<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書
『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、
1910年発行
〔ローマ・カトリック訳〕
『ラゲ訳新約聖書』エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)
ルカ聖福音書3
1恰も其時人ありて、ピラトが數人のガリレア人の血を彼等の犧牲に混へし事を告げしかば、
2イエズス答へて曰ひけるは、汝等は、彼ガリレア人が斯る目に遇ひたればとて、凡てのガリレア人に優りて罪深かりしと思ふか。
3我汝等に告ぐ、然らず、然れど改心せずば、汝等も皆同じく亡ぶべし。
4又シロエに於て倒れたる塔の爲に壓殺されし彼十八人も、エルザレムに住める凡ての人に優りて負債ありしと思ふか。
5我汝等に告ぐ、然らず、然れど若改心せずば汝等も皆同じく亡ぶべし、と。
6イエズス又喩を語り給ひけるは、或人其葡萄畑に無花果樹を植ゑたりしが、來りて其果を求めたれど得ざりしかば、
7葡萄畑の小作人に云ひけるは、我來りて此無花果樹に果を求むれど得ざる事已に三年なり、然れば之を伐倒せ、何ぞ徒に地を塞ぐや、と。
8小作人答へて、主よ、今年も之を容し給へ。我其周圍を堀りて肥料を施しなば、
9或は果を結ぶ事もあらん、若し無くば其後伐倒し給ふべし、と云へり、と。
10安息日に當りて、イエズス彼等の會堂にて敎へ給ひけるに、
11折しも十八年以來癈疾の鬼に憑かれ、屈まりて少しも仰ぎ見ること能はざる女あり。
12イエズス見て之を呼近づけ給ひ、女よ、汝は其癈疾より救はれたるぞ、と曰ひて之に按手し給ひしかば、
13女直に伸びて神に光榮を歸し居たり。
14然るに會堂の司、イエズスの安息日に醫し給ひしを憤り、答へて群衆に向ひ、働くべき日六日あり、然れば其間に來りて醫されよ、安息日には爲すべからず、と云ひければ、
15主答へて曰ひけるは、僞善者等よ、汝等各安息日に當りて、己が牛或は驢馬を、芻槽より解放ちて、水飼ひに牽行くに非ずや。
16然るを此十八年間サタンに繫がれたる、アブラハムの女は、其繫を安息日に解かるべからざりしか、と。
17イエズス此事等を曰ひけるに、反對せる者等皆赤面し、人民擧りて、イエズスの手に成さるる光榮ある凡ての事を喜び居たり。
18乃ち曰ひけるは、神の國は何にか似たる、我之を何にか擬へん、
19恰も一粒の芥種の如し、人之を取りて其畑に播きたれば、長ちて大木と成り、空の鳥其枝に息めり、と。
20又曰ひけるは、我神の國を何にか擬へん、
21恰も麪酵の如し、女之を取りて三斗の粉の中に藏せば、終に悉く膨るるに至る、と。
22斯てイエズス、町村を敎へつつ過ぎてエルザレムへ旅し給ふに、
23或人、主よ、救はるる者は少きか、と云ひしかば、人々に曰ひけるは、
24狹き門より入る事を努めよ、蓋我汝等に告ぐ、多くの人入る事を求むべけれども、而も能はざるべし。
25家父既に入りて門を閉ぢたらん時には、汝等外に立ちて、主よ、我等に開き給へ、と云ひつつ門を叩き始むべけれど、彼答へて、我汝等が何處の者なるかを知らず、と云はん。
26汝等其時、我等は汝の御前にて飲食し、汝は我等の衢にて敎へ給ひしなり、と云はんとすべし。
27然れども彼汝等に向ひ、我汝等が何處の者なるかを知らず、惡を爲す輩よ、悉く我より去れ、と云はん。
28斯て汝等、アブラハム、イザアク、ヤコブ及び一切の預言者は神の國に在りながら、己等のみ逐出さるるを見ば、其處に痛哭と切齒とあらん。
29又東西南北より來りて、神の國の席に着く人々あらん。
30斯て看よ、後なる人は先になり、先なる人は後にならん、と。
31同じ日に、ファリザイ人數人近づきてイエズスに向ひ、ヘロデ汝を殺さんとす、出でて此處を去れ、と云ひしかば、
32彼等に向ひて曰ひけるは、往きて彼狐に告げよ、看よ、今日も明日も、我惡魔を逐拂ひ、人々を醫し、而して三日目に我事畢るべし、
33然れども、今日も明日も其次の日も、我は步まざる可らず、其はエルザレムの外に斃るるは、預言者たる者に取りて相應しからざればなり、と。
34エルザレムよ、エルザレムよ、預言者等を殺し、汝に遣はされたる人々に石を擲つ者よ、恰も鳥が巢雛を翼の下に[集むる]如く、我が汝の子等を集めんとせし事幾度ぞや、然れど汝之を肯ぜざりき。
35看よ、汝等の家は荒廢れて汝等に遺らん、我汝等に告ぐ、主の御名によりて來るもの祝せられよかし、と汝等の唱へん時至るまで、汝等我を見る事なかるべし、と。
1イエズス安息日に麪を食せんとて、ファリザイ人の長だちたる或者の家に入り給ひしかば、彼等之を窺ひ居たり、
2折しも水腫に罹れる人御前に居りければ、
3イエズス答へて律法學士とファリザイ人とに向ひ、安息日に醫すは可きか、と曰ひしに、
4彼等默然たりしかば、イエズス彼を執へて醫し、さて之を去らしめて、
5彼等に答へて曰ひけるは、汝等の中己が驢馬或は牛の井に陷ちたるものあらんに、安息日なりとも、誰か速に之を引上げざらんや、と。
6彼等は之に對して、答ふること能はざりき。
7又招かれたる人々の上席を擇む狀態を見て、彼等に喩を語りて曰ひけるは、
8汝婚莚に招かれたる時、上席に着くこと勿れ、恐らくは汝よりも尊き人の招かれたらんに、
9汝と彼とを招きたる人來りて汝に向ひ、請ふ此客に席を讓れと云はん、然らば汝赤面して末席に着くに至るべし。
10然れば招かれたる時、往きて末席に着け、然らば招きたる人來りて、友よ上に進めと云はん。斯て汝、列席せる人々の前に面目あるべし。
11蓋總て自ら驕る人は下げられ、自ら遜る人は上げらるべし、と。
12イエズス又己を招きたる人に曰ひけるは、汝午餐又は晚餐を設くる時、朋友、兄弟、親族、富める隣人を招くこと勿れ、恐らくは彼等も亦汝を招きて汝に報とならん。
13さて饗筵を設けば、貧窮、廢疾、跛、瞽なる人を招け、
14彼等は汝に報ゆべき由なくして、汝福なるべし。其は義人の復活の時に報いらるべければなり、と。
15列席者の一人、之を聞きてイエズスに云ひけるは、神の國にて麪を食せん人は福なる哉、と。
16イエズス之に曰ひけるは、或人大いなる晚餐を設けて、多くの人を招待せしが、
17晚餐の時刻に至りて僕を遣はし、最早萬事整ひたれば來られよ、と招かれたる人々に云はしめしに、
18彼等皆一同に辭り出でたり。初の者は、我小作場を買ひたれば往きて見ざるべからず、請ふ我を容せ、と云ひ、
19次の者は、我五軛の牛を買ひたれば往きて試みんとす、請ふ我を容せ、と云ひ、
20又一人は、我妻を娶りたるが故に往くこと能はず、と云ひしかば、
21僕歸りて其次第を主人に告げしに、家父怒りて僕に云ひけるは、速に町の衢と辻とに往きて、貧窮、廢疾、瞽、跛なる人々を此處に伴ひ來れ、と。
22僕軈て、主よ命じ給ひし如くに爲しかど尙空席あり、と云ひしかば、
23其時主人僕に云ひけるは、汝道及籬の下に往き、人を强ひて、我家に盈つるまで入らしめよ、と。
24我汝等に告ぐ、彼招かれたる者の中、一人も我晚餐を味はじ、と。
25群衆夥しくイエズスに伴ひければ、顧みて曰ひけるは、人我に來りて、
26其父母、妻子、兄弟、姉妹、己が生命までも憎むに非ざれば、我弟子たること能はず、
27又己が十字架を擔ひて我に從はざる人は、我弟子たること能はず。
28汝等の中誰か、塔を建てんと欲して、先坐して之に要する費用を測り、有てる物の之を成就するに足れりや否やを計へざらんや、
29若礎を定めたる後成就すること能はずば、見る者之を嘲り出でて、
30此人は建て始めて成就すること能はざりき、と云はん。
31又如何なる王か、出でて他の王と戰を交へんとするに當り、先坐して、二萬を率ゐ來る者に、能く我一萬を以て對ふことを得べきか、と、慮らざらんや、
32若得べからずば敵の尙遠き間に、使節を遣はして講和を求むべし。
33之と齊しく汝等の中、其有てる物を悉く見限らざる者は、誰にてもあれ我弟子たること能はず。
34鹽は善き物なり、然れど鹽若其味を失はば、何を以てか之に鹽せん、
35土地にも肥料にも益なくして、外に棄てられんのみ、聞く耳を有てる人は聞け、と。
1時に稅吏、罪人等、イエズスに聽かんとて近づきければ、
2ファリザイ人、律法學士等呟きて、此人は罪人を接けて共に食するよ、と云ひ居たりしかば、
3イエズス彼等に喩を語りて曰ひけるは、
4汝等の中誰か、百頭の羊ありて其一頭を失ひたらんに、九十九頭を野に舍きて其失せたるものを見出すまで尋ねざらんや。
5然て之を見出さば、喜びて己が肩に乘せ、
6家に歸りて朋友隣人を呼集め、我失せたりし羊を見出したれば我と共に喜べ、と云はん、
7我汝等に告ぐ、斯の如く、改心する一個の罪人の爲には、改心を要せざる九十九の義人の爲よりも、天に於て喜あるべし。
8又如何なる女か、ダラクマ十枚ありて其一枚を失ひたらんに、燈を點し、家を掃きて見出すまで能く探さざらんや。
9然て見出さば、己の朋友隣人を呼集めて、我が失ひたりしダラクマを見出したれば我と共に喜べ、と云はん。
10我汝等に告ぐ、斯の如く、改心する一個の罪人の爲には、神の使等の前に喜びあるべし、と。
11又曰ひけるは、或人二人の子ありしが、
12次男なるもの父に向ひ、父よ、我に充てらるべき分の財産を我に賜へ、と云ひしかば、父は子等に財産を分てり。
13然て幾日も經ざるに、次男は一切を掻集めて遠國へ出立し、彼處にて放蕩なる生活に財産を浪費せり。
14既に一切を費して後、彼地方に大飢饉起りしかば、彼も漸く乏しくなり、
15其地方の或人の許に至りて之に縋りしに、其人之を己が小作場に遣りて豚を牧はせたり。
16斯て豚の食ふ豆莢もて己が腹を充たさん事を望み居たりしかど、之を與ふる者なかりき。
17軈て自省みて云ひけるは、我父の家には麪に饜ける傭人幾許かあるに、我は此處にて飢死なんとす。
18起ちて我父の許に至り、父よ、我は天に對しても汝の前にも罪を犯せり、
19我は最早汝の子と呼ばるるに足らず、願はくは我を汝の傭人の一人と視做し給へ、と云はん、と。
20卽ち起ちて父の許を指して行きしが、未だ程遠かりけるに、父は之を見て憫を感じ、趨往きて其頚を抱き、之に接吻せり。
21子は、父よ、我は天に對しても汝の前にも罪を犯せり、我は最早汝の子と呼ばるるに足らず、と云ひしかど、
22父は僕等に向ひ、疾く最上の服を取來りて之に着せ、其手に指輪を嵌め、足に履を穿かせよ、
23又肥えたる犢を牽來りて屠れ、我等會食して樂しまん、
24其は此我子死したるに蘇り、失せたるに見出されたればなり、と云ひて宴を開けり。
25然るに長男は畑に居たりしが、歸來りて家に近づく時、奏樂舞踏の物音聞えしかば、
26僕の一人を呼びて、是は何事ぞと問ひしに、
27僕云ひけるは、汝の弟來れり、之を恙なく迎へたるにより、汝の父肥えたる犢を屠りたるなり、と。
28長男憤りて家に入る事を肯ぜざりしかば、父出でて懇に請出でけるに、
29彼答へて云ひけるは、看よ、我は多年汝に事へ、未曾て汝の命に背きし事なきに、一疋の小山羊だも、朋友と共に會食せん爲に、汝より與へられし事なし、
30然るを娼妓等と共に財産を食盡したる、彼汝の子來るや、汝は之が爲に肥えたる犢を屠れり、と。
31父之に謂ひけるは、子よ、汝は恒に我と共に居りて、我物は皆汝の物なり、
32然れども汝の弟は、死したるに蘇り、失せたるに見出されたれば、我等愉快を盡して喜ばざるを得ざりしなり、と。
1イエズス又弟子等に曰ひけるは、或富豪に一人の家令ありしが、主人の財産を浪費せりとて、訟出でられしかば、
2主人彼を召び、我が汝に就きて聞く所は是何事ぞや、汝最早家令たるを得ざれば、家令たりし時の會計を差出せ、と云ひしに、
3家令心の中に謂ひけるは、我主人家令の職を我より褫へる上は、我何を爲すべきぞ、耕す事は叶はず、乞食するは羞し、
4家令を罷められたる後、人々の家に承けられん爲には、爲すべき樣こそあれ、とて、
5主人に負債ある人々を呼集めて、初の一人に云ひけるは、我主人に對する汝の負債は幾許ぞ、と。
6彼、油百樽なり、と云ひしに、家令云ひけるは、汝の證書を取り、早く坐して五十と書け、と。
7又次の者に云ひけるは、汝の負債は幾許ぞと、彼、麥百石なりと云ひしに、家令云ひけるは、汝の證書を取りて八十と書け、と。
8然るに主人、此不正なる家令を譽めて、其手段を巧妙なりとせり。蓋此世の子等は互に光の子等よりも巧妙なればなり。
9我も亦汝等に告ぐ、汝等不正の富を以て友人を作り、息絕えし後、汝等に永遠の住處に承入れしむべく爲よ。
10抑小事に忠なる人は大事にも亦忠なり、小事に不正なる人は大事にも亦不正なり。
11然れば汝等若し不正の富に於て忠ならざりせば、誰か眞の富を汝等に托せん。
12又他人の物に於て忠ならざりせば、誰か汝等の物を汝等に與へん。
13一人の僕は二人の主に兼事ふること能はず、或は一人を憎みて一人を愛し、或は一人に從ひて一人を疎むべければなり。汝等は神と富とに兼事ふること能はず、[と宣へり]。
14然るに貪欲なるファリザイ人等、此始終の事を聞きて嘲りければ、
15イエズス彼等に曰ひけるは、汝等は人の前に自ら義とする者なり、然れど神は汝等の心を知り給ふ、蓋人に取りて高き者は、神の御前に憎むべき者なり。
16律法と預言者等とはヨハネを限とす、其時より神の國は宣傳へられ、人皆力を盡して之に到らんとす。
17天地の廢るは、律法の一畫の墜つるよりは易し。
18總て妻を出して他に娶る人は姦淫を行ふ者なり、又夫より出されたる婦を娶る人は姦淫を行ふ者なり。
19曾て一人の富豪あり、緋色の布と亞麻布とを纏ひ、日々奢り暮らしたるに、
20又ラザルと云へる一人の乞食あり、全身腫縻れて富豪の門前に偃し、
21其食卓より落つる屑に飽足らん事を欲すれども與ふる人なく、而も犬等來りて其腫物を舐り居たり。
22然るに乞食死にければ、天使に携へられてアブラハムの懷に至りたるに、富豪も亦死して地獄に葬られしが、
23苦痛の中に在りて、目を翹げて、遥にアブラハムと其懷なるラザルとを見、
24叫びて云ひけるは、父アブラハムよ、我を憫みてラザルを遣はし、其指先を水に浸して我舌を冷させ給へ、我は此焔の中に甚く苦しめるを、と。
25アブラハム之に云ひけるは、子よ、汝が存命の間善き物を受け、ラザルが同じ間に惡き物を受けしを記憶せよ、然ればこそ今彼は慰められて汝は苦しむなれ。
26加之、我等と汝等との間には大いなる淵の定置かれたれば、此處より汝等の處へ渡らんと欲するも叶はず、其處より此處に移る事も叶はざるなり、と。
27富豪又云ひけるは、然らば父よ、希はくはラザルを我父の家に遣はし、
28我に兄弟五人あれば、彼等も亦此苦惱の處に來らざる樣、之に證明せしめ給へ、と。
29アブラハム之に云ひけるは、モイゼと預言者等とあれば、彼等は之に聽くべきなり、と。
30富豪、否父アブラハムよ、然れど若死者の中より至る者あらば、彼等改心すべし、と云ひければ、
31アブラハム之に向ひて、若モイゼと預言者等とに聽かざる彼等ならば、假令死者の中より復活すとも信ぜざるべし、と云へり、と。
1イエズス弟子等に曰ひけるは、躓きは來らざるを得ず、然れど之を來す人は禍なる哉、
2石磨を頚に懸けられて海に投入れらるるは、此小き者の一人を躓かするよりは、寧彼に取りて優れり。
3汝等自ら注意せよ。若汝の兄弟汝に罪を犯さば之を諌めよ、而して若改心せば之を宥せ、
4一日に七度汝に罪を犯して、一日に七度改心すと云ひつつ汝に立ち返らば之を宥せ、と。
5使徒等、願くは我等の信仰を增し給へ、と主に云ひしかば、
6主曰ひけるは、汝等若芥一粒程の信仰だにあらば、此桑の樹に向ひて、拔けて海に移り樹て、と云はんに、必ず汝等に順はん。
7汝等の中誰か、僕の耕し或は牧して畑より還れる時、之に向ひて、直に往きて食せよ、と云ふ者あらんや。
8却て我夕餉を支度し、我が飲食する中、帶して我に給仕せよ、さて後に汝飲食すべしと言ふに非ずや。
9命ぜし事を爲したればとて、主人は彼僕に感謝するか、
10我思ふに然らず。斯の如く、汝等も命ぜられし事を悉く爲したらん時、我等は無益の僕なり、爲すべき事を爲したる耳と言へ、と。
11イエズスエルザレムへ赴き給ふとて、サマリアとガリレアとの中程を通り給ひしが、
12或村に入り給ふ時、十人の癩病者之を迎へて、遥に立止り、
13聲を揚げて云ひけるは、師イエズスよ、我等を憫み給へ、と。
14イエズス之を見給ふや、汝等往きて己を司祭等に見せよ、と曰ひしかば、彼等往く程に、途中にて潔くなれり。
15其中の一人己の潔くなりたるを見るや、聲高く神に光榮を歸しつつ還來り、
16イエズスの足下に平伏して感謝せしが、是サマリア人なりき。
17イエズス答へて曰ひけるは、潔くなりし者は十人に非ずや、其九人は何處にか居る、
18此異邦人の外は、立還りて神に光榮を歸し奉れる者見えざるなり、と。
19卽ち之に曰ひけるは、立ちて往け、蓋汝の信仰汝を救へり、と。
20神の國は何時來るべきかと、ファリザイ人に問はれし時、イエズス答へて曰ひけるは、神の國は目に見えて來るものに非ず、
21又、看よ、此處に在り彼處にありと云ふべきにも非ず、神の國は卽ち汝等の中に在ればなり、と。
22又弟子等に曰ひけるは、汝等が人の子の一日を見んと欲する日來らん、然れど之を見ざるべし。
23又人は、看よ此處に在り彼處に在り、と云はんも、往くこと勿れ、從ふこと勿れ、
24其は電光の閃きて空の極より極に光る如く、人の子も其日に當りて然あるべければなり。
25然れど豫め多くの苦を受け、且此時代の人に棄てられざるべからず。
26ノエの日に起りし如く、人の子の日にも亦然あらん、
27卽ちノエが方舟に入る日まで、人々飲食し、妻を娶り、娶せられ居りしが、洪水來りて悉く彼等を亡ぼせり。
28又ロトの日に起りし如くならん、卽ち人々飲食し、賣買し、植ゑ、建てなど爲し居りしが、
29ロトがソドマより出でし日には、天より火と硫黃と降りて、彼等を悉く亡ぼせり。
30人の子の現るべき日にも亦斯の如くなるべし。
31其時人屋根に居りて器具家の内に在らば、之を取らんとて下るべからず、畑に居る人も亦同じく歸るべからず。
32ロトの妻の事を憶へ。
33總て己が生命を救はんと欲する人は之を失ひ、失はん人は之を保たん。
34我汝等に告ぐ、彼夜には二人一個の寢牀に居らんに、一人は取られ一人は遺されん、
35二人の婦共に磨挽き居らんに、一人は取られ一人は遺されん、二人の男畑に居らんに、一人は取られ一人は遺されん、と。
36弟子等答へて、主よ、何處ぞ、と云ひしかば、
37何處にもあれ、屍の在らん處に鷲も亦集るべし、と曰へり。