南支南洋硏究調査報吿書/第4輯/緖言

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緖言

本册子は、昨夏廣州市に於いて得たる廣東省城に關する知識を整理せるものなり。廣東語は、厦門語とともに、 南支那、南洋一帶に勢力を有する支那方言にして、使用人口より見るも、滿洲國內の漢語使用人口を優に凌ぐ勢をも つてゐるのである。廣東語硏究の重要性は呶呶たる說明を必要とせぬ。唯、英國が、この方言の硏究に盡瘁し、今日 から見れば、實に幼稚極まる字典の編纂出版に、敢へて時間的、經濟的に大きな犠牲を拂つた一事を見れば充分であ らう。日本に於ける廣東語硏究は漸くその緖に就いたばかりである。一方、日本の現狀は、これまでよりも必然的に この方言の硏究を要求して居る。この際に、不完全乍らも、この小冊子を報告書として纒め得たことに、筆者は格別 なる喜びを感ずる。

本册子は、主眼點を、常用文字の聲音表示に置き、畫引によつて常用文字の聲音を知り得る樣纒めて見た。、尙ママ北 京語旣修者の便を考慮し、括孤內に北京語の聲音を表示して置いた故、北京語、廣東語雙方の發音字典の用をなすで あらう。

玆に一寸斷つて置かなければならぬことは、本册子の「廣東語」とは臺灣に於ける所謂「廣東語」ではなく、廣東 省城語卽ち「廣州語」たることである。臺灣に於ける「廣東語」は、實は「客家語」であつて、支那方言の系統から 言ふならば別な一系に屬する。この點誤解のない樣にして戴きたい。本册子の完成のために、各方面から種々なる御便宜の提供をうけた。特に、在廣州市甲賀三郞氏の御厚情と、本校 敎授各位がお示し下さつた御厚誼に對して、衷心からの謝意を表する次第である。

昭和十七年二月大詔奉戴日