明治元訳新約聖書(大正4年)/馬太傳福音書(5)

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第二十一章[編集]

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15 祭司さいしをさ學者がくしゃたち其行そのなしたまへる奇事ふしぎなわざまた兒童輩こどもら殿みやにてよばハりダビデホザナよといふきゝいかりふくみ
16 イエスいひけるハ彼等かれらいふことをきくイエスこたへいひけるハしか嬰兒乳哺者をさなごちのみごくち讃美さんびそなへたりとしるされしをいまよまざる
17 つひ彼等かれらはな都城みやこいでベタニヤゆきそこに宿やどれり


18 あくるあさ都城みやこかへるときうゑけれバ
19 みちほとりにあるひとつ無花果いちじく其處そのところきたりしにほか
[千六百八十三] なにみえざりしかバいまよりのち永久いつまでむすぶことざれとこれいひたまひけれバ無花果立刻いちじくたちどころかれ
20 弟子でしこれをあやしいひけるハ無花果いちじくかるることいかはやき
21 イエスこたへ彼等かれらいひけるハわれまことに爾曹なんぢらつげんもし信仰しんかうありてうたがハずバ此無花果このいちじくおけるが如耳ごときのみならず此山このやまめいここよりうつされてうみいれよといふとも亦成またなら
22 かつなんぢらがしんじていのらバねがところことゞゝくべし
23 イエス殿みやいりをしへたるとき祭司さいしをさおよびたみ長老としよりたちきたいひけるハなに権威けんゐ此事このことをなすやたがこの権威けんゐなんぢあたへしや
24 イエスこたへ彼等かれらいひけるハわれもし一言ひとことなんぢらにとはわれにそのことつげなバわれなに権威けんゐをもてこれなすといふことを爾曹なんぢらいふべし
25 ヨハ子のバプテスマハ何處いづこよりぞてんよりかひとよりか彼等かれらたがひにろんいひけるハてんよりといはさらなにゆゑしんぜざるかといは
26 もしひとよりといは我儕民われらたみおそそはみなヨハ子預言者よげんしゃすれバなり
27 つひこたへしらずといふイエス彼等かれらいひけるはわれなに権威けんゐこれなす爾曹なんぢらかたらじ
28 爾曹なんぢらいかにおもふや或人二人あるひとふたりありしが長子あにきたりていひけるハ今日けふわが葡萄園ぶだうばたけゆきはたら
29 こたへいないひしがのちくいゆきたり
30 また次子おとうとにもまへごといひけるにこたへきみ我往われゆくべしといひしがつひゆかざりき
31 此二人このふたりのものいづれちゝむねしたがひし彼等かれらいひけるハ長子あになりイエス彼等かれらいひけるはまこと爾曹なんぢらつげ税吏みつぎとりおよび娼妓あそびめ爾曹なんぢらよりさきかみくにいるべし
32 それヨハ子義道ただしきみちをもてきたりしに爾曹なんぢらこれをしんぜず税吏娼妓みつぎとりあそびめこれしんじたり爾曹なんぢらこれをてなほ悔改くいあらためずかれしんぜざりき


33 またひとつたとへきけあるいへ主人葡萄園あるじぶだうばたけつくまがきめぐらし其中そのなか酒榨さかぶねをほりものみをたて農夫のうふかしほかくにゆきしが
34 果期みのりのときちかづきけれバ其果そのみとらためしもべ農夫のうふのもとにつかはせり
35 農夫のうふ其僕等そのしもべたち
[千六百八十四] をとら一人ひとりむちう一人ひとりころ一人ひとりいしにてうて
36 またほかしもべおほつかはしけるにこれにもまへごとくせり
37 我子わがこうやまふならんといひつひ其子そのこつかはしゝに
38 農夫等のうふどもそのたがひいひけるハ嗣子あとつぎなりいでこれをころして其産業そのさんげふをもとるべしと
39 すなはこれとら葡萄園ぶだうばたけより逐出おひいだしてころせり
40 され葡萄園ぶだうばたけ主人あるじきたらんときにこの農夫のうふなになすべき
41 彼等かれらイエスいひけるハ此等これら惡人あしきものいた討滅うちほろぼときおよびてそのをさむほか農夫のうふ葡萄園ぶだうばたけ貸予かしあたふべし
42 イエス彼等かれらいひけるハ聖書せいしょ工匠いへつくりすてたるいしいへすみ首石おやいしとなれり是主これしゅ行給なしたまへることにして我儕われらあやしとするところなりとしるされしをいまよまざる
43 是故このゆゑわれなんぢらにつげかみくに爾曹なんぢらよりうばひそのむすたみあたへらるべし
44 このいしうへおつるものハやぶれこの石上いしうへおつれバそのものくだかるべし
45 祭司さいし長等をさたちおよびパリサイのひとかれのたとへきゝおのれらをさしいへるをしり
46 イエスとらへんとおもはかりしかど唯民たゞたみおそれたりそはかれを預言者よげんしゃとすればなり

第二十二章[編集]

[1] イエス彼等かれらこたへてまたたとへかたりけるハ
2 天國てんこく或王あるわうそのため婚筵こんえんまうくるがごと
3 婚筵こんえんまねきおけるものむかへためしもべたちをつかはしゝかど彼等かれらきたることをこのまず
4 またほかのしもべつかはさんとしていひけるハふるまひすでにそなはれりうしまた肥畜こえたるけものをもほふりてことゞゝそなはりたれバ婚筵こんえんきたれとまねきたるものいへ
5 しかれども彼等かれらかへりみずしてさり其一人そのひとりおのれはたけにゆき一人ひとりおのれ貿易あきなひゆけ
6 ほか者等ものどもハそのしもべとらはずかしめてころせり
7 わうこれをきゝいか軍勢ぐんぜいつかはして其殺そのころせるものほろぼまたそのまちやきたり
8 こゝおいてその僕等しもべどもいひけるハ婚筵こんえんすでにそなはれどもまねきたるものきゃくとなるにたへざるものなれバ
9 まちゆきあふほどのもの婚筵こんえんまね
10 その僕途しもべみちいで善者よきものをもあしき
[千六百八十五] あしきものをもあふほどのものことゞゝあつめけれバ婚筵こんえん客充満きゃくじゅうまん
11 王客わうきゃくんとてきたりけるにこゝ一人ひとり禮服れいふくざるものあるを
12 これいひけるハとも如何いかなれバ禮服れいふくずして此處ここきたかれ黙然もくねんたり
13 つひ王僕わうしもべいひけるはハかれ手足てあししばりてそと幽暗くらきなげいだせ其處そこにて哀哭かなしみまた切齒はがみすることあら
14 それよばるゝものおほしといへどえらばるゝものハ少すくなし


15 此時このときパリサイのひといでゝ如何いかにしてかかれ言誤いひあやまらせんと相謀あいはか
16 その弟子でしとヘロデのともがらつかはしていはせけるハなんぢまことなるものなりまことをもてかみみちをしへまたたれにもかたよらざることを我儕われらしるそはかたちよりひととらざれバなり
17 されみつぎカイザルをさむるハよきあしきなんぢいかにおもふ我儕われらつげ
18 イエスそのあくしりいひけるハ偽善者ぎぜんしゃなんわれこゝろむるや
19 みつぎ銀錢かねわれせよ彼等かれらデナリひとつイエス携來もちきたりしに
20 これいひけるハ此像このかたしるしたれ
21 こたへカイザルなりといふこゝおいイエス彼等かれらいひけるハさらカイザルものカイザルかへしまたかみものかみかへすべし
22 彼等之かれらこれをきゝとしてイエスさりゆけり


23 復生よみがへりなしといひなせるサドカイのひとこのイエスにきたりとふ
24 いひけるハモーセいへるにひともしなくしてなば兄弟きゃうだいそのつまめとりてをうみ兄弟きゃうだいあとつがすべしと
25 こゝ我儕われらうち兄弟七人きゃうだいしちにんありしがあにめとりてなきがゆゑ其妻そのつま次子おとうとおくれり
26 そのそのさんそのしちまで皆然みなしか
27 後婦のちをんなもまたしにたり
28 よみがへとき此婦七人このをんなしちにんのうちたれつまなるべきかこれみなかれめとりものなればなり
29 イエスこたへ彼等かれらいひけるは爾曹聖書なんぢらせいしょかみ能力ちからをもらざるによりあやまれり
30 それよみがへときめとらずとづがてんにあるかみ使等つかひたちごと
31 しにものよみがへることにつきてハ爾曹なんぢらかみつげたまひしことば
32 われアブラハムのかみイサクのかみヤコブのかみなりとあるを
[千六百八十六] いまよまざるそもゝゝかみにしものかみあらいけものかみなり
33 人々ひとゞゝこれをきゝ其訓そのをしえおどろけり


34 イエス、サドカイのひとをしてくちふさがしめたりときゝてパリサイの人一處ひとひとつところあつまりけるが
35 そのうちなる一人ひとり教法師けうほうしイエスこゝろみんためとふいひけるハ
36 律法おきてのうちなにいましめおほいなる
37 イエスこたへけるは爾心なんぢこゝろつく精神せいしんつくこゝろざしつくしゅなるなんぢかみあいすべし
38 これ第一だいいちにしておほいなるいましめなり
39 第二だいにまたこれにおなおのれごとなんぢとなりあいすべし
40 すべて律法おきて預言者よげんしゃ此二このふたついましめよれ


41 パリサイのひとあつまれるときイエス彼等かれらとふいひけるハ
42 爾曹なんぢらキリストについて如何いかにおもふこれたれなるか彼等かれらイエスいひけるハダビデなり
43 彼等かれらいひけるはさらダビデみたまかんじて何故なにゆゑこれをしゅとなへしダビデいふ
44 しゅわがしゅいひけるはわれなんぢのてきなんぢ足凳あしだいとするまでわががみぎにすべしと
45 されダビデすでこれしゅとなへたれば如何いかでそのならん
46 誰一言たれひとことこれにこたふることあたハず此日このひよりあへまたとふものなかりき

第二十三章[編集]

[1] 厥時そのときイエス人々ひとゞゝ弟子でしとにつげいひけるハ
2 學者がくしゃとパリサイのひとモーセくらゐ
3 ゆゑすべ彼等かれら爾曹なんぢらいふところをまもりおこなふべしされ彼等かれらおこなところなすことなかそはかれらはいふのみにしておこなハざれバなり
4 また彼等かれらおもくかつおひがたきくくりひとかたおはおのれひとつゆびをもてこれうごかすことすらこのま
5 彼等かれらおこなひすべひとみられんがためにするなりその佩經ふだ幅濶はゞひろく其衣そのころもすそおほいにし
6 また筵席えんせき上座会堂かみざくわいだう高座かうざ
7 市上まち問案人々あいさつひとゞゝよりラビラビととなへられんことをこの
8 爾曹なんぢらハラビのとなへうくることなかれなんぢらの一人ひとりすなはちキリストなり爾曹なんぢらハみな兄弟きゃうだいなり
9 またにあるものちゝとなふることなか爾曹なんぢらちゝ一人ひとりすなはちてんいまものなり
[千六百八十七] 10 また導師だうしとなへうくることなかれなんぢらの導師だうし一人ひとりすなはちキリストなり
11 爾曹なんぢらのうちおほいなるもの爾曹なんぢらしもべなるべし
12 おほよ自己おのれたかうするものひくゝせられ自己おのれひくゝするものたかくせられん


13 あゝなんぢらわざはひなるかな偽善者ぎぜんしゃなる學者がくしゃとパリサイのひとそはなんぢら天国てんこくひとまへとぢみずかいらかついらんとするものいるをもゆるさゞれバなり
14 あゝなんぢらはわざはひなるかな偽善ぎぜんなる學者がくしゃとパリサイのひとそはなんぢら嫠婦やもめいへのみいつハりてながいのりをなすこれより爾曹最なんぢらもっとおも審判さばきうくべければなり
15 あゝわざはひなるかな偽善ぎぜんなる學者がくしゃとパリサイのひとそはなんぢらあまね水山うみやま歴巡へめぐ一人ひとりをもおの宗旨しゅうし引入ひきいれんとすすで引入ひきいるれバこれ爾曹なんぢらよりもばいしたる地獄じごくなせ
16 あゝなんぢらわざはひなるかな瞽者めしひなるてびき爾曹なんぢらハいふひともし殿みやさしちかハゞことなし殿みやこがねさしちかハゞそむくべからずと
17 おろかにしてめしひなるものこがねこがねきよかならしむる殿みやとハいづれたふと
18 またいふひともしまつりだんさしちかハゞことなし其上そのうへ禮物そなへものさしちかハゞそむくべからずと
19 おろかにしてめしひなるもの禮物そなへもの禮物そなへものきよかならしむるまつりだんとハいづれたふと
20 それまつりだんさしちかふものハまつりだんおよび其上そのうへすべてものさしちかふなり
21 また殿みやさしちかふものハ殿みやおよび其内そのうちいまものさしちかふなり
22 またてんさしちかものかみ實座みくらいおよび其上そのうへするものしてちかふなり


23 あゝなんぢらはわざはひなるかな偽善ぎぜんなる學者がくしゃとパリサイのひとそはなんぢら薄荷茴香馬芹はくかういきゃうまきん十分じふぶんいち取納とりおさめ律法おきてもっとおもじんしんとを爾曹なんぢらすつこれおこなべきものなりかれ亦棄またすつべからざるものなり
24 瞽者めしひ相者てびき爾曹なんぢらぼうふり漉出こしいだして駱駝らくだのむものなり
25 あゝわざはひなるかな偽善ぎぜんなる學者がくしゃとパリサイのひと爾曹杯なんぢらさかづきさらそときよくしてうちにハ貪欲むさぼり淫欲いんよくとをみたせり
26 めしひなるパリサイのひと爾曹なんぢらまづさかづきさらうちきよくせよさら
[千六百八十八] バそのそとまたきよまるべし


27 あゝなんぢらわざはひなる哉偽善かなぎぜんなる學者がくしゃとパリサイのひと爾曹なんぢらしろぬりたるはかたりそとうるはしくみゆれどもうち骸骨がいこつさまゞゝ汚穢けがれにてみつ
28 かくごと爾曹なんぢらもまたそとたゞしひとみゆれどもうち偽善ぎぜん不法ふほうにてみつ
29 あゝなんぢらわざはひなるかな偽善ぎぜんなる學者がくしゃとパリサイのひと爾曹預言者なんぢらよげんしゃはかをたて義人ぎじんかざれり
30 またいふ我儕われらもし先祖せんぞときにあらバ預言者よげんしゃながすことにくみせざりしをと
31 され爾曹なんぢら預言者よげんしゃころしものすゑなることをみづかあかし
32 なんぢの先祖せんぞますめみた
33 蛇蝮へびまむしたぐい爾曹なんぢらいかで地獄じごく刑罰けいばつまぬかれんや
34 是故このゆゑ我爾曹われなんぢら預言者よげんしゃ知者ちしゃ學者がくしゃつかはさんにあるひこれころ又十字架またじふじか釘或つけあるひ其会堂そのくわいだうにてこれむちうあるひまちからまち逐苦おひくるしめん
35 そハなるアベルより殿みやだんあいだにて爾曹なんぢらころしバラキアザカリアいたるまでながしたる義人ぎじんすべ爾曹なんぢら報來むくいきたらんがためなり
36 われまこと爾曹なんぢらつげ此事このことみな此世このよ報來むくいきたるべし
37 あゝエルサレムエルサレム預言者よげんしゃころなんぢつかはさるゝものいしにてうつものよ母鳥めんどりひなつばさしたあつむごとわれなんぢの赤子こどもあつめんとせしこと幾度いくたびぞやされ爾曹なんぢらこのまざりき
38 爾曹なんぢらいへ荒地あれちとなりてのこされん
39 われ爾曹なんぢらつげしゅよりきたものさいはひなりと爾曹なんぢらいはんときいたるまでハいまよりわれざるべし


第二十四章[編集]

[1] イエス殿みやよりいでけれバ其弟子そのでしすゝみて殿みやかまへかれせんとしたりしに
2 イエス彼等かれらいひけるは爾曹なんぢらすべて此等これらざるかわれまことに爾曹なんぢらつげ此處このところひとついしいしうへくづされずしてハのこらじ
3 イエス橄欖山かんらんざんしたまへるとき弟子でしひそかにきたりていひけるはいづれときにこのことあるやまたなんぢきたしるしをはりしるし如何いかなるぞや我儕われらつげたまへ
4 イエスこたへ彼等かれらいひ
[千六百八十九] けるは爾曹人なんぢらひとあざむかれざるやうつゝしめ
5 そはおほくのひとわがおかしきたりわれキリストなりといひおほくひとあざむくべし
6 なたなんぢらいくさいくさ風聲うはさをきかんされつつしみおそるゝなか此等これらことみなあるべきなりしかれども末期をはりいまいたらず
7 たみおこりてたみをせめくにくにをせめ餓饉疫病地震ききんえきびょうじしんところどころにあるならん
8 これみなわざはひはじめなり
9 そのときひとなんぢらを患難なやみわた爾曹なんぢらころすべしまたなんぢら我名わがなため萬民ばんみんにくまれん
10 こののとき幾多おほくのものつまづきかつたがひうらむべし
11 また僞預言者にせよげんしゃおほくおこりおほくひとあざむかん
12 また不法ふほうみつるによりおほくひと愛情あいじゃうひやゝかになるべし
13 されをはりまでしのものすくはるゝことを
14 また天國てんこく此福音このふくいん萬民ばんみんあかしせんためあまね天下てんか宣傳のべつたへられんしかるのち末期をはりいたるべし
15 是故このゆゑ預言者よげんしゃダニエルよりいはれたるところ殘暴あらすにくむべきもの聖所せいしょたつバ(讀者よむものよくおもふべし)
16 厥時そのときユダヤにをるものやまのがれよ
17 屋上やのうへをるものは其家そのいへものとらんとておるなか
18 はたにをるもの其衣そのころもとらんとてかへなか
19 其日そのひにははらめるもののまするをんなわざはひなるかな
20 爾曹冬なんぢらふゆまたは安息日あんそくにちにぐることをまぬかれんためいの
21 そのときおほいなる患難なやみありかくごと患難なやみはじめよりいまいたるまであらざりき又後またのちにもあら
22 もしそのすくなくせられずバ一人ひとりだにすくはるゝものなからんされえらばれしものためにそのすくなくせらるべし
23 其時そのときもしキリスト此處こゝにあり彼處かしこにありと爾曹なんぢらにいふものあるともしんずるなか
24 そはにせキリスト僞預言者にせよげんしゃたちおこりおほいなる休徴しるし異能ふしぎなるわざおこなえらばれたるものをもあざむくことをこれあざむべけれバなり
25 われあらかじめ爾曹なんぢらこれつぐ
26 もしキリストありといふものあるともいづなかへやありいふものあるともしんずるなか
27 そはいなづまひがしよりいで西にしにまでひらめくがごとひときたるべければなり
28 それしかばねのあるところ
[千六百九十] はわしあつまらん
29 此等これら患難なやみのちたゞちにくらつきひかりうしなほしそらよりおちてんいきほふるふべし
30 そのときひと兆天しるしてんあらはるまた地上ちじゃうにある諸族しょぞく哭哀なげきかなし且人かつひと権威けんゐおほいなる栄光えいくわうをもててんくも乗來のりきたるを
31 またその使等つかひたちつかはらっぱおほいなるこえいださしめててん此極このはてより彼極かのはてまで四方しはうより其選そのえらばれしものあつむべし


32 それなんぢら無花果樹いちじくによりてたとへまな其枝そのえだすでにやはらかにして葉萌はめぐめばなつちかきをしる
33 かくごと爾曹なんぢらすべ此等これらことときちかく門口かどぐちいたるとしれ
34 われまこと爾曹なんぢらつげ此等これらことことゞゝくなるまで此民このたみうせざるべし
35 天地てんちうせされ我言わがことばうせ
36 そのそのときしるのはたゞわがちゝのみてん使者つかひたれもしるものなし
37 ノアときごとひときたるも亦然またしからん
38 それ洪水こうずゐまへノア方舟はこぶねにいるまでは人々飮食嫁娶ひとゞゝのみくひとつぎめとりなどして
39 洪水こうずゐきたことゞゝこれほろぼすまでしらざりきかくごとひとまたきたらん
40 そのとき二人田ふたりはたあらんに一人ひとりとら一人ひとりのこさるべし
41 二人ふたり婦磨をんなひきうすひきおらんに一人ひとりはとられ一人ひとりのこさるべし
42 是故このゆゑ爾曹なんぢらしゅいづれのとききたるかをしらざればおこたらずしてまも
43 爾曹なんぢらこれをしれもしいへ主人あるじぬすびとのいづれとききたるかをしら其家そのいへまもりてやぶらすまじ
44 され爾曹なんぢらもまたそなへをせよおもはざるときひときたらんとすればなり
45 ときおよびかて彼等かれらあたへさするため主人あるじがその僕等しもべらうへたてたる忠義ちゅうぎにして智僕さときしもべたれなる
46 その主人あるじきたらんときかくのごとつとむるをみらるゝしもべさいはひなり
47 われまことに爾曹なんぢらつげ其所有そのもちものをみなかれつかさどらすべし
48 もしその惡僕あしきしもべおのがこゝろ主人あるじきたるはおそからんとおも
49 その朋輩ほうはい打撻うちたゝきてさけゑひたるものどもととも飮食のみくひはじめなば
50 そのしもべ主人あるじおもはざるのきたりて
51 これ斬殺きりころ其報そのむくい偽善者ぎぜんしゃおなじうすべし其處そこにて哀哭切かなしみはが
[千六百九十一] することあら


第二十五章[編集]

[1] そのとき天国てんこくともしびとり新郎はなむこむかへいず十人じふにん童女むすめなぞらふべし
2 そのうち五人ごにんかしこ五人ごにんおろかなり
3 おろかなるもの其燈そのともしびをとるにあぶらたづさへざりしが
4 かしこもの其燈そのともしびともあぶらうつはたづさへたり
5 新郎はなむこおそかりければ皆假寢みなかりねしてねむれり
6 夜半よなかばさけびて新郎はなむこきたりぬいでむかへよと呼聲よびこゑありければ
7 この童女むすめどもみなおきて其燈そのともしびとゝのへたるに
8 おろかなるものかしこものいひけるは我儕われら燈熄ともしびきえんとすねがはくは爾曹なんぢらあぶら我儕われら分子わけあたへ
9 かしこきものこたへいひけるは我儕われら爾曹なんぢらとはおそらくはたるまじ爾曹賣者なんぢらうるものゆきおのためかへ
10 かれらかはんとてゆきしとき新郎はなむこきたりければすでそなへたるものこれとも婚筵こんえんいりしかばもんとぢられたり
11 かくのちそのほか童女むすめきたりていひけるはしゅしゅ我儕われらためひらきたまへ
12 こたへわれまことに爾曹なんぢらつげわれ爾曹なんぢらしらずといへ
13 されおこたらずしてまも爾曹なんぢらそのそのときしらざればなり


14 また天国てんこく或人あるひと旅行たびだちせんとして其僕そのしもべをよび所有もちもの彼等かれらあずくるがごと
15 各人おのゝゝ智慧ちえしたがひて或者あるものには銀五千或者ぎんごせんあるものには二千或者にせんあるものには一千いっせんあたへおきたゞち旅行たびだちせり
16 五千ごせんぎんうけものゆきこれ貿易はたらかほか五千ごせんたり
17 二千にせんうけものもまたほか二千にせんたり
18 しかるに一千いっせんうけものゆきほりそのしゅかねかくせり
19 歷久ほどへのちその僕等しもべたちしゅかへりて彼等かれら會計くわいけいせしに
20 五千ごせんかねうけものそのほか五千ごせんぎん携來もちきたりてしゅわれ五千ごせんぎんあづけしがほか五千ごせんぎんまうけたりといひけれバ
21 しゅかれにいひけるはあゝぜんかつちゅうなるしもべ爾寡なんぢわづかなることちゅうなりわれなんぢにおほきものをつかさどらせんなんぢ主人あるじ歡樂よろこびいれ
22 二千にせんぎんうけものきたりてしゅわれ二千にせんぎんあづけしがほか二千にせんぎんまうけたりといひけれバ
23 しゅかれ
[千六百九十二] にいひけるはあゝ善且忠ぜんかつちゅうなるしもべぞなんぢわづかなることちゅうなりわれなんぢにおほきものをつかさどらせんなんぢ主人あるじ歡樂よろこびいれ
24 また一千いっせんぎんうけものきたりていひけるはしゅなんぢ厳人きびしきひとにてまかざるところよりかりちらさざるところよりあつむることをわれしる
25 ゆゑ我懼われおそれてゆきしゅ一千いっせんぎんかくしておけいまなんぢなんぢものたり
26 そのしゅこたへていひけるはあしくかつおこたれるしもべなんぢわがまかざるところよりかりちらさざるところよりあつむるをことをしる
27 しからバかね兌換舗りょうがえや預置あづけおくべきなりさらかへりたるときもととをうくべし
28 是故このゆゑかれ一千いっせんぎんとり十千じふせんぎんあるものあたへ
29 それもてものあたへられてなほあまりあり無有者もたぬものはそのもてものをもとらるゝなり
30 無益むえきなるしもべそと幽暗くらきおいやれ其處そこにて哀哭切齒かなしみはがみすることあら


31 ひとおのれの栄光えいくわうをもてもろゝゝ聖使きよきつかひ牽來ひききたときはその栄光えいくわうくらゐ
32 萬國ばんこくたみをそのまへあつひつじ牧者かふもの綿羊めんやう山羊やぎとをわかつごと彼等かれらわか
33 綿羊めんやうをそのみぎ山羊やぎをそのひだりおくべし
34 かくわうそのみぎにをるものいは我父わがちちめぐまるゝものきたりて創世よのはじめより以来このかたなんぢらのためそなへられたるくにつげ
35 そはなんぢらうゑときわれにくはかわきしときわれのまたびせしときわれを宿やどらせ
36 はだかなりしときわれにやみしときわれをみまひひとやありしときわれきたればなり
37 こゝおい義者ただしきものかれにこたへいはしゅ何時いつなんぢのうゑたるをくはせまたかわきたるにのましゝ
38 何時主いつしゅたびしたるを宿やどらせ又裸またはだかなるにきせしや
39 わうこたへて彼等かれらいはわれまことに爾曹なんぢらつげすで爾曹なんぢらのわが此兄弟このきゃうだい最微者いとちいさきもの一人ひとりおこなへるはすなはわれおこなひしなり
40 つひにまたひだりにをるものいはつみせらるべきものわれはなれて悪魔あくま其使者そのつかひためそなへたるきえざるいれ
41 そはなんぢらうゑときわれにくはせずかわきしときわれのませず
42 たびせしときわれを宿やどらせずはだかなりしときわれにきせやみまたひとやありときわれをみまはざればなり
43 こゝおい彼等かれらまたこたへいはしゅ何時いつなんぢのうゑまたかわきまたたび又裸またはだかまたやみまたひとやあるしゅつかへざりしや
44 そのときわうこたへて彼等かれらにいわんわれまことに爾曹なんぢらつげ此最微者このいとちいさきもの一人ひとりおこなはざるはすなはわれおこなはざりしなり
45 此等これらものかぎりなき刑罰けいばつにいり義者ただしきものかぎりなき生命いのちいるべし


第二十六章[編集]

[1] イエスこのさまゞゝことば言竟いひをはり其弟子そのでしいひけるは
2 二日ふつかののち過越節すぎこしのいはひなるは爾曹なんぢらしるところなりそれひと十字架じふじかつけられんためわたさるべし
3 このとき祭司さいしをさおよびたみ長老等としよりたちカヤパいへ祭司さいしをさやしきにはあつま
4 詭計たばかりをもてイエスとらころさんと共々ともゞゝはかりいひけるは
5 まつりにはなすべからずおそらくはたみうちらんおこらん


6 イエスベタニヤ癩病人らいびやうにんシモンいへたまへるとき
7 ある婦蠟石をんならうせき器物うつはものあたひたかき香膏にほひあぶらもりイエスしょくするところ携來もちきたりて其首そのかうべそそぎしかば
8 弟子等でしたちこれをいかりふくみいひけるは此糜費このつひえのことをなす何故なにゆゑぞや
9 もしこれをうらおほくきん貧者まづしきものほどこすことを
10 イエスしり彼等かれらいひけるはなん此婦このをんななやますやかれわれ善事よきことおこなへるなり
11 貧者まづしきものつね爾曹なんぢらともにあれどわれつね爾曹なんぢらともあら
12 かれがこの香油にほひあぶら我體わがみそゝぎしはわれはうむりためなせなり
13 われまこと爾曹なんぢらつげあめしたいづくにても此福音このふくいん宣伝のべつたへらるゝところには此婦このをんななしこともその記念かたみため言傳いひつたへらるべし


14 そのとき十二弟子じふにでし一人ひとりなるイスカリオテユダいへるもの祭司さいし長等をさたちもとゆきいひけるは
15 われなんぢらにかれわたさば幾何なにほどあたふるかつひ銀三十ぎんさんじゅうにてやくしたり
16 此時このときよりイエスわたさんとおりうかゞひぬ


17 除酵たねいれぬぱん
[千六百九十四] のいはひはじめ日弟子ひでしイエスきたいひけるは我儕われらすぎこしのしょくなんぢため何處いづこそなふべき
18 イエスいひけるは京城みやこにいりそれがしいたりていへいふ時近ときちかづきければ我弟子われでしとも逾越すぎこし節筵いはひなんぢいへにてなすべし
19 弟子でしイエスめいぜられしごとくして逾越すぎこししょくそな
20 くるゝときイエス十二弟子じふにでしともせきにつき
21 しょくするときいひけるはわれまことに爾曹なんぢらつげ爾曹なんぢらのうち一人我ひとりわれわたすなり
22 彼等かれらいたくうれへておのゝゝイエス曰出いひいでけるはしゅわれなる
23 こたへいひけるハわれともさらつくものすなはわれわたものなり
24 ひとおのれについてしるされたるごとゆかされひとわたものわざはひなるかなその人生ひとうまれざりしならばかへっさいはひなりしならん
25 かれわたユダこたへいひけるハラビわれなるやこれこたへいひけるハなんぢいへごと
26 かれらしょくするときイエスパンをとりしゅくこれをさき弟子でしあたへいひけるハとりくらへこれハ我身わがみなり
27 またさかづきとりしゃ彼等かれらあたへいひけるハ爾曹なんぢらみな此杯このさかづきよりのめ
28 これは新約しんやく我血わがちにしてつみゆるさんとておほくひとため流所ながすところのものなり
29 われ爾曹なんぢらつげいまよりのちなんぢらとともあたらしきもの吾父わがちちくにのままでハふたゝびこの葡萄ぶどうにてつくれるもののま


30 かれらうたうたひ観覧山かんらんざんゆけ
31 其時そのときイエス彼等かれらいひけるハ今夜こよひなんぢらみなわれについつまづかんそはわれ牧者かふものうたむれ綿羊めんやうちらんとしるされたれバなり
32 され我甦われよみがへりてのちなんぢらにさきだガリラヤゆくべし
33 ペテロこたへイエスいひけるハみななんぢについつまづくともわれつひつまづかじ
34 イエスかれいひけるハわれまことになんぢつげ今夜鶏こよひにはとりなかざるまヘ爾三次なんぢみたびわれをらずといは
35 ペテロかれいひけるハわれしゅともしぬるともなんぢしらずといは弟子でしみな如此かくいへり


36 厥時そのときイエス彼等かれらともゲッセマネといふところいたり弟子等でしたちいひけるハ爾曹なんぢらこゝにをれわれ彼處かしこゆきいのらん
[千六百九十五] 37 ペテロおよびゼベダイ二人ふたりたづさへうれかなしみをもよふ
38 彼等かれらいひけるハ我心わがこゝろいたくうれへしぬるバかりなりこゝにまちわれともさましをれ
39 すこ進往すゝみゆきてひれふしていのりいひけるハ吾父わがちちもしかなハゞ此杯このさかづきわれよりはなたまされ我心わがこゝろままなさんとするにあら聖旨みこゝろまかたま
40 しかして弟子でしきた其寢そのいねたるをペテロいひけるハ如此一時かくひとゝきわれともさましをることあたハざる
41 まどひいらぬやうさましかついのれそのたましひにハねがふなれど肉體にくたいよわきなり
42 二次ふたたびゆきてまたいのりいひけるハ吾父わがちちもしわれに此杯このさかづきのまさではなつことをかなはずバ聖旨みこゝろまかたま
43 きたりてまたかれらのいねたるをるこれ彼等かれら目疲めつかれたるなり
44 彼等かれらはなれてまたゆき第三次みたびめ同言おなじことばをもていのれり
45 つひ其弟子そのでしきたりていひけるハいまいねやすときちかひと子罪人こつみびとわたされん
46 おき我儕往われらゆくべしわれわた者近ものちかづきたり


47 如此かくいへるとき十二じふに一人ひとりなるユダつるぎぼうとをもちたるおほく人々ひとゞゝとも祭司さいしをさたみ長老としよりもとよりきた
48 イエスわたものかれらにしるしをなしていひけるハ接吻くちつけするものそれなりこれとらへよ
49 たゞちイエスきたりラビやすきかといひかれ接吻くちつけ
50 イエスかれいひけるハともなにためきたるやつひ彼等かれらすゝみきたイエスかけとらへぬ
51 イエスともありもの一人手ひとりてをのべつるぎぬき祭司さいしをさしもべうちそのみゝそぎおとせり
52 イエスかれいひけるハなんぢつるぎ故處もとをさめすべつるぎをとるものつるぎにてほろぶべし
53 われいま十二軍餘じふにぐんよ天使つかひ吾父わがちちこふうくることあたハずと爾曹なんぢらおもふや
54 もししかせば如此かくあるべきことしるし聖書せいしょ如何いかかなハん


55 此時このときイエス人人ひとびといひけるハつるぎぼうとをもち盗人ぬすびととらふるごとくしてわれとらへきたわれ日々爾曹ひびなんぢらとも殿みやしてをしへしに爾曹なんぢらわれをとらへざりし
56 されかくごとくなるハ皆預言者みなよげんしゃしるしたるところ應成かなはせんためなり
[千六百九十六] つひ弟子等でしたちみなイエスはなれて逃去にげさり


57 イエスとらへたるものこれをひき學者がくしゃ長老としよりあつまれるところ祭司さいしをさカヤパつれゆく
58 ペテロとほはなれてイエスしたが祭司さいしをさにはにまでいたりその結局なりゆきんとてうちにいりしもべともせり
59 祭司さいし長等をさらおよび長老としよりのすべての議員ぎいんともにイエスころさんとして妄證いつはりのあかしもとむれども
60 おほくいつはりの證者あかしびときたれどもまたえずのちまたいつはりの證者二人あかしびとふたりきたりていひけるハ
61 この人嚢ひとさきいへることありわれよくかみ殿みやこぼちて三日みっかうちこれたてうべしと
62 祭司さいしをさたちてイエスいひけるハなんぢこたふることなきこの人々ひとゞゝなんぢたつ證據しょうこ如何いかに
63 イエス黙然もくねんたり祭司さいしをさこたへてかれいひけるハなんぢキリストかみなるかわれなんぢを活神いけるかみちかはせてこれつげしめん
64 イエスかれいひけるはなんぢいへごとかつわれ爾曹なんぢらつげこののちひと子大権こちからみぎしててんくものりきたるを爾曹なんぢらみるべし
65 こゝおい祭司さいし長其衣をさそのころもさきいひけるハ此人このひと褻瀆けがすことをいへなんほか證據しょうこもとめんや爾曹なんぢらいまその褻瀆けがしたることをきく
66 なんぢら如何いかにおもふかれらこたへいひけるハかれあたれり
67 こゝおい彼等かれらそのかほつばき且拳かつこぶしにてうてりまた或人あるひとかれをたたきいひけるハ
68 キリストなんぢ撃者うつものたれ我儕われら預言よげんせよ


69 ペテロにはすわりゐけるに或婢あるしもめきたりてなんぢガリラヤイエスともなりといひければ
70 ペテロひとまへ此言このことばうけがハずしてわれなんぢがいふところをしらずといへ
71 いで門口かどぐちいれときまたほかしもめこれを其處そこにをるものいひけるは此人このひとナザレイエスともあり
72 ペテロまたうけがハずしてちかわれこのひとらずと
73 しばらくありてかたはらにたちたるものすゝみよりペテロいひけるハまことなんぢもそのともがら一人ひとりなりそはなんぢの方言くになまりなんぢをあらはせり
74 ここおいペテロのゝし且誓かつちかひわれそのひとしらずといひしがやが鷄鳴にはとりなき
[千六百九十七] ぬ
75 ペテロイエスにはとりなかざるまへなんぢ三次みたびわれをしらずといはんといひたまへること憶起おもひいだそといでかなしなけ


第二十七章[編集]

[1] 平旦よあけになりすべての祭司さいしをさたみ長老としよりともにはかりイエスころさんとし
2 すでかれしばりひきゆきて方伯つかさポンテオ ピラトわたせり


3 こゝおいイエスわたしゝユダかれさだめられしをくやみその銀三十ぎんさんじふ祭司さいし長長老等をさとしよりたちかへして
4 いひけるは無辜つみなきわたわれつみをかしぬ彼等かれらいひけるハ我儕われらおいなんあづからんやなんぢみづからあたるべし
5 ユダそのぎん殿みや投棄なげすて其處そこさりゆきてみづかくびれたり
6 祭司さいし長等をさらこのぎんとりいひけるはあたひなれバ賽銭さいせんはこいるべからずとて
7 ともはかりこのぎんをもて旅客たびびとはうむるために陶工やきものしはたけかへ
8 ゆゑ其田そのはたけいまいたるまで血田ちのはたけなづけらる
9 こゝおい預言者よげんしゃエレミヤによりいはれたることばイスラエルたみねづもられねづもられしものあたひ銀三十ぎんさんじふとり
10 しゅわれめいぜしごと陶工やきものしはたけかひあるかなへり


11 さてイエス方伯つかさまへにたつ方伯つかさイエスとふいひけるはなんぢユダヤびとわうなるかイエスこれいひけるはなんぢいへごと
12 祭司さいし長長老をさとしよりたちかれうったふるどもなにこたへもせず
13 こゝおいピラトかれいひけるは此人々汝このひとゞゝなんぢたつあかしのかくおほいなるをなんぢきかざる
14 方伯つかさ甚奇いとあやしとするまでにイエス一言ひとことこたへせざりき
15 このまつりには方伯つかさよりたみねがひまかせて一人ひとり囚人めしうどゆるすれいあり
16 ときバラバいへ一人ひとり名高なだか囚人めしうどありけれバ
17 ピラトたみあつまりしとき彼等かれらいひけるハバラバまたキリストとなふるイエスなるなんぢらたれゆるさんとおもふや
18 これ娟嫉ねたみによりてイエスわたしたりとしれバなり


19 方伯審判つかささばきすわりたるときそのつまいひつかはしけるハ此義人このただしきひと爾干なんぢかゝはることなかそはわれ
[千六百九十八] 今日夢けふゆめうちかれにつきておほうれへたり
20 祭司さいし長長老をさとしよりたちバラバゆるイエスころさんことをねがへたみすゝ
21 方伯つかさこたへて彼等かれらいひけるハ二人ふたりのうちいづれわがなんぢらにゆるさんことをのぞむや彼等かれらバラバこた
22 ピラトいひけるハされキリストとなふるイエスわれなにをなすべきかみないふ十字架じふじかつけ
23 方伯つかさいひけるハかれなにの惡事あくじなししや彼等かれらますゝゝ喊叫さけび十字架じふじかつけよといふ
24 ピラトそのことばえきなくして唯亂ただらんおこらんとするをしりみづとり人々ひとゞゝまへをあらひいひけるハ此義者このただしきものわれつみなし爾曹なんぢらみづからこれあた
25 たみみなこたへいひけるハ其血そのち我儕われら我儕われら子孫すゑかゝはるべし
26 こゝおいバラバ彼等かれらゆるイエスむちうちてこれ十字架じふじかつけためわたしたり
27 方伯つかさ兵卒へいそつイエスたづさ公廳やくしょいた全營くみぢゅうそのもとにあつ
28 かれころもはぎ綠色あかいろうはぎ
29 いばらにてかんむりあみそのかうべかむらしめ又葦またよし右手みぎのてもたかつそのまへひざまづき嘲弄てうろうしていひけるハユダヤびと王安わうやすかれ
30 またかれつばき其葦そのよしとり其首そのかうべうて
31 嘲弄てうろうをはり其袍そのうはぎをはぎ故衣もとのころもをきせ十字架じふじかつけんとてかれひきゆく
32 そのいでときクレ子びとシモンといふものあひければしいこれ十字架じふじかおはせたり
33 彼等かれらゴルゴタとけすなは髑髏されかうべいへところきた
34 あはせてイエスのませんとたりしになめのむことをせざりき
35 かくイエス十字架じふじかつけしのちくじとり其衣そのころもわかつこれ預言者よげんしゃことば彼等互かれらたがひころもわけわが裏衣したぎくじにすといひしにかなへり
36 兵卒へいそつこゝにしてイエスまもれり
37 また罪標すてふだこれユダヤびとわうイエスなりとしるして其首そのかうべうへおけ
38 そのとき二人ふたり盗人ぬすびとイエスとも一人ひとり其右一人そのみぎひとり其左そのひだり十字架じふじかつけらる


39 往來ゆききものイエスのゝしかうべふりいひけるハ
40 殿みやこぼちて三日みっかこれたつもの自己みづからすくなんぢもしかみならばじふ
[千六百九十九] 字架じかよりおり
41 祭司さいし長學者長老等をさがくしゃとしよりたちまたおなじく嘲弄てうろうしていひけるハ
42 ひとすくひおのすくひあたはずもしイスラエルわうたらば今十字架いまじふじかよりくだるべしさら我儕われらかれをしんぜん
43 かれかみ依頼よりたのめりかみもしかれいつくしまバ今救いますくふべしそはかれわれかみなりといひなり
44 とも十字架じふじかつけられたる盗賊ぬすびとおなじイエスのゝしれり


45 ひる十二時じふにじより三時さんじいたるまで其地そのちあまねく黑暗くらやみとなる
46 三時さんじごろイエス大声おほごゑにエリ、エリ、ラマサバクタニとよばゝりぬこれとけ吾神わがかみわがかみなんぞわれすてたまふいへなり
47 かたはらにたちたるもののうち或人あるひとこれをきゝかれエリヤよべるなりといふ
48 そのうち一人直ひとりたゞちはしゆき海綿うみわたをとりふくまこれよしにつけてイエスのましむ
49 餘人曰ほかのものいひけるはまてエリヤきたりてかれすくふや否試いなこゝろむべし


50 イエスまた大声おほごゑよばゝりて息絶いきたえたり
51 殿みや幔上まくうへよりしたまでさけふたつとなり又地またちふるひいはさけ,br /> 52 はかひらけてすでいねたる聖徒せいとおほくよみがへりイエスよみがえへれるのち
53 はかいで聖城みやこいりおほくのひとあらはれたり


54 百人ひゃくにんかしらともイエスまもりたるもの地震ぢしんおよび其有そのありこといたおそまことかみなりといへ


55 此處このところはるかのぞみゐたるおほくをんなありし彼等かれらガリラヤよりイエスしたがひてつかへ者等ものどもなり
56 其中そのうちにをりしものマグダラマリアヤコブヨセはゝなるマリアゼベダイ子等こたちはゝとなり


57 くれてイエス弟子でしなるヨセフといへるアリマタヤ富人とめるひときたりてピラトゆきイエスしかばねこひしかバ
58 ピラトそのしかばねわたせとめい
59 ヨセフしかばねとりきよ枲布ぬのつゝ
60 これいはほりたるおのあたらしきはかにおきおほいなるいしはかもんまろばしてさる
61 マグダラマリアほかマリアはかむかひ其處そこをれ


62 預備日そなへび翌日祭司よくじつさいしをさとパリサイの人等ひとらピラトもと集來つどひきたいひけるハ
63 しゅ我儕億起われらおもひいだせり偽者いつはりもの
[千七百] きてありしとき三日みっかののちよみがへらんといひ
64 是故このゆゑめいじて三日みっかいたるまではか固守かためしめよおそらくハ其弟子夜そのでしよるきたりてこれぬすよりよみがへりたりとたみいはしからのちまどひさきよりも愈勝いやまさるべし
65 ピラト彼等かれらいひけるハ守兵まもるもの爾曹なんぢらにありゆきおもひのまゝに固守かためしめよ
66 こゝおい彼等かれらゆきていし封印ふういん守兵まもるものをしてはか固守かためしめたり


第二十八章[編集]

[1] 安息日終あんそくにちをはりてのち七日なぬかはじめ日黎明ひよあけがたマグダラマリアおよほかマリアそのはかんとてきたりしに
2 おほいなる地震ぢしんありてしゅ使者天つかひてんよりくだはかもんよりいしまろば其上そのうへ
3 その容貌かたち閃電いなびかりのごとく其衣そのころもゆきのごとくしろ
4 守兵まもるものかれを懼戦おそれをのゝしにたるものごとくなりぬ
5 天使つかひこたへてをんないひけるハ爾曹なんぢらおそるゝなかわれなんぢらが十字架じふじかつけられしイエスたづぬることを
6 かれこゝあら其言そのいへごとよみがへりたり爾曹なんぢらきたりてしゅおかれしところ
7 かつゆきて其弟子そのでしつげかれよりよみがへ爾曹なんぢらさきだちてガリラヤゆけ彼處かしこおい爾曹なんぢらかれをみるべしわれこれを爾曹なんぢらつぐ
8 婦懼をんなおそれながらもいたよろこびて急墓とくはか其弟子そのでしつげんとはしゆけ
9 弟子でしつげんとてゆくときイエス彼等かれらあひやすかれと曰給いひたまひけれバをんなすゝみ其足そのあしいだきはいしぬ
10 イエス彼等かれらいひけるハおそるゝなかさり我兄弟わがきゃうだいガリラヤゆけつげ彼處かしこにてわれみるべし


11 をんなさりしのち守兵まもるもののうち或者あるものどもみやこいたすべありこと祭司さいし長等をさたちつげしかバ
12 彼等かれら長老としよりあつまりてともはかりおほくの銀子かね兵卒へいそつあたへいひけるハ
13 爾曹なんぢらいへ我儕われらいねたるときその弟子夜でしよるきたりてかれぬすめりと
14 此事このこともし方伯つかさきこゆるとも我儕われらかれにすゝめ爾曹なんぢらうれへなからしめん
15 かれら銀子かねとりいひふくめられたるごとくしたりしにこゝおいかくごと話今日はなしこんにちいたるまでユダヤびとうち傳播いひひろめられた
[千七百一] り


16 十一じふいち弟子でしガリラヤゆきイエス彼等かれらめいたまところやまいた
17 イエスはいせりされうたがへるものもありき
18 イエスすゝみ彼等かれらかたりいひけるハてんのうちうへすべてのけんわれたまはれり
19 是故これゆゑ爾曹なんぢらゆきて萬国ばんこくたみにバプテスマをほどここれちち聖靈せいれいいれ弟子でしとし
20 かつわがすべ爾曹なんぢらめいぜしことまもれと彼等かれらをしへそれわれハをはりまでつね爾曹なんぢらともあるなりアメン


新約全書馬太傳福音書 終