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坂本龍馬/和歌3

提供:Wikisource

   秋の暮れ
嵐山夕べ淋しく鳴る鐘に
    こぼれそめてし木々の紅葉

   桂小五郎揮亳を需めける時示すとて
ゆく春も心やすげに見ゆるかな
    花なき里の夕暮の空

    ○
こゝろからのどけくもあるか野辺ハ猶
    雪げながらの春風ぞ吹

   ○
丸くとも一かどあれや人心
     あまりまろきはころびやすきぞ

   奈良崎将作に逢ひし夢見て
面影の見えつる君が言の葉を
    かしくに祭る今日の尊さ

   父母の霊を祭りて
かぞいろの魂やきませと古里の
    雲井の空を仰ぐ今日哉

   ○
ゑにしらが艦寄するとも何かあらむ
     大和島根の動くべきかわ

   ○
常磐山松の葉もりの春の月
     あきハあはれと何をもいけん

   ○
世と共にうつれば曇る春の夜を
     朧月とも人は言ふなれ

   土佐で詠む
さよふけて月をもめでし賤の男の
    庭の小萩の露を知りけり

   伏見より江戸へ旅立つとき
又あふと思ふ心をしるべにて
    道なき世にも出づる旅かな

   淀川を遡りて
藤の花今をさかりと咲きつれど
    船いそがれて見返りもせず

   泉州名産挽臼
引臼の如くかみしもたがはずば
    かかる憂目に逢はまじきもの