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日蘭通商航海條約

提供:Wikisource
日蘭通商航海条約から転送)


朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ明治四十五年七月六日和蘭國海牙ニ於テ日蘭兩國全權委員ノ署名調印シタル通商航海條約ヲ批准シ茲ニ之ヲ公布セシム

御名御璽
大正二年十月八日

内閣総理大臣 伯爵山本權兵衛

外 務 大 臣 男爵牧野 伸顕


條約第八號

日本國皇帝陛下及和蘭國皇帝陛下ハ幸ニ其ノ間及其ノ臣民間ニ存在スル友好親善ノ關係ヲ鞏固ナラシメムコトヲ欲シ而シテ今後兩國間ノ通商關係ヲ律スヘキ條規ヲ明確ニ訂立スルハ此ノ善美ナル目的ヲ達スルニ資スヘキヲ信シ之カ爲ニ通商航海條約ヲ締結スルコトニ決定シ日本國皇帝陛下ハ和蘭國駐剳特命全權公使正四位勲一等佐藤愛麿ヲ和蘭國皇帝陛下ハ外務大臣侍從「シュヴァリエ、ド、ロルドル、デュ、リオン、ネエルランデー」ヨンクヘール、エル、デ、マレース、ファン、スヰンデレンヲ各其ノ全權委員ニ任命セリ因テ各全權委員ハ互ニ其ノ委任状ヲ示シ之カ良好妥當ナルヲ認メタル後左ノ諸條ヲ協定セリ

第一條

兩締約國ノ一方ノ臣民ハ他ノ一方ノ版圖内ノ各地ニ到リ又ハ滞在スルコトニ付家族ト共ニ完全ナル自由ヲ有スヘク而シテ其ノ國法ニ遵由スルニ於テハ

一 旅行居住スルコト、修學研究ヲ爲スコト、生業職業ニ從フコト及生産製造ノ業ヲ営ムコトニ關スル一切ノ事項ニ付總テ最恵國ノ臣民又ハ人民ト同一ノ基礎ニ置カルヘク
二 内國臣民ト均シク適法ナル商業ノ目的物タル各種商品ノ取引ニ從事スルノ權利ヲ享有スヘク
三 必要ナル家屋、製造所、倉庫、店舗及附屬構造物ヲ所有又ハ賃借シテ之ヲ使用シ又住居、商業、生産業、製造業其ノ他適法ナル目的ノ爲土地ヲ賃借スルコトヲ得ヘク
四 各種動産ヲ占有スルコト、生存者間ニ於テ適法ニ取得シ得ヘキ各種動産ヲ遺言其ノ他ノ方法ニ因リテ相續スルコト及適法ニ取得シタル各種財産ヲ一切ノ方法ニ因リテ處分スルコトニ關シ内國臣民又ハ最恵國ノ臣民若ハ人民ト同一ノ特權、自由及權利ヲ享有シ且此等ノ事項ニ付内國臣民又ハ最恵國ノ臣民若ハ人民ヨリモ多額ナル何等ノ租税又ハ課金ヲ課セラルコトナカルヘク
五 國法ニ依リ別國ノ臣民又ハ人民カ取得占有スルコトヲ得又ハ得ルコトアルヘキ各種ノ不動産ヲ相互ノ條件ニ依リ且常ニ右國法ノ定ムル條件及制限ニ從ヒ取得占有スルコトヲ得ヘク
六 身體及財産ニ對シテ常ニ完全ナル保護及保障ヲ享受シ其ノ權利ヲ行使擁護セムカ爲自由且容易ニ裁判所ニ申出ツルコトヲ得且國家及其機關ニ對スル請求ニ付テモ管轄権ヲ有スル裁判所其ノ他ノ官廰ニ出訴スルノ權利ヲ有スヘク
七 陸軍、海軍、護國軍又ハ民兵ノ何レタルヲ問ハス總テノ強制兵役ヲ免レ且服役ノ代トシテ課セラルル一切ノ貢納ヲ免レ又強募公債及軍用徴發又ハ取立金ニ付テハ最恵國ノ臣民又ハ人民ニ課スルモノヲ除クノ外亦一切之ヲ免ルヘク
八 最恵國ノ臣民又ハ人民カ納付シ又ハ納付スルコトアルヘキ所ト異ナルカ或ハ之ヨリ多額ナル何等ノ課金、租税、手數料又ハ貢納ヲ徴収セラルルコトナカルヘシ
第二條

兩締約國ノ一方ノ臣民カ他ノ一方ノ版圖内ニ於テ有スル家宅、倉庫、製造所及店舗竝一切ノ附屬構造物ニシテ適法ノ目的ニ使用セラルルモノハ侵スヘカラス右建物又ハ附屬構造物ニ付テハ内國臣民ニ對スル法定ノ條件及方式ニ依ルノ外臨檢捜索ヲ爲シ又ハ帳簿、書類若ハ計算書ヲ檢査點閲スルコトヲ得ス

第三條

兩締約國ノ一方ハ他ノ一方ノ港、都市其ノ他ノ場所ニ總領事、領事、副領事及領事事務官ヲ置クコトヲ得但シ右領事官ノ駐在ヲ認可スルニ便ナラサル場所ニ付テハ此ノ限ニ在ラス尤モ此ノ制限ハ一切ノ他國ニ對シテモ亦均シク之ヲ加フルニ非サレハ一方ノ締約國ニ對シテ之ヲ加フルコトヲ得ス

右總領事、領事、副領事及領事事務官ハ駐在國政府ヨリ認可状其ノ他相當ノ證認状ヲ得タルトキハ最恵國ノ同等領事官ニ認許セラレ又ハ認許セラルルコトアルヘキ範囲内ニ於テ相互ノ條件ニ依リ職務ヲ執行シ竝特權、特典及免除ヲ享有スルノ權利ヲ有スヘシ認可状其ノ他ノ證認状ヲ發給シタル政府ハ其ノ裁量ヲ以テ之ヲ取消スノ權利ヲ有ス但シ其ノ取消ヲ爲スニ付テハ之ヲ正當ト認メタル理由ヲ説明スヘシ

第四條

兩締約國ノ一方ノ臣民カ他ノ一方ノ版圖内ニ於テ死亡シタル場合ニハ死亡地ノ當該官廰ハ直ニ之ヲ右志望者所屬國ノ領事官ニ通知スヘシ該領事官カ當該官廰ニ先チテ死亡ノ事實ヲ知リタルトキハ均シク之ヲ當該官廰ニ通知スヘシ

第五條

兩締約國版圖ノ間ニハ相互ニ通商及航海ノ自由アルヘシ締約國ノ一方ノ臣民ハ他ノ一方ノ版圖内ニ於テ外國通商ノ爲ニ開カレ又ハ開カルコトアルヘキ一切ノ場所、港及河川ニ最恵國ノ臣民ト均シク船舶及貨物ヲ以テ自由ニ到ルコトヲ得但シ常ニ到達國ノ國法ニ從フコトヲ要ス

第六條

兩締約國ノ一方ノ版圖内ノ生産又ハ製造ニ係ル物品ハ他ノ一方ノ版圖内ニ輸入セラルルニ當リ其ノ何レノ地ヨリ到ルヲ問ハス別國ノ製産ニ係ル同様ノ物品ニ適用セラルル最低率ノ關税ヲ課セラルヘシ

締約國ノ一方ノ版圖内ノ生産又ハ製造ニ係ル物品ハ他ノ一方ノ版圖内ニ輸入セラルルニ當リ其ノ何レノ地ヨリ到ルヲ問ハス別國ノ製産ニ係ル同様ノ物品ノ輸入ニ對シテ均シク適用セラレサル何等ノ禁止又ハ制限ヲ加ヘラルルコトナカルヘシ但シ衛生上ノ措置トシテ又ハ動物及有用ノ植物ヲ保護スルノ目的ヲ以テ加フル禁止又ハ制限ハ此ノ限ニ在ラス

第七條

兩締約國ノ一方ノ臣民タル商工業者及該國ノ版圖内ニ於テ住所ヲ有シ其ノ業ヲ營ム商工業者ハ他ノ一方ノ版圖内ニ於テ本人自ラ又ハ旅商ヲ使用シテ物品ヲ買入レ見本携帯又ハ不携帯ニシテ注文ヲ取集ムルコトヲ得而シテ右商工業者及其ノ使用スル旅商ハ買入ヲ爲シ又ハ注文ヲ取集ムルニ當リ課税及便益ニ關シテ最恵國待遇ヲ享受スヘシ

締約國ハ如何ナル官廰カ前記商工業者及旅商ノ携帯スヘキ營業證明書ヲ發給スル權限ヲ有スルヤヲ相互ニ通知スヘシ

第一項ニ掲クル目的ヲ以テ見本トシテ輸入セラルル物品ハ其ノ再輸出ヲセラルヘキコト又ハ法定期間内ニ再輸入セラレサル場合ニ成規ノ關税ノ納付セラルヘキコトヲ確實ナラシメムカ爲ニ制定セラレタル關税法規及手續ヲ履行スルトキハ各締約國ニ於テ一時無税輸入ヲ許可セラルヘシ但シ此ノ特權ハ物品ノ數量又ハ價格ニ徴シ見本ト認ムルコト能ハサルモノ又ハ其ノ性質上再輸入ノ際校合スルコト能ハサルモノニハ之ヲ與フルコトナシ見本カ無税輸入ヲ許可セラルヘキモノタルト否トヲ決定スルハ何レノ場合ニ於テモ輸入地當該官廰ノ權内ニ専屬ス

第八條

前條ノ見本ニ對シ其ノ輸出ノ際兩締約國ノ一方ノ税關カ施シタル記號、極印又ハ印章ハ右見本ノ詳細ナル説明ヲ記載シ該税關ノ公ノ査證ヲ有スル目録ト共ニ其ノ見本品タルコトヲ證明スルモノトシテ且該目録列記ノモノタルコトヲ確認スルカ爲必要ナル外右見本ヲシテ検査ヲ免カレシムルモノトシテ互ニ他ノ一方ノ税關ヨリ承認セラルヘシ但シ其ノ特ニ必要ト認ムル場合ニハ更ニ記號ヲ該見本ニ施スコトヲ得

第九條

兩締約國ノ一方ノ國法ニ從ヒテ既ニ設立セラレ又ハ今後設立セラルヘキ商工業及金融業ニ關スル株式會社其ノ他ノ會社及組合ニシテ該國版圖内ニ住所ヲ有スルモノハ他ノ一方ノ版圖内ニ於テ其ノ國法ニ違反セサル限リ權利ヲ行使シ且原告又ハ被告トシテ裁判所ニ出頭スルコトヲ得

第十條

兩締約國ノ一方ノ港ニ其ノ國ノ船舶ヲ以テ適法ニ輸入セラレ又ハ輸入セラルルコトアルヘキ一切ノ物品ハ他ノ一方ノ船舶ヲ以テ亦均シク該港ニ之ヲ輸入スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ右物品ノ内國船舶ニ依リテ輸入セラルルトキ課スル所ト異ナルカ或ハ之ヨリ多額ナル税金又ハ課金ハ如何ナル名稱ヲ有スルモノタリトモ之ヲ課スルコトナシ右相互均等ノ待遇ハ該物品カ直接ニ生産原地ヨリ到ルト其ノ他ノ外國ヨリ到ルトヲ問ハス之實行スヘシ

輸出ニ關シテモ右ト同様ニ全ク均等ノ待遇ヲ爲スヘク從テ締約國ノ一方ノ版圖ヨリ適法ニ輸出セラレ又ハ輸出セラルルコトアルヘキ物品ハ其ノ輸出カ日本船舶ニ依ルト和蘭船舶ニ依ルトヲ問ハス且其ノ仕向先カ締約國ノ他ノ一方ノ港タルト第三國ノ港タルトニ拘ラス之カ輸出ニ當リ該版圖内ニ於テ同一ノ輸出税ヲ納付シ又同一ノ奨勵金及戻税ヲ受クヘシ

第十一條

締約國ノ領水内ニ於ケル船舶ノ繋留及貨物ノ積卸ニ關スル一切ノ事項ニ付テハ締約國ニ於テ兩國ノ船舶ヲ全ク均等ニ待遇スルノ意思ナルニ因リ締約國ノ孰レノ一方タリトモ他ノ一方ノ船舶ニ對シ同様ノ場合ニ均シク許與セサル何等ノ特權又ハ便益ヲ自國船舶ニ許與スルコトナカルヘシ

第十二條

和蘭國又ハ日本國ノ國旗ヲ掲ゲ且各本國法ニ規定スル國籍證明書類ヲ有スル商船ハ日本國又ハ和蘭國ニ於テ之ヲ和蘭船舶又ハ日本船舶ト認ムヘシ

第十三條

政府、官公吏、私人、國體又ハ各種營造物ノ名義ヲ以テ又ハ其ノ利益ノ爲ニ課セラルル噸税、通過税、運河税、港税、水先案内人料、燈臺税、検疫費其ノ他名稱ノ如何ニ拘ラス之ニ類似又ハ該當スル税金又ハ課金ハ同様ノ場合ニ均シク内國船舶一般ニ又ハ最恵國船舶ニ課スルモノニ非サレハ締約國ノ一方ノ領水内ニ於テ之ヲ他ノ一方ノ船舶ニ課スルコトナシ右均等ノ待遇ハ兩國ノ船舶カ何レノ地ヨリ來リ又何レノ地ニ住クヲ問ハス相互ニ之ヲ實行スヘシ

第十四條

兩締約国ノ一方ノ當該領事官ハ他ノ一方ノ版圖内ニ於テ自國商船内ノ秩序ヲ専管シ海上又ハ駐在國領水内ニ於テ船長、職員其ノ他ノ船員間ニ生スル紛議殊ニ給料ノ決定及契約ノ履行ニ關シテ生スル紛議ヲ單獨ニテ處辨スヘシ但シ締約國ノ一方ノ領水内ニ在ル他ノ一方ノ商船内ニ騒擾ノ發生シタルトキ其ノ發生地ノ當該官廰ニ於テ之カ爲港内又ハ陸上ノ安寧秩序ヲ妨害スルカ或ハ其ノ虞アリト認ムル場合ニハ當該内國官廰之ヲ管轄スヘシ

第十五條

兩締約國ノ一方ノ國籍ヲ有スル商船ニシテ他ノ一方ノ領水内ニ在ルモノノ船員脱船シタルトキ脱船者ノ逮捕及引渡ノ爲該商船所屬國ノ當該領事官ニ於テ一切之ニ關スル費用ノ償還セラルヘキコトヲ保障シテ請求シタル場合ニハ地方官廰ハ國法ノ許ス限リ其ノ權内ニ在ル各般ノ援助ヲ與フルコトヲ要ス

右ノ規定ハ脱船地ノ國ノ臣民ニ關シテハ之ヲ適用セサルモノトス

第十六條

兩締約國ノ一方ハ局外中立ノ義務ニ反セサル限リ他ノ一方ノ船舶ニ對シ難破、海上損害又ハ不可抗力ニ因ル寄航ノ場合ニ其ノ國有タルト私有タルトヲ問ハス同様ノ場合ニ内國船舶ニ許與スルト同一ノ援助、救護及免除ヲ許與スヘシ右難破又ハ被害船舶ヨリ救上ケタル貨物ニ對シテハ關税ヲ免除ス但シ内地消費ノ爲引取ラルル場合ニハ成規ノ關税ヲ納付スヘシ

第十七條

兩締約國ハ各締約國ノ通商、航海及工業ヲ總テ最恵國ノ基礎ニ置クノ意思ナルニ因リ通商、航海及工業ニ關スル一切ノ事項ニ付其ノ一方カ別國ノ船舶又ハ臣民若ハ人民ニ現ニ許與シ又ハ今後許與スルコトアルヘキ一切ノ特權、恩典又ハ免除ヲ即時且無條件ニテ他ノ一方ノ船舶又ハ臣民ニ及ホスコトニ同意ス

第十八條

本條約ノ規定ハ左ノ事項ニ之ヲ適用セス

イ 各締約國カ接境國ニ對シ國境貿易ニ便ナラシメムカ爲許與シ又ハ許與スルコトアルヘキ殊遇
ロ 締約國ノ内國民漁業ノ産物及漁産ノ輸入ニ關シテ内國民漁業ニ準セラルル漁業ノ産物ニ許與シ又ハ許與スルコトアルヘキ待遇
第十九條

本條約ノ規定ハ各締約國ノ領有シ又ハ管治スル一切ノ地域ニ之ヲ適用スヘシ

第二十條

本條約ハ批准ヲ要ス其ノ批准書ハ成ルヘク速ニ東京ニ於テ交換スヘシ本條約ハ批准書交換ノ翌日ヨリ實施シ締約國ノ一方カ之ヲ廢棄スルノ意思ヲ他ノ一方ニ通告シタル日ヨリ十二月ノ期間ノ滿了ニ至ル迄効力ヲ有ス


右證據トシテ各全權委員本條約ニ署名調印ス

千九百十二年七月六日海牙ニ於テ本書ニ通ヲ作ル

佐 藤 愛 麿 (印)
エル、デ、マレース、ファン、スヰンデレン (印)

天佑ヲ保有シ萬世一系ノ帝祚ヲ踐メル日本國皇帝(御名)此ノ書ヲ見ル有衆ニ宣示ス

朕明治四十五年七月六日海牙ニ於テ帝國全權委員カ和蘭國全權委員ト共ニ署名調印シタル通商航海條約ヲ閲覧點檢シ之ヲ嘉納批准ス

神武天皇即位期限二千五百七十三年大正二年九月二十二日東京宮城ニ於テ親ラ名ヲ署シ璽ヲ鈐セシム

御名國璽

外務大臣 男爵牧野伸顕

この著作物は、日本国の著作権法第10条1項ないし3項により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。(なお、この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により、発行当時においても、著作権の目的となっていませんでした。)


この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。