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東京高等裁判所令和4年(ネ)第3329号

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主文

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1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用はXらの負担とする。 

事実及び理由

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第1 控訴の趣旨

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1 原判決を取り消す。
2 Yらは、X1に対し、連帯して、4414万4792円及びこれに対する平成30年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 Yらは、X2に対し、連帯して、220万円及びこれに対する平成30年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 Yらは、X3に対し、連帯して、220万円及びこれに対する平成30年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 Yらは、X4に対し、連帯して、220万円及びこれに対する平成30年3月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要(以下、略語は、原判決の例による。)

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 本件は、Y1株式会社(Y1社)に所属するアイドルグループ「愛の葉ガールズ」(本件グループ)のメンバーとして芸能活動をしていたA(A)の親族であるXらが、①Yらにおいて、Aに対し、過重な活動をさせるなどしたため、Aが正常な認識等を著しく阻害される精神状態となった、②Y1社の従業員であるY4が、Y1社においてAの高校の進学費用12万円の貸付けを約束していたにもかかわらず、同校への納付期限の直前である平成30年3月20日、Aに対し、上記貸付けを撤回する旨を告げた、③Y1社の代表者であるY2が、同日、Aに対し、本件グループの活動を続けないのであれば違約金として1億円を支払えという趣旨の発言をした、④これら一連の行為(本件一連の行為)により、Aが、同月21日、自宅で自死したと主張して、Yらに対し、共同不法行為による損害賠償請求権(Y1社に対しては、選択的に、安全配慮義務違反の債務不履行による損害賠償請求権)に基づき、Aの両親であるX1及びX2において、それぞれ、Aの死亡に係る逸失利益、慰謝料、親族固有の慰謝料等として4414万4792円、Aの姉弟であるX3及び同X4において、それぞれ、親族固有の慰謝料等として220万円、並びに、これらに対する同日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

 原審は、本件一連の行為のうち、本件グループにおける活動により、Aに正常な認識等を阻害される程度の強い精神的負荷がかかったこと、Y2が、Aに対し、本件グループの活動を続けないのであれば違約金として1 億円を支払えという趣旨の発言をしたことは詔められず、Y4の上記貸付けに関するやり取りもX1の了解を踏まえた指導の範疇を超えるものであったとは認められないとして、Xらの請求をいずれも棄却する旨の判決をした。
 Xらは、原審の上記判断を不服として、本件控訴を提起した。

 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記4において当審における当事者の主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の第2の1から3までに記載のとおりであるから、これを引用する。

原審の引用部分(付加・補正込み)
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〔※執筆者注:以下、高裁でなされた付加・補正を施した上で原審を引用する〕

1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
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(1) 当事者及び関係者
ア X側
(ア) Aは、平成13年10月23日、X2(以下「X2」という。)と当時の配偶者との間の二女として出生し、平成19年8月15日、X2の再婚に伴い、その配偶者となったX1(以下「X1」という。)と養子縁組をした(甲1、乙1)。
(イ) X3は、平成10年10月19日に出生したAの姉であり、X4は、平成19年9月21日に出生したAの弟である(甲1、乙1)。
(ウ) Bは、Aの1学年下の男子で、平成30年2月頃からAと交際していた者であり、Cは、Bの母である(甲28、29)。
イ Y側
(ア) Y1社は、平成23年6月に設立された農作物及び加工品の生産、販売、研究開発等を目的とする株式会社(農地法2条3項が規定する農地所有適格法人)であり、平成24年1月に「愛の葉」(えのは)という農園事業を開始し、同事業の広告の一環として、同年12月、「愛の葉Girls」(えのはガールズ)というアイドルグループ(以下「本件グループ」という。)を結成した(甲47、乙17、100)。
(イ) Y2は、Y1社の創立当初から現在まで、Y1社の代表取締役である(乙100)。
(ウ) Y4は、Y1社の創立当初からY1社に勤務し、平成30年当時経理事務等を担当していた(乙100、102)。
(エ) Y3は、平成27年5月からY1社に勤務し、平成30年当時、広報を担当していた(乙101)。
(2) Aの本件グループにおける活動について
 Aは、平成27年6月頃(当時中学2年生)、本件グループのオーディションを受け、同年7月12日から本件グループの研修生、平成28年7月から本件グループのレギュラーメンバーとして活動し、平成29年度の本件グループにおける活動につき最優秀の個人業績であることを表彰され、平成30年1月頃に本件グループのリーダーに就任した。なお、AとY1社が平成29年10月15日に締結した「『エンジェルタッチ』レギュラーメンバー トレーニング及び専属マネジメント契約」のいて、その契約期間は、同年9月1日から平成31年8月31日までとされていた。(甲3、4、7、9、14、18、36の9)。
(3) Aの高等学校の進学について
 Aは、平成29年3月に中学校を卒業し、同年4月に通信制課程の愛媛県立松山東高等学校(以下「松山東高校」という。)に入学し、平成29年12月26日付けで松山東高校を退学した(甲18)。
 Aは、平成30年2月6日、全日制の松山城南高等学校(以下「城南高校」という。)の調理科を一般入試で受験し、同月13日、合格した。その後、Aは、進学先を調理科から普通科に変更した。(甲24、乙11、弁論の全趣旨)
 Y1社は、Aに対し、平成30年3月20日までに、城南高校の進学に必要な施設充実費等の学費12万円を貸し付けることとしていた。しかし、Y4は、平成30年3月20日午後4時頃、Y1社の事務所を訪れたAに対し、12万円を貸し付けることはできない旨を伝え、現金12万円を交付しなかった。(甲18、乙38、102 X2【9~12頁】、Y4【4~6頁】。ただし、これが確定的に貸付けを撤回したものかどうかは、後記のとおり当事者間に争いがある。)
 Aは、平成30年3月21日、同日開催された城南高校の合格者説明会に参加しなかった(乙12、弁論の全趣旨)。
(4) Aの自死について
 Aは、平成30年3月21日、自宅で首をつって、同日午後2時19分、死亡が確認された(当時16歳)(甲49)。
(5) 相続関係
 Aの法定相続人は、養父であるX1、実母であるX2及び実父の3名であったが、同人らの遺産分割協議により、Aの遺産は、X1及びX2が各2分の1の割合で取得することになった(甲89、弁論の全趣旨)。

2 争点
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 (1) 本件一連の行為が違法行為又は安全配慮義務違反に当たるか(争点1)
 (2) 本件一連の行為とAの自死との間の相当因果関係(争点2)
 (3) Xらの損害(争点3)

3 争点に関する当事者の主張
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(1) 争点1(本件一連の行為が違法行為又は安全配慮義務違反に当たるか)について
(Xらの主張)
 Yらによる本件一連の行為は、以下のとおり、Aに対する違法行為に当たり、また、後記エのとおり、Y1社に課せられた安全配慮義務にも反するものである。
ア Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせたこと
(ア) Aは、平成29年4月以降、本件グループの活動を自由に休めない状況におかれた上、別紙エンジェルタッチ記載一覧をみる限りでも、本件グループの活動のために長時間拘束されていた。特に、Aは、本件グループのリーダーに就任した平成30年1月から同年3月21日までの間、高校受験の直前を含むにもかかわらず、本件グループのイベント全てに参加登録させられ、欠席が困難であったことに加えて、リーダーとしてスタッフやメンバーとのLINEのやり取り等をせざるを得ず、拘束時間が長時間で深夜に及ぶこともあり、睡眠時間や休憩時間を十分に確保できない状況であった。このように、Aの本件グループにおける活動は、肉体的及び精神的に過重なものであった。
(イ) Y3は、Aに対し、次のとおり、暴力をほのめかすなどのパワーハラスメントに当たる言動をしていたこと等により、YらはAに対し精神的な支配を行っていた。
a Aが平成29年8月30日にY2に対して本件グループから脱退したい旨を伝えたところ、Y3は、同日、Aに対し、「次また寝ぼけた事言い出したらマジでブン殴る」とLINEでメッセージを送信した。
b Y3は、同年9月25日、Aに対し、「返事せえや」とLINEでメッセージを送信した。
c Aが同年10月4日にY3に対して休日を取得したいと申し出たところ、Y3は、同日、Aに対し、「お前の感想はいらん」、「学校の判断と親御さんの判断の結果をそれぞれ教えろ(それも具体的に)」とLINEでメッセージを送信した。
d Y3は、平成30年1月15日、Aに対し、「貴方の物の考え方受け取り方、その他色々あちこちダメ出ししたい。」「世の中ナメるにも程があるぜ。」とLINEでメッセージを送信した。
(ウ) Yらは、Aが本件グループのリーダーに向いているタイプではなく、Aがリーダーの重圧から精神的に追い詰められていたことを認識していたが、Aに対して精神的なサポートや後見的な配慮を一切行わずに放置していた。また、Aは、仕事と学業とを両立させて学校に行きたいという希望を持っていたが、Yらは、Aに対して本件グループにおける活動について休暇を取得させなかった。さらに、Aは、遅くとも平成29年10月頃に本件グループを脱退したいという希望を持っていたが、Yらは、Aが本件グループを脱退することを認めなかった。
(エ) その他、YらはAに対し口外禁止や秘密保持義務を負わせて、Aが家族と相談することを躊躇させて孤立させた。また、Yらは、Aに対し、Aが忘れ物や遅刻等のミスをした場合、「制裁」と称して報酬から金銭を控除することにより精神的な圧力を加えていた。さらに、Yらは、Aに対し、安易に通信制の松山東高校を退学させ、全日制の城南高校に進学するために必要な資金を貸し付けることを提案して信頼を作出した後に、後記イのとおりY4が12万円の貸付けの撤回をするなど、Aの就学へ不当な干渉・制約を行っていた。
イ Y4が12万円の貸付けを撤回したこと
 Y2は、Aに対して貸付けによる金銭的な支援を提案して全日制の城南高校への進学を勧め、AにX2及びX1との相談を十分にさせることなく、両親が学費を払わなくてもY1社から学費を借りればよいという期待及び信頼を醸成していた。また、Y1社は、Aに対し城南高校の入学金として3万円、制服及び鞄代金として6万6000円を貸し付けており、YらはAが城南高校に進学するためには平成30年3月21日までに12万円の借入れが必要であることを認識していた。
 それにもかかわらず、Y4は、Aが平成31年8月末日をもって本件グループを脱退したいという意向を持ち始めたことから、貸付けの意思を翻意し、平成30年3月20日午後4時頃、Y1社の事務所を訪れたAに対し、「お金をお貸しすることはできません」と強く述べて、12万円の貸付けを撤回すると伝えた。これにより、Aは、12万円の貸付けが確定的に撤回されたと受け取り、Aの上記期待及び信頼を裏切った。
ウ Y2が本件グループを続けないのであれば違約金1億円を支払えと発言したこと
 Aは、たびたび本件グループから脱退することを希望していたところ、Y2は、平成30年3月20日午後11時頃、Aとの通話の中で、同人に対し、「愛の葉を続けないのであれば違約金1億円を支払え。」という趣旨の発言をした。これは、Y2がAに対し、支払うことができない多額の金員の支払を求めることにより、Aの意思に反して本件グループにおける活動を強制するものである。
 上記アないしウの行為(本件一連の行為)は、Aをして、正常な認識、行為選択能力が著しく阻害され、自死行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害される状態にさせた上で、Aに対して進学費用の貸付けを確定的に撤回して、希望していた全日制の高等学校への進学を断念させ、本件グループでの活動を辞めることもできないという精神的負荷が強くかかる状況に追い込んで、Aを自死に至らしめた違法行為である。
 また、Aは、本件グループで活動していた当時、未成年者であり、労働内容が不安定かつ過酷で、強度の精神的ストレスを受ける芸能活動に従事していたことからすると、Y1社は、Aに対し、労働契約又は労働契約類似の特別な社会的接触関係にある者として安全配慮義務を負うというべきであり、具体的には、Y1社は、Aに対し、①本件グループにおける活動が肉体的及び精神的に過重なものとならないように、労働時間や休日等について配慮すること、家族と適切に相談できるように配慮すること、制裁を用いることや制裁を予告するなどして労働を強制しないことを含むAの健康に配慮する義務、②Aの就学への希望や進路決定等の私生活上への影響に配慮して労働条件を整備し、Aの就学の機会を不当に妨げることがないようにする義務があった。それにもかかわらず、本件一連の行為を行っているものであり、これらの行為は、Y1社に課せられた上記安全配慮義務に反するものである。
(Yらの主張)
 Xらの主張する違法行為及び安全配慮義務違反は、否認ないし争う。
ア Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせていないこと
(ア) Aの本件グループにおける活動は、肉体的及び精神的に過重なものではない。平成29年10月以降のAの本件グループにおける活動内容及び時間は、別紙活動表記載のとおりであり、特に過重なものではない。
(イ) Xらが指摘するY3の言動は、いずれもパワーハラスメントに当たるものではなく、その他に、YらがAに対し精神的な支配を行っていた事実はない。
(ウ) Yらは、Aの心身の状況に配慮していた。YらがAに対し本件グループの活動について休暇の取得を制限したことはない。なお、Aは、原因は不明であるが、中学時代から不登校であり、昼間からX2と共にゲームセンターで過ごすことが多く、本件グループへの加入後も、ほとんど中学校へは通っていなかった。Y2 から学校へ行くよう指導されたときは、2、3日は、これに従うものの、1週間ほどすると、また通学しなくなっていた。また、Aはたびたび本件グループを脱退する旨を口走ることがあったが、その場の気まぐれやYらの気を引くためのものであり、YらはAが本件グループから脱退することを制限したことはない。
(エ) AとY1社との間の契約における守秘義務条項は、Aが本件グループにおける活動を行う際に知り得た、Y1社及びその取引先に関する情報を対象とするものであり、Aが、本件グループにおける活動に関する悩みについて、Aの家族を含む第三者に相談することを制限するものではない。また、Y1社は、本件グループのメンバーに対し、契約書上、ペナルティとして報酬の減額及び罰金に関する規定を設けていたが、契約書の記載どおりに適用したことはなく、遅刻等があった場合には、適宜、報酬算定の基礎となる個人別販売ポイントを裁量で各メンバーの同意を得て減少させていたにすぎない。さらに、後記イのとおり、Y4が12万円の貸付けを一時的に留保した行為は、Aを自死に至らせるような精神的負荷を与えるものではなく、その他に、Aの就学へ不当な干渉・制約をした事実はない。
イ Y4は12万円の貸付けを一時的に留保したにすぎないこと
 Y4は、平成30年3月20日、Aに対する12万円の貸付金を準備していた。
 しかし、X2は、同日午前10時頃、部屋の片づけや帰宅時刻などのAの生活態度に関して、Y4に相談し、Y4がAに対して生活指導を行うことになった。X2は、その際、Y4に対し、AがY1社からの借入金はアルバイトをして返せばよいと述べており、これでは、本件グループの活動と学業を両立できるように学費を貸し付けてくれるY2の好意を無下にすることになると伝えた。
 これを受けて、Y4は、同日午後4時頃、Aに対し、Y1社の事務所において、X2の同席の下で、部屋の片づけや帰宅時刻等のAの生活態度に関して注意し、アルバイトをして学費を返済することができると考えていることは、X2やY2の思いに反し、甘すぎるとの指摘をし、Aに反省を促すため、その場では、封筒に入れて用意していた現金12万円を交付することはなく、もう一度考えてからY2に連絡するよう伝えて、城南高校への進学に必要な12万円の貸付けを一時的に留保した。
 その後、Y4は、Y2に対し、Aとの上記会話を報告して、Y2からAに対して、同日中に貸付金12万円を渡すことを依頼し、Y2に現金12万円を預けた。また、Y4及びY2は、同日中に、X2に対し、Y1社がAに対し12万円を貸し付ける意思があることを伝えており、Yらは12万円の貸付けを撤回したものではない。
ウ Y2の発言について
 Y2が、Aに対し、「愛の葉を続けないのであれば違約金1億円を支払え。」と発言した事実はなく、Aがそのように受け取るような趣旨の発言をした事実もない。かえって、Y2は、平成30年3月20日午後11時07分頃からのAとの通話において、同人に対し、Y4から渡す予定であった12万円をこれから持参する旨を告げたものの、Aは、城南高校には進学しないことになった、もうX2と話して決めたことであり、これ以上、同X1を悲しませたくないなどと述べていた。
 上記アないしウのとおり、Yらは、Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせたことはなく、Y2がAに対し違約金1億円を支払うよう発言したことはない。Aの進学に必要な12万円の貸付けも一時的に留保したにすぎず、これをもってAに対する違法行為又は安全配慮義務違反に該当することはない。
 また、Yらは、X2がAの城南高校への進学に反対していることを認識しておらず、その後、X2がAに城南高校進学を断念させることなど予見できなかったものであり、Aが城南高校へ進学できなくなる結果を生じさせない注意義務を負っていたともいえない。
(2) 争点2(本件一連の行為とAの自死との間の相当因果関係)について
(Xらの主張)
 前記(1)(Xらの主張)のとおり、Yらは、本件一連の行為により、遅くとも平成30年3月19日までに、Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態に追い込んだ上で、同月20日のY4による12万円の貸付けの撤回により、Aは希望していた城南高校への進学の道が断たれ、また、同日のY2による違約金1億円の支払を求める趣旨の発言により、本件グループを辞めることもできなくなり、自死を選択せざるを得ないほど強い精神的負荷を受けたもので、Aが自死をする原因は、本件一連の行為以外には見当たらない。
 したがって、本件一連の行為とAの自死との間には相当因果関係がある。
(Yらの主張)
 Xらの主張は、否認ないし争う。前記(1)(Yらの主張)のとおり、Yらの行為により、Aが自死を選択せざるを得ないほど強い精神的負荷を受けたとはいえない。
 そして、Aが自死した直接の原因は、希望していた城南高校への進学の道を断たれたことによる絶望感にあり、Aがそのように感じた原因は、X2の平成30年3月20日から同月21日にかけてのAに対する働き掛け等にある。
 すなわち、Aは、通信制の松山東高校を退学し、当時交際していたBと共に全日制の城南高校に入学することを希望していたが、X2は、以前からAが城南高校に入学することを反対していた(ただし、Yらがそのことを知ったのは、Aの死後のことである。)。X2は、平成30年3月20日、Y4がAに対して12万円の貸付けを一時的に留保したことに乗じて、Aに対し、城南高校への進学を断念するように働き掛けた上、同月21日、Aに対し、LINEのメッセージで、制服の購入のキャンセルや城南高校へ入学辞退の連絡をするよう指示するなどした。これにより、Aは、城南高校への入学辞退という現実を突き付けられ、大きな精神的負荷を受けた。このように、Aは、X2の働き掛けにより城南高校への入学が突如断たれたことによる絶望感や城南高校へ進学する旨を伝えていた周囲の者に対する気まずさを覚え、これらに耐えられず自死に至ったものである。
 以上によれば、Yらの行為とAの自死との間に相当因果関係はない。
(3) 争点3(Xらの損害)について
(Xらの主張)
 本件一連の行為によりAが自死したことによるXらの損害は、以下のとおりである。
 X1及びX2 各4414万4792円
(ア) Aに生じた損害を相続したもの
 逸失利益4576万3259円(平成29年の賃金センサスにおける女子・産業計・全学歴計・全年齢平均年収377万8200円を基礎として、これに生活費控除率30%を乗じ、就業可能年数49年に対応するライプニッツ係数17.3035を乗じた金額)及び死亡慰謝料2500万円の合計7076万3259円について、X1、X2及びAの実父の間の遺産分割協議により、X1及びX2が各2分の1を相続していることから、X1及びX2は、それぞれ上記合計額の2分に1に相当する3538万1629円を相続により取得した。
(イ) X1及びX2に生じた固有の損害
 Aの父母としての固有の慰謝料各400万円及び葬儀費用の2分の1相当額として各75万円の合計475万円
(ウ) 弁護士費用 各401万3163円
(エ) 合計 各4414万4792円
 X3及びX4 各220万円
(ア) Aの姉弟としての固有の慰謝料 各200万円
(イ) 弁護士費用 各20万円
(ウ) 合計 各220万円
 (Yらの主張)
 争う。

4 当審における当事者の主張
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(1) Xらの主張
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ア 本件グループにおける活動の過重性について
 原判決は、Aの本件グループにおける活動の過重性に関し、イベントの開催時間のみを拘束時間と捉えて判断し、また、Aの精神的負荷の程度について、Aが16歳であったことや、Aの日常の言動、その置かれた状況、若年者のアイドル活動の特殊性等を十分に考慮することなく、判断している。
 しかし、Xらが原審で主張したAの自死に至るまでの諸々の事実からすれば、Aの活動が肉体的及び精神的に過重であり、Aにおいて正常な認識等が著しく阻害される精神状態に陥っていたことは明らかである。
 加えて、原判決は、Aが、自死の前日以降において、本件グループにおける活動に精神的負担を感じていたことを示すLINE等のやり取りが見当たらないと説示するが、 Aは、平成30年3月20日午後 9時51分、友人に対し、「愛の葉で色々あって」というメッセージを送っているところ(甲112の3)、これは、本件グループにおける活動を無意識的に拒否するAの心情の現れであって、Aが、当時、本件グループにおける活動により追い詰められ、正常な認識等を阻害された状態にあったことを示すものである。
イ 進学費用12万円の貸付けに関するY4の発言について
 原判決は、Y4による進学費用12万円を貸すことができない旨の発言につき、考え方を改めれば、再度、貸し付けてもらえる余地があることは、Aにおいて十分認識することができたと判断している。
 しかし、Aは、Y4の上記発言を受けた直後にインターネットで自死の方法を調べていること、Aにとって、進学費用を借り入れることが可能な相手はY1社しかなく、納付期限も翌々日に迫っていて、時間的にも精神的にも余裕がなかったこと、Aが、Y4の上記発言の後、前記アのとおり、「愛の葉で色々あって」というメッセージを発していることなどからすれば、Aは、Y4の上記発言により、城南高校への進学の道が断たれたと受け止め、追い詰められたと考えるのが自然であって、原判決の判断は誤りである。そして、Y4の上記発言は、従前約束していた貸付けをしないというものであって、それまでの経緯により形成されたAの期待を反故にするものであるから、指導の範疇を逸脱し、違法である。
ウ Y2の違約金1億円の発言について
 原判決は、Y2による違約金1 億円という趣旨の発言が認められないと判断したが、そのように判断するのであれば、なぜAがBやCに対しそのような発言をしたのかについて、証拠のほか、精神医学や心理学等の専門的知見に基づいた詳細な検討が求められるところ、原判決はそのような検討をしていない。
 そして、Xらが原審で主張したとおり、Aが、当時、本件グループの主要メンバーであり、Y1社の収益に大きな寄与をしていたことなど、Y2がAに執着していたことを示す諸々の事実や、平成30 年3 月20 日夜のAとY2との通話の前後における諸々の事実に照らせば、BやCの供述内容は十分に裏付けられており、これらによれば、Y2が前記違約金1億円の発言をしたことは明白である。
エ 個々の行為を理由とする不法行為等の成立について(予備的主張)
 本件一連の行為とAの自死との間に因果関係が認められることは明らかであるが、仮にこれが否定されたとしても、上記ア(業務の過重性)によるY1社の安全配慮義務違反、同イ(貸付撤回行為)によるAの期待権に対する侵害、同ウ(違約金1億円発言)によって、Aに精神的苦痛が生じた。
 上記各行為によるAの精神的苦痛を金銭に換算すれば、上記アにつき2800万円、同イ及びウにつき各1000万円をそれぞれ下るものではなく、また、これらに関する弁護士費用は、上記アにつき280万円、同イ及びウにつき各100万円をそれぞれ下るものではない。
 したがって、Xらは、Yらに対し、予備的に、共同不法行為による損害賠償請求権(Y1社については、選択的に、安全配慮義務違反の債務不履行による損害賠償請求権)に基づき、上記各金員の支払を求める。

(2) Yらの主張
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ア Xらの主張アないしウについて
 いずれも原審で主張したとおりであり、否認ないし争う。
 なお、Xらの主張イのうち、Aが、Y4の発言を受けた直後にインターネットで自死の方法を調べたとの点については、Aは、平成30年3月20日午後4時頃にY1社の事務所を訪れ、進学費用12万円の貸付けを受けることなく、同事務所を退出したものの、Aが、自死に関する情報を検索したのは同日午後5時20分頃以降であったこと、同事務所から、X4が待つゲームセンターまでは自動車で十数分を要すること(乙120) 、Y4の発言は、原判決説示のとおり、考え方を改めれば、再度、貸し付けてもらえる余地があることを十分に認識することができるものであったことからすれば、Aが、自死を意識し始めたのは、Y1事務所を退出した後、自動車での移動中に、X2により、Y1社から進学費用を借り入れることができなくなり、城南高校に進学することもできなくなったと思い込ませるような働き掛けがあったためと考えざるを得ない。
イ Xらの主張エ(個々の行為を理由とする不法行為等の成立)について
 原審は、Xらの上記主張の実質が訴えの追加的変更であることを前提として、当該訴えの変更を許さない旨の決定をしているから、当該主張に係る請求は本件の審理の対象ではない。仮に、Xらの主張エが、控訴審における訴えの追加的変更をいうものであるとしても、提訴から約4年を経過した現時点において、しかも原審においてXらの請求が棄却された後に、新たに個々の行為が単独で不法行為を構成するものであるかなどについて審理を要するものであることからすると、上記訴えの変更は、著しく訴訟手続を遅滞させるものであって、許されないというべきである。

第3 当裁判所の判断

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 当裁判所も、Xらの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、以下のとおり補正し、後記2において当審における当事者の主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の第3の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。

原審の引用部分(付加・補正込み)
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〔※執筆者注:以下、高裁でなされた付加・補正を施した上で原審を引用する〕

1 認定事実(前記前提事実のほか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。)
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(1) AとY1社との間の契約関係について
 Aは、平成27年6月頃(当時中学2年生)、本件グループのオーディションを受けて合格し、本件グループの研修生として活動を開始した。その際、AとY1社は、①同年7月12日付けで「愛の葉ガールズチームE研修生契約」(甲3)を締結した。その後、AとY1社は、②平成28年1月25日付けで「タレント専属B(研修)契約」(甲4)を締結した。(前提事実(2)、甲3、4)
 Aは、平成28年7月から本件グループのレギュラーメンバーになった。その際、AとY1社は、③同月1日付けで「タレント専属A(レギュラー)契約」(甲7)を締結し、Aの活動には報酬が生じるようになった。その後、AとY1社は、④同年12月15日付けで「『愛の葉ガールズ』レギュラーメンバー トレーニング及び専属マネジメント契約」(甲9)を、⑤平成29年10月15日付けで「『愛の葉ガールズ』レギュラーメンバー トレーニング及び専属マネジメント契約」(甲14)をそれぞれ締結した。(前提事実(2)、甲7、9、14)
 上記ア①から⑤までの各契約には、その条項の内容に差はあるものの、Y1社から得た情報についての守秘義務に関する規定があるが、上記ア⑤の契約では、タレント活動その他により知り得たY1社の機密その他営業に係る情報をY1社の許可なく家族を含む他者に開示してはならないとされ(16条1項)、また、平成28年12月15日付けでAとY1社との間で締結された「業務秘密保持契約」(甲10)においては、Aが知り得たY1社又はY1社の取引先等からAに開示された情報で公には入手できない情報をY1社又はその取引先の事前の書面による許可がない限り家族及び第三者に開示又は漏えいしない旨が規定されていた(2条、4条)。
 上記ア③から⑤までの各契約(Aの活動に報酬が発生する契約)には、ペナルティ料に関する規定があり、上記ア⑤の契約においては、本件グループの活動でY1社が出演メンバーを選定したものに正当な理由なく欠席した場合には、1回で当月の報酬の5割をカットする旨の定めがあった(15条1項、12条1項6号、同契約別紙【前提条件2】)。また、上記ア⑤契約においては、Aによる契約の解除は、あらかじめ3か月前に書面で申出を行い、解除後1年間はタレント活動を行わない旨の規定もあった(18条2項)。
 Y1社は、Aに対し、上記ペナルティ料に関する規定をそのまま適用したことはないものの、Aが活動に遅刻した場合等において、ペナルティとしてAの報酬又は報酬の算定の基礎となるポイントを減少させたことがあった。
 (以上につき、甲3、4、7、9、10、14、15、27の1~27の9、乙100、112【23頁】)
 このほか、Aは、Y1社に対し、平成28年1月25日付けで、業務上知り得た情報について漏洩しないこと等を規定した「秘密保持及びインターネット・ソーシャルネットワーキングの利用に関する誓約書」(甲5)を提出した。また、X2は、同年7月29日、Y1社との間で、X2が、本件グループに関わることについて、保護者間で話をしないこと等が規定された覚書を締結した。(甲5、16)
(2) Aの本件グループでの活動内容
 本件グループのメンバーの活動は、地産地消フェアにおける販売応援等のイベント参加及びレッスンの2つがあり、その活動予定は、エンジェルタッチと呼ばれるネットワークシステムを利用して管理されていた。
 平成29年4月から平成30年3月までのAの本件グループにおける活動は、大要、別紙エンジェルタッチ記載一覧のとおりである。また、この活動時間には休憩時間等が一定程度含まれている。
 (以上につき、甲31の1~34、乙26ないし32、112【19、20頁】、弁論の全趣旨)
(3) 本件グループの活動に関するAと関係者とのやり取り等
 Aは、平成29年8月26日、Y2に対し、本件グループの特定のメンバーに対する不満から、本件グループを辞めたいと相談した(甲35の1・2)。
 Aは、平成29年8月30日午後7時42分、Y3に対し、LINEで「今日社長(Y2とE(音響担当の従業員)とお話をして、自分が勘違いをしている事に気がつきました。なので、脱退する事をやめました。これからも愛の葉ガールズを続けます。いろいろと心配をおかけしてすみませんでした。これからもよろしくお願い致します。」とメッセージを送信した。これに対し、Y3は、同日午後7時50分、「次また寝ぼけた事言い出したらマジでブン殴る(*゜-゜)=o)゜o゜)パンチ!」と返信した。(甲20、乙35、弁論の全趣旨)
 Y3は、平成29年9月25日、Aに対し、LINEで、「今週中に事務所来られる日ない?」とメッセージを送信したところ、返信がなかったことから、同日午後6時13分頃、再度、「返事せえや」とメッセージを送信した。これに対し、Aは、同日午後6時23分頃、「お疲れ様です!すみません!見落としてました!」「今週の水曜日レコーディングの時に事務所に行きます!」と返信した。(甲23)
 Aは、平成29年10月4日、Y3に対し、LINEで、過去に本件グループのイベントに参加するため松山東高校の遠足を休んだことがあり、今回は松山東高校に通学するため本件グループの活動を休む旨のメッセージを送信した。これに対し、Y3は、「お前の感想はいらん。学校の判断と親御さんの判断の結果をそれぞれ教えろ。」、「何故学校がダメと結論したのか、親御さんがダメと判断したのか、その理由だ。」、「その理由によって、今後事務所はお前の出演計画を考えにゃならん。そこまで考えて物を言え。」、「具体的にな。単位がどれだけ足りないからもう休めない、とか」などと返信した。(甲21)
 X2は、平成29年11月29日、Y1社のDに対し、平成30年1月1日に8年ぶりにAの実父の実家へ帰省するため、同日、本件グループでのAの活動を休ませたいと相談した。これに対し、Dは、事情は理解できるが、全国区のタレントを目指していく上で、元旦のような世間的に特別な日こそ活動すべきであり、X2にも応援してもらいたいと返答した。(甲26の1・2)
 Aは、平成30年1月15日、Y3に対し、LINEで、本件グループのメンバー同士でミーティングを行い、東京アイドルフェスタ(TIF)に出場しないことに決まったが、Aとしては納得がいかない旨のメッセージを送信した。これに対し、Y3は、「うん。俺もお前に対して色々納得いかん。なので、また話し合おう。」と返信した。続いて、Aは、「私に対してですか!?分かりました!いろいろ教えて下さいm(_ _)m」と返信した。さらに、Y3は、「うむ。貴方の物の考え方受け取り方、その他色々あちこちダメ出ししたい。というか今の貴方の考え方、やり方で本気で全国いけると思ってる?世の中ナメるにも程があるぜ。まあ詳しくはまた話しするわ。」と返信し、その後、数年先まで自分の未来像を描いて、足りないものをリストアップして、それを補うためにレッスンや練習をしていくという計画性がないこと、その場その場の気分と気合いだけで乗り切れると思っていることなどの課題を指摘した。(甲22、乙34、37)
 Aは、X2に対し、平成30年2月11日には、「リーダーしんどい。」、同年3月7日には、「ほんとにげんかい!!」「本気で愛の葉やめたぃ。」などとLINEでメッセージを送信した(甲46、131の2)。
(4) Aが城南高校を受験した経緯等について
 Y2は、Aが、通信制の松山東高校のスクーリングや行事に出席しておらず、入学した約3箇月後には出席日数が足りなくなって、単位を落として留年するような話をしていたこと、Y2からみて、当時、Aは本件グループの活動に熱心に取り組んでいたが、日曜日のイベントと松山東高校のスクーリング等がよく重なることをもどかしく思っていた様子であったことから、同校を退学し、全日制の高校に入り直すことを提案し、Aも全日制の城南高校への進学することを提案し、Aも城南高校への進学を希望するようになった(乙100【33頁】、Y2本人【19~21頁】)。
 その頃、Aは、X2に対し、松山東高校を退学し、城南高校へ進学することを希望していることを伝えた。これに対し、X2は、Aが松山東高校を退学して、全日制の高校に入り直すことについては、基本的に消極的な意向であった。そして、X2は、Aが城南高校へ進学する学費について、X2やX1において協力する旨伝えることはなかった。
 Y2は、Aから、X2及びX1から高校の学費の協力が得られないことを聞き、平成29年12月頃までに、Aに対し、Aが全日制の高等学校へ進学する場合には、Y1社が進学に必要な費用を貸し付けることを約束した。なお、X2の前記のような消極的な意向が、当時、Y2に伝えられることはなかった。
 (以上につき、乙100【34、37頁】、X2本人【39~44頁】、Y2本人【11、12、21、23、24頁】)
 Aは、X2及びX1に事前に報告することなく、平成29年12月26日付けで松山東高校を退学し、この頃、X2は、Aに依頼され、やむなく、Aが城南高校に提出する入学願書を作成した(甲18【11頁】、乙100【34頁】)。
 Aは、平成30年2月6日、全日制の城南高校の調理科を一般入試で受験し、同月13日に合格した。この頃、Aは、Bと交際しており、同人は推薦入試を経て城南高校へ進学することが決まっていた。Aは、Bと城南高校へ進学することを楽しみにしていた。(前提事実(3)イ、甲28【2頁】、証人B【7、8、15頁】)
 城南高校は、一般入試による合格者の入学手続について、入学金3万円の支払期限を平成30年2月23日、施設充実費5万円の支払期限を同年3月22日とし、合格者説明会を同月21日と定めていた。城南高校は、上記各支払期限までに支払がない場合には、入学の意思がないものとして入学許可を取り消すこととし、合格者説明会に無断欠席した場合には、入学辞退とみなすとしていた。(乙12)
 Aは、平成30年2月15日、Y2に対し、城南高校の学費のことについて改めて相談したい旨を伝えた。また、Aは、平成30年2月20日、X2に対し、城南高校の学費を支払うために消費者金融業者から借入れをすることはできないか、Y1社から借金したとしても、返済期限を決めることが困難であること、城南高校へ進学した後は内緒で働いて稼がないと毎月の学費の支払ができないこと、Aが銀行でお金を借りることはできないか等を記したメッセージを送信した。(甲45、105の1・2、144)
 これに対し、X2は、Y1社から借金をすると、AがY1社に縛られることになるのではないかと考え、同月21日、城南高校及び松山市教育委員会に電話し、奨学金の借入手続について確認した(甲81、82、103、X2本人【3、4頁】)。
 その後、Aは、進学先の学科を普通科に変更した(前提事実(3)イ)。
 Y1社は、平成30年2月21日、Aに対し、入学金として3万円を貸し付けた。この際、Y4から保証人の要否についての話はなく、何らの書面も作成されなかったが、その後、Y2の指示により、Y4が借用証書の案を作成した。
 X2は、同月22日、Y4に対し、Aが、Y1社から、同月末までに制服及び鞄代金として6万6000円、同年3月20日までに12万円(学用品代5万円、施設充実費5万円及び寄付金2万円)をそれぞれ借り入れることを申し出た。これを受けて、Y4は、同年3月1日、X2をY1社の事務所に呼び出した上で、同席したAに対し、Y1社からの貸付金として、制服及び鞄代金相当額6万6000円を貸し付けた。また、Y4は、同日、X2に対し、Aに貸し付けることになる合計21万6000円について、Y1社からの報酬や奨学金等により弁済する旨が記載され、保証人欄が設けられた「高校入学に係る費用の借用証書」と題された書面(甲25)を手渡し、Aが未成年者なので、保護者であるX2にAの保証人になってもらうこと、証拠として借用証書を作成することを伝え、同月20日に予定している残りの12万円の貸付けの際に上記借用証書に署名押印して差し入れるよう依頼した。
 (以上につき、甲18、25、乙38、102、X2本人【5頁】、Y2本人【27~29頁】、Y4本人【12頁】)
 なお、A及びX2は、同月20日付けで、上記借用証書の本人欄にA、保証人欄にX2がそれぞれ自署して押印したが、Y1社及びY4には差し入れなかった(甲25)。
 その後、Aは、AとY1社との契約書を探し始め、同月19日頃、これを発見した(甲106、乙38)。
 同月19日には、Aは、Y4に対し、LINEで、借入金について月の報酬からいくら返済に回されたか、借入金の弁済期限がいつになるかを確認するメッセージを送付した(甲38)。
(5) Aが自死するに至る経過について
 X2は、平成30年3月20日頃までに、Y4に対し、電話で、Aの生活態度等に関する不満を述べた。その内容は、X2が、Aに対し、高校生活が始まるから部屋の片付けをするように言ってもこれをしない、Aが、門限の午後10時になっても帰宅せず、外で食事をしてくるなどと言って夜遊びをしている、X2が、Aに対し、そのような生活態度で、高校生活と本件グループの活動を両立できるのかと尋ねたところ、Aは、借りたお金は、本件グループを辞めてアルバイトをして返せばよいと答えたため、X2がAに対し、佐々木社長(Y2)は、そのようなつもりでお金を貸すのではないのではないか、それでは「恩知らず」であると言って注意したなどというものであった。Y4は、これを聞いて、X2が、Y4からもAに注意するよう期待しているものと受け止め、Aに対し説教をしてよいかを尋ねたところ、X2はこれを了承した。(甲18、乙100、X2本人【8~9、29頁】、Y4本人【2~5頁】)
 A及びX2は、平成30年3月20日午後4時頃、高校進学費用の残りの12万円を借りるために、Y1社の事務所を訪問した。
 Y4は、同事務所の応接室において、X2の同席の下、Aに対し、門限の午後10時を守っておらず帰宅時間が遅いこと等の生活態度の問題点を指摘して注意するとともに、お母さん(X2) を悲しませてはいけない、このような状態で仕事と学校の両立ができるのかなどと言った。これに対し、Aは、自分は保育士になりたいので、学校に行きたいこと、Y1社との今の契約期間が終わったら、本件グループを辞めること、ただ、それまでに研修生を自分のレベルまで上げること、借りたお金はアルバイトをして返すこと等を話した。これに対し、Y4は、今辞めることを考えるべきではなく、他に考えることがあることを指摘し、中途半端な考えの人にはお金を貸せないと強い口調で述べて、Aに対し、12万円を交付せず、「自分でもう一度ちゃんと考えて、社長(Y2)に連絡をしなさい。」と話した。Aは、落ち込んだ様子で、Y1社の事務所から退出した。
 A及びX2は、X4が待つゲームセンターまで車で行き、その後、Aは、ゲームセンターから一人で帰宅した。
 (以上につき、甲18、455、乙38、102、X2本人【9~12頁】、Y4本人【4~6頁】、Y2本人【13頁】)
 Aは、同日午後5時22分頃から午後6時15分頃までの間、自らのスマートフォンで、「簡単に死ぬ方法」などの自死の方法に関するウェブサイト及び「中卒で取得できる資格一覧」に関するウェブサイトを閲覧した(甲30)。
 Y4は、同日午後6時頃、自宅にいたY2に電話を掛けて、Aに注意をして12万円をその場では交付しなかったことを報告した上で、後にAからY2に連絡があるはずであるから、話を聞いてあげてほしいこと、Y2の自宅に12万円を持参するから、本日中にAに渡すことを伝えた。その後、Y4は、Y2の自宅に12万円を持参した。(乙100、102、Y4本人【7頁】、Y2本人【14頁】)
 Aは、同日夜、Bの家に泊まりに行くことになっていたが、同日夕方、同人に対し、今日は泊まりに行けそうにないという連絡をした。Bは、心配になり、Aの自宅に行き、玄関前でAから話を聞いたところ、Aは、城南高校に行けなくなったと言って、ひどく落ち込んでいる様子であった。X2は、同日午後8時頃に帰宅したが、その際、Aは、玄関先でBと一緒にいた。その後、A、B及びX2は、Aの部屋に行き、Aの今後について約2時間にわたって話し合いをした。Aは、この時点では、Y1社から進学費用を借りることができなくなったと思っており、話合いの中で、社長(Y2)に裏切られたなどと不満を述べていた。そして、X2がAに対し、城南高校への進学を辞退しようと話したところ、Aもこれを受け入れた。また、その際に、本件グループも辞めるとの話題も出た。その後、Aは、Bの自宅に泊まりに行った。(甲18、28、証人B【3、4、10~11、13~14頁】、X2本人【12、13、31~33、38~39頁】)
 Y4は、同日午後9時32分にY2に電話したところ、Aからの連絡はないとのことだったので、同日午後9時34分、X2に電話し、A自らY2に連絡するよう伝えるとともに、貸付け予定の現金12万円はY2の下に準備しているが、Aには話さないように言った(甲18、乙102、110、X2本人【15、16頁】、Y4本人【7、8頁】)。
 Aは、同日午後9時45分から50分頃にかけて、友人に対して、愛の葉でいろいろなことがあり、城南高校への進学を辞退する旨のメッセージを送信した(甲112の1)。
 Y4は、同日午後9時59分頃、X2に対し、「どういう話になったか、できれば10時半までに連絡ください」とメッセージを送信し、X2は、AからY2に連絡させると返信した。X2は、同日午後10時23分頃、Y4に電話をし、その際、Y4は、AからY2に電話をするよう再度伝えた。
 同日午後10時30分頃、X2とY2は電話で話をした。その際、Y2は、Aに貸す予定だった12万円は自分が持っているので、AにY2へ電話するようX2に依頼した。その後、X2は、同日午後10時48分頃から同時58分頃までの間、Aに対し、Y2に急いで電話をするようメッセージを送信し、Aは「はい」と返信した。
 (以上につき、甲18、105の3・4、乙38、100、110、X2本人【15、16頁】、Y4本人【7~9頁】、Y2本人【15頁】)
 AとY2は、同日午後11時8分頃から、3回に分けて合計約20分間にわたり電話で会話をした(甲37)。一方、X2は、同日午後11時14 分頃、Y4に対し、「御迷惑お掛けして申し訳ありません。」というメッセージを送信した。これに対し、Y4は、Aがしっかり考えを改めて高校に行けるよう、私達大人も一緒に頑張りましょうというつもりで、X2に対し、「頑張りましょう」というメッセージを送信した(乙38、102【7頁】、Y4本人【9 頁】)。その後、AとX2は、同日午後11時25分頃、約2分間にわたり電話で会話をした(甲105の4)。その後、AとY4は、同日午後11時30分頃、約8分間にわたり電話で会話をした。その際、Aは、全日制の高校に行くのを辞めたので、翌日のイベントには最初から参加するという話をした。Y4は、高校進学を辞めるという話になるとは思っていなかったため、驚き、Aに理由を尋ねたところ、「母(X2)と相談して決めたので、いろいろと迷惑を掛けてすみません。」などと話していたため、このときは、それ以上、事情を聞くことをしなかった。(甲38、乙102【7頁】、Y4本人【9、10頁】)。
 Aは、平成30年3月21日午前7時31分、Cに対し、城南高校を辞退する旨をLINEで伝えた(甲110の1・2)。
 Aは、同日午前8時2分頃、X2に対し、LINEで、「どうやっていく…?」とメッセージを送信し、これに対し、X2は、「どこに」、「定時か通信にしたんやろ?」と返信した。Aは、「そよ」と返信し、さらに、当日、本件グループのイベントが行われる場所を送信したことから、X2は、自転車で行けばよい旨回答した。
 さらに、X2は、同日午前8時48分頃、Aに対し、「制服キャンセルでいいんやろ?」とメッセージを送信し、これに対し、Aは、「うん」と返信した。その後、X2は、同日午前9時58分頃、Aに対し、「高校には必ず電話」、「まためんどうになるよ!やる事やらな」とメッセージを送信したが、Aがこれを見ることはなかった。
 (以上につき、甲18、105の5・6)
 AとBは、Cの運転する車でBの自宅から車でAの自宅へ向かい、Aは帰宅した。その後、Bは、城南高校の合格者説明会に参加した。Aが帰宅した後、Aは、リビングで、X2やX4と過ごしていたが、同日午前9時40分頃、X2、X1及びX4がゲームセンターに出掛けたため、その後、Aは、自宅で一人となった。(甲18、455、証人B【4~5、7頁】)
 この間、Y4は、同日午前9時23分頃、Aに対し、LINEで、城南高校の合格者説明会が終わったら電話するようメッセージを送信した。これに対し、Aは、同日午前9時32分頃、「学校に行かないことになりました」と返信した。その後、Y3は、同日、午前9時34分頃、Aに対し、電話を掛けて約1分間会話をした。(甲39)
 Aは、同日午前9時40分頃、自身のスマートフォンで、自死の方法に関するウェブサイトを閲覧した(甲48)。
 Aは、午前9時48分頃、Bや他の友人に対し、「いつもありがとう」などとメッセージを送信した(甲40、41)。
 Aは、その後、自宅で首をつって自死した(前提事実(4))。

2 争点1(本件一連の行為が違法行為又は安全配慮義務違反に当たるか)について
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(1) Xらは、本件一連の行為、すなわち、Yらが、①本件グループで過重な活動等をさせて、Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせ、②Y4がAに対する高校進学費用12万円の貸付けを撤回し、③Y2が本件グループを辞めるなら違約金1億円を支払えという趣旨の発言をしたという一連の行為が違法又は安全配慮義務に違反し、これによりAが自死を選択せざるを得ないほど強い精神的負荷を受け、自死に至ったと主張する。
(2) そこで、まずはAの本件グループでの活動について検討する。
 前記1(2)の認定事実によれば、本件グループの平成29年4月から平成30年3月までの活動状況は、大要、別紙エンジェルタッチ記載一覧のとおりであるところ、時期によって繁忙度が異なるものの、概ね、1週間のうち、平日3日間の夕方から午後9時ないし10時頃までにレッスン等を行い、土曜日、日曜日及び祝日にイベント等を行っているが、土日祝日においてもイベントのない日もあり、また、これらの活動時間には休憩時間等が一定程度含まれていることが認められる。
 Aは、平成30年当時は本件グループのリーダーであり(前提事実(2))、上記活動時間以外にも、Y1社の関係者やメンバーと連絡を取り合う等の付随的な活動を行っていたことは認められるが(甲148ないし439)、その連絡の内容をみても、Aが著しい精神的な負担を感じていたことを窺わせるものではなく、本件グループにおける活動時間及びその内容がAにとって正常な認識等が阻害されるほどに過重であったとまでは認められない。
 また、Aは、X2やY2に対し、本件グループを辞めたい旨述べることがあったことは認められるが(認定事実(3)ア及びキ)、このような意向が恒常的に示されていたわけではなく、苦楽を伴う本件グループの活動中に感じた消極的な感情をその都度表現していたという域を出ないというべきである。
 Xらが指摘するY3等のAに対するメッセージ(認定事実(3)イないしカ)については、確かに、「マジでブン殴る」、「お前の感想はいらん」といった強い文調で粗野な表現が含まれているものの、他方で、そのような表現の後に絵文字が含まれていたり(認定事実(3)イ)、具体的な指導内容が述べられているものもあり(認定事実(3)カ)、メッセージ全体を通してみると、本件グループの活動に関して、Aを叱咤して奮起を促す趣旨と解される。そして、これらのメッセージは、遅いものでもAが自死した平成30年3月21日から2か月以上前に送信されており、Y3等のメッセージにより、平成30年3月20日頃、Aが精神的に追い詰められていたとはいえない。
 その他、Xらが指摘する守秘義務も、前記1(1)の認定事実によれば、Y1社や取引先に関する営業活動上の機密事項を対象としているものといえ、Aが家族等に対して本件グループにおける活動について相談することを制限するものとはいえず、ペナルティに関する規定もその適用が現実化したとはいえないことからすると、AとY1社との間で締結されたタレント契約等の契約条項によってAに具体的な不利益ないし精神的負担が生じたとも認められない。
 そして、Aの自死の前日以降の事実経過(認定事実(5))において、Aが本件グループの活動に精神的負担を感じていたことを示すLINE等のやり取りが見当たらないことも併せ考えると、Aが本件グループでの活動により、正常な認識等が阻害される程度の強い精神的負荷がかかっていたとは認められない。
(3) 次に、高校進学費用12万円の貸付けに関するやり取りについて検討する。
 前記認定事実によれば、Aは、平成30年2月当時、既に松山東高校を退学し、交際相手のBと同じ城南高校に進学することを楽しみにしており、進学費用についてはX2やX1から協力を得られず、消費者金融からの借入れ等も模索する中で、最終的にY1社から貸付けを受ける予定であったところ(認定事実(4)イないしキ)、同月20日午後4時頃、Y4から同月22日が納付期限であった城南高校の施設充実費5万円を含む進学費用12万円について、中途半端な考えの人にはお金を貸すことができないなどと言われて(認定事実(5)イ)、これを、Y1社から進学費用を借りることができなくなったものと受け止め(同(5)オ)、城南高校に進学することができないと考え、落ち込んだ様子であり、その直後である同日午後5時22分頃からインターネットで自死の方法を調べていたことが認められる(認定事実(5)イ、ウ)。このような事実経過に照らすと、Aは、Y4の発言を相当程度重く受け止めたことは否定できない。
 しかしながら、Y4は、X2からAの生活態度等について相談を受け、X2の了承を得た上で、Aに対し、X2から聞いていたAの生活態度や考え方の問題点を指摘して、そのような考え方では12万円を貸し付けることはできない旨を伝えたものであるが(認定事実(5)ア、イ)、Aにおいて、城南高校の施設
充実費の納付期限が翌々日に迫っている中で、同日までに、自らの考えを改めることによって、再度、上記12万円を貸し付けてもらえると認識することができたとまでは認められない。しかし、Y4は、A及びX2と話した直後に、準備していた12万円をY2に手渡しており、その後も、Y4からX2に対し、12万円はY2の下にあることを伝えるとともに、複数回にわたりAからY2に連絡するよう伝えていること(認定事実(5)エ、カ、ク)からも、Y4は、X2からの相談を踏まえ、Aに反省させた上でY2からAに貸付金を交付させる意図を有していたことは明らかである。
 そうすると、本件におけるY4の対応は、X2の相談内容を踏まえて、X2の了承を得た上で、Aに対して生活態度や考え方を改めるよう指導する趣旨で行ったものということができ、その後のY4の言動も踏まえると、12万円の貸付けについても一時的に留保する趣旨で、これを交付しなかったものということができる。そして、Y4による12万円の貸付けの留保がされる以前に、Aが自死する可能性があったことを窺わせる具体的な兆候も何ら表れていないこと(弁論の全趣旨)からすると、Y4による上記貸付けの留保をめぐるY4の言動は、Aがこれを重く受け止めた面はあるものの、その客観的な態様に照らせば、X2の了解を踏まえた指導の範疇を超えるものであるとは認められない。
(4) 最後に、Y2による違約金に関する発言の有無について検討する。
 Xらは、Y2が、平成30年3月20日午後11時頃、Aに対して本件グループを続けないのであれば違約金1億円を支払えという趣旨の発言をした旨を主張する。
 確かに、前記認定事実によれば、Bも同席した同日のAとX2との話し合いの結果、Aが城南高校への進学を諦めるとともに、本件グループを辞めることが話題になっており(認定事実(5)オ)、また、CがAを自宅に送る車内で、AがY2から本件グループを辞めるなら違約金1億円を支払えと言われたと述べていた旨のB及びCの供述等(甲28、29、証人B)はある。
 しかしながら、Y2は、Aが死亡した直後から一貫して、違約金として1億円を支払えとの発言をしたことについては、明確に否定する供述をしているところ(甲445の各枝番、Y2本人)、上記のB及びCの供述等の他にY2から上記発言がされたことを的確に示す証拠はない。また、B及びCの供述等によっても、Y2がいかなる経緯ないし文脈で上記の発言をしたかは具体的に明らかではない。
 むしろ、前記1(5)の事実経過に照らすと、当時のAと関係者とのやり取りは、城南高校への進学の可否が中心になっており、Aが同日午後9時45分頃に友人に送ったメッセージにおいても、城南高校への進学を辞退することが伝えられているものの、Aが本件グループを辞めることは伝えられておらず、A自身も、平成30年3月21日朝のX2とのLINEでのやり取りの中で、何らの前置きもなく、同日開催される本件グループのイベントに出席することを前提とするやり取りをしていること(認定事実(5)カ、キ、ク、サ)からすると、同月20日のAとY2との電話において、本件グループからの脱退やそれに伴う違約金が1億円であるとのやり取りがされたというのは、不自然な面があることは否定できない。また、Aは、同月21日、Cの運転する自動車で帰宅した後、リビングでX2と一緒にいたのであり、X2が出かけるまでの間に、X2に、Y2から発言された内容について話す機会があったにもかかわらず、X2に対して、Y2から違約金1億を払うように言われた旨の話をした形跡はうかがわれない(認定事実(5)シ、弁論の全趣旨)。
 そうすると、平成30年3月20日のBも同席したAとX2との話し合いにおいて、本件グループを辞めることが話題になっていたとしても、その後のY2との話において、Aが本件グループを辞める話が出ていたかについては、疑問の余地があるといわざるを得ない。
 以上によれば、Y2が、Aに対し、本件グループを続けないのであれば違約金1億円を支払えという趣旨の発言をしたとは認められない。
(5) まとめ
 以上によれば、本件一連の行為のうち、Y2がAに対し本件グループを続けないのであれば違約金1億円を支払えという趣旨の発言をしたとの事実は認められない。また、Aが本件グループでの活動により、正常な認識等が著しく阻害される精神状態に追い込まれるほど強い精神的負荷がかかったとは認められず、さらに、Y4による高校進学費用12万円の留保についても、X2の相談内容を踏まえ、同人の了承の下で行ったものであり、指導の範疇を超えるものとまでいうことはできない。そして、本件一連の行為(Y2の違約金に関する発言を除く。)の全体を通してみても、本件グループでの活動が前記(2)の程度にとどまり、Aに強い精神的負荷がかかっていたとはいえないことからすると、その後のY4の発言をも一体のものとして考慮しても、これらの行為がAを自死に至らしめる違法行為又は安全配慮義務違反に該当するものとは認められない。
 なお、前記認定事実によれば、Y4の貸付けの留保直後にAが行ったインターネット検索では、自死の方法のみならず、中学卒業のみで取得できる資格を調べており(認定事実(5)ウ)、その時点では、Aの心情が相当揺れ動いていたものと推認される。そして、AがX2との話し合いで城南高校への進学を諦めて自死に至るまでの間には、具体的な内容を証拠上確定することが困難ではあるが、X2との相当程度の時間に及ぶ話し合いの他、Y2ら複数の者との会話があり(認定事実(5)オ、ケ、ス)、翌朝には、X2からAに対して、再度、城南高校への進学辞退を確認するメッセージの送信(同サ)もされているところである。
 前記認定事実((4)エ及び(5)イ、ウ、オ)によれば、Aは、当時付き合っていたBが進学する予定であった城南高校への進学を楽しみにしていたものであり、Y4から進学資金の交付を受けられなかった直後から自死の方法をインターネット上で検索しており、その後、AとX2との話合いの中で、城南高校への進学を辞退する意思を明確にし、その翌日自死していることからすると、通信制高校を退学し、その後、入学準備をしていた城南高校への進学ができないと考えたことが、Aの自死に少なからぬ影響を与えていたものということはできるが、上記のとおり、Aが城南高校進学を諦めたAとX2との会話の内容やその後のAとY2らとの会話の内容は証拠上明確に認定できない上、Aの自死に関して、遺書等の自死の理由が明確に表れたものは見当たらないこと(弁論の全趣旨)からすると、結局、Aが自死を決断した直接的な契機を明らかにすることは困難であるといわざるを得ず、本件一連の行為(Y2の違約金に関する発言を除く。)により、Aが自死に至ったということはできない。以上によれば、Xらが主張する本件一連の行為のうち、YらがAに過重な活動をさせていたこと等により、Aを正常な認識等が著しく阻害される精神状態にさせたこと、Y2がAに対し、本件グループの活動を続けないのであれば違約金1億円を支払えという趣旨の発言をしたことは認められず、Y4がAに対し、進学費用12万円の貸付けを留保する旨伝えたことは認められるものの、当該行為をもって、不法行為法上違法ということはできない。したがって、Yらの共同不法行為及びY1社の安全配慮義務違反はいずれも認められない。

2 当審における当事者の主張に対する判断
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(1) 本件グループにおける活動の過重性について
 Xらは、原判決が、Aの本件グループにおける活動の過重性に関し、イベントの開催時間のみを拘束時間と捉えて判断し、また、Aの精神的負荷の程度について、Aが16歳であったことや、Aの日常の言動、その置かれた状況、若年者のアイドル活動の特殊性等を十分に考慮することなく、判断したなどと主張する。
 しかし、原判決が、Aの活動の過重性について、イベントの開催時間のみを捉えて判断したり、Aの日常の言動やその置かれた状況等を考慮することなく判断したものでないことは明らかである。
 また、Xらは、Aが、自死の前日である平成30年3月20日午後9時51 分に友人に送ったメール(「愛の葉で色々あって」を内容とするもの)の存在は、Aが、当時、本件グループにおける活動により追い詰められ、正常な認識等を阻害された状態にあったことを示すものであると主張するが、証拠(甲112の3) によれば、同メールは、Aが、高校進学を辞退したことに関して、友人に対し、「愛の葉で色々あって」と説明したものであると認められ、同メールにより、Aが、本件グループの活動により追い詰められ、正常な認識等を阻害された状態にあったことが示されているとまでは認められない。
 そして、Xらが主張するAの自死に至るまでの諸々の事実を考慮しても、Aが本件グループにおける活動により正常な認織等を著しく阻害される状態にあったとは認められないから、この点に関するXらの主張は採用することができない。
(2) 進学費用12 万円の貸付けに関するY4の発言について
 Xらは、Aは、Y4の進学費用12万円を貸すことができない旨の発言により、城南高校への進学の道が断たれたと受け止め、追い詰められたと考えるのが自然であり、上記発言は、指導の範疇を逸脱し、違法であると主張する。
 この点、Aが、平成30年3月20日、Y1社の事務所においてY4から上記発言を聞いた後、遅くとも同日午後8 時頃からのX2との話合いの時点で、Y1社から進学費用を借りることはできなくなったと思っていたと認められることは、補正の上引用する原判決の第3 の1 の認定事実(5)オのとおりである。しかし、Y4は、Aとの上記やり取りの直後、上記12 万円をY2に手渡している上、上記やり取りの際も、Aに対し、Y2に連絡するよう伝えていること、さらに、Y4は、その後複数回にわたって、X2にも、AからY2に連絡するように伝えていること等に照らせば、Y4は、X2の話を受けて、その了解の下、Aに対し、生活態度等の注意をし、進学費用12万円の貸付けを留保する旨伝えたものの、Aに反省させた上で、納付期限に間に合うように、Y2を通じて、上記12万円をAに渡すことを意図していたことは明らかである。このようなY4の一連の行動からすれば、Y4のAに対する行為は、指導の範疇を超えるものではなく、不法行為法上違法ということはできない。
 したがって、Xらの上記主張は採用することができず、その余の主張も前記認定判断を左右するものとはいえない。
(3) Y2の違約金1億円の発言について
 Xらは、平成30 年3 月20 日夜のAとY2との通話の前後における諸々の事実等に照らせば、B及びCの供述内容は十分に裏付けられており、これらにより、前記違約金1億円の発言の存在は明白であると主張する。
 しかし、引用に係る原判決の第3の2(4)のとおり、Y2は、一貫して上記発言をしたことを明確に否定していること、B及びCの供述等によっても、Y2がいかなる経緯ないし文脈で当該発言をしたかは明らかでないこと、Y2がAに当該発言をしたとすると、Aが、X2との間で、翌日の本件グループのイベントについて、特段の留保をすることなく、出席を前提とするLINEのやり取りをしていることや、Y4が、当該発言について、Aから全く聞いていないことと整合し難いことなどからすると、Bらの供述等によって、Y2が前記違約金1億円の発言をしたと認めることはできない。
 したがって、Xらの上記主張も採用することができない。
(4) 個々の行為を理由とする不法行為の成立について
 Xらは、本件一連の行為とAの自死との間に因果関係が認められないとしても、Yらには、本件一連の行為を構成する個々の行為について、不法行為又は安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償責任がある旨主張する。
 この点、Xらは、原審においても、令和3年10月8日付け準備書面(7)において、請求原因の予備的主張として、上記と同趣旨の主張をしたところ、原審は、同月20日、Xらの上記主張の実質は、訴えの追加変更であるとした上で、同準備書面による訴えの追加的変更は許さない旨の決定をしたことが記録上明らかである。そして、原審は、同決定において、①本件訴えは、平成30年10月に提起された後、本件一連の行為とAの自死との間の因果関係の存否及びその根拠となる事実関係を中心として、争点及び証拠の整理が行われ、Yらの防御活動がされてきたこと、②和解協議が打ち切りとなった令和3年9月の第8回弁論準備手続期日において、今後の証拠調べについて協議がされ、同年12月13日及び同月21日に証拠調べ(人証)が行われることとされ、同年10月の第9回弁論準備手続期日において人証の採否の決定及び弁論準備手続の終結が予定されていたところ、Xらが、上記準備書面による訴えの追加的変更を申し立てたこと、③これらの審理の経過に鑑みると、上記訴えの追加的変更は、訴えの提起からほぼ3年が経過した後、弁諭準備手続の終結間際にされたものである上、この変更を許した場合には、Xらの主張する新請求の責任原因が本件一連の行為を構成する個々の行為であり、その主張する行為自体は旧請求と異ならないとしても、Aの自死と本件一連の行為との因果関係を中心に防御活動を行っていたYらにおいて、上記個々の行為の違法性やその程度、個々の行為による損害の発生の有無等について、更に反論・反証する機会を設けて、争点及び証拠の整理を続行する必要があり、そのために一定の審理期間を要することから、予定されていた証拠調べの期日を延期せざるを得ず、同期日は相当程度先になることが見込まれること、④したがって、上記訴えの追加的変更を許すことは、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなって、不当であるから、民訴法143条4項により、これを許さないという内容の説示をしたことが記録上明らかである。
 上記決定は、その理由及び本件記録により認められる原審の審理経過に照らし、相当と認められるから、Xらが原審で主張した上記予備的主張に係る請求は、原審の審理の対象となっておらず、当審にも移審していない。
 そして、Xらの主張を当審における訴えの追加的変更であると解したとしても、原判決を補正の上引用して説示したところによれば、上配予備的主張に係る各個別の不法行為等はいずれもその成立を認めることができないというべきである。
 したがって、この点に関するXらの主張は採用することができない。
(5) その他、Xらが種々主張するところを考慮しても、以上の認定判断が左右されるものとはいえない。

第4 結論

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 以上によれば、Xらの請求はいずれも理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がない。
 よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 志田原信三
裁判官 影浦直人
裁判官 吉田純一郎

 別紙
 当事者目録
 松山市〈以下省略〉
 控訴人 X1
 松山市〈以下省略〉
 控訴人 X2
 松山市〈以下省略〉
 控訴人 X3
 松山市〈以下省略〉
 控訴人 X4
 同法定代理人親権者 X2
 上記4名訴訟代理人弁護士 望月宣武
 同 河西邦剛
 松山市〈以下省略〉
 被控訴人 Y1株式会社
 同代表者代表取締役 Y2
 松山市〈以下省略〉
 被控訴人 Y2
 愛媛県伊予郡〈以下省略〉
 被控訴人 Y3
 愛媛県伊予郡〈以下省略〉
 被控訴人 Y4
 上記4名訴訟訟代理人弁護士 渥美陽子
 同 松永成高
 同 宮西啓介
 同 宮本祥平
 以上

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  5. 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道

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