<聖書<文語訳旧約聖書 (ルビ付)
『舊新約聖書 [文語]』日本聖書協会、1953年
明治元訳聖書
創世記
1元始に神天地を創造たまへり
2地は定形なく曠空くして黑暗淵の面にあり神の靈水の面を覆たりき
3神光あれと言たまひければ光ありき
4神光を善と觀たまへり神光と暗を分ちたまへり
5神光を晝と名け暗を夜と名けたまへり夕あり朝ありき是首の日なり
6神言たまひけるは水の中に穹蒼ありて水と水とを分つべし
7神穹蒼を作りて穹蒼の下の水と穹蒼の上の水とを判ちたまへり即ち斯なりぬ
8神穹蒼を天と名けたまへり夕あり朝ありき是二日なり
9神言たまひけるは天の下の水は一處に集りて乾ける土顯べしと即ち斯なりぬ
10神乾ける土を地と名け水の集合るを海と名けたまへり神之を善と觀たまへり
11神言たまひけるは地は靑草と實蓏を生ずる草蔬と其類に從ひ果を結びみづから核をもつ所の果を結ぶ樹を地に發出すべしと即ち斯なりぬ
12地靑草と其類に從ひ實蓏を生ずる草蔬と其類に從ひ果を結てみづから核をもつ所の樹を發出せり神これを善と觀たまへり
13夕あり朝ありき是三日なり
14神言たまひけるは天の穹蒼に光明ありて晝と夜とを分ち又天象のため時節のため日のため年のために成べし
15又天の穹蒼にありて地を照す光となるべしと即ち斯なりぬ
16神二の巨なる光を造り大なる光に晝を司どらしめ小き光に夜を司どらしめたまふまた星を造りたまへり
17神これを天の穹蒼に置て地を照さしめ
18晝と夜を司どらしめ光と暗を分たしめたまふ神これを善と觀たまへり
19夕あり朝ありき是四日なり
20神云たまひけるは水には生物饒に生じ鳥は天の穹蒼の面に地の上に飛べしと
21神巨なる魚と水に饒に生じて動く諸の生物を其類に從ひて創造り又羽翼ある諸の鳥を其類に從ひて創造りたまへり神之を善と觀たまへり
22神之を祝して曰く生よ繁息よ海の水に充牣よ又禽鳥は地に蕃息よと
23夕あり朝ありき是五日なり
24神言給ひけるは地は生物を其類に從て出し家畜と昆蟲と地の獸を其類に從て出すべしと即ち斯なりぬ
25神地の獸を其類に從て造り家畜を其類に從て造り地の諸の昆蟲を其類に從て造り給へり神之を善と觀給へり
26神言給けるは我儕に象りて我儕の像の如くに我儕人を造り之に海の魚と天空の鳥と家畜と全地と地に匍ふ所の諸の昆蟲を治めんと
27神其像の如くに人を創造たまへり即ち神の像の如くに之を創造之を男と女に創造たまへり
28神彼等を祝し神彼等に言たまひけるは生よ繁殖よ地に滿盈よ之を服從せよ又海の魚と天空の鳥と地に動く所の諸の生物を治めよ
29神言たまひけるは視よ我全地の面にある實蓏のなる諸の草蔬と核ある木果の結る諸の樹とを汝等に與ふこれは汝らの糧となるべし
30又地の諸の獸と天空の諸の鳥および地に匍ふ諸の物等凡そ生命ある者には我食物として諸の靑き草を與ふと即ち斯なりぬ
31神其造りたる諸の物を視たまひけるに甚だ善りき夕あり朝ありき是六日なり
1斯天地および其衆群悉く成ぬ
2第七日に神其造りたる工を竣たまへり即ち其造りたる工を竣て七日に安息たまへり
3神七日を祝して之を神聖めたまへり其は神其創造爲たまへる工を盡く竣て是日に安息みたまひたればなり
4ヱホバ神地と天を造りたまへる日に天地の創造られたる其由來は是なり
5野の諸の灌木は未だ地にあらず野の諸の草蔬は未生ぜざりき其はヱホバ神雨を地に降せたまはず亦土地を耕す人なかりければなり
6霧地より上りて土地の面を遍く潤したり
7ヱホバ神土の塵を以て人を造り生氣を其鼻に嘘入たまへり人即ち生靈となりぬ
8ヱホバ神エデンの東の方に園を設て其造りし人を其處に置たまへり
9ヱホバ神觀に美麗く食ふに善き各種の樹を土地より生ぜしめ又園の中に生命の樹および善惡を知の樹を生ぜしめ給へり
10河エデンより出て園を潤し彼處より分れて四の源となれり
11其第一の名はピソンといふ是は金あるハビラの全地を繞る者なり
12其地の金は善し又ブドラクと碧玉彼處にあり
13第二の河の名はギホンといふ是はクシの全地を繞る者なり
14第三の河の名はヒデケルといふ是はアッスリヤの東に流るるものなり第四の河はユフラテなり
15ヱホバ神其人を挈て彼をエデンの園に置き之を埋め之を守らしめ給へり
16ヱホバ神其人に命じて言たまひけるは園の各種の樹の果は汝意のままに食ふことを得
17然ど善惡を知の樹は汝その果を食ふべからず汝之を食ふ日には必ず死べければなり
18ヱホバ神言たまひけるは人獨なるは善らず我彼に適ふ助者を彼のために造らんと
19ヱホバ神土を以て野の諸の獸と天空の諸の鳥を造りたまひてアダムの之を何と名るかを見んとて之を彼の所に率ゐいたりたまへりアダムが生物に名けたる所は皆其名となりぬ
20アダム諸の家畜と天空の鳥と野の諸の獸に名を與へたり然どアダムには之に適ふ助者みえざりき
21是に於てヱホバ神アダムを熟く睡らしめ睡りし時其肋骨の一を取り肉をもて其處を填塞たまへり
22ヱホバ神アダムより取たる肋骨を以て女を成り之をアダムの所に携きたりたまへり
23アダム言けるは此こそわが骨の骨わが肉の肉なれ此は男より取たる者なれば之を女と名くべしと
24是故に人は其父母を離れて其妻に好合ひ二人一體となるべし
25アダムと其妻は二人倶に裸體にして愧ざりき
1ヱホバ神の造りたまひし野の生物の中に蛇最も狡猾し蛇婦に言ひけるは神眞に汝等園の諸の樹の果は食ふべからずと言たまひしや
2婦蛇に言けるは我等園の樹の果を食ふことを得
3然ど園の中央に在樹の果實をば神汝等之を食ふべからず又之に捫るべからず恐は汝等死んと言給へり
4蛇婦に言けるは汝等必らず死る事あらじ
5神汝等が之を食ふ日には汝等の目開け汝等神の如くなりて善惡を知に至るを知りたまふなりと
6婦樹を見ば食に善く目に美麗しく且智慧からんが爲に慕はしき樹なるによりて遂に其果實を取て食ひ亦之を己と偕なる夫に與へければ彼食へり
7是において彼等の目倶に開て彼等其裸體なるを知り乃ち無花果樹の葉を綴て裳を作れり
8彼等園の中に日の清涼き時分歩みたまふヱホバ神の聲を聞しかばアダムと其妻即ちヱホバ神の面を避て園の樹の間に身を匿せり
9ヱホバ神アダムを召て之に言たまひけるは汝は何處にをるや
10彼いひけるは我園の中に汝の聲を聞き裸體なるにより懼れて身を匿せりと
11ヱホバ言たまひけるは誰が汝の裸なるを汝に告しや汝は我が汝に食ふなかれと命じたる樹の果を食ひたりしや
12アダム言けるは汝が與て我と偕ならしめたまひし婦彼其樹の果實を我にあたへたれば我食へりと
13ヱホバ神婦に言たまひけるは汝がなしたる此事は何ぞや婦言けるは蛇我を誘惑して我食へりと
14ヱホバ神蛇に言たまひけるは汝是を爲たるに因て汝は諸の家畜と野の諸の獸よりも勝りて詛はる汝は腹行て一生の間塵を食ふべし
15又我汝と婦の間および汝の苗裔と婦の苗裔の間に怨恨を置ん彼は汝の頭を碎き汝は彼の踵を碎かん
16又婦に言たまひけるは我大に汝の懷姙の劬勞を増すべし汝は苦みて子を產ん又汝は夫をしたひ彼は汝を治めん
17又アダムに言たまひけるは汝その妻の言を聽て我が汝に命じて食ふべからずと言たる樹の果を食ひしに縁て土は汝のために詛はる汝は一生のあひだ勞苦て其より食を得ん
18土は荊棘と薊とを汝のために生ずべしまた汝は野の草蔬を食ふべし
19汝は面に汗して食物を食ひ終に土に歸らん其は其中より汝は取れたればなり汝は塵なれば塵に皈るべきなりと
20アダム其妻の名をヱバと名けたり其は彼は群の生物の母なればなり
21ヱホバ神アダムと其妻のために皮衣を作りて彼等に衣せたまへり
22ヱホバ神曰たまひけるは視よ夫人我等の一の如くなりて善惡を知る然ば恐くは彼其手を舒べ生命の樹の果實をも取りて食ひ限無生んと
23ヱホバ神彼をエデンの園よりいだし其取て造られたるところの土を耕さしめたまへり
24斯神其人を逐出しエデンの園の東にケルビムと自から旋轉る焔の劍を置て生命の樹の途を保守りたまふ
1アダム其妻エバを知る彼孕みてカインを生みて言けるは我ヱホバによりて一個の人を得たりと
2彼また其弟アベルを生りアベルは羊を牧ふ者カインは土を耕す者なりき
3日を經て後カイン土より出る果を携來りてヱホバに供物となせり
4アベルもまた其羊の初生と其肥たる者を携來れりヱホバ、アベルと其供物を眷顧みたまひしかども
5カインと其供物をば眷み給はざりしかばカイン甚だ怒り且其面をふせたり
6ヱホバ、カインに言たまひけるは汝何ぞ怒るや何ぞ面をふするや
7汝若善を行はば擧ることをえざらんや若善を行はずば罪門戸に伏す彼は汝を慕ひ汝は彼を治めん
8カイン其弟アベルに語りぬ彼等野にをりける時カイン其弟アベルに起かかりて之を殺せり
9ヱホバ、カインに言たまひけるは汝の弟アベルは何處にをるや彼言ふ我しらず我あに我弟の守者ならんやと
10ヱホバ言たまひけるは汝何をなしたるや汝の弟の血の聲地より我に叫べり
11されば汝は詛れて此地を離るべし此地其口を啓きて汝の弟の血を汝の手より受たればなり
12汝地を耕すとも地は再其力を汝に效さじ汝は地に吟行ふ流離子となるべしと
13カイン、ヱホバに言けるは我が罪は大にして負ふこと能はず
14視よ汝今日斯地の面より我を逐出したまふ我汝の面を觀ることなきにいたらん我地に吟行ふ流離子とならん凡そ我に遇ふ者我を殺さん
15ヱホバ彼に言たまひけるは然らず凡そカインを殺す者は七倍の罰を受んとヱホバ、カインに遇ふ者の彼を撃ざるため印誌を彼に與へたまへり
16カイン、ヱホバの前を離て出でエデンの東なるノドの地に住り
17カイン其妻を知る彼孕みエノクを生りカイン邑を建て其邑の名を其子の名に循ひてエノクと名けたり
18エノクにイラデ生れたりイラデ、メホヤエルを生みメホヤエル、メトサエルを生みメトサエル、レメクを生り
19レメク二人の妻を娶れり一の名はアダと曰ひ一の名はチラと曰り
20アダ、ヤバルを生めり彼は天幕に住て家畜を牧ふ所の者の先祖なり
21其弟の名はユバルと云ふ彼は琴と笛とをとる凡ての者の先祖なり
22又チラ、トバルカインを生り彼は銅と鐡の諸の刃物を鍛ふ者なりトバルカインの妹をナアマといふ
23レメク其妻等に言けるはアダとチラよ我聲を聽けレメクの妻等よわが言を容よ我わが創傷のために人を殺すわが痍のために少年を殺す
24カインのために七倍の罰あればレメクのためには七十七倍の罰あらん
25アダム復其妻を知て彼男子を生み其名をセツと名けたり其は彼神我にカインの殺したるアベルのかはりに他の子を與へたまへりといひたればなり
26セツにもまた男子生れたりかれ其名をエノスと名けたり此時人々ヱホバの名を呼ことをはじめたり
1アダムの傳の書は是なり神人を創造りたまひし日に神に象りて之を造りたまひ
2彼等を男女に造りたまへり彼等の創造られし日に神彼等を祝してかれらの名をアダムと名けたまへり
3アダム百三十歳に及びて其像に循ひ己に象りて子を生み其名をセツと名けたり
4アダムのセツを生し後の齡は八百歳にして男子女子を生り
5アダムの生存へたる齡は都合九百三十歳なりき而して死り
6セツ百五歳に及びてエノスを生り
7セツ、エノスを生し後八百七年生存へて男子女子を生り
8セツの齡は都合九百十二歳なりき而して死り
9エノス九十歳におよびてカイナンを生り
10エノス、カイナンを生し後八百十五年生存へて男子女子を生り
11エノスの齡は都合九百五歳なりき而して死り
12カイナン七十歳におよびてマハラレルを生り
13カイナン、マハラレルを生し後八百四十年生存へて男子女子を生り
14カイナンの齡は都合九百十歳なりきしかして死り
15マハラレル六十五歳に及びてヤレドを生り
16マハラレル、ヤレドを生し後八百三十年生存へて男子女子を生り
17マハラレルの齡は都合八百九十五歳なりき而して死り
18ヤレド百六十二歳に及びてエノクを生り
19ヤレド、エノクを生し後八百年生存へて男子女子を生り
20ヤレドの齡は都合九百六十二歳なりき而して死り
21エノク六十五歳に及びてメトセラを生り
22エノク、メトセラを生し後三百年神とともに歩み男子女子を生り
23エノクの齡は都合三百六十五歳なりき
24エノク神と偕に歩みしが神かれを取りたまひければをらずなりき
25メトセラ百八十七歳に及びてレメクを生り
26メトセラ、レメクを生しのち七百八十二年生存へて男子女子を生り
27メトセラの齡は都合九百六十九歳なりき而して死り
28レメク百八十二歳に及びて男子を生み
29其名をノアと名けて言けるは此子はヱホバの詛ひたまひし地に由れる我操作と我勞苦とに就て我らを慰めん
30レメク、ノアを生し後五百九十五年生存へて男子女子を生り
31レメクの齡は都合七百七十七歳なりき而して死り
32ノア五百歳なりきノア、セム、ハム、ヤペテを生り
1人地の面に繁衍はじまりて女子之に生るるに及べる時
2神の子等人の女子の美しきを見て其好む所の者を取て妻となせり
3ヱホバいひたまひけるは我靈永く人と爭はじ其は彼も肉なればなり然ど彼の日は百二十年なるべし
4當時地にネピリムありき亦其後神の子輩人の女の所に入りて子女を生しめたりしが其等も勇士にして古昔の名聲ある人なりき
5ヱホバ人の惡の地に大なると其心の思念の都て圖維る所の恒に惟惡きのみなるを見たまへり
6是に於てヱホバ地の上に人を造りしことを悔いて心に憂へたまへり
7ヱホバ言たまひけるは我が創造りし人を我地の面より拭去ん人より獸昆蟲天空の鳥にいたるまでほろぼさん其は我之を造りしことを悔ればなりと
8されどノアはヱホバの目のまへに恩を得たり
9ノアの傳は是なりノアは義人にして其世の完全き者なりきノア神と偕に歩めり
10ノアはセム、ハム、ヤペテの三人の子を生り
11時に世神のまへに亂れて暴虐世に滿盈ちたりき
12神世を視たまひけるに視よ亂れたり其は世の人皆其道をみだしたればなり
13神ノアに言たまひけるは諸の人の末期わが前に近づけり其は彼等のために暴虐世にみつればなり視よ我彼等を世とともに剪滅さん
14汝松木をもて汝のために方舟を造り方舟の中に房を作り瀝靑をもて其内外を塗るべし
15汝かく之を作るべし即ち其方舟の長は三百キユビト其濶は五十キユビト其高は三十キユビト
16又方舟に導光牖を作り上一キユビトに之を作り終べし又方舟の戸は其傍に設くべし下牀と二階と三階とに之を作るべし
17視よ我洪水を地に起して凡て生命の氣息ある肉なる者を天下より剪滅し絶ん地にをる者は皆死ぬべし
18然ど汝とは我わが契約をたてん汝は汝の子等と汝の妻および汝の子等の妻とともに其方舟に入るべし
19又諸の生物總て肉なる者をば汝各其二を方舟に挈へいりて汝とともに其生命を保たしむべし其等は牝牡なるべし
20鳥其類に從ひ獸其類に從ひ地の諸の昆蟲其類に從ひて各二汝の所に至りて其生命を保つべし
21汝食はるる諸の食品を汝の許に取て之を汝の所に集むべし是即ち汝と是等の物の食品となるべし
22ノア是爲し都て神の己に命じたまひしごとく然爲せり
1ヱホバ、ノアに言たまひけるは汝と汝の家皆方舟に入べし我汝がこの世の人の中にてわが前に義を視たればなり
2諸の潔き獸を牝牡七宛汝の許に取り潔らぬ獸を牝牡二
3亦天空の鳥を雌雄七宛取て種を全地の面に生のこらしむべし
4今七日ありて我四十日四十夜地に雨ふらしめ我造りたる萬有を地の面より拭去ん
5ノア、ヱホバの凡て己に命じたまひし如くなせり
6地に洪水ありける時にノア六百歳なりき
7ノア其子等と其妻および其子等の妻と倶に洪水を避て方舟にいりぬ
8潔き獸と潔らざる獸と鳥および地に匍ふ諸の物
9牝牡二宛ノアに來りて方舟にいりぬ神のノアに命じたまへるが如し
10かくて七日の後洪水地に臨めり
11ノアの齡の六百歳の二月即ち其月の十七日に當り此日に大淵の源皆潰れ天の戸開けて
12雨四十日四十夜地に注げり
13此日にノアとノアの子セム、ハム、ヤペテおよびノアの妻と其子等の三人の妻諸倶に方舟にいりぬ
14彼等および諸の獸其類に從ひ諸の家畜其類に從ひ都て地に匍ふ昆蟲其類に從ひ諸の禽即ち各樣の類の鳥皆其類に從ひて入りぬ
15即ち生命の氣息ある諸の肉なる者二宛ノアに來りて方舟にいりぬ
16入たる者は諸の肉なる者の牝牡にして皆いりぬ神の彼に命じたまへるが如しヱホバ乃ち彼を閉置たまへり
17洪水四十日地にありき是において水増し方舟を浮めて方舟地の上に高くあがれり
18而して水瀰漫りて大に地に増しぬ方舟は水の面に漂へり
19水甚大に地に瀰漫りければ天下の高山皆おほはれたり
20水はびこりて十五キユビトに上りければ山々おほはれたり
21凡そ地に動く肉なる者鳥家畜獸地に匍ふ諸の昆蟲および人皆死り
22即ち凡そ其鼻に生命の氣息のかよふ者都て乾土にある者は死り
23斯地の表面にある萬有を人より家畜昆蟲天空の鳥にいたるまで盡く拭去たまへり是等は地より拭去れたり唯ノアおよび彼とともに方舟にありし者のみ存れり
24水百五十日のあひだ地にはびこりぬ
1神ノアおよび彼とともに方舟にある諸の生物と諸の家畜を眷念ひたまひて神乃ち風を地の上に吹しめたまひければ水減りたり
2亦淵の源と天の戸閉塞りて天よりの雨止ぬ
3是に於て水次第に地より退き百五十日を經てのち水減り
4方舟は七月に至り其月の十七日にアララテの山に止りぬ
5水次第に減て十月に至りしが十月の月朔に山々の嶺現れたり
6四十日を經てのちノア其方舟に作りし窓を啓て
7鴉を放出ちけるが水の地に涸るまで往來しをれり
8彼地の面より水の減少しかを見んとて亦鴿を放出いだしけるが
9鴿其足の跖を止べき處を得ずして彼に還りて方舟に至れり其は水全地の面にありたればなり彼乃ち其手を舒て之を執へ方舟の中におのれの所に接入たり
10尚又七日待て再び鴿を方舟より放出ちけるが
11鴿暮におよびて彼に還れり視よ其口に橄欖の新葉ありき是に於てノア地より水の減少しをしれり
12尚又七日まちて鴿を放出ちけるが再び彼の所に歸らざりき
13六百一年の一月の月朔に水地に涸たりノア乃ち方舟の蓋を撤きて視しに視よ土の面は燥てありぬ
14二月の二十七日に至りて地乾きたり
15爰に神ノアに語りて言給はく
16汝および汝の妻と汝の子等と汝の子等の妻ともに方舟を出べし
17汝とともにある諸の肉なる諸の生物諸の肉なる者即ち鳥家畜および地に匍ふ諸の昆蟲を率いでよ此等は地に饒く生育地の上に生且殖増すべし
18ノアと其子等と其妻および其子等の妻ともに出たり
19諸の獸諸の昆蟲および諸の鳥等凡そ地に動く者種類に從ひて方舟より出たり
20ノア、ヱホバのために壇を築き諸の潔き獸と諸の潔き鳥を取て燔祭を壇の上に献げたり
21ヱホバ其馨き香を聞ぎたまひてヱホバ其意に謂たまひけるは我再び人の故に因て地を詛ふことをせじ其は人の心の圖維るところ其幼少時よりして惡かればなり又我曾て爲たる如く再び諸の生る物を撃ち滅さじ
22地のあらん限りは播種時、收穫時、寒熱夏冬および日と夜息ことあらじ
1神ノアと其子等を祝して之に曰たまひけるは生よ増殖よ地に滿よ
2地の諸の獸畜天空の諸の鳥地に匍ふ諸の物海の諸の魚汝等を畏れ汝等に懾かん是等は汝等の手に與へらる
3凡そ生る動物は汝等の食となるべし菜蔬のごとく我之を皆汝等に與ふ
4然ど肉を其生命なる其血のままに食ふべからず
5汝等の生命の血を流すをば我必ず討さん獸之をなすも人をこれを爲すも我討さん凡そ人の兄弟人の生命を取ば我討すべし
6凡そ人の血を流す者は人其血を流さん其は神の像のごとくに人を造りたまひたればなり
7汝等生よ増殖よ地に饒くなりて其中に増殖よ
8神ノアおよび彼と偕にある其子等に告て言たまひけるは
9見よ我汝等と汝等の後の子孫
10および汝等と偕なる諸の生物即ち汝等とともなる鳥家畜および地の諸の獸と契約を立ん都て方舟より出たる者より地の諸の獸にまで至らん
11我汝等と契約を立ん總て肉なる者は再び洪水に絶るる事あらじ又地を滅す洪水再びあらざるべし
12神言たまひけるは我が我と汝等および汝等と偕なる諸の生物の間に世々限りなく爲す所の契約の徴は是なり
13我わが虹を雲の中に起さん是我と世との間の契約の徴なるべし
14即ち我雲を地の上に起す時虹雲の中に現るべし
15我乃ち我と汝等および總て肉なる諸の生物の間のわが契約を記念はん水再び諸の肉なる者を滅す洪水とならじ
16虹雲の中にあらん我之を觀て神と地にある都て肉なる諸の生物との間なる永遠の契約を記念えん
17神ノアに言たまひけるは是は我が我と地にある諸の肉なる者との間に立たる契約の徴なり
18ノアの子等の方舟より出たる者はセム、ハム、ヤペテなりきハムはカナンの父なり
19是等はノアの三人の子なり全地の民は是等より出て蔓延れり
20爰にノアの農夫となりて葡萄園を植ることを始しが
21葡萄酒を飮て醉天幕の中にありて裸になれり
22カナンの父ハム其父のかくし所を見て外にありし二人の兄弟に告たり
23セムとヤペテ乃ち衣を取て倶に其肩に負け後向に歩みゆきて其父の裸體を覆へり彼等面を背にして其父の裸體を見ざりき
24ノア酒さめて其若き子の己に爲たる事を知れり
25是に於て彼言けるはカナン詛はれよ彼は僕輩の僕となりて其兄弟に事へん
26又いひけるはセムの神ヱホバは讚べきかなカナン彼の僕となるべし
27神ヤペテを大ならしめたまはん彼はセムの天幕に居住はんカナン其僕となるべし
28ノア洪水の後三百五十年生存へたり
29ノアの齡は都て九百五十年なりき而して死り
1ノアの子セム、ハム、ヤペテの傳は是なり洪水の後彼等に子等生れたり
2ヤペテの子はゴメル、マゴグ、マデア、ヤワン、トバル、メセク、テラスなり
3ゴメルの子はアシケナズ、リパテ、トガルマなり
4ヤワンの子はエリシヤ、タルシシ、キツテムおよびドダニムなり
5是等より諸國の洲島の民は派分れ出て各其方言と其宗族と其邦國とに循ひて其地に住り
6ハムの子はクシ、ミツライム、フテおよびカナンなり
7クシの子はセバ、ハビラ、サブタ、ラアマ、サブテカなりラアマの子はシバおよびデダンなり
8クシ、ニムロデを生り彼始めて世の權力ある者となれり
9彼はヱホバの前にありて權力ある獵夫なりき是故にヱホバの前にある夫權力ある獵夫ニムロデの如しといふ諺あり
10彼の國の起初はシナルの地のバベル、エレク、アツカデ、及びカルネなりき
11其地より彼アッスリヤに出でニネベ、レホポテイリ、カラ
12およびニネベとカラの間なるレセンを建たり是は大なる城邑なり
13ミツライム、ルデ族アナミ族レハビ族ナフト族
14バテロス族カスル族およびカフトリ族を生りカスル族よりペリシテ族出たり
15カナン其冢子シドンおよびヘテ
16エブス族アモリ族ギルガシ族
17ヒビ族アルキ族セニ族
18アルワデ族ゼマリ族ハマテ族を生り後に至りてカナン人の宗族蔓延りぬ
19カナン人の境はシドンよりゲラルを經てガザに至りソドム、ゴモラ、アデマ、ゼボイムに沿てレシヤにまで及べり
20是等はハムの子孫にして其宗族と其方言と其土地と其邦國に隨ひて居りぬ
21セムはヱベルの全の子孫の先祖にしてヤペテの兄なり彼にも子女生れたり
22セムの子はエラム、アシユル、アルパクサデルデ、アラムなり
23アラムの子はウヅ、ホル、ゲテル、マシなり
24アルパクサデ、シラを生みシラ、エベルを生り
25エベルに二人の子生れたり一人の名をペレグ(分れ)といふ其は彼の代に邦國分れたればなり其弟の名をヨクタンと曰ふ
26ヨクタン、アルモダデ、シヤレフ、ハザルマウテ、ヱラ
27ハドラム、ウザル、デクラ
28オバル、アビマエル、シバ
29オフル、ハビラおよびヨバブを生り是等は皆ヨクタンの子なり
30彼等の居住所はメシヤよりして東方の山セバルにまで至れり
31是等はセムの子孫にして其宗族と其方言と其土地と其邦國とに隨ひて居りぬ
32是等はノアの子の宗族にして其血統と其邦國に隨ひて居りぬ洪水の後是等より地の邦國の民は派分れ出たり
1全地は一の言語一の音のみなりき
2茲に人衆東に移りてシナルの地に平野を得て其處に居住り
3彼等互に言けるは去來甎石を作り之を善く爇んと遂に石の代に甎石を獲灰沙の代に石漆を獲たり
4又曰けるは去來邑と塔とを建て其塔の頂を天にいたらしめん斯して我等名を揚て全地の表面に散ることを免れんと
5ヱホバ降臨りて彼人衆の建る邑と塔とを觀たまへり
6ヱホバ言たまひけるは視よ民は一にして皆一の言語を用ふ今旣に此を爲し始めたり然ば凡て其爲んと圖維る事は禁止め得られざるべし
7去來我等降り彼處にて彼等の言語を淆し互に言語を通ずることを得ざらしめんと
8ヱホバ遂に彼等を彼處より全地の表面に散したまひければ彼等邑を建ることを罷たり
9是故に其名はバベル(淆亂)と呼ばる是はヱホバ彼處に全地の言語を淆したまひしに由てなり彼處よりヱホバ彼等を全地の表に散したまへり
10セムの傳は是なりセム百歳にして洪水の後の二年にアルパクサデを生り
11セム、アルパクサデを生し後五百年生存へて男子女子を生り
12アルパクサデ三十五歳に及びてシラを生り
13アルパクサデ、シラを生し後四百三年生存へて男子女子を生り
14シラ三十歳におよびてエベルを生り
15シラ、エベルを生し後四百三年生存へて男子女子を生り
16エベル三十四歳におよびてペレグを生り
17エベル、ペレグを生し後四百三十年生存へて男子女子を生り
18ペレグ三十歳におよびてリウを生り
19ペレグ、リウを生し後二百九年生存へて男子女子を生り
20リウ三十二歳におよびてセルグを生り
21リウ、セルグを生し後二百七年生存へて男子女子を生り
22セルグ三十年におよびてナホルを生り
23セルグ、ナホルを生しのち二百年生存へて男子女子を生り
24ナホル二十九歳に及びてテラを生り
25ナホル、テラを生し後百十九年生存へて男子女子を生り
26テラ七十歳に及びてアブラム、ナホルおよびハランを生り