判事懲戒法 (明治23年法律第68号)

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原文[編集]

朕判事懲戒法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ交付セシム

御名御璽
明治二十三年八月二十日
内閣總理大臣 伯爵山縣有朋
司法大臣 伯爵山田顕義

法律第六十八号

判事懲戒法

第一章 總則[編集]

第一條 凡ソ判事ヲ懲戒スルハ左ノ場合ニ於テ懲戒裁判所ノ裁判ヲ以テスヘシ
第一 職務上ノ義務ニ違背シ又ハ職務ヲ怠リタルトキ
第二 官職上ノ威厳又ハ信用ヲ失フヘキ所爲アリタルトキ

第二章 懲罰[編集]

第二條 懲罰ハ左ノ如シ
第一 譴責
第二 減俸
第三 轉所
第四 免職
第三條 前條何レノ懲罰ヲ適用スヘキヤ否ハ所犯ノ輕重ニ従ヒ懲戒裁判所之ヲ定ムヘシ 懲戒裁判所ハ懲罰ノ適用ヲ定ムルニ當リ平生ノ行状ヲ斟酌スルコトヲ得
第四條 減俸ハ一月以上一年以下年俸月割額ノ三分ノ一以内ヲ減ス
第五條 轉所ハ他ノ裁判所若ハ他ノ職ニ轉セシム但シ情状ニ因リ減俸ヲ併セ科スルコトヲ得
第六條 停職ハ三月以上一年以下職務ノ執行ヲ停止ス
停職中ハ俸給ヲ給セス
第七條 免職ノ言渡ヲ受ケタル者ハ現在ノ官ヲ失ヒ及恩給ヲ受クルノ權ヲ失フ

第三章 懲戒裁判所[編集]

第八條 懲戒裁判所ハ各控訴院及大審院ニ之ヲ置ク
第九條 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ハ控訴院長ヲ加ヘ其の院ノ判事五人ヲ以テ組立テ院長ヲ以テ長トス
大審院ニ於ケル懲戒裁判所ハ大審院長ヲ加ヘ其の院ノ判事七人ヲ以テ組立テ院長ヲ以テ長トス
第十條 控訴院長及大審院長ハ毎年部長ト協議シ前以テ懲戒裁判所ノ判事ヲ定メ 竝裁判所長判事差支アルトキノ代理順序ヲ定ム
第十一條 懲戒裁判所ノ判事ノ忌避囘避ニ付テハ治罪法ノ規程ヲ準用ス
第十二條 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ノ檢事ノ職務ハ檢事長之ヲ行ヒ大審院ニ於ケル懲戒裁判所ノ檢事ノ職務ハ檢事總長之ヲ行フ
第十三條 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所長ハ其の院ノ裁判所書記ノ中ヨリ懲戒裁判所ノ書記ヲ命シ大審院ニ於ケル懲戒裁判所長ハ其の院ノ裁判所書記ノ中ヨリ懲戒裁判所ノ書記ヲ命ス
第十四條 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ハ院長及部長ヲ除ク外其の院ノ判事及其の管轄區域内ノ總テノ下級裁判所ノ判事ニ對スル懲戒事件ヲ管轄ス
第十五條 大審院ニ於ケル懲戒裁判所ハ左ノ事件ヲ管轄ス
第一 第一審ニシテ終審トシテ大審院ノ判事、控訴院長及控訴院部長ニ對スル懲戒事件
第二 控訴院ニ於ケル懲戒裁判所ノ裁判ニ對スル抗告及控訴
第十六條 懲戒裁判所ノ管轄ハ所犯ノ地ニ拘ラス裁判手續開始ノトキ判事ノ奉職スル裁判所ニ依テ定マルモノトス

第四章 裁判手續[編集]

第十七條 懲戒裁判所ハ檢事ノ申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ懲戒裁判ヲ開始スヘキヤ否ヲ決定ス但シ職權ヲ以テスル場合ニ於テハ檢事ノ意見ヲ聽クヘシ
第十八條 檢事ハ裁判手續ノ開始ヲ拒ミタル懲戒裁判所ノ決定ニ對シテハ七日ノ期間内ニ抗告裁判所ニ抗告ヲ爲スコトヲ得
第十九條 抗告裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キタル後抗告ヲ裁判ス若シ抗告ヲ正當ナリト認メタルトキハ裁判手續開始ノ決定ヲ爲シ管轄懲戒裁判所ヲシテ其の後ノ手續ヲ爲サシムヘシ
第二十條 開始決定ニハ懲戒スヘキ所爲及證據ヲ開示スヘシ
第二十一條 開始決定ハ檢事及被告ニ送達スヘシ
第二十二條 懲戒裁判所ニ於テ下調ヲ必要ナリト決定スルトキハ懲戒裁判所長ハ懲戒裁判ヲ開始 シタル院ノ判事若ハ管轄區域内ノ地方裁判所ノ判事ニ下調ヲ命スヘシ
第二十三條 下調ノ命ヲ受ケタル判事ハ必要ナル證據ヲ集取スヘシ
受命判事ハ被告ヲ呼出シテ事實ヲ陳述セシムルコトヲ得
被告ハ代理人ヲシテ代理セシムルコトヲ得
證人ハ治罪法ノ規程ニ従ヒ之ヲ尋問スヘシ
第二十四條 受命判事ハ證人尋問其の他證據集取ヲ他ノ裁判所ノ判事ニ嘱託スルコトヲ得
第二十五條 受命判事ハ下調結了ノ後調書及一切ノ證據ヲ懲戒裁判所長ニ差出シ裁判長ハ二十四時内ニ檢事ニ之ヲ送付スヘシ
第二十六條 檢事ハ三日内ニ意見ヲ付シ記録ヲ懲戒裁判所長ニ還付スヘシ
第二十七條 懲戒裁判所ハ下調ヲ十分ナリト思料スルトキハ口頭辯論ヲ爲スノ決定ヲ爲シ又ハ免訴ノ判決ヲ爲スヘシ
免訴ノ理由ナキモ現時裁判ニ著手スルコトヲ得サルトキハ訴追停止ノ決定ヲ爲スベシ
第二十八條 前條ノ裁判ハ檢事及被告ニ送達スヘシ
第二十九條 懲戒裁判所長ハ口頭辯論ノ期日ヲ定メ被告ヲ呼出スヘシ
第三十條 辯論ハ之ヲ公行セス
第三十一條 口頭辯論ハ裁判所書記開始決定ヲ朗読スルヲ以テ始マルモノトス
裁判長ハ先ス被告ヲ審尋シ次デ證據調ヲ爲シ檢事及被告ヲシテ證據ノ結果ニ付辯論ヲ爲サシメ被告ニ最終ノ發言ヲ許スヘシ
第三十二條 懲戒裁判所ハ被告若ハ檢事ノ申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ更ニ證據ヲ提出セシムルコトヲ適當ナリトスルトキハ之カタメ必要ナル命令ヲ發シ且辯論ヲ他日ニ延期スルコトヲ得
第三十三條 被告ハ他人ヲシテ辯護セシメ又ハ代理人ヲ用井ルコトヲ得
第三十四條 懲戒裁判所ハ事件ノ辯論既ニ十分ナリトスルトキハ之ヲ終結シ評議判決スヘシ
第三十五條 判決ハ即時ニ之ヲ言渡ス若シ即時ニ之ヲ言渡スコト能ワサルトキハ七日以内ニ判決ヲ被告及檢事ニ送達スヘシ
第三十六條 被告又ハ代理人辯論期日ニ出頭セスト雖判決ヲ言渡スコトヲ得
第三十七條 評議及言渡ニ關シテハ裁判所構成法ノ規程ニ従ヒ證據ノ判断ニ關シテハ治罪法ノ規程ニ従フ
第三十八條 被告及檢事ハ十四日ノ期間内ニ控訴ノ申立ヲ爲スコトヲ得但シ其の期間ハ判決言渡ヨリ起算ス若シ被告出頭セサルトキハ判決ノ送達アリタルヨリ起算ス
第三十九條 控訴ノ申立テハ判決ヲ受ケタル懲戒裁判所ニ之ヲ爲スヘシ
控訴状ハ控訴ノ申立ヲ爲シタルヨリ十四日ノ期間内ニ之ヲ差出スヘシ
第四十條 懲戒裁判所ハ控訴ノ申立及控訴状ノ謄本ヲ對手人ニ送達スヘシ
對手人ハ送達ヲ受ケタルヨリ十四日ノ期間内ニ答辯書ヲ差出スコトヲ得
第四十一條 懲戒裁判所ハ前條ノ期間經過シタル後其の書類ヲ控訴裁判所ニ送付スヘシ
控訴裁判所長ハ口頭辯論ノ期日ヲ定メ被告ヲ呼出スヘシ
第四十二條 控訴裁判所ハ第一審ニ於テ申立テサル證據ヲ提出シタルトキハ之ヲ取調ヘシ若シ第一審ニ於テ尋問シタル證人ノ再尋問ヲ申立テタルトキハ其の重要ノ點ニ於テ陳述ヲ異ニシ又ハ新ナル重要ノ事實ヲ證言セントノ推測十分ナルトキニ限リ之ヲ許ス
證據ヲ以テスル尋問ハ何時ニテモ之ヲ爲スコトヲ得
第四十三條 第二審ニ於ケル裁判手續ハ第三十條乃至第三十七條ノ規程ヲ適用ス
第四十四條 控訴ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却シ其の費用ヲ控訴人ニ負擔セシムヘシ
控訴ヲ理由アリトスルトキハ第一審判決言渡ヲ取消シ控訴裁判所更ニ判決ヲ爲シ且其の費用ニ付裁判ヲ爲スヘシ
控訴完結ノ後其の記録ハ第二審ニ於テ爲シタル判決ノ認證アル謄本ト共ニ原裁判所ニ之ヲ還付スヘシ
第四十五條 調書ノ調製期間ノ計算及書類ノ送達ニ付テハ治罪法ノ規程ニ従フ
懲戒裁判手續ノ費用ハ刑事裁判費用ニ關ル規程ニ従フ
第四十六條 懲戒裁判所ノ裁判ハ確定ノアトニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス
第四十七條 懲戒裁判確定シタルトキハ懲戒裁判所長ハ司法大臣ニ事件ノ情況ヲ報告シ且判決ノ謄本ヲ差出スヘシ
第四十八條 懲戒裁判所減俸轉所若ハ停職ノ裁判ヲ言渡シタルトキハ司法大臣其の執行ノ手續ヲ爲ス

第五章 職務停止[編集]

第四十九條 判事ハ左ノ場合ニ於テハ當然職務ヲ停止セラルルモノトス
第一 刑事裁判手續ニ於テ勾留セラレタルトキ
第二 刑事裁判ニ依テ官職ノ喪失ニ該ル刑ノ言渡ヲ受ケタルトキ
第三 懲戒裁判ニ依テ免職ノ言渡ヲ受ケタルトキ
第五十條 刑事裁判ニ依テ拘留ノ刑ノ確定裁判ヲ受ケタルトキハ其の景気ノ終ルマテ當然職務ヲ停止セラルルモノトス
第五十一條 懲戒裁判所ハ懲戒事件ノ轉所停職若ハ免職ニ該當スルモノト思料スルトキハ何時ニテモ職權ヲ以テ又ハ檢事ノ申立ニ因リ懲戒裁判手續結了ニ至ルマテ被告ノ職務ヲ停止スルコトヲ決定スルヲ得但シ職權ヲ以テ決定ヲ爲ストキハ檢事ノ意見ヲ聽クヘシ
刑事裁判手續中何レノ場合ニ於テモ懲戒裁判所ハ其の手續結了ニ至ルマテ被告ノ職務ヲ停止スルコトヲ決定スルヲ得
第五十二條 懲戒裁判所ノ決定ニ因リ又ハ當然職務ヲ停止セラレタル後其の判事ノ爲シタル職務上ノ行爲ハ無効トス
第五十三條 被告ハ職務停止ノ決定ニ對シ上訴ヲ爲スコトヲ得ス

第六章 懲戒裁判手續ト刑事裁判手續トノ關係[編集]

第五十四條 刑事裁判手續中ハ同事件ニ付被告ニ對シ懲戒裁判手續ヲ開始スルコトヲ得ス
懲戒裁判所ニ於テ判決ノ言渡前同事件ニ付被告ニ對シ刑事訴追ノ始マリタルトキハ其の事件ノ判決ヲ終ルマテ懲戒裁判手續ヲ停止スヘシ
第五十五條 刑事裁判ニ依テ法律ニ触レサルニ因リ免訴又ハ無罪ノ言渡ヲ受ケタルトキト雖同一ノ所爲ニ付懲戒裁判手續ニ於テ仍ホ訴追スルヲ妨ゲス
刑事裁判ニ依テ官職ノ喪失ヲ起コササル刑ノ言渡ヲ受ケタルトキハ懲戒裁判手續ニ於テ仍ホ訴追スルコトヲ得

第七章 補則[編集]

第五十六條 懲戒スヘキ所爲ハ本法實施前ニ關ルモノト雖本法ニ従ヒ之ヲ訴追ス
第五十七條 此法律ハ明治二十三年十一月一日ヨリ施行ス

現代表記[編集]

朕、判事懲戒法を裁可し、ここにこれを交付せしむ

  御名御璽

 明治23年8月20日 内閣総理大臣 伯爵山縣有朋
司法大臣   伯爵山田顕義

法律第68号

判事懲戒法

第1章 総則[編集]

第1条 およそ判事を懲戒するは左の場合において懲戒裁判所の裁判をもってすべし。
第1 職務上の義務に違背し又は職務を怠りたるとき
第2 官職上の威厳または信用を失うべき所為ありたるとき

第2章 懲罰[編集]

第2条 懲罰は左の如し。
第1 けん責
第2 減俸
第3 転所
第4 免職
第3条 前条いずれの懲罰を適用すべきや否は所犯の軽重に従い懲戒裁判所これを定むべし。 懲戒裁判所は懲罰の適用を定むるに当たり平生の行状を斟酌することを得。
第4条 減俸は1月以上1年以下、年俸月割額の3分の1以内を減ず。
第5条 転所は他の裁判所もしくは他の職に転せしむ。ただし情状により減俸を併せ科することを得。
第6条 停職は3月以上1年以下職務の執行を停止す。 停職中は俸給を給せず。
第7条 免職の言渡を受けたる者は現在の官を失い及び恩給を受くるの権を失う。

第3章 懲戒裁判所[編集]

第8条 懲戒裁判所は各控訴院及び大審院にこれを置く。
第9条 控訴院における懲戒裁判所は控訴院長を加え、その院の判事5人をもって組立て、院長をもって長とす。
大審院における懲戒裁判所は大審院長を加え、その院の判事7人をもって組立て、院長をもって長とす。
第10条 控訴院長及び大審院長は毎年部長と協議し、前もって懲戒裁判所の判事を定め、並びに裁判所長判事差支あるときの代理順序を定む。
第11条 懲戒裁判所の判事の忌避回避については治罪法の規程を準用す。
第12条 控訴院における懲戒裁判所の検事の職務は検事長これを行い、大審院における懲戒裁判所の検事の職務は検事総長これを行う。
第13条 控訴院における懲戒裁判所長はその院の裁判所書記の中より懲戒裁判所の書記を命じ大審院における懲戒裁判所長はその院の裁判所書記の中より懲戒裁判所の書記を命す。
第14条 控訴院における懲戒裁判所は院長及び部長を除く外その院の判事及びその管轄区域内の全ての下級裁判所の判事に対する懲戒事件を管轄す。
第15条 大審院における懲戒裁判所は左の事件を管轄す。
第1 第一審にして終審として大審院の判事、控訴院長及び控訴院部長に対する懲戒事件
第2 控訴院における懲戒裁判所の裁判に対する抗告及び控訴
第16条 懲戒裁判所の管轄は所犯の地に拘らず裁判手続開始のとき判事の奉職する裁判所によって定まるものとす。

第4章 裁判手続[編集]

第17条 懲戒裁判所は検事の申立により、または職権をもって懲戒裁判を開始すべきや否を決定す。ただし職権をもってする場合においては検事の意見を聴くべし。
第18条 検事は裁判手続の開始を拒みたる懲戒裁判所の決定に対しては7日の期間内に抗告裁判所に抗告をなすことを得。
第19条 抗告裁判所は検事の意見を聴きたる後、抗告を裁判す。もし抗告を正当なりと認めたるときは裁判手続開始の決定をなし、管轄懲戒裁判所をしてその後の手続をなさしむべし。
第20条 開始決定には懲戒すべき所為及び証拠を開示すべし。
第21条 開始決定は検事及び被告に送達すべし。
第22条 懲戒裁判所において下調を必要なりと決定するときは懲戒裁判所長は懲戒裁判を開始したる院の判事もしくは管轄区域内の地方裁判所の判事に下調を命ずべし。
第23条 下調の命を受けたる判事は必要なる証拠を集取すべし。
受命判事は被告を呼出して事実を陳述せしむることを得。
被告は代理人をして代理せしむることを得。
証人は治罪法の規程に従いこれを尋問すべし。
第24条 受命判事は証人尋問その他証拠集取を他の裁判所の判事に嘱託することを得。
第25条 受命判事は下調結了の後、調書及び一切の証拠を懲戒裁判所長に差出し、裁判長は24時内に検事にこれを送付すべし。
第26条 検事は3日内に意見を付し記録を懲戒裁判所長に還付すべし。
第27条 懲戒裁判所は下調を十分なりと思料するときは、口頭弁論をなすの決定をなし、または免訴の判決をなすべし。
免訴の理由なきも現時裁判に著手することを得ざるときは訴追停止の決定をなすべし。
第28条 前条の裁判は検事及び被告に送達すべし。
第29条 懲戒裁判所長は口頭弁論の期日を定め被告を呼出すべし。
第30条 弁論はこれを公行せず。
第31条 口頭弁論は裁判所書記開始決定を朗読するをもって始まるものとす。
裁判長はまず被告を審尋し、次いで証拠調をなし検事及び被告をして証拠の結果につき弁論をなさしめ、被告に最終の発言を許すべし。
第32条 懲戒裁判所は被告もしくは検事の申立により、または職権をもってさらに証拠を提出せしむることを適当なりとするときは、これがため必要なる命令を発し、かつ弁論を他日に延期することを得。
第33条 被告は他人をして弁護せしめ、または代理人を用いることを得。
第34条 懲戒裁判所は事件の弁論すでに十分なりとするときは、これを終結し評議判決すべし。
第35条 判決は即時にこれを言渡す。もし即時にこれを言渡すこと能わざるときは、7日以内に判決を被告及び検事に送達すべし。
第36条 被告または代理人弁論期日に出頭せずといえども判決を言渡すことを得。
第37条 評議及び言渡に関しては裁判所構成法の規程に従い、証拠の判断に関しては治罪法の規程に従う。
第38条 被告及び検事は14日の期間内に控訴の申立をなすことを得。ただしその期間は判決言渡より起算す。もし被告出頭せざるときは判決の送達ありたるより起算す。
第39条 控訴の申立ては判決を受けたる懲戒裁判所にこれをなすべし。 控訴状は控訴の申立をなしたるより14日の期間内にこれを差出すべし。
第40条 懲戒裁判所は控訴の申立及び控訴状の塔本を対手人に送達すべし。 対手人は送達を受けたるより14日の期間内に答弁書を差出すことを得。
第41条 懲戒裁判所は前条の期間経過したる後、その書類を控訴裁判所に送付すべし。 控訴裁判所長は口頭弁論の期日を定め被告を呼出すべし。
第42条 控訴裁判所は第1審において申立てざる証拠を提出したるときは、これを取調うべし。もし第一審において尋問したる証人の再尋問を申立てたるときは、その重要の点において陳述を異にし、または新なる重要の事実を証言せんとの推測十分なるときに限りこれを許す。 証拠をもってする尋問は何時にてもこれをなすことを得。
第43条 第2審における裁判手続は第30条ないし第37条の規程を適用す。
第44条 控訴を理由なしとするときは判決をもってこれを棄却し、その費用を控訴人に負担せしむべし。
控訴を理由ありとするときは第1審判決言渡を取消し、控訴裁判所さらに判決をなし、かつその費用につき裁判をなすべし。
控訴完結の後、その記録は第2審においてなしたる判決の認証ある謄本と共に原裁判所にこれを還付すべし。
第45条 調書の調製期間の計算及び書類の送達については治罪法の規程に従う。
懲戒裁判手続の費用は刑事裁判費用に関する規程に従う。
第46条 懲戒裁判所の裁判は確定のあとに非ざればこれを執行することを得ず。
第47条 懲戒裁判確定したるときは懲戒裁判所長は司法大臣に事件の情況を報告し、かつ判決の 謄本を差出すべし。
第48条 懲戒裁判所減俸転所もしくは停職の裁判を言渡したるときは司法大臣その執行の手続をなす。

第5章 職務停止[編集]

第49条 判事は左の場合においては当然職務を停止せらるるものとす。
第1 刑事裁判手続において勾留せられたるとき
第2 刑事裁判によって官職の喪失に当る刑の言渡を受けたるとき
第3 懲戒裁判によって免職の言渡を受けたるとき
第50条 刑事裁判によって拘留の刑の確定裁判を受けたるときはその景気の終るまで当然職務を停止せらるるものとす。
第51条 懲戒裁判所は懲戒事件の転所停職もしくは免職に該当するものと思料するときは何時にても職権をもって、または検事の申立により懲戒裁判手続結了に至るまで被告の職務を停止することを決定するを得。ただし職権をもって決定をなすときは検事の意見を聴くべし。
刑事裁判手続中いずれの場合においても懲戒裁判所はその手続結了に至るまで被告の職務を停止することを決定するを得。
第52条 懲戒裁判所の決定によりまたは当然職務を停止せられたる後、その判事のなしたる職務上の行為は無効とす。
第53条 被告は職務停止の決定に対し上訴をなすことを得ず。

第6章 懲戒裁判手続と刑事裁判手続との関係[編集]

第54条 刑事裁判手続中は同事件につき被告に対し懲戒裁判手続を開始することを得ず。
懲戒裁判所において判決の言渡前同事件につき被告に対し刑事訴追の始まりたるときは、その事件の判決を終わるまで懲戒裁判手続を停止すべし。
第55条 刑事裁判によって法律に触れざるにより免訴または無罪の言渡を受けたるときといえども、同一の所為につき懲戒裁判手続においてなお訴追するを妨げず。
刑事裁判によって官職の喪失を起こさざる刑の言渡を受けたるときは懲戒裁判手続においてなお訴追することを得。

第7章 補則[編集]

第56条 懲戒すべき所為は本法実施前に関るものといえども本法に従いこれを訴追す。
第57条 この法律は明治23年11月1日より施行す。

この著作物は1924年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。