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ヤコボ書 (ラゲ訳)

提供:Wikisource

<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書

『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、

1910年発行

〔ローマ・カトリック訳〕

ラゲ訳新約聖書エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)

ヤコボ書

第1章

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1かみおよ我主わがしゆイエズス、キリストのしもべヤコボ、離散りさんせる十二ぞく挨拶あいさつす。 2わが兄弟等きやうだいたちよ、なんぢ種々しゆじゆこころみおちいりたるときは、これもつとよろこぶべきことおもへ。 3なんぢ信仰しんかうこころみは、忍耐にんたいしやうずるをればなり。 4れどなんぢ完全くわんぜん無缺むけつにして、何事なにごととぼしきところなからんために、忍耐にんたい完全くわんぜんなるげふさざるべからず。 5なんぢうち知識ちしきえうするひとあらば、たれをもとがめめたまはずしてをしみなくたまかみねがたてまつるべし、らばあたへられん。 6ただしうたがことなく信仰しんかうもつねがはざるべからず、けだしうたがものかぜうごかされて、ただよへるうみなみたれば、 7かかひとしゆよりなにものをもけんとすることなかれ、 8これ二心ふたごころあるひとにして、そのすべてのみちおいさだまりければなり。 9兄弟きやうだいひくものそのたかめられしをおほいによろこぶべく、 10めるものは、おのひくきによりてよろこぶべし。これまさくさはなごとくにぎんとすればなり。 11それでてくれば、くされてそのはなち、そのおもてうつくしさはせたり。めるものそのみちおいしぼむべきことまたかくごとし。 12こころみしのひとさいはひなり、鍛鍊たんれんのちかみおのれあいしたてまつ人々ひとびとやくたまひし生命せいめいかんむりべければなり。 13たれいざなはるるにあたりて、かみよりいざなはるとふべからず。けだしかみあくいざなはれたまことあたはざれば、たれをもいざなたまことなし。 14おのおのいざなはるるは、おのれよくかれまどはされてなり、 15かくよくはらむやつみみ、つみまつたうせらるるやしやうず。 16ればわが至愛しあいなる兄弟等きやうだいたちよ、あやまことなかれ、 17すべたまもの完全くわんぜんなるめぐみとはうへよりして、變更へんかうなく回轉かいてんかげなきひかりちちよりくだる。 18けだし造物ざうぶつ初穗はつほごときものたらしめんために、御心みこころよりして眞理しんりことばもつわれたまひしなり。 19わが至愛しあいなる兄弟等きやうだいたちよ、なんぢれり、ひとすべくにはやく、かたるにおそかるべし。 20ひといかりかみさざればなり。 21ればなんぢ一切いつさいけがらはしきことと、おびただしき惡事あくじとをぬぎて、なんぢゑられてなんぢ靈魂れいこんすくふべき御言おんことばおだやか承容うけいれよ。 22かくなんぢみづかあざむきて聽聞ちやうもんしやたるにとどまらず、ことば實行じつかうしやれ。 23けだしひともしことば聽聞ちやうもんしやにして實行じつかうしやあらずば、かがみうつして生來うまれつきかほひとたるべし。 24すなはおの姿すがた退しりぞくや、ただちその如何いかりしかをわする。 25しかれども自由じいう完全くわんぜんなる律法りつぱふかんがみてこれとどまものは、わすちなる聽聞ちやうもんしやらずしてわざ實行じつかうしやる。かかひとは、そのところりてさいはひなるべし。 26ひともしみづか宗敎しうけうなりとおもひつつ、そのしたせいせずしておのこころあざむかば、その宗敎しうけう無益むえきなり。 27ちちにてましまかみ御前みまへきよくしてけがれなき宗敎しうけうは、孤兒みなしご寡婦やもめその困難こんなんあたりて訪問はうもんし、みづかまもりて世間せけんけがされざることこれなり。

第2章

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1わが兄弟等きやうだいたちよ、なんぢ光榮くわうえいなる我主わがしゆイエズス、キリストにおけ信仰しんかうたもちて、ひと依怙えこあることなかれ。 2けだしなんぢあつまりふくしてきんゆびめたるひと入來いりきたり、また粗服そふくしたるまずしきひと入來いりきたらんに、 3なんぢふくしたるひとかへりみて、よろしく此處ここせよとひ、まずしきひとには、其處そこあるひあしだいもとせよ、とはば、 4これこころうちへだてして料簡れうけんただしからざる審判しんぱんしやるにあらずや。 5わが至愛しあいなる兄弟等きやうだいたちよ、け、かみこのおけ貧者ひんしやえらみて信仰しんかうめるものらしめ、かみおのれあいたてまつ人々ひとびとやくたまひしくに世嗣よつぎたらしめたまひしにあらずや。 6しかるになんぢ貧者ひんしやいやしめたり。富者ふしや勢力せいりよくもつなんぢあつし、かつみづか法廷はふていくにあらずや、 7なんぢうへとなへられたるけがすにあらずや。 8ただなんぢもし聖書せいしよしたがひて、「なんぢおのちかものおのれごとあいせよ」とのわうてき律法りつぱふまもらば、そのところし。 9れどもしひとたいして依怙えこあらば、これつみをかして、犯人はんにんとして律法りつぱふとがめらるるなり。 10たれにもあれ、律法りつぱふことごとまもるも、いつてんをかところあらば、一切いつさいたいして有罪いうざいとなればなり。 11けだし、「なんぢ姦淫かんいんするなかれ」とのたまひしものまた、「ころなかれ」とのたまひしがゆゑに、假令たとひ姦淫かんいんせざるもころことあらば、これ律法りつぱふ違反ゐはんしやたるなり。 12ればなんぢかたるにもおこなふにも、あたか自由じいう律法りつぱふもつ審判しんぱんせらるべきものごとくにせよ。 13けだし審判しんぱん慈悲じひさざるひと慈悲じひなきものにして、慈悲じひ審判しんぱんつものなり。 14わが兄弟等きやうだいたちよ、假令たとひひとみづか信仰しんかうありとふとも、おこなひなくばなんえきかあらん、信仰しんかうあにこれすくふをんや。 15もし兄弟きやうだい姉妹しまい赤裸はだかにして日々にちにち食物しよくもつとぼしからんに、 16なんぢうち彼等かれらむかひて、心安こころやすきてあたため、くまでしよくせよ、とひとありとも、えうするものあたへずばなんえきかあらん。 17信仰しんかうまたくのごとし、おこなひなくばしたるものなり。 18しかるにひとあるひはん、なんぢ信仰しんかうありわれおこなひあり、おこなひなきなんぢ信仰しんかうわれしめせ、しからばわれまたおこなひによりて信仰しんかうなんぢしめさん、 19なんぢかみゆゐいつにてましまことしんず、そのところし、惡魔あくましんじてふるひをののくなりと。 20くうなるひとよ、おこなひなき信仰しんかうしたるものなるをらんことほつするか、 21わがちちアブラハムは、祭壇さいだんうへそのイザアクをささげて、おこなひによりてとせられしにあらずや。 22信仰しんかうかれおこなひともはたらきしことと、おこなひによりて信仰しんかうまつたうせられしこととはなんぢところなり。 23しかして聖書せいしよに、「アブラハムかみしんじたり、かくこのこととしてかれせられたり」とること成就じやうじゆし、かれかみ愛人あいじんとせられたり。 24ひととせらるるは、ただ信仰しんかうのみにらずしておこなひるをずや。 25これひとしく娼婦しやうふラハブも、使つかひたちけてほかみちよりらしめ、おこなひによりてとせられしにあらずや。 26けだしれいなき肉體にくたいせるがごとく、おこなひなき信仰しんかうまたせるなり。

第3章

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1わが兄弟等きやうだいたちよ、多人數たにんずう敎師けうしことなかれ、われ一層ひとしほきびしき審判しんぱんくるはなんぢところにして、 2われみなおほくのこときてあやまつものなればなり。ひともしことばによりてあやまことなくばこれ完全くわんぜんなるひとにして、またその全身ぜんしんくつわにてをさむるをべし。 3それうましたがへんとして、くつわそのくちほどこせば、われその全身ぜんしんぎよす。 4またふねよ、假令たとひそのふねおほいにしてつよかぜおそわるるも、いとちひさかじによりてあやつものほつするところけらる、 5かくごとしたちひさ局部きよくぶながら、そのほこところおほいなり。如何いかばかりのちひさが、如何いかばかりのおほいなるはやしくかをよや。 6したまたなり、不義ふぎ世界せかいなり。したわれ五體ごたいうちそなはりて全身ぜんしんけがし、地獄じごくもつもやされ、われ一生いつしやう車輪しやりんく。 7けだし一切いつさいけものとり爬蟲はふものうみ種族しゆぞくせいせられ、またじつ人性じんせいによりてせいせられたり。 8しかれどもした一人ひとりこれせいすることあたはず、さだまりなきあくにして死毒しどくてり。 9われしたもつちちにてましまかみしゆくたてまつり、またこれもつかみかたどりてつくられたるひとのろひ、 10祝福しゆくふくのろひおなくちよりづ。わが兄弟等きやうだいたちよ、これしかあるべきにあらず、 11あにおなあなよりみづあまきものとにがきものとをながいづみあらんや。 12わが兄弟等きやうだいたちよ、如何いかん無花果いちじく葡萄ぶだうしやうじ、葡萄ぶだう無花果いちじくしやうずるをんや。かくごと鹽水しほみづいづみまた淡水まみづいだすことあたはず。 13なんぢうち智識ちしきありて敏捷びんせうなるものありや、そのひとよろしく生活せいくわつにより、知識ちしきづる溫和をんわもつおこなひしめすべし。 14れどなんぢもしにがねたみいだきてあらそこころあらばほこことなかれ、眞理しんりはんしていつはことなかれ。 15これかか知識ちしきてんよりくだれるものにあらずしてぞくするもの、肉慾にくよくよりづるもの、惡魔あくまよりきたるものなればなり。 16けだしねたみあらそひとあるところには、みだれ一切いつさい惡業あくげふとあり。 17うへよりの知識ちしきだい一にみさをつぎ穩便をんびん溫和をんわにしてすすめやすく、(ぜんくみし)矜恤あはれみ好果かうくわとに滿ち、是非ぜひせず、表裏へうりなきものなり。 18平和へいわせる人々ひとびとおいて、平和へいわうちかるるなり。

第4章

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1なんぢうちおけいくさあらそひとは何處いづこよりかきたれる、なんぢ五體ごたいうちたたかへるそのよくよりにあらずや。 2なんぢむさぼりてず、ころねたみてことあたはず、あらそたたかひてことなきはねがはざるがゆゑなり。 3ねがひてけざるは、よくためつひやさんとしてあしねがふがゆゑなり。 4姦淫かんいんしやよ、このたいする愛情あいじやうかみあだとなるをらずや、ればたれにもあれ、このともたらんとするひとみなかみあだとなる。 5なんぢ聖書せいしよへることいたづらなりとおもふか、かみなんぢ宿やどらせたまひしれいねたむまでにのぞたまふ、 6なほおほいなる恩寵おんちようたまへばこそ、「かみ傲慢がうまんなるものさからひ、謙遜けんそんなるもの恩寵おんちようたまふ」とはへるなれ。 7このゆゑなんぢかみ歸服きふくして惡魔あくまさからへ、しからば惡魔あくまなんぢより退しりぞくべし。 8かみちかづきたてまつれ、らばかみなんぢちかづきたまはん。罪人つみびとよ、きよめよ、二心ふたごころものよ、こころきよらかにせよ。 9痛悔つうくわいしてなげかつけ、なんぢわらひなげきとなり、なんぢよろこびかなしみれ、 10しゆ御前みまへへりくだれ、らばしゆなんぢたかたまはん。 11兄弟等きやうだいたちよ、あひそしことなかれ、兄弟きやうだいそしものあるひ兄弟きやうだい是非ぜひするものは、律法りつぱふそし律法りつぱふ是非ぜひするものなり。もし律法りつぱふ是非ぜひせば、これ律法りつぱふ履行りかうしやあらずして、その審判しんぱんしやたるなり。 12そもそもすくべくほろぼしべき立法りつぱふしや審判しんぱんしやゆゐいつにてまします、 13しかるになんぢたれなればちかものをば是非ぜひするぞ。いまわれ今日けふ明日あす何某なにがしまちき、いちねんあひだ其處そことどまり、商賣しやうばいしてんとものよ、 14なんぢ明日あす何事なにごとのあるべきかをらざるにあらずや。 15けだしなんぢ生命いのちなにぞや、しばらゆるもやにして、つひには消失きえうするものなり。なんぢよろしくこれへて、われもししゆ思召おぼしめしならばまたくるならば、これかれさんとふべし。 16しかるになんぢいまたかぶりてみづかほこれり、かくごとほこりすべ惡事あくじなり。 17ゆゑひとぜんおこなふべきをりてこれおこなはざればつみるなり。

第5章

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1さてめる人々ひとびとよ、なんぢ到來たうらいすべきわざはひためさけなげけ。 2なんぢとみ腐敗ふはいし、なんぢ衣服いふくむしばまれ、 3なんぢ金銀きんぎんびたり。かくそのさびなんぢ證據しようこなりて、ごとくになんぢにくまん、なんぢすゑたいしていかりたくはへたるなり。 4よ、なんぢあざむきて、なんぢ土地とち刈取かりとりし作人さくにんあたへざりし賃金ちんぎんさけぶ、彼等かれらさけび萬軍ばんぐんしゆみみれり。 5なんぢ地上ちじやうりて歡樂くわんらくし、放蕩はうたうゆだね、殺害さつがいあたりてもこころ滿足まんぞくせしめ、 6義人ぎじんつみさだめてこれころししも、かれなんぢ抵抗ていかうせざりき。 7れば兄弟等きやうだいたちよ、しゆ降臨かうりんまで忍耐にんたいせよ、よや農夫のうふたふとちて、春秋はるあきあめくるまで忍耐にんたいするを。 8ればなんぢ忍耐にんたいしてこころかたうせよ、けだししゆ降臨かうりんちかきにり。 9兄弟等きやうだいたちよ、なんぢ審判しんぱんせられざらんために、あひうらことなかれ、審判しんぱんしや門前もんぜんたまふ。 10兄弟等きやうだいたちよ、なんぢしゆ御名みなによりてかたりし預言よげんしやたちもつて、苦痛くつう忍耐にんたいとの模範もはんとせよ。 11われ忍耐にんたいしたる人々ひとびとさいはひなりとするをおもへ、なんぢかつてヨブの忍耐にんたいき、またをはりしゆたまひしことたり。すなはしゆ慈悲じひふかましまして、あはれみたまものなり。 12わが兄弟等きやうだいたちよ、なんぢだい一に、あるひてんあるひあるひなにものもつてもちかことなかれ、ただしかりはしかり、いないなへ、これ審判しんぱんかからざらんためなり。 13なんぢうちうれふるものあらんか、そのひといのるべきなり。よろこものあらんか、そのひとせいうたふべきなり。 14なんぢうちめるものあらんか、そのひと敎會けうくわい長老ちやうらうたちぶべく、彼等かれらしゆ御名みなによりてこれ注油ちゆうゆし、これうへいのるべし。 15かく信仰しんかういのり病者びやうしやすくひ、しゆこれ引立ひきたたまひ、もしつみあらばゆるさるべきなり。 16ればたがひにおのつみ告白こくはくして、たがひためいのれ、これなんぢいやされんためなり。義人ぎじんあついのりおほいなる効力かうりよくあり。 17エリアはわれ同樣どうやうひとなりしも、あめ地上ちじやうらざらんことせついのりしかば、らざることねん箇月かげつなりき。 18かくふたたいのりしかば、てんあめあたあたへたりき。 19わが兄弟等きやうだいたちよ、もしなんぢうち眞理しんりあやまてるものあり、ひとありてこれたちかへらしめんか、 20罪人つみびとそのみちまよひよりたちかへらしめたるものは、そのたましひよりすくひ、おほくのつみおほふべしとるべきなり。