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蚕業唱歌

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 實業敎育
蠶業唱歌
 洞口猷壽作歌
 田村虎藏作曲
⦅春の卷⦆
  1. 蠶(こ)飼(がひ)のみちは大御(おほ)神(かみ)の はじめ給(たま)ひて後(のち)の世(よ)に のこし給(たま)ひしものなるぞ 吾(わ)れ日(ひ)の本(もと)の民草(たみくさ)は いとどかしこみ敬(うやま)ひて 努(つと)め勵(はげ)まであるべきか。
  2. その日(ひ)をたつる生業(なりはひ)は 農工(のうこう)商(しやう)の數(かず)あれど 皇(すめら)御(み)國(くに)の玉(たま)の緖(を)と たのむは何(なに)か蠶(こ)飼(がひ)にて 五千餘(よ)萬(まん)の同胞(はらから)は 安(やす)きその日(び)をおくるなり。
  3. 三十餘(よ)萬(まん)の昆蟲(むし)類(るゐ)に その身(み)をすてて吾人(われひと)に 尊(たふと)き寶(たから)をささぐるは 寸(すん)餘(よ)の蠶(かひこ)唯(ただ)ひとり さればわれ等(ら)は懇(ねんごろ)に 眞(ま)心(ごころ)こめて養(やしな)はん。
  4. 野(の)山(やま)もかすみ花(はな)もさき 袷(あはせ)ここちになりぬれば 桑(くは)の芽出(めだ)しに鑑(かんが)みて 蠶(こ)種(たね)を暖(あたた)め孵(かへ)らせよ 自(し)然(ぜん)に任(まか)せ孵(かへ)しなば 過(あやま)つことも度繁(たびしげ)し。
  5. 蠶(かひこ)を飼(か)はんその人(ひと)は 他人(ひと)の桑(くは)をばあてにすな おのが植(う)ゑたる桑(くは)の葉(は)と 室(へや)と道(だう)具(ぐ)のたかにきき 飼(か)へや蠶(かひこ)の數(かず)をきめ 重(おも)荷(に)を負(お)はぬ心(こころ)せよ。
  6. 蠶(かひこ)のことは蠶(かひこ)にも あらざる人(ひと)の知(し)るべきか をしへのままに從(したが)ひて 好(この)むをすすめ忌(いむ)をさけ よき桑與(くはあた)へて養(やしな)はば むくいは玉(たま)の繭(まゆ)あられ。
  7. 空(くう)氣(き)の淸(きよ)き室(へや)におき 與(あた)ふる桑(くは)にむらのなく 濕氣(しけ)と乾(かわ)きを程(ほど)にして わが身(み)に傚(なら)ひ寒暖(かんだん)の 加(か)減(げん)をはかり蠶沙(した)をとれ これぞ蠶(こ)飼(がひ)の要󠄁(かなめ)なる。
  8. 人(ひと)はひねもす働(はたら)けば 夜(よる)にはいねて憩(いこ)へども 蠶(かひこ)は晝(ちう)夜(や)はたらきて 休(やす)むは生(しやう)涯唯(がいただ)四たび 淸(きよ)きふしどにやすらけく ねむりつかせよ看護(みとり)して。
  9. 朝(あさ)な夕(ゆう)なのつかのまも やすむ暇(ひま)なくいたつきを つめる桑(くは)子(こ)の繭(まゆ)こもり 山(やま)なすえびらのその中(なか)に 光(ひかり)まばゆくてりあふは 玉(たま)の林(はやし)にさも似(に)たり。
  10. 今日(けふ)は繭(まゆ)かきあなうれし 蠶祝(かひこいはひ)を明日(あす)にせん 玉(たま)をもあざむく出來(でき)榮(ばえ)は 精(せい)と勵(れい)との賜物(たまもの)ぞ この新繭(にひまゆ)は蠶神(さんじん)に ささげて祈(いの)らん息災(そくさい)を。
⦅夏の卷⦆
  1. 夏(なつ)きにけりとつげ顏(がほ)に 梢(こずゑ)にしぐるる蟬(せみ)の聲(こゑ) 桑(くは)の若(わか)葉(ば)はすずしげに しげり行(ゆく)こそ樂(たの)しけれ いざや鍬(くは)もて出(いで)行(ゆ)かん 桑(くは)にあたなす草(くさ)ぎりに。
  2. 桑(くは)は葉(は)をつむものなれど つみて其儘(そのまま)すておかば 枝(えだ)葉(は)ほそりて後(のち)の日(ひ)の とりで少(すくな)きものぞかし 肥(こえ)と手(て)入(いれ)を怠(おこた)らず 蟲(むし)をもとりて培(つちか)へよ。
  3. 桑(くは)の蟲(むし)には數(かず)あれど 尺(しやく)蠖(とり)、天牛(かみきり)、金(きん)毛(け)蟲(むし) 巢(す)蟲(むし)、葉(は)捲(まくり)、スキムシは わけて其害(そのがい)おほければ まがなすきがな桑畑(くははた)を 見(み)まひて捕(とら)へ殺(ころ)すべし
  4. 枝(えだ)葉(は)のちぢむ萎(ゐ)縮病(しゆくびやう) 膏藥(かうやく)病(びやう)や紋(もん)羽(ぱ)病(びやう) 赤(あか)しぶ、白(しろ)しぶヒシゲ病(びやう) これ皆桑(みなくは)のあだかたき よく目(め)を配(くば)りふえぬやう 心(こゝろ)にかけてとりのけよ。
  5. 株(かぶ)のしげりをさまたぐる 枝(えだ)葉(は)のこらず截取(きりとり)て 夏(なつ)の蠶(かひこ)のかてにせよ のこる枝(えだ)葉(は)はよくさかえ かたへに繭(まゆ)の山(やま)を築(つ)き 家(いへ)と國(くに)との富(とみ)まさん。
  6. 綠(みどり)したたる桑畑(くははた)に 赤(あか)き襻(たすき)のほの見(み)えて 唱(うた)ふ少(をと)女(め)の聲(こゑ)するは はとり少(をと)女(め)か蟲(むし)とりか 籠(かご)もてゆかん我(われ)もまた 母(はは)の蠶(こ)飼(がひ)の桑(くは)つみに。
  7. 空(そら)の靑(あを)きにいぶかしや 蠶家(こや)のあなたに夕立(ゆふだち)の ふるににかよふ物音(ものおと)は 桑(くは)食(は)むそれかいさましや いざ見(み)にゆかん母上(ははうへ)の 手(て)鹽(しほ)にかけし夏(なつ)蠶(かひこ)。
  8. あれ見(み)給(たま)へや友達よ(ともとぢ〔ママ〕) かなたの室(へや)の蠶架(たな)の上(うへ)を 花(はな)なきところに花(はな)ちるは 繭(まゆ)をいでたる蛾(てふ)ならむ 彼(かれ)等(ら)の子(し)孫(そん)を後(のち)の世(よ)に のこさん爲(ため)の製種(せいしゆ)ぞや。
  9. 君(きみ)知(し)り給(たま)ふか此言(このこと)を 瓜(うり)の蔓(つる)には茄子(なす)ならず えらべ蠶(こ)種(だね)の親蛾(おやてふ)を さらばよき繭(まゆ)獲(え)らるべし 目(め)前(さき)の慾(よく)に迷(まよ)ひなば 末(すゑ)に大(だい)なる損(そん)あらん。
  10. くすしきことよ此繭(このまゆ)は 蛾(てふ)が出(い)でずに蟲(むし)の出(で)る これぞ先(さき)の日(ひ)兄君(あにぎみ)の 話(はな)し給(たま)ひし蠶蛆(うじ)ならん 憎(にく)さも憎(にく)し腹立(はらだた)し 逢(あは)して懲(こら)さん熱湯(ねゆ)攻(ぜめ)に。
⦅秋の卷⦆
  1. わが家(いへ)のみか村里(むらさと)の 西(にし)より東(ひがし)のはてにまで きしるくるまの音(おと)きくは 絲(いと)くる業(わざ)がにぎはしや 繭(まゆ)の解けゆく白條(しらすぢ)は 富(とみ)の山(やま)なる絲(いと)の瀧(たき)。
  2. 氣(き)を平(たへら)かに念(ねん)いれて 繅(く)らば筋(すぢ)よく纇(ふし)もなく 艶(つや)美(うるは)しく伸强(のびつよ)く 類(たぐひ)まれなる絲(いと)見(み)んと 唱(うた)ひし歌(うた)のその主(ぬし)は 鄰(となり)の少(をと)女(め)かしをらしや。
  3. 見(み)てやすけれど絲繅(いとくり)は 腕(うで)に覺(おぼえ)のなきものに いかで爲(な)さるる業(わざ)ならん 一生習(しやうならひ)の中(うち)なりと 心(こころ)の駒(こま)に鞭(むち)あてて 勵(はげ)まざらめや少(をと)女子(めこ)よ。
  4. 繭(まゆ)をよく選(え)りふり揃(そろ)へ 煮湯(にゆ)の溫(をん)度(ど)と煮加(にか)減(げん)に 心(こころ)をくばり添足(つけたし)を むらなくなさば繅(く)る絲(いと)は おのづと優(まさ)るものぞかし これぞ製(せい)絲(し)の要󠄁(かなめ)なる。
  5. やさしき姊(あね)はけなげにも かよわき腕(うで)によりをかけ おもきやくめの繅(くり)絲(いと)に 勤(いそ)しみ勵(はげ)みて居(を)るものを 年(とし)わかしとてわれひとり などか空(むな)しく遊(あそ)ばれん。
  6. 神(かみ)のめぐみかおのれにも 力(ちから)にかなひし業(わざ)のあり 暑(しよ)中(ちゆう)休(きう)暇(か)を幸(さいは)ひに 秋(あき)蠶(こ)はわが手(て)に育(そだ)てあげ 霜(しも)にあへなく落(ち)る桑(くは)を 錦(にしき)のしろにかへて見(み)ん。
  7. 秋(あき)蠶(ご)はわけて桑(くは)の葉(は)と 陽(やう)氣(き)の加(か)減(げん)に心(こころ)せよ 日最(ひも)中暑(なかあつ)くも朝夕(あさゆふ)は 暑(あつ)さ寒(さむ)さの常(つね)ならず つかのまなりと弛(たゆ)みなば かへらぬ厄(やく)に襲(おそ)はれん。
  8. 稚(をさな)きうちは若桑(わかくは)を 與(あた)へて飼(か)ひて成(せい)長(ちやう)の ほどにしたがひ硬(かた)き葉(は)を 與(あた)へて飼(か)へよ秋(あき)蠶(かひこ) さらばみごとにおいそだち 絲(いと)目(め)豐(ゆたけ)き繭結(まゆむす)ばん。
  9. あな恐(おそろ)しや軟化(なんくわ)病(びやう) 微(び)粒(りふ)子(し)、膿(のう)病(びやう)、硬化(かうくわ)病(びやう) わづか一(ひと)つの病(びやう)蠶(さん)も 出でなば忽(たちま)ちみなうつる 油(ゆ)斷大敵(だんたいてき)心(こころ)して 病(やまひ)のもとを根(ね)絕(たや)せよ。
  10. 日(ひ)はあつからず寒(さむ)からず 今(いま)こそ旅(たび)出(で)の好(かう)時(じ)節(せつ) 蠶(こ)飼(がひ)に名(な)高(だか)きをちこちを 經(へ)廻(めぐ)りありき蠶(こ)の業(わざ)の 學(まな)びの資(しろ)をもとめなん 國(くに)の爲(ため)なり家(いへ)の爲(た)め。
⦅冬の卷⦆
  1. 木(こ)枯(がらし)さむく身(み)にしみて 火(ひ)桶戀(をけこひ)しき冬(ふゆ)くれば 落(おち)葉(ば)を待(ま)ちて桑(くは)の木(き)の 冬(ふゆ)芽(め)いたはり枝束(えだつか)ね 株際低(かぶぎはひく)く畦高(あぜたか)く 畑打(はたうち)かへし春(はる)を待(ま)て。
  2. 眞木(まき)のふせ屋(や)も藁(わら)小屋(ごや)も 飼(か)うて飼(か)はれぬ家(いへ)なきも 位置家(ゐちや)造(づくり)のかなはぬは 蠶(かひこ)のそだちに爲(ため)わるし なほせつくりを冬(ふゆ)の中(うち)に 新築(しんちく)するも冬(ふゆ)の中(うち)に。
  3. 蠶家(こや)をつくらばきよらかに 風(かぜ)もよくぬけ日(ひ)もあたり 陽(やう)氣(き)は間(ま)每(ごと)にみちみちて 人(ひと)のここちのよきやうに さらば蠶(かひこ)によくかなひ 酬(むく)ゆる幸(さち)や多(おほ)からん。
  4. 師(し)走(はす)の半(なかば)になりぬれば 蠶(こ)種(たね)をしづかに取出(とりいだ)し 產著水引色澤(うみつきみづひきいろつや)に よく眼(め)を注(そそ)ぎよきをとり はしに絲(いと)つけめをはかり 水(みづ)にて洗(あら)ふ用(よう)意(い)せよ。
  5. 冬(とう)至(じ)の中(うち)に晴天(せいてん)の 日(ひ)をば選(えら)みて朝早(あさはや)く 盥(たらひ)に淸(きよ)き水(みづ)を汲(く)み 中(なか)に蠶(こ)種(たね)をしばし漬(つ)け 種(たね)面(も)をはけもて徐(おもむ)ろに 撫(な)でて穢(けが)れを掃󠄁(はら)ふべし。
  6. 洗(あら)ひあげたる種紙(たねがみ)は 元(もと)のめかたに乾返(ほしかへ)し 箱(はこ)にかこひておごそかに 火(ひ)の氣(け)油(あぶら)氣(け)遠(とほ)くさけ やすく冬空(ふゆそら)こさしめよ ここぞ豐(ほう)凶(きよう)のわかれ道(みち)。
  7. 枯(かれ)野(の)をかざる六(むつ)の花(はな) 銀(ぎん)か眞(ま)綿(わた)か麗(うるは)しや 犬(いぬ)追(お)ふ子等(こら)は興(きやう)がれど われは一(ひと)室(ま)の內(うち)に居(ゐ)て 蠶(こ)網(あみ)簇(まぶし)をつくりなし 春(はる)の蠶(かいこ)の用(よう)意(い)せん。
  8. いまの社(しや)會(くわい)は人(ひと)でさへ 德(とく)なきものの多(おほ)かるに 人(ひと)の德(とく)なる仁(じん)義(ぎ)信(しん) 智(ち)忠神(ちうしん)の六(むつ)の德(とく) もれなく小(ちい)さき身(み)にあつむ 眞(しん)に蠶(かひこ)は神(かみ)の蟲(むし)。
  9. ああ慕(した)はしや蟲(むし)でさへ 飢(うゑ)に迫(せま)るも貪(むさぼ)らず 行(ぎやう)儀(ぎ)正(ただ)しく絲(いと)はきて たつる功(いさを)はいとしるし 我(われ)は人(ひと)なり死(し)すとても 朽(くち)ぬ功(いさを)を世(よ)にたてん。
  10. 家(か)內(ない)ことなく蠶(こ)は當(あた)り 絲(いと)は黃(こ)金(がね)にすがたかへ 裏(うら)に倉(くら)たつ。事(こと)成(な)なりぬ〔ママ〕 今(こと)年(し)ももはや今日(けふ)かぎり あすはめでたき春迎(はるむか)へ またも蠶(こ)飼(がひ)に親(した)しまん。(をはり)

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