動物学雑誌/1巻/1号/人魚の話
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亞非利利の東岸より印度洋の海浜に儒艮(ジュゴン)と称する海獣ありて栖息す。殊に錫蘭(セイロン)に頗る多く、また太洋洲の北岸に栖息し、該島の土人等常に之を猟し我が琉球の八重山島においても時々之を猟することあり。此の獣の形状は略ぼ海豚(イルカ)に似て喙鈍く鼻孔あり肉唇あり且つ皮膚に短毛ありてまばらに生ず。其の丈六七尺以上に達す。常に水中に栖息すれども鯨類の如く遠く岸を離れて洋中に至らず、好んで大沢又は大河の河口等に群栖し、水草又は海藻を食餌とする。此獣に特異なる慣性あり。その円頭より頭部迄を水中に露出して浮遊する一事にして、殊に此獣の幼兒に哺乳する際、其兒を前肢に抱きて自己の如く兒の頭を水上に支ふ。其の状幾が人類の遊泳するが如し。其際若し事に䮄きて波間に入る時は魚鰭に似たる尾部の水上に現わるゝに由り印度洋を航海する旅客は之を遠望して忘想を描き、魚身人面の獣とか海女とか人魚とかを呼称して種々の説をなせしより、遂に世上の談柄となり、また図書となり何国の緒書にも雑出するに至りしなり。
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