山田長政と其僕

提供: Wikisource
ナビゲーションに移動 検索に移動


(庵点)殿には御目(おんめ)ざめ侯か。あれあれ、あれを御覧候へ。
(庵点)三郎兵衛が起きよと云へば、若き日の昼寝の夢をふり払ひ、椰子の木蔭にたゝずまむ。あな恐ろしき物音かな、何事の起りたるぞや。
(庵点)あれなるはわが日の本のつわものにて侯な里。
(庵点)なに、日の本のつわものとや。昔とはいとも異る人々のいでたちなるよな。
(庵点)大き車のうち続き、牡牛の如く猛りゆくは?
(庵点)六昆、まらいの民草に、奴隷(ぬれい)の桎(かせ)を取り外し、満ち足る国を建てしめむと、すめらぎのみことかしこみ、いげりやの兵を追ひつゝ、はたにをば南に行くは、なつかしき故郷人(ふるさとびと)にて候なり。
(庵点)あな勇ましきものゝふかな。中道にして破れさるわが望ここにかなへり。たたたたと音の轟く。たくましき閧の声かな。
わが肉も隆まる思。まぼろしの身にしあれども、その進むゆくての空を翔りつゝ力添へてむ。起きよ、起きよ、昔の族(うから)。その進むゆく手の空を翔りつゝ力添へてむ。われに続け、翔れ者ども。
出典:「辻詩集」日本文学報国会