格言271~300

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271.ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が、ムアーウィヤの従者によるアル=アンバール攻撃の知らせを聞いたとき、彼は自らアン・ヌハイランまで歩いた。人々がそこで彼に追いつき、「おお、信者の司令官よ、彼らには私たちで十分です」と言った。その後で彼は言った。

わたしにとって、あなたがたはあなたがた自身に対して十分ではないのに、どうしてわたしにとって、あなたがたが他者に対して十分であろうか? わたしの前には人々が支配者からの抑圧を訴えていたものだ。しかし、今、わたしは自分の民の不正行為を訴えねばならないのだ。まるでわたしが彼らに率いられているか、彼らが指導者であるか、わたしが被支配者で彼らが支配者であるかのように。


伝承の語り手が言った。 説教27番にあるようにアミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が長い説教の中でこう語ったとき、教友の二人が彼に歩み寄り、その一人が言った。「主よ、本当にわたしはわたし自身と兄弟のほかは制御できません(聖クルアーン5章25節)。だから信者の司令官よ、わたしたちに命じてください。わたしたちはそれを成し遂げます」


この後でアミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

どうしてあなたがた二人にわたしが目指すことを成し遂げることができるのか?

遂げることができるのか?


272.アル=ハーリス・イブン・ハウトがアミール・アル=ムウミニーンの許に来て言った。

ジャマルの人々は間違っていたと、わたしに想像できるとでも思われるのか?


アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

おお、ハーリスよ! あなたは自分より下を見るが、自分より上を見ない。だから混乱しているのだ。確かに、あなたは正道を知っている。だから高潔な人を見極めることができる。そして、あなたは不正を知らない。だから不正を行う人を見極めることができる!

そのときハーリスが言った。

それでは、わたしはサァド・イブン・マーリクとアブドッラー・イブン・ウマルと一緒に引き下がることにします。

そこですぐにアミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

誠に、サァドとウマルは正道に味方するのではなく、不正を放棄するのでもない。〈注1〉

注1:サァド・イブン・マーリク(サァド・イブン・アビー・ワッカース、イマーム・フセインを殺害したウマル・イブンサァドの父親)とアブドッラー・イブン・ウマルは、アミール・アル=ムウミニーンの援助から遠ざかっていた。サァド・イブン・アビー・ワッカースはウスマーンを暗殺した後、荒野のどこかに隠れて生きていたが、カリフとしてのアミール・アル=ムウミニーンに忠誠を誓わなかった。しかし、アミール・アル=ムウミニーンの死後、彼は悔悟の気持ちを語っていた。 「わたしには意見があったが、間違ったものだった」(アル=ハーキム『アル=ムスタドラク』3巻、116頁。) ムアーウィヤがアミール・アル=ムウミニーンを敵にして戦うときに支持しないことを非難されて、サァドはこう言った。 「わたしは反乱者の党(ムアーウィヤのこと)を敵にして戦わなかったことだけを悔いる」 (アル=ジャッサス・アル=ハナフィー『アフカーム・アル=クルアーン』2巻224、225頁。イブン・ムフリ・アル=ハナバリー『アル=フルー』3巻542頁。)

 アブドッラー・イブン・ウマルは忠誠を誓ったが、次のような口実でアミール・アル=ムウミニーンを戦いで助けることを拒んだ。「わたしは信仰のために隠遁したい。だから、戦いには関わりあいたくない。」 

ペルシャの詩人は詠った。

知性はそのような言い訳を侮辱よりも悪いと見る。

アブドッラー・イブン・ウマルも頻繁に、臨終の瞬間まで、悔悟の気持ちをこう述べていた。 「この世でわたしが苛むことは何もない。至大至高のアッラーに命じられたのに、アリー・イブン・アビー・ターリブの味方となって反乱者の党を敵にして戦わなかったことを除いては。」 (『アル=ムスタドラク』3巻115‐116頁。アル=バイハキー『アッ・スナン・アル=クブラ』8巻、172頁。イブン・サァド『アッ・タバカト』4巻1部136‐137頁。『アル=イスティアーブ』3巻953頁。『ウスド・アル=ガーバ』3巻229頁。4巻33頁。『マジュマ・アッ・ザワーイド』3巻182頁。7巻242頁。『アル=フルー』3巻543頁。アル=アルーシー『ルーフ・アル=マッアーニ』26巻、151頁。)


273.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

権威の保持者は獅子の乗り手のようである。その地位を羨まれるが、彼は自分の地位を熟知している。〈注1〉

注1:王室で高地位を保持すれば、人々がその特別な地位をうらやましがるが、その地位にある本人は常に、王室の享楽が自身に背を向けるのではないか心配する。そして汚名、死、破滅の穴に落ちる。それは人々が恐れを抱く獅子に乗った者に似ている。だが乗り手自身は獅子に食われるか、命取りの穴にでも放り込まれるかしなければ、危険に面することはない。


*****


274.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

他者の遺族には親切にしなさい。そうすれば、あなたの遺族も親切にされる。


275.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

賢者の言葉が的を射ていれば治療となるが、間違っていると病気を証明する。〈注1〉

注1:賢者と改革者の一団は、改善はもちろん悪化の責任を担う。一般の人々は彼らの影響下にあり、彼らの言行が正しい模範とみなし、彼らを頼り、彼らに従って行動するからである。彼らの教えることが改善を促し、大勢の人々は向上するが、悪があれば、大勢が誤った導きに関わってしまい、道を逸脱する。それでこのように言われる。「一人の学者が悪の中にはいれば、全世界が悪に染まる」


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276.誰かがアミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―に信仰とは何かと質問し、彼はこう返答した。

明日、わたしのところに来なさい。他の人がいるところであなたに教える。そうすれば、わたしの言うことをあなたが忘れても他の人が覚えているだろう。言葉は羽をばたばたさせる餌食に似ている。誰かがつかむかもしれないが、別の者はつかまい損ねるかもしれない。


サイード・アル=ラディの言葉

この男への返答は前章の格言と説教第31番「信仰は四つの支えで立つ」で紹介した。


277.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

おお、アーダムの息子よ、すでにやって来た日に、まだやって来ない日のことを心配して悩むな。その日、あなたが生きているなら、アッラーが生きる糧も与えてくださるのだから。


278.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

友への情愛には限度をもて。いつかあなたの敵に変わるかもしれない。敵への憎悪には限度をもて。いつかあなたの友に変わるかもしれない。


279.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

この世には二種類の労働者がいる。ひとつは、この世のためにこの世で働く人である。その人の仕事は来世を忘れさせている。彼は後に残す者たちのために貧窮を恐れるが、自身はそのことに安心している。だから、彼は人生を他者の幸福に費やす。もうひとつは、来世でやってくることのためにこの世で働く人である。彼は努力しなくても、この世での分配分を確保する。したがって、彼は両方の益を得る。そして両方の家の持ち主となるのである。そのために、アッラーの御前で彼は名声を得る。彼がアッラーに何かを求めれば、アッラーは彼を拒まれない。


280.伝承によると、ウマル・イブン・アル=ハッターブのカリフ時代に、カァバの装飾がやりすぎではないかと指摘があり、こう提案する人々がいた。

それを使ってムスリム軍を準備すれば偉大なる益になるだろうに。カァバが装飾で何をするというのか?

ウマルは言われた通りにしようと考えたが、アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―に尋ねた。彼はこう返答した。

クルアーンが預言者―彼とその子孫に平安あれ―に啓示されたとき、四種類の財産があった。一つ目はムスリムの財産で、彼は定めに従って継承者に分配された。二つ目は税(フェイ)で、彼は与えるべき人々に分配された。三つ目は五分の一の徴収(クンム)で、アッラーがその使い道を定められた。四つ目は喜捨(サダカ)で、その使い道もアッラーによって定められた。カァバの装飾は当時、存在していたのであるが、アッラーはそのままで残された。何かを省いて残されたのではなかった。また、この装飾でかれが御存知でないものはなかった。したがって、アッラーとその預言者が整えられたものはそのまま維持されよ。

この後、ウマル・イブン・アル=ハッターブが言った。 あなたがいなかったら、我々は恥をかいていたところだ。 そして、彼は装飾をそのままにした。〈注1〉

注1:ウマル・イブン・アル=ハッターブはしばしば、多くの未解決問題に関してアミール・アル=ムウミニーンを呼び、彼の知識の恩恵を受けていた。だが、アブー・バクルはカリフ時代が短かったため、またウスマーンはカリフ政権の状況が理由で、めったに助言を求めて彼を呼ぶことはなかった。ウマルはアミール・アル=ムウミニーンの深い知識をこう述べて称賛していた。

「法とその判定において我々の中で最も知識のある人はアリーである」 (『サヒーフ・アル=ブハーリー』6巻23頁。アフマド・イブン・ハンバル『アル=ムスナード』5巻113頁。アル=ハーキム『アル=ムスタドラク』3巻305頁。イブン・サァド『アッ・タバカト』2巻2部102頁。『アル=イスティアーブ』3巻1102頁。)

実に、この件に関してはウマルやその他からの証拠は必要ない。ウマル本人と教友の一団が聖預言者の言葉を証言していた。

「法とその判定において、わたしのウンマの中で最も知識があるのはアリーである」(ワキー『アフバール・アル=クダート』1巻78頁。アル=バガウィー『スナン』2巻203頁。『アル=イスティアーブ』1巻16‐17頁。3巻1102頁。『アル=リヤード・アン・ナディーラ』2巻108頁。イブン・マージャ『スナン』1巻55頁。)

これに関連して、アフマド・イブン・ハンバルがアブー・ハーズィムから聞いて語っている。 ある男がムアーウィヤに近づき、宗教に関する質問をした。ムアーウィヤが言った。「この質問はより知識のあるアリーに尋ねなさい」男が言った。「しかし、わたしはアリーよりも貴方に返答してもらいたい」ムアーウィヤは男を黙らせて言った。「あなたから聞く最悪の言葉だ。巣の中のひな鳥に母鳥が自分のくちばしで餌を与えるように、神の使徒が教え、指導した人に対して、あなたは憎悪を表明したのだ。その神の使徒はこう言われた。 『あなたはわたしにとって、ムーサーにとってのハールーンのようである。わたしの後にはもう預言者が現れないことを除いては』ウマルは未解決の問題があれば、彼を頼っていた」(アル=ムナーウィー『ファイド・アル=カディール』3巻46頁。『アッ・リヤード・アン・ナディラ』2巻195頁。『アッ・サワーイク・アル=ムフリク』107頁。『ファス・アル=バーリー』17巻105頁。)

ウマルは頻繁にこうも言っていた。 「女たちはアリー・イブン・アビー・ターリブのような人の子を産む能力がない。アリーがいなかったら、ウマルは終わっていただろう」(イブン・クタイバ『タッウィール・ムフタラフ・アル=ハディース』202頁。『アル=イスティアーブ』3巻1103頁。アル=マーリキ『クダート・アル=ウンドゥルス』73頁。『アッ・リヤード・アン・ナディラ』2巻194頁。アル=フワーラズミー『アル=マナーキブ』39頁。『ヤナービ・アル=マワッダ』75、373頁。『ファイド・アル=カディール』4巻356頁。)

彼はまたこう語っていた。 「アブー・ル・ハサン(アリーのこと)が不在のときの問題からアッラーの御加護を求める」(『アル=イスティハーブ』3巻1102‐1103頁。『アッ・タバカト』2巻2部102頁。イブン・アル=ジャワズィー『シファトゥッス・サワフ』1巻121頁。『ウスド・アル=ガーバ』4巻22‐23頁。『アル=イサーバ』2巻509頁。イブン・カーシル『アッ・タリーフ』7巻360頁。

ウマルはしばしば、アミール・アル=ムウミニーンにこう話していた。 「おお、アブー・ル・ハサンよ、わたしはあなたのいない共同体で生きることからアッラーの御加護を求める」(『アル=ムスタドラク』1巻457‐458頁。ファフル・アッ・ディーン・アッ・ラーズィー『アッ・タフシール』32巻10頁。スユーティー『アッ・ズッル・アル=マンスール』3巻144頁。『アッ・リヤード・アン・ナディラ』2巻197頁。『ファイド・アル=カディール』3巻46頁。4巻356頁。『アッ・サワーイク・アル=ムフリカ』107頁。)

上述の全証言より優れた証拠として、ウマル・イブン・アル=ハッターブ自身、アブー・サイード・アル=フンドリー、ムッアズ・イブン・ジャバルの語りにより、聖預言者がアミール・アル=ムウミニーンに言った言葉がある。

「おお、アリーよ。わたしは預言者性においてあなたより優るが、わたしの後、預言者は出現しない。あなたは七つの高貴な特質において他者より優る。一番目はアッラーを信じることにおいて。二番目はアッラーへの約束を果たすことにおいて。三番目はアッラーの命令に誰よりも従うことにおいて。四番目は人々の間に誰よりも平等に分配することにおいて。五番目は国民(ムスリム)に対して最も公正であることにおいて。六番目は論争に対して最も優れた洞察があることにおいて。七番目は美徳においてアッラーの御前で最も顕著であり高貴であることにおいて。(『ヒルヤ・アル=アウィリヤー1巻65、66頁。『アッ・リヤード・アン・ナディラ』2巻198頁。アル=フワーラズミー『アル=マナーキブ』61頁。『カンズ・アル=ウンマール』12巻214頁。イブン・アビー・ハディド 13巻230頁。』

アミール・アル=ムウミニーン、アブー・アイユーブ・アル=アンサリー、マッキル・イブン・ヤースィル、ブライダ・イブン・フサイブの語りによると、神の使徒(彼とその子孫の上に平安あれ)はファーティマ(彼女の上に平安あれ)にこう言った。 「あなたは満足しないのか? 誠に、わたしはあなたをイスラームの信仰において、わがウンマで最高の人、最も知識の具わった人、寛大さでは誰よりも優れた人と結婚させた」(アフマド・イブン・ハンバル『アル=ムスナード』5巻26頁。アッ・サンアーニー『アル=ムサンナフ』5巻490頁。『アル=イスティアーブ』3巻1099頁。『ウスド・アル=ガーバ』5巻520頁。『カンズ・アル=ウンマール』12巻205頁。15巻99頁。『マジュマ・アッ・ザワーイド』9巻101頁、114頁。『アッ・シラ・アル=ハラビヤー』1巻285頁。)

次の聖預言者の言葉を読めば、上述したアミール・アル=ムウミニーンの豊かな知識と法学の鋭敏な裁定者であったことの認識は驚くことではない。

「わたしは知識の市であり、アリーはその門である。知識を習得したい者は、この門を通らなければならない」(『アル=ムスタドラク』3巻126‐127頁。『アル=イスティアーブ』3巻1102頁。『ウスド・アル=ガーバ』4巻22頁。『タフズィーブ・アッ・タズヒーブ』6巻320‐321頁。7巻337頁。『マジュマ・アッ・ザワーイド』9巻114頁。『カンズ・アル=ウンマール』12巻201、212頁。15巻129‐130頁。)

聖預言者はこうも言った。 「わたしは叡智の貯蔵庫であり、アリーはその門である。叡智を習得したい者は、この門をくぐらなければならない」(アル=ティルミディー『アル=ジャーミ・アッ・サヒーフ』5巻637‐638頁。『ヒルヤ・アル=アウリヤー』1巻64頁。アル=バガウィー『マサービフ・アッ・スナン』2巻275頁。『アッ・リヤード・アン・ナディーラフ』12巻193頁。『カンズ・アル=ウンマール』12巻201頁。)


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281.二人がアミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―の許に連行された。公共財産を盗んだからだった。一人は公共金によって買われた奴隷、もう一人は市民の誰かによって買われた奴隷であった。アミール・アル=ムウミニーンが言った。

この人は公共金の財産であるから、この人への処罰はない。アッラーの財産の一つから別の財産を得たことになるからだ。もう一人については処罰がある。 その結果、彼の手が切断された。


282.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

この滑りやすい場所でしっかりした足場を確保したら、わたしはいくつかのことを改めるだろう。〈注1〉

注1:イスラームの預言者の後、一部の人々が自分たちの想像でシャリーアの命令を修正したり変えたりしたために、教えが変わってしまったことは否定できない。シャリーア(イスラーム法)を変える権利、つまり、クルアーンとスンナの明白な命令を無視して、自分の想像や考えで命じる権利は誰にもなかった。クルアーンには離婚のやり方が明確に述べられている。(「離婚(別の人との結婚がなくても夫婦関係の回復が認められる離婚)の申し渡しは二度まで許される」聖クルアーン2章229節)それなのに、カリフのウマルは想像によって、一回の離婚において三度の宣言をするよう命じた。同様に彼は、相続ではアウルの制度を導入し、葬儀の礼拝では四回のタクビールを導入した。同じように、カリフとなったウスマーンは、金曜礼拝のアザーンを付け加えたり、カスル(短縮した)でよいときに完全な礼拝をするよう命じたり、イードの礼拝の前に説教を許可したりした。実際、多くの命令がこのように捏造されたために、正確な命令が間違ったものと混合され、真正性が失われた。(どのように変わったかは以下を参照されたい。アブー・バクルによるものについては、アル=アミーニー『アル=ガディール』7巻74‐236頁。ウマルによるものについては、6巻83‐325頁。ウスマーンによるものについては、8巻98‐387頁。アブー・バクルによるものについては、シャラフ・アル=ディーン『アン・ナッス・ワッル・イジュティハード』76‐154頁。ウマルによるものについては、155‐276頁。ウスマーンによるものについては、248‐289頁。アル=アスカリー『ムカッダマ・ミルッアートゥ・ル・ウクール』1巻、2巻。)  シャリーアの偉大な学者であったアミール・アル=ムウミニーンは、これらの命令に対して抗議し、教友とは反対の見解をもっていた。  アミール・アル=ムウミニーンが正統カリフの座に就くと、あらゆる側からすぐに反乱が生じ、最後の時までこの問題を取り除くことはできなかった。その結果、変えられてしまった法を完全に正すことはできず、間違いや疑いのある多くの法が真髄から離されて、そのまま容認されるようになった。にもかかわらず、アミール・アル=ムウミニーンに従った人々の一団は、シャリーアの命令について彼に質問し、それを記録していた。そのおかげで正しい法は消えず、間違った法が全員一致で認められることは免れた。


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283.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

完全な確信をもって知っておきなさい。アッラーは天命の書で命じられているもの以上の糧を誰にも御定めになっていない。その人の(糧を求める)手段がどんなに大きくても、それを強く切望しても、ひどく努力しても。また、その人の弱さや、その人の手段の不足が、天命の書が命じるものとその人の間で邪魔をすることはない。それに気づいて行為する者は、満足と恩恵という点において最良の人である。一方、それを無視して疑う者は、不利な立場という点ですべての人を超える。恩恵を与えられた人はそれらの恩恵を通じてゆっくりと懲罰へ追いつめられることが非常に多い。また、苦しむ人はその苦悩を通じて善を与えられることが非常に多い。おお、聴衆よ、だからもっと感謝せよ。急ぐのを控えなさい。あなたの糧の範囲に留まりなさい。


284.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

知識を無知に変えてはならない。また、確信を疑惑に変えてはならない。知識を得たときはそれに従って行為しなさい。確信したときは(その基準に従って)進みなさい。


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285.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

貪欲はその人を水場へ連れて行くが、水を飲ませることなく連れ戻す。それ(貪欲)は責任を引き受けるが、果たさない。しばしば、飲む者は喉の渇きが癒される前に喉をつまらせる。切望したことが大きいほど、損失の悲しみは大きい。欲望は理解の目を盲目にさせる。定められた分配分は、それを求めない者に到達する。


286.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

おお、我がアッラーよ、わたしは貴方にこのことから御加護を求める。貴方の御前でわたしの内面は罪深いのに、人々の目に自分が善良に映ることから。貴方はわたしのすべてを御存知であられるのに、人々の前で見せるためだけのために自分を(罪から)守ろうとすることから。そのために貴方の御前にわたしの悪行が置かれているのに、わたしは人々の前では善良にみえる。すなわち貴方の被造物には近づけるのに、貴方の御満悦からは遠いということ。


287.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

あれが起こらなかった明るい日の後、暗い夜を過ごさせる御方に誓う。〈注1〉

注1:サイード・アル=ラディは何が起きなかったかを記していない。

288.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

定期的に継続する小さな行為のほうが、うんざりしながら長い行為をするよりも有益である。


289.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

選択できる問題が義務を邪魔するときは、その問題を断念しなさい。


290.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

計画する者は、長旅の準備ができている。


291.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

目の認識力は真の観察力ではない。なぜなら、時として目は人々を欺くことがあるからである。だが、知恵は忠告する相手を欺かない。


292.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

あなたと説教との間には誤解の幕がある。


293.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

あなたがたの中の無知な者は過度に得ようとするが、学識者はただ遅らせる。


294.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

知識は言い訳する者の言い訳を一掃する。


295.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

死に早く追いつかれる者は時間を求めるが、死を延ばされる者は(善行を)後回しにする言い訳をする。


296.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

人々が「なんて良いものか!」と言うことのすべてには、現世においての害悪が隠れている。


297.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が宿命について聞かれたときに言った。

それは暗黒の道である―踏んではならない。それは深い海である―飛び込んではならない。それはアッラーの秘密である―わざわざ知ろうとして煩ってはならない。


298.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

アッラーが誰かに屈辱を与えられるときは、その人に知識を与えない。


299.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

 過去、わたしには信仰の兄弟がいた。〈注1〉わたしの見るところでは、彼には信望があった。なぜなら、彼から見れば世界は慎ましかった。胃袋の要求に支配されなかった。手に入らないものを欲しがらなかった。何かを手に入れたら、もっと欲しがったりしなかった。ほとんど無言でいた。発言すると他の話し手を無口にさせた。質問という喉の渇きを癒した。弱々しいのだが、戦いの時には森の中の獅子か渓谷の蛇のようであった。疑いのないこと(重大なこと)でなければ議論はしなかった。

 理由を聞かずに誰かを罵ったりしなかった。どんな災難も消えた後でないと口にしなかった。自分で行動することを口にし、やらないことは口にしなかった。話しすぎることがあっても抜きん出て無言ということはなかった。しゃべるより無言でいようとした。自己の中で二つの事が対立するときは、どっちを心が求めるかを考え、それを阻止しよとした。

 こうした特質はあなたがたへの義務であるから、身につけるようにしなさい。そして、お互いがこれらの特質で卓越するようになれ。すべてを身につけられなかったとしても、一部を身につけることは、すべてをあきらめてしまうより良いのだということを知っておきなさい。

注1:アミール・アル=ムウミニーンがここで語った人は、アブー・ザッル・アル=ギファリーのことだという解説者もいれば、ウスマーン・イブン・マズウーン・アル=ジャマヒー、またミクダード・イブン・アル=アスワド・アル=キンディーのことだという解説者もいるのだが、アラブ人は特定の人物のことでも兄弟もしくは同胞と表現するのが習慣だったので、特定の人物ではなかったのかもしれない。


300.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

たとえアッラーが不服従の者たちへ懲罰を警告されなかったとしても、かれの恩恵を感謝することによって、かれに不服従があってはならないのが義務である。