マルコ聖福音書1 (ラゲ訳)

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<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書

『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、

1910年発行

〔ローマ・カトリック訳〕

ラゲ訳新約聖書エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)

マルコ聖福音書1 第1篇

第1章[編集]

1かみ御子おんこイエズス、キリストの福音ふくいんはじめ2預言よげんしやイザヤ[のしよ]にかきしるして、「われわが使つかひなんぢ面前めんぜんつかははさん、かれなんぢまへなんぢみちそなふべし。 3荒野あれのよばはるひとこゑありて、いはく、なんぢしゆみちそなへよ、そのこみちなほくせよ」とあるがごとく、 4ヨハネ荒野あれのりてせんし、かつつみゆるされんために、改心かいしん洗禮せんれいけんこと宣敎のべをしへしが、 5ユデアのぜん地方ちはうおよびエルザレムのひとみなかれもと出來いできたり、おのつみ告白こくはくして、ヨルダン[がは]にてかれせんせられたりき。 6ヨハネは駱駝らくだ毛織けおりこし皮帶かはおびめ、いなごみつとをしよくりしが、宣敎せんけうしてひけるは、 7われよりもちからあるものわがのちきたたまふ。われかがみて、そのはきものひもくにもへず、 8われみづにてなんぢせんしたれども、かれ聖靈せいれいにてなんぢせんたまふべし、と。 9かく當時そのころイエズス、ガリレアのナザレトよりきたり、ヨルダン[がは]にてヨハネにせんせられたまひしが、 10やがみづよりあがたまふや、てんひらけ、[せい]れいはとごとくだりて、わがうへとどまたまふをたまへり。 11またてんよりこゑして[いはく]、なんぢわが愛子あいしなり、われなんぢりてこころやすんぜり、と。 12[せい]れいただちかれ荒野あれのかしめたまひしが、 13四十にち四十荒野あれのりて、サタンにこころみられ、野獸やじうともたまひ、天使てんしかれつかたり。 14ヨハネのとらはれしのち、イエズス、ガリレアにいたり、かみくに福音ふくいん宣傳のべつたへて、 15のたまひけるは、とき滿ちてかみくにちかづけり、なんぢ改心かいしんして福音ふくいんしんぜよ、と。 16かくてガリレアの湖邊うみべたまふに、シモンとその兄弟きやうだいアンデレアとがうみあみてるをて、――すなは漁師れうしなりき―― 17イエズス彼等かれらむかひ、われしたがへ、われなんぢひとすなどものらしめん、とのたまひしかば、 18彼等かれらただちあみきてしたがへり。 19なほすこしくすすたまひて、ゼベデオのヤコボとその兄弟きやうだいヨハネとが、またふねうちあみつくろひつつるをて、 20ただち彼等かれらたまひしに、彼等かれらそのちちゼベデオを、雇人やとひひとともふねきてしたがへり。 21[一同いちどう]カファルナウムにりしが、イエズスやが安息日あんそくじつごと會堂くわいどうりてをしたまひければ、 22ひとそのをしへおどろたり。律法りつぱふ學士がくしごとくせずして、權威けんゐあるものごとくにをしたまへばなり。 23しかるに惡鬼あくきかれたるひとその會堂くわいどうりしが、よばはりて、 24ひけるは、ナザレトのイエズスよ、われなんぢなん關係かかはりかあらん、われほろぼさんとてきたたまへるか、われなんぢたれなるかをれり、すなはかみせいなるものなり、と。 25イエズスこれめて、なんぢもくしてそのひとよりでよ、とのたまひしに、 26汚鬼をきそのひと抅攣ひきつけさせ、こゑたかさけびつつ出去いでされり。 27かくひとみなおそれりて、何事なにごとぞ、何等なんらあたらしきをしへぞ。かれ權威けんゐもつ汚鬼をきにすらめいたまへば、彼等かれらこれしたがふよ、とたがひ僉議せんぎするにいたりければ、 28イエズスの名聲きこえたちまちガリレアのぜん地方ちはうひろがれり。 29彼等かれらやが會堂くわいどうで、ヤコボヨハネとともに、シモンとアンデレアとのいへいたりしが、 30シモンのしうとめねつわづらひてければ、ただちそのことをイエズスにまうしたるに、 31ちかづきてそのり、これおこたまひしかば、ねつ立所たちどころりてかのをんな彼等かれら給仕きふじしたり。 32夕暮ゆふぐれいたりてのち人々ひとびとめるものおよび惡魔あくまかれたるものを、ことごとくイエズスのもともたらし、 33まちひとこぞりてもんあつまたりしが、 34イエズス樣々さまざまやまひわづらへるひとおほいやし、また惡魔あくまおほ逐出おひいだして、ものいふことをゆるたまはざりき、彼等かれらイエズスをればなり。 35イエズス未明みめいおきで、さびしきところいたりていのたまへるを、 36シモンおよびともりし人々ひとびとあとしたきて、 37これひしかば、ひとみななんぢたづぬ、とひしに、 38イエズス彼等かれらのたまひけるは、われ比鄰もより村落むらむら市街まちまちかん、彼處かしこにもまた宣敎せんけうすべし、われこれためきたりたればなり、と。 39かく處々しよしよ會堂くわいどうおよびガリレア一般いつぱん宣敎せんけうし、かつ惡魔あくま逐拂おひはらたまへり。 40とき一個ひとりらい病者びやうしやイエズスのもときたり、ひざまづきてねがひけるは、思召おぼしめしならばわれきよくすることたまふ、と。 41イエズスこれあはれたまひ、べ、これれてのたまひけるは、我意わがいなり、きよくなれ、と。 42これのたまふや、癩病らいびやうただちかれりてかれきよくなれり。 43イエズスこれいましたまひ、 44なんぢつつしみてひとかたることなかれ、ただしきておのれ司祭しさいせ、きよくなりたるために、彼等かれらへの證據しようことして、モイゼのめいぜしものをささげよ、とのたまひて、ただちかれらしめたまへり。 45しかれどもかれでてそのことかたり、言弘いひひろはじめしかば、イエズス最早もはや顯然あらはまちがたりて、そとさびしきところたまひしが、人々ひとびと八方はつぱうよりそのもとつどきたたり。

第2章[編集]

1數日すうじつのち、イエズスまたカファルナウムにたまひしが、 2いへたまこときこえしかば、人々ひとびとおびただしくあつまきたり、門口かどぐちすら隙間すきまもなきほどなるに、イエズス彼等かれらをしへたまへり。 3ここ人々ひとびとにんかれたる一個ひとり癱瘋ちゆうぶしやもたらししが、 4群衆ぐんしゆうためこれをイエズスに差出さしいだだすことあたはざれば、たまところ屋根やねぎてこれひらき、癱瘋ちゆうぶしやせるとこつりおろせり。 5イエズス彼等かれら信仰しんかうて、癱瘋ちゆうぶしやむかひ、よ、なんぢつみゆるさる、とのたまひしかば、 6ある律法りつぱふ學士がくし其處そこて、こころおもひけるは、 7かれなんかくごとふや、これ冒涜ばうとくするなり、かみひとりほかたれつみゆるすことをんや、と。 8イエズス彼等かれらおもへるをただちそのこころりてのたまひけるは、なんすれおもひをこころいだける。 9癱瘋ちゆうぶしやなんぢつみゆるさるとふと、きてとこりてあゆめとふと、いづれやすき。 10なんぢをして、ひとおいつみゆるすのけんあることをらしめん、とて癱瘋ちゆうぶしやむかひ、 11われなんぢめいず、きよ、とこりておのいへけ、とのたまひしに、 12かれたちまきてとこり、衆人しゆうじん目前めのまへすぎきしかば、みな感嘆かんたんへず、かみ光榮くわうえいし、われかつかくごとことざりき、とふにいたれり。 13イエズスまた湖邊うみべたまひしに、群衆ぐんしゆうこぞりてきたりければ、彼等かれらをしたまひしが、 14とほりがけに、アルフェオのレヴィが收稅しうぜいしよせるをて、われしたがへ、とのたまひしかば、かれちてしたがへり。 15かくかれいへにてしよくたまひければ、おほくの稅吏みつぎとり罪人つみびととは、イエズスおよびその弟子でしたちとも列席れつせきしたり、けだしイエズスにしたがへるものすでおほかりき。 16律法りつぱふ學士がくしファリザイじん、イエズスが稅吏みつぎとりおよび罪人つみびとともしよくたまふをて、その弟子でしたちひけるは、なんぢ何故なにゆゑ稅吏みつぎとり罪人つみびととも飲食いんしよくするぞ、と。 17イエズスこれきて彼等かれらのたまひけるは、壯健さうけんなるもの醫者いしやえうせず、やまひあるものこそ[これえうするなれ]、すなはちきたりしは義人ぎじんためあらずして、罪人ざいにんを[ためなり]、と。 18ヨハネの弟子でしたちとファリザイじんとは斷食だんじきしたりければ、きたりてイエズスにひけるは、ヨハネとファリザイじんとの弟子でし斷食だんじきするに、なんぢ弟子でし何故なにゆゑ斷食だんじきせざるぞ、と。 19イエズス彼等かれらのたまひけるは、新郞はなむこおのれともあひだ介添かいぞへいかでか斷食だんじきすることをん。新郞はなむこともあひだ彼等かれら斷食だんじきすることをず。 20れど新郞はなむこ彼等かれらうちより取去とりさらるるきたらん、そのには斷食だんじきせん。 21新布あらぬのきれふる衣服いふくひとはあらず、しかせばそのあたらしきはぎかえつふるもの引裂ひきさきて、破綻やぶれおほいなるべし。 22またあたらしきさけふる皮嚢かはぶくろひとはあらず、もししかせばさけ皮嚢かはぶくろきてながれ、皮嚢かはぶくろまたすたらん、あたらしきさけあたらしき皮嚢かはぶくろにこそるべけれ、と。 23しゆまた安息日あんそくじつあたりて、麥畑むぎばたけよぎたまへるに、弟子でしたちあゆみつつつみはじめしかば、 24ファリザイじんイエズスにむかひ、よ、彼等かれら安息日あんそくじつすべからざることせるはなんぞや、とひければ、 25イエズスのたまひけるは、ダヴィドがきふせまりて、おのれともなへる人々ひとびとゑしときししことを、なんぢまざりしか、 26すなはち如何いかにして、大司祭だいしさいアビアタルのときかみいへりて、司祭しさいたちほかしよくすべからざるそなへぱんしよくし、ともなへる人々ひとびとにもあたへしかを。 27またのたまひけるは、安息日あんそくじつひとためまうけられて、ひと安息日あんそくじつためつくられず、 28ればひとまた安息日あんそくじつしゆたるなり、と。

第3章[編集]

1イエズスまた會堂くわいどうたまひしに、隻手かたてえたるひと其處そこりければ、 2ファリザイじんイエズスをうつたへんとて、かれ安息日あんそくじついやすやいなやをうかがりしが、 3イエズスえたるひとむかひて、眞中まんなかて、とのたまひ、 4また彼等かれらむかひて、安息日あんそくじつぜんすはきか、あくすはきか、ひとすくふはきか、これほろぼすはきか、とのたまひしに、彼等かれら默然もくぜんたりき。 5イエズス彼等かれらこころ頑固かたくななるをうれひ、いかりふくみて視廻みまはしつつかのひとに、べよ、とのたまひければ、かれべて、そのえたり。 6しかるにファリザイじんは、でてただちに、如何いかにしてかイエズスをほろぼさんと、ヘロデのともがらとも協議けふぎしたり。 7イエズス、弟子でしたちともうみほうたまひしに、群衆ぐんしゆうおびただしくガリレアおよびユデアより、 8またエルザレム、イデュメア、ヨルダン[がは]の彼方かなたより[きたりて]したがひ、かつチロとシドンとの地方ちはうよりも、イエズスのおこなたまへることきて、人々ひとびとおびただしくそのもときたりしかば、 9イエズス群衆ぐんしゆうおしせまられざらんために、小舟こぶねわがようそなかんこと弟子でしたちめいたまへり。 10けだし許多きよたひといやたまふにり、やまひあるものみなかれれんとてとびほどなりき。 11汚鬼をきどももイエズスをときは、そのまへ平伏ひれふし、さけびて、 12なんぢかみなり、とければ、イエズスおのれあらはすなと、きびしくいましたまへり。 13かくてイエズスやまのぼり、このたまへる人々ひとびとたまひしに、彼等かれらきたりしかば、 14十二にんてておのれともらしめ、かつ宣敎せんけうつかはさんとて、 15これあたふるに、やまひいやし、惡魔あくま逐拂おひはら權能けんのうもつてしたまへり。 16すなはちシモン、これをペトロとなづけ、 17ゼベデオのヤコボと、ヤコボの兄弟きやうだいヨハネ、これをボアゲルネスすなはちいかづちなづたまへり。 18またアンデレア、フィリッポ、バルトロメオ、マテオ、トマ、アルフェオのヤコボ、タデオ、カナアンのシモン、 19およびイエズスをりしイスカリオテのユダなりき。 20彼等かれらいへいたりしに、群衆ぐんしゆうふたたびあつまりしかば、ぱんしよくすることだにざりしが、 21イエズスの親族しんぞくこれき、かれきやうせりとひて、これとらへんため出來いできたれり。 22またエルザレムよりくだりし律法りつぱふ學士がくしも、かれベエルゼブブにかれたり、その惡魔あくま逐拂おひはらふは惡魔あくまかしらるなり、とたり。 23イエズス彼等かれら呼集よびあつめて、たとへもつのたまひけるは、サタンいかでかサタンを逐拂おひはらふをんや。 24くにみづかわかあらそときは、そのくにあたはず、 25いへみづかわかあらそときは、そのいへあたはず、 26サタンもしおのれさからはば、これみづかわかあらそふもの、あたはずして、かえつほろぶべし。 27如何いかなるひとも、つよものいへりてその家具かぐかすめんには、まづつよものしばらざればあたはず、[しばりてのち]そのいへかすむべし。 28われまことなんぢぐ、ひと一切いつさいつみおよび冒涜ばうとくせしその冒涜ばうとくゆるされん、 29しかれども聖靈せいれい冒涜ばうとくせしもの永遠えいえんゆるしず、永遠えいえんつみふくすべし、と。 30のたまひしは人々ひとびとかれ汚鬼をきかれたり、とればなり。 31ときにイエズスのはは兄弟等きやうだいたちと、きたりてそとち、ひとつかはしてかればしめしに、 32群衆ぐんしゆうかれめぐりてたりけるが、人々ひとびとかれげて、よ、なんぢはは兄弟等きやうだいたちそとりてなんぢたづぬ、とひしかば、 33イエズス彼等かれらこたへてのたまひけるは、たれはは兄弟きやうだいなるぞ、と。 34またおの周圍めぐりせる人々ひとびと視廻みまはしつつのたまひけるは、これわがははわが兄弟きやうだいなる、 35かみ御旨みむねおこなひとは、これわが兄弟きやうだいわが姉妹しまいわがははなればなり、と。

第4章[編集]

1ふたた湖邊うみべにてをしはじたまひしが、群衆ぐんしゆうおびただしくそのもとあつまりしかば、イエズスはうみうかべるふねりてたまひ、群衆ぐんしゆうは、みなきし沿ひてをかれり。 2かくたとへもつおほくのことをしたまひしが、そのをしへうちのたまひけるは、 3なんぢけ。たねものかんとてでしが、 4ときあるたね路傍みちばたちしかば、そらとりきたりてこれついばめり。 5あるたねつちすくな磽地いしぢちしに、つちふかからざるによりてただち萌出はえいでたれども、 6日出ひいづるやけて、なきがゆゑれたり。 7あるたねいばらなかちしに、いばらそだちてこれ蔽塞おほひふさぎたれば、むすばざりき。 8あるたねよきつちちしかば、でてみのち、ひとつは三十ばいひとつは六十ばいひとつは百ばいしやうじたり。 9またのたまひけるは、みみてるひとけ、と。 10イエズスひとりたまときともりし十二にんこのたとへひしかば、 11彼等かれらのたまひけるは、なんぢかみくに奧義おくぎことたまはりたれど、そとひと何事なにごとたとへもつてせらる、 12彼等かれらゆれどもみしらず、きてきこゆれどもさとらず、これたちかへりてそのつみゆるさるることなからんためなり。 13また彼等かれらのたまひけるは、なんぢこのたとへらざるか、らば如何いかにしてか、もろもろたとへさとらん。 14たねものことばくなり、 15ことばかるるとき路傍みちばたちたるものは、ひとこれきたるにサタンたちまちきたりてそのこころかれたることばうばふものなり。 16磽地いしぢかれたるものは、おなじくことばき、ただちよろこびてこれくれども、 17おのれなく、暫時しばしのみにして、やがことばために、困難こんなん迫害はくがいおこれば、たちまちつまづくものなり。 18またいばらうちかれたるものあり、これことばくといへども19この心勞こころづかひとみまどひそのしよよく入來いりきたりて、ことば蔽塞おほひふさぎ、つひみのらざるにいたる。 20よきつちかれたるものは、ことばきてこれけ、あるいは三十ばいあるひは六十ばいあるひは百ばいむすぶものなり。 21また彼等かれらのたまひけるは、ともしびもちきたるは、ますしたあるひだいしたかんためなるか、燭臺しよくだいうへせんためあらずや、 22すなはち何事なにごとかくされてあらはれざるはなく、ひそかにせられてつひおほやけでざるはなし。 23みみてるひとけ。 24また彼等かれらのたまひけるは、なんぢところつつしめ。なんぢはかりたるはかりにてみづからもはかられ、しかさらくはへられん、 25てるひとなほあたへられ、たざるひとそのてるところをもうばはるべければなり。 26またのたまひけるは、かみくには、あたかもひとたねくがごとし。 27夜晝よるひる寢起いねおきしてらざるに、そのたね萌出はえいでて生長せいちやうす、 28すなはち自然しぜんしやうじ、まづなえつぎつぎてるむぎしやうじ、 29すでみのりて收穫かりいれときいたれば、ただちかまるるなり。 30またのたまひけるは、われかみくになになぞらへ、如何いかなるたとへもつたとへんか。 31これ一粒ひとつぶ芥種からしだねごとし。かるるとき地上ちじやうあらゆるたねよりもちひさけれども、 32かれたるのちそだちて、そだちてよろず野菜やさいよりおほきく、おほいなるえだしやうじて、そらとりそのかげむをるにいたる、と。 33イエズスは、人々ひとびとるにおうじて、かかおほくのたとへもつをしへかたたまひ、 34たとへなくしてひとかたたまことあらざりしが、弟子でしたちには何事なにごとをも、べつ解釋ときあかたまへり。 35そのくれおよびて、イエズス弟子でしたちに、われ彼方かなたきしわたらん、とのたまひしかば、 36彼等かれら群衆ぐんしゆうらしめ、イエズスをふねたまへるままき、ほかふねどもこれともなひたりき。 37とき大風おほかぜおこりて、なみふねうちり、船中せんちう滿つるにいたりしが、 38イエズスはともほうまくらしてたまへるを、弟子でしたち呼起よびおこしてひけるは、よ、われほろぶるをかへりたまはざるか、と。 39イエズスきてかぜいましめ、またうみむかひて、もくせよ、しづまれ、とのたまひしかば、かぜみて大凪おほなぎとなれり。 40また彼等かれらのたまひけるは、なんぢ何故なにゆゑおそるるぞ、いまだ信仰しんかうたざるか、と。 41彼等かれらおそるることはなはだしく、何人なにびとぞや、かぜうみもこれにしたがふよ、とかたりたり。

第5章[編集]

1うみわたりてゲラサじんいたりしが、 2イエズスふねよりたまふや、汚鬼をきかれたるひとはかよりでてきたむかふ。 3このひとはか住處すみかとし、くさりもつてすら、たれこれつなず、 4すなはち數次しばしばあしかせくさりとをもつつながれたりしも、くさりあしかせくだきて、たれこれせいものなかりき。 5かくえずさけび、かつみづかいしもてきずつけつつ、夜晝よるひるはかやまなかりしが、 6はるかにイエズスをて、はしりて禮拜れいはいし、 7こゑたかよばはりひけるは、いとたかかみ御子おんこイエズスよ、われなんぢなん關係かかはりかあらん。わがかみによりてこひねがふ、われくるしむることなかれ、と。 8はイエズスこれむかひて、汚鬼をきこのひとよりいでよ、とのたまへばなり。 9イエズス、なんぢなんぞ、とたまひしに、かれわが軍團ぐんだんなり、われ數多かずおほければなり、とひて、 10おのれこのより逐拂おひはらたまはざらんことを、せつねがたり。 11此處ここぶたおほいなるむれ山邊やまべりてくさりしが、 12[あく]どもこひねがひて、われりてぶたなかることをさせたまへ、とひければ、 13イエズスただちこれゆるたまひしに、汚鬼をきどもでて、ぶたなかり、おほよそ二千びきばかりむれいきほひすさまじくうみ飛入とびいりて、うみなか溺死おぼれしせり。 14このぶたりしものどもげて、まち田舎ゐなか吹聽ふいちやうしたれば、人々ひとびとこと顛末てんまつんとてでしが、 15イエズスのもときたりて、かの惡魔あくまなやまされしひとの、すで衣服いふくこころたしかにしてせるをて、おそれたり。 16またたりしものかの惡魔あくまかれたりしひとされたる次第しだいと、ぶたこととをげしかば、 17彼等かれらイエズスにそのさかひたまはんこと願出ねがひいでたり。 18イエズス、ふねたまときかの惡魔あくまなやまされしひとともなはんこと願出ねがひいでたれど、 19イエズスこれれずしてのたまひけるは、なんぢいへなんぢ親戚しんせきいたりて、しゆなんぢ如何いかばかりおほいなることをなし、[如何いかに]なんぢあはれたまひしかを彼等かれらげよ、と。 20かれすなはちりて、イエズスのおのれたまひしこと如何いかばかりおほいなるかを、デカポリにいひひろはじめしかば、ひとみな感嘆かんたんしたり。 21イエズスまたふねにてうみわたたまひしかば、群衆ぐんしゆうおびただしくそのもとあつまりしが、湖邊うみべたまをりしも、 22會堂くわいどうつかさ一人ひとりなる、ヤイロとへるもの出來いできたり、イエズスをるや、足下あしもと平伏ひれふして、 23わがむすめなんなんとす、たすかりてくるやうきたりてこれ按手あんしゆたまへ、としきりこひねがひければ、 24イエズスかれともたまふに、群衆ぐんしゆうおびただしくしたがひておしせまたり。 25ここに十二ねん血漏ちろうわづらへるをんなありて、 26かつ數多あまた醫師いしかかりて樣々さまざまくるしめられ、てるものことごとつひやしたれど、なんかひもなく、かえつますますしかりしに、 27イエズスのこときしかば、雜沓ざつたふうちうしろよりきたりて、その衣服いふくれたり。 28その衣服いふくにだにれなばゆべし、とたればなり。 29かく出血しゆつけつたちまちにみて、をんなやまひえたるをかんじたり。 30イエズスただちおのれよりれいのうでしをさとたまひ、群衆ぐんしゆうかへりみて、たれわが衣服いふくれしぞ、とのたまふや、と。 31弟子でしたちひけるは、群衆ぐんしゆうなんぢおしせまるをながらなほたれわれさわりしぞ、とのたまふや、と。 32イエズスこれししひとんとて視廻みまはたまへば、 33をんなりたることりて、おそおののきつつきたり、御前みまへ平伏ひれふして、つぶさじつげたり。 34イエズスこれのたまひけるは、むすめよ、なんぢ信仰しんかうなんぢすくへり、やすんじてけ、なんぢやまひえてあれかし、と。 35なほかたたまうちに、會堂くわいどうつかさいへよりひときたりてひけるは、なんぢむすめせり。なんなほわづらはすや、と。 36イエズスそのぐるところきて、會堂くわいどうつかさのたまひけるは、おそるることなかれ、ただしんぜよ、と。 37しかしてペトロとヤコボとヤコボの兄弟きやうだいヨハネとのほかたれにも隨行ずいかうゆるさずして、 38會堂くわいどうつかさいへいたたまひしが、そのさわぎはなはだしく、人々ひとびとき、かついたなげきつつるをて、 39イエズスうちたまひ、なんぢなんさわかつくや、むすめにたるにあらず、いねたるなり、とのたまへば、 40人々ひとびとこれわらたり。れどひとみなそといだし、むすめ父母ふぼおの從者ともびととをれて、むすめせるところり、 41むすめりて、タリタクミ、とのたまへり、やくして、むすめよ、われなんぢめいず、きよ、のなり。 42むすめただちきてあゆめり、としは十二さいなりき。人々ひとびと愕然がくぜんとしていたおどろきしが、 43イエズスこのことたれにもらすべからずときびしくいましめ、食物しょくもつむすめあたへんことめいたまへり。

第6章[編集]

1イエズス、此處ここりてわが故鄕ふるさといたたまひ、弟子でしたちこれしたがひいたりしが、 2安息日あんそくじつあた會堂くわいどうにてをしへ說始ときはじたまひしかば、ひとおほそのをしへおどろきてひけるは、かれこれこと何處いづこよりたるぞ、そのさづけられたる智惠ちゑと、そのおこなはるるばかりの奇蹟きせきとは、如何いかなるものぞ。 3かれはマリアのにして、ヤコボ、ヨゼフ、ユダおよびシモンの兄弟きやうだいたる職工しよつこうにあらずや、その姉妹しまいわれとも此處ここるにあらずや、と。かくつひかれつまづたり。 4イエズス彼等かれらのたまひけるは、預言よげんしやうやまはれざるはただその故鄕ふるさとそのいへその親戚しんせきうちおいてのみ、と。 5れば此處ここにては、少數せうすう病者びやうしや按手あんしゆしていやたまひしほか何等なんら奇蹟きせきをもたまはず、 6彼等かれら信仰しんかうおどろき、そのほとり邑々むらむらめぐりてをしたまへり。 7イエズス十二にんびて、これ二人ふたりづつつかはすにのぞみ、汚鬼をきども[にたいする]の權能けんのうさづけ、 8かつ途中とちゆうつゑほかなにものをもたづさへざること旅嚢たびぶくろぱんまたおびぜにつまじきこと9普通なみなみ履物はきもの穿くも、二まい下着したぎまじきことめいじ、 10彼等かれらのたまひけるは、何處いづこにても、あるいへらば、そのるまで其處そことどまれ。 11またすべなんぢけず、なんぢかざるものあらば、其處そこ立去たちさりて、彼等かれらへの證據しようことしてあしちりはらえ、と。 12かく弟子でしたちでて改心かいしんすべきことを人々ひとびと說敎せつけうし、 13許多あまた惡魔あくま逐拂おひはらひ、注油ちゆうゆしておほくの病者びやうしやいやたり。 14かくてイエズスのあらはれしかば、ヘロデわうきて、洗者せんしやヨハネは死者ししやうちよりよみがへりたり、ゆゑ奇蹟きせきかれおこなはるるなり、とへるに、 15ある人々ひとびとは、これエリアなりとひ、またある人々ひとびとは、預言よげんしやなり、預言よげんしや一人ひとりごとし、とへば、 16ヘロデこれきてくびきりしかのヨハネは、死者ししやうちよりよみがへりたり、とへり。 17けだしヘロデかつその兄弟きやうだいフィリッポのつまヘロヂアデをめとりたれば、かれためひとつかはしてヨハネをとらへ、監獄かんごくつなぎたりき。 18はヨハネヘロデにむかひ、なんぢ兄弟きやうだいつまるるはからず、とたればなり。 19ればヘロヂアデかれうらみてころさんとほつすれども、あたはざりき、 20これヘロデはヨハネの義人ぎじんたり聖人せいじんたるをりて、これおそかつまもり、これきておほくのことおこなひ、このみてかれたるをもつてなり。 21かく便宜びんぎきたり、ヘロデ、大官だいくわん千夫長せんぷちやうおよびガリレアの貴族きぞく招待せうたいして誕生たんじやう饗宴きやうえんひらきしが、 22かのヘロヂアデのむすめ入來いりきたりてをどりし、ヘロデおよび列席れつせき人々ひとびとこころかなひしかば、わうむすめひけるは、しきものをわれもとめよ、われかならずこれあたへん、と。 23またちかひていはく、何事なにごともとむるも、たとへば我國わがくになかばにても、われこれなんぢあたへん、と。 24そのときむすめでて、われなにもとむべきか、とははひしに、かれ洗者せんしやヨハネのかうべを、とひければ、 25むすめただちわうもといそき、洗者せんしやヨハネのかうべぼんせて、すみやかわれたまはんことほつす、とへり。 26わううれひしかど、ちかひたいかつ列席れつせき人々ひとびとたいしてむすめいなことほつせず、 27刑吏けいりつかはし、ヨハネのかうべぼんせてもちきたことめいぜり。刑吏けいり監獄かんごくにヨハネをくびきり、 28そのかうべぼんもたらして、むすめあたへしかば、むすめこれははあたへたり。 29ヨハネの弟子でしたちきてきたり、そのしかばねりてはかはうむれり。 30使徒しとたちイエズスのもとあつまり、すべてのししことをしへしことげしかば、 31イエズス彼等かれらむかひ、べつさびしきところきたりてしばやすめ、とのたまへり。往來ゆききするひとおほくして、しよくするいとまだにあらざればなり。 32かくふねりて、べつさびしきところけり。 33彼等かれらくをて、おほくのひとこれり、すべてのまちより徒步かちにて彼等かれらさきだちて、彼處かしこはせあつまりしが、 34イエズスでて群衆ぐんしゆうおびただしきをたまひ、その牧者ぼくしやなきひつじごとくなるをあはれみ、おほくのことをしはじたまへり。 35すでれかかりしかば、弟子でしたちちかづきてひけるは、ところさびしくときすでおそし。 36人々ひとびとかへし、四邊あたり田家ゐなかやおよびむらきて面々めんめん食物しょくもつふことをしめたまへ、と。 37イエズスこたへて、なんぢこれ食物しよくもつあたへよ、とのたまひしかば、彼等かれらひけるは、われきて二百デナリオにてぱんひ、彼等かれらしよくせしめんか、と。 38イエズス、なんぢ幾個いくつぱんをかてる、きてよ、とのたまひしに、彼等かれらたづりて、五個いつつ二尾ふたつさかなとあり、とへり。 39かくめいじて、人々ひとびとみな青草あおくさうへ組々くみぐみせしめたまひ、 40人々ひとびとにん五十にんづつしたるに、 41イエズス五個いつつぱん二尾ふたつさかなとをり、てんあふぎてしゆくし、ぱんきて弟子でしたちあたへ、これ人々ひとびとまへかしめ、また二尾ふたつさかな一同いちどうわかたまひしかば、 42みなしよくしてあきれり。 43のこれるくずひろひしに、さかなあはせて十二のかご滿ちしが、 44しよくせし男子だんしは五千にんなりき。 45イエズスただち弟子でしたちしひふねらしめ、おのれ人民じんみんらしむるうみわたり、さきだちてベッサイダへおもむかしめたまひ、 46ひとらしめてのちいのらんとてやまたまへり。 47けてふねうみ中央まんなかり、イエズスはひとりをかたまひしが、 48イエズス弟子でしたち逆風ぎやくふうためなやめるをたまひ、あさの三ごろうみうへあゆみて彼等かれらいたり、ゆきぎんとしたまひしに、 49弟子でしたちそのうみうへあゆたまふをるや、怪物ばけものならんとおもひてさけびいだせり。 50みなかれこころさわぎたればなり。イエズスただちことばいだして、たのもしかれ、われなるぞ、おそるることなかれ、とのたまひ、 51ふねりて彼等かれらいたたまひしに、かぜみたれば、彼等かれらいよいよますますこころうちおどろきたり。 52彼等かれらこころ頑固かたくなにして、ぱんことさとらざりければなり。 53わたりて、ゲネザレトのいたり、きしふねけしが、 54ふねよりづるや、人々ひとびとたちまちイエズスをみとめて、 55そのぜん地方ちはうはせまはり、イエズスのたまふとところに、やめものとこままきて、何處いづくまでもまははじめたり。 56かくいたところあるひむらあるひまちあるひ田家ゐなかやに、人々ひとびと病者びやうしやちまたき、衣服いふくふさにだもれんことねがりしが、るるひとことごといやされつつありき。

第7章[編集]

1ファリザイじんおよび數人すにん律法りつぱふ學士がくしエルザレムよりきたりて、イエズスのもとあつまりしが、 2弟子でしうちなる數人すにんの、つねすなはあらはざるにてぱんしよくするをて、これとがめたり。 3これファリザイじんおよびすべてのユデアじんは、古人こじんつたへまもりて、しばしばあらはざればしよくせず、 4またいちよりきたときは、あらはざればしよくせず、其外そのほかさかづき土器どき銅器どうきとこあらひきよなどまもるべきことおほつたへられたればなり。 5ファリザイじん律法りつぱふ學士がくしイエズスにひけるは、なんぢ弟子でしたちなん古人こじんつたへしたがひてあゆまず、つねにてぱんしよくするや。 6こたへてのたまひけるは、よいかなイザヤが僞善ぎぜんなるなんぢきて預言よげんしたることかきしるして「このたみくちびるにてわれたふとべども、そのこころわれとほざかれり。 7ひと訓戒くんかいをしへて、むなしくわれたふとぶなり」とあるにたがはず。 8すなはちなんぢかみおきてててひとつたへまもり、土器どきさかづきなどあらひきよめ、またたぐひことおほおこなふなり、と。 9また彼等かれらのたまひけるは、なんぢおのつたへまもらんとて、くもかみおきてはいせるよ。 10すなはちモイゼいはく、「なんぢ父母ちちははうやまへ」と、またいはく「ちちもしくはははのろひとすべし」と。 11しかるをなんぢふ、ひともしちちもしくはははむかひて、すべわれよりするコルバン、すなはち獻物ささげものは、なんぢえきとならんとはばれり、と。 12しかして其外そのほか何事なにごとをもちちもしくはははすをゆるさず。 13おのれつたへしつたへによりてかみことばはいし、またたぐひことおほおこなふなり、と。 14イエズスふたたび群衆ぐんしゆう呼集よびあつめて、のたまひけるは、みなわれきてさとれ。 15そとよりひとものは、なにものひとけがあたはず、ひとよりづるものこそひとけがすなれ。 16みみてるひとけ、と。 17てイエズス、群衆ぐんしゆうはなれていへたまひしに、弟子でしたちこのたとへことひければ、 18彼等かれらのたまひけるは、なんぢまでに無智むちなるか。すべそとよりひとものは、これけがあたはざることをさとらざるか。 19これそのこころるにあらずして、はらくだり、すべ食物しょくもつきよめてかはやづればなり、と。 20またのたまひけるは、ひとよりづるものこそひとけがすなれ。 21すなはちひとこころうちよりづるは、惡念あくねん 姦淫かんいん 私通しつう 殺人さつじん 22偸盜ぬすみ 貪婪むさぼり 狡猾かうくわつ 詐僞さぎ 猥褻わいせつ 惡視あしきめ 冒涜ばうとく 傲慢がうまん 愚癡ぐちにして、 23これ一切いつさい惡事あくじは、うちよりでてひとけがすなり、と。 24イエズス此處ここりて、チロとシドンとの地方ちはうき、いへりて、たれをもざらんことほつたまひたれど、かくたまはざりき。 25すなは汚鬼をきかれたるむすめてる一人ひとりをんな、イエズスのことくとひとしく入來いりきたりて、足下あしもと平伏ひれふせり。 26このをんなはシロフェニシアにまれたる異邦いはうじんにして、わがむすめより惡魔あくま逐拂おひはらたまはんことねがでけるに、 27イエズスのたまひけるは、まづ兒等こどもをしてあきらしめよ。兒等こどもぱんりていぬ投與なげあたふるはことあらず、と。 28をんなこたへて、しゆよ、しかり、れど狗兒こいぬも、食卓しよくたくしたに、兒等こども遺片おちくづくらふなり、とひしに、 29イエズスのたまひけるは、このことばによりてけ、惡魔あくまなんぢむすめよりでたり、と。 30をんないへかへりてれば、むすめとこよこたはりて、惡魔あくますで立去たちさりたりき。 31イエズスまたチロの地方ちはうで、シドンをてデカポリ地方ちはう中央ちゆうわうよぎり、ガリレアのうみいたたまひしに、 32人々ひとびとおしにしてみみしひなるものをイエズスにきたり、これ按手あんしゆたまはんことねがひければ、 33イエズスこれ群衆ぐんしゆううちより呼取よびとりて、ゆびそのみみれ、つばきしてそのしたれ、 34てんあふぎてたんじ、エフフェタ、とのたまへり、すなはちひらけよのなり。 35たちまちにしてそのみみひらけ、したもつれけてものいふことただしかりき。 36イエズスこれひとかたこと彼等かれらいましたまひしかど、いましたまふほど、ひとますます言弘いひひろめ、 37ますます感嘆かんたんして、くこそ何事なにごとをもたまひつれ、みみしひきこえしめ、おしものいはしめたまへり、とたり。

第8章[編集]

1そのときまた群衆ぐんしゆうおびただしくして、しよくすべきものあらざりしかば、イエズス弟子でしたち呼集よびあつめてのたまひけるは、 2われこの群衆ぐんしゆうあはれむ。それすで三日みつかわれともすごしていましよくすべきものなし。 3彼等かれら空腹くうふくにしていへかへらしめば、うちには遠方えんぱうよりきたれる人々ひとびとあり、みちにてたふるべし、と。 4弟子でしたちこたへけるは、この荒野あれのにて、たれ何處いづこよりぱん彼等かれらかしめべき、と。 5イエズス、なんぢ幾個いくつぱんをかてる、とたまふに、七個ななつひしかば、 6イエズスめいじて群衆ぐんしゆうすはらせ、七個ななつぱんり、しやしてこれき、人々ひとびとまへそなへしめんとて弟子でしたちあたたまひしかば、彼等かれらこれ群衆ぐんしゆうまへそなへたり。 7またすこしの小魚こざかなありけるを、イエズスこれをもしゆくたまひ、めいじて人々ひとびとまへそなへしめたまひしかば、 8人々ひとびとしよくしてあきり、のこりくづななかごひろへり。 9しよくせしものおほよそせんにんなりしが、イエズスさて彼等かれららしめたまへり。 10かくただち弟子でしたちともふねりて、ダルマヌタ地方ちはういたたまひしに、 11ファリザイじんでてろんじかかり、イエズスをこころみててんよりのしるしもとめければ、 12イエズスこころうちたんじてのたまひけるは、現代げんだいひとなんしるしもとむるや、われまことなんぢぐ、現代げんだいひとあにしるしあたへられんや、と。 13やが彼等かれららしめ、またふねりてうみ彼方かなたいたたまへり。 14とき弟子でしたちぱんたづさふることわすれて、船中せんちうただ一個ひとつぱんあるのみなりしが、 15イエズス彼等かれらめいじて、なんぢつつしみて、ファリザイじん麪酵ぱんだねと、ヘロデの麪酵ぱんだねとに用心ようじんせよ、とのたまひしかば、 16彼等かれらこれわれぱんたざるゆゑならん、とてあんひけるを、 17イエズスりてのたまひけるは、なんぢなんぱんたざることあんずるや、いまだらずさとらざるか、なんぢこころなほめしひなるか、 18ありてえず、みみありてこえざるか、また記憶きおくせざるか。 19すなはちわれ五個いつつぱんを五千にんさきあたへしときなんぢくず滿ちたるかご幾許いくばくとりをさめしぞ、と。彼等かれらじふひしに、 20また[のたまひけるは、]七個ななつぱんせんにんさきあたへしときいくかごくずとりをさめしぞと、彼等かれらななつひしかば、 21イエズスなんいまさとらざる、とのたまへり。 22一行いつかうベッサイダにいたりしに、人々ひとびと一個ひとり瞽者めしひをイエズスにつれきたりて、これたまはんことねがひければ、 23イエズス、瞽者めしひりてこれ邑外むらはづれみちびき、そのつばきしてこれ按手あんしゆし、ゆるものありや、とたまひしに、 24かれみはりて、我人われひと々のあゆむをるに、ごとくなり、とへり。 25やがまたその按手あんしゆたまひしに、やうやひらけ、つひ回復くわいふくして、すべてのものあきらかゆるにいたれり。 26イエズスかれそのいへかへらしめてのたまひけるは、おのいへけ、むらことなく、たれにもぐることなかれ、と。 27イエズス弟子でしたちともにフィリッポのカイザリアの邑々むらむらいでたまひしが、途中みちすがら弟子でしたちひて、人々ひとびとわれたれとかへる、とのたまひしに、 28彼等かれらこたへて、[ある人々ひとびとは]洗者せんしやヨハネ、ある人々ひとびとはエリア、ある人々ひとびと預言よげんしや一人ひとりごとしとふ、とひしかば、 29イエズス彼等かれらのたまひけるは、なんぢわれたれなりとふか、と。ペトロこたへて、なんぢはキリストなりとひけるを、 30イエズスわがことたれにもぐることなかれ、ときびしくいましたまへり。 31またひとおほくのくるしみけ、長老ちやうらう司祭しさいちやう律法りつぱふ學士がくし排斥はいせきせられ、つひころされて、三日みつかのち復活ふくくわつすべきこと彼等かれらをしはじたまひしが、 32そのことおほやけかたたまひければ、ペトロかれきていさめでけるを、 33イエズスかへりみて弟子でしたち見廻みまはたまひ、ペトロを譴責けんせきしてのたまひけるは、サタンよ、退しりぞけ、なんぢあじはへるはかみことあらずしてひとことなればなり、と。 34イエズス群衆ぐんしゆう弟子でしたちとを呼集よびあつめて、これのたまひけるは、ひともしわれしたがはんとほつせば、おのれて、おの十字架じふじかりて、われしたがふべし。 35おの生命せいめいすくはんとほつするひとこれうしなひ、われおよび福音ふくいんため生命せいめいうしなひとは、これすくふべければなり。 36ひとぜん世界せかいまうくとも、もしその生命せいめいそんせば、なんえきかあらん。 37またひとなにもつてかその生命せいめいへんや。 38けだし奸惡かんあくなる現代げんだいおいて、われおよびわがことばぢたるひとをば、ひとおのちち光榮くわうえいもつて、せいなる天使等てんしたちしたがへてきたらんときこれづべし、と。 39また彼等かれらのたまひけるは、われまことなんぢぐ、かみくに權威けんゐもつきたるをるまで、あじははざるべき人々ひとびと此處ここてるものうちり、と。

第9章[編集]

1六日むいかのちイエズス、ペトロヤコボヨハネのみをべつしたがへて、たかやまみちびたまひしに、彼等かれらまへにて御容おんかたちかはり、 2衣服いふくかがやきて純白ましろなることゆきごとく、地上ちじやう布晒人ぬのさらしざるほどなりき。 3ときにエリアモイゼととも彼等かれらあらはれて、イエズスとかたりしが、 4ペトロこたへて、イエズスにひけるは、ラビ、よいかなわれ此處ここことわれ三個みついほりつくり、ひとつなんぢためひとつはモイゼのためひとつはエリアのためにせん、と。 5けだしかれそのところらざりき、みないたおそたればなり。 6かく一叢ひとむらくも彼等かれらたちおほひ、こゑくもうちよりきたりてのたまはく、これわれ最愛さいあいなる、これけ、と。 7彼等かれらただち見廻みまはしけるに、イエズスとおのれとのそとまたたれをもざりき。 8イエズス彼等かれらやまくだときひと死者ししやうちより復活ふくくわつするまでは、そのしことをひとかたるな、といましたまひしかば、 9彼等かれらこれまもりしが、死者ししやうちより復活ふくくわつするまでとは何事なにごとぞ、とろんひたり。 10かくてイエズスにひて、しからばエリアさききたるべしとファリザイじん律法りつぱふ學士がくしへるはなんぞや、とひければ、 11こたへてのたまひけるは、エリアさききたりて萬事ばんじ回復くわいふくすべし、またひときては、おほくの苦難くなんかつないがしろにせらるべし、とかきしるされたるごとく、 12われなんぢぐ、エリアもすできたれり、かつ人々ひとびとほしいままかれあしらひしことかれきてかきしるされたるにたがはず、と。 13イエズス弟子でしたちもときたたまひしに、おびただしき群衆ぐんしゆう彼等かれらかこみ、律法りつぱふ學士がくし彼等かれらろんりしが、 14人民じんみんただちにイエズスをて、みなおどろおそれ、はせりて敬禮けいれいせり。 15イエズス律法りつぱふ學士がくしむかひ、なにろんへるぞ、とのたまひしに、 16群衆ぐんしゆううちよりいちにんこたへてひけるは、よ、われおしなる惡鬼あくきかれたるわがなんぢもたらしたるが、 17惡鬼あくきかるれば、何處いづこにもあれ、たふされてあわき、くひしばり、五體ごたいこはる。これ追出おひいださんことなんぢ弟子でしたちひたれどあたはざりき、と。 18イエズス彼等かれらこたへてのたまひけるは、嗚呼ああ信仰しんかうなき時代じだいなるかなわれ何時いつまでなんぢともらんや、何時いつまでなんぢしのばんや。われたづさきたれ、と。 19すなはちたづさきたりしが、かれイエズスをるや、ただち惡鬼あくきため痙攣けいれんおこし、たふされてあわきつつふしまろびたり。 20イエズスそのちちむかひ、かれこのことおこれるは、何時いつころよりぞ、とたまひしに、 21ちちひけるは、幼少えうせうときよりなり、しかして惡鬼あくきこれころさんと、しばしばみづれたり。なんぢもしべきやうもあらば、われあはれみてたすたまへ、と。 22イエズスこれのたまひけるは、なんぢもししんずることをば、しんずるひとには何事なにごとあたはざるなし、と。 23ちちたちまちなみだともよばはりてひけるは、しゆよ、われしんず、わが信仰しんかうたすたまへ、と。 24イエズス群衆ぐんしゆうはせあつまるを汚鬼をきめ、おしにしてみみしひなる惡鬼あくきよ、われなんぢめいず、このひとより立去たちさりて、ふたたびることなかれ、とのたまひしに、 25惡鬼あくきさけびつつかれ痙攣けいれんせしめて出去いでされり。かれ死人しにんごとくにりしかば、せりとひとおほかりしが、 26イエズスそのりておこたまひければ、かれ立上たちあがれり。 27イエズスいへたまひしに、弟子でしたちひそかに、われこれ逐出おひいだすことあたはざりしは何故なにゆゑぞ、とひしかば、 28イエズス彼等かれらのたまひけるは、かかたぐひは、祈祷きたう斷食だんじきとによらでは、如何いかにしても逐出おひいだすことあたはざるなり、と。 29かく此處ここりて一行いつかうガリレアをよぎりしが、イエズスたれにもられざらんことほつたまひ、 30弟子でしたちをしへて、ひとひとうられ、これころされ、ころされて三日みつか復活ふくくわつすべし、とのたまひしかども、 31彼等かれらそのことばさとらず、またことをもはばかたりき。 32彼等かれらカファルナウムにいたりていへりしに、イエズスひて、なんぢ途々みちみちなにろんじたりしぞ、とのたまへば、 33彼等かれら默然もくぜんたりき、おのれうちもつともおほいなるものたれぞ、とみちすがらあひあらそひたればなり。 34イエズスして十二にんび、これのたまひけるは、ひともしだい一のものたらんとほつせば一同いちどうあとり、一同いちどう召使めしつかいるべし、と。 35一人ひとり幼兒をさなごりて彼等かれらうちき、これいだきて彼等かれらのたまひけるは、 36たれにもあれ、わがために、かか幼兒をさなご一人ひとりくるひとは、われくるものなり、またたれにもあれ、われくるひとは、われくるにはあらずして、われつかはしたまひしものくるなり。 37ヨハネこたへてひけるは、よ、われしたがはざる一人ひとりが、なんぢもつ惡魔あくま逐拂おひはらふをたれば、われこれきんじたりき。 38イエズスのたまひけるは、きんずることなかれ、わがもつ奇蹟きせきおこなひながら、ただちわれそしものあらざればなり。 39すなはちなんぢはんせざるひとは、なんぢためにするものなり。 40なんぢがキリストにぞくするものなればとて、わがため一杯いつぱいみづまするひとあらば、われまことなんぢぐ、かれそのむくいうしなはじ。 41またわれしんずるこのちひさもの一人ひとりつまづかするひとは、驢馬ろばうすくびけられてうみ投入なげいれらるることむしろかれりてまされり。 42もしなんぢなんぢつまづかさばこれれ、不具かたわにて生命せいめいるは、兩手りやうてありて地獄じごくえざるくより、なんぢりてまされり、 43彼處かしこにはそのうじなず、えざるなり。 44もしなんぢあしなんぢつまづかさばこれれ、片足かたあしにて永遠えいえん生命せいめいるは、兩足りやうあしありてえざる地獄じごく投入なげいれらるるより、なんぢりてまされり。 45彼處かしこにはそのうじなず、えざるなり。 46もしなんぢなんぢつまづかさば、これくじりれ、片目かためにてかみくにるは、兩目りやうめありて地獄じごく投入なげいれらるるより、なんぢりてまされり、 47彼處かしこにはそのうじなず、えざるなり。 48おのおのもつしほづけられ、犧牲いけにへおのおのしほもつしほづけられん。 49しほものなり、れどしほもしそのあじうしなはば、なにもつてかこれしほせんや。なんぢこころしほあれ、なんぢあひだ平和へいわあれ、[とのたまへり]。

第10章[編集]

1イエズス此處ここたちでて、ヨルダン[がは]の彼方かなたなるユデアのさかひいたたまひしに、群衆ぐんしゆうまたそのもとあつまりければ、れいごとまた彼等かれらをしたまへり。 2ときにファリザイじんちかづきてこれこころみ、ひとそのつまいだすはよきか、とひしに、 3イエズスこたへて、モイゼはなんぢなにめいぜしぞ、とのたまひしかば、 4彼等かれらふ、モイゼは離緣りえんじやうきてつまいだことゆるせり。 5イエズス彼等かれらこたへてのたまひけるは、かれなんぢこころ頑固かたくななるによりてこそ、かのおきてなんぢかきあたへつれ。 6れど開闢かいびやくはじめに、かみひと男女なんによつくたまへり、 7このゆゑひと父母ちちはははなれてそのつまがつし、 8兩人りやうにん一體いつたいとなるべし。ればすで二人ふたりあらずして一體いつたいなり。 9ゆゑかみあはたまひしところひとこれわかつべからず、と。 10弟子でしたちいへおいて、またおなこときてひしかば、 11彼等かれらのたまひけるは、たれにてもつまいだしてめとるは、これかのをんなたいして姦淫かんいんおこなふなり。 12またつまそのをつとててとつぐは、これ姦淫かんいんおこなふなり、と。 13ときにイエズスのこれたまはんために、人々ひとびと幼兒をさなご差出さしいだしたるに、弟子でしたちその差出さしいだひとしかりければ、 14イエズスこれいきどほたまひ、彼等かれらのたまひけるは、幼兒をさなごわれきたるをゆるせ、これきんずることなかれ、かみくにかくごとひとためなればなり。 15われまことなんぢぐ、すべ幼兒をさなごごとくにかみくにけざるひとは、つひににこれらじ、と。 16かく幼兒をさなごいだき、按手あんしゆしてこれしゆくたまへり。 17イエズスみちたまひしに、一人あるひとはせきたり、そのまへひざまづきて、よ、永遠えいえん生命せいめいんには、われなにすべきか、とひければ、 18イエズスこれのたまひけるは、なんわれきとふや、かみひとりほかきものなし、 19なんぢおきてれり、姦淫かんいんするなかれ、ころなかれ、ぬすなかれ、僞證ぎしようするなかれ、がいするなかれ、なんぢ父母ちちははうやまへ、とこれなり、と。 20かれこたへて、よ、われ幼年えうねんよりことごとこれまもれり、とひしかば、 21イエズスこれそそぎ、いつくしみてのたまひけるは、なんぢなほひとつけり、きててるものことごとこれ貧者ひんしやほどこせ、しからばてんおいたからん、しかしてきたりてわれしたがへ、と。 22かれこのことばかなしうれひつつれり。おほくの財産ざいさんてるものなればなり。 23イエズス見廻みめぐらしつつ弟子でしたちに、かたかなかねてるひとかみくにこと、とのたまひければ、 24弟子でしたちこのことばおどろきしかば、イエズスまたこたへてのたまひけるは、小子せうしよ、かたかなかねたのめるひとかみくにこと25富者ふしやかみくにるよりも、駱駝らくだはりあなとほるはやすし、と。 26彼等かれらいよいよあやしみてかたりひけるは、しからばたれすくはるることをん、と。 27イエズス彼等かれらそそぎつつのたまひけるは、ひとおいあたはざるところなれども、かみおいてはしからず、かみおいては何事なにごとあたはざるところなし、と。 28ペトロイエズスにむかひて、われ一切いつさいててなんぢしたがひたり、と云出いひいでたるに、 29イエズスこたへてのたまひけるは、われまことなんぢぐ、すべわがためまた福音ふくいんために、あるひいへあるひ兄弟きやうだいあるひ姉妹しまいあるひちちあるひははあるひ子等こどもあるひ田畑たはたはなるるひとは、 30たれにてもあれ、ひやくばいほどけざるはなし、すなはちいまこのにては、いへ兄弟きやうだい姉妹しまいはは子等こども田畑たはた迫害はくがいともに[け、]のちにては、永遠えいえんせいめいけざるはなし。 31ただしおほさきなるひとあとになり、あとなるひとさきになるべし、と。 32エルザレムにのぼ途中とちゆう、イエズス弟子でしたちさきだたまふを、彼等かれらおどろかつおそれつつしたがりしに、イエズスふたたび十二にんちかづけて、おのれおこるべきことかたりたまひけるは、 33よ、われエルザレムにのぼる。かくひと司祭しさいちやう律法りつぱふ學士がくし長老ちやうらうられ、彼等かれらこれ死罪しざいしよし、異邦いはうじんわたし、 34かつこれなぶり、これつばきし、これむちうちてころさん、しかして三日みつか復活ふくくわつすべし、と。 35ときに、ゼベデオのヤコボとヨハネとイエズスにちかづきてひけるは、よ、のぞむらくは、われねがところを、何事なにごとにもあれわれたまはんことを、と。 36イエズス、なんぢなにさんことねがふぞ、とのたまひければ、 37彼等かれらなんぢ光榮くわうえいうち一人ひとりそのみぎ一人ひとりそのひだりすることをわれさせたまへ、とひしに、 38イエズスのたまひけるは、なんぢねがところらず、なんぢさかづきみ、せんせらるる洗禮せんれいにてせんせられるか、と。 39彼等かれらわれ、とひしに、イエズスのたまひけるは、なんぢじつさかづきまん、またせんせらるる洗禮せんれいにてせんせられん、 40れどみぎあるひひだりするは、なんぢさすべきことあらず、待設まちまうけられたる人々ひとびとさすべきなり、と。 41にんものこれきて、おほいにヤコボとヨハネとをいきどほはじめければ、 42イエズス彼等かれらびてのたまひけるは、異邦いはうじんつかさどるとゆるひとこれしゆとなり、またそのきみたるひとけんそのうへふるふは、なんぢれるところなり。 43れどなんぢうちおいてはしからず、かえつたれにもあれ、おほいならんとほつするものなんぢ召使めしつかいとなり、 44たれにもあれ、なんぢうちだい一のものたらんとほつするもの一同いちどうしもべとなるべし。 45すなはちひときたれるも、つかへらるるためあらず、かえつつかへんためかつ衆人しゆうじんあがなひとして生命いのちあたへんためなり、と。 46かくみなエリコにいたりしが、イエズス弟子でしたちおびただしき群衆ぐんしゆうともなひてエリコをたまとき、チメオのなる瞽者めしひバルチメオ、路傍みちばたしてほどこしりしに、 47これナザレトのイエズスなりとくや、さけでてダヴィドのイエズスよ、われあはれたまへ、とひければ、 48おほくのひとかれしかりてもくせしめんとすれども、かれますますはげしく、ダヴィドのよ、われあはれたまへ、とよばはりたり。 49イエズスたちとどまりて、かれことめいたまひしかば、人々ひとびと瞽者めしひびて、心安こころやすかれ、て、なんぢたまふぞ、とふや、 50瞽者めしひ上着うはぎなげて、をどりあがりて御許おんもといたりしが、 51イエズスこたへて、われなにられんことほつするぞ、とのたまひしに瞽者めしひは、ラッボニ、わがえんことを、とへり。 52イエズスこれむかひて、け、なんぢ信仰しんかうなんぢすくへり、とのたまひしかば、かれたちまちこと途中とちゆうまでイエズスにしたがけり。