十二ケ月唱歌

• 底本: 中村秋香 著 ほか『修身教育十二ケ月唱歌』,三育舎,明35.5. 国立国会図書館デジタルコレクション:info:ndljp/pid/855274
• 表記は歴史的仮名遣とし、漢字制限はJIS X 0208に文字が収録されていれば元の漢字をそのまま使った。
• 変体仮名は現在用いられる仮名に改めた。
• くの字点は／＼を代用し、二の字点は々に改めた。
• 註: この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語（ルビ）」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。

修身教育十二ヶ月唱歌

中村秋香 作歌

一月

門に立てたる 松竹に さす朝日影 いさましく 軒にかゝげし 日の御（み）旗（はた） ふきわたる風 のどかなり」

和服洋服 とり／″＼の 裝（よそひ）めでたき 年始客 素（す）袍（はう）着（き）流（なが）し まち／＼の 姿（すがた）をかしき 五萬歳

晝（ひる）は凧（たこ）あげ 獨樂（こま）まはし 又は羽根（はね）うち 鞠（まり）をつき よるは雙六 歌がるた 笑ひさゞめく おもしろさ」

興ある月は 一月や 樂しき時は 新年や これも思へば 御世の恩 いざや歌はん 君が代を」

二月

今日は惶（かしこ）き 紀元節 折しも當（あた）りし 初午（はつうま）や 霞（かす）みそめたる 大空（おほぞら）に 登（のぼ）る朝（あさ）日（ひ）の 影清（かげきよ）く」

二つ三つ四つ 春（はる）告（つ）げて ほゝゑむ窓（まど）の 梅（うめ）が枝（え）に 來（き）ては數（しば）鳴（な）く 鶯も まだ片（かた）なりの ホーホケキヨ」

軒（のき）にひらめく 日の旗（はた）を 見れば心も 動（うご）くなり 鎭守（ちんじゆ）の森（もり）の 大皷の音 聞けば胸（むね）さへ 轟（とどろ）きぬ」

次郎よお春よ いざさらば 雲（くも）に聳（そび）ゆる 高（たか）千穗（ちほ）を 歌（うた）ひつれつゝ 諸（もろ）ともに 稻荷（いなり）の社（やしろ）に 詣（まう）でばや」

三月

雪もこほりも うぐひすの 聲もろともに とけゆきて やゝもえそむる 若草の たもとに吹きて 寒からぬ」

風にほゝゑむ 口びるの いろなつかしき 桃（もヽ）のはな 雨にひそめる まゆずみの にほひえならぬ 青柳（あをやぎ）や」

野はおしなべて 淺みどり しとねを敷きて 人をまち 山にはなびく 八重（やへ）がすみ 帳（とばり）かかげて 花を呼（よ）ぶ」

試驗もけふにて はてにけり 明日（あす）は朝（あさ）より おもふどち 野やまの春を 探（さぐ）りてん 天氣も定めて よかるべし」

四月

新學年は 來りたり 男 われら女 わなみは級も すゝみたり 今日（けふ）は神武の 御祭日 空よく晴れて うらゝかに」

霞（かすみ）をもるゝ 春風は うぐひすの音（ね）を さそひきて たもとをかろく 吹きかへし 柳のいとに あやを織（お）り」

蝶はうかれて 花にまひ 蜂（はち）はたはれて 空にとぶ いざわれ／＼も 野にいでゝ 男 ベースボールを女 すずなたんぽゝ うつたへにつみはやし」

樂しくのどけく おもしろく 遊びくらさん 今日一（ひと）日（ひ） この祭（まつり）日（び）に この春の 及（きう）第（たは〔ママ〕）祝（いはひ）も とりそへて」

五月

實（げ）に光（くわう）陰（いん）は 矢（や）のごとし かすみか雪か はた雲か とばかり見つる やまざくら 花のさかりも とく過ぎて」

山吹つゝじ 梨（なし）のはな にほへるいろの 深（ふか）見（み）草（くさ） 春も末野の さくら草 夏にかゝれる 松の藤（ふぢ）」

わかばすゞしく ふく風に たなびく鯉（こひ）の 吹きぬきや 五月の空とは なりにけり げに光陰は 矢のごとし」

いでや月日を 惜（をし）みつゝ まなびを修めて 鯉のごと 雲井にたかく 仰（あふ）がるゝ いさをし立てん 世のために」

六月

日はながくして 年のごと 教のにはより かへり來て 家庭の復讀（さらひ） をはりても 遊ぶいとまは なほ多く」

男 擬（ぎ）　戰（せん）　祭（さい）　禮（れい） さまざまの女 おに事ままこと かくれんぼ あそびは夕より 夜にかけて 月夜はことに おもしろく また闇（やみ）の夜は 螢がり」

田舍（ゐなか）はこのごろ 製茶時 或（ある）は養蠶（こがひ）に 植付（うゑつけ）に 忙（せは）しきうちの のどけさは 都にしらぬ ぞめきなり」

昨日も今日も をやみなく ふりつゞきたる 五（さみ）月雨（たれ）に 外面（とのも）のあそびも なしがたし 英（えい）語（ご）骨牌（かるた）を いざとらん」

七月

やまほとゝぎす なきふるし つばめのひなも 生ひたちて 百日紅は 咲きそめぬ 夏期の試驗に ちかよれり」

わが師の君は のたまへり 勤むるときには よくつとめ 遊ぶときには よく遊べ 遊ぶはつとむる ためなりと」

この學年と なりしより 運動會に 遠足に また學校の ほかにても われらわなみは十分 あそびたり」

試驗の凖（した）備（く） おこたらず いざやつとめん 復習を 勤むるわれらわなみが 脊のほとり 樂しき休暇は 來てまてり」

八月

試驗も首尾よく 事はてゝ よるひる待ちに またれつる 樂しくうれしく 男愉快なる女 のどかなる 夏期休業は 來りたり」

この愉　快のどかなる 休業を われらわなみはいかに おくるべき 川にやゆかん（　）裁縫料理の 川がりに（　）あそびごと 海にやゆかん（　）稽古ながらに 潮（しほ）あみにしてやみん」

我等は海國（　）女（をな）子（ご）も皇（み）國（くに）の 男子なり（　）皇（み）民（たみ）なり 游泳（およぎ）をしらで國に盡（つく）さで あるべしや あそびながらにまづ第一に この夏は 泳游（をよぎ）を習ひ看護婦あそびを おぼゆべし（　）むねとせん」

海もよしまたそのひまにまた 川もよし裁縫や すゞみがてらの料理應接 水およぎさまざまの その隙々に遊びをなして 狩をもしおのづから すなどりもして家政の事をも 樂　ま　んまなぶべし」

九月

夏期休業中 とざしつる 學のまどは 開かれて 十二時引（びけ）も 今日かぎり あすより常と なりぬべし」

われらわなみは永き やすみ中 種々の遊びに 日をおくり ほと／＼今は 倦（う）みはてゝ 學校戀しく なりにけり」

すだれ動（うご）かす ゆふ風は 袖にすヾ（〔ママ〕）しく おとづれて 夜もやゝながく ともしびの かげなつかしく なりそめぬ」

いでやつとめん 復習を まさに夜學の 時はきぬ ながき休暇を おもしろく 樂しく過ぎしは 今日のため」

十月

めもはるかなる 千（ち）町（まち）田（だ）の こがねの波は ゆたかなる 年のひかりを うちよせて 穗（ほ）にほ榮ゆる うまし稻」

早稻（わせ）をばきのふ かりそめぬ 中稻（なかて）おくても おしなべて たのみ多かる としぞとて ざゞめきあへり 里びとは」

今日は十月 中七日 神嘗（かむなめ）まつりの 御祭日 鎭守のやしろの 日待の日 いざや詣（まう）でん 産（うぶ）土神（すな）へ」

里にはひらめく 日の御旗 森にはとゞろく 大皷の音 こゝろは空に うきたちぬ いざや詣（まう）でん うぶすなへ」

十一月

今日のこの日は わが國の 三大節の 中（うち）にても ことに愛（めで）たき あきつ神（かみ） わが天皇（すめらぎ）の 御誕生（みあれ）の日」

吾天皇（われすめらぎ）は 我國に 立憲制度を 敷かせられ 我々（われ／＼）皇（み）民（たみ）に 民權を 下し賜ひし 君ぞかし」

わが天皇（すめらぎ）は わがくにの 版圖を擴（ひろ）めて 東洋の 覇國と世界に うたはるゝ 基（もとゐ）を開きし 君ぞかし」

いざやうたはん もろともに 天津日影を 折かへし いざや祝はん もろ聲に 今日のよき日を くりかへし」

十二月

昨日とくらし 今日と過ぎ 月日流るゝ あすか川 ゆきてかへらぬ とし波は しはすてふ瀬に うちよせぬ」

こゝにかしこに 煤（すす）はらひ 餅（もち）つくおとの いさましく かなたこなたの 衣（きぬ）くばり とりやりするも 賑（にぎ）はゝし」

神棚はじめ 浪速（しめ）〔ママ〕はへて 屠蘇（とそ）喰積（くひつみ）と 凖備（いそぎ）つゝ 門にはしつらふ 松かざり はや一月の ここちせり」

一月來らば いかにせん 凧に羽子板 こまてまり 樂しきあそび いとおほし 疾（と）く一月に なれよかし」