平成9年9月6日の内外記者会見

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冒頭発言[編集]

本日はどうもありがとうございます。 まず、この記者会見にあたって、今回の中国訪問は非常に素晴らしいかつ有意義なものであったということを申し上げたいと思います。日中国交正常化25周年という記念すべき年に、中国政府のお招きによって、我が国にとって最も重要な国の一つである中国を訪問できたことは、それ自体が私にとって大きな喜びでありました。昨日、一昨日と、江沢民主席、李鵬総理をはじめ中国首脳の方々と、実りある意見交換が出来ました。この後、私は、東北地方の瀋陽、大連の二つの都市を訪れます。そしてここでは、地方部の発展の状況を自分の目で見せて頂くと同時に、改めて過去の歴史を直視しながら、将来の日中関係に思いを至す良い機会にしたいと考えています。

翻って昨年来の日中関係の状況を見ますと、11月、マニラでの江沢民主席と私との会談を行いました。この会談を経て、国交正常化25周年をともに祝う環境が整ってまいりました。私は、こうした望ましい方向というものを確たるものにしていく、そして日中関係を安定的に発展の軌道に乗せることを強く望んで今回中国を訪問したわけです。この度、私は、中国の政府首脳の方々との間に日中関係から国際情勢、更には地球規模問題に至る日中間の協力、幅広い話題について意見交換を行うことができました。これを通じて、両国関係発展の基礎を確認するとともに、首脳間の一層の信頼関係を築きあげ、新たな四半世紀に向けての、対話と協力の関係を強化していくための基礎を築くことができたと確信しています。両国は今後は少なくとも毎年1回、いずれかの側の首脳レベルが相手国を訪問することになりました。これを受けて、11月、李鵬総理の訪日、さらに明年の江沢民主席の訪日に向けて関係を一層強固なもの、堅固なものとすべく努力を払っていきたいと考えます。

私は、昨日の国家行政学院での講演の中で、日中関係の一層の発展を目指す上で、両国間の対話と協力を推進していくことの重要性を述べました。そして、日中両国が来世紀に向けて、アジア太平洋地域、そして世界のことを考え、幅広い問題について話し合い、協力していくべきであることを強調しました。両国が対話と協力を進めて行くべき面、分野というものはたいへん広範なものになるはずですが、私は特に、安全保障面で対話を進めながら信頼関係を築いていくことが重要と考えています。  最近、中国側から日米安保の問題、なかんずくいわゆる「指針」の見直しに関わる問題について、強い関心が表明されてまいりました。一昨日の首脳会談において、私から李鵬総理に対し、日本の基本的な考え方についての説明を行いました。また、他の要人の皆さんとの会談でもこうした問題は常に話題になり、その度に日本の基本的な考え方を申し上げてきたところです。こうした会談はお互いの立場に対する理解を進める上で、また深める上でも、一定の成果を得たものと確信しております。

また、地球規模問題に向けられる日中間の協力として、今回の訪中で、「21世紀に向けた日中の環境協力」という構想を私の方から提案し、基本的な賛同を得ました。環境情報ネットワーク、モデル都市構想の二つの柱からなる構想でありまして、両国が協力して他国にも影響を及ぼしうる大気汚染などの地球規模の問題に対処していきたいと考えています。そしてこうした日中双方の努力の結実を心から期待しています。  また、今次訪中を直前に、新たな漁業協定の実質合意、中国のWTO早期加盟に向けた議論の大きな進展が見られました。いずれも日中双方が誠実な交渉を積み重ねてきた結果であり、双方の交渉担当者に対して改めて私は敬意を表したいと思います。更に一昨日、本年度分の円借款の交換公文署名も行われ、加えて文化面での協力についての話し合いも進んでいます。こうした実務面の協力は、相互信頼の基礎でもありますし、今後益々発展させていきたいと考えています。  

最後になりましたが、今回の訪問に際し、中国側からたいへん温かい歓迎を示していただいたこと、その周到な準備と接遇すべてに心から謝意を表したいと思います。

橋本龍太郎, 外務省ホームページ

質疑応答[編集]

これから質疑応答を行います。質問のある方は挙手をお願いします。どうぞ。

報道官, 外務省ホームページ

総理は、今回中国を訪問されるに当たり日・米・中の三角形のうちの日・中の一辺を強化したいとおっしゃってましたが、江沢民国家主席、李鵬総理ら首脳との会談で本音をぶつけ合うことができたとお考えですか。

今、あなたからも触れられたように、私は、本当にアジア太平洋地域の平和と繁栄を確保し、より堅固なものにしていこうとするとき、これは日・米・中の3カ国が良好かつ安定的な関係を築いていくことが不可欠と思っています。そしてその意味で日米、日中、米中のそれぞれの2国間関係が前進し発展しうるプラス・サムの関係にあると考えています。そしてまさに今回の訪中では、その三角形の一辺である中国と我が国のあいだをより前進させたい、そんな思いでこちらにまいりました。昨日、一昨日と、江沢民主席、李鵬総理をはじめ、中国の首脳の方々と先程申し上げたように幅広い議論をすることができた。そしてそれはお互いが相手のいうことに理解を示しながらも、問題によっては意見の違うところも率直に認め合う、そういった意味で、私は本音の対話ができたと思っています。そしてこれは、日中の関係の発展の基礎を確認した上で、将来に向かって幅広い日中関係を形作っていく上で、その基礎として大きな役割を果たし得る、それだけの本音の議論ができた、私はそう思っています。

橋本龍太郎, 外務省ホームページ

現在、国交を正常化して25周年になりますが、この安定に対して影響を与えるものは、台湾の問題、そしてまた歴史認識の問題が存在しております。日本政府はこれらの問題について、どのような措置を講じたのでしょうか。日本の閣僚が、歴史の問題につきまして、歴史を歪曲し、また中国国民の感情を傷つけるような発言が出てきております。総理はこれらの問題について、何か良策、良い方法はありませんでしょうか。

まずこれは、申し上げたいことですけれども、日本をはじめ各国の中には、いろいろ異なることをいう人がいる。それが日本の制度だということは、是非私は理解していただきたいと思うんです。その上で、それが日本政府の、多くの、圧倒的に多くの日本人国民の本意でないということを明確に申し上げたいと思います。日本政府は、第二次世界大戦敗戦の日から五十周年の1995年、内閣総理大臣談話という形をとりまして、我が国として、過去の日本の行為が中国を含む多くの人々に対し、耐え難い悲しみと苦しみを与えた、これに対して深い反省の気持ちの上に立ち、お詫びを申し上げながら、平和のために力を尽くそうとの決意を発表しました。私自身がその談話の作成に関わった閣僚の一人です。そしてこれが日本政府の正式な態度である、立場であることを繰り返し申し上げたいと思います。そしてこのことは首脳間における論議の中でも、中国側に私も率直に申し上げ、李鵬総理も私の発言に完全に同意すると、そう言って頂きました。そして、ここで一つ申し上げたいことはこの記者会見が終わりますとすぐに、私は戦後の日本の総理として初めて東北地方を訪問させていただきます。そして、9・18事変記念館の博物館も見せて頂くつもりでいます。これはまさに過去の歴史を直視した上で、将来にむけての友好協力の実をあげたい、そうした思いからこういう日程を選んである、そういう点も、是非ご理解いただきたいと思います。

橋本龍太郎, 外務省ホームページ

ガイドラインの見直し問題についてお伺いします。今回の一連の会談で、中国側から強まっておりましたガイドライン見直しに関する懸念、これは払拭、あるいは和らげることができたかどうか。それから、李鵬首相はこの問題については最終報告がまとまった段階で判断したいということで、いわば判断留保という形になっていますけれども、今後この見直し作業をどのように進めていくのか、以上2点お願いします。

今回の首脳会談、そして要人会談の中では、私から「指針」の見直し、そして台湾に関する問題について、我が国の立場を一所懸命ご説明をしてきました。そして、我が国の立場に対する中国側の理解というものは私は深めて頂けたと思います。しかしそれは、その理解をされた上で、これを了解されたというものではありません。なお、私は中国側には懸念が存在しているであろうことを、自分でも感じています。この指針の今後の策定に向けても、まず私たちが心がけるべきことは、それは透明性を確保して、どこから見てもきちんと特定の問題に向けてのものでないということを理解して頂けるよう、透明性を確保することの重要性に十分留意しながら作業を進めていく、同時にその作業の結果については、中国側にも説明を行いたい。またそういう意志を申し上げたところ、そういう説明を十分待って、判断をしたいと言われたことはあなたの言われたとおりです。そういうやりとりができるようになったこと自体が、私は今度の日中首脳会談の、一つの成果だったと思っていますし、懸念を完全に払拭していくためには、私は両国間の安全保障対話、そしてその中で直接の防衛担当者どうしの交流といったものを積み重ねていきながら、事実をもって、その懸念を払拭していく努力をこれからも続けていかなければならないと思っています。

橋本龍太郎, 外務省ホームページ

江沢民首席、また李鵬首相と会談され、また、昨日の講演の中におきましても、日本政府は、中日共同声明、それからまた平和友好条約に則って行う、台湾独立は認めない、また2つの中国は認めない、というふうに発表されました。しかし現在日本の中におきましては、ハイレベルの高官の中におきましても、日米安全保障条約のガイドラインの中には、台湾が含まれると、いうようなことを申されております。つまりこれは公に、この声明と条約の精神に反するものであります。このことに対して、総理はどのようなお考えをお持ちでしょうか。

これは首脳会談でも繰り返しご説明をしてきたことですけれども、この「指針」見直しの中で「周辺事態」といっているものは地理的概念ではない。その事態の性質に着目した概念であるということです。ここでも私は同じことを繰り返させていただきたいと思います。そしてその上でまさに台湾をめぐる問題というのは、我が国は、日中共同声明の第3項で表明しているとおり、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」という中華人民共和国の立場を十分理解し、尊重するという立場です。そして今日までもそうでしたし、これからも私は日本は、二つの中国、あるいは一つの中国と一つの台湾、そういった考えを支持するつもりはない、ということを繰り返し申し上げてきました。同時に、われわれは台湾をめぐる問題が本当に当事者間で平和裡に解決されることを強く願っているということも首脳会談の席上で申し上げてきたことです。

橋本龍太郎, 外務省ホームページ

総理、ただいまお話の中で、日米の安保条約は非常に重要だというむね御発言があったわけですけれども、「周辺事態」については地理的な問題ではなく状況の問題であるということをおっしゃったわけであります。地理的に境界を画すものではないということをおっしゃったわけですが、中国側に対しては曖昧な点が少し残っているというふうに理解しております。すなわち、もしかしましたら将来ある状態が起こって台湾も関与してくるかもしれない、だから日本も何か関与してくるかもしれない、ということで絶対的にそういうことはないんだというところまで100%は保証なさらなかったと聞いておりますがどうでしょうか。

私は今申し上げたとおりの話を首脳会談でもしてきました。そして我々は、この海峡を挟む両当事者の間で、これが平和裡に解決されることを願う、ということを繰り返し申し上げています。そして、これは私だけではなく、アメリカ政府にも確かめていただきたいと思いますけれども、我々は特定の地域を前提にしてこの問題を現在議論しているわけではありません。そして、全く仮定の事態をここで議論してみても仕方がないでしょう。われわれは台湾海峡の平和は維持されている、そう今信じていますし、この問題がまさに先程、日中共同声明の内容をここで読み上げたとおりに、われわれは中国の考え方というものを尊重すると申し上げ、その上でこれが平和裡に解決されることを願っています。

橋本龍太郎, 外務省ホームページ

今年は日中国交正常化25周年を迎えていますが、国交正常化以来の日中関係について、総理はどのように全般的に評価されますか。それから、これからの日中関係に対してどのように臨みますか。

私はこの25年間の歴史というものを振り返るとき、一番大きなもの、それは日中両国がそれぞれ全く異なった体制をとりながら、その中で違いを乗り越えて友好的なおつきあいができる、そしてそれが、結果として両国にともに利益をもたらしている。これが非常に貴重な事実を証明してきたと思いますね。そしてこの25年間の両国関係というものは、ほかに私は類を見ないくらい目を見張るようなものがあると思います。これはもう今更申し上げることもありませんけれども、例えば貿易を例にとると、日本にとりまして中国は世界で2番目の、中国にとって日本は世界の1番目の貿易相手国になりました。それはお互いの国民の暮らしがこれによってしっかりと結ばれたということではないでしょうか。そして両国間の経済協力も中国の改革・解放路線政策を支援するために着実に実施されてきました。そしてこれは両国の経済関係の拡大のために、多大な貢献をしてきました。一昨日も本年度の円借款の供与の交換公文の署名が行われています。そして、その上でなお、我々が強化していきたい協力というものは当然ながらあります。文化面における協力もあれば、環境面における、さらには食糧、エネルギーといった問題についてもわれわれは一層協力をする部分があるし、また協力ができるでしょう。そしてそういう具体的な問題についても、両国の首脳が本当に心置きなく話し合うことができたことを、私は25周年の成果としてまず皆さんに申し上げたいと思います。そして同時に日中共同声明、また日中平和友好条約、これはまさに基礎となるべき大事なものですし、これを変えることはできません。ただ、同時にこれは不正常な状態を正常に戻すために作られた貴重な文書です。ですからこれを基礎としながらも、対話と協力を進めていく、その上にどれだけのものを積み上げていけるか。これが変化する時代に対応しながら、両国の関係というものを一層幅の広いものに、そして深みのあるものに、より高度なものにしていく、そんな役割を果たすと思いますし、むしろこれからはそういう時代に入っていきたい、私は真剣にそう思っています。

橋本龍太郎, 外務省ホームページ

総理は信頼関係を日中間で築きたいんだとおっしゃっておられます。そして中国の指導者層は日本の政府に対して、過去1年間、尖閣諸島に対しましては、日本は足を踏み入れてほしくないと言っているにも関わらず、日本の方が昨日まさにそれをなさろうとしたわけでありますけれども、例えばこういった島にはもう日本人として行ってはいけないというところまで規制をかけるようなおつもりはあるでしょうか。中国側の要請に耳を傾けるご用意はあるでしょうか。

尖閣列島についての我が国の立場は既に皆さんご承知のとおりです。そしてこの件について、日中双方の立場は確かに異なっていますが、こうした立場の違いによってアジア太平洋地域さらには世界全体にとり極めて重要な日中関係全体の正常な発展が損なわれるべきではない、という点については私は日中双方の認識は一致していると思います。そしてその上で、昨日尖閣列島に上陸しようとした人々は上陸を断念したと私は聞いておりますし、それに付け加えるべきものはありません。

橋本龍太郎, 外務省ホームページ

ほとんどの、日本の政界をフォローしている人間からいたしますと、今月、自民党の総裁にあなたが選ばれることによりまして内閣改造があると、みんなが思っております。多くの場合、新しい閣僚が初めて記者会見をいたしますと、過去におきましては、歴史認識とか教科書問題とか、中国を腹立たせるようなことがよく出たりするんですけれども、あなたは特別注意を払われますか。閣僚を選ぶにあたっては、そういうことがないように、例えば不当に今までなされたような努力を無にするような発言がないように、特別に努力をなさるおつもりですか。

たいへん恐縮ですけれど、ここにいる日本の同僚の記者諸君に、そういう点での節度をもった質問をしてくれと、あなたから頼んでもらえないでしょうか。政治家は質問を受ければそれに答える責任があります。そしてその中に、国際関係に影響を及ぼすような質問があっても、それが正式に質問されるものであれば、政治家はそれに対して答えなければなりません。その上で、私は、どこの国の政治家であれ、どこの国の内閣の一員であっても、不用意な自分のひとことで国際関係にひびを入れるようなことは、皆が慎まなければならないと、そういう問題だと私は思います。私が自民党の総裁に再選されるかどうかはわかりませんけれども、少なくとも私は自分でそう行動してきたつもりですし、それでもときどき自分の行動で、問題を惹起することがありました。世界中どこの国の政治家であっても、自らの発言で自らの国と他国との間に、余計な問題を起こすことは避けるべきだと思いますよ。

橋本龍太郎, 外務省ホームページ

残念ですが、時間的制約もありまして、これにて橋本総理大臣の記者会見を終わります。

橋本外務報道官, 外務省ホームページ

どうもありがとう。

橋本龍太郎, 外務省ホームページ