コンテンツにスキップ

明治元訳新約聖書(大正4年)/馬太傳福音書(5)

提供: Wikisource

第二十一章

[編集]

………………………………
15 祭司(さいし)の長(をさ)と學者(がくしゃ)たち其行(そのなし)たまへる奇事(ふしぎなわざ)を見(み)また兒童輩(こどもら)の殿(みや)にて呼(よば)ハりダビデの裔(こ)ホザナよと云(いふ)を聞(きゝ)て怒(いかり)を含(ふくみ)
16 イエスに曰(いひ)けるハ彼等(かれら)が言(いふ)ことを聞(きく)やイエス答(こたへ)て曰(いひ)けるハ然(しか)り嬰兒乳哺者(をさなごちのみご)の口(くち)に讃美(さんび)を備(そなへ)たりと録(しる)されしを未(いま)だ讀(よま)ざる乎(か)
17 遂(つひ)に彼等(かれら)を離(はな)れ都城(みやこ)を出(いで)てベタニヤに往(ゆき)そこに宿(やど)れり


18 翌(あくる)あさ都城(みやこ)へ返(かへ)るとき飢(うゑ)けれバ
19 路(みち)の旁(ほとり)にある一(ひとつ)の無花果(いちじく)の樹(き)を見(み)て其處(そのところ)に来(きた)りしに葉(は)の他(ほか)に
[千六百八十三] 何(なに)も見(みえ)ざりしかバ今(いま)よりのち永久(いつまで)も果(み)を結(むす)ぶこと得(え)ざれと之(これ)に曰(いひ)たまひけれバ無花果立刻(いちじくたちどころ)に枯(かれ)ぬ
20 弟子(でし)これを見(み)て奇(あやし)み曰(いひ)けるハ無花果(いちじく)の枯(かる)ること何(いか)に速(はやき)や
21 イエス答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるハ我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)んもし信仰(しんかう)ありて疑(うたが)ハずバ此無花果(このいちじく)に於(おけ)るが如耳(ごときのみ)ならず此山(このやま)に命(めい)じ此(ここ)より移(うつ)されて海(うみ)に入(いれ)よと云(いふ)とも亦成(またなら)ん
22 且(かつ)なんぢらが信(しん)じて祈(いの)らバ求(ねが)ふ所(ところ)ことゞゝく得(う)べし
23 イエス殿(みや)に入(いり)て教(をしへ)たるとき祭司(さいし)の長(をさ)および民(たみ)の長老(としより)たち來(きた)り曰(いひ)けるハ何(なに)の権威(けんゐ)を以(も)て此事(このこと)をなすや誰(たが)この権威(けんゐ)を爾(なんぢ)に予(あたへ)しや
24 イエス答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるハ我(われ)もし一言(ひとこと)なんぢらに問(とは)ん我(われ)にその事(こと)を告(つげ)なバ我(われ)も何(なに)の権威(けんゐ)をもて之(これ)を行(なす)といふことを爾曹(なんぢら)に曰(いふ)べし
25 ヨハ子のバプテスマハ何處(いづこ)よりぞ天(てん)よりか人(ひと)よりか彼等(かれら)たがひに論(ろん)じ曰(いひ)けるハ若(も)し天(てん)よりと云(いは)バ然(さら)バ何(なに)ゆゑ信(しん)ぜざるかと云(いは)ん
26 もし人(ひと)よりと云(いは)バ我儕民(われらたみ)を畏(おそ)る蓋(そは)みなヨハ子を預言者(よげんしゃ)と爲(すれ)バなり
27 遂(つひ)に答(こたへ)て知(しら)ずと曰(いふ)イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは我(われ)も何(なに)の権威(けんゐ)を以(も)て之(これ)を行(なす)か爾曹(なんぢら)に語(かた)らじ
28 爾曹(なんぢら)いかに意(おも)ふや或人二人(あるひとふたり)の子(こ)ありしが長子(あに)に來(きた)りて曰(いひ)けるハ子(こ)よ今日(けふ)わが葡萄園(ぶだうばたけ)に往(ゆき)て働(はたら)け
29 答(こたへ)て否(いな)と曰(いひ)しがのち悔(くい)て往(ゆき)たり
30 また次子(おとうと)にも前(まへ)の如(ごと)く曰(いひ)けるに答(こたへ)て君(きみ)よ我往(われゆく)べしと曰(いひ)しが遂(つひ)に往(ゆか)ざりき
31 此二人(このふたり)のもの孰(いづれ)か父(ちゝ)の旨(むね)に遵(したが)ひし彼等(かれら)いひけるハ長子(あに)なりイエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん税吏(みつぎとり)および娼妓(あそびめ)ハ爾曹(なんぢら)より先(さき)に神(かみ)の國(くに)に入(いる)べし
32 夫(それ)ヨハ子義道(ただしきみち)をもて來(きた)りしに爾曹(なんぢら)これを信(しん)ぜず税吏娼妓(みつぎとりあそびめ)は之(これ)を信(しん)じたり爾曹(なんぢら)これを見(み)てなほ悔改(くいあらた)めず彼(かれ)を信(しん)ぜざりき


33 また一(ひとつ)の譬(たとへ)を聞(きけ)ある家(いへ)の主人葡萄園(あるじぶだうばたけ)を樹(つく)り籬(まがき)を環(めぐ)らし其中(そのなか)に酒榨(さかぶね)をほり塔(ものみ)をたて農夫(のうふ)に貸(かし)て他(ほか)の國(くに)へ往(ゆき)しが
34 果期(みのりのとき)ちかづきけれバ其果(そのみ)を収(とら)ん爲(ため)に僕(しもべ)を農夫(のうふ)のもとに遣(つかは)せり
35 農夫(のうふ)と其僕等(そのしもべたち)
[千六百八十四] を執(とら)へ一人(ひとり)を鞭(むちう)ち一人(ひとり)を殺(ころ)し一人(ひとり)を石(いし)にて撃(うて)り
36 また他(ほか)の僕(しもべ)を多(おほ)く遣(つかは)しけるに之(これ)にも前(まへ)の如(ごと)くせり
37 我子(わがこ)ハ敬(うやま)ふならんと謂(いひ)て終(つひ)に其子(そのこ)を遣(つかは)しゝに
38 農夫等(のうふども)その子(こ)を見(み)て互(たがひ)に曰(いひ)けるハ此(こ)ハ嗣子(あとつぎ)なり率(いで)これを殺(ころ)して其産業(そのさんげふ)をも奪(とる)べしと
39 即(すなは)ち之(これ)を執(とら)へ葡萄園(ぶだうばたけ)より逐出(おひいだ)して殺(ころ)せり
40 然(され)バ葡萄園(ぶだうばたけ)の主人(あるじ)きたらん時(とき)にこの農夫(のうふ)に何(なに)を爲(なす)べき乎(か)
41 彼等(かれら)イエスに曰(いひ)けるハ此等(これら)の惡人(あしきもの)を甚(いた)く討滅(うちほろぼ)し期(とき)に及(および)てその果(み)を納(をさむ)る他(ほか)の農夫(のうふ)に葡萄園(ぶだうばたけ)を貸予(かしあた)ふべし
42 イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるハ聖書(せいしょ)に工匠(いへつくり)の棄(すて)たる石(いし)ハ家(いへ)の隅(すみ)の首石(おやいし)となれり是主(これしゅ)の行給(なしたまへ)ることにして我儕(われら)の目(め)に奇(あやし)とする所(ところ)なりと録(しる)されしを未(いま)だ讀(よま)ざる乎(か)
43 是故(このゆゑ)に我(われ)なんぢらに告(つげ)ん神(かみ)の國(くに)を爾曹(なんぢら)より奪(うばひ)その果(み)を結(むす)ぶ民(たみ)に予(あたへ)らるべし
44 この石(いし)の上(うへ)に墜(おつる)ものハ壞(やぶれ)この石上(いしうへ)に墜(おつ)れバ其(その)もの砕(くだ)かるべし
45 祭司(さいし)の長等(をさたち)およびパリサイの人(ひと)かれの譬(たとへ)を聞(きゝ)おのれらを指(さし)て言(いへ)るを識(しり)
46 イエスを執(とら)へんと欲(おも)ひ謀(はかり)しかど唯民(たゞたみ)を畏(おそれ)たり蓋(そは)かれを預言者(よげんしゃ)とすれば也(なり)

第二十二章

[編集]

[1] イエス彼等(かれら)に答(こたへ)てまた譬(たとへ)を語(かた)りけるハ
2 天國(てんこく)は或王(あるわう)その子(こ)の爲(ため)に婚筵(こんえん)を設(まうく)るが如(ごと)し
3 婚筵(こんえん)に請(まねき)おける者(もの)を迎(むかへ)ん爲(ため)に僕(しもべ)たちを遣(つかは)しゝかど彼等(かれら)きたることを好(この)まず
4 又(また)ほかの僕(しもべ)を遣(つかは)さんとして曰(いひ)けるハ我(わ)が筵(ふるまひ)すでに備(そなは)れり我(わ)が牛(うし)また肥畜(こえたるけもの)をも宰(ほふ)りて盡(ことゞゝ)く備(そなは)りたれバ婚筵(こんえん)に来(きた)れと請(まねき)たる者(もの)に言(いへ)
5 然(しかれ)ども彼等(かれら)かへりみずして去(さり)ぬ其一人(そのひとり)ハ己(おのれ)の田(はたけ)にゆき一人(ひとり)ハ己(おのれ)の貿易(あきなひ)に往(ゆけ)り
6 他(ほか)の者等(ものども)ハその僕(しもべ)を執(とら)へ辱(はずか)しめて殺(ころ)せり
7 王(わう)これを聞(きゝ)て怒(いか)り軍勢(ぐんぜい)を遣(つかは)して其殺(そのころ)せる者(もの)を亡(ほろぼ)し又(また)その邑(まち)を焼(やき)たり
8 是(こゝ)に於(おい)てその僕等(しもべども)に曰(いひ)けるハ婚筵(こんえん)すでに備(そなは)れども請(まねき)たる者(もの)ハ客(きゃく)となるに堪(たへ)ざる者(もの)なれバ
9 街(まち)に往(ゆき)て遇(あふ)ほどの者(もの)を婚筵(こんえん)に請(まね)け
10 その僕途(しもべみち)に出(いで)て善者(よきもの)をも惡(あしき)
[千六百八十五] 者(あしきもの)をも遇(あふ)ほどの者(もの)を悉(ことゞゝ)く集(あつめ)けれバ婚筵(こんえん)の客充満(きゃくじゅうまん)す
11 王客(わうきゃく)を見(み)んとて來(きた)りけるに茲(こゝ)に一人(ひとり)の禮服(れいふく)を着(き)ざる者(もの)あるを見(み)て
12 之(これ)に曰(いひ)けるハ友(とも)よ如何(いか)なれバ禮服(れいふく)を着(き)ずして此處(ここ)に來(きた)る乎(か)かれ黙然(もくねん)たり
13 遂(つひ)に王僕(わうしもべ)に曰(いひ)けるはハ彼(かれ)の手足(てあし)を縛(しば)りて外(そと)の幽暗(くらき)に投(なげ)いだせ其處(そこ)にて哀哭(かなしみ)また切齒(はがみ)すること有(あら)ん
14 それ召(よば)るゝ者(もの)ハ多(おほ)しと雖(いへど)も選(えらば)るゝ者(もの)ハ少すくなし


15 此時(このとき)パリサイの人(ひと)いでゝ如何(いか)にしてか彼(かれ)を言誤(いひあやま)らせんと相謀(あいはか)り
16 その弟子(でし)とヘロデの黨(ともがら)を遣(つかは)して云(いは)せけるハ師(し)よ爾(なんぢ)は眞(まこと)なる者(もの)なり眞(まこと)をもて神(かみ)の道(みち)を教(をしへ)また誰(たれ)にも偏(かたよ)らざることを我儕(われら)ハ知(しる)そは貌(かたち)に由(より)て人(ひと)を取(とら)ざれバ也(なり)
17 然(され)バ貢(みつぎ)をカイザルに納(をさむ)るハ善(よき)や惡(あしき)や爾(なんぢ)いかに意(おもふ)か我儕(われら)に告(つげ)よ
18 イエスその惡(あく)を知(しり)て曰(いひ)けるハ偽善者(ぎぜんしゃ)よ何(なん)ぞ我(われ)を試(こゝろ)むるや
19 貢(みつぎ)の銀錢(かね)を我(われ)に見(み)せよ彼等(かれら)デナリ一(ひとつ)をイエスに携來(もちきた)りしに
20 之(これ)に曰(いひ)けるハ此像(このかた)と號(しるし)は誰(たれ)か
21 答(こたへ)てカイザル也(なり)といふ是(こゝ)に於(おい)てイエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるハ然(さら)バカイザルの物(もの)はカイザルに歸(かへ)しまた神(かみ)の物(もの)は神(かみ)に歸(かへ)すべし
22 彼等之(かれらこれ)をきゝ奇(き)としてイエスを去(さり)ゆけり


23 復生(よみがへり)なしと言(いひ)なせるサドカイの人(ひと)この日(ひ)イエスにきたり問(とふ)て
24 曰(いひ)けるハ師(し)よモーセの云(いへ)るに人(ひと)もし子(こ)なくして死(し)なば兄弟(きゃうだい)その妻(つま)を娶(めと)りて子(こ)をうみ兄弟(きゃうだい)の後(あと)を嗣(つが)すべしと
25 茲(こゝ)に我儕(われら)の中(うち)に兄弟七人(きゃうだいしちにん)ありしが兄(あに)めとりて死(し)に子(こ)なきが故(ゆゑ)に其妻(そのつま)を次子(おとうと)に遺(おく)れり
26 その二(に)その三(さん)その七(しち)まで皆然(みなしか)す
27 後婦(のちをんな)もまた死(しに)たり
28 甦(よみがへ)る時(とき)は此婦七人(このをんなしちにん)のうち誰(たれ)の妻(つま)なるべきか是(これ)みな彼(かれ)を娶(めとり)し者(もの)なれば也(なり)
29 イエス答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹聖書(なんぢらせいしょ)も神(かみ)の能力(ちから)をも知(し)らざるに由(より)て誤(あやま)れり
30 それ甦(よみがへ)る時(とき)は娶(めと)らず嫁(とづが)ず天(てん)にある神(かみ)の使等(つかひたち)の如(ごと)し
31 死(しに)し者(もの)の甦(よみがへ)ることに就(つき)てハ爾曹(なんぢら)に神(かみ)の告(つげ)たまひし言(ことば)に
32 我(われ)アブラハムの神(かみ)イサクの神(かみ)ヤコブの神(かみ)なりとあるを
[千六百八十六] 未(いま)だ讀(よま)ざる乎(か)そもゝゝ神(かみ)は死(し)にし者(もの)の神(かみ)に非(あら)ず生(いけ)る者(もの)の神(かみ)なり
33 人々(ひとゞゝ)これを聞(きゝ)て其訓(そのをしえ)を驚(おどろ)けり


34 イエス、サドカイの人(ひと)をして口(くち)を塞(ふさ)がしめたりと聞(きゝ)てパリサイの人一處(ひとひとつところ)に集(あつま)りけるが
35 その中(うち)なる一人(ひとり)の教法師(けうほうし)イエスを試(こゝろ)みん爲(ため)に問(とふ)て曰(いひ)けるハ
36 師(し)よ律法(おきて)のうち何(なに)の誡(いましめ)が大(おほい)なる
37 イエス答(こたへ)けるは爾心(なんぢこゝろ)を盡(つく)し精神(せいしん)を盡(つく)し意(こゝろざし)を盡(つく)し主(しゅ)なる爾(なんぢ)の神(かみ)を愛(あい)すべし
38 これ第一(だいいち)にして大(おほい)なる誡(いましめ)なり
39 第二(だいに)も亦(また)これに同(おな)じ己(おのれ)の如(ごと)く爾(なんぢ)の隣(となり)を愛(あい)すべし
40 凡(すべて)の律法(おきて)と預言者(よげんしゃ)は此二(このふたつ)の誡(いましめ)に因(よれ)り


41 パリサイの人(ひと)の集(あつま)れる時(とき)イエス彼等(かれら)に問(とふ)て曰(いひ)けるハ
42 爾曹(なんぢら)キリストについて如何(いか)におもふ乎(や)これ誰(たれ)の子(こ)なるか彼等(かれら)イエスに曰(いひ)けるハダビデの裔(こ)なり
43 彼等(かれら)に曰(いひ)けるは然(さら)バダビデ霊(みたま)に感(かん)じて何故(なにゆゑ)これを主(しゅ)と稱(とな)へし乎(や)ダビデ言(いふ)
44 主(しゅ)わが主(しゅ)に曰(いひ)けるは我(われ)なんぢの敵(てき)を爾(なんぢ)の足凳(あしだい)とするまで我(わが)がみぎに坐(ざ)すべしと
45 然(され)バダビデ既(すで)に之(これ)を主(しゅ)と稱(となへ)たれば如何(いか)でその子(こ)ならん乎(や)
46 誰一言(たれひとこと)これに答(こたふ)ること能(あた)ハず此日(このひ)より敢(あへ)て又(また)とふ者(もの)なかりき

第二十三章

[編集]

[1] 厥時(そのとき)イエス人々(ひとゞゝ)と弟子(でし)とに告(つげ)て曰(いひ)けるハ
2 學者(がくしゃ)とパリサイの人(ひと)モーセの位(くらゐ)に坐(ざ)す
3 故(ゆゑ)に凡(すべ)て彼等(かれら)が爾曹(なんぢら)に言(いふ)ところを守(まもり)て行(おこな)ふべし然(され)ど彼等(かれら)が行(おこな)ふ所(ところ)を爲(なす)こと勿(なか)れ蓋(そは)かれらは言(いふ)のみにして行(おこな)ハざれバ也(なり)
4 また彼等(かれら)は重(おもく)かつ負(おひ)がたき荷(に)を括(くくり)て人(ひと)の肩(かた)に負(おは)せ己(おのれ)は一(ひとつ)の指(ゆび)をもて之(これ)を動(うごか)すことすら好(このま)ず
5 彼等(かれら)の行(おこなひ)ハ凡(すべ)て人(ひと)に見(みら)れんが爲(ため)にする也(なり)その佩經(ふだ)を幅濶(はゞひろく)し其衣(そのころも)の裾(すそ)を大(おほい)にし
6 また筵席(えんせき)の上座会堂(かみざくわいだう)の高座(かうざ)
7 市上(まち)の問案人々(あいさつひとゞゝ)よりラビラビと稱(となへ)られんことを好(この)む
8 爾曹(なんぢら)ハラビの稱(となへ)を受(うく)ること勿(なか)れなんぢらの師(し)ハ一人(ひとり)すなはちキリストなり爾曹(なんぢら)ハみな兄弟(きゃうだい)なり
9 また地(ち)にある者(もの)を父(ちゝ)と稱(となふ)ること勿(なか)れ爾曹(なんぢら)の父(ちゝ)ハ一人(ひとり)すなはち天(てん)に在(いま)す者(もの)なり
[千六百八十七] 10 また導師(だうし)の稱(となへ)を受(うく)ること勿(なか)れなんぢらの導師(だうし)ハ一人(ひとり)すなはちキリストなり
11 爾曹(なんぢら)のうち大(おほい)なる者(もの)ハ爾曹(なんぢら)の僕(しもべ)と爲(なる)べし
12 凡(おほよ)そ自己(おのれ)を高(たかう)する者(もの)ハ卑(ひくゝ)せられ自己(おのれ)を卑(ひくゝ)する者(もの)ハ高(たかく)せられん


13 噫(あゝ)なんぢら禍(わざはひ)なるかな偽善者(ぎぜんしゃ)なる學者(がくしゃ)とパリサイの人(ひと)よ蓋(そは)なんぢら天国(てんこく)を人(ひと)の前(まへ)に閉(とぢ)て自(みずか)ら入(いら)ず且(かつ)いらんとする者(もの)の入(いる)をも許(ゆる)さゞれバ也(なり)
14 噫(あゝ)なんぢらは禍(わざはひ)なるかな偽善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)とパリサイの人(ひと)よ蓋(そは)なんぢら嫠婦(やもめ)の家(いへ)を呑(のみ)いつハりて長(なが)き祈(いのり)をなす之(これ)に由(より)て爾曹最(なんぢらもっと)も重(おも)き審判(さばき)を受(うく)べければ也(なり)
15 あゝ禍(わざはひ)なるかな偽善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)とパリサイの人(ひと)よ蓋(そは)なんぢら徧(あまね)く水山(うみやま)を歴巡(へめぐ)り一人(ひとり)をも己(おの)が宗旨(しゅうし)に引入(ひきいれ)んとす既(すで)に引入(ひきいる)れバ之(これ)を爾曹(なんぢら)よりも倍(ばい)したる地獄(じごく)の子(こ)と爲(なせ)り
16 噫(あゝ)なんぢら禍(わざはひ)なるかな瞽者(めしひ)なる相(てびき)よ爾曹(なんぢら)ハいふ人(ひと)もし殿(みや)を指(さし)て誓(ちか)ハゞ事(こと)なし殿(みや)の金(こがね)を指(さし)て誓(ちか)ハゞ背(そむく)べからずと
17 愚(おろか)にして瞽(めしひ)なる者(もの)よ金(こがね)と金(こがね)を聖(きよ)かならしむる殿(みや)とハ孰(いづれ)か尊(たふと)き
18 又(また)いふ人(ひと)もし祭(まつり)の壇(だん)を指(さし)て誓(ちか)ハゞ事(こと)なし其上(そのうへ)の禮物(そなへもの)を指(さし)て誓(ちか)ハゞ背(そむく)べからずと
19 愚(おろか)にして瞽(めしひ)なる者(もの)よ禮物(そなへもの)と禮物(そなへもの)を聖(きよ)かならしむる祭(まつり)の壇(だん)とハ孰(いづれ)か尊(たふと)き
20 それ祭(まつり)の壇(だん)を指(さし)て誓(ちか)ふものハ祭(まつり)の壇(だん)および其上(そのうへ)の凡(すべて)の物(もの)を指(さし)て誓(ちか)ふなり
21 また殿(みや)を指(さし)て誓(ちか)ふものハ殿(みや)および其内(そのうち)に在(いま)す者(もの)を指(さし)て誓(ちか)ふなり
22 また天(てん)を指(さし)て誓(ちか)ふ者(もの)ハ神(かみ)の實座(みくらい)および其上(そのうへ)に坐(ざ)する者(もの)を指(さ)して誓(ちか)ふなり


23 噫(あゝ)なんぢらは禍(わざはひ)なるかな偽善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)とパリサイの人(ひと)よ蓋(そは)なんぢら薄荷茴香馬芹(はくかういきゃうまきん)の十分(じふぶん)の一(いち)を取納(とりおさめ)て律法(おきて)の最(もっと)も重(おも)き義(ぎ)と仁(じん)と信(しん)とを爾曹(なんぢら)ハ廃(すつ)これ行(おこな)ふ可(べき)ものなり彼(かれ)も亦棄(またすつ)べからざる者(もの)なり
24 瞽者(めしひ)の相者(てびき)よ爾曹(なんぢら)ハ蠉(ぼうふり)を漉出(こしいだ)して駱駝(らくだ)を呑(のむ)もの也(なり)
25 あゝ禍(わざはひ)なるかな偽善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)とパリサイの人(ひと)よ爾曹杯(なんぢらさかづき)と皿(さら)の外(そと)を潔(きよく)して内(うち)にハ貪欲(むさぼり)と淫欲(いんよく)とを充(みた)せり
26 瞽(めしひ)なるパリサイの人(ひと)よ爾曹(なんぢら)まづ杯(さかづき)と盤(さら)の内(うち)を潔(きよく)せよ然(さら)
[千六百八十八] バその外(そと)も亦(また)きよまるべし


27 噫(あゝ)なんぢら禍(わざはひ)なる哉偽善(かなぎぜん)なる學者(がくしゃ)とパリサイの人(ひと)よ爾曹(なんぢら)ハ白(しろ)く塗(ぬり)たる墓(はか)に似(に)たり外(そと)ハ美(うるは)しく見(みゆ)れども内(うち)ハ骸骨(がいこつ)と諸(さまゞゝ)の汚穢(けがれ)にて充(みつ)
28 此(かく)の如(ごと)く爾曹(なんぢら)もまた外(そと)ハ義(たゞし)く人(ひと)に見(みゆ)れども内(うち)ハ偽善(ぎぜん)と不法(ふほう)にて充(みつ)
29 噫(あゝ)なんぢら禍(わざはひ)なるかな偽善(ぎぜん)なる學者(がくしゃ)とパリサイの人(ひと)よ爾曹預言者(なんぢらよげんしゃ)の墓(はか)をたて義人(ぎじん)の碑(ひ)を飾(かざ)れり
30 又(また)いふ我儕(われら)もし先祖(せんぞ)の時(とき)にあらバ預言者(よげんしゃ)の血(ち)を流(なが)すことに與(くみ)せざりしをと
31 然(され)バ爾曹(なんぢら)ハ預言者(よげんしゃ)を殺(ころし)し者(もの)の裔(すゑ)なることを自(みづか)ら證(あかし)す
32 なんぢの先祖(せんぞ)の量(ますめ)を充(みた)せ
33 蛇蝮(へびまむし)の類(たぐい)よ爾曹(なんぢら)いかで地獄(じごく)の刑罰(けいばつ)を免(まぬか)れんや
34 是故(このゆゑ)に我爾曹(われなんぢら)に預言者(よげんしゃ)と知者(ちしゃ)と學者(がくしゃ)を遣(つかは)さんに或(あるひ)は之(これ)を殺(ころ)し又十字架(またじふじか)に釘或(つけあるひ)は其会堂(そのくわいだう)にて之(これ)を鞭(むちう)ち或(あるひ)は邑(まち)から邑(まち)へ逐苦(おひくるし)めん
35 そハ義(ぎ)なるアベルの血(ち)より殿(みや)と壇(だん)の間(あいだ)にて爾曹(なんぢら)が殺(ころし)しバラキアの子(こ)ザカリアの血(ち)に至(いた)るまで地(ち)に流(なが)したる義人(ぎじん)の血(ち)ハ凡(すべ)て爾曹(なんぢら)に報來(むくいきた)らんが爲(ため)なり
36 われ誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん此事(このこと)みな此世(このよ)に報來(むくいきた)るべし
37 噫(あゝ)エルサレムよエルサレムよ預言者(よげんしゃ)を殺(ころ)し爾(なんぢ)の遣(つかは)さるゝ者(もの)を石(いし)にて撃(うつ)ものよ母鳥(めんどり)の雛(ひな)を翼(つばさ)の下(した)に集(あつむ)る如(ごと)く我(われ)なんぢの赤子(こども)を集(あつめ)んとせしこと幾度(いくたび)ぞや然(され)ど爾曹(なんぢら)は好(このま)ざりき
38 視(み)よ爾曹(なんぢら)の家(いへ)は荒地(あれち)となりて遺(のこさ)れん
39 われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん主(しゅ)の名(な)に託(より)て來(きた)る者(もの)は福(さいはひ)なりと爾曹(なんぢら)の言(いは)んとき至(いた)るまでハ今(いま)より我(われ)を見(み)ざるべし


第二十四章

[編集]

[1] イエス殿(みや)より出(いで)けれバ其弟子(そのでし)すゝみて殿(みや)の構(かまへ)を彼(かれ)に見(み)せんとしたりしに
2 イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるは爾曹(なんぢら)すべて此等(これら)を見(み)ざるか我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん此處(このところ)に一(ひとつ)の石(いし)も石(いし)の上(うへ)に圯(くづさ)れずしてハ遺(のこ)らじ
3 イエス橄欖山(かんらんざん)に坐(ざ)したまへるとき弟子(でし)ひそかに來(きた)りて曰(いひ)けるは何(いづれ)の時(とき)にこのこと有(ある)やまた爾(なんぢ)の來(きた)る兆(しるし)と世(よ)の末(をはり)の兆(しるし)は如何(いか)なるぞや我儕(われら)に告(つげ)たまへ
4 イエス答(こたへ)て彼等(かれら)に曰(いひ)
[千六百八十九] けるは爾曹人(なんぢらひと)に欺(あざむ)かれざるやう愼(つゝしめ)よ
5 蓋(そは)おほくの人(ひと)わが名(な)を冒(おかし)きたり我(われ)はキリストなりと云(いひ)て多(おほく)の人(ひと)を欺(あざむ)くべし
6 又(なた)なんぢら戰(いくさ)と戰(いくさ)の風聲(うはさ)をきかん然(され)ど愼(つつしみ)て懼(おそ)るゝ勿(なか)れ此等(これら)の事(こと)は皆(みな)ある可(べき)なり然(しか)れども末期(をはり)は未(いま)だ至(いた)らず
7 民(たみ)おこりて民(たみ)をせめ國(くに)は國(くに)をせめ餓饉疫病地震(ききんえきびょうじしん)ところどころに有(ある)ならん
8 是(これ)みな禍(わざはひ)の始(はじめ)なり
9 其(その)とき人(ひと)なんぢらを患難(なやみ)に付(わた)し爾曹(なんぢら)を殺(ころ)すべし又(また)なんぢら我名(わがな)の爲(ため)に萬民(ばんみん)に憎(にくま)れん
10 此(この)のとき幾多(おほく)のもの礙(つまづき)かつ互(たがひ)に憾(うら)むべし
11 また僞預言者(にせよげんしゃ)おほく起(おこり)て多(おほく)の人(ひと)を欺(あざむ)かん
12 また不法(ふほう)みつるに由(より)て多(おほく)の人(ひと)の愛情(あいじゃう)ひやゝかに爲(なる)べし
13 然(され)ど終(をはり)まで忍(しの)ぶ者(もの)は救(すくは)るゝことを得(え)ん
14 また天國(てんこく)の此福音(このふくいん)を萬民(ばんみん)に證(あかし)せん爲(ため)に普(あまね)く天下(てんか)に宣傳(のべつたへ)られん然(しか)るのち末期(をはり)いたるべし
15 是故(このゆゑ)に預言者(よげんしゃ)ダニエルに託(より)て言(いは)れたる所(ところ)の殘暴(あらす)にくむべきもの聖所(せいしょ)に立(たつ)を見(み)バ(讀者(よむもの)よく思(おも)ふべし)
16 厥時(そのとき)ユダヤにをる者(もの)は山(やま)に遁(のが)れよ
17 屋上(やのうへ)に在(をる)ものは其家(そのいへ)の物(もの)を取(とら)んとて下(おる)る勿(なか)れ
18 田(はた)にをる者(もの)は其衣(そのころも)を取(とら)んとて歸(かへ)る勿(なか)れ
19 其日(そのひ)には孕(はら)める者(もの)と乳(ち)を飲(のま)する婦(をんな)は禍(わざはひ)なる哉(かな)
20 爾曹冬(なんぢらふゆ)または安息日(あんそくにち)に逃(にぐ)ることを免(まぬか)れん爲(ため)に祈(いの)れ
21 其(その)とき大(おほい)なる患難(なやみ)あり此(かく)の如(ごと)き患難(なやみ)は世(よ)の初(はじめ)より今(いま)に至(いた)るまで有(あら)ざりき又後(またのち)にも有(あら)じ
22 若(もし)その日(ひ)を少(すくな)くせられずバ一人(ひとり)だに救(すくは)るゝ者(もの)なからん然(され)ど選(えらば)れし者(もの)の爲(ため)にその日(ひ)は少(すくな)くせらるべし
23 其時(そのとき)もしキリスト此處(こゝ)にあり彼處(かしこ)にありと爾曹(なんぢら)にいふ者(もの)あるとも信(しん)ずる勿(なか)れ
24 そは僞(にせ)キリスト僞預言者(にせよげんしゃ)たち起(おこり)て大(おほい)なる休徴(しるし)と異能(ふしぎなるわざ)を行(おこな)ひ選(えらば)れたる者(もの)をも欺(あざむ)くことを得(え)バ之(これ)を欺(あざむ)く可(べけ)れバ也(なり)
25 われ預(あらか)じめ爾曹(なんぢら)に之(これ)を告(つぐ)
26 若(もし)キリスト野(の)に在(あり)といふ者(もの)あるとも出(いづ)る勿(なか)れ室(へや)に在(あり)と云(いふ)もの有(ある)とも信(しん)ずる勿(なか)れ
27 そは電(いなづま)の東(ひがし)より出(いで)て西(にし)にまで閃(ひらめ)くが如(ごと)く人(ひと)の子(こ)も來(きた)るべければ也(なり)
28 それ屍(しかばね)のある處(ところ)に
[千六百九十] は鷲(わし)あつまらん
29 此等(これら)の日(ひ)の患難(なやみ)の後(のち)たゞちに日(ひ)は暗(くら)く月(つき)は光(ひかり)を失(うしな)ひ星(ほし)は空(そら)よりおち天(てん)の勢(いきほ)ひ震(ふる)ふべし
30 其(その)とき人(ひと)の子(こ)の兆天(しるしてん)に現(あらは)るまた地上(ちじゃう)にある諸族(しょぞく)は哭哀(なげきかなし)み且人(かつひと)の子(こ)の権威(けんゐ)と大(おほい)なる栄光(えいくわう)をもて天(てん)の雲(くも)に乗來(のりきた)るを見(み)ん
31 又(また)その使等(つかひたち)を遣(つかは)し箛(らっぱ)の大(おほい)なる聲(こえ)を出(いださ)しめて天(てん)の此極(このはて)より彼極(かのはて)まで四方(しはう)より其選(そのえらば)れし者(もの)を集(あつ)むべし


32 夫(それ)なんぢら無花果樹(いちじく)によりて譬(たとへ)を學(まな)べ其枝(そのえだ)すでに柔(やはら)かにして葉萌(はめぐ)めば夏(なつ)の近(ちか)きを知(しる)
33 此(かく)の如(ごと)く爾曹(なんぢら)も凡(すべ)て此等(これら)の事(こと)を見(み)バ時(とき)ちかく門口(かどぐち)に至(いた)ると知(しれ)
34 われ誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん此等(これら)の事(こと)ことゞゝく成(なる)まで此民(このたみ)は廢(うせ)ざるべし
35 天地(てんち)は廢(うせ)ん然(され)ど我言(わがことば)は廢(うせ)じ
36 その日(ひ)その時(とき)を知(しる)のは唯(たゞ)わが父(ちゝ)のみ天(てん)の使者(つかひ)も誰(たれ)もしる者(もの)なし
37 ノアの時(とき)の如(ごと)く人(ひと)の子(こ)の來(きた)るも亦然(またしか)らん
38 それ洪水(こうずゐ)の前(まへ)ノア方舟(はこぶね)にいる日(ひ)までは人々飮食嫁娶(ひとゞゝのみくひとつぎめとり)などして
39 洪水(こうずゐ)の來(きた)り悉(ことゞゝ)く之(これ)を滅(ほろぼ)すまで知(しら)ざりき此(かく)の如(ごと)く人(ひと)の子(こ)も亦(また)きたらん
40 其(その)とき二人田(ふたりはた)に在(あら)んに一人(ひとり)は取(とら)れ一人(ひとり)は遺(のこ)さるべし
41 二人(ふたり)の婦磨(をんなひきうす)ひき居(おら)んに一人(ひとり)はとられ一人(ひとり)は遺(のこ)さるべし
42 是故(このゆゑ)に爾曹(なんぢら)の主(しゅ)いづれの時(とき)きたるかを知(しら)ざれば怠(おこた)らずして守(まも)れ
43 爾曹(なんぢら)これを知(しれ)もし家(いへ)の主人(あるじ)ぬすびとの何(いづれ)の時(とき)きたるかを知(しら)ば其家(そのいへ)を守(まも)りて破(やぶ)らすまじ
44 然(され)ば爾曹(なんぢら)もまた備(そなへ)をせよ意(おもは)ざる時(とき)に人(ひと)の子(こ)きたらんと爲(すれ)ばなり
45 時(とき)に及(および)て糧(かて)を彼等(かれら)に予(あたへ)さする爲(ため)に主人(あるじ)がその僕等(しもべら)の上(うへ)に立(たて)たる忠義(ちゅうぎ)にして智僕(さときしもべ)は誰(たれ)なる乎(か)
46 その主人(あるじ)の来(きた)らん時(とき)かくの如(ごと)く勤(つとむ)るを見(みら)るゝ僕(しもべ)は福(さいはひ)なり
47 我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん其所有(そのもちもの)をみな彼(かれ)に督(つかさど)らすべし
48 若(もし)その惡僕(あしきしもべ)おのが心(こゝろ)に我(わ)が主人(あるじ)の來(きた)るは遅(おそか)らんと意(おも)ひ
49 その朋輩(ほうはい)を打撻(うちたゝ)きて酒(さけ)に酔(ゑひ)たる者(もの)どもと共(とも)に飮食(のみくひ)し始(はじめ)なば
50 その僕(しもべ)の主人(あるじ)おもはざるの日(ひ)に來(きた)りて
51 之(これ)を斬殺(きりころ)し其報(そのむくい)を偽善者(ぎぜんしゃ)と同(おなじ)うすべし其處(そこ)にて哀哭切(かなしみはが)
[千六百九十一] 齒(み)すること有(あら)ん


第二十五章

[編集]

[1] 其(その)とき天国(てんこく)は燈(ともしび)を執(とり)て新郎(はなむこ)を迎(むかへ)に出(いず)る十人(じふにん)の童女(むすめ)に比(なぞら)ふべし
2 その中(うち)の五人(ごにん)は智(かしこ)く五人(ごにん)は愚(おろか)なり
3 愚(おろか)なる者(もの)は其燈(そのともしび)をとるに油(あぶら)を携(たづさ)へざりしが
4 智(かしこ)き者(もの)は其燈(そのともしび)と兼(とも)に油(あぶら)を器(うつは)に携(たづさ)へたり
5 新郎(はなむこ)おそかりければ皆假寢(みなかりね)して眠(ねむ)れり
6 夜半(よなかば)に叫(さけ)びて新郎(はなむこ)きたりぬ出(いで)て迎(むかへ)よと呼聲(よびこゑ)ありければ
7 この童女(むすめ)ども皆(みな)おきて其燈(そのともしび)を整(とゝの)へたるに
8 愚(おろか)なるもの智(かしこ)き者(もの)に曰(いひ)けるは我儕(われら)の燈熄(ともしびきえ)んとす願(ねがは)くは爾曹(なんぢら)の油(あぶら)を我儕(われら)に分子(わけあたへ)よ
9 智(かしこ)きもの答(こたへ)て曰(いひ)けるは我儕(われら)と爾曹(なんぢら)とは恐(おそら)くは足(たる)まじ爾曹賣者(なんぢらうるもの)に往(ゆき)て己(おの)が爲(ため)に買(かへ)
10 かれら買(かは)んとて往(ゆき)しとき新郎(はなむこ)きたりければ既(すで)に備(そなへ)たる者(もの)は之(これ)と偕(とも)に婚筵(こんえん)に入(いり)しかば門(もん)は閉(とぢ)られたり
11 斯(かく)て後(のち)その餘(ほか)の童女(むすめ)きたりて曰(いひ)けるは主(しゅ)よ主(しゅ)よ我儕(われら)の爲(ため)に開(ひらき)たまへ
12 答(こたへ)て我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん我(われ)は爾曹(なんぢら)を知(しら)ずと曰(いへ)り
13 然(され)ば怠(おこた)らずして守(まも)れ爾曹(なんぢら)その日(ひ)その時(とき)を知(しら)ざれば也(なり)


14 また天国(てんこく)は或人(あるひと)の旅行(たびだち)せんとして其僕(そのしもべ)をよび所有(もちもの)を彼等(かれら)に預(あずく)るが如(ごと)し
15 各人(おのゝゝ)の智慧(ちえ)に從(したが)ひて或者(あるもの)には銀五千或者(ぎんごせんあるもの)には二千或者(にせんあるもの)には一千(いっせん)を予(あたへ)おき直(たゞち)に旅行(たびだち)せり
16 五千(ごせん)の銀(ぎん)を受(うけ)し者(もの)は往(ゆき)て之(これ)を貿易(はたらか)し他(ほか)に五千(ごせん)を得(え)たり
17 二千(にせん)を受(うけ)し者(もの)もまた他(ほか)に二千(にせん)を得(え)たり
18 然(しか)るに一千(いっせん)を受(うけ)し者(もの)は往(ゆき)て地(ち)を掘(ほり)その主(しゅ)の金(かね)を藏(かく)せり
19 歷久(ほどへ)て後(のち)その僕等(しもべたち)の主(しゅ)かへりて彼等(かれら)と會計(くわいけい)せしに
20 五千(ごせん)の金(かね)を受(うけ)し者(もの)その他(ほか)に五千(ごせん)の銀(ぎん)を携來(もちきた)りて主(しゅ)よ我(われ)に五千(ごせん)の銀(ぎん)を預(あづけ)しが他(ほか)に五千(ごせん)の銀(ぎん)を儲(まうけ)たりと曰(いひ)けれバ
21 主(しゅ)かれに曰(いひ)けるはあゝ善(ぜん)かつ忠(ちゅう)なる僕(しもべ)ぞ爾寡(なんぢわづか)なる事(こと)に忠(ちゅう)なり我(われ)なんぢに多(おほき)ものを督(つかさど)らせん爾(なんぢ)の主人(あるじ)の歡樂(よろこび)に入(いれ)よ
22 二千(にせん)の銀(ぎん)を受(うけ)し者(もの)きたりて主(しゅ)よ我(われ)に二千(にせん)の銀(ぎん)を預(あづけ)しが他(ほか)に二千(にせん)の銀(ぎん)を儲(まうけ)たりと曰(いひ)けれバ
23 主(しゅ)かれ
[千六百九十二] に曰(いひ)けるはあゝ善且忠(ぜんかつちゅう)なる僕(しもべ)ぞなんぢ寡(わづか)なる事(こと)に忠(ちゅう)なり我(われ)なんぢに多(おほき)ものを督(つかさど)らせん爾(なんぢ)の主人(あるじ)の歡樂(よろこび)に入(いれ)よ
24 また一千(いっせん)の銀(ぎん)を受(うけ)し者(もの)きたりて曰(いひ)けるは主(しゅ)よ爾(なんぢ)は厳人(きびしきひと)にて播(まか)ざる處(ところ)より穫(かり)ちらさざる處(ところ)より斂(あつむ)ることを我(われ)は知(しる)
25 故(ゆゑ)に我懼(われおそれて)ゆき主(しゅ)の一千(いっせん)の銀(ぎん)を地(ち)に藏(かく)して置(おけ)り今(いま)なんぢ爾(なんぢ)の物(もの)を得(え)たり
26 その主(しゅ)こたへて曰(いひ)けるは惡(あしく)かつ堕(おこた)れる僕(しもべ)ぞ爾(なんぢ)わが播(まか)ざる處(ところ)よりかり散(ちら)さざる處(ところ)より斂(あつむる)をことを知(しる)か
27 然(しか)らバ我(わ)が金(かね)を兌換舗(りょうがえや)に預置(あづけおく)べきなり然(さら)バ我(わ)が歸(かへり)たるとき本(もと)と利(り)とを受(うく)べし
28 是故(このゆゑ)に彼(かれ)の一千(いっせん)の銀(ぎん)を取(とり)て十千(じふせん)の銀(ぎん)ある者(もの)に予(あたへ)よ
29 それ有(もて)る者(もの)は予(あたへ)られて尚(なほ)あまりあり無有者(もたぬもの)はその有(もて)る物(もの)をも奪(とら)るゝ也(なり)
30 無益(むえき)なる僕(しもべ)を外(そと)の幽暗(くらき)に逐(おい)やれ其處(そこ)にて哀哭切齒(かなしみはがみ)すること有(あら)ん


31 人(ひと)の子(こ)おのれの栄光(えいくわう)をもて緒(もろゝゝ)の聖使(きよきつかひ)を牽來(ひききた)る時(とき)はその栄光(えいくわう)の位(くらゐ)に坐(ざ)し
32 萬國(ばんこく)の民(たみ)をその前(まへ)に集(あつ)め羊(ひつじ)を牧者(かふもの)の綿羊(めんやう)と山羊(やぎ)とを別(わかつ)が如(ごと)く彼等(かれら)を別(わか)ち
33 綿羊(めんやう)をその右(みぎ)に山羊(やぎ)をその左(ひだり)に置(おく)べし
34 斯(かく)て王(わう)その右(みぎ)にをる者(もの)に云(いは)ん我父(わがちち)に恵(めぐま)るゝ者(もの)よ來(きた)りて創世(よのはじめ)より以来(このかた)なんぢらの爲(ため)に備(そなへ)られたる國(くに)を嗣(つげ)
35 蓋(そは)なんぢら我(わ)が飢(うゑ)し時(とき)われに食(くは)せ渇(かわき)しとき我(われ)に飮(のま)せ旅(たび)せし時(とき)われを宿(やど)らせ
36 裸(はだか)なりし時(とき)われに衣(き)せ病(やみ)しとき我(われ)をみまひ獄(ひとや)に在(あり)しとき我(われ)に就(きた)ればなり
37 是(こゝ)に於(おい)て義者(ただしきもの)かれに答(こたへ)て云(いは)ん主(しゅ)よ何時(いつ)なんぢの飢(うゑ)たるを見(み)て食(くは)せまた渇(かわき)たるに飮(のま)しゝ乎(や)
38 何時主(いつしゅ)の旅(たび)したるを見(み)て宿(やど)らせ又裸(またはだか)なるに衣(きせ)しや
39 王(わう)こたへて彼等(かれら)に曰(いは)ん我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん既(すで)に爾曹(なんぢら)のわが此兄弟(このきゃうだい)の最微者(いとちいさきもの)の一人(ひとり)に行(おこな)へるは即(すなは)ち我(われ)に行(おこなひ)しなり
40 遂(つひ)にまた左(ひだり)にをる者(もの)に曰(いは)ん罰(つみ)せらるべき者(もの)よ我(われ)を離(はな)れて悪魔(あくま)と其使者(そのつかひ)の爲(ため)に備(そなへ)たる熄(きえ)ざる火(ひ)に入(いれ)よ
41 蓋(そは)なんぢら我(わ)が飢(うゑ)し時(とき)われに食(くは)せず渇(かわき)しとき我(われ)に飮(のま)せず
42 旅(たび)せし時(とき)われを宿(やど)らせず裸(はだか)なりし時(とき)われに衣(きせ)ず病(やみ)また獄(ひとや)に在(あり)し時(とき)われを顧(みまは)ざれば也(なり)
43 是(こゝ)に於(おい)て彼等(かれら)また答(こたへ)て曰(いは)ん主(しゅ)よ何時(いつ)なんぢの飢(うゑ)また渇(かわき)また旅(たび)し又裸(またはだか)また病(やみ)また獄(ひとや)に在(ある)を見(み)て主(しゅ)に事(つかへ)ざりしや
44 其(その)とき王(わう)こたへて彼等(かれら)にいわん我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん此最微者(このいとちいさきもの)の一人(ひとり)に行(おこな)はざるは即(すなは)ち我(われ)に行(おこな)はざりし也(なり)
45 此等(これら)の者(もの)は窮(かぎり)なき刑罰(けいばつ)にいり義者(ただしきもの)は窮(かぎり)なき生命(いのち)に入(いる)べし


第二十六章

[編集]

[1] イエスこの緒(さまゞゝ)の言(ことば)を言竟(いひをはり)て其弟子(そのでし)に曰(いひ)けるは
2 二日(ふつか)ののち過越節(すぎこしのいはひ)なるは爾曹(なんぢら)が知(しる)ところ也(なり)それ人(ひと)の子(こ)は十字架(じふじか)に釘(つけ)られん爲(ため)に付(わた)さるべし
3 此(この)とき祭司(さいし)の長(をさ)および民(たみ)の長老等(としよりたち)カヤパと云(いへ)る祭司(さいし)の長(をさ)の邸(やしき)の庭(には)に集(あつま)り
4 詭計(たばかり)をもてイエスを執(とら)へ殺(ころ)さんと共々(ともゞゝ)に謀(はかり)いひけるは
5 祭(まつり)の日(ひ)には行(なす)べからず恐(おそら)くは民(たみ)の中(うち)に乱(らん)おこらん


6 イエス、ベタニヤの癩病人(らいびやうにん)シモンの家(いへ)に居(ゐ)たまへる時(とき)
7 ある婦蠟石(をんならうせき)の器物(うつはもの)に價(あたひ)たかき香膏(にほひあぶら)を盛(もり)てイエスの食(しょく)する所(ところ)に携來(もちきた)りて其首(そのかうべ)に斟(そそぎ)しかば
8 弟子等(でしたち)これを見(み)て怒(いかり)を含(ふくみ)いひけるは此糜費(このつひえ)のことを爲(なす)は何故(なにゆゑ)ぞや
9 若(もし)これを賣(うら)ば多(おほく)の金(きん)を得(え)て貧者(まづしきもの)に施(ほどこ)すことを得(え)ん
10 イエス知(しり)て彼等(かれら)に曰(いひ)けるは何(なん)ぞ此婦(このをんな)を惱(なやま)すや彼(かれ)は我(われ)に善事(よきこと)を行(おこな)へるなり
11 貧者(まづしきもの)は常(つね)に爾曹(なんぢら)と偕(とも)にあれど我(われ)は常(つね)に爾曹(なんぢら)と偕(とも)に在(あら)ず
12 彼(かれ)がこの香油(にほひあぶら)を我體(わがみ)に斟(そゝぎ)しは我(われ)の葬(はうむり)の爲(ため)に行(なせ)る也(なり)
13 われ誠(まこと)に爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん天(あめ)の下(した)いづくにても此福音(このふくいん)の宣伝(のべつたへ)らるゝ處(ところ)には此婦(このをんな)の行(なし)し事(こと)もその記念(かたみ)の爲(ため)に言傳(いひつたへ)らるべし


14 其(その)とき十二弟子(じふにでし)の一人(ひとり)なるイスカリオテのユダと云(いへ)るもの祭司(さいし)の長等(をさたち)の所(もと)へ往(ゆき)て曰(いひ)けるは
15 我(われ)なんぢらに彼(かれ)を賣(わた)さば幾何(なにほど)を予(あたふ)るか遂(つひ)に銀三十(ぎんさんじゅう)にて約(やく)したり
16 此時(このとき)よりイエスを賣(わた)さんと機(おり)を窺(うかゞ)ひぬ


17 除酵(たねいれぬぱん)
[千六百九十四] 節(のいはひ)の首(はじめ)の日弟子(ひでし)イエスに來(きた)り曰(いひ)けるは我儕(われら)すぎこしの食(しょく)を爾(なんぢ)の爲(ため)に何處(いづこ)に備(そな)ふべき乎(や)
18 イエス曰(いひ)けるは京城(みやこ)にいり某(それがし)に至(いたり)ていへ師(し)いふ我(わ)が時近(ときちかづき)ければ我弟子(われでし)と偕(とも)に逾越(すぎこし)の節筵(いはひ)を爾(なんぢ)が家(いへ)にて行(なす)べし
19 弟子(でし)イエスに命(めい)ぜられし如(ごとく)して逾越(すぎこし)の食(しょく)を備(そな)ふ
20 日(ひ)くるゝ時(とき)イエス十二弟子(じふにでし)と偕(とも)に席(せき)につき
21 食(しょく)する時(とき)いひけるは我(われ)まことに爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん爾曹(なんぢら)のうち一人我(ひとりわれ)を賣(わたす)なり
22 彼等(かれら)いたく憂(うれ)へて各(おのゝゝ)イエスに曰出(いひいで)けるは主(しゅ)よ我(われ)なる乎(か)
23 答(こたへ)て曰(いひ)けるハ我(われ)と偕(とも)に手(て)を盂(さら)に着(つく)る者(もの)ハ即(すなは)ち我(われ)を賣(わた)す者(もの)なり
24 人(ひと)の子(こ)ハ己(おのれ)について録(しる)されたる如(ごと)く逝(ゆか)ん然(され)ど人(ひと)の子(こ)を賣(わた)す者(もの)ハ禍(わざはひ)なるかなその人生(ひとうま)れざりしならば反(かへっ)て幸(さいはひ)なりしならん
25 彼(かれ)を賣(わた)すユダ答(こたへ)て曰(いひ)けるハラビ我(われ)なるや之(これ)に答(こたへ)て曰(いひ)けるハ爾(なんぢ)の言(いへ)る如(ごと)し
26 かれら食(しょく)するときイエスパンを取(とり)て祝(しゅく)し之(これ)をさき弟子(でし)に與(あたへ)て曰(いひ)けるハ取(とり)て食(くらへ)これハ我身(わがみ)なり
27 また杯(さかづき)を取(とり)て謝(しゃ)し彼等(かれら)に與(あたへ)て曰(いひ)けるハ爾曹(なんぢら)みな此杯(このさかづき)より飮(のめ)
28 これは新約(しんやく)の我血(わがち)にして罪(つみ)を赦(ゆる)さんとて衆(おほく)の人(ひと)の爲(ため)に流所(ながすところ)のもの也(なり)
29 われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん今(いま)より後(のち)なんぢらと偕(とも)に新(あたら)しき物(もの)を吾父(わがちち)の國(くに)に飮(のま)ん日(ひ)までハ再(ふたゝ)びこの葡萄(ぶどう)にて造(つく)れる物(もの)を飮(のま)じ


30 かれら歌(うた)を謳(うたひ)て観覧山(かんらんざん)に往(ゆけ)り
31 其時(そのとき)イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるハ今夜(こよひ)なんぢら皆(みな)われに就(つい)て礙(つまづ)かん蓋(そは)われ牧者(かふもの)を撃(うた)バ群(むれ)の綿羊(めんやう)ちらんと録(しる)されたれバ也(なり)
32 然(され)ど我甦(われよみがへ)りて後(のち)なんぢらに先(さきだ)ちガリラヤに往(ゆく)べし
33 ペテロ答(こたへ)てイエスに曰(いひ)けるハ皆(みな)なんぢに就(つい)て礙(つまづ)くとも我(われ)ハ終(つひ)に礙(つまづ)かじ
34 イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるハ我(われ)まことに爾(なんぢ)に告(つげ)ん今夜鶏(こよひにはとり)なかざる前(まヘ)に爾三次(なんぢみたび)われを知(し)らずと言(いは)ん
35 ペテロ彼(かれ)に曰(いひ)けるハ我(われ)ハ主(しゅ)と偕(とも)に死(しぬ)るとも爾(なんぢ)を知(しら)ずと言(いは)じ弟子(でし)みな如此(かく)いへり


36 厥時(そのとき)イエス彼等(かれら)と偕(とも)にゲッセマネといふ處(ところ)に至(いたり)て弟子等(でしたち)に曰(いひ)けるハ爾曹(なんぢら)こゝに坐(をれ)われ彼處(かしこ)に往(ゆき)て祈(いの)らん
[千六百九十五] 37 ペテロ及(および)ゼベダイの二人(ふたり)の子(こ)を携(たづさへ)て憂(うれ)ひ哀(かなし)みを催(もよふ)し
38 彼等(かれら)に曰(いひ)けるハ我心(わがこゝろ)いたく憂(うれへ)て死(しぬ)るバかり也(なり)こゝに待(まち)て我(われ)と偕(とも)に目(め)を醒(さま)しをれ
39 少(すこ)し進往(すゝみゆき)てひれふして祈(いのり)いひけるハ吾父(わがちち)よ若(もし)かなハゞ此杯(このさかづき)を我(われ)より離(はな)ち給(たま)へ然(され)ど我心(わがこゝろ)の從(まま)を成(なさ)んとするに非(あら)ず聖旨(みこゝろ)に任(まか)せ給(たま)へ
40 而(しか)して弟子(でし)に來(きた)り其寢(そのいね)たるを見(み)てペテロに曰(いひ)けるハ如此一時(かくひとゝき)も我(われ)と偕(とも)に目(め)を醒(さまし)をること能(あた)ハざる乎(か)
41 惑(まどひ)に入(いら)ぬやう目(め)を醒(さまし)かつ祈(いのれ)その靈(たましひ)にハ願(ねがふ)なれど肉體(にくたい)よわきなり
42 二次(ふたたび)ゆきて復(また)いのり曰(いひ)けるハ吾父(わがちち)よ若(もし)われに此杯(このさかづき)を飮(のま)さで離(はな)つことを能(かなは)ずバ聖旨(みこゝろ)に任(まか)せ給(たま)へ
43 來(きた)りて又(また)かれらの寢(いね)たるを見(み)るこれ彼等(かれら)の目疲(めつかれ)たる也(なり)
44 彼等(かれら)を離(はな)れて又(また)ゆき第三次(みたびめ)も同言(おなじことば)をもて祈(いの)れり
45 遂(つひ)に其弟子(そのでし)に來(きた)りて曰(いひ)けるハ今(いま)ハ寢(いね)て休(やす)め時(とき)ハ近(ちか)し人(ひと)の子罪人(こつみびと)の手(て)に付(わた)されん
46 起(おき)よ我儕往(われらゆく)べし我(われ)を賣(わた)す者近(ものちかづ)きたり


47 如此(かく)いへるとき十二(じふに)の一人(ひとり)なるユダ劔(つるぎ)と棒(ぼう)とを持(もち)たる多(おほく)の人々(ひとゞゝ)と偕(とも)に祭司(さいし)の長(をさ)と民(たみ)の長老(としより)の所(もと)より來(きた)る
48 イエスを賣(わた)す者(もの)かれらに號(しるし)をなして曰(いひ)けるハ我(わ)が接吻(くちつけ)する者(もの)は夫(それ)なり之(これ)を執(とら)へよ
49 直(たゞち)にイエス來(きた)りラビ安(やすき)かと曰(いひ)て彼(かれ)に接吻(くちつけ)す
50 イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるハ友(とも)よ何(なに)の爲(ため)に來(きた)るや遂(つひ)に彼等(かれら)すゝみ來(きた)り手(て)をイエスに措(かけ)て執(とら)へぬ
51 イエスと偕(とも)に在(あり)し者(もの)の一人手(ひとりて)をのべ劔(つるぎ)を抜(ぬき)て祭司(さいし)の長(をさ)の僕(しもべ)を撃(うち)その耳(みゝ)を削(そぎ)おとせり
52 イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるハ爾(なんぢ)の劔(つるぎ)を故處(もと)に収(をさめ)よ凡(すべ)て劔(つるぎ)をとる者(もの)ハ劔(つるぎ)にて亡(ほろ)ぶべし
53 我(われ)いま十二軍餘(じふにぐんよ)の天使(つかひ)を吾父(わがちち)に請(こふ)て受(うく)ること能(あた)ハずと爾曹(なんぢら)おもふや
54 もし然(しか)せば如此(かく)あるべき事(こと)を錄(しるし)し聖書(せいしょ)に如何(いか)で應(かな)ハん乎(や)


55 此時(このとき)イエス人人(ひとびと)に曰(いひ)けるハ劔(つるぎ)を棒(ぼう)とを持(もち)て盗人(ぬすびと)を執(とら)ふる如(ごと)くして我(われ)を執(とらへ)に來(きた)る乎(か)われ日々爾曹(ひびなんぢら)と偕(とも)に殿(みや)に坐(ざ)して誨(をしへ)しに爾曹(なんぢら)われを執(とらへ)ざりし
56 然(され)ど此(かく)の如(ごと)くなるハ皆預言者(みなよげんしゃ)の錄(しるし)たる所(ところ)に應成(かなは)せん爲(ため)なり
[千六百九十六] 遂(つひ)に弟子等(でしたち)みなイエスを離(はな)れて逃去(にげさり)ぬ


57 イエスを執(とらへ)たる者(もの)これを曳(ひき)て學者(がくしゃ)と長老(としより)の集(あつま)れる所(ところ)の祭司(さいし)の長(をさ)カヤパに携(つれ)ゆく
58 ペテロ遠(とほ)く離(はな)れてイエスに從(したが)ひ祭司(さいし)の長(をさ)の庭(には)にまで至(いたり)その結局(なりゆき)を見(み)んとて内(うち)にいり僕(しもべ)と偕(とも)に坐(ざ)せり
59 祭司(さいし)の長等(をさら)および長老(としより)のすべての議員(ぎいん)ともにイエスを殺(ころ)さんとして妄證(いつはりのあかし)を求(もとむ)れども得(え)ず
60 多(おほく)の妄(いつは)りの證者(あかしびと)きたれども亦(また)えず後(のち)また妄(いつは)りの證者二人(あかしびとふたり)きたりて曰(いひ)けるハ
61 この人嚢(ひとさき)に言(いへ)ることあり我(われ)よく神(かみ)の殿(みや)を毀(こぼ)ちて三日(みっか)の内(うち)に之(これ)を建(たて)うべしと
62 祭司(さいし)の長(をさ)たちてイエスに曰(いひ)けるハ爾(なんぢ)こたふる言(こと)なき乎(か)この人々(ひとゞゝ)の爾(なんぢ)に立(たつ)る證據(しょうこ)は如何(いかに)
63 イエス黙然(もくねん)たり祭司(さいし)の長(をさ)こたへて彼(かれ)に曰(いひ)けるハ爾(なんぢ)キリスト神(かみ)の子(こ)なるか我(われ)なんぢを活神(いけるかみ)に誓(ちかは)せて之(これ)を告(つげ)しめん
64 イエス彼(かれ)に曰(いひ)けるは爾(なんぢ)が言(いへ)る如(ごと)し且(かつ)われ爾曹(なんぢら)に告(つげ)ん此(この)のち人(ひと)の子大権(こちから)の右(みぎ)に坐(ざ)して天(てん)の雲(くも)に乗(のり)て來(きた)るを爾曹(なんぢら)みるべし
65 是(こゝ)に於(おい)て祭司(さいし)の長其衣(をさそのころも)を裂(さき)て曰(いひ)けるハ此人(このひと)ハ褻瀆(けがす)ことを言(いへ)り何(なん)ぞ外(ほか)に證據(しょうこ)を求(もとめ)んや爾曹(なんぢら)も今(いま)その褻瀆(けがし)たることを聞(きく)
66 なんぢら如何(いかに)おもふ乎(か)かれら答(こたへ)て曰(いひ)けるハ彼(かれ)ハ死(し)に當(あた)れり
67 是(こゝ)に於(おい)て彼等(かれら)その面(かほ)に唾(つばき)し且拳(かつこぶし)にて撃(うて)りまた或人(あるひと)かれを批(たたき)いひけるハ
68 キリストよ爾(なんぢ)を撃者(うつもの)ハ誰(たれ)か我儕(われら)に預言(よげん)せよ


69 ペテロ庭(には)に坐(すわり)ゐけるに或婢(あるしもめ)きたりて爾(なんぢ)もガリラヤのイエスと偕(とも)なりと曰(いひ)ければ
70 ペテロ凡(て)の人(ひと)の前(まへ)に此言(このことば)を肯(うけが)ハずして我(われ)なんぢが言(いふ)ところを知(しら)ずと曰(いへ)り
71 出(いで)て門口(かどぐち)に至(いれ)る時(とき)また他(ほか)の婢(しもめ)これを見(み)て其處(そこ)にをる者(もの)に曰(いひ)けるは此人(このひと)もナザレのイエスと偕(とも)に在(あり)し
72 ペテロまた肯(うけが)ハずして誓(ちか)ふ我(われ)この人(ひと)を知(し)らずと
73 暫(しばら)くありて旁(かたは)らに立(たち)たる者(もの)すゝみ近(より)てペテロに曰(いひ)けるハ誠(まこと)に爾(なんぢ)もその黨(ともがら)の一人(ひとり)なり蓋(そは)なんぢの方言(くになまり)なんぢを顯(あらは)せり
74 此(ここ)に於(おい)てペテロ詈(のゝし)り且誓(かつちかひ)て我(われ)その人(ひと)を知(しら)ずと曰(いひ)しが頓(やが)て鷄鳴(にはとりなき)
[千六百九十七] ぬ
75 ペテロ、イエスの鷄(にはとり)なかざる前(まへ)なんぢ三次(みたび)われを知(しら)ずといはんと云(いひ)たまへる言(こと)を憶起(おもひいだ)し外(そと)に出(いで)て悲(かなし)み哭(なけ)り


第二十七章

[編集]

[1] 平旦(よあけ)になり凡(すべ)ての祭司(さいし)の長(をさ)と民(たみ)の長老(としより)ともに謀(はかり)てイエスを殺(ころ)さんとし
2 既(すで)に彼(かれ)を縛(しばり)ひきゆきて方伯(つかさ)のポンテオ ピラトに解(わた)せり


3 是(こゝ)に於(おい)てイエスを賣(わた)しゝユダ彼(かれ)の死(し)に定(さだめ)られしを見(み)て悔(くやみ)その銀三十(ぎんさんじふ)を祭司(さいし)の長長老等(をさとしよりたち)に返(かへ)して
4 曰(いひ)けるは無辜(つみなき)の血(ち)を付(わた)し我(われ)ハ罪(つみ)を犯(をか)しぬ彼等(かれら)いひけるハ我儕(われら)に於(おい)て何(なん)ぞ與(あづか)らんや爾(なんぢ)みづから當(あたる)べし
5 ユダその銀(ぎん)を殿(みや)に投棄(なげすて)て其處(そこ)を去(さり)ゆきて自(みづか)ら縊(くびれ)たり
6 祭司(さいし)の長等(をさら)この銀(ぎん)を取(とり)て曰(いひ)けるは此(こ)ハ血(ち)の價(あたひ)なれバ賽銭(さいせん)の箱(はこ)に入(いる)べからずとて
7 共(とも)に謀(はかり)この銀(ぎん)をもて旅客(たびびと)を葬(はうむ)るために陶工(やきものし)の田(はたけ)を買(かへ)り
8 故(ゆゑ)に其田(そのはたけ)は今(いま)に至(いたる)まで血田(ちのはたけ)と稱(なづけ)らる
9 是(こゝ)に於(おい)て預言者(よげんしゃ)エレミヤに託(より)いはれたる言(ことば)にイスラエルの民(たみ)に估(ねづも)られ估(ねづも)られし者(もの)の値(あたひ)の銀三十(ぎんさんじふ)を取(とり)
10 主(しゅ)の我(われ)に命(めい)ぜし如(ごと)く陶工(やきものし)の田(はたけ)を買(かひ)と有(ある)に應(かな)へり


11 偖(さて)イエス方伯(つかさ)の前(まへ)にたつ方伯(つかさ)イエスに問(とふ)て曰(いひ)けるは爾(なんぢ)はユダヤ人(びと)の王(わう)なるかイエス之(これ)に曰(いひ)けるは爾(なんぢ)が言(いへ)る如(ごと)し
12 祭司(さいし)の長長老(をさとしより)たち彼(かれ)を訴(うった)ふるども何(なに)の答(こたへ)もせず
13 是(こゝ)に於(おい)てピラト彼(かれ)に曰(いひ)けるは此人々汝(このひとゞゝなんぢ)に立(たつ)る證(あかし)のかく大(おほい)なるを爾(なんぢ)きかざる乎(か)
14 方伯(つかさ)の甚奇(いとあやし)とするまでにイエス一言(ひとこと)も答(こたへ)せざりき
15 この祭(まつり)の日(ひ)には方伯(つかさ)より民(たみ)の願(ねがひ)に任(まか)せて一人(ひとり)の囚人(めしうど)を釋(ゆるす)の例(れい)あり
16 時(とき)にバラバと云(いへ)る一人(ひとり)の名高(なだか)き囚人(めしうど)ありけれバ
17 ピラト民(たみ)の集(あつま)りしとき彼等(かれら)に曰(いひ)けるハバラバか又(また)ハキリストと稱(とな)ふるイエスなる乎(か)なんぢら誰(たれ)を釋(ゆる)さんと欲(おも)ふや
18 これ娟嫉(ねたみ)によりてイエスを解(わた)したりと知(しれ)バなり


19 方伯審判(つかささばき)の座(ざ)に坐(すわ)りたる時(とき)その妻(つま)いひ遣(つかは)しけるハ此義人(このただしきひと)に爾干(なんぢかゝは)ること勿(なか)れ蓋(そは)われ
[千六百九十八] 今日夢(けふゆめ)の中(うち)に彼(かれ)につきて多(おほ)く憂(うれへ)たり
20 祭司(さいし)の長長老(をさとしより)たちバラバを釋(ゆる)しイエスを殺(ころ)さんことを求(ねがへ)と民(たみ)に唆(すゝ)む
21 方伯(つかさ)こたへて彼等(かれら)に曰(いひ)けるハ二人(ふたり)のうち執(いづれ)か我(わが)なんぢらに釋(ゆる)さんことを望(のぞ)むや彼等(かれら)バラバと答(こた)ふ
22 ピラト曰(いひ)けるハ然(され)バキリストと稱(とな)ふるイエスに我(われ)なにを處(なす)べきか衆(みな)いふ十字架(じふじか)に釘(つけ)よ
23 方伯(つかさ)いひけるハ彼(かれ)なにの惡事(あくじ)を行(なし)しや彼等(かれら)ますゝゝ喊叫(さけび)て十字架(じふじか)に釘(つけ)よと曰(いふ)
24 ピラトその言(ことば)の益(えき)なくして唯亂(ただらん)の起(おこら)んとするをしり水(みづ)を取(とり)て人々(ひとゞゝ)の前(まへ)に手(て)をあらひ曰(いひ)けるハ此義者(このただしきもの)の血(ち)に我(われ)は罪(つみ)なし爾曹(なんぢら)みづから之(これ)に當(あた)れ
25 民(たみ)みな答(こたへ)て曰(いひ)けるハ其血(そのち)ハ我儕(われら)と我儕(われら)の子孫(すゑ)に係(かゝは)るべし
26 是(こゝ)に於(おい)てバラバを彼等(かれら)に釋(ゆる)しイエスを鞭(むちう)ちて之(これ)を十字架(じふじか)に釘(つけ)ん爲(ため)に付(わた)したり
27 方伯(つかさ)の兵卒(へいそつ)イエスを携(たづさ)へ公廳(やくしょ)に至(いた)り全營(くみぢゅう)を其(その)もとに集(あつ)め
28 彼(かれ)の衣(ころも)を褫(はぎ)て綠色(あかいろ)の袍(うはぎ)を着(き)せ
29 棘(いばら)にて冕(かんむり)を編(あみ)その首(かうべ)に冠(かむら)しめ又葦(またよし)を右手(みぎのて)に持(もた)せ且(かつ)その前(まへ)に跪(ひざま)づき嘲弄(てうろう)して曰(いひ)けるハユダヤ人(びと)の王安(わうやす)かれ
30 また彼(かれ)に唾(つばき)し其葦(そのよし)を取(とり)て其首(そのかうべ)を撃(うて)り
31 嘲弄(てうろう)し畢(をはり)て其袍(そのうはぎ)をはぎ故衣(もとのころも)をきせ十字架(じふじか)に釘(つけ)んとて彼(かれ)を曳(ひき)ゆく
32 その出(いで)し時(とき)クレ子人(びと)のシモンといふ者(もの)に遇(あひ)ければ強(しい)て之(これ)に十字架(じふじか)を負(おは)せたり
33 彼等(かれら)ゴルゴタ譯(とけ)バ即(すなは)ち髑髏(されかうべ)と云(いへ)る處(ところ)に來(きた)り
34 醋(す)に膽(い)を和(あは)せてイエスに飮(のま)せんと爲(し)たりしに嘗(なめ)て飮(のむ)ことをせざりき
35 斯(かく)てイエスを十字架(じふじか)に釘(つけ)しのち䦰(くじ)を拈(とり)て其衣(そのころも)を分(わかつ)これ預言者(よげんしゃ)の言(ことば)に彼等互(かれらたがひ)に我(わ)が衣(ころも)を分(わけ)わが裏衣(したぎ)を䦰(くじ)にすと云(いひ)しに應(かな)へり
36 兵卒(へいそつ)こゝに坐(ざ)してイエスを守(まも)れり
37 また罪標(すてふだ)に此(これ)ハユダヤ人(びと)の王(わう)イエスなりと書(しる)して其首(そのかうべ)の上(うへ)に置(おけ)り
38 其(その)とき二人(ふたり)の盗人(ぬすびと)イエスと偕(とも)に一人(ひとり)ハ其右一人(そのみぎひとり)ハ其左(そのひだり)に十字架(じふじか)に釘(つけ)らる


39 往來(ゆきき)の者(もの)イエスを詈(のゝし)り首(かうべ)を搖(ふり)て曰(いひ)けるハ
40 殿(みや)を毀(こぼ)ちて三日(みっか)に之(これ)を建(たつ)る者(もの)よ自己(みづから)を救(すく)へ爾(なんぢ)もし神(かみ)の子(こ)ならば十(じふ)
[千六百九十九] 字架(じか)より下(おり)よ
41 祭司(さいし)の長學者長老等(をさがくしゃとしよりたち)も亦(また)おなじく嘲弄(てうろう)して曰(いひ)けるハ
42 人(ひと)を救(すくひ)て己(おの)が身(み)を救(すくひ)あたはず若(もし)イスラエルの王(わう)たらば今十字架(いまじふじか)より下(くだ)るべし然(さら)バ我儕(われら)かれを信(しん)ぜん
43 彼(かれ)ハ神(かみ)に依頼(よりたの)めり神(かみ)もし彼(かれ)を愛(いつく)しまバ今救(いますく)ふべし蓋(そは)かれ我(われ)ハ神(かみ)の子(こ)なりと云(いひ)し也(なり)
44 同(とも)に十字架(じふじか)に釘(つけ)られたる盗賊(ぬすびと)も同(おなじ)くイエスを詈(のゝし)れり


45 昼(ひる)の十二時(じふにじ)より三時(さんじ)に至(いた)るまで其地(そのち)あまねく黑暗(くらやみ)となる
46 三時(さんじ)ごろイエス大声(おほごゑ)にエリ、エリ、ラマサバクタニと呼(よばゝ)りぬ之(これ)を譯(とけ)ば吾神(わがかみ)わが神(かみ)なんぞ我(われ)を遺(すて)たまふ乎(や)と云(いへ)る也(なり)
47 旁(かたは)らに立(たち)たる者(もの)のうち或人(あるひと)これを聞(きゝ)て彼(かれ)はエリヤを呼(よべ)るなりと曰(いふ)
48 その中(うち)の一人直(ひとりたゞち)に走(はし)り往(ゆき)て海綿(うみわた)をとり醋(す)を含(ふくま)せ之(これ)を葦(よし)につけてイエスに飮(のま)しむ
49 餘人曰(ほかのものいひ)けるは俟(まて)エリヤ來(きた)りて彼(かれ)を救(すく)ふや否試(いなこゝろむ)べし


50 イエスまた大声(おほごゑ)に呼(よばゝ)りて息絶(いきたえ)たり
51 殿(みや)の幔上(まくうへ)より下(した)まで裂(さけ)て二(ふたつ)となり又地(またち)ふるひ磐(いは)さけ,br /> 52 墓(はか)ひらけて既(すで)に寝(いね)たる聖徒(せいと)の身(み)おほく甦(よみが)へりイエスの甦(よみがえへ)れる後(のち)
53 墓(はか)を出(いで)て聖城(みやこ)に入(いり)おほくの人(ひと)に現(あらは)れたり


54 百人(ひゃくにん)の長(かしら)と偕(とも)にイエスを守(まもり)たるもの地震(ぢしん)および其有(そのあり)し事(こと)を見(み)て甚(いた)く懼(おそ)れ此(こ)ハ誠(まこと)に神(かみ)の子(こ)なりと曰(いへ)り


55 此處(このところ)に遥(はるか)に望(のぞみ)ゐたる多(おほく)の婦(をんな)ありし彼等(かれら)ハガリラヤよりイエスに從(したが)ひて事(つかへ)し者等(ものども)なり
56 其中(そのうち)にをりし者(もの)ハマグダラのマリアとヤコブ、ヨセの母(はゝ)なるマリアとゼベダイの子等(こたち)の母(はゝ)となり


57 日(ひ)くれてイエスの弟子(でし)なるヨセフといへるアリマタヤの富人(とめるひと)きたりてピラトに往(ゆき)イエスの屍(しかばね)を請(こひ)しかバ
58 ピラトその屍(しかばね)を付(わた)せと命(めい)ず
59 ヨセフ屍(しかばね)を取(とり)て潔(きよ)き枲布(ぬの)に裏(つゝ)み
60 之(これ)を磐(いは)に鑿(ほり)たる己(おの)が新(あたら)しき墓(はか)におき大(おほい)なる石(いし)を墓(はか)の門(もん)に轉(まろば)して去(さる)
61 マグダラのマリアと他(ほか)のマリアと墓(はか)に對(むかひ)て坐(ざ)し其處(そこ)に居(をれ)り


62 預備日(そなへび)の翌日祭司(よくじつさいし)の長(をさ)とパリサイの人等(ひとら)ピラトの所(もと)に集來(つどひきた)り曰(いひ)けるハ
63 主(しゅ)よ我儕億起(われらおもひいだ)せり彼(か)の偽者(いつはりもの)い
[千七百] きて在(あり)しとき三日(みっか)ののち甦(よみがへ)らんと言(いひ)し
64 是故(このゆゑ)に命(めい)じて三日(みっか)に至(いたる)まで墓(はか)を固守(かため)しめよ恐(おそら)くハ其弟子夜(そのでしよる)きたりて之(これ)を盗(ぬす)み死(し)より甦(よみがへ)りたりと民(たみ)に言(いは)ん然(しから)バ後(のち)の惑(まどひ)ハ先(さき)よりも愈勝(いやまさる)べし
65 ピラト彼等(かれら)に曰(いひ)けるハ守兵(まもるもの)ハ爾曹(なんぢら)にあり往(ゆき)て意(おもひ)のまゝに固守(かため)しめよ
66 是(こゝ)に於(おい)て彼等(かれら)ゆきて石(いし)に封印(ふういん)し守兵(まもるもの)をして墓(はか)を固守(かため)しめたり


第二十八章

[編集]

[1] 安息日終(あんそくにちをはり)てのち七日(なぬか)の首(はじめ)の日黎明(ひよあけがた)にマグダラのマリア及(およ)び他(ほか)のマリアその墓(はか)を観(み)んとて來(きた)りしに
2 大(おほい)なる地震(ぢしん)ありて主(しゅ)の使者天(つかひてん)より降(くだ)り墓(はか)の門(もん)より石(いし)を轉(まろば)し其上(そのうへ)に坐(ざ)す
3 その容貌(かたち)ハ閃電(いなびかり)のごとく其衣(そのころも)ハ雪(ゆき)のごとく白(しろ)し
4 守兵(まもるもの)かれを懼戦(おそれをのゝ)き死(しに)たる者(もの)の如(ごと)くなりぬ
5 天使(つかひ)こたへて婦(をんな)に曰(いひ)けるハ爾曹(なんぢら)おそるゝ勿(なか)れ我(われ)なんぢらが十字架(じふじか)に釘(つけ)られしイエスを尋(たづぬ)ることを知(し)る
6 彼(かれ)ハ此(こゝ)に在(あら)ず其言(そのいへ)る如(ごと)く甦(よみがへ)りたり爾曹(なんぢら)きたりて主(しゅ)の置(おか)れし處(ところ)を見(み)よ
7 且(かつ)ゆきて其弟子(そのでし)に告(つげ)よ彼(かれ)ハ死(し)より甦(よみがへ)り爾曹(なんぢら)に先(さきだ)ちてガリラヤに往(ゆけ)り彼處(かしこ)に於(おい)て爾曹(なんぢら)かれを見(みる)べし我(われ)これを爾曹(なんぢら)に告(つぐ)
8 婦懼(をんなおそれ)ながらも甚(いた)く喜(よろこ)びて急墓(とくはか)を去(さ)り其弟子(そのでし)に告(つげ)んと走(はし)り往(ゆけ)り
9 弟子(でし)に告(つげ)んとて往(ゆく)ときイエス彼等(かれら)に遇(あひ)て安(やす)かれと曰給(いひたま)ひけれバ婦(をんな)すゝみ其足(そのあし)を抱(いだき)て拜(はい)しぬ
10 イエス彼等(かれら)に曰(いひ)けるハ懼(おそ)るゝ勿(なか)れ去(さり)て我兄弟(わがきゃうだい)にガリラヤに往(ゆけ)と告(つげ)よ彼處(かしこ)にて我(われ)を見(みる)べし


11 婦(をんな)の去(さり)しのち守兵(まもるもの)のうち或者(あるもの)ども城(みやこ)に至(いた)り凡(すべ)て有(あり)し事(こと)を祭司(さいし)の長等(をさたち)に告(つげ)しかバ
12 彼等(かれら)と長老(としより)あつまりて共(とも)に謀(はかり)おほくの銀子(かね)を兵卒(へいそつ)に給(あたへ)て曰(いひ)けるハ
13 爾曹(なんぢら)いへ我儕(われら)が寢(いね)たる時(とき)その弟子夜(でしよる)きたりて彼(かれ)を竊(ぬす)めりと
14 此事(このこと)もし方伯(つかさ)に聞(きこゆ)るとも我儕(われら)かれに勸(すゝめ)て爾曹(なんぢら)に憂(うれへ)なからしめん
15 かれら銀子(かね)を取(とり)て囑(いひふく)められたる如(ごと)くしたりしに是(こゝ)に於(おい)て此(かく)の如(ごと)き話今日(はなしこんにち)に至(いた)るまでユダヤ人(びと)の中(うち)に傳播(いひひろめ)られた
[千七百一] り


16 十一(じふいち)の弟子(でし)ガリラヤに往(ゆき)てイエスの彼等(かれら)に命(めい)じ給(たま)ふ所(ところ)の山(やま)に至(いた)り
17 イエスを見(み)て拜(はい)せり然(され)ど疑(うたが)へる者(もの)もありき
18 イエス進(すゝみ)て彼等(かれら)に語(かたり)いひけるハ天(てん)のうち地(ち)の上(うへ)の凡(すべ)ての權(けん)を我(われ)に賜(たまは)れり
19 是故(これゆゑ)に爾曹(なんぢら)ゆきて萬国(ばんこく)の民(たみ)にバプテスマを施(ほどこ)し之(これ)を父(ちち)と子(こ)と聖靈(せいれい)の名(な)に入(いれ)て弟子(でし)とし
20 且(かつ)わが凡(すべ)て爾曹(なんぢら)に命(めい)ぜし言(こと)を守(まも)れと彼等(かれら)に教(をしへ)よ夫(それ)われハ世(よ)の末(をはり)まで常(つね)に爾曹(なんぢら)と偕(とも)に在(ある)なりアメン


新約全書馬太傳福音書 終