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商工経済会法 (提案理由)

提供:Wikisource


昭和十八年一月三十日(土耀日)午前十時九分開会


(序盤・略)


委員長(伯爵黒木三次君) 他に御要求もございませぬか。御要求がございませぬけれぱ、是より商工大臣の法案に対する御説明を願いたいと思ひます。

○国務大臣(岸信介君) 商工経済会法案外二件の提案理由を御説明申上げます。

商工経済会法案は先に本会議に於て申述べました通り、現下決戦体制擁立の為、国民経済の総力を戦力増強の目的に集中致しまして、之を最も有効に発揚せしむる為、国内産業経済の組織の確立を目的と致しまして、地域的総合産業経済団体の整備強化を図り、全国各道府県に商工経済会を設立せししむとするものであります[1]

産業経済組織の整備確立に付きましては、先に統制会制度の実現を見まして、又、其の下部組織の整備も後に御説明を申上げまするやうに、商工組合法案に依り商工組合が設けられるのでありますが、是等はそれぞれ業種別に生産、配給、消費を縦に貫く、謂わば縦断的の産業統制機構でありまして、此の縦断的統制機構に依る統制運営を真に円滑ならしめる為には、同時に是等の機構の連絡を図るべき、謂はば横断的機構を整備せねばならぬのであります[1]。現在、道府県の産業経済統制は総て地方官庁を通じて行はれて居りまして、之に協力せしむる為に速かに地域的総合的なる組織を必要とするのであります。

現在、総合的地域的な産業団体としましては、商工会議議所法に依る商工会議所があるのみでございますが、商工会議所法は御承知の如く、昭和二年に制定せられましたものでありまして、其の後に於きまする経済諸情勢の変化に依りまして、其の運営は今日の事情に即応し難きものが多いのでありまして、之を以てしては現下の要請に十分応ふることは困難と相成って参ったのであります。此の故に商工会議所制度を廃止致しまして、新たに商工経済会制度を設けむとするのであります。以下、少しく商工会議所と商工経済会とを比較致しまして、本法提案の理由を明に致したいと存じます。

従来の商工会議所は単に商工業の改善発達を図ることを其の自的と致して居ったのでありまするが、商工経済会は、地域的総合産業経済団体として、地方産業経済に関する行政に対する協力を此の主眼と致して居ります、第一に商工経済会は、産業行政の協力機関でありますので、行政区画に依りまして道府県を其の区域とし、従来の商工会議所が市又は町の範囲を区域として居りましたに対比致しまして、其の地区は拡大されるのであります。

次に商工会議所の構成員は、一定の国税、例へぱ営業税等の一定額を納むるものを議員選挙権者として、是等の者の選拳致しました議員を中心に、事業を行って居たのでありまするが、地方産業行政に協力せしめて、一般産業間の連絡を図ります為には、産業経済に関係するものを広く其の構成員とする必要があります。此の為、商工経済会に於きましては、各種産業を営むものの中より構成員たる資格を有するものを、行政官庁に於て指定致し、其の指定を受けたる者は当然加入するものとするのでありまして、此較的大なる事業者は単独にて、然らざる者は組合等に依りまして団体加入せしむることと致しまして、広く有らゆる業種業態に属するものを其の構成員として包含致しまして、真に総合的経済の円滑なる運営に資せしめむと考へるのであります。

次に商工経済会は、地方産業行政の協力機関として地方的組織の整備を目的と致して居りますので、主務大臣の命令に依り之を設立せしめ、全国に商工経済会を設立することと致したいと存じます。此の点、従来の商工会議所が、一定の資格者の発意に依りまして、所謂、任意設立に任せて居りましたのに比しまして、大なる逕程があるのであります。

次に商工会議所の事業は、単に商工業の改善発達を図ることを主として居りました為に、其の役員等の任免は、当時者の意思に任されて居りましたが、商工経済会の事業は、総て行政官庁と表裏一体の関係に於て、地方産業経済に関する行政に協力せしむることを主眼と致しまして、其の公共性は非常に強くなり、事業範囲は拡大して居りますので、真に有能の士を其の役員にすること の出来る方途を講じまして、且行政官庁の任命又は承認制度を採ったのであります。

最後に、商工経済法には支部を設くる規定を設けて居りますが、是は商工経済会の事業を円滑に遂行します為、必要なる地に強力なる支部を設けまして、下部組織の整備を図らむとする趣旨でございます。


次に商工組合法案に於て御説明致します。決戦下に於きまする商工鉱業の総力を結集致しまして、並行の能率を最高度に発揮せしめますることを目途と致しまして、其の統制運営を図る組織機構を整備・確立せむとするものであります。而して本法に依りまして設立せられまする団体は、統制組合及び施設組合の商 工組合、竝に商工組合中央会であります。

第一の統制組合は、商工産業部門に於ける統制団体であります、政府は先に公布せられました重要産業団体令に基きまして、重要産業部門に於ける統制団体として統制会の設立を促進し、既に其の数は二十有余に上って居りまして、重要産業部門の上部統制機構は、略々、之が整備を了したる状況であります。然るに重要産業以外の一般商工業部門に於きましては、商業組合、工業組合、同業組合等があるのでありまするが、是等の諸組合制度は、今日の戦時下に於ける統制経済が施行せられる以前に創設せられたものであります関係上、今日の統制経済下に於ける統制組織と致しましては、幾多の欠陥を有して居るのであります[1]。即ち其の運営方法が、組合の総会を中心とする合議制に依るものでありまする為、国家意思を敏速、且、的確に滲透せしむる統制組織として欠くる所があり、且、組合員の加入脱退が自由なること、其の他統制を確保する為の法的根援が薄弱なること等の事由に依りまして、強力なる統制を行ふ統制団体たるに欠くる所があるのであります、又、組合組織に依る統制団体としては、右の諸組合の外に、統制会の下部組織と致しまして、重要産業団体令に依る各統制組合がありまするが、現行の統制組合は、其の事業が狭義の統制事業に限られて居ります結果、一般中小企業の統制に適合せざる所がありまするので、統制確保上必要なる経済事業をも併せて行ひ得まするやうに、之を強化拡充するの必要があるのであります。更に現行の商業組合、工業組合制度は、商工分立の原則に立って居りまする為、問屋業者と賃加工業者との如く、密接なる関係を有する商工業者が、別箇の商業組合、工業組合に加入せ ねぱならなくなります結果、商工業者相互間に動もすれば対立摩擦を惹起せしむる虞もありますので、必要に応じまして、商工一体の組合をも設立し得る途を拓くのが、適当だと考へられるのであります。玆に於きまして、現行の統制組合、工業組合、商業組合、同業組合の各種組合制度の長を採り短を補って、新統制組合制度を創設致したいと存ずるのであります。

第二の施設組合は、中小企業の共同経営の組織であります。現下の物資需給状況の下に於きまして、生産の増強及び配給の適正を期しまする為、低能率の企業を整理統合して産業能率の増強を期しつある次第でありまするが[1]、一面、中小企業経営に伴う利点も、之を活用しなけれぱならぬ場合もありますので、是等中小企業を結合して共同経営を行はしめ、以て中小経営の長を採り短を補ふ所の組合組織も必要と存ずるのであります。

現在に於きましても商業小組合、工業小組合の如き弱小業者の為の組合組織が存するのでありまするが、其の組合員数、設立者の資格等が制限せられて居ります結果、不便でありますので、本法に依りまして、任意加入制の純然たる共同組合として、施設組合なる制度を設くることと致したいと存ずるのであります。

第三の商工組合中央会は、本法に依る統制組合及び施設組合の指導連絡を図る中央機関でありまして、其の事業は商工組合の経営実務の指導、其の他中小企業に関する調査研究等に限りまして、所謂、統制には関与しない建前であります[1]

以上の如く、本法は既存の諸組合制度を整理統合致しまして、商工鉱業に関する簡素にして強力なる統制組織を整備確立せむとするものでありまするが、本法に依り既存組合が新組合に改組せられるに当りましては、可及的に簡易なる方法に依り得ますやう諸種の規定を設けますると共に、将来の運用に当りましても、業界に無用の混乱を生ぜしめないやう特に留意致して居る次第であります。


次に商工組合中央金庫法中改正法律案に付て御説明申上げます。商工組合中央金庫は商業組合、工業組合等、商工業関係組合に対する金融の円滑を図ることを目的と致しまして設立せられたのでありまするが、設立後商業組合、工業組合等の飛躍的な発展、其の数の増加と相俟ちまして、其の業務も念速に拡充せられて参ったのであります。即ち設立当初に於きましては所属組合数千六百余、貸出残高三百万円余を数ふるえ過ぎなかったのでありまするが、昨年末に於ては所属組合数に於て約七千、貸出残高に於て一億円を突破するに至ったのであります。

而して是等組合からの旺盛なる資金需要に対応致しまする為には、商工組合中央金庫の資力を積極的に充実せしむる必要があるのでありまするが、差当り組合数の激増に鑑みまして、設立当初の資本金千万円を組合側のみの出資に依って六百万円増 加致しますと共に、臨時資金調整法の改正に依って、商工債券の発行限度を五千万円拡張する等、必要なる措置を講じて参ったのであります。

併しながら本金庫の主要なる貸出財源を為す商工債券に付きましても、既に昨年末に於て其の発行高は約一億一千万円に達し、約に三千万円余の発行余力を残すに過ぎない状態となりましたにも拘らず、組合の総数は増加の一途を辿りつつありますると共に、今回本法の改正に依りまして従来の組合を改組設立したる会社、其の他統制の必要上設立したる会社等に対しましても、資金の融通を行ふこととなりまするので、将来本金庫の所要資金は急激に増加するものと予想せらるるのであります[1]

従ひまして、商工組合中央金庫の現在の資本金千六百万円を以てしては、到底利用者の需要に応ずることは困難と認められまするので、商工組合中央金庫の資本金を千四百万円増加致しまして、政府より一千万円を出資すると共に、組合より四百万円を出資せしめむとする次第であります。

次に商工組合中央金庫は、現在商工業関係組合に対してのみ資金を貸付け得る建前になって居るのでありまするが、近時産業整備の必要に基きまして、商工業関係組合中に於きましても、組合を改組して、或は、有限会社、食糧営団等の別個の形態に移行するものが少なからざる状況であります[1]。従ひまして従来、商工組合中央金庫に所属せる商工業関係組合でありまして、改組に依り加入者たる資格を喪失したものに対しましても、貸付の継続を認めますると共に、商工組合中央金庫に所属せざる組合、又は連合会を改組設立したる会社、其の他設立の趣旨、組織者等から見て之に準ずべき会社に対しましても、余裕金庫運用に依る短期の貸付を認めむとするものであります。

尚、商工組合中央金庫の事業年度は現在年二回となって居りまするが、手続の簡素化、経費の節約を図る趣旨から致しまして、之を年一回に改正せむとするものであります。

商工経済会社法案外二件の提案理由は大体以上の通りであります。何卒御審議の上、御協賛あらむことを希望致す次第であります。

委員長(伯爵黒木三次君) 大臣は今日の午前中はこちらに御留り出来るさうでございますから、本日はどうぞ大臣に対して極く根本的な御質問をなさって戴いて、月曜からどうぞ私の手許迄に、御質問の極ぐ概要のことを御書き下さいましたものを出して戴きたいと思ひます。御質問のある方は……それでございませぬと、議事の促進をすることが出来ませぬのでありますから、月曜日の日よりはさう云うやうに願ひたい。斯様に思ひます。

ではどうぞ、大臣に対する御質問を御願ひ致します。


(質疑・略)


午後零時六分散会

出席者左の如し
委員長   伯爵 黒木三次
副委員長  男爵 東郷安
委員
      公爵 徳川家正
      侯爵 池田宣政
      侯爵 蜂須賀正氏
      子爵 会我祐邦
      子爵 河瀬眞
      子爵 富小路隆道
      子爵 織田信恒
         有吉忠一
      男爵 松岡均平
         伍堂卓雄
         大橋八郎
         吉野信次
      男爵 八代五郎造[2]
      男爵 杉渓由言
         竹内可吉
         稲畑勝太郎
         中山太一
         片倉兼太郎
         山上岩二
         古荘健次郎
         中野敏雄
国務大臣
    商工大臣 岸信介
政府委員
 農林省食品局長 田中啓一
 農林省総務局長 神田暹
 商工省企業局長 豊田雅孝
   商工事務官 美濃部洋次

脚注

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  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 表記説明は書誌情報参照。
  2. 「造」は点二つ。

この著作物は、日本国の著作権法第10条1項ないし3項により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。(なお、この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により、発行当時においても、著作権の目的となっていませんでした。)


この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。