格言91~120

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91.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。  体が倦厭するように、心も倦厭するので、心のために、美しく叡智ある言葉を求めなさい。


92.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 最も謙虚な知識は、舌に留まる(残されている)ものであり、最も尊い知識は、身体と器官を介して行為に現れ出るものである。


93.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 あなた方は誰も「おお、アッラーよ、困難から御守りください」と言うべきではない。なぜなら、困難と無関係な者はいないからである。だが、アッラーの御加護を求める者は、誤った方向へ導く困難からの守護を求めなければならない。栄光のアッラーはこう仰せになったからである。「あなたがたの財産と子女とは一つの試みである(聖クルアーン8章28節)」アッラーは生活の手段に満足しない者と与えられたものに満足する者とを区別するために、人々を富と子孫で試される、という意味である。栄光のアッラーは人々が自身を知るよりも彼らのことを知っておられるのだが、人々に行為をさせてそれに見合う報酬または懲罰を受けさせるために、そうさせるのである。なぜなら、息子を好むが娘を嫌う人がいたり、富の蓄積を好むが苦労を好まない人がいたりするからである。


94.善は何かと問われて、アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 善とは、富や子孫が多くもつことではない。そうではなく、知識が豊富で、忍耐が強く、アッラーの信仰を他者と競い合うのが善である。善行したときはアッラーに感謝しなさい。だが、悪を犯したときはアッラーに悔悟しなさい。この世の善は二人のためにある。罪を犯しても悔悟して身を改める人と、善行に急ぐ人である。


95.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 アッラーへの畏怖に付随する行為は失敗しない。受け入れられていることがどうして失敗しようか。〈注1〉


注1:アッラーは仰せになった。「アッラーは唯主を畏れる者だけ、受け入れられる」(聖クルアーン5章27節)


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96.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。  預言者たちに最も愛着をもつのは、預言者たちが運んできたものを最も知る人々である。 アミール・アル=ムウミニーンはクルアーン節を読誦した。 「本当にイブラーヒームに最も近い人々は、かれの追従者とこの預言者(ムハンマド)、またこの教えを信奉する者たちである。」(聖クルアーン3章68節) それから言った。 ムハンマドの友とは、血縁関係はないかもしれぬが、アッラーに服従する者である。ムハンマドの敵とは、近親かもしれぬが、アッラーに不服従の者である。


97.夜中に礼拝してクルアーンを唱えていたハーリジーのことを聞いて、アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 信仰が確固たる状態での睡眠は、疑惑を抱いた状態での祈りよりも良い。


98.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 伝承を聞いたときは、ただ聞いたということによるのではなく、知性を尺度にして鑑識せよ。知識の語り手は数多いが、それを保護する者はわずかだからである。


99.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―は男が読誦するのを聞いた。 「本当にわたしたちは、アッラーのもの。かれの御許にわたしたちは帰ります。(聖クルアーン2章156節)」 その後、彼は言った。 「本当にわたしたちは、アッラーのもの」とは、かれの我らに対する権威の告白、「かれの御許にわたしたちは帰ります」とは、我々が死を免れぬ人間であることの告白である。


100.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―に面と向かって称賛する人々がいた。彼は言った。 おお、我がアッラーよ! 貴方はわたし自身よりもわたしのことをよく御存知であられる。そして、わたしは彼らよりもわたし自身のことをよく知っている。我がアッラーよ! 我々を彼らが考えるよりも良くしてください。彼らの知らない我々のことを御赦しください。


101.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 他者の貧窮を満たすことは、三つの方法によって永遠の美徳となる。微々たることとみなすことで偉大なものを獲得する。隠すことで自然に明らかになる。行為を急げば気持ちのよいものとなる。


102.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 まもなく、他者を中傷する者たちのみに高地位が与えられ、堕落者に才気があるとみなされ、公正が弱さとみなされる時がやって来るだろう。人々は施しを損失と考え、血族への思いやりを義務とみなし、信仰は他者に偉大さを主張するための根拠になるであろう。その時、女から助言を受け、青少年を高い地位に任命し、無能な男たちの執政によって権限は行使されるであろう。


103.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が継ぎはぎの古い服を着ているのを見られ、そのことを指摘されたときに言った。 それによって心は畏怖を感じる。信ずる者は見習う。誠に、現世と来世は対立する二つの敵であり、異なる方角に向かう二つの道である。現世を好み愛する者は来世を嫌い、来世の敵である。この二つは東と西のようである。二つの間の歩行者が一方に近づけば、もう一方からは遠ざかる。だから、(同じ夫の)二人の妻に似ている。


104.ナウフ・アル=ビカーリーが語った。 ある夜、わたしはアミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が寝床から出て、星を眺めているのを見た。その時、彼はわたしにこう言った。「ナウフよ、目覚めているか、眠っているか?」わたしが「おお、アミール・アル=ムウミニーンよ、目覚めています」と言うと、 彼はこう言った。

 おお、ナウフよ! 祝福されるのは、現世で慎み、来世を切望する人々である。彼らはこの地上を床、その土埃を寝台の敷布、その水を香水とみなす。低い声でクルアーンを唱え、高い声で祈願し、その後、イーサー(預言者イエス)のように、この世から急いで立ち去る。

 おお、ナウフよ! 預言者ダーウード―彼の上に平安あれ―は、ある夜、同じような時刻に昇天され、こう言われた。「収税吏、諜報員、警官、弦楽器(リュート)奏者、太鼓奏者でないかぎり、これは人が祈ったことを叶えられる時間なのである」


105.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 アッラーはあなた方にいくつかの義務を負わせになられた。それらを無視してはならない。あなた方に制限をされた。それらを超えてはならない。あなた方に特定のことを禁じられた。違反してはならない。あることに関しては黙っておられるが、誤って省かれたのではないので、あなた方はそれらを見つけようとしてはならない。


106.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 人々が世俗事を好ましくするために信仰に関して何かを放棄すれば、アッラーはそれよりもさらに害になるものを彼らに与えられる。


107.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 学識者の無知はしばしば彼を破滅させ、持っている知識は彼の役に立たない。


108.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 人の体内にはひとつの肉があり血管がついている。体内の最も奇妙なものである。それは心臓である。それには知恵および知恵とは正反対のものが貯蔵されている。それがわずかでも希望をみると、熱望がそれに恥をかかせる。熱望が増すと、貪欲がそれを破壊する。それを失望が襲うと、悲嘆が殺す。その中で怒りが生じると、激怒に発展する。それが喜びに祝福されると、慎重さを忘れる。それが恐れると、思慮がなくなる。平安がその周りに広がると、怠慢になる。それが富を稼ぐと、用心深さから解放されて不正が入る。災難が降ってくると、苛立ちがそれを謙虚にさせる。飢餓に直面すると、苦痛に打ち負かされる。空腹に襲われると、弱さがそれを座らせる。食べることが増せば、胃が重くて苦しむ。したがって、どんな不足もそれに害を及ぼす。どんな過剰もそれを傷つける。


109.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 我々(預言者の家の人々)は、真ん中の枕に似ている。遅れる者は会うために前に進まなければならないが、進みすぎた者は戻らなければならない。


110.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 栄光のアッラーの掟を確立できる者はいない。(正義に関して)やわらぐことがない者、悪行者のようにふるまわない者、貪欲にものごとを追求しない者を除いては。


111.サフル・イブン・フナイフ・アル=アンサリーはスィッフィーンの戦いから戻った後、クーファで亡くなった。彼はアミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―に大変愛された人だった。この出来事でアミール・アル=ムウミニーンが言った。 一山がわたしを愛したとしても、それは崩れ落ちたであろう。


サイード・アル=ラディの言葉 この言葉の意味は、アミール・アル=ムウミニーンを愛する者の災難がそうなのだから、彼には厳しい困難が飛んでこよう。だが、神を畏れる人、善を追求する高潔な人は別である、ということ。


112.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 預言者の家の者である我々を愛する人は、貧困に直面することを覚悟しなさい。

サイード・アル=ラディの言葉 この言葉は別の解釈もあるのだが、ここでは割愛する。〈注1〉


注1: 別の解釈とはおそらくこうだろう。「我々を愛する者は、たとえ貧窮に直面することになっても、現世の物を欲しがってはならない。そうではなく、満足し、現世の益を追及するのは避けなければならない」


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113.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 知恵より有益な富はない。虚栄心より離間させる孤独はない。機転ほど良い知恵はない。 アッラーへの畏怖ほど尊いものはない。品性という美徳にまさる友はない。礼儀にまさる相続はない。機敏にまさる導きはない。美徳行為にまさる取引(商売・貿易)はない。神聖な報酬にまさる利益はない。疑惑の時の無活動にまさる自制はない。禁止られたことを慎むことにまさる禁欲はない。思考にまさる知識はない。義務の遂行にまさる礼拝はない。節度と忍耐にまさる信心はない。謙虚にまさる達成はない。知識にまさる名誉はない。自制(寛容)にまさる精神力はない。相談(協議)よりも確かな援助はない。


114.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 美徳が世間の習慣である時には、人が他者に悪質な疑惑を抱き、その人の悪行を何も見たことがなかったとすれば、不正を犯したのである。不道徳が世間の習慣である時には、他者に対して良い考えをいだいた時は、危険に精を出したのである。


115.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―がこう言われた。 おお、アミール・アル=ムウミニーンよ、御元気ですか?

すると彼はこう返答した。 人生が死に駆り立て、健康状態は何時、病気に変わるかもしれず、安全な場所から(死に)捕らえられる者が、どうして元気であろうことよ。


116.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 優遇によって人々の多くはアッラーから時を与えられている。また、アッラーによって罪深い行為が隠されているために人々の多くは騙されている。また、人々の多くは自分を良く語ることに夢中である。そして、アッラーが誰よりも深刻に試すのは、(罪深いままの状態で)時間を許した者である。


117.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 二種類の人がわたしを理由に破滅に直面する。過度にわたしを愛する者と、激しくわたしを嫌う者。


118.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 機会を見逃すと悲嘆を招く。


119.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 この世は蛇に似ている。触ると柔らかいが、体内は毒でいっぱいである。騙されている無知の人はそれに魅了されるが、叡智ある人はそれから身を守り続ける。


120.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―がクライシュ族について聞かれたときに返答した。 バヌ・マフズムであるが、彼らはクライシュの花である。男との会話、女との婚姻は喜びである。バヌ・アブド・シャムスは、隠されていることのすべてを見通し、用心深い。そして、我々(バヌ・ハーシム)は、受け取ったものは使い、死に身を捧げることを惜しまない。ゆえに、あの人たちの方が人数は多く、目論みが多く、もっと見苦しい。一方、我々はより雄弁で、他者の幸福を祈り、上品である。