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和歌童蒙抄 巻第十

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雜體

長歌 短歌 旋頭 混本 誹諧 相聞 折句 廻文 隱題 連歌 返歌

歌病

七病 四病 八病

歌合判

勝劣難決例 御製勝例 一番左勝例 病難例 詞難例 文字病難不例 題心難例 所名難例


雜體

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長 歌

八雲たつ出雲やへがきつまごめに八重垣つくるその八重垣を

素盞嗚尊出雲詠也。五七五七七の句を定むることこれより始まれり。第三句のはての字を初韻とし、第五句のはての字を終韻とせり。これを又返歌といへり。からの歌になずらへて六義あり。
一曰風 そへうた  二曰賦 かぞへうた  三曰比 なぞらへうた  四曰興 たとへうた  五曰雅 たゞことうた  六曰頌 いはひうた
この歌ども古今假名序にみえたり。


短 歌
ちはやぶる 神な月とや けさよりは くもりもあへず はつしぐれ 紅葉とゝもに ふるさとの 吉野の山の 山おろしも 寒く日ごとに なりゆけば 玉のをとけて こきちらし あられ亂れて 霜こほり いまやたまれる 庭のおもに むらみゆる 冬くさの 上にふりしく 白雪の つもりて あらたまの 年をあまたに すごしつるかな
躬恒歌の短歌也。五七々々の句をつゞけて、いはまほしき事をいひつくして幾句とさだめず。第二の句のはての字を一韻として、第四の句のはての字を二韻としてつらねたり。はてには七々句をおけり。よくもしらぬ人初の五七五の句とはての七々句を三十一字の詠によみかなへるといふ、僻事なり。たゞよくよめるは言ひ殘したることもなく、これをかくいはむとて、長くいひつゞけゝると聞えて、はての句に言ひきはむべきなり。おくに反歌を一首くはふ。たとへば詩の序あるが如し。短歌は序のやうに長くいひつゞけて、反歌は詩の樣に同心を、句をつゞめてかへさひつくる也。反歌をばかへさふとよめり。この反歌をよみかなふることかたし。されば古今の短歌五首の中に忠岑が古歌にそへてたてまつれる、呉竹のよゝのふる事なかりせばとよめるにそへたる、君がよにあふさか山のいはつゝじこがくれたりといへるばかりをぞいたれる。
長短歌は古き論にて昔より知れる人なし。此短歌をたゞうちいふにはなが歌といふ。濱成中納言式にぞ反歌をば短歌といひ、短歌をば長歌といへる。されども日本紀に三十一字の詠を長歌といへり。萬葉集には返歌を短歌とかけることもまじりたれども、たしかに長くよみつゞけたるを短歌といへることは今すこしたしか也。其人の作反歌一首とかきて、註に加短歌とかけるは、詩とかきて加序といふにかはらねば、はしにある長句の歌を短といふとあらはに見えたり。何況古今こそえらべる時もやむごとなく、撰所人もあやまちあるべくもなきに、長句の歌を短歌五首と書かれたり。隨つて長句を短歌と昔よりの論にて、三十一字を短歌といふは、やむごとなくこの道に深き人いはぬ也。たゞ如何なれば長きをみじか歌とはいひ、短きを長歌とはいふぞといふ疑の殘れる也。近くは俊賴朝臣無名抄と云物をかきとゞめたるには、短歌とは同事をよみながして、沖つなみあれのみまさると思ひよりなば、そのうちの事につきていひはつべきに、花薄してまねかせ、初雁を鳴きわたらせなど、あまたの物をいひつゞけたるによりていふなめりと書けり。帥大納言の申されける事にやと思へど是はいはれなき義也。短歌にもひとすぢをよめる多かり。はしにしるせる忠岑が短歌の冬のことをのみよみ流したり。長歌に又、雲のなみたち月の船などさまざまの物どもいへるもあり。短歌とやいふべき。たゞ文選文集の長歌行短歌行の心を尋ねて、愚なる心に思ひみるに、是は歌と云はうたふと云事なれば、三十一字の作は字すくなく、句のつゞきながめよければ、その詠のこゑながし。長句の歌は句の多くつゞける故に、詠のこゑ長くはあるべからず。仍て短歌と云ふ也。若し依此義三十一字を長歌といひ、長句歌を短歌と云ふは、かくやすきさまには心得ぬにより、難義になりたるにやとぞ心えられ侍る。されどこの程のことは思ひよらぬ人なかりけむやは。さればいかゞとも思ふべけれど、かくいはむを僻事とは又いふ人かたくぞあるべき。


混 本 歌

あさがほの夕かげまたず散り易きはなのよぞかし

いはの上に根ざす松かへとのみこそたのむ心有るものを

これは一句をすてゝよまぬ也。はじめのは末の七字をすてたり。つぎのは末の七文字を五文字によめる也。かくもよむなるべし。但、四條大納言抄に後悔病の歌にぞ入たる。いそぎてよみいづるが故に文字の數さだまらぬを後に悔しく思ふなるべし。