興亞工業大學設立趣意書

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本文[編集]

序文[編集]

我国ノ大学及ビ専門学校二於テ理工科関係ノ教育ハソノ設備及ビ学生ノ数ヨリ見テ、実二国家ノ需要ヲ充ス二モ足リマセヌ。ソノ質モ亦十全トイフコトハ出来マセヌ。実二永遠ノ国是二即シ現下急迫ノ状態二応ジテ己ガ職域二於テ国家最高ノ理想二殉ズベキ志操堅固、学理及ビ技術二優秀ナル工業人材ノ育成ハ今日最モ緊急ノ事業二シテ誠二苟且二附スベカラザルモノト思惟致シマス。コヽ二コノ時局二応ズベキ工業大学ヲ建設セントスルモノデアリマス。

特二我ガ興亞工業大學ハ次二掲クル諸項二重点ヲ置キ国家枢要ノ人材ヲ目指シ学生ヲ訓陶育成セントスルモノデアリマス。

一、新国士ノ養成[編集]

単二従来ノ所謂専門家ヲ作ルモノニ非ラズ、国家力最高度ノ要求タル工学ノ研究トソノ技術ノ修得トヲ兼ネ合セ、特二、皇国二殉ゼントスル国士ヲ育成セントスルモノデアリマス。

君国ヘノ没我的尽忠、全体的統制ト社会的訓練、国際的理解度等ノ国民的条件ヲ体得シ、更二各自ガ自立シ個人トシテノ諸徳ヲ備へ、各自ノ天分ヲ十分二発揮シ得ル人格コソ最モ偉大ナル人間デアリ、偉大ナル国民デアルト思ヒマス。伝統ト進取、尚古ト創造、守成ト開拓、常二物ノ両面ヲ見、一如ノ世界ヲ打チ建テ得ル人デナケレバナリマセヌ。

松陰先生ノ如ク燃エル愛国心ト広ク世界二知識ヲ求ムル好学心トヲ兼備シ、国家ヲ担キアジアヲ背負ヒ世界文化二尽シ得ル新国士ヲ我ガ興亞工業大學ハ養成シタイノデアリマス。

二、全人教育[編集]

抑々具現セントスル興亞工業大學ノ教育ハ澤柳政太郎博士ノ遺志ヲ踏ミ、小西重直博士指導ノ下二、明治以来西洋模倣ノ偏知教育二依ル利己主義ト現実二ノミ堕セシ多クノ弊ヲ救ヒ、人間本来ノ性二適シタル教育ヲ建テ直シ真ノ皇国民ヲ練成セントスルモノデアリマス。

世ノ多クノ学校ガ多人数ノ学生生徒ヲ収容シテ筆記ト試験トヲモッテ概念ノ注入ヲ事トスル二反シテ自ラ学ビ自ラ体験シ自ラ模索シ創造シテ真ノ納力ヲ体得セシメテ、如何ナル困苦二遭遇スルトモ正シキヲ実現セントスル活動力アル人物ヲ養成スルコトヲ念願スルモノデアリマシテ単ナル知識人技術家ヲツクルモノデハアリマセヌ。 体育二ヨッテ果断ニシテ実行力アル意志ヲ培ヒ、音楽其ノ他ノ芸術教育、又ハ神仏ヲ畏敬スル宗教教育二依ッテ、至純崇高ナル情操ヲ養ヒ、依ッテ豊富堅実ナル人格ヲ陶冶シ霊肉一致、身心一如、理想的二シテ現実的ナル教養ヲ与ヘタイノデアリマス。

ソノタメニハ

三、労作教育[編集]

ヲ重ンジナケレバナリマセヌ。ペスタロッチガ身ヲモッテ強調シタ教育ノ根本デアリ、真ノ知育ハ労シミ、作リ、体験シ、試ミ、為シ、行フ所ノ自学自律、自啓自発ノ教育二アリマス。

真ノ徳育モ又同様二、汗ヲ通シテノ体験知行合一ノ鍛錬二ヨルヲ最上ノ道ト思惟致シマス。

正直、忍耐、正確、努力、独立、自尊、勇気、勤労、愛好等ノ諸徳ハモトヨリ、同情、親切、互助、信愛、規律、節制等ノ団体的訓練ノ良キ結果モ得ラレルト思ヒマス。ヒイテハ真ノ社会奉仕ノ精神モ同胞相愛ノ心モ尽忠報国ノ魂モ鍛ヘラレルノデス。

真ノ美育モ、真ノ宗教教育モ、真ノ体育モ、真ノ経済教育モマタ実二、耕シ、蒔キ、刈リ、焚キ、飼ヒ、養ヒ、紡ギ、織リ、縫ヒ、建築シ、作製シ、印刷シ、鋳造シ、祈リ、売リ、買ヒ、計算スル・・・・・・中二マコトノ教育ガ体験サレルノダト思ヒマス。

四、塾教育[編集]

学生生徒ハ入塾スルヲ以テ本体ト致シマス。真ノ教育ハ午前八時前ト午後四時以後二於テ行ワレルトスラ思ワレマス。共二起キ、共二食ヒ、共二歌ヒ、共二働キ、共二遊ビ、実二師弟同行、師弟共生ノ教育ガ即チ淡窓先生ノ「君汲川流我拾薪」カ真実ノ教育ノ姿ト思ヒマス。ソノ趣旨ノ下二人生ノ最モ重大ナル青年期二当ル予科生ハモトヨリ、学部ノ学生モナルベクハ塾生活ヲナサセ、ヨキ人格陶冶ヲ行ヒタイノデアリマス。

五、貧シキ家二生レシ優秀児ノ救済[編集]

「偉人ハ陋屋ヨリ生ル」。全国幾万ノ国民学校ヲ一番、二番トイフ優秀ナル成績ヲ以テ卒業シナガラモ貧シキガ故二上級学校二進ミ得ザルモノ恐ラク八、九割ノ多数ダト思ヒマス。国家多事ナル時、コレヨリ惜シキコトハナイト思ヒマス。カヽル青少年ヲ救済スルコトハ実二学園創立ノ眼目ノ一ツト致シタルモノデアリマス。労作教育ノ真精神ヲ果敢二実践スルコトニ依ッテ学園運転ノ重要ナル役割スラ担当シ得ルト思ヒマス。

シカモ独立独行、自学自律、歓喜二燃エテノ労作、シカモ富メル子ト貧シキ子ト温カク一丸トナリ、ソコニ高慢モナク、ヒガミモナク、不平モナク、怠惰モナク、富メル子ハ物質ト上品ナル気質トヲ、貧シキ子ハ勇敢ナル気力ト優秀ナル腕トヲ以テ互二ソノ境遇ヲ理解シ、同情シ合ッテ完全ナル人格ヲ成シ行ク姿ヲ学園ノ生活二実現セシメタイモノデアリマス。

六、工場、鉱山、商店等ヲ学校トスル計画[編集]

研究室二於ケル忠実ナル真理探究ノ学徒タルト同時二、学校ノ工場移駐ヲ図リ長期ノ一定期間中実習体験ヲナサシメ以ッテ国家産業戦士ノ指導者タラシメントス。

工場、鉱山、商店等ヲ学校トスル計画二賛同シ、生キタル工業教育ヘノ先駆トシテ森矗昶森曉、親子ノ同情ト理解ノ下二クルップ会社二対抗スベキ東洋第一ノ日本火工二於テ肉トナリ血トナル実地ノ基盤二立チ、実習ト学習トノ心身一如ノ実現ノ機会ガ与エラレルコトニ約定ガセ成立シテ居リマス。之ハ実二教育史上ノ一大事実デアルトシテ感謝シテ居リマス。

最近二於テハ福寿鉱業株式会社、白石基礎工事会社、日本油脂株式会社ソノ他ヨリモ、日本火工ト同様二次ギ次ギ申込ヲ受ケテ居リマスコトハ全ク感謝デアリマス。

更二

七、天才教育[編集]

高度国防国家ハ実二天才教育ノ必要ヲ切実二要望致シマス。大学教授ノ研究二対シテ時ト金ノ不充分ナルコトハマタ遺憾ナルコトノ一ツデアリマス。実二在学中ハモトヨリ、卒業後ト雖モ十年、二十年ノ長年月二亘リ無条件的二国実ノ国宝トシテ養成イタシタキモノデアリマス。

国家ハ実二第二ノ本多光太郎、第二ノエジソン、第二ノ野口英世、第二ノアインシュタイン、第二ノ八木秀次、第二ノメッサーシュミット、第二ノ西田幾多郎、第二ノカントヲ必要トシテイマス。興亞工業大學ハコノ要望二応エルべク努力シマス。

八、アジア諸国ノ学生教育[編集]

共二同ジ塾舎二寝ネ、共二学ビ、共二歌ヒ、若キ日二、真二親シキ友達二ナッテ居ルコトハ実二東亜万年ノ大計画ノ一ツデアラネバナラヌト思ヒマス。父兄、生徒、力ヲ共二シ、社会ノ義人二モ訴エテ「亜細亜ニオケル外交ハ興亞工業大学ヨリ」トイフモットーノ下二相親シミ、相信ジ、相扶ケル、共存共栄ノ理想郷ヲ実現致シタイノデアリマス。

この著作物は、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。


この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。