大正6年(オ)第387号

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引受債務履行請求ノ件[編集]

大正六年(オ)第三百八十七号

大正六年十一月一日第二民事部判決

上告人 斎藤友次

訴訟代理人 徳本寛三 舟崎仁一

被上告人 土田門十郎

訴訟代理人 高野金重

右当事者間ノ引受債務履行請求事件ニ付新潟地方裁判所カ大正六年二月十七日言渡シタル判決ニ対シ上告人ヨリ全部破毀ヲ求ムル申立ヲ為シ被上告人ハ上告棄却ノ申立ヲ為シタリ

主文[編集]

原判決ヲ破毀シ本件ヲ新潟地方裁判所ニ差戻ス

理由[編集]

上告理由第一点ハ第二審裁判所ハ其判決理由ノ部ニ於テ「民法第五百三十七条ハ契約ニヨリ当事者ノ一方カ第三者ニ対シ或給付ヲ為スヘキコトヲ約シタル場合ノ規定ニシテ契約当事者ノ一方カ既ニ第三者ニ対シ負担シタル債務ヲ相手方ニ引受ケシムヘキコトヲ契約シタル場合ノ如キハ之ヲ包含セサルモノト解スルヲ相当トス」トアリ

然レトモ這ハ明カニ同法条ノ律意ヲ誤解シタルモノニシテ之カ為メ本件ニ付同法条ヲ適用セスシテ上告人ニ敗訴ノ判決ヲ言渡シタルハ明ニ法律ニ違背セルノ失当アルモノト謂ハサルヘカラス

所謂第三者ノ為メニスル契約ナルモノハ当事者ノ一方即チ諾約者カ相手方タル要約者ニ対シ当事者以外ノ第三者ニ給付ヲ為ス可キコトヲ約スル契約ナルヲ以テ苟モ契約当事者カ第三者ヲシテ権利ヲ取得セシムルノ意思ヲ以テ締結スルニ於テハ常ニ第三者ノ為メニスル契約ヲ成立セシムルモノナルコトハ学説判例ノ一致スル所ナリトス

故ニ第三者ニ新タナル給付ヲ為スヘキコトヲ約スル場合ハ勿論尚又契約当事者ノ一方カ相手方ニ対シ相手方カ第三者ニ支払スヘキ債務ヲ相手方ノ為メニ引受ケテ之ヲ第三者ニ弁済スルコトヲ契約スルトキモ同様第三者ノ為メニスル契約トシテ有効ナルモノト謂ハサルヘカラス

何トナレハ同法条ハ契約ニヨリ当事者ノ一方カ第三者ニ対シテ或給付ヲ為スヘキコトヲ約シタル時ト規定シアリテ斯ル場合ヲ除外シ居ラサルノミナラス此場合ニ於テハ諾約者自ラカ債務者タルノ地位ニ立チテ弁済スヘキコトヲ約セルモノナレハ明カニ第三者ヲシテ給付ヲ受クル権利ヲ取得セシムルノ意思ヲ以テ其契約ヲ締結シタルモノニシテ即チ重畳的債務ノ引受ヲ約シテ自ラ連帯債務ヲ負担スルニ至レルモノナレハナリ

之ニ反シ当事者ノ一方カ相手方ノ為メ単ニ第三者ニ対シ債務弁済ヲナスヘキコトヲ約セル場合ハ所謂履行引受ノ契約ニシテ第三者ヲシテ権利ヲ取得セシムルノ意思別言セハ第三者ニ対シ直接ニ債務ヲ負担スルノ意思ナキヲ以テ該契約ハ第三者ノ為メニスル契約ニアラサルヤ勿論ナリトス

然シテ債務引受契約カ第三者ノ為メニスル契約トシテ有効ナルコトハ多数学説ノ是認スル所ナリ

即チ横田法学博士ハ債権各論ノ第三者ノ為メニスル契約当事者間ノ効力ナル部ニ於テ「第三者者ノ為メニスル契約トハ契約当事者カ第三者ヲシテ権利ヲ取得セシムルノ意思ヲ以テ締結スル契約ヲ云ヒ当事者ニ此意思ナキ時ハ其契約ハ第三者ノ為メニスル契約ニアラス例之甲乙ニ対シ乙ノ取引先ノ銀行ニ其借用金ヲ支払フコトヲ約シタリト仮定センニ之レ唯甲カ乙ニ対スル債務弁済ノ方法ヲ定メタルニ過キスシテ銀行ヲ以テ権利者ト為スノ意思ナキモノナレハ其契約ハ乙ニ於テ直接ニ利益ヲ享有スル契約ニシテ第三者ノ為メニスル契約ニアラス之ニ反シテ契約ノ趣旨ニヨリ銀行カ直接ニ甲ニ対シテ権利ヲ取得スヘキ時例之甲カ其契約ニヨリ銀行ニ対シ債務者ト為リテ甲ニ代リテ弁済ノ責ニ任スヘキ場合ニ於テハ其契約ハ第三者ノ為メニスル契約タルノ性質ヲ有スルモノトス」ト説明シアリ

又石坂法学博士ハ法曹記事第二十四巻第二号重畳的債務引受論(承前)ニ於テ「債務者引受人間ノ契約ニヨリテ重畳的債務引受ヲ成立セシムルコトヲ得即チ引受人カ原債務者ニ対シ債権者ニ給付ヲ為ス可キコトヲ約シタル場合ニハ原債務者ト引受人トノ間ニ第三者ノ為メニスル契約成立ス従テ債権者ハ之ニ基キ引受人ニ対シテ債権ヲ取得スルモノトス云云故ニ此場合ニ於テモ亦債権者カ享益ノ意思ヲ表示シテ始メテ引受人ニ対シテ債権ヲ取得スルモノト為ササルヲ得ス原債務者ト引受人トノ間ニ重畳的債務引受ヲ約スル場合ニハ債権者ヲシテ債権ヲ取得セシムルノ意思明カナルコトヲ要ス従テ第三者ノ債務者ニ対シ単ニ債務者ヲシテ其債務ヲ免カレシムヘキコトヲ約スルニ過キサル場合ニハ重畳的債務引受存スルコトナシ云云」ト説明シアリ尚同博士第三巻民法一二八頁ニハ「重畳的債務ノ引受ニヨリテ連帯債務成立ス」トアリ(鳩山学士同説)

次ニ東京控訴院ニ於テハ明治四十五年(ネ)第四三号事件ニ付「債務ノ引受ハ債務者及新債務者間ノ同意ニヨリテ之ヲ為スコトヲ得ル旨」ノ判決ヲ為シタリ

尤モ御庁ニ於テハ大正四年(オ)第三七二号事件ニ付「契約当事者ニ全ク第三者ヲシテ給付ヲ受クル権利ヲ取得セシムル意思ナクシテ単ニ其一方カ相手方ノ第三者ニ対スル債務ヲ弁済スヘキコトヲ約シタル場合ニ於テハ契約当事者ノ一方ハ相手方ノ為メニ其第三者ニ対スル債務ヲ弁済ス可キ義務ヲ負担スルニ至ルヘシト雖モ其契約ハ第三者ヲシテ権利ヲ取得セシムルコトヲ目的トシタルモノニアラサルヲ以テ第三者ノ為メニ其効力ヲ生スヘキ理由ナク従テ第三者カ契約ノ利益享受ノ意思ヲ表示スルモ之ニヨリテ第三者カ右当事者ノ一方ニ対シ直接ニ給付ヲ請求スル権利ヲ取得スルコトヲ得サルモノトス」トノ判例ヲ示サレタルモ這ハ債務引受契約カ第三者ノ為メニスル契約トシテ効力ナキコトヲ判示セシモノニアラスシテ所謂債務履行引受契約ナルモノハ第三者ヲシテ給付ヲ受クル権利ヲ取得セシムル意思ナクシテ締結セル契約ナルヲ以テ第三者ノ為メニスル契約ニアラサルコトヲ判示シ間接ニ第三者ヲシテ権利ヲ取得セシムル意思ヲ以テ締結セル債務引受契約カ第三者ノ為メニスル契約トシテ有効ナルコトヲ認メタルモノト解セントス

斯ノ如ク債務引受契約(債務者ト引受人間ノ)カ民法第五百三十七条ノ第三者ノ為メニスル契約トシテ有効ナルコトハ学説判例ニ於テ是認セル所ナルニ拘ハラス第二審裁判所ハ右学説ヲ無視シ又御庁ノ右判例ノ趣旨ヲ誤解シテ債務引受契約ハ同法条ノ契約ニ該当セスト断定シタルハ明カニ適用ス可キ法条ヲ誤解シタル失当アルモノト云ハサル可ラス

而シテ本件ハ原裁判所モ認ムル如ク履行引受ヲ原因トスルモノニアラスシテ債務引受ノ契約ヲ原因トセルモノナルヲ以テ若シ同法条ヲ誤解セサルニ於テハ上告人ニ於テ敗訴ノ言渡ヲ受ケサルモノト信スト謂フニ在リ


按スルニ第三者給付ノ契約ハ契約当事者カ契約ノ目的タル給付ノ上ニ第三者ヲシテ一定ノ権利ヲ取得セシムル目的ニ於テ当事者ノ一方カ相手方ニ対シ第三者ニ給付スヘキコトヲ約スルニ因リ成立スルモノナルカ故ニ必スシモ要約者ト第三者トノ間ニ給付ノ債務関係ナク新ナル独立ノ給付ヲ約シタル場合ニ限ルコトナク既存ノ債務ノ履行ヲ引受ケ支払ヲナスコトヲ約スル場合ニ於テモ当事者ノ意思カ前掲ノ如ク第三者ヲシテ権利ヲ取得セシムルニアルトキハ第三者ノ為メニスル契約ハ成立スルコトヲ得ルモノトス

然ルニ原判決ハ此契約当事者ノ意思如何ヲ探究セスシテ「而シテ右法条(民法第五百三十七条)ハ契約ニ因リ当事者ノ一方カ第三者ニ対シ或給付ヲ為スヘキコトヲ約シタル場合ノ規定ニシテ第三者ハ之ニ依リ債務者ニ対シ直接ニ該契約ノ目的タル給付ヲ請求シ得ヘキ権利ヲ取得スルモノナレハ第三者カ給付ヲ受クヘキ債権関係ハ第三者ト契約当事者トノ間ニ於テ会テ存在セサル場合タルコトヲ要シ契約当事者ノ一方カ既ニ第三者ニ対シ負担シタル債務ヲ相手方ニ引受ケシムヘキコトヲ契約シタル場合ノ如キハ之ヲ包含セサルモノト解スルヲ相当トス」ト判示シタルハ法律ノ解釈ヲ誤リタルモノニシテ之ニ依リ上告人ノ本訴請求ヲ排斥シタルハ不当ニ法則ヲ適用シタル不法アルモノニシテ上告理由アリ依テ原判決ハ破毀ヲ免レサルモノトス


仍テ爾余ノ上告論旨ニ付キ之カ判断ヲ省畧シ民事訴訟法第四百四十七条第一項及第四百四十八条第一項ニ従ヒ主文ノ如ク判決ス

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