坂本龍馬の手紙/慶応3年3月6日付印藤肇宛

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  追白、先日より病気ニて引籠居候まゝ
  書付として呈しぬ。
 下の件ハ長〻の御ものがたり申上候得バ、通
 常の手紙ニしてハ何分別りがたく候間、不文
 ニハ一ツ書の方がよろしかるべしとて申上た
 れバ、元より不敬の義御見ゆるしたまえ。
〈第一段〉
一、先日中三丈夫関の方へ御帰
 りの時分なりと思ふが、内同薩
 の者より極竊ニ承りたるにハ
 隊の者大夫の身上を大ニ論じ
 勢だしておりたるよし。猶竊ニ
 其故を聞ニ大夫は尤海軍ニ
 志を起され陸軍ニ御セ話無之
 との故のよし。其余の事ハ不分明、
 小弟思ふニ、三吉大夫が陸軍を
 おさめたまいし時ハ隊中一同
 皆報国の赤心を振起し、大夫
 の賢なるをかんじ居候よし也。
 されバ今如此の事を聞くハ、
 定めて小人共私の頭上に
 其賢大夫のおらぬをうれたみ、
 ゆハゆる南面してせいす
 れバ北方うらむの儀ならんか。
〈第二段〉
 今日不計も三吉老翁の来杖、
 幸ニ諸君の無異平安なるを
 伝聞相賀し申候。三大夫及
 大兄ニも三四日中ニニハ、御出関と承リ
 御待申候。
〈第三段〉
 上一段二段の事どもつら/\案ずる所、
 彼竹島行の事ハ兼而御聞ニ
 入置候通り、三大夫ニも御聞ニ入レ
 申セしニ、随分御同心ニ候て、何レ
 近日二度ビ関ニ出候而決定可致との
 事なりし。其後ハまだニ御めニ
 かゝらず、御返じを相待所ナリ。
 然ニ当今世上の人情目前
 の事斗でなけれバ、相談ハ
 ならぬ事故ニ諸人ハ竹島
 行の事共ハ、皆無用の
 事として大夫が遠大の
 策にハ随ふまじくか、
 然レバ其事ハ行ハれまじ
 く残念の儀に相察し候。
〈第四段〉
 小弟ハヱゾに渡らんとせし
 頃より、新国を開き候ハ積年
 の思ひ一世の思ひ出ニ候間、何
 卒一人でなりともやり付申べく
 と存居申候。其中助太夫
 事、別ニ小弟の志を憐ミ、
 且積年の思ひも在之、不屈
 して竊ニ志を振ひ居申候。
 然レバ先頃長崎ニて、大洲
 蒸気船ハ三月十五日より
 四月朔迄の間ニ借入の定
 約ハ相定め置たり。故、
 近日其期限も来るべし。
〈第五段〉
 先日御耳ニ入レし時内〻仰せられし
 ニ、三慎ニあらざれバ自ラ出行
 致したしと、小弟誠ニ幸也。
 然るニ上段の時勢なれバ、君
 等此地を足を抜事ハ
 どふもむつかしかるべし。
〈第六段〉
 此月の初より長崎ニ出、大洲
 の船の来るをまち申べし
 と思ふ内ニ、小弟先日中
 風けニて床ニおり候もの
 から、心ニまかせず彼是する
 内ニ、大洲の船と共に長崎
 ニ廻るよふニならんかと思ひ
 おり候。
〈第七段〉
  大洲の船、石炭費用
  一昼夜ニ一万五千斤 故ニ二万斤の見込ナリ。
  タネ油一昼夜ニ壱斗、
 彼竹島ハ地図を以て側算
 すレバ、九十里斗なるべし。
 先頃井上聞太、彼島ニ渡り
 し者ニ問しニ、百里ナリ、
 とおふかた同じ事ナリ。
 其島ニ渡る者の咄しニ
 楠木ニよく似てありしもの、
 広くハ新木在之、其外、
 壱里余より弐里もあらん
 平地ありしと也。島の流レ
 ハ十里斗なりと、小弟曽而
 長崎ニニて聞しニ何とも
 相似たる咄し也。是本一ツ所
 より出たる咄しならんかとも
 うたがふ。
 下の関ヨリ行テ下の関ニ帰ル
 彼島ニ行て唯かへれバ三日
 のひまとるべし。但し下の関より。
〈第八段〉
 元より断然船借入し上
 ハ、自然其儀ハ可在之候得
 ども、同心の人をつのるに道あれ
 バ、三大夫及君立のヤメルと不止ト
 を此頃早〻承りたし。其故
 ハ御止メニなれバ又以前より約定
 セし兼而御聞ニ達セし人を
 つのらバやと存候。但シ金の
 つがふ斗ニ付てなり。もし御
 自身御出ニならずとも御同
 心の故を以て、其割ニ当ル
 金御出被遊れバ、小弟も外ニ人お
 つのるに及バず。
〈第九段〉
 三大夫も思召立なく君
 立も御出なく他人をつのらず僕身を以て、
 此行を成シとぐるにハ又
 金が入候べし。今手本ニも
 少〻ハあれども、相成事
 なれバ四百金十ケ月の
 期限ニて借入たし。御尽
 力相叶候ハヾ生前の大
 幸なり、宜願入候。
〈第十段〉
 御頼申上度事ハ三大夫及
 君御召立がとゝなハずとも、
 山に登りてハ材木を
 見、木の名を正し、土地を
 見てハ稲及むぎ、山にてハ
 くわの木はぜの木、其地
 ニ応じ候や否を見る者、
 一人海ニ入り貝類、魚
 類、海草などを見るもの。
(▲御セ話可被遣候やと頼申上度事ハ、此儀にて御座候。)
上件小身ニ一生の
思ひ出とし、良林及
海中の品類よきものを
得バ、人をうつし万物の
時を得るをよろこび、
諸国浪生らを命じて
是が地を開かすべしと、
其余思千万ナリ。
 以上稽首百拝ス。   龍
  三月六日、ねられ
  ぬまゝ筆をとり
  はべりぬ。
 印先生
    左右
 猶先日中ハ人丸赤人
 など時〻相集り哥よみ
 ついに一巻とハなして、
 ある翁をたのみ其一二
 をつけしに飯立
 市となりたり。幸ニ
 やつがれがうたハ第二とハ
 なりぬ。其哥ハ、
心からのどけくもあるか野べハ
なを雪げながらの
  春風ぞふく
 その頃より引つゞき
 家主などしきりに哥よみ、
 ある人ハ書林にはしり
 などしか/″\ニ候。御ひまあれ
 バ御出かけ、おもしろき御
 事に候。其諸君の
 哥袋のちりなごりともなり
 しこと見へ、やつがれも
 時〻三十一字を笑出し、
 ともニ楽ミ申候、今夜も
 ふでをさしおかんとしけるニ
 哥の意、何共別りかね
 しが春夜の心ニて、
  世と共にうつれバ曇る
    春の夜を
      朧月
   とも人ハイウなれ
先生にも近時の御作
何卒御こし可被成や。先日の
御作ハ家の主が、彼一巻の内ニハいた
し候と相見へ申候。かしこ