給、適正使用の推進及び公正かつ透明な血液事業の実施体制の確保を図るため、法第九条第一項に基づき策定する基本的な方針であり、今後の血液事業の方向性を示すものである。本方針、本方針に基づき定める献血推進計画及び需給計画、都道府県が定める都道府県献血推進計画並びに採血事業者が定める献血受入計画が一体となって、今後の血液事業が進められることが必要である。
本方針は、血液事業を取り巻く状況の変化等に的確に対応する必要があること等から、法第九条第三項に基づき、少なくとも五年ごとに再検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更するものとする。
第一 血液製剤の安全性の向上及び安定供給の確保に関する基本的な方向
一 基本的な考え方
血液製剤は人体から採取された血液を原料とする有限で貴重なものであることを、まず十分認識することが必要である。
国並びに地方公共団体(都道府県及び市町村をいう。以下同じ。)、採血事業者、製造販売業者等(製造販売業者、製造業者及び販売業者をいう。以下同じ。)、医療関係者など血液事業に関わる者は、法に基づき課せられた責務を確実に果たすとともに、以下の四つの基本理念の実現に向け、各般の取組を進めることが必要である。
1 安全性の向上
血液製剤は医療の領域に多くの成果をもたらしてきており、また、科学技術の進歩により、病原体の発見、その検査法や不活化技術の開発・導入等を通じ、血液製剤を介して感染症等が発生するリスクは著しく低減してきている。しかし、人の血液を原料として製造されていることから、当該リスクを完全には否定できない可能性があること、製造過程における病原体の不活化処理等には限界がある場合があることなどの特徴を有する。このため、常に最新の科学的知見に基づき、血液の採取から製造、供給、使用に至るまで、一貫した遡及調査体制を構築するなど、安全性の確保及びその向上に向けた不断の努力が必要である。
これまで、血液製剤については、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)において、その安全性の確保を図ってきたところであるが、我が国は、過去において、血液凝固因子製剤によるHIV感染問題という、深甚な苦難を経験しており、より一層の安全確保対策の充実が求められている。国は、平成十四年七月に公布された薬事法及び採血及び供血あつせん業取締法の一部を改正する法律(平成十四年法律第九十六号)のうち、薬事法の改正に関する部分の施行等を通じ、安全性情報の収集・評価等の安全対策が迅速かつ的確に行われ、常にその実効性が検証されるような体制を構築することとする。
2 国内自給原則、安定供給の確保
法第三条第二項において血液製剤の国内自給が確保されることを基本とすることが規定されているとおり、倫理性、国際的公平性等の観点に立脚し、国内で使用される血液製剤が、原則として国内で行われる献血により得られた血液を原料として製造され、海外の血液に依存しなくても済む体制を構築すべきである。このため、中期的な需給見通しに基づき、医療需要にこたえられる血液製剤の供給を献血により確保する必要がある。
また、人の血液に由来する有限で貴重な血液製剤が、医療需要に対し過不足が生じることのないよう、安定的に供給する体制を整備する必要がある。
以上のことから、特に、血漿分画製剤は、製造に比較的長期間を要すること等を踏まえ、毎年度、需給計画を定め、安定的な供給を確保するものとする。
3 適正使用の推進
医療関係者は、血液製剤が人の血液に由来する有限で貴重なものであること及び原料に由来する感染のリスク等について特段の注意を払う必要があることを改めて認識し、真に必要な場合に限って血液製剤を使用するなど、適切かつ適正な使用を一層推進する必要がある。これは国内自給及び安定供給の確保の観点からも重要である。
このため、医療機関において、血液製剤の管理体制を整備し、血液製剤の使用状況を正確に把握する等、血液製剤の適正な使用を推進する必要がある。
以上のことから、国は、血液製剤の適切かつ適正な使用を推進するため、血液製剤の適正使用や輸血療法の実施等に関する指針の普及を図るものとする。また、医療機関における血液製剤の使用状況について定期的に評価を行うなど、更に適正使用を促進するための方策を講ずることとする。
4 公正かつ透明な実施体制の確保
国、地方公共団体、採血事業者、製造販売業者等、医療関係者など血液事業に関わる者は、献血者の善意にこたえ、国民の理解と協力を得ることができるよう、血液事業に係る施策の策定及び実施に当たり、血液製剤の安全性や供給の状況等につき、十分な情報を公開する必要がある。これは、献血を推進していくためにも重要である。
以上のことから、国は、血液事業に係る施策の策定及び実施に当たり、公正かつ透明な審議を確保するものとする。
二 血液製剤代替医薬品の取扱い
用法、効能及び効果について血液製剤と代替性がある医薬品(以下「血液製剤代替医薬品」という。)についても、その安全性の確保及び向上が必要である。
また、血液製剤代替医薬品は、安定供給を確保するため、計画的に製造及び供給が行われる必要がある。
さらに、当該医薬品についても、それぞれの患者に応じ適切に、また適正に使用されることが求められる。
三 国民の理解と参加
国民一人一人が、献血に由来する血液製剤を用いた医療が必要に応じ行われることによって生命と健康が守られるということを理解し、積極的に献血を行うこと等を通じ、国民が今後の血液事業の健全な展開に参加することが期待される。
このため、血液事業に関わる者は、国民に対し、血液事業や血液製剤を用いた医療に関する情報の積極的な提供に努めることが必要である。
第二 血液製剤についての中期的な需給の見通し
血液製剤及び血液製剤代替医薬品の需給動向を勘案しつつ、それらの中期的な需給の見通しとして、平成二十年度までの今後五年間の状況について考察する。
一 輸血用血液製剤の需給の現状及び今後の見通し
輸血用血液製剤は、昭和四十九年以降、すべて国内献血で賄われている。
輸血用血液製剤は、リットルに換算すると、平成十三年において、全血製剤一・三万リットル、赤血球製剤四十八・五万リットル、血小板製剤十五・五万リットル、血漿製剤三十・九万リットルが製造されており、それぞれ〇・七万リットル、四十五・八万リットル、十四・五万リットル、三十・八万リットルが供給された。
輸血用血液製剤は、今後とも国内献血で賄われると見込まれるが、引き続き、医療需要に応じた供給が確保される必要がある。
二 原料血漿の需給の現状及び今後の見通し
原料血漿の供給については、平成十三年度の原料血漿確保目標量百一万リットルに対し百四万リットルが確保されたところである。平成十四年度の原料血漿確保目標量百八万リットルも達成されたところである。
原料血漿については、これまで需要に見合う供給が行われてきているが、過去の供給状況等を勘案すると、平成二十年度において百十七万リットル程度が供給可能と予測される。
三 血漿分画製剤の需給の現状及び今後の見通し
1 免疫グロブリン製剤及びアルブミン製剤
血漿分画製剤のうち、免疫グロブリン製剤及びアルブミン製剤の供給量は、製造に要する原料血漿量に換算して、それぞれ平成十四年において百二万リットル及び百八十八万リットルであり、うち国内献血に由来するものの供給量は、それぞれ八十五万リットル及び六十八万リットルである。
これらの製剤の今後の需要予測は、過去の使用状況等を勘案すると、製造に要する原料血漿量に換算して、それぞれ平成二十年度において百九万リットル~百十五万リットル及び百六十三万リットル~百七十万リットル程度である。
なお、国内の製造業者は、原料血漿に換算して年間百二十万リットル程度の血漿分画製剤の製造能力を有している。
原料血漿の供給量及び血漿分画製剤の国内製造業者の製造能力等を勘案すると、今後は、遺伝子組換え製剤の開発も重要な課題である。
2 血液凝固因子製剤
血液凝固第Ⅷ因子製剤(遺伝子組換え製剤を除く。)及び血液凝固第IX因子製剤(複合体を除く。)は、すべて国内献血で賄われている。
これらの製剤については、今後ともこの状況が確保される見通しである。
なお、血液凝固第Ⅷ因子製剤については、人の血液を有効成分とする製剤と遺伝子組換え製剤が供給されており、遺伝子組換え製剤は、輸入により供給されている状況にある。
第三 血液製剤に関し国内自給が確保されるための方策に関する事項
一 血液製剤の国内自給の確保・達成について
血液製剤のうち、輸血用血液製剤については、昭和四十九年以降、国内自給を達成している。また、血漿分画製剤のうち血液凝固第Ⅷ因子製剤(遺伝子組換え製剤を除く。)及び血液凝固第Ⅸ因子製剤(複合体を除く。)は、平成十四年現在、国内自給を達成している(遺伝子組換え製剤を含めた血液凝固第Ⅷ因子製剤の自給率は五十二・〇パーセント。複合体を含めた血液凝固第Ⅸ因子製剤の自給率は七十九・九パーセント。)。
しかし、免疫グロブリン製剤及びアルブミン製剤の自給率は、それぞれ同年において八十三・三パーセント及び三十六・四パーセントである。
これらについても、平成二十年を目途に、国内自給の達成を目指すものとする。
二 国内自給を確保・達成するための基本的な考え方
血液事業に関わる者は、血液製剤の国内自給を確保・達成するため、国内の需要を満たすために必要な献血量を確保し、あわせて、確保された原料血漿がすべて有効に利用され、血液製剤として国内に供給されるよう体制を整備するとともに、血液製剤の適正使用を推進することが必要である。
三 献血量の確保について
国、地方公共団体及び採血事業者は、第二に示した血液製剤についての中期的な需給の見通しを踏まえ、第四に示すとおり、計画的な献血の推進に努め、血液製剤の国内自給を確保・達成するための献血量を確保することが必要である。
四 血液製剤の国内供給について
国、採血事業者、製造販売業者及び製造業者は、第五に示すとおり、国内の献血に由来する原料血漿がすべて有効に利用され、血液製剤として国内に供給されるよう、血液製剤の国内自給に向けた製造及び供給のための体制を整備する必要がある。
このため、採血事業者、製造販売業者及び製造業者は、採血から製造及び供給に至るすべての段階において、事業の最大限の効率化及び合理化を図ることにより、献血より得られた血液を有効に利用し、医療需要に応じて過不足なく供給することが必要である。
また、国は、国内自給を推進するに当たって、採血事業者、製造販売業者等、患者又はその家族、医療関係者、献血者等血液事業に関わる者の意見を十分踏まえるとともに、遺伝子組換えアルブミン製剤の開発状況並びに国内の献血に由来する血液製剤及び輸入される血液製剤の供給をめぐる動向等も十分に考慮するものとする。
五 血液製剤の適正使用について
免疫グロブリン製剤の使用量は増加傾向にあり、今後、適正使用の推進が求められる。アルブミン製剤の使用量は、適正使用の推進の結果として、減少傾向にあり、引き続きこの動向が維持される必要がある。
医療機関においては、第七に示すとおり、血液製剤の適正使用に努めることが必要である。また、国は、血液製剤の適正使用や輸血療法の実施等に関する指針を医療機関に示してきたところであるが、医療機関における血液製剤の使用状況について定期的に評価を行うなど、適正使用の推進のためのより効果的な方法を検討するものとする。
第四 献血の推進に関する事項
一 献血の推進に関する基本的な考え方
国、地方公共団体、採血事業者、献血推進協議会、民間の献血推進組織等は、本方針に基づき定める献血推進計画を踏まえ、協力して、相互扶助及び博愛の精神に基づき、献血推進運動を展開する必要がある。また、その際には、献血について国民に正確な情報を伝え、その理解と協力を得る必要がある。
今後の人口動態を考慮すると、献血可能人口が減少すると推定されていることから、献血者を増やすため、特に若年層に対する普及・啓発を一層推進する必要がある。
また、四〇〇ミリリットル全血採血及び成分採血は、献血量を確保しやすくなるとともに、感染症等のリスクを低減させるなどの利点があるため、今後も、一層の普及が必要である。
二 献血の推進に関する具体的な方策
国は、献血推進計画を策定し、献血推進のための基本的な施策を実施するものとする。具体的には、国民の献血への理解を求める普及啓発を行うものとし、また、都道府県による献血の推進、採血事業者による献血の受入れ及び献血者の保護に対する協力等を行うものとする。
都道府県は、血液製剤の需給の状況を把握した上で、必要な血液量を推定し、都道府県の区域を超えた広域的な人口移動も加味しつつ、効果的な都道府県献血推進計画を策定し、それに基づき献血を推進することが必要である。具体的には、住民の献血への理解を深めること、広報や献血推進組織の育成等により献血を推進すること、採血事業者の献血受入計画の実施が確保できるよう所要の措置を講ずることが重要である。
市町村は、国及び都道府県とともに献血を推進し、また採血事業者による献血の受入れが推進されるよう所要の措置を講ずることが必要である。具体的には、住民の献血への理解を深めること、都道府県や採血事業者と協議した上で、献血会場を確保することが重要である。
採血事業者は、国及び地方公共団体の行う献血推進の取組に積極的に協力することが重要である。また、採血事業者は、献血受入計画を作成し、献血受入体制を着実に整備し、献血の受入れに関する目標を達成するための措置を講じることが必要である。例えば、採血時の安全性の確保、事故への対応、献血者の個人情報の保護等献血者が安心して献血できる環境の整備、採血に際しての血液検査による健康管理サービスの充実及び献血者登録制度による献血者との連携の確保を図ることが重要である。また、希少血液の確保に引き続き取り組むことが求められる。
官公庁及び企業等は、ボランティア活動である献血に対し積極的に協力を呼び掛けるとともに、献血のための休暇取得を容易にする等、進んで献血しやすい環境作りに努めることが望ましい。
国及び地方公共団体は、採血事業者と連携し、出張採血や献血車両を駐車する場所の確保などを図るため、関係者に対し、積極的に協力を呼び掛けることが求められる。また、国及び地方公共団体は、学校においても、献血への理解を図ることに留意することが重要である。
医療機関においては、患者又はその家族に対して十分な説明を行い、その理解と協力を得ることを前提とした上で、献血を推進する観点から、国内の献血に由来する血液製剤を適正に使用することが望ましい。
三 献血推進施策の進捗状況等に関する確認及び評価
国及び地方公共団体は、献血推進施策の進捗状況について確認及び評価を行うとともに、採血事業者による献血の受入れの実績についての情報を収集する体制を構築し、必要に応じ、献血推進施策の見直しを行うことが必要である。
四 災害時における献血の確保等
国及び地方公共団体は、災害時における献血が確保され、血液が適切に供給されるよう所要の措置を講ずるものとする。
採血事業者は、災害時における献血受入体制を構築し、各採血所間における需給調整が迅速にできるよう備えることにより、災害時における献血量の確保に協力する必要がある。
第五 血液製剤の製造及び供給に関する事項
一 血液製剤の製造及び供給に関する基本的な考え方
血液製剤の供給に当たっては、緊急時の輸入や国内で製造が困難な血液製剤の輸入等やむを得ない場合を除き、原則として海外の血液に依存しなくても済むよう国内自給を推進するものとする。
また、国内の献血によって得られた血液が有効に利用され、血液製剤として安定的に供給される必要がある。
このため、保健衛生上の観点から、厚生労働大臣が需給動向を適時適切に把握する必要のある血漿分画製剤については、法第二十五条に基づき、第二に示した中期的な需給の見直しを踏まえ、需給計画を策定するものとする。また、輸血用血液製剤の安定供給は、献血推進計画等により推進することとする。
需給計画を策定する際には、当該血漿分画製剤の需給動向のみならず、その製造に使用する原料血漿の量、当該製剤に代替する医薬品や治療法等を考慮し、薬事・食品衛生審議会(以下「審議会」という。)における公正かつ透明な審議を踏まえることとする。
二 血液製剤の製造及び供給に関する具体的な方策
製造販売業者等は、需給計画に沿って、計画的に血漿分画製剤の製造及び供給に取り組む必要があるとともに、その製造実績等を厚生労働大臣に報告することが必要である。厚生労働大臣は、当該報告を受け、需給計画を尊重して適正に製造及び供給が行われるよう、必要に応じ、法第二十六条第二項に基づく勧告等の措置を講ずるものとする。
また、国内の献血に由来する血液製剤を取り扱う製造販売業者等は、その供給の確保に努めることが重要である。
さらに、国は、より安全性及び有効性に優れた血液製剤の開発が推進されるよう、研究開発の支援を行う必要がある。
三 原料血漿の配分
国は、製造販売業者及び製造業者の製造能力及び製造効率を勘案し、血漿分画製剤の適正な水準の生産が確保されるよう、審議会における公正かつ透明な審議を踏まえ、需給計画において採血事業者から製造販売業者及び製造業者への血漿配分量を規定するものとする。
国は、採血事業者による献血の受入れに係る費用、原料血漿の製造に係る費用、国際取引価格等を総合的に勘案し、審議会における公正かつ透明な審議を踏まえ、需給計画において採血事業者が原料血漿を製造販売業者及び製造業者に配分する際の標準価格を規定するものとする。
採血事業者、製造販売業者及び製造業者は、需給計画を尊重して原料血漿を配分することが必要であり、厚生労働大臣は、計画が尊重されているかを把握するため、原料血漿の配分結果の報告を求めるものとする。
四 血液製剤の確保
国は、災害等により、血液製剤の供給に支障を来すことがないよう、製造販売業者及び製造業者による安定供給に必要な量の備蓄の状況等に関し、適宜、確認を行うなど、その安定供給を確保することとする。
また、輸血用血液製剤については、その需給が季節的に変動すること等も踏まえ、安定的な供給を確保する必要がある。
第六 血液製剤の安全性の向上に関する事項
一 安全性の向上のための取組
薬事法に基づき、生物由来製品について、その感染のリスク等を踏まえ、原材料の採取及び製造から市販後に至る各段階において、一般の医薬品等における各種基準に加え、以下に掲げる基準等が定められた。これにより、血液製剤の一層の安全性の確保を図ることとする。
1 保健衛生上の観点から定める品質等基準において、原材料採取の方法等につき、付加的な基準を設けること。
2 製造段階においては、構造設備、製造管理及び品質管理の方法について、その特性に応じた付加的な基準を設けること。
3 直接の容器又は直接の被包等において、感染のリスク等を有することから適正に使用すべき医薬品等であることを明らかにするため、安全性の確保に関し必要な付加的な表示を行うこと。
4 病原体の混入が判明した場合に、遡及調査を速やかに講ずることを可能とするため、必要な事項について記録を作成し、保存すること。
製造販売業者及び外国特例承認収録者は、薬事法第六十八条の八に定める感染症定期報告制度により、原材料の感染症に係る情報収集、分析及び評価を行い、その結果を厚生労働大臣(薬事法第六十八条の十一第一項の規定により独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「機構」という。)に情報の整理を行わせるときは、機構)に報告することが必要である。また、製造業者は、特定生物由来製品について、遡及調査のために必要な量を適切に保存することが必要である。
医療関係者は、特定生物由来製品を使用する際には、原材料に由来する感染のリスク等について、特段の注意を払う必要があることを十分認識する必要がある。また、薬事法第六十八条の七に基づき、その有効性及び安全性その他当該製品の適正な使用のために必要な事項について、患者又はその家族に対し、適切かつ十分な説明を行い、その理解と同意を得るよう努めるものとする。さらに、医療関係者は、薬事法第六十八条の九第三項及び第四項に基づき、特定生物由来製品の使用の対象者の氏名、住所その他必要な事項について記録を作成し、保存することが必要である。
都道府県及び保健所を設置する市(特別区を含む。以下「都道府県等」という。)は、必要に応じ、医療関係者が安全対策を適切に実施するよう、指導に努めることが重要である。
採血事業者は、血液製剤を介して感染症等が発生するリスクをできる限り排除するために、献血時における問診の充実を図ることが必要である。また、国、地方公共団体及び採血事業者は、あらかじめ献血者に対し、検査を目的とした献血を行わないよう周知徹底する必要がある。
二 迅速かつ適切に安全対策を実施するための体制整備
国、採血事業者、製造販売業者等及び医療関係者は、血液製剤に係る安全性に関する情報を把握し、その情報を評価し、安全対策の実施を迅速かつ適切に行う体制を整えることが必要である。
感染症等、血液製剤の安全性に関する情報については、審議会において、専門家、患者等と遅滞なく情報を共有するとともに、国民に対し適時適切かつ迅速に情報を提供するものとする。
また、製造販売業者等及び医療機関における記録の保存については、遡及調査を速やかに実施できるような所要の措置を講ずる必要がある。
三 血液製剤の使用により感染症の発生等が判明した場合の対応
国は、血液製剤の使用により、感染症等の保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるときは、遡及調査を速やかに実施し、ほかの患者等への健康被害が拡大しないよう、薬事法第六十九条の三[1]に基づく製品の販売等の一時停止や同法第七十条第一項及び第二項に基づく回収等の措置を講じることとする。また、患者又はその家族や医療機関等をはじめとして、国民へ各種の手法により迅速に情報を提供するとともに、原因の究明、改善の指示等を行うものとする。
四 安全性の向上のための技術の開発促進及び早期導入
製造販売業者等は、病原体の不活化・除去技術の向上、より高感度かつ高精度の検査方法の開発等を通じ、より安全性の高い血液製剤の開発等に努めることが必要である。
また、国は、血液製剤の安全性の向上に係る技術に関する情報を収集し、技術開発を支援し、採血事業者及び製造業者がそれらの技術を早期導入するように指導するものとする。
五 自己血輸血、院内血輸血の取扱い
輸血により感染症や免疫性副作用等が発生するリスクは完全には否定できない可能性があることから、自己血輸血は推奨される手法である。自己血輸血を行う際は、法第二十四条第二項に基づき定める基準やその実施に関する指針に沿って適切に行う必要がある。
自己血輸血を除き、院内血輸血は、安全性の問題、患者やその家族に対する負担の問題があることから、原則として行うべきではない。しかしながら、院内血輸血を行わざるを得ない場合も想定されるため、国は院内血輸血の実態を踏まえ、必要な措置を講ずるものとする。
第七 血液製剤の適正な使用に関する事項
一 血液製剤の適正使用の推進
医療関係者は、血液製剤の特徴を十分に理解し、その適正な使用を一層推進する必要がある。また、医療関係者に対する教育や研修等、様々な機会を通じて働き掛けていくことが重要である。
国は、血液製剤の適正使用や輸血療法の実施等に関する指針を医療機関に示してきたところであるが、医療機関における血液製剤の使用状況等について報告を求め、定期的に評価を行うなど、適正使用の推進のためのより効果的な方法を検討するものとする。
二 院内体制の整備
医療機関においては、血液製剤を用いた医療が適正になされるよう、院内の血液製剤を管理し、使用するための体制を整備することが重要である。このため、国及び都道府県等は、そのような医療機関に対し、様々な機会を通じて院内における輸血療法委員会、責任医師の任命及び輸血部門の設置を働き掛けるものとする。
三 患者等に対する説明
医療関係者は、それぞれの患者に応じて血液製剤の適切な使用に努めることが重要であり、患者又はその家族に対し、適切かつ十分な説明を行い、その理解と同意を得るよう努めるものとする。
第八 その他献血及び血液製剤に関する重要事項
一 血液製剤代替医薬品に関する事項
遺伝子組換え血液凝固第Ⅷ因子製剤をはじめとする血液製剤代替医薬品は、血液製剤の需給動向に重要な影響を与えるため、第五に示したとおり、その計画的な製造及び供給が行われる必要がある。
また、血液製剤代替医薬品の安全対策については、第六に示した薬事法に基づく規制を適用することとする。なお、血液製剤代替医薬品のうち、生物由来製品についても、第六に示した患者又はその家族への説明及び同意並びに記録の保存等、必要に応じ、特定生物由来製品と同様に行うことが求められる。
血液製剤代替医薬品は、第七に示したとおり、それぞれの患者に応じ適切に、また適正に使用することが求められる。
いわゆる人工血液等、新たに開発される血液製剤代替医薬品については、血液製剤との比較において優れた安全性及び有効性を有するものの製品化が促進されるよう、研究開発を推進する必要がある。
二 血液製剤の表示
血液製剤については、患者又はその家族の選択の機会を確保するため、製造販売業者等は、直接の容器又は直接の被包に、採血国及び献血又は非献血の区別を表示することが必要である。
また、血液製剤代替医薬品のうち、特定生物由来製品についても、採血国及び献血又は非献血の区別を表示することが必要である。
三 研究開発等における血液製剤の使用に関する基準の策定
国民の善意の献血によって得られる血液を主たる原料とする血液製剤は有限で貴重なものであり、その使用に当たっては、倫理的な観点からの慎重な配慮が必要である。血液製剤の適用外使用により、本来の効能・効果を目的として供給される血液製剤が不足したり、医療に支障を生じることがあってはならない。
しかしながら、研究開発等に当たり、人の血液を使用せざるを得ない場合もあるため、本来の効能・効果を目的とした血液製剤の供給に支障を生じないよう、国は、研究開発等における血液製剤の使用に関する基準を策定し、これを様々な機会を通じて医療関係者等に徹底させるものとする。
基準の策定に当たっては、血液事業に関わる者の意見を踏まえ、公正かつ透明な審議を確保するものとする。
脚注
[編集]- ↑ 平成16年5月28日付け官報本紙第3859号にて「第六十九の」から「第六十九条の」へ正誤訂正
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