格言1~30

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1. アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

市民が暴動を起こす間というのは、若い駱駝に似ている。その背は乗るには強くなく、乳房は 乳を搾るには丈夫でない。


2. アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

貪欲が習慣となった者は自分の価値を減じている。自分の苦労を露にする者は屈辱に同意している。舌に魂を征服させる者は魂を卑しめている。


3. アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

欲深さは恥である。臆病は欠陥である。貧困は聡明な人が自身の問題を論じるのを不能にさせる。


4. アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

無能であることは災難である。忍耐は勇気である。禁欲は富である。自己抑制は(罪に対する)盾である。最良の教友は(アッラーの御意思への)服従である。


5. アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

知識は由緒ある土地である。礼儀は新しい衣装である。思考は汚れのない鏡である。


6. アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

知恵ある人の胸はその人の秘密の金庫である。友情をつなぐものは快活さである。自制心を働かせることは、欠点(短所)の墓場である。


報告によると、アミール・アル=ムウミニーンはこの言葉の意味を次のように語った。 相互の和解は欠点の覆いである。自分を褒める(自身に敬服する)人は敵対者を引き付ける。


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7.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

喜捨は効果的な治療法である。人びとの現世の行為は、来世で彼らの目の前に置かれる。


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8.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

人はなんとすばらしいものか。肉体の一部で話すことができ、骨で聞きことができ、穴で呼吸ができるのだから。


9.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 

現世が(好意をもって)近づいたときは、他者の善行がその人のものとなるが、現世が背を向けるときは、自分自身の善行が奪われる。〈注1〉

〈注1〉 幸運が役立ち、現世が味方したときは、その人の行為を人々は大げさに語り、他者の行為だったとしてもその人の評価を高めるものである。だが現世が味方してくれずに不幸に飲み込まれると、その人の美徳を人々は無視してその人の名を思い出すことさえ許さない。人々は現世に味方されているときは友達になるが、現世に打ちのめされたときは敵となる。


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10.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

自分が死んだら泣いてくれ、生きているならあなたのことを待ち望んでくれるように人々と接しなさい。


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11.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 

敵に優位になったときは、打ち負かすことができたことを感謝することによって彼を赦してやりなさい。


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12.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 

最も無力の人は、一生の間に数人の兄弟をみつけられなかった人である。もっと無力なのは、兄弟を一人みつけても失ってしまう人である。


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13.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。  

ほんのわずかの恩恵を受け取ったときは、感謝を忘れてそれを退けることがないようにしなさい。


14.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 

近親(近い人)に見捨てられた人は、遠縁(遠い人)の大切な人である。


15.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

害悪を撒き散らす者を戒めることはできない。〈注1〉

〈注1〉 アミール・アル=ムウミニーンがジャマルの人々に対して自分を支持するよう求めたのに対し、サァド・イブン・アビー・ワッカース、ムハンマド・イブン・マスラマ、アブドッラー・イブン・ウマルが拒否した時の言葉。彼が言わんとしたのは、このように自分に反抗する者にはどんな言葉も効果がなく、非難も叱責も彼らを正す必要もない、ということ。


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16.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。  

時には死が努力に起因することがあるほど、すべては神命に服する。


17.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―は、神の使徒の言葉を説明するよう求められた。

「(髪を染めて)老いを追い払いなさい。ユダヤ人にみえぬようにしなさい」

アミール・アル=ムウミニーンはこう説明した。

あの時に預言者(彼とその子孫に神の祝福あれ)がこう言われたのは、神の教えを知る者がわずかなときだった。だが今、教えは広まり、しっかりと根付いたので、自分の行為は自由である。〈注1〉

〈注1〉イスラーム初期時代にはムスリムの数は限られており、ムスリムの一団としての存在を維持するために、ユダヤ人から距離を保つことが必要だった。ユダヤ人は髪を染めることをしなかったので、預言者がそれを命じた。敵との戦いで年老いて弱くみえないようにすることも目的だった。


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18.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―は、自分の味方になって戦うのを避けた人々について言った。

彼らは正道を放棄したが、不正を支持しなかった。〈注1〉

〈注1〉アブドッラー・イブン・ウマル、サァド・イブン・アビー・ワッカース、アブー・ムーサー、アル=アフナフ・イブン・カイス、ムハンマド・イブン・マスラマ、ウサーマ・イブン・ザイド、アナス・イブン・マーリクといった、中立の立場を主張した人々のこと。彼らは公けに不正を支持しなかったが、正道を支持しないのは不正を支持していることにもなる。拠って、彼らは正義に反対する者の仲間である。


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19.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 

ゆるんだ手綱で馬を走らせる者は、死と衝突する。


20.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 

思慮深い人々の欠点を赦してやりなさい。彼らが過ちに陥った場合、アッラーは彼らを起き上がらせてくださるのだから。


21.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 

心配の結果は落胆である。臆病(恥ずかしがること)の結果は失望である。機会は雲のように通り過ぎていく。だから良い機会は利用しなさい。〈注1〉

〈注1〉 これに関連した預言者の言葉。「臆病(内気・恥ずかしがること)には二種類ある。知性の臆病と愚かさの臆病。知性の臆病は知識であるが、愚かさの臆病は無知である」


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22.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

我々には権利がある。それが適切かつ忠実に許されるのであれば、夜の旅路が長くても(低い身分の人々のように)駱駝の後部に乗るだろう。

サイード・アル=ラディの言葉 極めて優雅な表現である。我々の権利が認められないのであれば、我々は卑しめられたとみなされるだろう、という意味。かつて駱駝の後部に乗ったのは奴隷や囚人だったのでこのような表現が使われた。


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23.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

行為で後ろの位置を与えられた者に、血縁関係を理由に前の位置が与えられてはならない。


24.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

深い悲しみに打ちひしがれた人を救い、困難を和らげるのは、大罪の償いである。


25.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

おお、アーダムの息子よ、栄光の主に不服従なときに、かれの恩恵を授かったことを知るときは、かれを畏れなさい。


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26.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

心中に何かを隠しているときは、舌のうかつな言葉と顔の表情で現れる。


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27.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

病気のときにはできるだけ歩きなさい。〈注1〉

〈注1〉 深刻な病状にならない限りは、気分は病に影響するので、病を深刻に考えない。 活動を止めないで、自分は病気ではないと思うことで病を追い払い、体が弱るのを防ぎ、心理的に強さを維持する。軽い病気は心理の力で止め、病気であるという想像を克服することで病への抵抗を諦めさせないようにするということ。


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28.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

最良の禁欲はそれを隠すことにある。


29.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。

現世から逃げても死は接近している。死との遭遇を遅らせることはできない。


30.アミール・アル=ムウミニーン―彼の上に平安あれ―が言った。 

畏れよ! 畏れよ! アッラーにかけて。あなた方の罪がまるで赦されたかのように、かれはお隠しになった。