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万葉集/第二十巻

第二十巻


[歌番号]20/4293

[題詞]幸行於山村之時歌二首 / 先太上天皇詔陪従王臣曰夫諸王卿等宣賦和歌而奏即御口号曰

[原文]安之比奇能 山行之可婆 山人乃 和礼尓依志米之 夜麻都刀曽許礼

[訓読]あしひきの山行きしかば山人の我れに得しめし山づとぞこれ

[仮名]あしひきの やまゆきしかば やまびとの われにえしめし やまづとぞこれ

[左注](右天平勝寶五年五月在於大納言藤原朝臣之家時 依奏事而請問之間 少主鈴山田史土麻呂語少納言大伴宿祢家持曰 昔聞此言 即誦此歌也)

[校異]歌 [西] 謌

[事項]天平勝宝5年5月 年紀 作者:元正天皇 伝誦 山田土麻呂 古歌 行幸 奈良 神仙 枕詞 大伴家持 藤原仲麻呂

[訓異]あしひきの[寛],

やまゆきしかば,[寛]やまゆきしかは,

やまびとの,[寛]やまひとの,

われにえしめし[寛],

やまづとぞこれ,[寛]やまつとそこれ,


[歌番号]20/4294

[題詞](幸行於山村之時歌二首) / 舎人親王應詔奉和歌一首

[原文]安之比奇能 山尓由伎家牟 夜麻妣等能 情母之良受 山人夜多礼

[訓読]あしひきの山に行きけむ山人の心も知らず山人や誰れ

[仮名]あしひきの やまにゆきけむ やまびとの こころもしらず やまびとやたれ

[左注]右天平勝寶五年五月在於大納言藤原朝臣之家時 依奏事而請問之間 少主鈴山田史土麻呂語少納言大伴宿祢家持曰 昔聞此言 即誦此歌也

[校異]なし

[事項]天平勝宝5年5月 年紀 作者:舎人親王 伝誦 古歌 山田土麻呂 行幸 枕詞 奈良 神仙 大伴家持 藤原仲麻呂

[訓異]あしひきの[寛],

やまにゆきけむ[寛],

やまびとの,[寛]やまひとの,

こころもしらず,[寛]こころもしらす,

やまびとやたれ,[寛]やまひとやたれ,


[歌番号]20/4295

[題詞]天平勝寶五年八月十二日二三大夫等各提壷酒 登高圓野聊述所心作歌三首

[原文]多可麻刀能 乎婆奈布伎故酒 秋風尓 比毛等伎安氣奈 多太奈良受等母

[訓読]高円の尾花吹き越す秋風に紐解き開けな直ならずとも

[仮名]たかまとの をばなふきこす あきかぜに ひもときあけな ただならずとも

[左注]右一首左京少進大伴宿祢池主

[校異]天平勝宝五年八月 [細](塙) 八月 / 酒 [類][春] 須

[事項]天平勝宝5年8月12日 年紀 作者:大伴池主 地名 高円 奈良 宴席 植物

[訓異]たかまとの[寛],

をばなふきこす,[寛]をはなふきこす,

あきかぜに,[寛]あきかせに,

ひもときあけな[寛],

ただならずとも,[寛]たたならすとも,


[歌番号]20/4296

[題詞](天平勝寶五年八月十二日二三大夫等各提壷酒 登高圓野聊述所心作歌三首)

[原文]安麻久母尓 可里曽奈久奈流 多加麻刀能 波疑乃之多婆波 毛美知安倍牟可聞

[訓読]天雲に雁ぞ鳴くなる高円の萩の下葉はもみちあへむかも

[仮名]あまくもに かりぞなくなる たかまとの はぎのしたばは もみちあへむかも

[左注]右一首左中辨中臣清麻呂朝臣

[校異]なし

[事項]天平勝宝5年8月12日 年紀 作者:中臣清麻呂 宴席 奈良 高円 地名 植物 動物 叙景

[訓異]あまくもに[寛],

かりぞなくなる,[寛]かりそなくなる,

たかまとの[寛],

はぎのしたばは,[寛]はきのしたはは,

もみちあへむかも[寛],


[歌番号]20/4297

[題詞](天平勝寶五年八月十二日二三大夫等各提壷酒 登高圓野聊述所心作歌三首)

[原文]乎美奈<弊>之 安伎波疑之努藝 左乎之可能 都由和氣奈加牟 多加麻刀能野曽

[訓読]をみなへし秋萩しのぎさを鹿の露別け鳴かむ高圓の野ぞ

[仮名]をみなへし あきはぎしのぎ さをしかの つゆわけなかむ たかまとののぞ

[左注]右一首少納言大伴宿祢家持

[校異]敝 -> 弊 [類][紀][細]

[事項]天平勝宝5年8月12日 年紀 作者:大伴家持 植物 動物 地名 高円 奈良 宴席 [訓異]

[訓異]をみなへし[寛],

あきはぎしのぎ,[寛]あきはきしのき,

さをしかの[寛],

つゆわけなかむ[寛],

たかまとののぞ,[寛]たかまとののそ,


[歌番号]20/4298

[題詞]六年正月四日氏人等賀集于少納言大伴宿祢家持之宅宴飲歌三首

[原文]霜上尓 安良礼多<婆>之里 伊夜麻之尓 安礼<波>麻為許牟 年緒奈我久 [古今未詳]

[訓読]霜の上に霰た走りいやましに我れは参ゐ来む年の緒長く [古今未詳]

[仮名]しものうへに あられたばしり いやましに あれはまゐこむ としのをながく

[左注]右一首左兵衛督大伴宿祢千室

[校異]波 -> 婆 [元][類][紀] / 婆 -> 波 [元][類]

[事項]天平勝宝6年1月4日 年紀 作者:大伴千室 賀歌 寿歌 大伴家持 宴席 古歌 伝誦

[訓異]しものうへに[寛],

あられたばしり,[寛]あられたはしり,

いやましに[寛],

あれはまゐこむ[寛],

としのをながく,[寛]としのをなかく,


[歌番号]20/4299

[題詞](六年正月四日氏人等賀集于少納言大伴宿祢家持之宅宴飲歌三首)

[原文]年月波 安良多々々々尓 安比美礼騰 安我毛布伎美波 安伎太良奴可母 [古今未詳]

[訓読]年月は新た新たに相見れど我が思ふ君は飽き足らぬかも [古今未詳]

[仮名]としつきは あらたあらたに あひみれど あがもふきみは あきだらぬかも

[左注]右一首民部少丞大伴宿祢村上

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年1月4日 年紀 作者:大伴村上 賀歌 寿歌 古歌 伝誦 宴席 主人讃美 大伴家持

[訓異]としつきは[寛],

あらたあらたに,[寛]あたらあたらに,

あひみれど,[寛]あひみれと,

あがもふきみは,[寛]あかもふきみは,

あきだらぬかも,[寛]あきたらぬかも,


[歌番号]20/4300

[題詞](六年正月四日氏人等賀集于少納言大伴宿祢家持之宅宴飲歌三首)

[原文]可須美多都 春初乎 家布能其等 見牟登於毛倍波 多努之等曽毛布

[訓読]霞立つ春の初めを今日のごと見むと思へば楽しとぞ思ふ

[仮名]かすみたつ はるのはじめを けふのごと みむとおもへば たのしとぞもふ

[左注]右一首左京少進大伴宿祢池主

[校異]波 [元](塙) 婆

[事項]天平勝宝6年1月4日 年紀 作者:大伴池主 宴席 賀歌 寿歌

[訓異]かすみたつ[寛],

はるのはじめを,[寛]はるのはしめを,

けふのごと,[寛]けふのこと,

みむとおもへば,[寛]みむとおもはは,

たのしとぞもふ,[寛]たのしとそおもふ,


[歌番号]20/4301

[題詞]七日天皇太上天皇皇大后<在>於東常宮南大殿肆宴歌一首

[原文]伊奈美野乃 安可良我之波々 等伎波安礼騰 伎美乎安我毛布 登伎波佐祢奈之

[訓読]印南野の赤ら柏は時はあれど君を我が思ふ時はさねなし

[仮名]いなみのの あからがしはは ときはあれど きみをあがもふ ときはさねなし

[左注]右一首播磨國守安宿王奏 [古今未詳]

[校異]<> -> 在 [元]

[事項]天平勝宝6年1月7日 年紀 作者:安宿王 古歌 伝誦 宮廷 肆宴 宴席 孝謙天皇 聖武天皇 光明皇后 地名 兵庫 植物 忠誠

[訓異]いなみのの[寛],

あからがしはは,[寛]あからかしはは,

ときはあれど,[寛]ときはあれと,

きみをあがもふ,[寛]きみをあかもふ,

ときはさねなし[寛],


[歌番号]20/4302

[題詞]三月十九日家持之庄門槻樹下宴飲歌二首

[原文]夜麻夫伎波 奈埿都々於保佐牟 安里都々母 伎美伎麻之都々 可射之多里家利

[訓読]山吹は撫でつつ生ほさむありつつも君来ましつつかざしたりけり

[仮名]やまぶきは なでつつおほさむ ありつつも きみきましつつ かざしたりけり

[左注]右一首置始連長谷

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年3月19日 年紀 作者:置始長谷 宴席 植物 大伴家持 主人讃美

[訓異]やまぶきは,[寛]やまふきは,

なでつつおほさむ,[寛]なてつつおほさむ,

ありつつも[寛],

きみきましつつ[寛],

かざしたりけり,[寛]かさしたりけり,


[歌番号]20/4303

[題詞](三月十九日家持之庄門槻樹下宴飲歌二首)

[原文]和我勢故我 夜度乃也麻夫伎 佐吉弖安良婆 也麻受可欲波牟 伊夜登之能波尓

[訓読]我が背子が宿の山吹咲きてあらばやまず通はむいや年の端に

[仮名]わがせこが やどのやまぶき さきてあらば やまずかよはむ いやとしのはに

[左注]右一首長谷攀花提壷到来 因是大伴宿祢家持作此歌和之

[校異]壷 [西(右書)] 壷酒

[事項]天平勝宝6年3月19日 年紀 作者:大伴家持 植物 宴席 賀歌 和歌 置始長谷

[訓異]わがせこが,[寛]わかせこか,

やどのやまぶき,[寛]やとのやまふき,

さきてあらば,[寛]さきてあらは,

やまずかよはむ,[寛]やますかよはむ,

いやとしのはに[寛],


[歌番号]20/4304

[題詞]同月廿五日左大臣橘卿宴于山田御母之宅歌一首

[原文]夜麻夫伎乃 花能左香利尓 可久乃其等 伎美乎見麻久波 知登世尓母我母

[訓読]山吹の花の盛りにかくのごと君を見まくは千年にもがも

[仮名]やまぶきの はなのさかりに かくのごと きみをみまくは ちとせにもがも

[左注]右一首少納言大伴宿祢家持矚時花作 但未出之間大臣罷宴而不<擧>誦耳

[校異]攀 -> 擧 [温][矢][京]

[事項]天平勝宝6年3月25日 年紀 作者:大伴家持 宴席 橘諸兄 山田比売島 植物 賀歌 寿歌 主人讃美 属目 不誦

[訓異]やまぶきの,[寛]やまふきの,

はなのさかりに[寛],

かくのごと,[寛]かくのこと,

きみをみまくは[寛],

ちとせにもがも,[寛]ちとせにもかも,


[歌番号]20/4305

[題詞]詠霍公鳥歌一首

[原文]許乃久礼能 之氣伎乎乃倍乎 保等登藝須 奈伎弖故由奈理 伊麻之久良之母

[訓読]木の暗の茂き峰の上を霍公鳥鳴きて越ゆなり今し来らしも

[仮名]このくれの しげきをのへを ほととぎす なきてこゆなり いましくらしも

[左注]右一首四月大伴宿祢家持作

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年4月 年紀 作者:大伴家持 動物 叙景

[訓異]このくれの[寛],

しげきをのへを,[寛]しけきをのへを,

ほととぎす,[寛]ほとときす,

なきてこゆなり[寛],

いましくらしも[寛],


[歌番号]20/4306

[題詞]七夕歌八首

[原文]波都秋風 須受之伎由布弊 等香武等曽 比毛波牟須妣之 伊母尓安波牟多米

[訓読]初秋風涼しき夕解かむとぞ紐は結びし妹に逢はむため

[仮名]はつあきかぜ すずしきゆふへ とかむとぞ ひもはむすびし いもにあはむため

[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)

[校異]歌 [西] 謌

[事項]天平勝宝6年7月7日 年紀 作者:大伴家持 七夕 独詠

[訓異]はつあきかぜ,[寛]はつあきかせ,

すずしきゆふへ,[寛]すすしきゆうへ,

とかむとぞ,[寛]とかむとそ,

ひもはむすびし,[寛]ひもはむすひし,

いもにあはむため[寛],


[歌番号]20/4307

[題詞](七夕歌八首)

[原文]秋等伊閇婆 許己呂曽伊多伎 宇多弖家尓 花仁奈蘇倍弖 見麻久保里香聞

[訓読]秋と言へば心ぞ痛きうたて異に花になそへて見まく欲りかも

[仮名]あきといへば こころぞいたき うたてけに はなになそへて みまくほりかも

[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年7月7日 年紀 作者:大伴家持 七夕 独詠

[訓異]あきといへば,[寛]あきといへは,

こころぞいたき,[寛]こころそいたき,

うたてけに[寛],

はなになそへて[寛],

みまくほりかも[寛],


[歌番号]20/4308

[題詞](七夕歌八首)

[原文]波都乎婆奈 <々々>尓見牟登之 安麻乃可波 弊奈里尓家良之 年緒奈我久

[訓読]初尾花花に見むとし天の川へなりにけらし年の緒長く

[仮名]はつをばな はなにみむとし あまのがは へなりにけらし としのをながく

[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)

[校異]波名 -> 々々 [元]

[事項]天平勝宝6年7月7日 年紀 作者:大伴家持 七夕 独詠 植物

[訓異]はつをばな,[寛]はつをはな,

はなにみむとし[寛],

あまのがは,[寛]あまのかは,

へなりにけらし[寛],

としのをながく,[寛]としのをなかく,


[歌番号]20/4309

[題詞](七夕歌八首)

[原文]秋風尓 奈妣久可波備能 尓故具左能 尓古餘可尓之母 於毛保由流香母

[訓読]秋風に靡く川辺のにこ草のにこよかにしも思ほゆるかも

[仮名]あきかぜに なびくかはびの にこぐさの にこよかにしも おもほゆるかも

[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年7月7日 年紀 作者:大伴家持 七夕 独詠 植物

[訓異]あきかぜに,[寛]あきかせに,

なびくかはびの,[寛]なひくかはへの,

にこぐさの,[寛]にこくさの,

にこよかにしも[寛],

おもほゆるかも[寛],


[歌番号]20/4310

[題詞](七夕歌八首)

[原文]安吉佐礼婆 奇里多知和多流 安麻能河波 伊之奈弥於可<婆> 都藝弖見牟可母

[訓読]秋されば霧立ちわたる天の川石並置かば継ぎて見むかも

[仮名]あきされば きりたちわたる あまのがは いしなみおかば つぎてみむかも

[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)

[校異]波 -> 婆 [元][類][細]

[事項]天平勝宝6年7月7日 年紀 作者:大伴家持 七夕 独詠

[訓異]あきされば,[寛]あきされは,

きりたちわたる[寛],

あまのがは,[寛]あまのかは,

いしなみおかば,[寛]いしなみおかは,

つぎてみむかも,[寛]つきてみむかも,


[歌番号]20/4311

[題詞](七夕歌八首)

[原文]秋風尓 伊麻香伊麻可等 比母等伎弖 宇良麻知乎流尓 月可多夫伎奴

[訓読]秋風に今か今かと紐解きてうら待ち居るに月かたぶきぬ

[仮名]あきかぜに いまかいまかと ひもときて うらまちをるに つきかたぶきぬ

[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年7月7日 年紀 作者:大伴家持 七夕 独詠

[訓異]あきかぜに,[寛]あきかせに,

いまかいまかと[寛],

ひもときて[寛],

うらまちをるに[寛],

つきかたぶきぬ,[寛]つきかたふきぬ,


[歌番号]20/4312

[題詞](七夕歌八首)

[原文]秋草尓 於久之良都由能 安可受能未 安比見流毛乃乎 月乎之麻多牟

[訓読]秋草に置く白露の飽かずのみ相見るものを月をし待たむ

[仮名]あきくさに おくしらつゆの あかずのみ あひみるものを つきをしまたむ

[左注](右大伴宿祢家持獨仰天海作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年7月7日 年紀 作者:大伴家持 七夕 独詠

[訓異]あきくさに[寛],

おくしらつゆの[寛],

あかずのみ,[寛]あかすのみ,

あひみるものを[寛],

つきをしまたむ[寛],


[歌番号]20/4313

[題詞](七夕歌八首)

[原文]安乎奈美尓 蘇弖佐閇奴礼弖 許具布祢乃 可之布流保刀尓 左欲布氣奈武可

[訓読]青波に袖さへ濡れて漕ぐ舟のかし振るほとにさ夜更けなむか

[仮名]あをなみに そでさへぬれて こぐふねの かしふるほとに さよふけなむか

[左注]右大伴宿祢家持獨仰天漢作之

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年7月7日 年紀 作者:大伴家持 七夕 独詠

[訓異]あをなみに[寛],

そでさへぬれて,[寛]そてさへぬれて,

こぐふねの,[寛]こくふねの,

かしふるほとに[寛],

さよふけなむか[寛],


[歌番号]20/4314

[題詞]なし

[原文]八千種尓 久佐奇乎宇恵弖 等伎其等尓 佐加牟波奈乎之 見都追思<努>波奈

[訓読]八千種に草木を植ゑて時ごとに咲かむ花をし見つつ偲はな

[仮名]やちくさに くさきをうゑて ときごとに さかむはなをし みつつしのはな

[左注]右一首同月廿八日大伴宿祢家持作之

[校異]怒 -> 努 [元][類][細]

[事項]天平勝宝6年7月28日 年紀 作者:大伴家持 植物

[訓異]やちくさに[寛],

くさきをうゑて[寛],

ときごとに,[寛]ときことに,

さかむはなをし[寛],

みつつしのはな[寛],


[歌番号]20/4315

[題詞]なし

[原文]宮人乃 蘇泥都氣其呂母 安伎波疑尓 仁保比与呂之伎 多加麻刀能美夜

[訓読]宮人の袖付け衣秋萩ににほひよろしき高圓の宮

[仮名]みやひとの そでつけごろも あきはぎに にほひよろしき たかまとのみや

[左注](右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年 年紀 作者:大伴家持 植物 独詠 地名 高円 奈良 宮廷

[訓異]みやひとの[寛],

そでつけごろも,[寛]そてつきころも,

あきはぎに,[寛]あきはきに,

にほひよろしき[寛],

たかまとのみや[寛],


[歌番号]20/4316

[題詞]なし

[原文]多可麻刀能 宮乃須蘇未乃 努都可佐尓 伊麻左家流良武 乎美奈弊之波母

[訓読]高圓の宮の裾廻の野づかさに今咲けるらむをみなへしはも

[仮名]たかまとの みやのすそみの のづかさに いまさけるらむ をみなへしはも

[左注](右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年 年紀 作者:大伴家持 独詠 高円 植物 地名 宮廷 奈良

[訓異]たかまとの[寛],

みやのすそみの[寛],

のづかさに,[寛]のつかさに,

いまさけるらむ[寛],

をみなへしはも[寛],


[歌番号]20/4317

[題詞]なし

[原文]秋野尓波 伊麻己曽由可米 母能乃布能 乎等古乎美奈能 波奈尓保比見尓

[訓読]秋野には今こそ行かめもののふの男女の花にほひ見に

[仮名]あきのには いまこそゆかめ もののふの をとこをみなの はなにほひみに

[左注](右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年 年紀 作者:大伴家持 高円 宮廷 奈良 独詠

[訓異]あきのには[寛],

いまこそゆかめ[寛],

もののふの[寛],

をとこをみなの[寛],

はなにほひみに[寛],


[歌番号]20/4318

[題詞]なし

[原文]安伎能野尓 都由於弊流波疑乎 多乎良受弖 安多良佐可里乎 須<具>之弖牟登香

[訓読]秋の野に露負へる萩を手折らずてあたら盛りを過ぐしてむとか

[仮名]あきののに つゆおへるはぎを たをらずて あたらさかりを すぐしてむとか

[左注](右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之)

[校異]其 -> 具 [元][類][紀][細]

[事項]天平勝宝6年 年紀 作者:大伴家持 植物 高円 宮廷 奈良 独詠

[訓異]あきののに[寛],

つゆおへるはぎを,[寛]つゆをへるはきを,

たをらずて,[寛]たをらすて,

あたらさかりを[寛],

すぐしてむとか,[寛]すくしてむとか,


[歌番号]20/4319

[題詞]なし

[原文]多可麻刀能 秋野乃宇倍能 安佐疑里尓 都麻欲夫乎之可 伊泥多都良牟可

[訓読]高圓の秋野の上の朝霧に妻呼ぶ壮鹿出で立つらむか

[仮名]たかまとの あきののうへの あさぎりに つまよぶをしか いでたつらむか

[左注](右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之)

[校異]牟 [元][類] 武

[事項]天平勝宝6年 年紀 作者:大伴家持 動物 地名 高円 奈良 宮廷 独詠

[訓異]たかまとの[寛],

あきののうへの[寛],

あさぎりに,[寛]あさきりに,

つまよぶをしか,[寛]つまよふをしか,

いでたつらむか,[寛]いてたつらむか,


[歌番号]20/4320

[題詞]なし

[原文]麻須良男乃 欲妣多天思加婆 左乎之加能 牟奈和氣由加牟 安伎野波疑波良

[訓読]大夫の呼び立てしかばさを鹿の胸別け行かむ秋野萩原

[仮名]ますらをの よびたてしかば さをしかの むなわけゆかむ あきのはぎはら

[左注]右歌六首兵部少輔大伴宿祢家持獨憶秋野聊述拙懐作之

[校異]なし

[事項]天平勝宝6年 年紀 作者:大伴家持 独詠 高円 奈良 宮廷 動物 植物

[訓異]ますらをの[寛],

よびたてしかば,[寛]よひたてしかは,

さをしかの[寛],

むなわけゆかむ[寛],

あきのはぎはら,[寛]あきのはきはら,


[歌番号]20/4321

[題詞]天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌

[原文]可之古伎夜 美許等加我布理 阿須由利也 加曳<我>牟多祢<牟> 伊牟奈之尓志弖

[訓読]畏きや命被り明日ゆりや草がむた寝む妹なしにして

[仮名]かしこきや みことかがふり あすゆりや かえがむたねむ いむなしにして

[左注]右一首國造丁長下郡物部秋持 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)

[校異]我伊 -> 我 [元][古] / 乎 -> 牟 [元][類][古]

[事項]天平勝宝7年2月6日 年紀 作者:物部秋持 防人歌 恋情 静岡 坂本人上

[訓異]かしこきや[寛],

みことかがふり,[寛]みことかかふり,

あすゆりや[寛],

かえがむたねむ,[寛]かえかいむたねを,

いむなしにして[寛],


[歌番号]20/4322

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和我都麻波 伊多久古<非>良之 乃牟美豆尓 加其佐倍美曳弖 余尓和須良礼受

[訓読]我が妻はいたく恋ひらし飲む水に影さへ見えてよに忘られず

[仮名]わがつまは いたくこひらし のむみづに かごさへみえて よにわすられず

[左注]右一首主帳丁麁玉郡若倭部身麻呂 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)

[校異]比 -> 非 [元]

[事項]天平勝宝7年2月6日 年紀 作者:若倭部身麻呂 防人歌 静岡 坂本人上 恋情

[訓異]わがつまは,[寛]わかつまは,

いたくこひらし[寛],

のむみづに,[寛]のむみつに,

かごさへみえて,[寛]かこさへみえて,

よにわすられず,[寛]よにわすられす,


[歌番号]20/4323

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]等伎騰吉乃 波奈波佐家登母 奈尓須礼曽 波々登布波奈乃 佐吉泥己受祁牟

[訓読]時々の花は咲けども何すれぞ母とふ花の咲き出来ずけむ

[仮名]ときどきの はなはさけども なにすれぞ ははとふはなの さきでこずけむ

[左注]右一首防人山名郡丈部真麻呂 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月6日 年紀 作者:丈部真麻呂 防人歌 恋情 静岡 坂本人上

[訓異]ときどきの,[寛]ときときの,

はなはさけども,[寛]はなはさけとも,

なにすれぞ,[寛]なにすれそ,

ははとふはなの[寛],

さきでこずけむ,[寛]さきてこすけむ,


[歌番号]20/4324

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]等倍多保美 志留波乃伊宗等 尓閇乃宇良等 安比弖之阿良<婆> 己等母加由波牟

[訓読]遠江志留波の礒と尓閇の浦と合ひてしあらば言も通はむ

[仮名]とへたほみ しるはのいそと にへのうらと あひてしあらば こともかゆはむ

[左注]右一首同郡丈部川相 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)

[校異]波 -> 婆 [元][細][温]

[事項]天平勝宝7年2月6日 年紀 作者:丈部川相 防人歌 恋情 静岡 坂本人上 地名

[訓異]とへたほみ[寛],

しるはのいそと[寛],

にへのうらと[寛],

あひてしあらば,[寛]あひてしあらは,

こともかゆはむ[寛],


[歌番号]20/4325

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]知々波々母 波奈尓母我毛夜 久佐麻久良 多妣波由久等母 佐々己弖由加牟

[訓読]父母も花にもがもや草枕旅は行くとも捧ごて行かむ

[仮名]ちちははも はなにもがもや くさまくら たびはゆくとも ささごてゆかむ

[左注]右一首佐野郡丈部黒當 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月6日 年紀 作者:丈部黒當 防人歌 静岡 坂本人上 恋情 望郷 枕詞

[訓異]ちちははも[寛],

はなにもがもや,[寛]はなにもかもや,

くさまくら[寛],

たびはゆくとも,[寛]たひはゆくとも,

ささごてゆかむ,[寛]ささこてゆかむ,


[歌番号]20/4326

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]父母我 等能々志利弊乃 母々余具佐 母々与伊弖麻勢 和我伎多流麻弖

[訓読]父母が殿の後方のももよ草百代いでませ我が来るまで

[仮名]ちちははが とののしりへの ももよぐさ ももよいでませ わがきたるまで

[左注]右一首同郡生玉部足國 ( / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月6日 年紀 作者:生玉部足國 防人歌 静岡 坂本人上 恋情 植物 序詞 望郷

[訓異]ちちははが,[寛]ちちははか,

とののしりへの[寛],

ももよぐさ,[寛]ももよくさ,

ももよいでませ,[寛]ももよいてませ,

わがきたるまで,[寛]わかきたるまて,


[歌番号]20/4327

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和我都麻母 畫尓可伎等良無 伊豆麻母加 多<妣>由久阿礼<波> 美都々志努波牟

[訓読]我が妻も絵に描き取らむ暇もが旅行く我れは見つつ偲はむ

[仮名]わがつまも ゑにかきとらむ いつまもが たびゆくあれは みつつしのはむ

[左注]右一首長下郡物部古麻呂 / 二月六日防人部領使遠江國史生坂本朝臣人上進歌數十八首 但有拙劣歌十一首不取載之

[校異]比 -> 妣 [元] / 婆 -> 波 [類][紀][細]

[事項]天平勝宝7年2月6日 年紀 作者:物部古麻呂 防人歌 静岡 坂本人上 望郷 恋情

[訓異]わがつまも,[寛]わかつまも,

ゑにかきとらむ[寛],

いつまもが,[寛]いつまもか,

たびゆくあれは,[寛]たひゆくあれは,

みつつしのはむ[寛],


[歌番号]20/4328

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]於保吉美能 美許等可之古美 伊蘇尓布理 宇乃波良和多流 知々波々乎於伎弖

[訓読]大君の命畏み磯に触り海原渡る父母を置きて

[仮名]おほきみの みことかしこみ いそにふり うのはらわたる ちちははをおきて

[左注]右一首助丁丈部造人麻呂 ( / 二月七日相模國防人部領使守従五位下藤原朝臣宿奈麻呂進歌數八首 但拙劣歌五首者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月7日 年紀 作者:丈部人麻呂 防人歌 望郷 恋情 神奈川 藤原宿奈麻呂

[訓異]おほきみの[寛],

みことかしこみ[寛],

いそにふり[寛],

うのはらわたる[寛],

ちちははをおきて[寛],


[歌番号]20/4329

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]夜蘇久尓波 那尓波尓都度比 布奈可射里 安我世武比呂乎 美毛比等母我<毛>

[訓読]八十国は難波に集ひ船かざり我がせむ日ろを見も人もがも

[仮名]やそくには なにはにつどひ ふなかざり あがせむひろを みもひともがも

[左注]右一首足下郡上丁丹比部國人 ( / 二月七日相模國防人部領使守従五位下藤原朝臣宿奈麻呂進歌數八首 但拙劣歌五首者不取載之)

[校異]母 -> 毛 [元][類]

[事項]天平勝宝7年2月7日 年紀 作者:丹比部國人 防人歌 神奈川 藤原宿奈麻呂 地名 難波 大阪 恋情 出発 悲嘆

[訓異]やそくには[寛],

なにはにつどひ,[寛]なにはにつとひ,

ふなかざり,[寛]ふなかさり,

あがせむひろを,[寛]あかせむひろを,

みもひともがも,[寛]みもひともかも,


[歌番号]20/4330

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]奈尓波都尓 余曽比余曽比弖 氣布能<比>夜 伊田弖麻可良武 美流波々奈之尓

[訓読]難波津に装ひ装ひて今日の日や出でて罷らむ見る母なしに

[仮名]なにはつに よそひよそひて けふのひや いでてまからむ みるははなしに

[左注]右一首鎌倉<郡>上丁丸子連多麻呂 / 二月七日相模國防人部領使守従五位下藤原朝臣宿奈麻呂進歌數八首 但拙劣歌五首者不取載之

[校異]日 -> 比 [元][紀] / 部 -> 郡 [西(朱書訂正)][元][紀][細]

[事項]天平勝宝7年2月7日 年紀 作者:丸子多麻呂 防人歌 神奈川 藤原宿奈麻呂 恋情 悲嘆 出発

[訓異]なにはつに[寛],

よそひよそひて[寛],

けふのひや[寛],

いでてまからむ,[寛]いたてまからむに,

みるははなしに[寛],


[歌番号]20/4331

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)追痛防人悲別之心作歌一首[并短歌]

[原文]天皇乃 等保能朝<廷>等 之良奴日 筑紫國波 安多麻毛流 於佐倍乃城曽等 聞食 四方國尓波 比等佐波尓 美知弖波安礼杼 登利我奈久 安豆麻乎能故波 伊田牟可比 加敝里見世受弖 伊佐美多流 多家吉軍卒等 祢疑多麻比 麻氣乃麻尓々々 多良知祢乃 波々我目可礼弖 若草能 都麻乎母麻可受 安良多麻能 月日餘美都々 安之我知流 難波能美津尓 大船尓 末加伊之自奴伎 安佐奈藝尓 可故等登能倍 由布思保尓 可知比伎乎里 安騰母比弖 許藝由久伎美波 奈美乃間乎 伊由伎佐具久美 麻佐吉久母 波夜久伊多里弖 大王乃 美許等能麻尓末 麻須良男乃 許己呂乎母知弖 安里米具<理> 事之乎波良<婆> 都々麻波受 可敝理伎麻勢登 伊波比倍乎 等許敝尓須恵弖 之路多倍能 蘇田遠利加敝之 奴婆多麻乃 久路加美之伎弖 奈我伎氣遠 麻知可母戀牟 波之伎都麻良波

[訓読]大君の 遠の朝廷と しらぬひ 筑紫の国は 敵守る おさへの城ぞと 聞こし食す 四方の国には 人さはに 満ちてはあれど 鶏が鳴く 東男は 出で向ひ かへり見せずて 勇みたる 猛き軍士と ねぎたまひ 任けのまにまに たらちねの 母が目離れて 若草の 妻をも巻かず あらたまの 月日数みつつ 葦が散る 難波の御津に 大船に ま櫂しじ貫き 朝なぎに 水手ととのへ 夕潮に 楫引き折り 率ひて 漕ぎ行く君は 波の間を い行きさぐくみ ま幸くも 早く至りて 大君の 命のまにま 大夫の 心を持ちて あり廻り 事し終らば つつまはず 帰り来ませと 斎瓮を 床辺に据ゑて 白栲の 袖折り返し ぬばたまの 黒髪敷きて 長き日を 待ちかも恋ひむ 愛しき妻らは

[仮名]おほきみの とほのみかどと しらぬひ つくしのくには あたまもる おさへのきぞと きこしをす よものくにには ひとさはに みちてはあれど とりがなく あづまをのこは いでむかひ かへりみせずて いさみたる たけきいくさと ねぎたまひ まけのまにまに たらちねの ははがめかれて わかくさの つまをもまかず あらたまの つきひよみつつ あしがちる なにはのみつに おほぶねに まかいしじぬき あさなぎに かこととのへ ゆふしほに かぢひきをり あどもひて こぎゆくきみは なみのまを いゆきさぐくみ まさきくも はやくいたりて おほきみの みことのまにま ますらをの こころをもちて ありめぐり ことしをはらば つつまはず かへりきませと いはひへを とこへにすゑて しろたへの そでをりかへし ぬばたまの くろかみしきて ながきけを まちかもこひむ はしきつまらは

[左注](右二月八日兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]短歌 [西] 短謌 / 庭 -> 廷 [元][細] / 里 -> 理 [元][類] / 波 -> 婆 [元][紀][温][矢]

[事項]天平勝宝7年2月8日 年紀 作者:大伴家持 同情 防人歌 枕詞 地名 福岡

[訓異]おほきみの,[寛]すめろきの,

とほのみかどと,[寛]とほのみかとと,

しらぬひ[寛],

つくしのくには[寛],

あたまもる[寛],

おさへのきぞと,[寛]おさへのきそと,

きこしをす,[寛]きこしめす,

よものくにには[寛],

ひとさはに[寛],

みちてはあれど,[寛]みちてはあれと,

とりがなく,[寛]とりかなく,

あづまをのこは,[寛]あつまをのこは,

いでむかひ,[寛]いてむかひ,

かへりみせずて,[寛]かへりみせすて,

いさみたる[寛],

たけきいくさと[寛],

ねぎたまひ,[寛]ねきたまひ,

まけのまにまに[寛],

たらちねの[寛],

ははがめかれて,[寛]ははかめかれて,

わかくさの[寛],

つまをもまかず,[寛]つまをもまかす,

あらたまの[寛],

つきひよみつつ[寛],

あしがちる,[寛]あしかちる,

なにはのみつに[寛],

おほぶねに,[寛]おほふねに,

まかいしじぬき,[寛]まかいししぬき,

あさなぎに,[寛]あさなきに,

かこととのへ[寛],

ゆふしほに[寛],

かぢひきをり,[寛]かちひきをり,

あどもひて,[寛]あともひて,

こぎゆくきみは,[寛]こきゆくきみは,

なみのまを[寛],

いゆきさぐくみ,[寛]いゆきさくくみ,

まさきくも[寛],

はやくいたりて[寛],

おほきみの[寛],

みことのまにま[寛],

ますらをの[寛],

こころをもちて[寛],

ありめぐり,[寛]ありめくり,

ことしをはらば,[寛]ことしをはらは,

つつまはず,[寛]つつまはす,

かへりきませと[寛],

いはひへを[寛],

とこへにすゑて[寛],

しろたへの[寛],

そでをりかへし,[寛]そてをりかへし,

ぬばたまの,[寛]ぬはたまの,

くろかみしきて[寛],

ながきけを,[寛]なかきけを,

まちかもこひむ[寛],

はしきつまらは[寛],


[歌番号]20/4332

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(追痛防人悲別之心作歌一首[并短歌])

[原文]麻須良男能 由伎等里於比弖 伊田弖伊氣<婆> 和可礼乎乎之美 奈氣伎家牟都麻

[訓読]大夫の靫取り負ひて出でて行けば別れを惜しみ嘆きけむ妻

[仮名]ますらをの ゆきとりおひて いでていけば わかれををしみ なげきけむつま

[左注](右二月八日兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]波 -> 婆 [元][類]

[事項]天平勝宝7年2月8日 年紀 作者:大伴家持 悲別 同情 防人歌

[訓異]ますらをの[寛],

ゆきとりおひて[寛],

いでていけば,[寛]いてていけは,

わかれををしみ[寛],

なげきけむつま,[寛]なけきけむつま,


[歌番号]20/4333

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(追痛防人悲別之心作歌一首[并短歌])

[原文]等里我奈久 安豆麻乎等故能 都麻和可礼 可奈之久安里家牟 等之能乎奈我美

[訓読]鶏が鳴く東壮士の妻別れ悲しくありけむ年の緒長み

[仮名]とりがなく あづまをとこの つまわかれ かなしくありけむ としのをながみ

[左注]右二月八日兵部少輔大伴宿祢家持

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月8日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 悲別 同情 防人歌

[訓異]とりがなく,[寛]とりかなく,

あづまをとこの,[寛]あつまをとこの,

つまわかれ[寛],

かなしくありけむ[寛],

としのをながみ,[寛]としのをなかみ,


[歌番号]20/4334

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]海原乎 等保久和多里弖 等之布等母 兒良我牟須敝流 比毛等久奈由米

[訓読]海原を遠く渡りて年経とも子らが結べる紐解くなゆめ

[仮名]うなはらを とほくわたりて としふとも こらがむすべる ひもとくなゆめ

[左注](右九日大伴宿祢家持作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:大伴家持 悲別 同情 防人歌

[訓異]うなはらを[寛],

とほくわたりて[寛],

としふとも[寛],

こらがむすべる,[寛]こらかむすへる,

ひもとくなゆめ[寛],


[歌番号]20/4335

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]今替 尓比佐伎母利我 布奈弖須流 宇奈波良乃宇倍尓 <奈>美那佐伎曽祢

[訓読]今替る新防人が船出する海原の上に波なさきそね

[仮名]いまかはる にひさきもりが ふなでする うなはらのうへに なみなさきそね

[左注](右九日大伴宿祢家持作之)

[校異]那 -> 奈 [元][類][細]

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:大伴家持 出発 同情 防人歌 餞別

[訓異]いまかはる[寛],

にひさきもりが,[寛]にひさきもりか,

ふなでする,[寛]ふなてする,

うなはらのうへに[寛],

なみなさきそね[寛],


[歌番号]20/4336

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]佐吉母利能 保理江己藝豆流 伊豆手夫祢 可治<登>流間奈久 戀波思氣家牟

[訓読]防人の堀江漕ぎ出る伊豆手船楫取る間なく恋は繁けむ

[仮名]さきもりの ほりえこぎづる いづてぶね かぢとるまなく こひはしげけむ

[左注]右九日大伴宿祢家持作之

[校異]等 -> 登 [元][類]

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:大伴家持 防人歌 恋情 同情 地名 難波 大阪 [訓異]

[訓異]さきもりの[寛],

ほりえこぎづる,[寛]ほりえこきつる,

いづてぶね,[寛]いつてふね,

かぢとるまなく,[寛]かちとるまなく,

こひはしげけむ,[寛]こひはしけけむ,


[歌番号]20/4337

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]美豆等<利>乃 多知能已蘇岐尓 父母尓 毛能波須價尓弖 已麻叙久夜志伎

[訓読]水鳥の立ちの急ぎに父母に物言はず来にて今ぞ悔しき

[仮名]みづとりの たちのいそぎに ちちははに ものはずけにて いまぞくやしき

[左注]右一首上丁有度部牛麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]里 -> 利 [元][類][細]

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:有度部牛麻呂 防人歌 植物 恋情 悲嘆 静岡 布勢人主

[訓異]みづとりの,[寛]みつとりの,

たちのいそぎに,[寛]たちのいそきに,

ちちははに[寛],

ものはずけにて,[寛]ものはすきにて,

いまぞくやしき,[寛]いまそくらしき,


[歌番号]20/4338

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]多々美氣米 牟良自加已蘇乃 波奈利蘇乃 波々乎波奈例弖 由久我加奈之佐

[訓読]畳薦牟良自が礒の離磯の母を離れて行くが悲しさ

[仮名]たたみけめ むらじがいその はなりその ははをはなれて ゆくがかなしさ

[左注]右一首助丁生部道麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:生部道麻呂 防人歌 望郷 悲別 恋情 地名 静岡 布勢人主

[訓異]たたみけめ[寛],

むらじがいその,[寛]むらしかいその,

はなりその[寛],

ははをはなれて[寛],

ゆくがかなしさ,[寛]ゆくかかなしさ,


[歌番号]20/4339

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]久尓米具留 阿等利加麻氣利 由伎米具利 加比利久麻弖尓 已波比弖麻多祢

[訓読]国廻るあとりかまけり行き廻り帰り来までに斎ひて待たね

[仮名]くにめぐる あとりかまけり ゆきめぐり かひりくまでに いはひてまたね

[左注]右一首刑部虫麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]具 [元][類] 久

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:刑部虫麻呂 防人歌 静岡 布勢人主 動物 出発 羈旅 悲別

[訓異]くにめぐる,[寛]くにめくる,

あとりかまけり[寛],

ゆきめぐり,[寛]ゆきめくり,

かひりくまでに,[寛]かひりくまてに,

いはひてまたね[寛],


[歌番号]20/4340

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]<等知>波々江 已波比弖麻多祢 豆久志奈流 美豆久白玉 等里弖久麻弖尓

[訓読]父母え斎ひて待たね筑紫なる水漬く白玉取りて来までに

[仮名]とちははえ いはひてまたね つくしなる みづくしらたま とりてくまでに

[左注]右一首川原虫麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]知々 -> 等知 [元][類][古] / 江 [古] 波 / 豆 [類] 都

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:川原虫麻呂 防人歌 出発 悲別 羈旅 静岡 布勢人主

[訓異]とちははえ,[寛]ちちははか,

いはひてまたね[寛],

つくしなる[寛],

みづくしらたま,[寛]みつくしらたま,

とりてくまでに,[寛]とりてくまてに,


[歌番号]20/4341

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]多知波奈能 美袁利乃佐刀尓 父乎於伎弖 道乃長道波 由伎加弖<努>加毛

[訓読]橘の美袁利の里に父を置きて道の長道は行きかてのかも

[仮名]たちばなの みをりのさとに ちちをおきて みちのながちは ゆきかてのかも

[左注]右一首丈部足麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]奴 -> 努 [元][類][紀]

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:丈部足麻呂 防人歌 静岡 布勢人主 植物 地名 望郷 出発 恋情 羈旅 悲別

[訓異]たちばなの,[寛]たちはなの,

みをりのさとに,[寛]みゑりのさとに,

ちちをおきて[寛],

みちのながちは,[寛]みちのなかちは,

ゆきかてのかも,[寛]ゆきかてぬかも,


[歌番号]20/4342

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]麻氣波之良 寶米弖豆久礼留 等乃能其等 已麻勢波々刀自 於米加波利勢受

[訓読]真木柱ほめて造れる殿のごといませ母刀自面変はりせず

[仮名]まけばしら ほめてつくれる とののごと いませははとじ おめがはりせず

[左注]右一首坂田部首麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]波 [元] 婆

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:坂田部首麻呂 防人歌 静岡 布勢人主 出発 羈旅 悲別

[訓異]まけばしら,[寛]まきはしら,

ほめてつくれる[寛],

とののごと,[寛]とののこと,

いませははとじ,[寛]いませははとし,

おめがはりせず,[寛]おめかはりせす,


[歌番号]20/4343

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和呂多比波 多比等於米保等 已比尓志弖 古米知夜須良牟 和加美可奈志母

[訓読]我ろ旅は旅と思ほど家にして子持ち痩すらむ我が妻愛しも

[仮名]わろたびは たびとおめほど いひにして こめちやすらむ わがみかなしも

[左注]右一首玉作部廣目 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:玉作部廣目 防人歌 恋情 悲別 静岡 布勢人主

[訓異]わろたびは,[寛]わろたひは,

たびとおめほど,[寛]たひとおめほと,

いひにして,[寛]こひにして,

こめちやすらむ[寛],

わがみかなしも,[寛]わかみかなしも,


[歌番号]20/4344

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和須良牟弖 努由伎夜麻由伎 和例久礼等 和我知々波々波 和須例勢努加毛

[訓読]忘らむて野行き山行き我れ来れど我が父母は忘れせのかも

[仮名]わすらむて のゆきやまゆき われくれど わがちちははは わすれせのかも

[左注]右一首商長首麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:商長首麻呂 防人歌 静岡 布勢人主 悲別 恋情

[訓異]わすらむて,[寛]わすらむと,

のゆきやまゆき[寛],

われくれど,[寛]われくれと,

わがちちははは,[寛]わかちちははは,

わすれせのかも,[寛]わすれせぬかも,


[歌番号]20/4345

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和伎米故等 不多利和我見之 宇知江須流 々々河乃祢良波 苦不志久米阿流可

[訓読]我妹子と二人我が見しうち寄する駿河の嶺らは恋しくめあるか

[仮名]わぎめこと ふたりわがみし うちえする するがのねらは くふしくめあるか

[左注]右一首春日部麻呂 ( / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:春日部麻呂 防人歌 地名 恋情 望郷 静岡 布勢人主

[訓異]わぎめこと,[寛]わきめこと,

ふたりわがみし,[寛]ふたりわかみし,

うちえする[寛],

するがのねらは,[寛]するかのねらは,

くふしくめあるか[寛],


[歌番号]20/4346

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]知々波々我 可之良加伎奈弖 佐久安<例弖> 伊比之氣等<婆>是 和須礼加祢<豆>流

[訓読]父母が頭掻き撫で幸くあれて言ひし言葉ぜ忘れかねつる

[仮名]ちちははが かしらかきなで さくあれて いひしけとはぜ わすれかねつる

[左注]右一首丈部稲麻呂 / 二月七日駿河國防人部領使守従五位下布勢朝臣人主實進九日歌數廿首 但拙劣歌者不取載之

[校異]礼天 -> 例弖 [元] / 波 -> 婆 [元][紀][細] / 津 -> 豆 [元]

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:丈部稲麻呂 防人歌 望郷 恋情 静岡 布勢人主

[訓異]ちちははが,[寛]ちちははか,

かしらかきなで,[寛]かしらかきなて,

さくあれて[寛],

いひしけとはぜ,[寛]いひしことはそ,

わすれかねつる[寛],


[歌番号]20/4347

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]伊閇尓之弖 古非都々安良受波 奈我波氣流 多知尓奈里弖母 伊波非弖之加母

[訓読]家にして恋ひつつあらずは汝が佩ける大刀になりても斎ひてしかも

[仮名]いへにして こひつつあらずは ながはける たちになりても いはひてしかも

[左注]右一首國造丁日下部使主三中之父歌 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:日下部三中父 防人歌 千葉 茨田沙弥麻呂 出発 恋情 悲別

[訓異]いへにして[寛],

こひつつあらずは,[寛]こひつつあらすは,

ながはける,[寛]なかはける,

たちになりても[寛],

いはひてしかも[寛],


[歌番号]20/4348

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]多良知祢乃 波々乎和加例弖 麻許等和例 多非乃加里保尓 夜須久祢牟加母

[訓読]たらちねの母を別れてまこと我れ旅の仮廬に安く寝むかも

[仮名]たらちねの ははをわかれて まことわれ たびのかりほに やすくねむかも

[左注]右一首國造丁日下部使主三中 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:日下部三中 防人歌 枕詞 悲別 恋情 千葉 茨田沙弥麻呂 羈旅

[訓異]たらちねの[寛],

ははをわかれて,[寛]ははこわかれて,

まことわれ[寛],

たびのかりほに,[寛]たひのかりほに,

やすくねむかも[寛],


[歌番号]20/4349

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]毛母久麻能 美知波紀尓志乎 麻多佐良尓 夜蘇志麻須藝弖 和加例加由可牟

[訓読]百隈の道は来にしをまたさらに八十島過ぎて別れか行かむ

[仮名]ももくまの みちはきにしを またさらに やそしますぎて わかれかゆかむ

[左注]右一首助丁刑部直三野 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:刑部三野 防人歌 羈旅 悲別 悲嘆 千葉 茨田沙弥麻呂

[訓異]ももくまの[寛],

みちはきにしを[寛],

またさらに[寛],

やそしますぎて,[寛]やそしますきて,

わかれかゆかむ[寛],


[歌番号]20/4350

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]尓波奈加能 阿須波乃可美尓 古志波佐之 阿例波伊波々牟 加倍理久麻泥尓

[訓読]庭中の阿須波の神に小柴さし我れは斎はむ帰り来までに

[仮名]にはなかの あすはのかみに こしばさし あれはいははむ かへりくまでに

[左注]右一首帳丁若麻續部諸人 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:若麻續部諸人 防人歌 千葉 茨田沙弥麻呂 羈旅 手向醎 神祭り

[訓異]にはなかの[寛],

あすはのかみに[寛],

こしばさし,[寛]こしはさし,

あれはいははむ[寛],

かへりくまでに,[寛]かへりくまてに,


[歌番号]20/4351

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]多<妣>己呂母 夜倍伎可佐祢弖 伊努礼等母 奈保波太佐牟志 伊母尓<志>阿良祢婆

[訓読]旅衣八重着重ねて寐のれどもなほ肌寒し妹にしあらねば

[仮名]たびころも やへきかさねて いのれども なほはださむし いもにしあらねば

[左注]右一首望陀郡上<丁>玉作部國忍 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]比 -> 妣 [元][類] / 倍 (塙) 都 [元] 部 / <> -> 志 [元][類] / 下 -> 丁 [元][紀][細]

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:玉作部國忍 防人歌 千葉 茨田沙弥麻呂 恋情 望郷

[訓異]たびころも,[寛]たひころも,

やへきかさねて,[寛]やつへかさねて,

いのれども,[寛]いぬれとも,

なほはださむし,[寛]なほはたさむし,

いもにしあらねば,[寛]いもにしあらねは,


[歌番号]20/4352

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]美知乃倍乃 宇万良能宇礼尓 波保麻米乃 可良麻流伎美乎 波可礼加由加牟

[訓読]道の辺の茨のうれに延ほ豆のからまる君をはかれか行かむ

[仮名]みちのへの うまらのうれに はほまめの からまるきみを はかれかゆかむ

[左注]右一首天羽郡上丁丈部鳥 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:丈部鳥 防人歌 千葉 茨田沙弥麻呂 恋情 悲嘆 悲別

[訓異]みちのへの[寛],

うまらのうれに[寛],

はほまめの[寛],

からまるきみを[寛],

はかれかゆかむ[寛],


[歌番号]20/4353

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]伊倍加是波 比尓々々布氣等 和伎母古賀 伊倍其登母遅弖 久流比等母奈之

[訓読]家風は日に日に吹けど我妹子が家言持ちて来る人もなし

[仮名]いへかぜは ひにひにふけど わぎもこが いへごともちて くるひともなし

[左注]右一首朝夷郡上丁丸子連大歳 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:丸子大歳 防人歌 千葉 茨田沙弥麻呂 望郷 恋情

[訓異]いへかぜは,[寛]いへかせは,

ひにひにふけど,[寛]ひにひにふけと,

わぎもこが,[寛]わきもこか,

いへごともちて,[寛]いへこともちて,

くるひともなし[寛],


[歌番号]20/4354

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]多知許毛乃 多知乃佐和伎尓 阿比美弖之 伊母加己々呂波 和須礼世奴可母

[訓読]たちこもの立ちの騒きに相見てし妹が心は忘れせぬかも

[仮名]たちこもの たちのさわきに あひみてし いもがこころは わすれせぬかも

[左注]右一首長狭郡上丁丈部与呂麻呂 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:丈部与呂麻呂 防人歌 千葉 茨田沙弥麻呂 恋情 望郷 枕詞 動物

[訓異]たちこもの[寛],

たちのさわきに[寛],

あひみてし[寛],

いもがこころは,[寛]いもかこころは,

わすれせぬかも[寛],


[歌番号]20/4355

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]余曽尓能美 々弖夜和多良毛 奈尓波我多 久毛為尓美由流 志麻奈良奈久尓

[訓読]よそにのみ見てや渡らも難波潟雲居に見ゆる島ならなくに

[仮名]よそにのみ みてやわたらも なにはがた くもゐにみゆる しまならなくに

[左注]右一首武射郡上丁丈部山代 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:丈部山代 防人歌 地名 難波 大阪 恋情 千葉 茨田沙弥麻呂

[訓異]よそにのみ[寛],

みてやわたらも,[寛]みてやわたくも,

なにはがた,[寛]なにはかた,

くもゐにみゆる[寛],

しまならなくに[寛],


[歌番号]20/4356

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和我波々能 蘇弖母知奈弖氐 和我可良尓 奈伎之許己呂乎 和須良延努可毛

[訓読]我が母の袖もち撫でて我がからに泣きし心を忘らえのかも

[仮名]わがははの そでもちなでて わがからに なきしこころを わすらえのかも

[左注]右一首山邊郡上丁物部<乎>刀良 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]努 [元][温] 奴 / 手 -> 乎 [元][細]

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:物部乎刀良 防人歌 千葉 茨田沙弥麻呂 悲別 恋情

[訓異]わがははの,[寛]わかははの,

そでもちなでて,[寛]そてもちなてて,

わがからに,[寛]わかからに,

なきしこころを[寛],

わすらえのかも,[寛]わすらえぬかも,


[歌番号]20/4357

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿之可伎能 久麻刀尓多知弖 和藝毛古我 蘇弖<母>志保々尓 奈伎志曽母波由

[訓読]葦垣の隈処に立ちて我妹子が袖もしほほに泣きしぞ思はゆ

[仮名]あしかきの くまとにたちて わぎもこが そでもしほほに なきしぞもはゆ

[左注]右一首市原郡上丁刑部直千國 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]毛 -> 母 [元][類]

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:刑部千國 防人歌 千葉 茨田沙弥麻呂 悲別 恋情 出発 羈旅

[訓異]あしかきの[寛],

くまとにたちて,[寛]くまのにたちて,

わぎもこが,[寛]わきもこか,

そでもしほほに,[寛]そてもしほほに,

なきしぞもはゆ,[寛]なきしそもはゆ,


[歌番号]20/4358

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]於保伎美乃 美許等加志古美 伊弖久礼婆 和努等里都伎弖 伊比之古奈波毛

[訓読]大君の命畏み出で来れば我の取り付きて言ひし子なはも

[仮名]おほきみの みことかしこみ いでくれば わのとりつきて いひしこなはも

[左注]右一首種淮郡上丁物部龍 ( / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:物部龍 防人歌 恋情 悲別 出発 羈旅 千葉 茨田沙弥麻呂

[訓異]おほきみの[寛],

みことかしこみ[寛],

いでくれば,[寛]いてくれは,

わのとりつきて,[寛]わぬとりそきて,

いひしこなはも[寛],


[歌番号]20/4359

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]都久之閇尓 敝牟加流布祢乃 伊都之加毛 都加敝麻都里弖 久尓々閇牟可毛

[訓読]筑紫辺に舳向かる船のいつしかも仕へまつりて国に舳向かも

[仮名]つくしへに へむかるふねの いつしかも つかへまつりて くににへむかも

[左注]右一首長柄部上丁若麻續部<羊> / 二月九日上総國防人部領使少目従七位下茨田連沙弥麻呂進歌數十九首 但拙劣歌者不取載之

[校異]年 -> 羊 [西(朱書訂正)][元][紀][細] / 歌 [西] 謌

[事項]天平勝宝7年2月9日 年紀 作者:若麻續部羊 防人歌 悲嘆 千葉 茨田沙弥麻呂 [訓異]

[訓異]つくしへに[寛],

へむかるふねの[寛],

いつしかも[寛],

つかへまつりて[寛],

くににへむかも[寛],


[歌番号]20/4360

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)陳私拙懐一首<[并短歌]>

[原文]天皇乃 等保伎美与尓毛 於之弖流 難波乃久尓々 阿米能之多 之良志賣之伎等 伊麻能乎尓 多要受伊比都々 可氣麻久毛 安夜尓可之古志 可武奈我良 和其大王乃 宇知奈妣久 春初波 夜知久佐尓 波奈佐伎尓保比 夜麻美礼婆 見能等母之久 可波美礼婆 見乃佐夜氣久 母能其等尓 佐可由流等伎登 賣之多麻比 安伎良米多麻比 之伎麻世流 難波宮者 伎己之乎須 四方乃久尓欲里 多弖麻都流 美都奇能船者 保理江欲里 美乎妣伎之都々 安佐奈藝尓 可治比伎能保理 由布之保尓 佐乎佐之久太理 安治牟良能 佐和伎々保比弖 波麻尓伊泥弖 海原見礼婆 之良奈美乃 夜敝乎流我宇倍尓 安麻乎夫祢 波良々尓宇伎弖 於保美氣尓 都加倍麻都流等 乎知許知尓 伊射里都利家理 曽伎太久毛 於藝呂奈伎可毛 己伎婆久母 由多氣伎可母 許己見礼婆 宇倍之神代由 波自米家良思母

[訓読]皇祖の 遠き御代にも 押し照る 難波の国に 天の下 知らしめしきと 今の緒に 絶えず言ひつつ かけまくも あやに畏し 神ながら 我ご大君の うち靡く 春の初めは 八千種に 花咲きにほひ 山見れば 見の羨しく 川見れば 見のさやけく ものごとに 栄ゆる時と 見したまひ 明らめたまひ 敷きませる 難波の宮は 聞こし食す 四方の国より 奉る 御調の船は 堀江より 水脈引きしつつ 朝なぎに 楫引き上り 夕潮に 棹さし下り あぢ群の 騒き競ひて 浜に出でて 海原見れば 白波の 八重をるが上に 海人小船 はららに浮きて 大御食に 仕へまつると をちこちに 漁り釣りけり そきだくも おぎろなきかも こきばくも ゆたけきかも ここ見れば うべし神代ゆ 始めけらしも

[仮名]すめろきの とほきみよにも おしてる なにはのくにに あめのした しらしめしきと いまのをに たえずいひつつ かけまくも あやにかしこし かむながら わごおほきみの うちなびく はるのはじめは やちくさに はなさきにほひ やまみれば みのともしく かはみれば みのさやけく ものごとに さかゆるときと めしたまひ あきらめたまひ しきませる なにはのみやは きこしをす よものくにより たてまつる みつきのふねは ほりえより みをびきしつつ あさなぎに かぢひきのぼり ゆふしほに さをさしくだり あぢむらの さわききほひて はまにいでて うなはらみれば しらなみの やへをるがうへに あまをぶね はららにうきて おほみけに つかへまつると をちこちに いざりつりけり そきだくも おぎろなきかも こきばくも ゆたけきかも ここみれば うべしかむよゆ はじめけらしも

[左注](右二月十三日兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]<> -> 并短歌 [元][細][紀]

[事項]天平勝宝7年2月13日 年紀 作者:大伴家持 地名 難波 大阪 枕詞 大君讃美 都讃美

[訓異]すめろきの[寛],

とほきみよにも[寛],

おしてる[寛],

なにはのくにに[寛],

あめのした[寛],

しらしめしきと[寛],

いまのをに[寛],

たえずいひつつ,[寛]たえすいひつつ,

かけまくも[寛],

あやにかしこし[寛],

かむながら,[寛]かむなから,

わごおほきみの,[寛]わかおほきみの,

うちなびく,[寛]うちなひく,

はるのはじめは,[寛]はるのはしめは,

やちくさに[寛],

はなさきにほひ[寛],

やまみれば,[寛]やまみれは,

みのともしく[寛],

かはみれば,[寛]かはみれは,

みのさやけく[寛],

ものごとに,[寛]ものことに,

さかゆるときと[寛],

めしたまひ[寛],

あきらめたまひ[寛],

しきませる[寛],

なにはのみやは[寛],

きこしをす,[寛]きこしめす,

よものくにより[寛],

たてまつる[寛],

みつきのふねは[寛],

ほりえより[寛],

みをびきしつつ,[寛]みをひきしつつ,

あさなぎに,[寛]あさなきに,

かぢひきのぼり,[寛]かちひきのほり,

ゆふしほに[寛],

さをさしくだり,[寛]さをさしくたり,

あぢむらの,[寛]あちむらの,

さわききほひて[寛],

はまにいでて,[寛]はまにいてて,

うなはらみれば,[寛]うなはらみれは,

しらなみの[寛],

やへをるがうへに,[寛]やへをるかうへに,

あまをぶね,[寛]あまをふね,

はららにうきて[寛],

おほみけに[寛],

つかへまつると[寛],

をちこちに[寛],

いざりつりけり,[寛]いさりつりけり,

そきだくも,[寛]そきたくも,

おぎろなきかも,[寛]おきろなきかも,

こきばくも,[寛]こきはくも,

ゆたけきかも[寛],

ここみれば,[寛]ここみれは,

うべしかむよゆ,[寛]うへしかみよゆ,

はじめけらしも,[寛]はしめけらしも,


[歌番号]20/4361

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳私拙懐一首<[并短歌]>)

[原文]櫻花 伊麻佐可里奈里 難波乃海 於之弖流宮尓 伎許之賣須奈倍

[訓読]桜花今盛りなり難波の海押し照る宮に聞こしめすなへ

[仮名]さくらばな いまさかりなり なにはのうみ おしてるみやに きこしめすなへ

[左注](右二月十三日兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月13日 年紀 作者:大伴家持 地名 難波 大阪 植物 寿歌 大君讃美 都讃美

[訓異]さくらばな,[寛]さくらはな,

いまさかりなり[寛],

なにはのうみ[寛],

おしてるみやに[寛],

きこしめすなへ[寛],


[歌番号]20/4362

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳私拙懐一首<[并短歌]>)

[原文]海原乃 由多氣伎見都々 安之我知流 奈尓波尓等之波 倍<奴>倍久於毛保由

[訓読]海原のゆたけき見つつ葦が散る難波に年は経ぬべく思ほゆ

[仮名]うなはらの ゆたけきみつつ あしがちる なにはにとしは へぬべくおもほゆ

[左注]右二月十三日兵部少輔大伴宿祢家持

[校異]努 -> 奴 [元]

[事項]天平勝宝7年2月13日 年紀 作者:大伴家持 土地讃美 難波 地名 大阪 植物 大君讃美 寿歌

[訓異]うなはらの[寛],

ゆたけきみつつ[寛],

あしがちる,[寛]あしかちる,

なにはにとしは[寛],

へぬべくおもほゆ,[寛]へぬへくおもほゆ,


[歌番号]20/4363

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]奈尓波都尓 美布祢於呂須恵 夜蘇加奴伎 伊麻波許伎奴等 伊母尓都氣許曽

[訓読]難波津に御船下ろ据ゑ八十楫貫き今は漕ぎぬと妹に告げこそ

[仮名]なにはつに みふねおろすゑ やそかぬき いまはこぎぬと いもにつげこそ

[左注](右二首茨城郡若舎人部廣足) ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:若舎人部廣足 防人歌 地名 難波 大阪 茨城 息長国島 恋情 望郷

[訓異]なにはつに[寛],

みふねおろすゑ[寛],

やそかぬき[寛],

いまはこぎぬと,[寛]いまはこきぬと,

いもにつげこそ,[寛]いもにつけこそ,


[歌番号]20/4364

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]佐伎牟理尓 多々牟佐和伎尓 伊敝能伊牟何 奈流<弊>伎己等乎 伊波須伎奴可母

[訓読]防人に立たむ騒きに家の妹がなるべきことを言はず来ぬかも

[仮名]さきむりに たたむさわきに いへのいむが なるべきことを いはずきぬかも

[左注]右二首茨城郡若舎人部廣足 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]敝 -> 弊 [元][類]

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:若舎人部廣足 防人歌 茨城 息長国島 出発 悲別 後悔 羈旅

[訓異]さきむりに,[寛]さきもりに,

たたむさわきに,[寛]たたむさわきに,

いへのいむが,[寛]いへのいもか,

なるべきことを,[寛]なるへきことを,

いはずきぬかも,[寛]いはすきぬかも,


[歌番号]20/4365

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]於之弖流夜 奈尓波能<都由>利 布奈与曽比 阿例波許藝奴等 伊母尓都岐許曽

[訓読]押し照るや難波の津ゆり船装ひ我れは漕ぎぬと妹に告ぎこそ

[仮名]おしてるや なにはのつゆり ふなよそひ あれはこぎぬと いもにつぎこそ

[左注](右二首信太郡物部道足) ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]津与 -> 都由 [元]

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:物部道足 防人歌 地名 難波 大阪 望郷 恋情 茨城 息長国島

[訓異]おしてるや[寛],

なにはのつゆり,[寛]なにはのつより,

ふなよそひ[寛],

あれはこぎぬと,[寛]あれはこきぬと,

いもにつぎこそ,[寛]いもにつきこそ,


[歌番号]20/4366

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]比多知散思 由可牟加里母我 阿我古比乎 志留志弖都祁弖 伊母尓志良世牟

[訓読]常陸指し行かむ雁もが我が恋を記して付けて妹に知らせむ

[仮名]ひたちさし ゆかむかりもが あがこひを しるしてつけて いもにしらせむ

[左注]右二首信太郡物部道足 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:物部道足 防人歌 茨城 息長国島 地名 動物 恋情 望郷

[訓異]ひたちさし[寛],

ゆかむかりもが,[寛]ゆかむかりもか,

あがこひを,[寛]あかこひを,

しるしてつけて[寛],

いもにしらせむ[寛],


[歌番号]20/4367

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿我母弖能 和須例母之太波 都久波尼乎 布利佐氣美都々 伊母波之奴波尼

[訓読]我が面の忘れもしだは筑波嶺を振り放け見つつ妹は偲はね

[仮名]あがもての わすれもしだは つくはねを ふりさけみつつ いもはしぬはね

[左注]右一首茨城郡占部子龍 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:占部子龍 防人歌 茨城 息長国島 地名 筑波 恋情 悲別 望郷

[訓異]あがもての,[寛]あかもての,

わすれもしだは,[寛]わすれもしたは,

つくはねを,[寛]つくはねを,

ふりさけみつつ[寛],

いもはしぬはね[寛],


[歌番号]20/4368

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]久自我波々 佐氣久阿利麻弖 志富夫祢尓 麻可知之自奴伎 和波可敝里許牟

[訓読]久慈川は幸くあり待て潮船にま楫しじ貫き我は帰り来む

[仮名]くじがはは さけくありまて しほぶねに まかぢしじぬき わはかへりこむ

[左注]右一首久慈郡丸子部佐壮 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:丸子部佐壮 防人歌 地名 恋情 茨城 息長国島

[訓異]くじがはは,[寛]くしかはは,

さけくありまて,[寛]さきくありまて,

しほぶねに,[寛]しほふねに,

まかぢしじぬき,[寛]まかちししぬき,

わはかへりこむ[寛],


[歌番号]20/4369

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]都久波祢乃 佐由流能波奈能 由等許尓母 可奈之家伊母曽 比留毛可奈之祁

[訓読]筑波嶺のさ百合の花の夜床にも愛しけ妹ぞ昼も愛しけ

[仮名]つくはねの さゆるのはなの ゆとこにも かなしけいもぞ ひるもかなしけ

[左注](右二首那賀郡上丁大舎人部千文) ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:大舎人部千文 防人歌 茨城 息長国島 植物 恋情 望郷 序詞

[訓異]つくはねの[寛],

さゆるのはなの[寛],

ゆとこにも[寛],

かなしけいもぞ,[寛]かなしけいもそ,

ひるもかなしけ[寛],


[歌番号]20/4370

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿良例布理 可志麻能可美乎 伊能利都々 須米良美久佐尓 和例波伎尓之乎

[訓読]霰降り鹿島の神を祈りつつ皇御軍に我れは来にしを

[仮名]あられふり かしまのかみを いのりつつ すめらみくさに われはきにしを

[左注]右二首那賀郡上丁大舎人部千文 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:大舎人部千文 防人歌 枕詞 地名 茨城 息長国島

[訓異]あられふり[寛],

かしまのかみを[寛],

いのりつつ[寛],

すめらみくさに[寛],

われはきにしを[寛],


[歌番号]20/4371

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]多知波奈乃 之多布久可是乃 可具波志伎 都久波能夜麻乎 古比須安良米可毛

[訓読]橘の下吹く風のかぐはしき筑波の山を恋ひずあらめかも

[仮名]たちばなの したふくかぜの かぐはしき つくはのやまを こひずあらめかも

[左注]右一首助丁占部廣方 ( / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:占部廣方 防人歌 植物 地名 茨城 息長国島 望郷 恋情

[訓異]たちばなの,[寛]たちはなの,

したふくかぜの,[寛]したふくかせの,

かぐはしき,[寛]かくはしき,

つくはのやまを[寛],

こひずあらめかも,[寛]こひすあらめかも,


[歌番号]20/4372

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿志加良能 美佐可多麻波理 可閇理美須 阿例波久江由久 阿良志乎母 多志夜波婆可流 不破乃世伎 久江弖和波由久 牟麻能都米 都久志能佐伎尓 知麻利為弖 阿例波伊波々牟 母呂々々波 佐祁久等麻乎須 可閇利久麻弖尓

[訓読]足柄の み坂給はり 返り見ず 我れは越え行く 荒し夫も 立しやはばかる 不破の関 越えて我は行く 馬の爪 筑紫の崎に 留まり居て 我れは斎はむ 諸々は 幸くと申す 帰り来までに

[仮名]あしがらの みさかたまはり かへりみず あれはくえゆく あらしをも たしやはばかる ふはのせき くえてわはゆく むまのつめ つくしのさきに ちまりゐて あれはいははむ もろもろは さけくとまをす かへりくまでに

[左注]右一首倭文部可良麻呂 / 二月十四日常陸國部領防人使大目正七位上息長真人國嶋進歌數十七首 但拙劣歌者不取載之

[校異]十 [元][古] 廿

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:倭文部可良麻呂 防人歌 茨城 息長国島 地名 静岡 羈旅 道行翮 手向醎 寿歌

[訓異]あしがらの,[寛]あしからの,

みさかたまはり[寛],

かへりみず,[寛]かへりみす,

あれはくえゆく[寛],

あらしをも[寛],

たしやはばかる,[寛]たしやははかる,

ふはのせき[寛],

くえてわはゆく,[寛]こえてわはゆく,

むまのつめ[寛],

つくしのさきに[寛],

ちまりゐて[寛],

あれはいははむ[寛],

もろもろは[寛],

さけくとまをす[寛],

かへりくまでに,[寛]かへりくまてに,


[歌番号]20/4373

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]祁布与利波 可敝里見奈久弖 意富伎美乃 之許乃美多弖等 伊埿多都和例波

[訓読]今日よりは返り見なくて大君の醜の御楯と出で立つ我れは

[仮名]けふよりは かへりみなくて おほきみの しこのみたてと いでたつわれは

[左注]右一首火長今奉部与曽布 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:今奉部与曽布 防人歌 栃木 田口大戸 出発 壮行

[訓異]けふよりは[寛],

かへりみなくて[寛],

おほきみの[寛],

しこのみたてと[寛],

いでたつわれは,[寛]いてたつわれは,


[歌番号]20/4374

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿米都知乃 可美乎伊乃里弖 佐都夜奴伎 都久之乃之麻乎 佐之弖伊久和例波

[訓読]天地の神を祈りて猟矢貫き筑紫の島を指して行く我れは

[仮名]あめつちの かみをいのりて さつやぬき つくしのしまを さしていくわれは

[左注]右一首火長大田部荒耳 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]伊 [元] 由

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:大田部荒耳 防人歌 地名 壮行 出発 羈旅 栃木 田口大戸

[訓異]あめつちの[寛],

かみをいのりて[寛],

さつやぬき[寛],

つくしのしまを[寛],

さしていくわれは[寛],


[歌番号]20/4375

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]麻都能氣乃 奈美多流美礼波 伊波妣等乃 和例乎美於久流等 多々理之母己呂

[訓読]松の木の並みたる見れば家人の我れを見送ると立たりしもころ

[仮名]まつのけの なみたるみれば いはびとの われをみおくると たたりしもころ

[左注]右一首火長物部真嶋 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]波 [紀][細][温] 婆

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:物部真嶋 防人歌 栃木 田口大戸 恋情 望郷

[訓異]まつのけの,[寛]まつのきの,

なみたるみれば,[寛]なみたるみれは,

いはびとの,[寛]いはひとの,

われをみおくると,[寛]われをみおくると,

たたりしもころ[寛],


[歌番号]20/4376

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]多妣由<岐>尓 由久等之良受弖 阿母志々尓 己等麻乎佐受弖 伊麻叙久夜之氣

[訓読]旅行きに行くと知らずて母父に言申さずて今ぞ悔しけ

[仮名]たびゆきに ゆくとしらずて あもししに ことまをさずて いまぞくやしけ

[左注]右一首寒川郡上丁川上<臣>老 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]伎 -> 岐 [元][類][古] / 叙 [元] 所 / 呂 -> 臣 [元][紀][細]

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:川上老 防人歌 後悔 出発 羈旅 悲別 恋情 栃木 田口大戸

[訓異]たびゆきに,[寛]たひゆきに,

ゆくとしらずて,[寛]ゆくとしらすて,

あもししに[寛],

ことまをさずて,[寛]ことまをさすて,

いまぞくやしけ,[寛]いまそくやしけ,


[歌番号]20/4377

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿母刀自母 多麻尓母賀母夜 伊多太伎弖 美都良乃奈可尓 阿敝麻可麻久母

[訓読]母刀自も玉にもがもや戴きてみづらの中に合へ巻かまくも

[仮名]あもとじも たまにもがもや いただきて みづらのなかに あへまかまくも

[左注]右一首津守宿祢小黒栖 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:津守小黒栖 防人歌 栃木 田口大戸 恋情

[訓異]あもとじも,[寛]あもとしも,

たまにもがもや,[寛]たまにもかもや,

いただきて,[寛]いたたきて,

みづらのなかに,[寛]みつらのなかに,

あへまかまくも[寛],


[歌番号]20/4378

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]都久比夜波 須具波由氣等毛 阿母志々可 多麻乃須我多波 和須例西奈布母

[訓読]月日やは過ぐは行けども母父が玉の姿は忘れせなふも

[仮名]つくひやは すぐはゆけども あもししが たまのすがたは わすれせなふも

[左注]右一首都賀郡上丁中臣部足國 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:中臣部足國 防人歌 恋情 望郷 栃木 田口大戸

[訓異]つくひやは,[寛]つくひよは,

すぐはゆけども,[寛]すくはゆけとも,

あもししが,[寛]あもししか,

たまのすがたは,[寛]たまのすかたは,

わすれせなふも[寛],


[歌番号]20/4379

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]之良奈美乃 与曽流波麻倍尓 和可例奈波 伊刀毛須倍奈美 夜多妣蘇弖布流

[訓読]白波の寄そる浜辺に別れなばいともすべなみ八度袖振る

[仮名]しらなみの よそるはまへに わかれなば いともすべなみ やたびそでふる

[左注]右一首足利郡上丁大舎人部祢麻呂 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]波 [元] 婆

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:大舎人部祢麻呂 防人歌 出発 別離 悲別 羈旅 栃木 田口大戸

[訓異]しらなみの[寛],

よそるはまへに,[寛]よするはまへに,

わかれなば,[寛]わかれなは,

いともすべなみ,[寛]いともすへなみ,

やたびそでふる,[寛]やたひそてふる,


[歌番号]20/4380

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]奈尓波刀乎 己岐埿弖美例婆 可美佐夫流 伊古麻多可祢尓 久毛曽多奈妣久

[訓読]難波津を漕ぎ出て見れば神さぶる生駒高嶺に雲ぞたなびく

[仮名]なにはとを こぎでてみれば かみさぶる いこまたかねに くもぞたなびく

[左注]右一首梁田郡上丁大田部三成 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:大田部三成 防人歌 地名 難波 大阪 叙景 出発 栃木 田口大戸

[訓異]なにはとを[寛],

こぎでてみれば,[寛]こきててみれは,

かみさぶる,[寛]かみさふる,

いこまたかねに[寛],

くもぞたなびく,[寛]くもそたなひく,


[歌番号]20/4381

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]<久>尓<具尓>乃 佐岐毛利都度比 布奈能里弖 和可流乎美礼婆 伊刀母須敝奈之

[訓読]国々の防人集ひ船乗りて別るを見ればいともすべなし

[仮名]くにぐにの さきもりつどひ ふなのりて わかるをみれば いともすべなし

[左注]右一首河内郡上丁神麻續部嶋麻呂 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]具 -> 久 [元][類][古] / 々々 -> 具尓 [元][類]

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:神麻續部嶋麻呂 防人歌 出発 羈旅 栃木 田口大戸

[訓異]くにぐにの,[寛]くにくにの,

さきもりつどひ,[寛]さきもりつとひ,

ふなのりて[寛],

わかるをみれば,[寛]わかるをみれは,

いともすべなし,[寛]いともすへなし,


[歌番号]20/4382

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]布多富我美 阿志氣比等奈里 阿多由麻比 和我須流等伎尓 佐伎母里尓佐須

[訓読]ふたほがみ悪しけ人なりあたゆまひ我がする時に防人にさす

[仮名]ふたほがみ あしけひとなり あたゆまひ わがするときに さきもりにさす

[左注]右一首那須郡上丁大伴<部>廣成 ( / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]<> -> 部 [類][古]

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:大伴部廣成 防人歌 怨恨 栃木 田口大戸

[訓異]ふたほがみ,[寛]ふたほかみ,

あしけひとなり[寛],

あたゆまひ[寛],

わがするときに,[寛]わかするときに,

さきもりにさす[寛],


[歌番号]20/4383

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]都乃久尓乃 宇美能奈伎佐尓 布奈餘曽比 多志埿毛等伎尓 阿母我米母我母

[訓読]津の国の海の渚に船装ひ立し出も時に母が目もがも

[仮名]つのくにの うみのなぎさに ふなよそひ たしでもときに あもがめもがも

[左注]右一首塩屋郡上丁丈部足人 / 二月十四日下野國防人部領使正六位上田口朝臣大戸進歌數十八首 但拙劣歌者不取載之

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月14日 年紀 作者:丈部足人 防人歌 出発 恋情 望郷 栃木 田口大戸

[訓異]つのくにの[寛],

うみのなぎさに,[寛]うみのなきさに,

ふなよそひ[寛],

たしでもときに,[寛]たしてもときに,

あもがめもがも,[寛]あもかめもかも,


[歌番号]20/4384

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿加等伎乃 加波多例等枳尓 之麻加枳乎 己枳尓之布祢乃 他都枳之良須母

[訓読]暁のかはたれ時に島蔭を漕ぎ去し船のたづき知らずも

[仮名]あかときの かはたれときに しまかぎを こぎにしふねの たづきしらずも

[左注]右一首助丁海上郡海上國造他田日奉直得大理( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:他田日奉得大理 防人歌 叙景 漂泊 旅情 千葉 県犬養浄人

[訓異]あかときの[寛],

かはたれときに[寛],

しまかぎを,[寛]しまかきを,

こぎにしふねの,[寛]こきにしふねの,

たづきしらずも,[寛]たつきしらすも,


[歌番号]20/4385

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]由古作枳尓 奈美奈等恵良比 志流敝尓波 古乎等都麻乎等 於枳弖等母枳奴

[訓読]行こ先に波なとゑらひ後方には子をと妻をと置きてとも来ぬ

[仮名]ゆこさきに なみなとゑらひ しるへには こをとつまをと おきてともきぬ

[左注]右一首葛餝郡私部石嶋 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]等母 [元] 良毛

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:私部石嶋 防人歌 出発 千葉 県犬養浄人

[訓異]ゆこさきに[寛],

なみなとゑらひ[寛],

しるへには[寛],

こをとつまをと,[寛]こをらつまをら,

おきてともきぬ,[寛]をきてらもきぬ,


[歌番号]20/4386

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和加々都乃 以都母等夜奈枳 以都母々々々 於母加古比須々 奈理麻之都之母

[訓読]我が門の五本柳いつもいつも母が恋すす業りましつしも

[仮名]わがかづの いつもとやなぎ いつもいつも おもがこひすす なりましつしも

[左注]右一首結城郡矢作部真長 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:矢作部真長 防人歌 悲別 望郷 恋情 千葉 県犬養浄人

[訓異]わがかづの,[寛]わかかとの,

いつもとやなぎ,[寛]いつもとやなき,

いつもいつも[寛],

おもがこひすす,[寛]おもかこひすす,

なりましつしも[寛],


[歌番号]20/4387

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]知波乃奴乃 古乃弖加之波能 保々麻例等 阿夜尓加奈之美 於枳弖他加枳奴

[訓読]千葉の野の児手柏のほほまれどあやに愛しみ置きて誰が来ぬ

[仮名]ちばのぬの このてかしはの ほほまれど あやにかなしみ おきてたがきぬ

[左注]右一首千葉郡大田<部>足人 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]郡 -> 部 [西(訂正)][元][細][温]

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:大田部足人 防人歌 千葉 県犬養浄人 地名 植物 序詞 自嘲 恋情 望郷

[訓異]ちばのぬの,[寛]ちはのぬの,

このてかしはの[寛],

ほほまれど,[寛]ほほまれと,

あやにかなしみ[寛],

おきてたがきぬ,[寛]おきてたかきぬ,


[歌番号]20/4388

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]多妣等<弊>等 麻多妣尓奈理奴 以<弊>乃母加 枳世之己呂母尓 阿加都枳尓迦理

[訓読]旅とへど真旅になりぬ家の妹が着せし衣に垢付きにかり

[仮名]たびとへど またびになりぬ いへのもが きせしころもに あかつきにかり

[左注]右一首占部虫麻呂 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]敝 -> 弊 [元][類][紀]

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:占部虫麻呂 防人歌 千葉 県犬養浄人

[訓異]たびとへど,[寛]たひとへと,

またびになりぬ,[寛]またひになりぬ,

いへのもが,[寛]いへのもか,

きせしころもに[寛],

あかつきにかり,[寛]あかつきにけり,


[歌番号]20/4389

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]志保不尼乃 <弊>古祖志良奈美 尓波志久母 於不世他麻保加 於母波弊奈久尓

[訓読]潮舟の舳越そ白波にはしくも負ふせたまほか思はへなくに

[仮名]しほふねの へこそしらなみ にはしくも おふせたまほか おもはへなくに

[左注]右一首印波郡丈部直大麻呂 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]敝 -> 弊 [元][類][紀]

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:丈部大麻呂 防人歌 怨恨 千葉 県犬養浄人 [訓異]

[訓異]しほふねの[寛],

へこそしらなみ[寛],

にはしくも[寛],

おふせたまほか[寛],

おもはへなくに[寛],


[歌番号]20/4390

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]牟浪他麻乃 久留尓久枳作之 加多米等之 以母加去々里波 阿用久奈米加母

[訓読]群玉の枢にくぎさし堅めとし妹が心は動くなめかも

[仮名]むらたまの くるにくぎさし かためとし いもがこころは あよくなめかも

[左注]右一首猨島郡刑部志可麻呂 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:刑部志可麻呂 防人歌 恋情 千葉 県犬養浄人

[訓異]むらたまの[寛],

くるにくぎさし,[寛]くるにくきさし,

かためとし[寛],

いもがこころは,[寛]いもかここりは,

あよくなめかも[寛],


[歌番号]20/4391

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]久尓<具尓>乃 夜之呂乃加美尓 奴佐麻都理 阿加古比須奈牟 伊母賀加奈志作

[訓読]国々の社の神に幣奉り贖乞ひすなむ妹が愛しさ

[仮名]くにぐにの やしろのかみに ぬさまつり あがこひすなむ いもがかなしさ

[左注]右一首結城郡忍海部五百麻呂 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]々々 -> 具尓 [類][紀][細] / 呂 [元](塙) 里

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:忍海部五百麻呂 防人歌 千葉 県犬養浄人 恋情 神祭り

[訓異]くにぐにの,[寛]くにくにの,

やしろのかみに[寛],

ぬさまつり[寛],

あがこひすなむ,[寛]あかこひすなむ,

いもがかなしさ,[寛]いもかかなしさ,


[歌番号]20/4392

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿米都之乃 以都例乃可美乎 以乃良波加 有都久之波々尓 麻多己等刀波牟

[訓読]天地のいづれの神を祈らばか愛し母にまた言とはむ

[仮名]あめつしの いづれのかみを いのらばか うつくしははに またこととはむ

[左注]右一首埴生郡大伴部麻与佐 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:大伴部麻与佐 防人歌 千葉 県犬養浄人 恋情 望郷 神祭り

[訓異]あめつしの[寛],

いづれのかみを,[寛]いつれのかみか,

いのらばか,[寛]いのらはか,

うつくしははに[寛],

またこととはむ[寛],


[歌番号]20/4393

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]於保伎美能 美許等尓<作>例波 知々波々乎 以波比<弊>等於枳弖 麻為弖枳尓之乎

[訓読]大君の命にされば父母を斎瓮と置きて参ゐ出来にしを

[仮名]おほきみの みことにされば ちちははを いはひへとおきて まゐできにしを

[左注]右一首結城郡雀部廣嶋 ( / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]佐 -> 作 [元][類] / 敝 -> 弊 [元][類][紀]

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:雀部廣嶋 防人歌 千葉 県犬養浄人 悲別 出発 恋情

[訓異]おほきみの[寛],

みことにされば,[寛]みことにされは,

ちちははを[寛],

いはひへとおきて[寛],

まゐできにしを,[寛]まゐてきましを,


[歌番号]20/4394

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]於保伎美能 美己等加之古美 由美乃美<他> 佐尼加和多良牟 奈賀氣己乃用乎

[訓読]大君の命畏み弓の共さ寝かわたらむ長けこの夜を

[仮名]おほきみの みことかしこみ ゆみのみた さねかわたらむ ながけこのよを

[左注]右一首相馬郡大伴<部>子羊 / 二月十六日下総國防人部領使少目従七位下縣犬養宿祢浄人進歌數廿二首 但拙劣歌者不取載之

[校異]仁 -> 他 [元][類] / <> -> 部 [類][細]

[事項]天平勝宝7年2月16日 年紀 作者:大伴部子羊 防人歌 千葉 県犬養浄人 悲嘆 [訓異]

[訓異]おほきみの[寛],

みことかしこみ[寛],

ゆみのみた,[寛]ゆみのみに,

さねかわたらむ[寛],

ながけこのよを,[寛]なかきこのよを,


[歌番号]20/4395

[題詞]獨惜龍田山櫻花歌一首

[原文]多都多夜麻 見都々古要許之 佐久良波奈 知利加須疑奈牟 和我可敝流刀<尓>

[訓読]龍田山見つつ越え来し桜花散りか過ぎなむ我が帰るとに

[仮名]たつたやま みつつこえこし さくらばな ちりかすぎなむ わがかへるとに

[左注](右三首二月十七日兵部少輔大伴家持作之)

[校異]祢 -> 尓 [元][類]

[事項]天平勝宝7年2月17日 年紀 作者:大伴家持 独詠 地名 龍田 奈良 植物 難波 大阪

[訓異]たつたやま[寛],

みつつこえこし[寛],

さくらばな,[寛]さくらはな,

ちりかすぎなむ,[寛]ちりかすきなむ,

わがかへるとに,[寛]わかかへるとね,


[歌番号]20/4396

[題詞]獨見江水浮漂糞怨恨貝玉不依作歌一首

[原文]保理江欲利 安佐之保美知尓 与流許都美 可比尓安里世波 都刀尓勢麻之乎

[訓読]堀江より朝潮満ちに寄る木屑貝にありせばつとにせましを

[仮名]ほりえより あさしほみちに よるこつみ かひにありせば つとにせましを

[左注](右三首二月十七日兵部少輔大伴家持作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月17日 年紀 作者:大伴家持 独詠 地名 難波 大阪 望郷

[訓異]ほりえより[寛],

あさしほみちに[寛],

よるこつみ[寛],

かひにありせば,[寛]かひにありせは,

つとにせましを[寛],


[歌番号]20/4397

[題詞]在舘門見江南美女作歌一首

[原文]見和多世波 牟加都乎能倍乃 波奈尓保比 弖里氐多弖流<波> 波之伎多我都麻

[訓読]見わたせば向つ峰の上の花にほひ照りて立てるは愛しき誰が妻

[仮名]みわたせば むかつをのへの はなにほひ てりてたてるは はしきたがつま

[左注]右三首二月十七日兵部少輔大伴家持作之

[校異]婆 -> 波 [元][類]

[事項]天平勝宝7年2月17日 年紀 作者:大伴家持 独詠 望郷 難波 大阪

[訓異]みわたせば,[寛]みわたせは,

むかつをのへの[寛],

はなにほひ[寛],

てりてたてるは[寛],

はしきたがつま,[寛]はしきたかつま,


[歌番号]20/4398

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)為防人情陳思作歌一首[并短歌]

[原文]大王乃 美己等可之古美 都麻和可礼 可奈之久波安礼特 大夫 情布里於許之 等里与曽比 門出乎須礼婆 多良知祢乃 波々可伎奈埿 若草乃 都麻波等里都吉 平久 和礼波伊波々牟 好去而 早還来等 麻蘇埿毛知 奈美太乎能其比 牟世比都々 言語須礼婆 群鳥乃 伊埿多知加弖尓 等騰己保里 可<弊>里美之都々 伊也等保尓 國乎伎波奈例 伊夜多可尓 山乎故要須疑 安之我知流 難波尓伎為弖 由布之保尓 船乎宇氣須恵 安佐奈藝尓 倍牟氣許我牟等 佐毛良布等 和我乎流等伎尓 春霞 之麻<未>尓多知弖 多頭我祢乃 悲鳴婆 波呂<婆>呂尓 伊弊乎於毛比埿 於比曽箭乃 曽与等奈流麻埿 奈氣吉都流香母

[訓読]大君の 命畏み 妻別れ 悲しくはあれど 大夫の 心振り起し 取り装ひ 門出をすれば たらちねの 母掻き撫で 若草の 妻は取り付き 平らけく 我れは斎はむ ま幸くて 早帰り来と 真袖もち 涙を拭ひ むせひつつ 言問ひすれば 群鳥の 出で立ちかてに とどこほり かへり見しつつ いや遠に 国を来離れ いや高に 山を越え過ぎ 葦が散る 難波に来居て 夕潮に 船を浮けすゑ 朝なぎに 舳向け漕がむと さもらふと 我が居る時に 春霞 島廻に立ちて 鶴が音の 悲しく鳴けば はろはろに 家を思ひ出 負ひ征矢の そよと鳴るまで 嘆きつるかも

[仮名]おほきみの みことかしこみ つまわかれ かなしくはあれど ますらをの こころふりおこし とりよそひ かどでをすれば たらちねの ははかきなで わかくさの つまはとりつき たひらけく われはいははむ まさきくて はやかへりこと まそでもち なみだをのごひ むせひつつ ことどひすれば むらとりの いでたちかてに とどこほり かへりみしつつ いやとほに くにをきはなれ いやたかに やまをこえすぎ あしがちる なにはにきゐて ゆふしほに ふねをうけすゑ あさなぎに へむけこがむと さもらふと わがをるときに はるかすみ しまみにたちて たづがねの かなしくなけば はろはろに いへをおもひで おひそやの そよとなるまで なげきつるかも

[左注](右十九日兵部少輔大伴宿祢家持作之)

[校異]短歌 [西] 短謌 / 麻波 [元](塙) 麻 / 敝 -> 弊 [元][紀][細] / 米 -> 未 [代匠記精撰本] / 波 -> 婆 [元][類][紀][温]

[事項]天平勝宝7年2月19日 年紀 作者:大伴家持 同情 防人歌 枕詞 動物 難波 大阪

[訓異]おほきみの[寛],

みことかしこみ[寛],

つまわかれ[寛],

かなしくはあれど,[寛]かなしくはあれと,

ますらをの[寛],

こころふりおこし[寛],

とりよそひ[寛],

かどでをすれば,[寛]かとてをすれは,

たらちねの[寛],

ははかきなで,[寛]ははかきなてて,

わかくさの[寛],

つまはとりつき[寛],

たひらけく[寛],

われはいははむ[寛],

まさきくて,[寛]よしゆきて,

はやかへりこと[寛],

まそでもち,[寛]まそてもち,

なみだをのごひ,[寛]なみたをのこひ,

むせひつつ[寛],

ことどひすれば,[寛]かたらひすれは,

むらとりの[寛],

いでたちかてに,[寛]いてたちかてて,

とどこほり,[寛]ととこほり,

かへりみしつつ[寛],

いやとほに[寛],

くにをきはなれ[寛],

いやたかに[寛],

やまをこえすぎ,[寛]やまをこえすき,

あしがちる,[寛]あしかちる,

なにはにきゐて,[寛]なにはにきすて,

ゆふしほに[寛],

ふねをうけすゑ[寛],

あさなぎに,[寛]あさなきに,

へむけこがむと,[寛]へむけこかむと,

さもらふと[寛],

わがをるときに,[寛]わかをるときに,

はるかすみ[寛],

しまみにたちて,[寛]しまへにたちて,

たづがねの,[寛]たつかねの,

かなしくなけば,[寛]かなしみなくは,

はろはろに[寛],

いへをおもひで,[寛]いへをおもひて,

おひそやの[寛],

そよとなるまで,[寛]そよとなるまて,

なげきつるかも,[寛]なけきつるかも,


[歌番号]20/4399

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(為防人情陳思作歌一首[并短歌])

[原文]宇奈波良尓 霞多奈妣伎 多頭我祢乃 可奈之伎与比波 久尓<弊>之於毛保由

[訓読]海原に霞たなびき鶴が音の悲しき宵は国辺し思ほゆ

[仮名]うなはらに かすみたなびき たづがねの かなしきよひは くにへしおもほゆ

[左注](右十九日兵部少輔大伴宿祢家持作之)

[校異]敝 -> 弊 [元][類][紀]

[事項]天平勝宝7年2月19日 年紀 作者:大伴家持 防人歌 同情 望郷 動物 難波 大阪

[訓異]うなはらに[寛],

かすみたなびき,[寛]かすみたなひき,

たづがねの,[寛]たつかねの,

かなしきよひは[寛],

くにへしおもほゆ[寛],


[歌番号]20/4400

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(為防人情陳思作歌一首[并短歌])

[原文]伊<弊>於毛負等 伊乎祢受乎礼婆 多頭我奈久 安之<弊>毛美要受 波流乃可須美尓

[訓読]家思ふと寐を寝ず居れば鶴が鳴く葦辺も見えず春の霞に

[仮名]いへおもふと いをねずをれば たづがなく あしへもみえず はるのかすみに

[左注]右十九日兵部少輔大伴宿祢家持作之

[校異]敝 -> 弊 [元][紀][細]

[事項]天平勝宝7年2月19日 年紀 作者:大伴家持 動物 望郷 防人歌 同情 難波 大阪

[訓異]いへおもふと[寛],

いをねずをれば,[寛]いをねすをれは,

たづがなく,[寛]たつかなく,

あしへもみえず,[寛]あしへもみえす,

はるのかすみに[寛],


[歌番号]20/4401

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]可良己呂<武> 須<宗>尓等里都伎 奈苦古良乎 意伎弖曽伎<怒>也 意母奈之尓志弖

[訓読]唐衣裾に取り付き泣く子らを置きてぞ来のや母なしにして

[仮名]からころむ すそにとりつき なくこらを おきてぞきのや おもなしにして

[左注]右一首國造小縣郡他田舎人大嶋 ( / 二月廿二日信濃國防人部領使上道得病不来 進歌<數>十二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]茂 -> 武 [元][類] / 曽 -> 宗 [元][春] / 奴 -> 怒 [元][類][細]

[事項]天平勝宝7年2月22日 年紀 作者:他田舎人大嶋 防人歌 悲別 悲嘆 長野

[訓異]からころむ,[寛]からころも,

すそにとりつき[寛],

なくこらを[寛],

おきてぞきのや,[寛]おきてそきぬや,

おもなしにして[寛],


[歌番号]20/4402

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]知波夜布留 賀美乃美佐賀尓 奴佐麻都<里> 伊波<布>伊能知波 意毛知々我多米

[訓読]ちはやぶる神の御坂に幣奉り斎ふ命は母父がため

[仮名]ちはやふる かみのみさかに ぬさまつり いはふいのちは おもちちがため

[左注]右一首主帳埴科郡神人部子忍男 ( / 二月廿二日信濃國防人部領使上道得病不来 進歌<數>十二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]里 -> 理 [元][春] / 負 -> 布 [元][春]

[事項]天平勝宝7年2月22日 年紀 作者:神人部子忍男 防人歌 羈旅 手向醎 地名 長野 悲別

[訓異]ちはやぶる,[寛]ちはやふる

かみのみさかに[寛],

ぬさまつり[寛],

いはふいのちは[寛],

おもちちがため,[寛]おもちちかため,


[歌番号]20/4403

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]意保枳美能 美己等可之古美 阿乎久<牟>乃 <等能>妣久夜麻乎 古与弖伎怒加牟

[訓読]大君の命畏み青雲のとのびく山を越よて来ぬかむ

[仮名]おほきみの みことかしこみ あをくむの とのびくやまを こよてきぬかむ

[左注]右一首小長谷部笠麻呂 / 二月廿二日信濃國防人部領使上道得病不来 進歌<數>十二首 但拙劣歌者不取載之

[校異]毛 -> 牟 [元][類][紀] / 多奈 -> 等能 [元] / <> -> 數 [元][細]

[事項]天平勝宝7年2月22日 年紀 作者:小長谷部笠麻呂 防人歌 羈旅 長野

[訓異]おほきみの[寛],

みことかしこみ[寛],

あをくむの,[寛]あをくもの,

とのびくやまを,[寛]たなひくやまを,

こよてきぬかむ,[寛]こえてきぬかも,


[歌番号]20/4404

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]奈尓波治乎 由伎弖久麻弖等 和藝毛古賀 都氣之非毛我乎 多延尓氣流可母

[訓読]難波道を行きて来までと我妹子が付けし紐が緒絶えにけるかも

[仮名]なにはぢを ゆきてくまでと わぎもこが つけしひもがを たえにけるかも

[左注]右一首助丁上毛野牛甘 ( / 二月廿三日上野國防人部領使大目正六位下上毛野君駿河進歌數十二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月23日 年紀 作者:上毛野牛甘 防人歌 地名 難波 大阪 望郷 悲別 悲嘆 群馬 上毛野駿河

[訓異]なにはぢを,[寛]なにはちを,

ゆきてくまでと,[寛]ゆきてくまてと,

わぎもこが,[寛]わきもこか,

つけしひもがを,[寛]つけしひもかを,

たえにけるかも[寛],


[歌番号]20/4405

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和我伊母古我 志濃比尓西餘等 都氣志<非>毛 伊刀尓奈流等母 和波等可自等余

[訓読]我が妹子が偲ひにせよと付けし紐糸になるとも我は解かじとよ

[仮名]わがいもこが しぬひにせよと つけしひも いとになるとも わはとかじとよ

[左注]右一首朝倉益人 ( / 二月廿三日上野國防人部領使大目正六位下上毛野君駿河進歌數十二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]比 -> 非 [元][春]

[事項]天平勝宝7年2月23日 年紀 作者:朝倉益人 防人歌 悲別 恋情 群馬 上毛野駿河

[訓異]わがいもこが,[寛]わかいもこか,

しぬひにせよと,[寛]しのひにせよと,

つけしひも[寛],

いとになるとも[寛],

わはとかじとよ,[寛]わはとかしとよ,


[歌番号]20/4406

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和我伊波呂尓 由加毛比等母我 久佐麻久良 多妣波久流之等 都氣夜良麻久母

[訓読]我が家ろに行かも人もが草枕旅は苦しと告げ遣らまくも

[仮名]わがいはろに ゆかもひともが くさまくら たびはくるしと つげやらまくも

[左注]右一首大伴部節麻呂 ( / 二月廿三日上野國防人部領使大目正六位下上毛野君駿河進歌數十二首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月23日 年紀 作者:大伴部節麻呂 防人歌 群馬 上毛野駿河 枕詞 望郷 悲別

[訓異]わがいはろに,[寛]わかいはろに,

ゆかもひともが,[寛]ゆかもひともか,

くさまくら[寛],

たびはくるしと,[寛]たひはくるしと,

つげやらまくも,[寛]つけやらまくも,


[歌番号]20/4407

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]比奈久母理 宇須比乃佐可乎 古延志太尓 伊毛賀古比之久 和須良延奴加母

[訓読]ひな曇り碓氷の坂を越えしだに妹が恋しく忘らえぬかも

[仮名]ひなくもり うすひのさかを こえしだに いもがこひしく わすらえぬかも

[左注]右一首他田部子磐前 / 二月廿三日上野國防人部領使大目正六位下上毛野君駿河進歌數十二首 但拙劣歌者不取載之

[校異]賀 [元][春] 駕

[事項]天平勝宝7年2月23日 年紀 作者:他田部子磐前 防人歌 群馬 上毛野駿河 悲別 羈旅 地名 望郷 枕詞

[訓異]ひなくもり[寛],

うすひのさかを[寛],

こえしだに,[寛]こえしたに,

いもがこひしく,[寛]いもかこひしく,

わすらえぬかも,[寛]わすらえめかも,


[歌番号]20/4408

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)陳防人悲別之情歌一首[并短歌]

[原文]大王乃 麻氣乃麻尓々々 嶋守尓 和我多知久礼婆 波々蘇婆能 波々能美許等波 美母乃須蘇 都美安氣可伎奈埿 知々能未乃 知々能美許等波 多久頭<努>能 之良比氣乃宇倍由 奈美太多利 奈氣伎乃多婆久 可胡自母乃 多太比等里之氐 安佐刀埿乃 可奈之伎吾子 安良多麻乃 等之能乎奈我久 安比美受波 古非之久安流倍之 今日太<尓>母 許等騰比勢武等 乎之美都々 可奈之備麻勢婆 若草之 都麻母古騰母毛 乎知己知尓 左波尓可久美為 春鳥乃 己恵乃佐麻欲比 之路多倍乃 蘇埿奈伎奴良之 多豆佐波里 和可礼加弖尓等 比伎等騰米 之多比之毛能乎 天皇乃 美許等可之古美 多麻保己乃 美知尓出立 乎可<乃>佐伎 伊多牟流其等尓 与呂頭多妣 可弊里見之都追 波呂々々尓 和可礼之久礼婆 於毛布蘇良 夜須久母安良受 古布流蘇良 久流之伎毛乃乎 宇都世美乃 与能比等奈礼婆 多麻伎波流 伊能知母之良受 海原乃 可之古伎美知乎 之麻豆多比 伊己藝和多利弖 安里米具利 和我久流麻埿尓 多比良氣久 於夜波伊麻佐祢 都々美奈久 都麻波麻多世等 須美乃延能 安我須賣可未尓 奴佐麻都利 伊能里麻乎之弖 奈尓波都尓 船乎宇氣須恵 夜蘇加奴伎 可古<等登>能倍弖 安佐婢良伎 和波己藝埿奴等 伊弊尓都氣己曽

[訓読]大君の 任けのまにまに 島守に 我が立ち来れば ははそ葉の 母の命は み裳の裾 摘み上げ掻き撫で ちちの実の 父の命は 栲づのの 白髭の上ゆ 涙垂り 嘆きのたばく 鹿子じもの ただ独りして 朝戸出の 愛しき我が子 あらたまの 年の緒長く 相見ずは 恋しくあるべし 今日だにも 言問ひせむと 惜しみつつ 悲しびませば 若草の 妻も子どもも をちこちに さはに囲み居 春鳥の 声のさまよひ 白栲の 袖泣き濡らし たづさはり 別れかてにと 引き留め 慕ひしものを 大君の 命畏み 玉桙の 道に出で立ち 岡の崎 い廻むるごとに 万たび かへり見しつつ はろはろに 別れし来れば 思ふそら 安くもあらず 恋ふるそら 苦しきものを うつせみの 世の人なれば たまきはる 命も知らず 海原の 畏き道を 島伝ひ い漕ぎ渡りて あり廻り 我が来るまでに 平けく 親はいまさね つつみなく 妻は待たせと 住吉の 我が統め神に 幣奉り 祈り申して 難波津に 船を浮け据ゑ 八十楫貫き 水手ととのへて 朝開き 我は漕ぎ出ぬと 家に告げこそ

[仮名]おほきみの まけのまにまに しまもりに わがたちくれば ははそばの ははのみことは みものすそ つみあげかきなで ちちのみの ちちのみことは たくづのの しらひげのうへゆ なみだたり なげきのたばく かこじもの ただひとりして あさとでの かなしきあがこ あらたまの としのをながく あひみずは こひしくあるべし けふだにも ことどひせむと をしみつつ かなしびませば わかくさの つまもこどもも をちこちに さはにかくみゐ はるとりの こゑのさまよひ しろたへの そでなきぬらし たづさはり わかれかてにと ひきとどめ したひしものを おほきみの みことかしこみ たまほこの みちにいでたち をかのさき いたむるごとに よろづたび かへりみしつつ はろはろに わかれしくれば おもふそら やすくもあらず こふるそら くるしきものを うつせみの よのひとなれば たまきはる いのちもしらず うなはらの かしこきみちを しまづたひ いこぎわたりて ありめぐり わがくるまでに たひらけく おやはいまさね つつみなく つまはまたせと すみのえの あがすめかみに ぬさまつり いのりまをして なにはつに ふねをうけすゑ やそかぬき かこととのへて あさびらき わはこぎでぬと いへにつげこそ

[左注](二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]短歌 [西] 短謌 / 怒 -> 努 [元][類] / 仁 -> 尓 [類] / 之 -> 乃 [元][類] / 登々 -> 等登 [元]

[事項]天平勝宝7年2月23日 年紀 作者:大伴家持 防人歌 悲別 同情 望郷

[訓異]おほきみの[寛],

まけのまにまに[寛],

しまもりに,[寛]さきもりに,

わがたちくれば,[寛]わかたちくれは,

ははそばの,[寛]ははそはの,

ははのみことは[寛],

みものすそ[寛],

つみあげかきなで,[寛]つみあけかきなて,

ちちのみの[寛],

ちちのみことは[寛],

たくづのの,[寛]たくつのの,

しらひげのうへゆ,[寛]しらひけのうへゆ,

なみだたり,[寛]なみたたり,

なげきのたばく,[寛]なけきのたはく,

かこじもの,[寛]かこしもの,

ただひとりして,[寛]たたひとりして,

あさとでの,[寛]あさとての,

かなしきあがこ,[寛]かなしきわかこ,

あらたまの[寛],

としのをながく,[寛]としのをなかく,

あひみずは,[寛]あひみすは,

こひしくあるべし,[寛]こひしくあるへし,

けふだにも,[寛]けふたにも,

ことどひせむと,[寛]こととひせむと,

をしみつつ[寛],

かなしびませば,[寛]かなしひいませ,

わかくさの[寛],

つまもこどもも,[寛]つまもこともも,

をちこちに[寛],

さはにかくみゐ[寛],

はるとりの,[寛]うくひすの,

こゑのさまよひ[寛],

しろたへの[寛],

そでなきぬらし,[寛]そてなきぬらし,

たづさはり,[寛]たつさはり,

わかれかてにと[寛],

ひきとどめ,[寛]ひきととめ,

したひしものを[寛],

おほきみの,[寛]すめろきの,

みことかしこみ[寛],

たまほこの[寛],

みちにいでたち,[寛]みちにいてたち,

をかのさき,[寛]をかしさき,

いたむるごとに,[寛]いたむることに,

よろづたび,[寛]よろつたひ,

かへりみしつつ[寛],

はろはろに[寛],

わかれしくれば,[寛]わかれしくれは,

おもふそら[寛],

やすくもあらず,[寛]やすくもあらす,

こふるそら[寛],

くるしきものを[寛],

うつせみの[寛],

よのひとなれば,[寛]よのひとなれは,

たまきはる[寛],

いのちもしらず,[寛]いのちもしらす,

うなはらの[寛],

かしこきみちを[寛],

しまづたひ,[寛]しまつたひ,

いこぎわたりて,[寛]いこきわたりて,

ありめぐり,[寛]ありめくり,

わがくるまでに,[寛]わかくるまてに,

たひらけく[寛],

おやはいまさね[寛],

つつみなく[寛],

つまはまたせと[寛],

すみのえの[寛],

あがすめかみに,[寛]あかすめかみに,

ぬさまつり[寛],

いのりまをして[寛],

なにはつに[寛],

ふねをうけすゑ[寛],

やそかぬき[寛],

かこととのへて[寛],

あさびらき,[寛]あさひらき,

わはこぎでぬと,[寛]わはこきてぬと,

いへにつげこそ,[寛]いへにつけこそ,


[歌番号]20/4409

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳防人悲別之情歌一首[并短歌])

[原文]伊弊婢等乃 伊波倍尓可安良牟 多比良氣久 布奈埿波之奴等 於夜尓麻乎佐祢

[訓読]家人の斎へにかあらむ平けく船出はしぬと親に申さね

[仮名]いへびとの いはへにかあらむ たひらけく ふなではしぬと おやにまをさね

[左注](二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月23日 年紀 作者:大伴家持 悲別 防人歌 望郷 同情

[訓異]いへびとの,[寛]いへひとの,

いはへにかあらむ[寛],

たひらけく[寛],

ふなではしぬと,[寛]ふなてはしぬと,

おやにまをさね[寛],


[歌番号]20/4410

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳防人悲別之情歌一首[并短歌])

[原文]美蘇良由久 々母々都可比等 比等波伊倍等 伊弊頭刀夜良武 多豆伎之良受母

[訓読]み空行く雲も使と人は言へど家づと遣らむたづき知らずも

[仮名]みそらゆく くももつかひと ひとはいへど いへづとやらむ たづきしらずも

[左注](二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月23日 年紀 作者:大伴家持 防人歌 望郷 悲別

[訓異]みそらゆく[寛],

くももつかひと[寛],

ひとはいへど,[寛]ひとはいへと,

いへづとやらむ,[寛]いへつとやらむ,

たづきしらずも,[寛]たつきしらすも,


[歌番号]20/4411

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳防人悲別之情歌一首[并短歌])

[原文]伊弊都刀尓 可比曽比里弊流 波麻奈美波 伊也<之>久々々二 多可久与須礼騰

[訓読]家づとに貝ぞ拾へる浜波はいやしくしくに高く寄すれど

[仮名]いへづとに かひぞひりへる はまなみは いやしくしくに たかくよすれど

[左注](二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]之之 -> 之 [西(訂正)][元][類][紀]

[事項]天平勝宝7年2月23日 年紀 作者:大伴家持 防人歌 望郷 悲別 同情

[訓異]いへづとに,[寛]いへつとに,

かひぞひりへる,[寛]かひそひりへる,

はまなみは[寛],

いやしくしくに[寛],

たかくよすれど,[寛]たかくよすれと,


[歌番号]20/4412

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)(陳防人悲別之情歌一首[并短歌])

[原文]之麻可氣尓 和我布祢波弖氐 都氣也良牟 都可比乎奈美也 古非都々由加牟

[訓読]島蔭に我が船泊てて告げ遣らむ使を無みや恋ひつつ行かむ

[仮名]しまかげに わがふねはてて つげやらむ つかひをなみや こひつつゆかむ

[左注]二月廿三日兵部少輔大伴宿祢家持

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月23日 年紀 作者:大伴家持 防人歌 望郷 同情 恋情

[訓異]しまかげに,[寛]しまかけに,

わがふねはてて,[寛]わかふねはてて,

つげやらむ,[寛]つけやらむ,

つかひをなみや[寛],

こひつつゆかむ[寛],


[歌番号]20/4413

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]麻久良多之 己志尓等里波伎 麻可奈之伎 西呂我馬伎己無 都久乃之良奈久

[訓読]枕太刀腰に取り佩きま愛しき背ろが罷き来む月の知らなく

[仮名]まくらたし こしにとりはき まかなしき せろがまきこむ つくのしらなく

[左注]右一首上丁那珂郡桧前舎人石前之妻大伴<部>真足女 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]<> -> 部 [元]

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:桧前舎人石前妻:大伴部真足女 防人歌 埼玉 安曇三國 女歌 悲別

[訓異]まくらたし,[寛]まくらたち,

こしにとりはき[寛],

まかなしき[寛],

せろがまきこむ,[寛]せろかまきこむ,

つくのしらなく[寛],


[歌番号]20/4414

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]於保伎美乃 美己等可之古美 宇都久之氣 麻古我弖波奈利 之末豆多比由久

[訓読]大君の命畏み愛しけ真子が手離り島伝ひ行く

[仮名]おほきみの みことかしこみ うつくしけ まこがてはなり しまづたひゆく

[左注]右一首助丁秩父郡大伴部小歳 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:大伴部小歳 防人歌 埼玉 安曇三國 悲別 羈旅

[訓異]おほきみの[寛],

みことかしこみ[寛],

うつくしけ[寛],

まこがてはなり,[寛]まこかてはなれ,

しまづたひゆく,[寛]しまつたひゆく,


[歌番号]20/4415

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]志良多麻乎 弖尓刀里母之弖 美流乃須母 伊弊奈流伊母乎 麻多美弖毛母也

[訓読]白玉を手に取り持して見るのすも家なる妹をまた見てももや

[仮名]しらたまを てにとりもして みるのすも いへなるいもを またみてももや

[左注]右一首主帳荏原郡物部歳徳 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:物部歳徳 防人歌 埼玉 安曇三國 悲別 恋情 望郷

[訓異]しらたまを[寛],

てにとりもして[寛],

みるのすも[寛],

いへなるいもを[寛],

またみてももや[寛],


[歌番号]20/4416

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]久佐麻久良 多比由苦世奈我 麻流祢世婆 伊波奈流和礼波 比毛等加受祢牟

[訓読]草枕旅行く背なが丸寝せば家なる我れは紐解かず寝む

[仮名]くさまくら たびゆくせなが まるねせば いはなるわれは ひもとかずねむ

[左注]右一首妻椋椅部刀自賣 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:妻椋椅部刀自賣 防人歌 枕詞 女歌 留守 恋情 埼玉 安曇三國

[訓異]くさまくら[寛],

たびゆくせなが,[寛]たひゆくせなか,

まるねせば,[寛]まるねせは,

いはなるわれは[寛],

ひもとかずねむ,[寛]ひもとかすねむ,


[歌番号]20/4417

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿加胡麻乎 夜麻努尓波賀志 刀里加尓弖 多麻<能>余許夜麻 加志由加也良牟

[訓読]赤駒を山野にはがし捕りかにて多摩の横山徒歩ゆか遣らむ

[仮名]あかごまを やまのにはがし とりかにて たまのよこやま かしゆかやらむ

[左注]右一首豊嶋郡上丁椋椅部荒虫之妻宇遅部黒女 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]乃 -> 能 [元][類]

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:椋椅部荒虫妻:宇遅部黒女 防人歌 地名 女歌 埼玉 安曇三國 恋情

[訓異]あかごまを,[寛]あかこまを,

やまのにはがし[寛]やまのにはかし,

とりかにて[寛],

たまのよこやま[寛],

かしゆかやらむ[寛],


[歌番号]20/4418

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和我可度乃 可多夜麻都婆伎 麻己等奈礼 和我弖布礼奈々 都知尓於知母加毛

[訓読]我が門の片山椿まこと汝れ我が手触れなな土に落ちもかも

[仮名]わがかどの かたやまつばき まことなれ わがてふれなな つちにおちもかも

[左注]右一首荏原郡上丁物部廣足 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:物部廣足 防人歌 植物 恋情 埼玉 安曇三國

[訓異]わがかどの,[寛]わかかとの,

かたやまつばき,[寛]かたやまつはき,

まことなれ[寛],

わがてふれなな,[寛]わかてふれなな,

つちにおちもかも[寛],


[歌番号]20/4419

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]伊波呂尓波 安之布多氣騰母 須美与氣乎 都久之尓伊多里弖 古布志氣毛波母

[訓読]家ろには葦火焚けども住みよけを筑紫に至りて恋しけ思はも

[仮名]いはろには あしふたけども すみよけを つくしにいたりて こふしけもはも

[左注]右一首橘樹郡上丁物部真根 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:物部真根 防人歌 埼玉 安曇三國 望郷 恋情 地名

[訓異]いはろには[寛],

あしふたけども,[寛]あしふたけとも,

すみよけを,[寛]すみよけむ,

つくしにいたりて[寛],

こふしけもはも[寛],


[歌番号]20/4420

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]久佐麻久良 多妣乃麻流祢乃 比毛多要婆 安我弖等都氣呂 許礼乃波流母志

[訓読]草枕旅の丸寝の紐絶えば我が手と付けろこれの針持し

[仮名]くさまくら たびのまるねの ひもたえば あがてとつけろ これのはるもし

[左注]右一首椋<椅>部弟女 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]埼 -> 椅 [類][紀][古]

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:椋椅部弟女 防人歌 埼玉 安曇三國 枕詞 女歌 恋情

[訓異]くさまくら[寛],

たびのまるねの,[寛]たひのまるねの,

ひもたえば,[寛]ひもたえは,

あがてとつけろ,[寛]あかてとつけろ,

これのはるもし[寛],


[歌番号]20/4421

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和我由伎乃 伊伎都久之可婆 安之我良乃 美祢波保久毛乎 美等登志努波祢

[訓読]我が行きの息づくしかば足柄の峰延ほ雲を見とと偲はね

[仮名]わがゆきの いきづくしかば あしがらの みねはほくもを みととしのはね

[左注]右一首都筑郡上丁服部於<由> ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]祢 [類] 祢尓 / 田 -> 由 [元][万葉考]

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:服部於由 防人歌 埼玉 安曇三國 地名 恋情

[訓異]わがゆきの,[寛]わかゆきの,

いきづくしかば,[寛]いきつくしかは,

あしがらの,[寛]あしからの,

みねはほくもを[寛],

みととしのはね[寛],


[歌番号]20/4422

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和我世奈乎 都久之倍夜里弖 宇都久之美 於妣<波>等可奈々 阿也尓加母祢毛

[訓読]我が背なを筑紫へ遣りて愛しみ帯は解かななあやにかも寝も

[仮名]わがせなを つくしへやりて うつくしみ おびはとかなな あやにかもねも

[左注]右一首妻服部呰女 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]婆 -> 波 [元][類][紀][細]

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:妻服部呰女 防人歌 女歌 恋情 埼玉 安曇三國

[訓異]わがせなを,[寛]わかせなを,

つくしへやりて[寛],

うつくしみ[寛],

おびはとかなな,[寛]おひはとかなな,

あやにかもねも[寛],


[歌番号]20/4423

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]安之我良乃 美佐可尓多志弖 蘇埿布良波 伊波奈流伊毛波 佐夜尓美毛可母

[訓読]足柄の御坂に立して袖振らば家なる妹はさやに見もかも

[仮名]あしがらの みさかにたして そでふらば いはなるいもは さやにみもかも

[左注]右一首埼玉郡上丁藤原部等母麻呂 ( / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之)

[校異]波 [元](塙) 婆

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:藤原部等母麻呂 防人歌 埼玉 安曇三國 地名 望郷 恋情

[訓異]あしがらの,[寛]あしからの,

みさかにたして[寛],

そでふらば,[寛]そてふらは,

いはなるいもは[寛],

さやにみもかも[寛],


[歌番号]20/4424

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]伊呂夫可久 世奈我許呂母波 曽米麻之乎 美佐可多婆良婆 麻佐夜可尓美無

[訓読]色深く背なが衣は染めましをみ坂給らばまさやかに見む

[仮名]いろぶかく せながころもは そめましを みさかたばらば まさやかにみむ

[左注]右一首妻物部刀自賣 / 二月廿<九>日武蔵國部領防人使掾正六位上安曇宿祢三國進歌數廿首 但拙劣歌者不取載之

[校異]<> -> 九 [古]

[事項]天平勝宝7年2月29日 年紀 作者:妻物部刀自賣 防人歌 埼玉 安曇三國 女歌 恋情

[訓異]いろぶかく,[寛]いろふかく,

せながころもは,[寛]せなかころもは,

そめましを[寛],

みさかたばらば,[寛]みさかたはらは,

まさやかにみむ[寛],


[歌番号]20/4425

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]佐伎毛利尓 由久波多我世登 刀布比登乎 美流我登毛之佐 毛乃母比毛世受

[訓読]防人に行くは誰が背と問ふ人を見るが羨しさ物思ひもせず

[仮名]さきもりに ゆくはたがせと とふひとを みるがともしさ ものもひもせず

[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月 年紀 防人歌 古歌 伝誦 磐余諸君 女歌 恋情

[訓異]さきもりに[寛],

ゆくはたがせと,[寛]ゆくはたかせと,

とふひとを[寛],

みるがともしさ,[寛]みるかともしさ,

ものもひもせず,[寛]ものもひもせす,


[歌番号]20/4426

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿米都之乃 可未尓奴佐於伎 伊波比都々 伊麻世和我世奈 阿礼乎之毛波婆

[訓読]天地の神に幣置き斎ひつついませ我が背な我れをし思はば

[仮名]あめつしの かみにぬさおき いはひつつ いませわがせな あれをしもはば

[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月 年紀 防人歌 古歌 伝誦 女歌 恋情 磐余諸君

[訓異]あめつしの[寛],

かみにぬさおき[寛],

いはひつつ[寛],

いませわがせな,[寛]いませわかせな,

あれをしもはば,[寛]あれをしもはは,


[歌番号]20/4427

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]伊波乃伊毛呂 和乎之乃布良之 麻由須比尓 由須比之比毛乃 登久良久毛倍婆

[訓読]家の妹ろ我を偲ふらし真結ひに結ひし紐の解くらく思へば

[仮名]いはのいもろ わをしのふらし まゆすひに ゆすひしひもの とくらくもへば

[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月 年紀 防人歌 古歌 伝誦 磐余諸君 恋情 望郷

[訓異]いはのいもろ[寛],

わをしのふらし[寛],

まゆすひに[寛],

ゆすひしひもの[寛],

とくらくもへば,[寛]とくらくもへは,


[歌番号]20/4428

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]和我世奈乎 都久志波夜利弖 宇都久之美 叡比波登加奈々 阿夜尓可毛祢牟

[訓読]我が背なを筑紫は遣りて愛しみえひは解かななあやにかも寝む

[仮名]わがせなを つくしはやりて うつくしみ えひはとかなな あやにかもねむ

[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月 年紀 防人歌 古歌 伝誦 女歌 地名 恋情

[訓異]わがせなを,[寛]わかせなを,

つくしはやりて[寛],

うつくしみ[寛],

えひはとかなな[寛],

あやにかもねむ[寛],


[歌番号]20/4429

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]宇麻夜奈流 奈波多都古麻乃 於久流我弁 伊毛我伊比之乎 於岐弖可奈之毛

[訓読]馬屋なる縄立つ駒の後るがへ妹が言ひしを置きて悲しも

[仮名]うまやなる なはたつこまの おくるがへ いもがいひしを おきてかなしも

[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月 年紀 防人歌 古歌 伝誦 悲別 恋情 磐余諸君

[訓異]うまやなる[寛],

なはたつこまの[寛],

おくるがへ,[寛]おくるかへ,

いもがいひしを,[寛]いもかいひしを,

おきてかなしも[寛],


[歌番号]20/4430

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]阿良之乎乃 伊乎佐太波佐美 牟可比多知 可奈流麻之都美 伊埿弖登阿我久流

[訓読]荒し男のいをさ手挟み向ひ立ちかなるましづみ出でてと我が来る

[仮名]あらしをの いをさたはさみ むかひたち かなるましづみ いでてとあがくる

[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月 年紀 防人歌 古歌 伝誦 磐余諸君 序詞 出発 羈旅

[訓異]あらしをの[寛],

いをさたはさみ[寛],

むかひたち[寛],

かなるましづみ,[寛]かなるましつみ,

いでてとあがくる,[寛]いててとあかくる,


[歌番号]20/4431

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]佐左賀波乃 佐也久志毛用尓 奈々弁加流 去呂毛尓麻世流 古侶賀波太波毛

[訓読]笹が葉のさやぐ霜夜に七重着る衣に増せる子ろが肌はも

[仮名]ささがはの さやぐしもよに ななへかる ころもにませる ころがはだはも

[左注](右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年2月 年紀 防人歌 古歌 伝誦 望郷 恋情 磐余諸君

[訓異]ささがはの,[寛]ささかはの,

さやぐしもよに,[寛]さやくしもよに,

ななへかる[寛],

ころもにませる[寛],

ころがはだはも,[寛]ころかはたはも,


[歌番号]20/4432

[題詞](天平勝寳七歳乙未二月相替遣筑紫諸國防人等歌)

[原文]佐弁奈弁奴 美許登尓阿礼婆 可奈之伊毛我 多麻久良波奈礼 阿夜尓可奈之毛

[訓読]障へなへぬ命にあれば愛し妹が手枕離れあやに悲しも

[仮名]さへなへぬ みことにあれば かなしいもが たまくらはなれ あやにかなしも

[左注]右八首昔<年>防人歌矣 主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君抄寫 贈兵部少輔大伴宿祢家持

[校異]年 [西(上書訂正)][元][紀][古]

[事項]天平勝宝7年2月 年紀 防人歌 古歌 伝誦 磐余諸君 悲別 恋情

[訓異]さへなへぬ[寛],

みことにあれば,[寛]みことにあれは,

かなしいもが,[寛]かなしいもか,

たまくらはなれ[寛],

あやにかなしも[寛],


[歌番号]20/4433

[題詞]三月三日檢校防人 勅使并兵部使人等同集飲宴作歌三首

[原文]阿佐奈佐奈 安我流比婆理尓 奈里弖之可 美也古尓由伎弖 波夜加弊里許牟

[訓読]朝な朝な上がるひばりになりてしか都に行きて早帰り来む

[仮名]あさなさな あがるひばりに なりてしか みやこにゆきて はやかへりこむ

[左注]右一首勅使紫微大弼安倍沙<美>麻呂朝臣

[校異]祢 -> 美 [元][類]

[事項]天平勝宝7年3月3日 年紀 作者:安倍沙美麻呂 宴席 動物 望郷 防人検校 大阪

[訓異]あさなさな[寛],

あがるひばりに,[寛]あかるひはりに,

なりてしか[寛],

みやこにゆきて[寛],

はやかへりこむ[寛],


[歌番号]20/4434

[題詞](三月三日檢校防人 勅使并兵部使人等同集飲宴作歌三首)

[原文]比婆里安我流 波流弊等佐夜尓 奈理奴礼波 美夜古母美要受 可須美多奈妣久

[訓読]ひばり上がる春へとさやになりぬれば都も見えず霞たなびく

[仮名]ひばりあがる はるへとさやに なりぬれば みやこもみえず かすみたなびく

[左注](右二首兵部使少輔大伴宿祢家持)

[校異]婆 [元][類] 波

[事項]天平勝宝7年3月3日 年紀 作者:大伴家持 動物 叙景 宴席 防人検校 大阪

[訓異]ひばりあがる,[寛]ひはりあかる,

はるへとさやに[寛],

なりぬれば,[寛]なりぬれは,

みやこもみえず,[寛]みやこもみえす,

かすみたなびく,[寛]かすみたなひく,


[歌番号]20/4435

[題詞](三月三日檢校防人 勅使并兵部使人等同集飲宴作歌三首)

[原文]布敷賣里之 波奈乃波自米尓 許之和礼夜 知里奈牟能知尓 美夜古敝由可無

[訓読]ふふめりし花の初めに来し我れや散りなむ後に都へ行かむ

[仮名]ふふめりし はなのはじめに こしわれや ちりなむのちに みやこへゆかむ

[左注]右二首兵部使少輔大伴宿祢家持

[校異]使 [西(朱筆消去)][元][紀]

[事項]天平勝宝7年3月3日 年紀 作者:大伴家持 望郷 防人検校 宴席 大阪

[訓異]ふふめりし[寛],

はなのはじめに,[寛]はなのはしめに,

こしわれや[寛],

ちりなむのちに[寛],

みやこへゆかむ[寛],


[歌番号]20/4436

[題詞]昔年相替防人歌一首

[原文]夜未乃欲能 由久左伎之良受 由久和礼乎 伊都伎麻<佐>牟等 登比之古良波母

[訓読]闇の夜の行く先知らず行く我れをいつ来まさむと問ひし子らはも

[仮名]やみのよの ゆくさきしらず ゆくわれを いつきまさむと とひしこらはも

[左注](右件四首上総國大<掾>正六位上大原真人今城傳誦云尓 [年月未詳])

[校異]左 -> 佐 [元][類]

[事項]防人歌 古歌 伝誦 恋情 出発 大原今城

[訓異]やみのよの[寛],

ゆくさきしらず,[寛]ゆくさきしらす,

ゆくわれを,[寛]ゆくわれや,

いつきまさむと[寛],

とひしこらはも[寛],


[歌番号]20/4437

[題詞]先太上天皇御製霍公鳥歌一首 [日本根子高瑞日清足姫天皇也]

[原文]冨等登藝須 奈保毛奈賀那牟 母等都比等 可氣都々母等奈 安乎祢之奈久母

[訓読]霍公鳥なほも鳴かなむ本つ人かけつつもとな我を音し泣くも

[仮名]ほととぎす なほもなかなむ もとつひと かけつつもとな あをねしなくも

[左注](右件四首上総國大<掾>正六位上大原真人今城傳誦云尓 [年月未詳])

[校異]歌 [西] 謌

[事項]作者:元正天皇 古歌 伝誦 大原今城 動物 悲嘆 懐古

[訓異]ほととぎす,[寛]ほとときす,

なほもなかなむ[寛],

もとつひと[寛],

かけつつもとな[寛],

あをねしなくも[寛],


[歌番号]20/4438

[題詞]薩妙觀應詔奉和歌一首

[原文]保等登藝須 許々尓知可久乎 伎奈伎弖余 須疑奈<无>能知尓 之流志安良米夜母

[訓読]霍公鳥ここに近くを来鳴きてよ過ぎなむ後に験あらめやも

[仮名]ほととぎす ここにちかくを きなきてよ すぎなむのちに しるしあらめやも

[左注](右件四首上総國大<掾>正六位上大原真人今城傳誦云尓 [年月未詳])

[校異]歌 [西] 謌 / 無 -> 无 [元][類]

[事項]作者:薩妙觀 古歌 伝誦 動物 大原今城 応詔

[訓異]ほととぎす,[寛]ほとときす,

ここにちかくを[寛],

きなきてよ[寛],

すぎなむのちに,[寛]すきなむのちに,

しるしあらめやも[寛],


[歌番号]20/4439

[題詞]冬日幸于靱負御井之時内命婦石川朝臣應詔賦雪歌一首 [諱曰邑婆]

[原文]麻都我延乃 都知尓都久麻埿 布流由伎乎 美受弖也伊毛我 許母里乎流良牟

[訓読]松が枝の土に着くまで降る雪を見ずてや妹が隠り居るらむ

[仮名]まつがえの つちにつくまで ふるゆきを みずてやいもが こもりをるらむ

[左注]于時水主内親王寝膳不安累日不参 因以此日太上天皇勅侍嬬等曰 為遣水主内親王賦雪作歌奉獻者 於是諸命婦等不堪作歌而此石川命婦 獨此歌奏之 / 右件四首上総國大<掾>正六位上大原真人今城傳誦云尓 [年月未詳]

[校異]様 -> 掾 [西(朱訂正右書)][元][紀][細]

[事項]作者:石川郎女 古歌 伝誦 宮廷 応詔 水主内親王 見舞媿 元正天皇

[訓異]まつがえの,[寛]まつかえの,

つちにつくまで,[寛]つちにつくまて,

ふるゆきを[寛],

みずてやいもが,[寛]みすてやいもか,

こもりをるらむ[寛],


[歌番号]20/4440

[題詞]上総國朝集使大<掾>大原真人今城向京之時郡司妻女等餞之歌二首

[原文]安之我良乃 夜敝也麻故要弖 伊麻之奈波 多礼乎可伎美等 弥都々志努波牟

[訓読]足柄の八重山越えていましなば誰れをか君と見つつ偲はむ

[仮名]あしがらの やへやまこえて いましなば たれをかきみと みつつしのはむ

[左注]なし

[校異]様 -> 掾 [元][類][紀]

[事項]作者:上総国郡司妻 大原今城 羈旅 出発 千葉 地名 恋情 餞別

[訓異]あしがらの,[寛]あしからの,

やへやまこえて[寛],

いましなば,[寛]いましなは,

たれをかきみと[寛],

みつつしのはむ[寛],


[歌番号]20/4441

[題詞](上総國朝集使大<掾>大原真人今城向京之時郡司妻女等餞之歌二首)

[原文]多知之奈布 伎美我須我多乎 和須礼受波 与能可藝里尓夜 故非和多里奈無

[訓読]立ちしなふ君が姿を忘れずは世の限りにや恋ひわたりなむ

[仮名]たちしなふ きみがすがたを わすれずは よのかぎりにや こひわたりなむ

[左注]なし

[校異]なし

[事項]作者:上総国郡司妻 大原今城 羈旅 出発 千葉 恋情 餞別

[訓異]たちしなふ[寛],

きみがすがたを,[寛]きみかすかたを,

わすれずは,[寛]わすれすは,

よのかぎりにや,[寛]よのかきりにや,

こひわたりなむ[寛],


[歌番号]20/4442

[題詞]五月九日兵部少輔大伴宿祢家持之宅集宴<歌>四首

[原文]和我勢故我 夜度乃奈弖之故 比奈良倍弖 安米波布礼杼母 伊呂毛可波良受

[訓読]我が背子が宿のなでしこ日並べて雨は降れども色も変らず

[仮名]わがせこが やどのなでしこ ひならべて あめはふれども いろもかはらず

[左注]右一首大原真人今城

[校異]<> -> 歌 [元][細][温]

[事項]天平勝宝7年5月9日 年紀 作者:大原今城 宴席 植物 大伴家持 主人讃美

[訓異]わがせこが,[寛]わかせこか,

やどのなでしこ,[寛]やとのなてしこ,

ひならべて,[寛]ひならへて,

あめはふれども,[寛]あめはふれとも,

いろもかはらず,[寛]いろもかはらす,


[歌番号]20/4443

[題詞](五月九日兵部少輔大伴宿祢家持之宅集宴<歌>四首)

[原文]比佐可多<能> 安米波布里之久 奈弖之故我 伊夜波都波奈尓 故非之伎和我勢

[訓読]ひさかたの雨は降りしくなでしこがいや初花に恋しき我が背

[仮名]ひさかたの あめはふりしく なでしこが いやはつはなに こひしきわがせ

[左注]右一首大伴宿祢家持

[校異]乃 -> 能 [元][類]

[事項]天平勝宝7年5月9日 年紀 作者:大伴家持 植物 大原今城 客讃美 宴席 枕詞 恋情

[訓異]ひさかたの[寛],

あめはふりしく[寛],

なでしこが,[寛]なてしこか,

いやはつはなに[寛],

こひしきわがせ,[寛]こひしきわかせ,


[歌番号]20/4444

[題詞](五月九日兵部少輔大伴宿祢家持之宅集宴<歌>四首)

[原文]和我世故我 夜度奈流波疑乃 波奈佐可牟 安伎能由布敝波 和礼乎之努波世

[訓読]我が背子が宿なる萩の花咲かむ秋の夕は我れを偲はせ

[仮名]わがせこが やどなるはぎの はなさかむ あきのゆふへは われをしのはせ

[左注]右一首大原真人今城

[校異]敝 [元][細] 弊

[事項]天平勝宝7年5月9日 年紀 作者:大原今城 植物 大伴家持 惜別 恋情

[訓異]わがせこが,[寛]わかせこか,

やどなるはぎの,[寛]やとなるはきの,

はなさかむ[寛],

あきのゆふへは[寛],

われをしのはせ[寛],


[歌番号]20/4445

[題詞]即聞鴬哢作歌一首

[原文]宇具比須乃 許恵波須疑奴等 於毛倍杼母 之美尓之許己呂 奈保古非尓家里

[訓読]鴬の声は過ぎぬと思へどもしみにし心なほ恋ひにけり

[仮名]うぐひすの こゑはすぎぬと おもへども しみにしこころ なほこひにけり

[左注]右一首大伴宿祢家持

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年5月9日 年紀 作者:大伴家持 動物 宴席 恋情 大原今城

[訓異]うぐひすの,[寛]うくひすの,

こゑはすぎぬと,[寛]こゑはすきぬと,

おもへども,[寛]おもへとも,

しみにしこころ[寛],

なほこひにけり[寛],


[歌番号]20/4446

[題詞]同月十一日左大臣橘卿宴右大辨丹比國人真人之宅歌三首

[原文]和我夜度尓 佐家流奈弖之故 麻比波勢牟 由米波奈知流奈 伊也乎知尓左家

[訓読]我が宿に咲けるなでしこ賄はせむゆめ花散るないやをちに咲け

[仮名]わがやどに さけるなでしこ まひはせむ ゆめはなちるな いやをちにさけ

[左注]右一首丹比國人真人壽左大臣歌

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年5月11日 年紀 作者:丹比国人 橘諸兄 植物 宴席 客讃美 寿歌

[訓異]わがやどに,[寛]わかやとに,

さけるなでしこ,[寛]さけるなてしこ,

まひはせむ[寛],

ゆめはなちるな[寛],

いやをちにさけ[寛],


[歌番号]20/4447

[題詞](同月十一日左大臣橘卿宴右大辨丹比國人真人之宅歌三首)

[原文]麻比之都々 伎美我於保世流 奈弖之故我 波奈乃未等波無 伎美奈良奈久尓

[訓読]賄しつつ君が生ほせるなでしこが花のみ問はむ君ならなくに

[仮名]まひしつつ きみがおほせる なでしこが はなのみとはむ きみならなくに

[左注]右一首左大臣和歌

[校異]歌 [西] 謌

[事項]天平勝宝7年5月11日 年紀 作者:橘諸兄 丹比国人 宴席 戯笑 愛情

[訓異]まひしつつ[寛],

きみがおほせる,[寛]きみかおほせる,

なでしこが,[寛]なてしこか,

はなのみとはむ[寛],

きみならなくに[寛],


[歌番号]20/4448

[題詞](同月十一日左大臣橘卿宴右大辨丹比國人真人之宅歌三首)

[原文]安治佐為能 夜敝佐久其等久 夜都与尓乎 伊麻世和我勢故 美都々思努波牟

[訓読]あぢさゐの八重咲くごとく八つ代にをいませ我が背子見つつ偲はむ

[仮名]あぢさゐの やへさくごとく やつよにを いませわがせこ みつつしのはむ

[左注]右一首左大臣寄味狭藍花詠也

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年5月11日 年紀 作者:橘諸兄 寿歌 丹比国人 宴席 植物

[訓異]あぢさゐの,[寛]あちさゐの,

やへさくごとく,[寛]やへさくことく,

やつよにを[寛],

いませわがせこ,[寛]いませわかせこ,

みつつしのはむ[寛],


[歌番号]20/4449

[題詞]十八日左大臣<宴>於兵部卿橘奈良麻呂朝臣之宅歌三首

[原文]奈弖之故我 波奈等里母知弖 宇都良々々々 美麻久能富之伎 吉美尓母安流加母

[訓読]なでしこが花取り持ちてうつらうつら見まくの欲しき君にもあるかも

[仮名]なでしこが はなとりもちて うつらうつら みまくのほしき きみにもあるかも

[左注]右一首治部卿船王

[校異]<> -> 宴 [西(右書)][元][紀][細] / 歌 [西] 謌

[事項]天平勝宝7年5月18日 年紀 作者:船王 宴席 植物 主人讃美 恋愛 橘奈良麻呂

[訓異]なでしこが,[寛]なてしこか,

はなとりもちて[寛],

うつらうつら[寛],

みまくのほしき[寛],

きみにもあるかも[寛],


[歌番号]20/4450

[題詞](十八日左大臣<宴>於兵部卿橘奈良麻呂朝臣之宅歌三首)

[原文]和我勢故我 夜度能奈弖之故 知良米也母 伊夜波都波奈尓 佐伎波麻須等母

[訓読]我が背子が宿のなでしこ散らめやもいや初花に咲きは増すとも

[仮名]わがせこが やどのなでしこ ちらめやも いやはつはなに さきはますとも

[左注](右二首兵部少輔大伴宿祢家持追作)

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年5月18日 年紀 作者:大伴家持 植物 寿歌 宴席 主人讃美 橘奈良麻呂

[訓異]わがせこが,[寛]わかせこか,

やどのなでしこ,[寛]やとのなてしこ,

ちらめやも[寛],

いやはつはなに[寛],

さきはますとも[寛],


[歌番号]20/4451

[題詞](十八日左大臣<宴>於兵部卿橘奈良麻呂朝臣之宅歌三首)

[原文]宇流波之美 安我毛布伎美波 奈弖之故我 波奈尓奈<蘇>倍弖 美礼杼安可奴香母

[訓読]うるはしみ我が思ふ君はなでしこが花になそへて見れど飽かぬかも

[仮名]うるはしみ あがもふきみは なでしこが はなになそへて みれどあかぬかも

[左注]右二首兵部少輔大伴宿祢家持追作

[校異]曽 -> 蘇 [元][類]

[事項]天平勝宝7年5月18日 年紀 作者:大伴家持 主人讃美 宴席 寿歌 植物 橘奈良麻呂

[訓異]うるはしみ[寛],

あがもふきみは,[寛]あかもふきみは,

なでしこが,[寛]なてしこか,

はなになそへて[寛],

みれどあかぬかも,[寛]みれとあかぬかも,


[歌番号]20/4452

[題詞]八月十三日在内南安殿肆宴歌二首

[原文]乎等賣良我 多麻毛須蘇婢久 許能尓波尓 安伎可是不吉弖 波奈波知里都々

[訓読]娘子らが玉裳裾引くこの庭に秋風吹きて花は散りつつ

[仮名]をとめらが たまもすそびく このにはに あきかぜふきて はなはちりつつ

[左注]右一首内匠頭兼播磨守正四位下安宿王奏之

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年8月13日 年紀 作者:安宿王 肆宴 宮廷 宴席 叙景

[訓異]をとめらが,[寛]をとめらか,

たまもすそびく,[寛]たまもすそひく,

このにはに[寛],

あきかぜふきて,[寛]あきかせふきて,

はなはちりつつ[寛],


[歌番号]20/4453

[題詞](八月十三日在内南安殿肆宴歌二首)

[原文]安吉加是能 布伎古吉之家流 波奈能尓波 伎欲伎都久欲仁 美礼杼安賀奴香母

[訓読]秋風の吹き扱き敷ける花の庭清き月夜に見れど飽かぬかも

[仮名]あきかぜの ふきこきしける はなのには きよきつくよに みれどあかぬかも

[左注]右一首兵部少輔従五位上大伴宿祢<家持> [未奏]

[校異]<> -> 家持 [西(右書)][元][紀][細]

[事項]天平勝宝7年8月13日 年紀 作者:大伴家持 未奏 叙景 宮廷 肆宴

[訓異]あきかぜの,[寛]あきかせの,

ふきこきしける[寛],

はなのには[寛],

きよきつくよに[寛],

みれどあかぬかも,[寛]みれとあかぬかも,


[歌番号]20/4454

[題詞]十一月廿八日左大臣集於兵部卿橘奈良麻呂朝臣宅宴歌一首

[原文]高山乃 伊波保尓於布流 須我乃根能 祢母許呂其呂尓 布里於久白雪

[訓読]高山の巌に生ふる菅の根のねもころごろに降り置く白雪

[仮名]たかやまの いはほにおふる すがのねの ねもころごろに ふりおくしらゆき

[左注]右一首左大臣作

[校異]なし

[事項]天平勝宝7年11月28日 年紀 作者:橘諸兄 植物 橘奈良麻呂 寿歌

[訓異]たかやまの[寛],

いはほにおふる[寛],

すがのねの,[寛]すかのねの,

ねもころごろに,[寛]ねもここころに,

ふりおくしらゆき[寛],


[歌番号]20/4455

[題詞]天平元年班田之時使葛城王従山背國贈薩妙觀命婦等所歌一首[副芹子褁]

[原文]安可祢<左>須 比流波多々婢弖 奴婆多麻乃 欲流乃伊刀末仁 都賣流芹子許礼

[訓読]あかねさす昼は田賜びてぬばたまの夜のいとまに摘める芹これ

[仮名]あかねさす ひるはたたびて ぬばたまの よるのいとまに つめるせりこれ

[左注](右二首左大臣讀之云尓 [左大臣是葛城王 後賜橘姓也])

[校異]佐 -> 左 [元][類]

[事項]天平1年 年紀 作者:橘諸兄:葛城王 薩妙觀 贈答 枕詞 植物

[訓異]あかねさす[寛],

ひるはたたびて,[寛]ひるはたたひて,

ぬばたまの,[寛]ぬはたまの,

よるのいとまに[寛],

つめるせりこれ[寛],


[歌番号]20/4456

[題詞](天平元年班田之時使葛城王従山背國贈薩妙觀命婦等所歌一首[副芹子褁])薩妙觀命婦報贈歌一首

[原文]麻須良乎等 於毛敝流母能乎 多知波吉弖 可尓波乃多為尓 世理曽都美家流

[訓読]大夫と思へるものを太刀佩きて可尓波の田居に芹ぞ摘みける

[仮名]ますらをと おもへるものを たちはきて かにはのたゐに せりぞつみける

[左注]右二首左大臣讀之云尓 [左大臣是葛城王 後賜橘姓也]

[校異]なし

[事項]天平1年 年紀 作者:薩妙觀 橘諸兄 葛城王 贈答 植物 戯笑

[訓異]ますらをと[寛],

おもへるものを[寛],

たちはきて[寛],

かにはのたゐに[寛],

せりぞつみける,[寛]せりそつみける,


[歌番号]20/4457

[題詞]天平勝寶八歳丙申二月朔乙酉廿四日戊申 太上天皇<大>后幸行於河内離宮 經信以壬子傳幸於難波宮也 三月七日於河内國伎人郷馬國人之家宴歌三首

[原文]須美乃江能 波麻末都我根乃 之多<婆>倍弖 和我見流乎努能 久佐奈加利曽祢

[訓読]住吉の浜松が根の下延へて我が見る小野の草な刈りそね

[仮名]すみのえの はままつがねの したはへて わがみるをのの くさなかりそね

[左注]右一首兵部少輔大伴宿祢家持

[校異]太皇太 -> 大 [元][温] / 波 -> 婆 [元][類][古]

[事項]天平勝宝8年2月24日 年紀 作者:大伴家持 宴席 地名 大阪 難波 植物 恋愛 主人讃美 馬国人

[訓異]すみのえの[寛],

はままつがねの,[寛]はままつかねの,

したはへて[寛],

わがみるをのの,[寛]わかみるをのの,

くさなかりそね[寛],


[歌番号]20/4458

[題詞](天平勝寶八歳丙申二月朔乙酉廿四日戊申 太上天皇<大>后幸行於河内離宮 經信以壬子傳幸於難波宮也 三月七日於河内國伎人郷馬國人之家宴歌三首)

[原文]尓保杼里乃 於吉奈我河波半 多延奴等母 伎美尓可多良武 己等都奇米也母 [古新未詳]

[訓読]にほ鳥の息長川は絶えぬとも君に語らむ言尽きめやも [古新未詳]

[仮名]にほどりの おきながかはは たえぬとも きみにかたらむ ことつきめやも

[左注]右一首主人散位寮散位馬史國人

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年2月24日 年紀 作者:馬国人 枕詞 宴席 伝誦 古歌 地名 近江 志賀 大阪 難波

[訓異]にほどりの,[寛]にほとりの,

おきながかはは,[寛]おきなかかはは,

たえぬとも[寛],

きみにかたらむ[寛],

ことつきめやも[寛],


[歌番号]20/4459

[題詞](天平勝寶八歳丙申二月朔乙酉廿四日戊申 太上天皇<大>后幸行於河内離宮 經信以壬子傳幸於難波宮也 三月七日於河内國伎人郷馬國人之家宴歌三首)

[原文]蘆苅尓 保<里>江許具奈流 可治能於等波 於保美也比等能 未奈伎久麻泥尓

[訓読]葦刈りに堀江漕ぐなる楫の音は大宮人の皆聞くまでに

[仮名]あしかりに ほりえこぐなる かぢのおとは おほみやひとの みなきくまでに

[左注]右一首式部少丞大伴宿祢池主讀之 即兵部大丞大原真人今城 先日他所讀歌者也

[校異]利 -> 里 [元][類]

[事項]天平勝宝8年2月24日 年紀 作者:大伴池主 地名 難波 大阪 宴席 馬国人

[訓異]あしかりに[寛],

ほりえこぐなる,[寛]ほりえこくなる,

かぢのおとは,[寛]かちのおとは,

おほみやひとの[寛],

みなきくまでに,[寛]みなきくまてに,


[歌番号]20/4460

[題詞]なし

[原文]保利江己具 伊豆手乃船乃 可治都久米 於等之婆多知奴 美乎波也美加母

[訓読]堀江漕ぐ伊豆手の舟の楫つくめ音しば立ちぬ水脈早みかも

[仮名]ほりえこぐ いづてのふねの かぢつくめ おとしばたちぬ みをはやみかも

[左注](右三首江邊作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年2月24日 年紀 作者:大伴家持 行幸 地名 難波 大阪 叙景

[訓異]ほりえこぐ,[寛]ほりえこく,

いづてのふねの,[寛]いつてのふねの,

かぢつくめ,[寛]かちつくめ,

おとしばたちぬ,[寛]おとしはたちぬ,

みをはやみかも[寛],


[歌番号]20/4461

[題詞]なし

[原文]保里江欲利 美乎左<香>能保流 <梶>音乃 麻奈久曽奈良波 古非之可利家留

[訓読]堀江より水脈さかのぼる楫の音の間なくぞ奈良は恋しかりける

[仮名]ほりえより みをさかのぼる かぢのおとの まなくぞならは こひしかりける

[左注](右三首江邊作之)

[校異]可 -> 香 [元][類][古] / 梶乃 -> 梶 [元][類][古]

[事項]天平勝宝8年2月24日 年紀 作者:大伴家持 行幸 望郷 地名 奈良 序詞 難波 大阪

[訓異]ほりえより[寛],

みをさかのぼる,[寛]みをさかのほる,

かぢのおとの,[寛]かちのおとの,

まなくぞならは,[寛]まなくそならは,

こひしかりける[寛],


[歌番号]20/4462

[題詞]なし

[原文]布奈藝保布 保利江乃可波乃 美奈伎波尓 伎為都々奈久波 美夜故杼里香蒙

[訓読]舟競ふ堀江の川の水際に来居つつ鳴くは都鳥かも

[仮名]ふなぎほふ ほりえのかはの みなきはに きゐつつなくは みやこどりかも

[左注]右三首江邊作之

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年2月24日 年紀 作者:大伴家持 動物 地名 大阪 難波 叙景

[訓異]ふなぎほふ,[寛]ふなきほふ,

ほりえのかはの[寛],

みなきはに[寛],

きゐつつなくは[寛],

みやこどりかも,[寛]みやことりかも,


[歌番号]20/4463

[題詞]なし

[原文]保等登藝須 麻豆奈久安佐氣 伊可尓世婆 和我加度須疑自 可多利都具麻埿

[訓読]霍公鳥まづ鳴く朝明いかにせば我が門過ぎじ語り継ぐまで

[仮名]ほととぎす まづなくあさけ いかにせば わがかどすぎじ かたりつぐまで

[左注](右二首廿日大伴宿祢家持依興作之)

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年3月20日 年紀 作者:大伴家持 動物 依興

[訓異]ほととぎす,[寛]ほとときす,

まづなくあさけ,[寛]まつなくあさけ,

いかにせば,[寛]いかにせは,

わがかどすぎじ,[寛]わかかとすきし,

かたりつぐまで,[寛]かたりつくまて,


[歌番号]20/4464

[題詞]なし

[原文]保等登藝須 可氣都々伎美我 麻都可氣尓 比毛等伎佐久流 都奇知可都伎奴

[訓読]霍公鳥懸けつつ君が松蔭に紐解き放くる月近づきぬ

[仮名]ほととぎす かけつつきみが まつかげに ひもときさくる つきちかづきぬ

[左注]右二首廿日大伴宿祢家持依興作之

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年3月20日 年紀 作者:大伴家持 動物 依興

[訓異]ほととぎす,[寛]ほとときす,

かけつつきみが,[寛]かけつつきみか,

まつかげに,[寛]まつかけに,

ひもときさくる[寛],

つきちかづきぬ,[寛]つきちかつきぬ,


[歌番号]20/4465

[題詞]喩族歌一首[并短歌]

[原文]比左加多能 安麻能刀比良伎 多可知保乃 多氣尓阿毛理之 須賣呂伎能 可未能御代欲利 波自由美乎 多尓藝利母多之 麻可胡也乎 多婆左美蘇倍弖 於保久米能 麻須良多祁乎々 佐吉尓多弖 由伎登利於保世 山河乎 伊波祢左久美弖 布美等保利 久尓麻藝之都々 知波夜夫流 神乎許等牟氣 麻都呂倍奴 比等乎母夜波之 波吉伎欲米 都可倍麻都里弖 安吉豆之萬 夜萬登能久尓乃 可之<波>良能 宇祢備乃宮尓 美也<婆>之良 布刀之利多弖氐 安米能之多 之良志賣之祁流 須賣呂伎能 安麻能日継等 都藝弖久流 伎美能御代々々 加久左波奴 安加吉許己呂乎 須賣良弊尓 伎波米都久之弖 都加倍久流 於夜能都可佐等 許等太弖氐 佐豆氣多麻敝流 宇美乃古能 伊也都藝都岐尓 美流比等乃 可多里都藝弖氐 伎久比等能 可我見尓世武乎 安多良之伎 吉用伎曽乃名曽 於煩呂加尓 己許呂於母比弖 牟奈許等母 於夜乃名多都奈 大伴乃 宇治等名尓於敝流 麻須良乎能等母

[訓読]久方の 天の門開き 高千穂の 岳に天降りし 皇祖の 神の御代より はじ弓を 手握り持たし 真鹿子矢を 手挟み添へて 大久米の ますらたけをを 先に立て 靫取り負ほせ 山川を 岩根さくみて 踏み通り 国求ぎしつつ ちはやぶる 神を言向け まつろはぬ 人をも和し 掃き清め 仕へまつりて 蜻蛉島 大和の国の 橿原の 畝傍の宮に 宮柱 太知り立てて 天の下 知らしめしける 天皇の 天の日継と 継ぎてくる 君の御代御代 隠さはぬ 明き心を すめらへに 極め尽して 仕へくる 祖の官と 言立てて 授けたまへる 子孫の いや継ぎ継ぎに 見る人の 語り継ぎてて 聞く人の 鏡にせむを 惜しき 清きその名ぞ おぼろかに 心思ひて 空言も 祖の名絶つな 大伴の 氏と名に負へる 大夫の伴

[仮名]ひさかたの あまのとひらき たかちほの たけにあもりし すめろきの かみのみよより はじゆみを たにぎりもたし まかごやを たばさみそへて おほくめの ますらたけをを さきにたて ゆきとりおほせ やまかはを いはねさくみて ふみとほり くにまぎしつつ ちはやぶる かみをことむけ まつろはぬ ひとをもやはし はききよめ つかへまつりて あきづしま やまとのくにの かしはらの うねびのみやに みやばしら ふとしりたてて あめのした しらしめしける すめろきの あまのひつぎと つぎてくる きみのみよみよ かくさはぬ あかきこころを すめらへに きはめつくして つかへくる おやのつかさと ことだてて さづけたまへる うみのこの いやつぎつぎに みるひとの かたりつぎてて きくひとの かがみにせむを あたらしき きよきそのなぞ おぼろかに こころおもひて むなことも おやのなたつな おほともの うぢとなにおへる ますらをのとも

[左注](右縁淡海真人三船讒言出雲守大伴古慈斐宿祢解任 是以家持作此歌也)(以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作)

[校異]短歌 [西] 短謌 / 婆 -> 波 [元] / 波 -> 婆 [元][紀][細] / 左 [紀][細] 佐

[事項]天平勝宝8年6月17日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 氏族意識 大伴古慈悲 説教 淡海三船

[訓異]ひさかたの[寛],

あまのとひらき[寛],

たかちほの[寛],

たけにあもりし[寛],

すめろきの[寛],

かみのみよより[寛],

はじゆみを,[寛]はしゆみを,

たにぎりもたし,[寛]たにきりもたし,

まかごやを,[寛]まかこやを,

たばさみそへて,[寛]たはさみそへて,

おほくめの[寛],

ますらたけをを[寛],

さきにたて[寛],

ゆきとりおほせ[寛],

やまかはを[寛],

いはねさくみて[寛],

ふみとほり[寛],

くにまぎしつつ,[寛]くにまきしつつ,

ちはやぶる,[寛]ちはやふる,

かみをことむけ[寛],

まつろはぬ,[寛]まつらへぬ,

ひとをもやはし,[寛]ひとをもよはし,

はききよめ[寛],

つかへまつりて[寛],

あきづしま,[寛]あきつしま,

やまとのくにの[寛],

かしはらの[寛],

うねびのみやに,[寛]うねひのみやに,

みやばしら,[寛]みやはしら,

ふとしりたてて[寛],

あめのした[寛],

しらしめしける[寛],

すめろきの[寛],

あまのひつぎと,[寛]あまのひつきと,

つぎてくる,[寛]つきてくる,

きみのみよみよ[寛],

かくさはぬ[寛],

あかきこころを[寛],

すめらへに[寛],

きはめつくして[寛],

つかへくる[寛],

おやのつかさと[寛],

ことだてて,[寛]ことたてて,

さづけたまへる,[寛]さつけたまへる,

うみのこの[寛],

いやつぎつぎに,[寛]いやつきつきに,

みるひとの[寛],

かたりつぎてて,[寛]かたりつきてて,

きくひとの[寛],

かがみにせむを,[寛]かかみにせむを,

あたらしき[寛],

きよきそのなぞ,[寛]きよきそのなそ,

おぼろかに,[寛]おほろかに,

こころおもひて[寛],

むなことも[寛],

おやのなたつな[寛],

おほともの[寛],

うぢとなにおへる,[寛]うちとなにおへる,

ますらをのとも[寛],


[歌番号]20/4466

[題詞](喩族歌一首[并短歌])

[原文]之奇志麻乃 夜末等能久尓々 安伎良氣伎 名尓於布等毛能乎 己許呂都刀米与

[訓読]磯城島の大和の国に明らけき名に負ふ伴の男心つとめよ

[仮名]しきしまの やまとのくにに あきらけき なにおふとものを こころつとめよ

[左注](右縁淡海真人三船讒言出雲守大伴古慈斐宿祢解任 是以家持作此歌也)(以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作)

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年6月17日 年紀 作者:大伴家持 氏族意識 枕詞 説教 大伴古慈悲 淡海三船

[訓異]しきしまの[寛],

やまとのくにに[寛],

あきらけき,[寛]あきらけく,

なにおふとものを[寛],

こころつとめよ[寛],


[歌番号]20/4467

[題詞](喩族歌一首[并短歌])

[原文]都流藝多知 伊与餘刀具倍之 伊尓之敝由 佐夜氣久於比弖 伎尓之曽乃名曽

[訓読]剣太刀いよよ磨ぐべし古ゆさやけく負ひて来にしその名ぞ

[仮名]つるぎたち いよよとぐべし いにしへゆ さやけくおひて きにしそのなぞ

[左注]右縁淡海真人三船讒言出雲守大伴古慈斐宿祢解任 是以家持作此歌也 (以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作)

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年6月17日 年紀 作者:大伴家持 氏族意識 説教 大伴古慈悲 淡海三船

[訓異]つるぎたち,[寛]つるきたち,

いよよとぐべし,[寛]いよよとくへし,

いにしへゆ[寛],

さやけくおひて[寛],

きにしそのなぞ,[寛]きにしそのなそ,


[歌番号]20/4468

[題詞]臥病悲無常欲修道作歌二首

[原文]宇都世美波 加受奈吉身奈利 夜麻加波乃 佐夜氣吉見都々 美知乎多豆祢奈

[訓読]うつせみは数なき身なり山川のさやけき見つつ道を尋ねな

[仮名]うつせみは かずなきみなり やまかはの さやけきみつつ みちをたづねな

[左注](以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作)

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年6月17日 年紀 作者:大伴家持 無常 仏教 求道

[訓異]うつせみは[寛],

かずなきみなり,[寛]かすなきみなり,

やまかはの[寛],

さやけきみつつ[寛],

みちをたづねな,[寛]みちをたつねな,


[歌番号]20/4469

[題詞](臥病悲無常欲修道作歌二首)

[原文]和多流日能 加氣尓伎保比弖 多豆祢弖奈 伎欲吉曽能美知 末多母安波無多米

[訓読]渡る日の影に競ひて尋ねてな清きその道またもあはむため

[仮名]わたるひの かげにきほひて たづねてな きよきそのみち またもあはむため

[左注](以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作)

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年6月17日 年紀 作者:大伴家持 無常 仏教 求道

[訓異]わたるひの[寛],

かげにきほひて,[寛]かけにきほひて,

たづねてな,[寛]たつねてな,

きよきそのみち[寛],

またもあはむため[寛],


[歌番号]20/4470

[題詞]願壽作歌一首

[原文]美都煩奈須 可礼流身曽等波 之礼々杼母 奈保之祢我比都 知等世能伊乃知乎

[訓読]水泡なす仮れる身ぞとは知れれどもなほし願ひつ千年の命を

[仮名]みつぼなす かれるみぞとは しれれども なほしねがひつ ちとせのいのちを

[左注]以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年6月17日 年紀 作者:大伴家持 無常 仏教 求道 寿歌

[訓異]みつぼなす,[寛]みつほなす,

かれるみぞとは,[寛]かれるみそとは,

しれれども,[寛]しれれとも,

なほしねがひつ,[寛]なほしねかひつ,

ちとせのいのちを[寛],


[歌番号]20/4471

[題詞]冬十一月五日夜小雷起鳴雪落覆庭忽懐<感>憐聊作短歌一首

[原文]氣能己里能 由伎尓安倍弖流 安之比奇<乃> 夜麻多知波奈乎 都刀尓通弥許奈

[訓読]消残りの雪にあへ照るあしひきの山橘をつとに摘み来な

[仮名]けのこりの ゆきにあへてる あしひきの やまたちばなを つとにつみこな

[左注]右一首兵部少輔大伴宿祢家持

[校異]盛 -> 感 [西(朱訂正)][元][紀][細] / 之 -> 乃 [元][類] / 波 [元] 婆

[事項]天平勝宝8年11月5日 年紀 作者:大伴家持 植物

[訓異]けのこりの[寛],

ゆきにあへてる[寛],

あしひきの[寛],

やまたちばなを,[寛]やまたちはなを,

つとにつみこな,[寛]つとにつにこな,


[歌番号]20/4472

[題詞]八日讃岐守安宿王等集於出雲掾安宿奈杼麻呂之家宴歌二首

[原文]於保吉美乃 美許登加之古美 於保乃宇良乎 曽我比尓美都々 美也古敝能保流

[訓読]大君の命畏み於保の浦をそがひに見つつ都へ上る

[仮名]おほきみの みことかしこみ おほのうらを そがひにみつつ みやこへのぼる

[左注]右掾安宿奈杼麻呂

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年11月8日 年紀 作者:安宿奈杼麻呂 宴席 出発 安宿王 地名 島根 意宇浦 羈旅 餞別

[訓異]おほきみの[寛],

みことかしこみ[寛],

おほのうらを[寛],

そがひにみつつ,[寛]そかひにみつつ,

みやこへのぼる,[寛]みやこへのほる,


[歌番号]20/4473

[題詞](八日讃岐守安宿王等集於出雲掾安宿奈杼麻呂之家宴歌二首)

[原文]宇知比左須 美也古乃比等尓 都氣麻久波 美之比乃其等久 安里等都氣己曽

[訓読]うちひさす都の人に告げまくは見し日のごとくありと告げこそ

[仮名]うちひさす みやこのひとに つげまくは みしひのごとく ありとつげこそ

[左注]右一首守山背王歌也 主人安宿奈杼麻呂語云 奈杼麻呂被差朝集使擬入京師 因此餞之日各<作>歌聊陳所心也

[校異]作此 -> 作 [元]

[事項]天平勝宝8年11月8日 年紀 作者:山背王 安宿王 安宿奈杼麻呂 宴席 出発 羈旅 餞別 島根

[訓異]うちひさす[寛],

みやこのひとに[寛],

つげまくは,[寛]つけまくは,

みしひのごとく,[寛]みしひのことく,

ありとつげこそ,[寛]ありとつけこそ,


[歌番号]20/4474

[題詞]なし

[原文]武良等里乃 安佐太知伊尓之 伎美我宇倍波 左夜加尓伎吉都 於毛比之其等久 [一云 於毛比之母乃乎]

[訓読]群鳥の朝立ち去にし君が上はさやかに聞きつ思ひしごとく [一云 思ひしものを]

[仮名]むらどりの あさだちいにし きみがうへは さやかにききつ おもひしごとく [おもひしものを]

[左注]右一首兵部少輔大伴宿祢家持後日追和出雲守山背王歌作之

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年11月8日 年紀 作者:大伴家持 追和 山背王 推敲

[訓異]むらどりの,[寛]むらとりの,

あさだちいにし,[寛]あさたちいにし,

きみがうへは,[寛]きみかうへは,

さやかにききつ[寛],

おもひしごとく,[寛]おもひしことく, [おもひしものを][寛],


[歌番号]20/4475

[題詞]廿三日集於式部少丞大伴宿祢池主之宅飲宴歌二首

[原文]波都由伎波 知敝尓布里之家 故非之久能 於保加流和礼波 美都々之努波牟

[訓読]初雪は千重に降りしけ恋ひしくの多かる我れは見つつ偲はむ

[仮名]はつゆきは ちへにふりしけ こひしくの おほかるわれは みつつしのはむ

[左注](右二首兵部大丞大原真人今城)

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年11月23日 年紀 作者:大原今城 宴席 大伴池主 恋情

[訓異]はつゆきは[寛],

ちへにふりしけ[寛],

こひしくの[寛],

おほかるわれは[寛],

みつつしのはむ[寛],


[歌番号]20/4476

[題詞](廿三日集於式部少丞大伴宿祢池主之宅飲宴歌二首)

[原文]於久夜麻能 之伎美我波奈能 奈能其等也 之久之久伎美尓 故非和多利奈無

[訓読]奥山のしきみが花の名のごとやしくしく君に恋ひわたりなむ

[仮名]おくやまの しきみがはなの なのごとや しくしくきみに こひわたりなむ

[左注]右二首兵部大丞大原真人今城

[校異]なし

[事項]天平勝宝8年11月23日 年紀 作者:大原今城 植物 大伴池主 宴席 恋情

[訓異]おくやまの[寛],

しきみがはなの,[寛]しきみかはなの,

なのごとや,[寛]ことや,

しくしくきみに,[寛]しくしくきみには,

こひわたりなむ[寛],


[歌番号]20/4477

[題詞]智努女王卒後圓方女王悲傷作歌一首

[原文]由布義<理>尓 知杼里乃奈吉志 佐保治乎婆 安良之也之弖牟 美流与之乎奈美

[訓読]夕霧に千鳥の鳴きし佐保路をば荒しやしてむ見るよしをなみ

[仮名]ゆふぎりに ちどりのなきし さほぢをば あらしやしてむ みるよしをなみ

[左注](右件四首傳讀兵部大丞大原今城)

[校異]利 -> 理 [元][類][紀]

[事項]作者:圓方女王 挽歌 悲別 哀悼 動物 地名 奈良 智努女王 伝誦 古歌 大原今城 [訓異]

[訓異]ゆふぎりに,[寛]ゆふきりに,

ちどりのなきし,[寛]ちとりのなきし,

さほぢをば,[寛]さほちをは,

あらしやしてむ[寛],

みるよしをなみ[寛],


[歌番号]20/4478

[題詞]大原櫻井真人行佐保川邊之時作歌一首

[原文]佐保河波尓 許保里和多礼流 宇須良婢乃 宇須伎許己呂乎 和我於毛波奈久尓

[訓読]佐保川に凍りわたれる薄ら氷の薄き心を我が思はなくに

[仮名]さほがはに こほりわたれる うすらびの うすきこころを わがおもはなくに

[左注](右件四首傳讀兵部大丞大原今城)

[校異]なし

[事項]作者:大原櫻井 地名 奈良 序詞 恋歌 大原今城 伝誦 古歌 相聞

[訓異]さほがはに,[寛]さほかはに,

こほりわたれる[寛],

うすらびの,[寛]うすらひの,

うすきこころを[寛],

わがおもはなくに,[寛]わかおもはなくに,


[歌番号]20/4479

[題詞]藤原夫人歌一首 [浄御原宮御宇天皇之夫人也 字曰氷上大刀自也]

[原文]安佐欲比尓 祢能未之奈氣婆 夜伎多知能 刀其己呂毛安礼<波> 於母比加祢都毛

[訓読]朝夕に音のみし泣けば焼き太刀の利心も我れは思ひかねつも

[仮名]あさよひに ねのみしなけば やきたちの とごころもあれは おもひかねつも

[左注](右件四首傳讀兵部大丞大原今城)

[校異]婆 -> 波 [元][紀][細]

[事項]作者:藤原氷上夫人 古歌 伝誦 大原今城 枕詞 恋情 相聞

[訓異]あさよひに[寛],

ねのみしなけば,[寛]ねのみしなけは,

やきたちの[寛],

とごころもあれは,[寛]とこころもあれは,

おもひかねつも[寛],


[歌番号]20/4480

[題詞]なし

[原文]可之故伎也 安米乃美加度乎 可氣都礼婆 祢能未之奈加由 安佐欲比尓之弖 [作者未詳]

[訓読]畏きや天の御門を懸けつれば音のみし泣かゆ朝夕にして [作者未詳]

[仮名]かしこきや あめのみかどを かけつれば ねのみしなかゆ あさよひにして

[左注]右件四首傳讀兵部大丞大原今城

[校異]なし

[事項]伝誦 古歌 大原今城 悲嘆

[訓異]かしこきや[寛],

あめのみかどを,[寛]あめのみかとを,

かけつれば,[寛]かけつれは,

ねのみしなかゆ[寛],

あさよひにして[寛],


[歌番号]20/4481

[題詞]三月四日於兵部大丞大原真人今城之宅宴歌一首

[原文]安之比奇能 夜都乎乃都婆吉 都良々々尓 美等母安<可>米也 宇恵弖家流伎美

[訓読]あしひきの八つ峰の椿つらつらに見とも飽かめや植ゑてける君

[仮名]あしひきの やつをのつばき つらつらに みともあかめや うゑてけるきみ

[左注]右兵部少輔大伴家持属植椿作

[校異]加 -> 可 [元][類][古]

[事項]天平勝宝9年3月4日 年紀 作者:大伴家持 宴席 大原今城 序詞 植物 枕詞 主人讃美 属目

[訓異]あしひきの[寛],

やつをのつばき,[寛]やつをのつはき,

つらつらに[寛],

みともあかめや[寛],

うゑてけるきみ[寛],


[歌番号]20/4482

[題詞]なし

[原文]保里延故要 等保伎佐刀麻弖 於久利家流 伎美我許己呂波 和須良由麻之<自>

[訓読]堀江越え遠き里まで送り来る君が心は忘らゆましじ

[仮名]ほりえこえ とほきさとまで おくりける きみがこころは わすらゆましじ

[左注]右一首播磨介藤原朝臣執弓赴任悲別也 主人大原今城傳讀云尓

[校異]目 -> 自 [元]

[事項]天平勝宝9年3月4日 年紀 作者:藤原執弓 地名 難波 大阪 古歌 伝誦 大原今城 宴席 悲別 餞別 転用

[訓異]ほりえこえ,[寛]ほりえこええ,

とほきさとまで,[寛]とほきさとまて,

おくりける[寛],

きみがこころは,[寛]きみかこころは,

わすらゆましじ,[寛]わすらゆましめ,


[歌番号]20/4483

[題詞]勝寶九歳六月廿三日於大監物三形王之宅宴歌一首

[原文]宇都里由久 時見其登尓 許己呂伊多久 牟可之能比等之 於毛保由流加母

[訓読]移り行く時見るごとに心痛く昔の人し思ほゆるかも

[仮名]うつりゆく ときみるごとに こころいたく むかしのひとし おもほゆるかも

[左注]右兵部大輔大伴宿祢家持作

[校異]なし

[事項]天平勝宝9年6月23日 年紀 作者:大伴家持 宴席 無常 悲嘆 三形王

[訓異]うつりゆく[寛],

ときみるごとに,[寛]ときみることに,

こころいたく[寛],

むかしのひとし[寛],

おもほゆるかも[寛],


[歌番号]20/4484

[題詞]なし

[原文]佐久波奈波 宇都呂布等伎安里 安之比奇乃 夜麻須我乃祢之 奈我久波安利家里

[訓読]咲く花は移ろふ時ありあしひきの山菅の根し長くはありけり

[仮名]さくはなは うつろふときあり あしひきの やますがのねし ながくはありけり

[左注]右一首大伴宿祢家持悲怜物色變化作之也

[校異]なし

[事項]天平勝宝9年 年紀 作者:大伴家持 枕詞 植物 悲嘆 無常 寿歌 永遠

[訓異]さくはなは[寛],

うつろふときあり[寛],

あしひきの[寛],

やますがのねし,[寛]やますかのねし,

ながくはありけり,[寛]なかくはありけり,


[歌番号]20/4485

[題詞]なし

[原文]時花 伊夜米豆良之母 <加>久之許曽 賣之安伎良米晩 阿伎多都其等尓

[訓読]時の花いやめづらしもかくしこそ見し明らめめ秋立つごとに

[仮名]ときのはな いやめづらしも かくしこそ めしあきらめめ あきたつごとに

[左注]<右>大伴宿祢家持作之

[校異]可 -> 加 [元][類] / 右一首 -> 右 [元][紀][細]

[事項]天平勝宝9年 年紀 作者:大伴家持 天皇讃美 寿歌 永遠

[訓異]ときのはな[寛],

いやめづらしも,[寛]いやめつらしも,

かくしこそ[寛],

めしあきらめめ[寛],

あきたつごとに,[寛]あきたつことに,


[歌番号]20/4486

[題詞]天平寶字元年十一月十八日於内裏肆宴歌二首

[原文]天地乎 弖良須日月乃 極奈久 阿流倍伎母能乎 奈尓乎加於毛波牟

[訓読]天地を照らす日月の極みなくあるべきものを何をか思はむ

[仮名]あめつちを てらすひつきの きはみなく あるべきものを なにをかおもはむ

[左注]右一首皇太子御歌

[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌

[事項]天平宝字1年11月18日 年紀 作者:大炊王 肆宴 宴席 宮廷

[訓異]あめつちを[寛],

てらすひつきの[寛],

きはみなく,[寛]きはめなく,

あるべきものを,[寛]あるへきものを,

なにをかおもはむ,[寛]なにかおもはむ,


[歌番号]20/4487

[題詞](天平寶字元年十一月十八日於内裏肆宴歌二首)

[原文]伊射子等毛 多波和射奈世曽 天地能 加多米之久尓曽 夜麻登之麻祢波

[訓読]いざ子どもたはわざなせそ天地の堅めし国ぞ大和島根は

[仮名]いざこども たはわざなせそ あめつちの かためしくにぞ やまとしまねは

[左注]右一首内相藤原朝臣奏之

[校異]なし

[事項]天平宝字1年11月18日 年紀 作者:藤原仲麻呂 肆宴 宮廷 宴席

[訓異]いざこども,[寛]いさことも,

たはわざなせそ,[寛]たはわさなせそ,

あめつちの[寛],

かためしくにぞ,[寛]かためしくにそ,

やまとしまねは[寛],


[歌番号]20/4488

[題詞]十二月十八日於大監物三形王之宅宴歌三首

[原文]三雪布流 布由波祁布能未 鴬乃 奈加牟春敝波 安須尓之安流良之

[訓読]み雪降る冬は今日のみ鴬の鳴かむ春へは明日にしあるらし

[仮名]みゆきふる ふゆはけふのみ うぐひすの なかむはるへは あすにしあるらし

[左注]右一首主人三形王

[校異]なし

[事項]天平宝字1年12月18日 年紀 作者:三形王 宴席 動物 挨拶

[訓異]みゆきふる[寛],

ふゆはけふのみ[寛],

うぐひすの,[寛]うくひすの,

なかむはるへは[寛],

あすにしあるらし[寛],


[歌番号]20/4489

[題詞](十二月十八日於大監物三形王之宅宴歌三首)

[原文]宇知奈婢久 波流乎知可美加 奴婆玉乃 己与比能都久欲 可須美多流良牟

[訓読]うち靡く春を近みかぬばたまの今夜の月夜霞みたるらむ

[仮名]うちなびく はるをちかみか ぬばたまの こよひのつくよ かすみたるらむ

[左注]右一首大蔵大輔甘南備伊香真人

[校異]なし

[事項]天平宝字1年12月18日 年紀 作者:甘南備伊香 三形王 枕詞 叙景 宴席

[訓異]うちなびく,[寛]うちなひく,

はるをちかみか[寛],

ぬばたまの,[寛]ぬはたまの,

こよひのつくよ[寛],

かすみたるらむ[寛],


[歌番号]20/4490

[題詞](十二月十八日於大監物三形王之宅宴歌三首)

[原文]安良多末能 等之由伎我敝理 波流多々婆 末豆和我夜度尓 宇具比須波奈家

[訓読]あらたまの年行き返り春立たばまづ我が宿に鴬は鳴け

[仮名]あらたまの としゆきがへり はるたたば まづわがやどに うぐひすはなけ

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持

[校異]なし

[事項]天平宝字1年12月18日 年紀 作者:大伴家持 枕詞 動物 宴席 三形王

[訓異]あらたまの[寛],

としゆきがへり,[寛]としゆきかへり,

はるたたば,[寛]はるたたは,

まづわがやどに,[寛]まつわかやとに,

うぐひすはなけ,[寛]うくひすはなけ,


[歌番号]20/4491

[題詞]なし

[原文]於保吉宇美能 美奈曽己布可久 於毛比都々 毛婢伎奈良之思 須我波良能佐刀

[訓読]大き海の水底深く思ひつつ裳引き平しし菅原の里

[仮名]おほきうみの みなそこふかく おもひつつ もびきならしし すがはらのさと

[左注]右一首藤原宿奈麻呂朝臣之妻石川女郎薄愛離別悲恨作歌也 [年月未詳]

[校異]なし

[事項]作者:藤原宿奈麻呂妻:石川女郎 藤原宿麻呂 悲嘆 怨恨 離別 地名 奈良 古歌 伝誦 転用 宴席

[訓異]おほきうみの[寛],

みなそこふかく[寛],

おもひつつ[寛],

もびきならしし,[寛]もひきならしし,

すがはらのさと,[寛]すかはらのさと,


[歌番号]20/4492

[題詞]廿三日於治部少輔大原今城真人之宅宴歌一首

[原文]都奇餘米婆 伊麻太冬奈里 之可須我尓 霞多奈婢久 波流多知奴等可

[訓読]月数めばいまだ冬なりしかすがに霞たなびく春立ちぬとか

[仮名]つきよめば いまだふゆなり しかすがに かすみたなびく はるたちぬとか

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持作

[校異]歌 [西] 謌

[事項]天平宝字1年12月23日 年紀 作者:大伴家持 宴席 大原今城

[訓異]つきよめば,[寛]つきよめは,

いまだふゆなり,[寛]いまたふゆなり,

しかすがに,[寛]しかすかに,

かすみたなびく,[寛]かすみたなひく,

はるたちぬとか[寛],


[歌番号]20/4493

[題詞]二年正月三日召侍従竪子王臣等令侍於内裏之東屋垣下即賜玉箒肆宴 于時内相藤原朝臣奉勅宣 諸王卿等随堪任意作歌并賦詩 仍應詔旨各陳心緒作歌賦詩 [未得諸人之賦詩并作歌也]

[原文]始春乃 波都祢乃家布能 多麻婆波伎 手尓等流可良尓 由良久多麻能乎

[訓読]初春の初子の今日の玉箒手に取るからに揺らく玉の緒

[仮名]はつはるの はつねのけふの たまばはき てにとるからに ゆらくたまのを

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持作 但依大蔵政不堪奏之也

[校異]之也 [元][細](塙) 之

[事項]天平宝字2年1月3日 年紀 作者:大伴家持 未奏 宮廷 肆宴 宴席 藤原仲麻呂 寿歌 宮廷讃美

[訓異]はつはるの[寛],

はつねのけふの[寛],

たまばはき,[寛]たまははき,

てにとるからに[寛],

ゆらくたまのを[寛],


[歌番号]20/4494

[題詞]なし

[原文]水鳥乃 可毛<能>羽能伊呂乃 青馬乎 家布美流比等波 可藝利奈之等伊布

[訓読]水鳥の鴨の羽の色の青馬を今日見る人は限りなしといふ

[仮名]みづとりの かものはのいろの あをうまを けふみるひとは かぎりなしといふ

[左注]右一首為七日侍宴右中辨大伴宿祢家持預作此歌 但依仁王會事却以六日於内裏召諸王卿等賜酒肆宴給祿 因斯不奏也

[校異]<> -> 能 [温][矢][京]

[事項]天平宝字2年1月6日 年紀 作者:大伴家持 未奏 予作 宮廷 行事 宴席 寿歌 動物

[訓異]みづとりの,[寛]みつとりの,

かものはのいろの[寛],

あをうまを[寛],

けふみるひとは[寛],

かぎりなしといふ,[寛]かきりなしといふ,


[歌番号]20/4495

[題詞]六日内庭假植樹木以作林帷而為肆宴歌

[原文]打奈婢久 波流等毛之流久 宇具比須波 宇恵木之樹間乎 奈<枳>和多良奈牟

[訓読]うち靡く春ともしるく鴬は植木の木間を鳴き渡らなむ

[仮名]うちなびく はるともしるく うぐひすは うゑきのこまを なきわたらなむ

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持 [不奏]

[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [細] 歌一首 / 伎 -> 枳 [元][類]

[事項]天平宝字2年1月6日 年紀 作者:大伴家持 動物 宮廷 肆宴 宴席 叙景 未奏

[訓異]うちなびく,[寛]うちなひく,

はるともしるく[寛],

うぐひすは,[寛]うくひすは,

うゑきのこまを[寛],

なきわたらなむ[寛],


[歌番号]20/4496

[題詞]二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首

[原文]宇良賣之久 伎美波母安流加 夜度乃烏梅<能> 知利須具流麻埿 美之米受安利家流

[訓読]恨めしく君はもあるか宿の梅の散り過ぐるまで見しめずありける

[仮名]うらめしく きみはもあるか やどのうめの ちりすぐるまで みしめずありける

[左注]右一首治部少輔大原今城真人

[校異]<> -> 五 [元] / 乃 -> 能 [元][類][紀][細]

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:大原今城 宴席 中臣清麻呂 植物 怨恨

[訓異]うらめしく[寛],

きみはもあるか[寛],

やどのうめの,[寛]やとのうめの,

ちりすぐるまで,[寛]ちりすくるまて,

みしめずありける,[寛]みしめすありける,


[歌番号]20/4497

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)

[原文]美牟等伊波婆 伊奈等伊波米也 宇梅乃波奈 知利須具流麻弖 伎美我伎麻左奴

[訓読]見むと言はば否と言はめや梅の花散り過ぐるまで君が来まさぬ

[仮名]みむといはば いなといはめや うめのはな ちりすぐるまで きみがきまさぬ

[左注]右一首主人中臣清麻呂朝臣

[校異]なし

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:中臣清麻呂 宴席 植物

[訓異]みむといはば,[寛]みむといはは,

いなといはめや[寛],

うめのはな[寛],

ちりすぐるまで,[寛]ちりすくるまて,

きみがきまさぬ,[寛]きみかきませは,


[歌番号]20/4498

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)

[原文]波之伎余之 家布能安路自波 伊蘇麻都能 都祢尓伊麻佐祢 伊麻母美流其等

[訓読]はしきよし今日の主人は礒松の常にいまさね今も見るごと

[仮名]はしきよし けふのあろじは いそまつの つねにいまさね いまもみるごと

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持

[校異]なし

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:大伴家持 宴席 中臣清麻呂 主人讃美 寿歌 植物 序詞

[訓異]はしきよし[寛],

けふのあろじは,[寛]けふのあろしは,

いそまつの[寛],

つねにいまさね[寛],

いまもみるごと,[寛]いまもみること,


[歌番号]20/4499

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)

[原文]和我勢故之 可久志伎許散婆 安米都知乃 可未乎許比能美 奈我久等曽於毛布

[訓読]我が背子しかくし聞こさば天地の神を祈ひ祷み長くとぞ思ふ

[仮名]わがせこし かくしきこさば あめつちの かみをこひのみ ながくとぞおもふ

[左注]右一首主人中臣清麻呂朝臣

[校異]なし

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:中臣清麻呂 宴席 寿歌 永遠

[訓異]わがせこし,[寛]わかせこか,

かくしきこさば,[寛]かくしきこさは,

あめつちの[寛],

かみをこひのみ[寛],

ながくとぞおもふ,[寛]なかくとそおもふ,


[歌番号]20/4500

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)

[原文]宇梅能波奈 香乎加具波之美 等保家杼母 己許呂母之努尓 伎美乎之曽於毛布

[訓読]梅の花香をかぐはしみ遠けども心もしのに君をしぞ思ふ

[仮名]うめのはな かをかぐはしみ とほけども こころもしのに きみをしぞおもふ

[左注]右一首治部大輔市原王

[校異]なし

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:市原王 宴席 中臣清麻呂 植物 恋情 主人讃美

[訓異]うめのはな[寛],

かをかぐはしみ,[寛]かをかくはしみ,

とほけども,[寛]とほけとも,

こころもしのに[寛],

きみをしぞおもふ,[寛]きみをしそおもふ,


[歌番号]20/4501

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)

[原文]夜知久佐能 波奈波宇都呂布 等伎波奈流 麻都能左要太乎 和礼波牟須婆奈

[訓読]八千種の花は移ろふ常盤なる松のさ枝を我れは結ばな

[仮名]やちくさの はなはうつろふ ときはなる まつのさえだを われはむすばな

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持

[校異]なし

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:大伴家持 宴席 中臣清麻呂 寿歌 植物 永遠 主人讃美 予祝

[訓異]やちくさの[寛],

はなはうつろふ[寛],

ときはなる[寛],

まつのさえだを,[寛]まつのさえたを,

われはむすばな,[寛]われはむすはな,


[歌番号]20/4502

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)

[原文]烏梅能波奈 左伎知流波流能 奈我伎比乎 美礼杼母安加奴 伊蘇尓母安流香母

[訓読]梅の花咲き散る春の長き日を見れども飽かぬ礒にもあるかも

[仮名]うめのはな さきちるはるの ながきひを みれどもあかぬ いそにもあるかも

[左注]右一首大蔵大輔甘南備伊香真人

[校異]なし

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:甘南備伊香 植物 宴席 中臣清麻呂 宴席讃美

[訓異]うめのはな[寛],

さきちるはるの[寛],

ながきひを,[寛]なかきひを,

みれどもあかぬ,[寛]みれともあかぬ,

いそにもあるかも[寛],


[歌番号]20/4503

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)

[原文]伎美我伊敝能 伊氣乃之良奈美 伊蘇尓与世 之婆之婆美等母 安加無伎弥加毛

[訓読]君が家の池の白波礒に寄せしばしば見とも飽かむ君かも

[仮名]きみがいへの いけのしらなみ いそによせ しばしばみとも あかむきみかも

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持

[校異]なし

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:大伴家持 宴席 中臣清麻呂 主人讃美 恋愛

[訓異]きみがいへの,[寛]きみかいへの,

いけのしらなみ[寛],

いそによせ[寛],

しばしばみとも,[寛]しはしはみとも,

あかむきみかも[寛],


[歌番号]20/4504

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)

[原文]宇流波之等 阿我毛布伎美波 伊也比家尓 伎末勢和我世<古> 多由流日奈之尓

[訓読]うるはしと我が思ふ君はいや日異に来ませ我が背子絶ゆる日なしに

[仮名]うるはしと あがもふきみは いやひけに きませわがせこ たゆるひなしに

[左注]右一首主人中臣清麻呂朝臣

[校異]呂 -> 古 [類][細]

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:中臣清麻呂 宴席 恋愛

[訓異]うるはしと[寛],

あがもふきみは,[寛]あかものきみは,

いやひけに[寛],

きませわがせこ,[寛]きませわかせこ,

たゆるひなしに[寛],


[歌番号]20/4505

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)

[原文]伊蘇能宇良尓 都祢欲比伎須牟 乎之杼里能 乎之伎安我未波 伎美我末仁麻尓

[訓読]礒の裏に常呼び来住む鴛鴦の惜しき我が身は君がまにまに

[仮名]いそのうらに つねよびきすむ をしどりの をしきあがみは きみがまにまに

[左注]右一首治部少輔大原今城真人

[校異]なし

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:大原今城 宴席 中臣清麻呂 序詞 動物 主人讃美 忠誠

[訓異]いそのうらに[寛],

つねよびきすむ,[寛]つねよひきすむ,

をしどりの,[寛]をしとりの,

をしきあがみは,[寛]をしきあかみは,

きみがまにまに,[寛]きみかまにまに,


[歌番号]20/4506

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)依興各思高圓離宮處作歌五首

[原文]多加麻刀能 努乃宇倍能美也<波> 安礼尓家里 多々志々伎美能 美与等保曽氣婆

[訓読]高圓の野の上の宮は荒れにけり立たしし君の御代遠そけば

[仮名]たかまとの ののうへのみやは あれにけり たたししきみの みよとほそけば

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持

[校異]婆 -> 波 [類]

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:大伴家持 宴席 中臣清麻呂 依興 高円 離宮 宮廷 懐古 地名 聖武天皇

[訓異]たかまとの[寛],

ののうへのみやは[寛],

あれにけり[寛],

たたししきみの,[寛]たたしききみの,

みよとほそけば,[寛]みよとほそけは,


[歌番号]20/4507

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)(依興各思高圓離宮處作歌五首)

[原文]多加麻刀能 乎能宇倍乃美也<波> 安礼奴等母 多々志々伎美能 美奈和須礼米也

[訓読]高圓の峰の上の宮は荒れぬとも立たしし君の御名忘れめや

[仮名]たかまとの をのうへのみやは あれぬとも たたししきみの みなわすれめや

[左注]右一首治部少輔<大原>今城真人

[校異]婆 -> 波 [類][細] / <> -> 大原 [元][古]

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:大原今城 宴席 中臣清麻呂 依興 高円 離宮 宮廷 懐古 聖武天皇 地名

[訓異]たかまとの[寛],

をのうへのみやは[寛],

あれぬとも[寛],

たたししきみの[寛],

みなわすれめや[寛]


[歌番号]20/4508

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)(依興各思高圓離宮處作歌五首)

[原文]多可麻刀能 努敝波布久受乃 須恵都比尓 知与尓和須礼牟 和我於保伎美加母

[訓読]高圓の野辺延ふ葛の末つひに千代に忘れむ我が大君かも

[仮名]たかまとの のへはふくずの すゑつひに ちよにわすれむ わがおほきみかも

[左注]右一首主人中臣清麻呂朝臣

[校異]なし

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:中臣清麻呂 宴席 依興 高円 離宮 宮廷 懐古 聖武天皇 地名 植物 序詞

[訓異]たかまとの,[寛]たかまとの,

のへはふくずの,[寛]のへはふくすの,

すゑつひに[寛],

ちよにわすれむ[寛],

わがおほきみかも,[寛]わかおほきみかも,


[歌番号]20/4509

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)(依興各思高圓離宮處作歌五首)

[原文]波布久受能 多要受之努波牟 於保吉美<乃> 賣之思野邊尓波 之米由布倍之母

[訓読]延ふ葛の絶えず偲はむ大君の見しし野辺には標結ふべしも

[仮名]はふくずの たえずしのはむ おほきみの めししのへには しめゆふべしも

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持

[校異]能 -> 乃 [元][類]

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:大伴家持 宴席 中臣清麻呂 依興 高円 離宮 宮廷 懐古 枕詞 植物 聖武天皇

[訓異]はふくずの,[寛]はふくすの,

たえずしのはむ,[寛]たえすしのはむ,

おほきみの[寛],

めししのへには[寛],

しめゆふべしも,[寛]しめゆふへしも,


[歌番号]20/4510

[題詞](二月於式部大輔中臣清麻呂朝臣之宅宴歌十<五>首)(依興各思高圓離宮處作歌五首)

[原文]於保吉美乃 都藝弖賣須良之 多加麻刀能 努敝美流其等尓 祢能未之奈加由

[訓読]大君の継ぎて見すらし高圓の野辺見るごとに音のみし泣かゆ

[仮名]おほきみの つぎてめすらし たかまとの のへみるごとに ねのみしなかゆ

[左注]右一首大蔵大輔甘南備伊香真人

[校異]なし

[事項]天平宝字2年2月 年紀 作者:甘南備伊香 宴席 中臣清麻呂 依興 高円 離宮 宮廷 懐古 地名 聖武天皇 悲嘆

[訓異]おほきみの[寛],

つぎてめすらし,[寛]つきてめすらし,

たかまとの[寛],

のへみるごとに,[寛]のへみることに,

ねのみしなかゆ[寛],


[歌番号]20/4511

[題詞]属目山齋作歌三首

[原文]乎之能須牟 伎美我許乃之麻 家布美礼婆 安之婢乃波奈毛 左伎尓家流可母

[訓読]鴛鴦の住む君がこの山斎今日見れば馬酔木の花も咲きにけるかも

[仮名]をしのすむ きみがこのしま けふみれば あしびのはなも さきにけるかも

[左注]右一首大監物御方王

[校異]なし

[事項]天平宝字2年 年紀 作者:三形王 宴席 中臣清麻呂 植物 動物 叙景 庭園讃美 属目

[訓異]をしのすむ[寛],

きみがこのしま,[寛]きみかこのしま,

けふみれば,[寛]けふみれは,

あしびのはなも,[寛]あしひのはなも,

さきにけるかも[寛],


[歌番号]20/4512

[題詞](属目山齋作歌三首)

[原文]伊氣美豆尓 可氣左倍見要氐 佐伎尓保布 安之婢乃波奈乎 蘇弖尓古伎礼奈

[訓読]池水に影さへ見えて咲きにほふ馬酔木の花を袖に扱入れな

[仮名]いけみづに かげさへみえて さきにほふ あしびのはなを そでにこきれな

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持

[校異]なし

[事項]天平宝字2年 年紀 作者:大伴家持 宴席 中臣清麻呂 植物 庭園讃美 叙景 属目 [訓異]

[訓異]いけみづに,[寛]いけみつに,

かげさへみえて,[寛]かけさへみえて,

さきにほふ[寛],

あしびのはなを,[寛]あしひのはなを,

そでにこきれな,[寛]そてにこきれな,


[歌番号]20/4513

[題詞](属目山齋作歌三首)

[原文]伊蘇可氣乃 美由流伊氣美豆 氐流麻埿尓 左家流安之婢乃 知良麻久乎思母

[訓読]礒影の見ゆる池水照るまでに咲ける馬酔木の散らまく惜しも

[仮名]いそかげの みゆるいけみづ てるまでに さけるあしびの ちらまくをしも

[左注]右一首大蔵大輔甘南備伊香真人

[校異]なし

[事項]天平宝字2年 年紀 作者:甘南備伊香 宴席 中臣清麻呂 植物 庭園讃美 属目

[訓異]いそかげの,[寛]いそかけの,

みゆるいけみづ,[寛]みゆるいけみつ,

てるまでに,[寛]てるまてに,

さけるあしびの,[寛]さけるあしひの,

ちらまくをしも[寛],


[歌番号]20/4514

[題詞]二月十日於内相宅餞渤海大使小野田守朝臣等宴歌一首

[原文]阿乎宇奈波良 加是奈美奈妣伎 由久左久佐 都々牟許等奈久 布祢波々夜家無

[訓読]青海原風波靡き行くさ来さつつむことなく船は速けむ

[仮名]あをうなはら かぜなみなびき ゆくさくさ つつむことなく ふねははやけむ

[左注]右一首右中辨大伴宿祢家持 [未誦之]

[校異]歌 [西] 謌

[事項]天平宝字2年2月10日 年紀 作者:大伴家持 藤原仲麻呂 未誦 小野田守 餞別 宴席 出発 羈旅 無事

[訓異]あをうなはら[寛],

かぜなみなびき,[寛]かせなみなひき,

ゆくさくさ[寛],

つつむことなく[寛],

ふねははやけむ[寛],


[歌番号]20/4515

[題詞]七月五日於<治>部少輔大原今城真人宅餞因幡守大伴宿祢家持宴歌一首

[原文]秋風乃 須恵布伎奈婢久 波疑能花 登毛尓加射左受 安比加和可礼牟

[訓読]秋風の末吹き靡く萩の花ともにかざさず相か別れむ

[仮名]あきかぜの すゑふきなびく はぎのはな ともにかざさず あひかわかれむ

[左注]右一首大伴宿祢家持作之

[校異]式 -> 治 [西(朱訂正右書)][元][紀][細]

[事項]天平宝字2年7月5日 年紀 作者:大伴家持 植物 大原今城 餞別 宴席 悲別

[訓異]あきかぜの,[寛]あきかせの,

すゑふきなびく,[寛]すゑふきなひく,

はぎのはな,[寛]はきのはな,

ともにかざさず,[寛]ともにかささす,

あひかわかれむ[寛],


[歌番号]20/4516

[題詞]三年春正月一日於因幡國廳賜饗國郡司等之宴歌一首

[原文]新 年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其騰

[訓読]新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事

[仮名]あらたしき としのはじめの はつはるの けふふるゆきの いやしけよごと

[左注]右一首守大伴宿祢家持作之

[校異]歌 [西] 謌

[事項]天平宝字3年1月1日 年紀 作者:大伴家持 予祝 寿歌 鳥取 宴席

[訓異]あらたしき,[寛]あたらしき,

としのはじめの,[寛]としのはしめの,

はつはるの[寛],

けふふるゆきの[寛],

いやしけよごと,[寛]いやしけよこと,