たけくらべ
- 著作者:樋口一葉
- 底本:昭和二年七月一〇日岩波書店発行、樋口一葉「たけくらべ」
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廻れば大門の見返り柳いと長けれども、お歯ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行来にはかり知られぬ全盛をうらなひて、大音寺前名は仏くさけれど、そりとは陽気の町と住みたる人の申き、三嶋神社の角をまがりてより是れぞと見ゆる大(まだれ、に夏)もなく、かたぶく軒端の十軒長屋二十軒長や、商ひはかつふつ利かぬ処とて半さしたる雨戸の外に、あやしき形に紙を切りなして、胡粉ぬりくり彩色のある田楽みるやう、裏にはりたる串のさまもをかし、一軒ならずニ軒ならず、朝日に干して夕日に