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灰色人

提供:Wikisource


「時間旅行に不快と混乱が伴うのは前に話した通りだ。そしてこの時、僕はサドルにきちんと座っておらず、脇から不安定な格好でしがみついていた。どれだけの時間、揺れ動くマシンにすがりついていたのかは判然とせず、どれだけ進んだのかもまったく見当が付かず、ようやく文字盤を再び見やって、僕は自分がやって来た場所に気付いて仰天した。文字盤には一日計、千日計、百万日計、十億日計がある。今、僕は操縦桿を逆転させずに前進方向に大きく引いてしまっており、それらの文字盤に目をやると、千日計の針が時計の秒針のような速さで回転していた——未来に向かって。以前に真っ逆さまに転げ落ちたことを憶えていたので、僕は非常に用心深く動きを逆行させ始めた。減速するにつれ、千日計の針がほとんど動かなくなり、もはや一日計の針も目盛りの上にかかった靄ではなくなった。僕を取り巻いていた灰色の霧が明瞭な景色となり、起伏する荒野の薄暗い輪郭が見分けられるまで、なおも減速した。

「僕は停止した。僕は、まばらな植物群に覆われ、うっすらとした霜で灰色になった、肌寒い荒野にいた。時刻は正午であり、その輝きを奪われた橙色の太陽が、灰褐色の空の子午線に陰気にかかっていた。わずかの黒い繁みだけが風景の一本調子を破っていた。僕にとってはあまりにも最近の出来事のように思える、退廃した人類がその間を歩き回っていた偉大な建築群は消え失せて跡形もなく、それらがあった場所すら定かではなかった。丘と谷、海と川——すべてが雨と風の風化作用で、新しい形に融け崩れていた。また、疑いなく雨と雪は、長年のうちにモーロックの地下道をも洗い流していた。身を切るような風が僕の手と顔を突き刺した。僕の見る事ができた限りでは、どんな丘も樹木も川もそこにはなく、ただ重苦しい平原だけが広がっていた。

「そして突然に、暗い影が荒野から起き上がった。何かが鋸歯状に並んだ鉄板のようにきらめき、すぐに窪地へと消えた。次に僕は、あちらこちらへ走り回りながら、そこかしこで霜に覆われた土の上から痩せこけた草を齧っている、その土とほとんど同じ色をした、いくつもの淡灰色の物に気付いた。突然に一匹が飛び跳ねだすのが見え、それから二十匹ほどを僕の目が捉えた。最初、僕はそいつらはウサギか小型のカンガルーの一種だろうと考えた。そして一匹が僕の傍に飛び跳ねてくると、僕はそいつがそのどちらの種にも属していないのに気付いた。そいつは蹠行性であり、その後足はかなり長かった。そいつは尻尾を持たず、灰色を帯びた直毛で覆われ、その毛はスカイテリアの鬣のように頭部で厚味を増していた。観賞用となる数種だけを残して、人類はその黄金期に他の動物のほぼ全てを滅ぼしてしまったと解釈していたので、僕は当然ながらその生物に興味を抱いた。そいつらは僕を恐れていないようで、ウサギが人気のない場所でやるのと同じくらい大胆に草を齧っていた。標本を入手できるかもしれないぞという気を僕は起こした。

「僕はマシンから降り、大きな石を拾い上げた。小動物の一匹が手頃な距離に近付くや否や、僕は素早くやってのけた。幸いにも頭部に命中し、そいつはたちまちひっくり返って動かなくなった。僕はすぐさまそいつに駆け寄った。そいつはほとんど殺されたかのように横たわっていた。そいつが前足と後足の両方に五本の小さな指を持ち——前足はカエルの前足と同じくらい、正に人間そのものであるのを見て、僕は驚いた。その上、そいつは額の突き出した丸い頭と、しなやかな毛に覆い隠された前向きの両眼を持っていた。認めたくない恐怖が僕の胸の内をよぎった。僕が跪いて獲物を押さえ付け、そいつの歯や他の解剖学的な部位が人間の特徴を示しているか調べようとしていると、先に述べた金属のような外観の物が、荒野のうねの上に再び姿を現し、僕の方に向かいながら、近付くにつれ奇怪ながらがらという音を立てていた。たちまち、僕の周りにいた灰色の動物どもが、短く弱々しいきゃんきゃんいう——悲鳴のような——鳴き声でこれに応じだし、この新しい生物が接近してくるのと反対の方角へ逃げていった。小動物らはあっという間に一匹も見えなくなったが、穴の中か繁みや藪の蔭に隠れたに違いなかった。

「僕は立ち上がり、この不気味な怪物を見つめた。僕に説明できるのは、そいつがムカデに似ていたということだけだ。そいつはおよそ三フィートの高さに立ち上がり、暗緑色の甲が奇怪に重なり合った、三十フィートはありそうな長い節のある体を持っていた。そいつは進むごとに体を丸めながら、無数の足で這っているようだった。多角形型に配置された黒い眼点のある鈍い球形の頭には、柔軟でねじ曲がった、二本の角のような触角が付いていた。僕の目算では、そいつは時速八から十マイルの速度で向かってきつつあり、そいつは僕に少しの猶予も与えてくれなかった。僕の捕らえた灰色の動物、あるいは灰色の人間を、それがどちらだったにせよ、僕は置き去りにしてマシンに戻った。途中でそいつを見捨てた事を後悔して振り向いたものの、僕の肩越しに見えたものは、いかなる後悔をも打ち砕くものだった。マシンを始動させた時、その怪物は五ヤード足らずの距離にまで近付いていた。それは確実に脊椎動物ではなかった。そいつは鼻腔を持たず、そいつの口は暗い色の甲の連なりで縁取られていた。しかし、僕はそれ以上近くから観察するつもりはなかった。

「僕は一日分移動し、巨大な怪物が行ってしまい、僕の獲物の何らかの痕跡でも発見できる事を期待して、マシンを再び止めた。しかし見たところ、あの巨大なムカデは骨でもお構いなしのようだった。いずれにせよ両者は消え失せていた。あの小動物の微かな人間的特徴は僕を大いに当惑させた。考えてみるがいい、ハイギョがあらゆる陸上の脊椎動物の祖先となったように、人間性の退化が最終的に人類を多数の種に分化させない理由など、何一つないのだ。巨大昆虫はもうどこにも見当たらず、僕の考えではあの節のある生物は昆虫に違いなかった。明らかに、現在あらゆる昆虫を小型化している生理学的な相違点は克服され、彼らが待ち望んだ、その莫大な精力と生命力に相応しい昆虫による支配の時代が、動物界に到来したのだ。灰色の小動物をもう一匹捕らえるか殺せないかと何度か試してみたが、いずれの投石も最初の時ほど首尾よくはいかず、失敗に終わった十数回もの投石のために僕の腕は痛み出し、武器も装備品も持たずにこんな未来までやって来た自分の迂闊さに腹立ちを覚えた。僕はより遥かな未来を一瞥して——時の更なる深淵を覗き込み——、それから君たちと僕自身の時代へと帰還するために、出発することを決断した。僕はもう一度マシンに跨ると、再び世界は靄のかかった灰色になっていった。

「マシンを進めるにつれ、独特の変化が周囲の様子に忍び寄っていった。見慣れない灰色は明るくなり、そして——僕が猛烈な速度で飛行していたにも関わらず——普通なら減速を示す昼と夜の連続する明滅が戻り、次第次第に明瞭になっていった。これは最初ひどく僕を当惑させた。夜と昼の交代はますます遅くなっていき、空を横切る太陽の運行は数世紀にも引き伸ばされたかと見える程になった。遂には一様な黄昏が大地に覆い被さり、今や黄昏を破るのは薄暗い空をぎらぎらと横切る彗星だけだった。太陽を示す光の帯はとっくに見えなくなり、太陽は沈むのをやめて——ただ西の空で上下し、どんどん大きく赤くなっていった。月のあらゆる痕跡は消え失せていた。星の運行を表す円は次第にゆるやかになり、這うような光の点の動きがそれに取って代わった。最後に僕が停止する少し以前に、赤く巨大な太陽が地平線の上でぴたりと停止し、巨大な半球は鈍った熱に輝き、今や刻一刻とその光を失いつつあった。一度、太陽は少しの間再び輝きを増したものの、すぐに陰気な赤熱した塊に戻っていった。この日の出と日没の減速が潮汐力の作用によるものである事に僕は気付いた。ちょうど僕らの時代の月が地球にやっているように、地球が太陽に片面を向けたままで静止したのだ。

「僕は静かに停止すると、タイムマシンの上に座って辺りを見回した」

[『タイム・マシン』第11章に続く]

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