<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書
『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、
1910年発行
〔ローマ・カトリック訳〕
『ラゲ訳新約聖書』エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)
w:マテオ聖福音書
マテオ聖福音書 第2篇
1其頃、洗者ヨハネ來りてユデアの荒野に敎を宣べ、
2云ひけるは、汝等改心せよ、天國は近づけり、と。
3蓋是預言者イザヤによりて云はれし人なり、曰く「荒野に呼はる人の聲ありて云ふ、汝等主の道を備へ、其小徑を直くせよ」と。
4ヨハネは駱駝の毛衣を着、腰に皮帶を締め、蝗と野蜜とを常食と爲し居たりき。
5時にエルザレムユデアの全國ヨルダン[河]に沿へる全地方[の人]彼の許に出で、
6己が罪を告白して、ヨルダンにて洗せられ居りしが、
7多くのファリザイ人及サドカイ人の己に洗せられんとて來るを見て、ヨハネ是に云ひけるは、蝮の裔よ、來るべき怒を逃るる事を誰か汝等に誨へしぞ。
8然れば改心の相當なる果を結べよ。
9汝等、我等の父にアブラハムありと心の中に云はんとすること勿れ、蓋我汝等に告ぐ、神は是等の石よりアブラハムの爲に子等を起すことを得給ふ。
10斧既に樹の根に置かれたり、故に總て善き果を結ばざる樹は伐られて火に投入れらるべし。
11我は改心の爲に水にて汝等を洗すれども、我後に來り給ふ者は我よりも力あり、我は其履を執るにも足らず、彼は聖靈と火とにて汝等を洗し給ふべし。
12彼の手に箕ありて其禾場を淨め、麥は倉に納め、糠は消えざる火にて燒き給ふべし、と。
13此時イエズス、ヨハネに洗せられんとて、ガリレアよりヨルダン[河]に來り給ひしかば、
14ヨハネ辭して云ひけるは、我こそ汝に洗せらるべきに、汝我に來り給ふか。
15イエズス答へて曰ひけるは、姑く其を許せ、斯く我等が正しき事を、悉く遂ぐるは當然なればなり、と。是に於てヨハネ是に許ししかば、
16イエズス洗せられて直に水より上り給ひしが、折しも天彼の爲に開け、神の靈鳩の如く降りて我上に來り給ふを見給へり、
17折しも又天より聲ありて、「是ぞ我心を安んぜる我愛子なる」と云へり。
1然てイエズス、惡魔に試みられん爲、[聖]靈によりて荒野に導かれ給ひしが、
2四十日四十夜斷食し給ひしかば、後に飢ゑ給へり。
3試むるもの近づきて、汝若神の子ならば、命じて此石を麪とならしめよ、と云ひければ、
4イエズス答へて曰ひけるは、錄して「人の活けるは麪のみによるに非ず、又神の口より出る總ての言に由る」とあり、と。
5其時惡魔彼を携へて聖なる都に行き、[神]殿の頂に立たせて、
6云ひけるは、汝若神の子ならば身を投げよ、其は錄して「神汝の爲に其使等に命じ給へり、汝の足の石に衝當らざる樣、彼等手にて汝を支へん」とあればなり。
7イエズス曰ひけるは、又錄して「主たる汝の神を試むべからず」とあり、と。
8惡魔又彼を携へて最高き山に行き、世の諸國と其榮華とを示して、
9云ひけるは、汝若平伏して我を拜せば、是等のものを悉く汝に與へん。
10其時イエズス曰ひけるは、サタン退け、蓋錄して「汝の神たる主を拜し、是にのみ事ふべし」とあり、と。
11是に於て惡魔彼を離れしが、折しも天使等近づきて彼に事へたり。
12イエズスヨハネの囚はれしを聞き給ひしかば、ガリレアに避け、
13ナザレトの街を去り、ザブロンとネフタリムとの境なる湖邊の地、カファルナウムに至りて住み給ひしが、
14是預言者イザヤに託りて云はれし事の成就せん爲なり、
15曰く「ザブロンの地、ネフタリムの地、ヨルダンの彼方なる湖邊の道、異邦人のガリレア、
16暗黑に坐せる人民大なる光を見、死の陰の地に坐せる人々の上に光出たり」と。
17此時よりイエズス初て敎を宣べ、「改心せよ、蓋天國は近づけり」と曰へり。
18イエズスガリレアの湖邊を步み給ふに、二人の兄弟、卽ペトロと呼ばるるシモンと、其兄弟アンデレアとの湖に網打てるを見、――二人は漁師なりき――
19彼等に向ひて、我に從へ、我汝等をして人を漁る者とならしめん、と曰ひしかば、
20彼等直に網を舍きて從へり。
21イエズス此處より進み給ひて、又他に二人の兄弟、卽ちゼベデオの子ヤコボと、其兄弟ヨハネとが、父ゼベデオと共に船にて網を補ふを見、之を召し給ひしに
22彼等直に網と父とを舍きて從へり。
23イエズス遍くガリレアを巡り、諸所の會堂にて敎へ、[天]國の福音を宣べ、又民間の凡ての病、凡ての患を醫し給ひければ、
24其名聲洽くシリアに播がり、患へる者、樣々の病と苦とに罹れる者、惡魔に憑かれたるもの、癲癇 癱瘋に惱める者を皆彼に差出しけるに、イエズス之を醫し給ひ、
25ガリレア デカポリエルザレム、ユデア又はヨルダン[河]の彼方より、夥しき群衆來り從へり。
1イエズス群衆を見て、山に登りて坐し給ひしかば、弟子等是に近づきけるに、
2口を開きて、彼等に敎へて曰ひけるは、
3福なるかな心の貧しき人、天國は彼等の有なればなり。
4福なるかな柔和なる人、彼等は地を得べければなり。
5福なるかな泣く人、彼等は慰めらるべければなり。
6福なるかな義に飢渴く人、彼等は飽かさるべければなり。
7福なるかな慈悲ある人、彼等は慈悲を得べければなり。
8福なるかな心の潔き人、彼等は神を見奉るべければなり。
9福なるかな和睦せしむる人、彼等は神の子等と稱へらるべければなり。
10福なるかな義の爲に迫害を忍ぶ人、天國は彼等の有なればなり。
11我爲に人々汝等を詛ひ、且迫害し、且僞りて、汝等に就きて所有る惡聲を放たん時、汝等は福なるかな、
12歡躍れ、其は天に於る汝等の報甚多かるべければなり。蓋汝等より先に在りし預言者等も斯く迫害せられたり。
13汝等は地の鹽なり、鹽若其味を失はば、何を以てか是に鹽せん、最早用なく、外に棄てられて人に踏まるべきのみ。
14汝等は世の光なり。山の上に建てたる街は隱るること能はず。
15人は又燈を點して枡の下に置かず、家に在る凡ての物を照らさん爲に、之を燭臺の上に置く。
16斯の如く、汝等の光は人の前に輝くべし、然らば人は汝等の善業を見て、天に在す汝等の父に光榮を歸し奉らん。
17我律法若くは預言者を廢せんとて來れりと思ふこと勿れ、廢せんとて來りしには非ず、全うせんが爲なり。
18蓋我誠に汝等に告ぐ、天地の過ぐるまでは、律法より一點一畫も廢らずして、悉く成就するに至るべし。
19故に彼最も小き掟の一を廢し、且其儘人に敎ふる者は、天國にて最小き者と稱へられん、然れど之を行ひ且敎ふる者は、天國にて大なる者と稱へられん。
20蓋我汝等に告ぐ、若汝等の義、律法學士ファリザイ人等の其に優るに非ずば、汝等天國に入らざるべし。
21「殺す勿れ、殺す人は裁判せらるべし」と、古の人に云はれしは、汝等の聞ける所なり。
22然れど我汝等に告ぐ、總て其兄弟を怒る人は裁判せらるべし、其兄弟を愚者よと云ふ人は衆議所の處分を受けん、狂妄者よと云ふ人は地獄の火に當るべし。
23故に汝若禮物を祭壇に獻ぐる時、其處に於て、何にもあれ兄弟に怨まるる事あるを思出さば、
24其禮物を其處に、祭壇の前に措き、先往きて兄弟と和睦し、然る後に來りて其禮物を獻げよ。
25汝敵手と共に途に在る中に早く和解せよ、恐らくは敵手より判事に付され、判事より下役に付され、遂に監獄に入れられん、
26我誠に汝に告ぐ、最終の一厘を還す迄は其處を出でざるべし。
27「汝姦淫する勿れ」と古の人に云はれしは汝等の聞ける所なり。
28然れど我汝等に告ぐ、總て色情を起さんとて婦を見る人は、既に心の中に之と姦淫したるなり。
29若汝の右の目汝を躓かさば之を抉りて棄てよ、其は汝に取りて、五體の一の亡ぶるは、全身を地獄に投入れらるるに優ればなり。
30若汝の右の手汝を躓かさば之を切りて棄てよ、其は汝に取りて、五體の一の亡ぶるは、全身の地獄に行くに優ればなり。
31又「何人も妻を出さば是に離緣狀を與ふべし」と云はれたる事あり。
32然れど我汝等に告ぐ、總て私通の故ならで妻を出す人は、之をして姦淫せしむるなり、又出されたる婦を娶る人も姦淫するなり。
33又「僞り誓ふ勿れ、誓ひたる事は主に果すべし」と古の人に云はれしは、汝等の聞ける所なり。
34然れど我汝等に告ぐ、斷じて誓ふ勿れ。天を指して[誓ふ勿れ]、其は神の玉座なればなり。
35地を指して[誓ふ勿れ]、其は神の足臺なればなり。エルザレムを指して[誓ふ勿れ]、其は大王の都なればなり。
36汝の頭を指して誓ふ勿れ、其は一縷の髮だも、白く或は黑くすることを得ざればなり。
37汝等唯、然り然り否々と云へ、是より過ぐる所は惡より出るなり。
38又「目にて目を[償ひ]、齒にて齒を[償ふべし]」と云はれしは汝等の聞ける所なり。
39然れど我汝等に告ぐ、惡人に抗ふ勿れ、人若し汝の頰を打たば、他の[頰]をも是に向けよ。
40又汝を訟へて下着を取らんとする人には上着をも渡せ。
41又汝を强て一千步を步ませんとする人あらば、尙二千步を彼と共に步め。
42汝に乞ふ人に與へよ、汝に借らんとする人に身を背くること勿れ。
43「汝の近き者を愛し、汝の敵を憎むべし」と云はれしは、汝等の聞ける所なり。
44然れど我汝等に告ぐ、汝等の敵を愛し、汝等を憎む人を惠み、汝等を迫害し且讒謗する人の爲に祈れ。
45是天に在す汝等の父の子等たらん爲なり、其は父は善人にも惡人にも日を照らし、義者にも不義者にも雨を降らし給へばなり。
46汝等己を愛する人を愛すればとて、何の報をか得べき、稅吏も然するに非ずや。
47又己の兄弟等にのみ挨拶すればとて、何の勝れたる事をか爲せる、異邦人も然するに非ずや。
48故に汝等の天父の完全に在す如く、汝等も亦完全なれ。
1人に見られんとて人の前に汝等の義を爲さざる樣愼め。然らずば天に在す汝等の父の御前に報を得じ。
2然れば施を爲すに當りて、僞善者が人に尊ばれんとて會堂及衢に爲す如く、己が前に喇叭を吹くこと勿れ。我誠に汝等に告ぐ、彼等は既に其報を受けたり。
3汝が施を爲すに當りて、右の手の爲す所、左の手之を知るべからず。
4是汝の施の隱れん爲なり。然らば隱れたるに見給ふ汝の父は汝に報い給ふべし。
5又祈る時僞善者の如く爲ること勿れ。彼等は人に見られんとて會堂に衢の隅に立ちて祈る事を好む。我誠に汝等に告ぐ、彼等は既に其報を受けたり。
6汝は祈るに己が室に入りて戶を閉ぢ、隱れたるに在りて汝の父に祈れ、然らば隱れたるに見給ふ汝の父は汝に報い給ふべし。
7又祈るに異邦人の如く繰言を爲すこと勿れ、彼等は言の多きに由りて聽容れられんと思ふなり。
8故に彼等に倣ふこと勿れ、其は汝等の父は、汝等の願はざる前に其要する所を知り給へばなり。
9然れば汝等斯く祈るべし。天に在す我等の父よ、願はくは御名の聖と爲られん事を、
10御國の來らん事を、御旨の天に行はるる如く地にも行はれん事を。
11我等の日用の糧を今日我等に與へ給へ。
12我等が己に負債ある人を赦す如く、我等の負債をも赦し給へ。
13我等を試に引き給ふことなく、却て惡より救ひ給へ、(アメン)と。
14蓋汝等若人の罪を赦さば、汝等の天父も汝等の罪を赦し給ふべく、
15汝等若人を赦さずば、汝等の父も汝等の罪を赦し給はざるべし。
16汝等斷食する時、僞善者の如く悲しき容を爲すこと勿れ。卽彼等は、斷食する者と人に見えん爲に其顏色を損ふなり。我誠に汝等に告ぐ、彼等は既に其報を受けたり。
17汝は斷食する時、頭に膏を附け且顏を洗へ、
18是斷食する者と人に見えずして、隱れたるに在す汝の父に見えん爲なり、然らば隱れたるに見給ふ汝の父は汝に報い給ふべし。
19汝等己の爲に寳を地に蓄ふること勿れ、此處には錆と蠹と喰ひ壞り、盜人穿ちて盜むなり。
20汝等己の爲に寳を天に蓄へよ、彼處には錆も蠹も壞らず、盜人穿たず盜まざるなり。
21其は汝の寳の在る處に心も亦在ればなり。
22汝の身の燈は目なり。若し汝の目清くば全身明にならん、
23汝の目惡くば全身暗からん。然れば汝の身に在る光すら暗黑ならば、暗黑其物は如何あるべきぞ。
24誰も二人の主に兼事ふる事能はず、其は或は一人を憎みて一人を愛し、或は一人に從ひて一人を疎むべければなり。汝等は神と富とに兼事ふる事能はず、
25故に我汝等に告ぐ、生命の爲に何を食ひ、身の爲に何を着んかと思煩ふ勿れ、生命は食物に優り、身は衣服に優るに非ずや。
26空の鳥を見よ、彼等は撒く事なく、刈る事なく、倉に收むる事なきに、汝等の天父は之を養ひ給ふ、汝等は是よりも遥に優れるに非ずや。
27汝等の中誰か、思煩ひて其生命に一肘だも加ふる事を得る。
28又何とて衣服の爲に思煩ふや、野の百合の如何にして育つかを看よ、働く事なく紡ぐ事なし、
29然れども我汝等に告ぐ、サロモンだも、其榮華の極に於て、此百合の一ほどに裝はざりき。
30今日在りて明日爐に投入れらるる野の草をさへ、神は斯く裝はせ給へば、况や汝等をや、信仰薄き者よ、
31然れば汝等は、我等何を食ひ何を飲み何を着んかと云ひて思煩ふこと勿れ、
32是皆異邦人の求むる所にして、汝等の天父は、是等の物皆汝等に要あるを知り給へばなり。
33故に先神の國と其義とを求めよ、然らば是等の物皆汝等に加へらるべし。
34然れば明日の爲に思煩ふこと勿れ、明日は明日自、己の爲に思煩はん、其日は其日の勞苦にて足れり。
1人を是非すること勿れ、然らば汝等も是非せられじ、
2其は人を是非したる如くに是非せられ、量りたる量にて亦量らるべければなり。
3汝何ぞ兄弟の目に塵を見て、己が目に梁を見ざるや。
4或は汝の目に梁あるに、何ぞ兄弟に向ひて、我をして汝の目より塵を除かしめよと云ふや。
5僞善者よ、先己の目より梁を除け、然らば明に見えて、兄弟の目より塵をも除くべし。
6聖物を犬に與ふること勿れ、又汝等の眞珠を豚の前に投ぐること勿れ、恐らくは足にて之を踏み、且顧みて汝等を噛まん。
7願へ、然らば與へられん、探せ、然らば見出さん、叩け、然らば[戶を]開かれん、
8其は總て願ふ人は受け、探す人は見出し、叩く人は[戶を]開かるべければなり。
9或は汝等の中、誰か其子麪を乞はんに石を與へんや、
10或は魚を乞はんに蛇を與へんや。
11然れば汝等惡き者ながらも、善き賜を其子等に與ふるを知れば、况や天に在す汝等の父は、己に願ふ人々に善き物を賜ふべきをや。
12然れば總て人に爲されんと欲する事を、汝等も人に爲せ、蓋律法と預言者とは其なり。
13汝等窄き門より入れ、蓋亡に至る門は濶く、其路も廣くして、是より入る人多し。
14嗚呼生命に至る門窄く、其路も狹くして、之を見出す人少き哉。
15汝等僞預言者を警戒せよ、彼等は羊の衣服を着て汝等に至れども、内は暴き狼なり、
16其結ぶ果によりて彼等を知るべし。豈茨より葡萄を採り、薊より無花果を採る事あらんや。
17斯の如く、總て善き樹は善き果を結び、惡き樹は惡き果を結ぶ、
18善き樹は惡き果を結ぶ能はず、惡き樹は善き果を結ぶ能はず。
19總て善き果を結ばざる樹は、伐られて火に投入れらるべし。
20故に汝等其結ぶ果によりて彼等を知るべし。
21我に主よ主よと云ふ人皆天國に入るには非ず、天に在す我父の御旨を行ふ人こそ天國に入るべきなれ。
22彼日には、多くの人我に向ひて、主よ主よ、我等は、御名によりて預言し、且御名によりて惡魔を逐拂い、且御名によりて多くの奇蹟を行ひしに非ずや、と云はんとす。
23其時我彼等に宣言せん、我曾て汝等を知らず、惡を爲す者よ我を去れ、と。
24然れば總て我此言を聞き且之を行ふ人は、磐の上に其家を建てたる賢き人に比せられん、
25雨降り河溢れ風吹きて其家を衝きたれども、倒れざりき、其は磐の上に基したればなり。
26又總て我此言を聞きて之を行はざる人は、砂の上に其家を建てたる愚なる人に似ん、
27雨降り河溢れ風吹きて其家を衝きたれば、倒れて其壞甚しかりき、と[敎へ給へり。]
28イエズス是等の言を宣畢り給ひければ、群衆其敎に感嘆し居たり。
29其は彼等の律法學士とファリザイ人との如くせずして、權威ある者の如くに敎へ給へばなり。
1イエズス山を下り給ひしに、群衆夥しく從ひしが、
2折しも、一人の癩病者來り、拜して云ひけるは、主よ、思召ならば我を潔くすることを得給ふ、と。
3イエズス、手を伸べて彼に觸れ、我意なり潔くなれ、と曰ひければ、其癩病直に潔くなれり。
4イエズス之に曰ひけるは、愼みて人に語る勿れ、但往きて己を司祭に見せ、彼等への證據として、モイゼの命ぜし禮物を獻げよ、と。
5斯てイエズスカファルナウムに入り給ひしが、百夫長近づきて、
6願ひて云ひけるは、主よ、我僕癱瘋にて家に臥し、甚く苦しめり、と。
7イエズス、我往きて其を醫さん、と曰ひしかば、
8百夫長答へて云ひけるは、主よ、我は不肖にして、主の我屋根の下に入り給ふに足らず、唯一言にて命じ給へ、然らば我僕痊えん。
9蓋我も人の權下に立つ者ながら、部下に兵卒ありて、此に往けと云へば往き、彼に來れ[と云へば]來り、又我僕に是を爲せ[と云へば]爲すなり、と。
10イエズス之を聞きて感嘆し、從へる者に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、イスラエルの中にても、斯程の信仰に遇ひし事なし。
11我汝等に告ぐ、多くの人東西より來りて、アブラハムイザアクヤコブと共に天國に坐せん、
12然れど國の子等は外の暗に逐出されん、其處には痛哭と切齒とあらん、と。
13斯てイエズス百夫長に向ひ、往け、汝の信ぜし如く汝に成れ、と曰ひければ僕卽時に痊えたり。
14イエズスペトロの家に入り給ひて、彼が姑の熱を病みて臥せるを見、
15其手に觸れ給ひしかば、熱其身を去り、起きて彼等に給仕したり。
16日暮れて後、人々惡魔に憑かれたる者を多く差出ししが、イエズス惡魔を一言にて逐拂い、病者をも悉く醫し給へり。
17是預言者イザヤによりて云はれし事の成就せん爲なり、曰く「彼は我等の患を受け、我等の病を負ひ給へり」と。
18イエズス周圍に群衆の夥しきを見て、湖の彼方へ往かん事を命じ給ひしかば、
19一人の律法學士近づきて、師よ、何處へ往き給ふとも我は從はん、と云ひしに、
20イエズス是に曰ひけるは、狐は穴あり空の鳥は巢あり、然れど人の子は枕する處なし、と。
21又弟子の一人、主よ、我が先往きて父を葬る事を允し給へ、と云ひしに、
22イエズス曰ひけるは、我に從へ、死人をして其死人を葬らしめよ、と。
23イエズス小舟に乘り給ひ、弟子等之に從ひしが、
24折しも湖に大なる暴嵐起りて、小舟涛に蔽はるる程なるに、イエズスは眠り居給へり。
25弟子等近づきて之を起し、主よ、我等を救ひ給へ、我等亡ぶ、と云ひければ、
26イエズス彼等に曰ひけるは、何ぞ怖るるや、信仰薄き者よ、と。卽起て風と湖とを戒め給ひしに、大凪となれり。
27斯て人々感嘆して、是は何人ぞや、風も湖も是に從ふよ、と云へり。
28イエズス湖の彼方なるゲラサ人の地に至り給ひしに、惡魔に憑かれたる者二人、墓より出でて迎へ來れり。豫てより其猛き事甚しく、誰も其途を過ぎ得ざる程なりしが、
29忽叫びて云ひけるは、神の御子イエズスよ、我等と汝と何の關係かあらん、期未至らざるに、我等を苦しめんとて此處に來り給へるか、と。
30然るに彼等を距る事遠からぬ處に、多くの豚の群物喰ひ居ければ、
31惡魔等イエズスに願ひて云ひけるは、若我等を此處より逐拂い給はば、豚の群の中に遣り給へ、と。
32イエズス彼等に、往け、と曰ひしかば、彼等出でて豚に憑き、見る見る群皆遽しく、崖より湖に飛入りて水に死せり。
33牧者等逃げて町に至り、一切の事と惡魔に憑かれたりし人々の事とを吹聽せしかば、
34直に町擧りてイエズスを出迎へ、是を見るや其境を過ぎ給はん事を乞へり。
1イエズス小舟に乘り、湖を渡りて己が町に至り給ひしに、
2折しも人々、牀に臥せる癱瘋者を差出だしければ、イエズス彼等の信仰を見て癱瘋者に曰ひけるは、子よ、賴もしかれ、汝の罪赦さる、と。
3折しも或律法學士等心の中に、彼は冒涜の言を吐けり、と謂ひしが、
4イエズス彼等の心を見拔きて曰ひけるは、汝等何ぞ心に惡き事を思ふや。
5汝の罪赦さると云ふと、起きて步めと云ふと孰か易き。
6然て、人の子地に於て罪を赦すの權あることを汝等に知らせん、とて癱瘋者に向ひ、起きよ、牀を取りて己が家に往け、と曰ひしかば、
7彼起きて家に往けり。
8群衆之を見て畏れ、斯る權能を人に賜ひたる神に光榮を歸したり。
9イエズス此處を出で給ふ時、マテオと名くる人の收稅署に坐せるを見て、我に從へ、と曰ひしかば彼起ちて從へり。
10斯てイエズス其家に食に就き給ふ折しも、稅吏罪人多く來りて、イエズス及弟子等と共に坐しければ、
11ファリザイ人等見て弟子等に云ひけるは、汝等の師は何故稅吏罪人と食を共にするぞ、と。
12イエズス聞きて曰ひけるは、醫者を要するは健なる人に非ずして病める人なり。
13汝等往きて「我が好むは憫なり、犧牲に非ず」とは何の謂なるかを學べ。夫我來りしは義人を召ぶ爲に非ず、罪人を召ぶ爲なり、と。
14時にヨハネの弟子等、イエズスに近づきて云ひけるは、我等とファリザイ人とは屡斷食するに、汝の弟子等は何故に斷食せざるぞ。
15イエズス彼等に曰ひけるは、新郞の介添、豈新郞の己等と共に在る間に哀しむを得んや、然れど新郞の彼等より奪はるる日來らん、其時には斷食せん。
16生布の片を以て古き衣服を補ぐ人は非ず、其は其片衣服を割きて、破益大なればなり。
17又新しき酒を古き皮嚢に盛る者はあらず、然せば皮嚢破れ酒流れて、嚢も亦廢らん、新しき酒は新しき皮嚢に盛り、斯て兩ながら保つなり、と。
18イエズス是等の事を語り給へる折しも、一人の司近づき拜して云ひけるは、主よ、我女今死せり、然れど來りて彼に按手し給へ、然らば活きん、と。
19イエズス起ちて是に從ひ給ひ、弟子等も從行きけるに、
20折しも血漏を患へること十二年なる女、後より近づきてイエズスの衣服の總に觸れたり、
21其は其衣服に觸れだにせば我痊えん、と心に思ひ居たればなり。
22イエズス回顧りて之を見給ひ、女よ、賴もしかれ、汝の信仰汝を醫せり、と曰ふや、女、卽時に痊えたり。
23イエズス司の家に至り、笛手と囂げる群衆とを見て、
24汝等退け、女は死したるに非ず、寢たるなり、と曰ひければ、人々彼を哂へり。
25群衆の出されし後、イエズス入りて其手を取り給ひしかば、女起きたり、
26斯て此名聲洽く其地に播れり。
27イエズス此處を去り給ふに、二人の瞽者、ダヴィドの裔よ、我等を憐み給へ、と叫びつつ從ひしが、
28イエズス家に至り給ひし時、瞽者等近づきしかば、彼等に曰ひけるは、我之を汝等に爲すことを得と信ずるか、と。彼等、主よ、然り、と答へければ、
29イエズス手を其目に觸れて、其信仰の儘に汝等に成れ、と曰ふや、
30彼等の目開けたり。イエズス嚴しく彼等を戒めて、人に知れざる樣愼め、と曰ひしかど、
31彼等出て、洽く其地にイエズスの噂を言弘めたり。
32彼等の出でたる折しも、人々惡魔に憑かれたる一人の唖者をイエズスに差出ししかば、
33惡魔逐拂はれて唖者言ひ、群衆感嘆して、斯る事は曾てイスラエルの中に顯れし事なし、と云ひしかど、
34ファリザイ人等は、彼が惡魔を逐拂ふは惡魔の長に籍るなり、と云ひ居れり。
35イエズス諸の町村を歷巡り、其會堂に敎を說き、[天]國の福音を宣べ、且諸の病、諸の患を醫し居給ひしが、
36群衆を見て、其難みて牧者なき羊の如く臥せるを憐み給へり。
37然て弟子等に曰ひけるは、收穫は多けれども働く者は少し、
38故に働く者を其收穫に遣はさん事を、收穫の主に願へ、と。
1イエズス己が十二の弟子を召集め、是に汚鬼等を逐拂ひ、諸の病、諸の患を醫す權能を賜ひしが、
2其十二使徒の名は、第一ペトロと云へるシモン、其兄弟アンデレア、
3ゼベデオの子ヤコボ及其兄弟ヨハネ、フィリッポ及バルトロメオ、トマ及稅吏マテオ、アルフェオの[子]ヤコボ及タデオ、
4カナアンのシモン及イエズスを賣りしイスカリオテのユダ是なり。
5イエズス此十二人を遣はすとて、命じて曰ひけるは、汝等異邦人の道に往かず、サマリア人の町にも入らず、
6寧イスラエルの家の迷へる羊に往け。
7往きて天國は近づけりと宣敎へよ。
8病人を醫し、死人を蘇らせ、癩病人を淨くし、惡魔を逐拂へ。價無しに受けたれば價無しに與へよ。
9金銀又は錢を汝等の帶に持つこと勿れ、
10旅嚢も二枚の下着も、沓も杖も亦同じ、其は働く人は其糧を受くるに價すればなり。
11何れの町村に入るも、其中に相應しき人の誰なるかを尋ねて、出るまで其處に留まれ。
12家に入る時、此家に平安あれかしと云ひて之を祝せよ、
13其家果して是に値するものならば、汝等の[祈る]平安其上に臨まん、若し値せざるものならば、其平安汝等に歸らん。
14總て汝等を承けず、汝等の言を聞かざる人に向ひては、其家又は町を出て足の塵を拂へ。
15我誠に汝等に告ぐ、審判の日に當りて、ソドマ人とゴモラ人との地は、此町よりも忍び易からん。
16看よ、我が汝等を遣はすは、羊を狼の中に[入るるが]如し、故に蛇の如く敏く、鴿の如く素直なれ。
17人に警戒せよ、其は汝等を衆議所に付し、又其諸會堂にて鞭つべければなり。
18又我爲に汝等官吏帝王の前に引かれて、彼等及異邦人に證となる事あるべし、
19付さるる時、如何に又何を云はん、と案ずること勿れ、云ふべき事は其時汝等に賜はるべければなり。
20蓋其語るは汝等に非ずして、父の靈の汝等の中に在して語り給ふなり。
21然りながら兄弟は兄弟を死に付し、父は子を付し、子等は兩親に逆らひ、且之を殺さん、
22又我名の爲に、汝等凡ての人に憎まれん、然れど終まで堪忍ぶ人は救はるべし。
23此町にて迫害せられなば他の町に遁れよ、我誠に汝等に告ぐ、人の子の來る迄に、汝等イスラエルの町々を盡さざるべし。
24弟子は其師に優らず、僕は其主人に優らざるなり。
25弟子としては其師の如く、僕としては其主人の如くなれば足れり。人々家父をベエルゼブブと名けたれば、况や其族をや。
26然れば彼等を怖るる勿れ、其は蔽はれて顯れざるべきは無く、隱れて知れざるべきは無ければなり。
27我が暗黑に於て汝等に云ふ事を、汝等光明に於て云へ、耳を當てて聞く事を屋根の上にて宣べよ。
28又身を殺して魂を殺し得ざる者を怖るること勿れ、寧魂と身とを地獄に亡ぼし得る者を怖れよ。
29二羽の雀は二錢にて賣るに非ずや、然も汝等の父によらずしては、其一羽だも地に落つる事あらじ。
30汝等は毛髮までも皆算へられたり、
31故に怖るること勿れ、汝等は多くの雀に優れり。
32然れば總ての人の前に我を宣言する人は、我も亦天に在す我父の御前に之を宣言すべく、
33人の前に我を否む人は、我も亦天に在す我が父の御前に之を否むべし。
34我地に平和を持來れりと思ふこと勿れ、我が持來れるは平和に非ずして刄なり。
35我が來れるは、人を其父より、女を其母より、嫁を其姑より分つべきなり。
36人の族は其仇となるべし。
37我よりも父若くは母を愛する人は我に應はず、我よりも子若くは女を愛する人は我に應はず、
38又己が十字架を取りて我に從はざる人は我に應はざるなり、
39己が生命を保つ人は之を失ひ、我爲に生命を失ふ人は之を保たん。
40汝等を承くる人は我を承くるなり、我を承くる人は我を遣はし給ひし者を承くるなり。
41預言者の名の爲に預言者を承くる人は、預言者の報を受け、義人の名の爲に義人を承くる人は、義人の報を受けん。
42誰にもあれ、弟子の名の爲に、冷水の一杯をも、此最小き者の一人に飲まする人は、我誠に汝等に告ぐ、其報を失ふことあらじ、[と宣へり]。
1斯てイエズス十二の弟子に命じ畢り給ひて、彼等の町々に敎へ且說敎せんとて、其處を去り給ひしが、
2ヨハネは監獄に在りてキリストの業を聞きしかば、其弟子の二人を遣はして、
3彼に云はしめけるは、來るべき者は汝なるか、或は我等の待てる者尙他に在るか、と。
4イエズス彼等に答へて曰ひけるは、往きて汝等の聞き且見し所をヨハネに告げよ、
5瞽者は見え、跛者は步み、癩病者は潔くなり、聾者は聞え、死者は蘇り、貧者は福音を聞かせらる、
6斯て我に就きて躓かざる人は福なり、と。
7彼等の去るや、イエズスヨハネの事を群衆に語り出で給ひけるは、汝等何を見んとて荒野に出しぞ、風に動かさるる葦か。
8然らば何を見んとて出しぞ、柔き物を着たる人か、看よ、柔き物を着たる人々は帝王の家に在り。
9然らば何を見んとて出しぞ、預言者か、我汝等に告ぐ、然り、預言者よりも優れる者なり。
10錄して「看よ、我使を汝の面前に遣はさん、彼汝に先ちて汝の道を備ふべし」とあるは、彼が事なり。
11我誠に汝等に告ぐ、婦より生れたる者の中に、洗者ヨハネより大なる者は未曾て起らず、然れど天國にて最小き人も、彼よりは大なり。
12洗者ヨハネの日より今に至りて、天國は暴力に襲はれ、暴力の者之を奪ふ、
13其は諸の預言者と律法との預言したるは、ヨハネに至る迄なればなり。
14汝等若曉らんと欲せば、彼は來るべきエリアなり。
15聽く耳を持てる人は聽け。
16現代を誰に比へんか、恰も衢に坐せる童が友等に叫びて、
17我等汝等の爲に笛吹きたれども汝等踊らず、我等嘆きたれども汝等悲しまざりき、と云ふに似たり。
18蓋ヨハネ來りて飲食せざれば、惡魔に憑かれたりと云はれ、
19人の子來りて飲食すれば、看よ彼は食を貪り酒を飲む人にて、稅吏及罪人の友なり、と云はる。然りながら智惠は其子等に義しとせられたり、と。
20然てイエズス、奇蹟の多く行はれたる町々の改心せざるによりて、之を責め始め給ひけるは、
21禍なる哉汝コロザイン、禍なる哉汝ベッサイダ。蓋汝等の中に行はれし奇蹟、若チロとシドンとの中に行はれしならば、彼等は夙に改心して、荒き毛衣を纏ひ灰を蒙りしならん。
22然れば我汝等に告ぐ、審判の日に於て、チロとシドンとは汝等よりも忍び易からん。
23カファルナウムよ、汝も何ぞ天にまで上げられんや、當に地獄にまでも陷るべし。蓋汝の中に行はれし奇蹟、若ソドマに行はれしならば、彼は必ず今日まで猶遺りしならん。
24然れば我汝等に告ぐ、審判の日に於て、ソドマの地は汝よりも忍び易からん、と。
25其時イエズス復曰ひけるは、天地の主なる父よ、我汝を稱讃す、其は是等の事を學者智者に隱して、小き人々に顯し給ひたればなり。
26然り父よ、斯の如きは御意に適ひし故なり。
27一切の物は我父より我に賜はれり、父の外に子を知る者なく、子及子より肯て示されたらん者の外に、父を知る者なし。
28我に來れ、總て勞苦して重荷を負へる者よ、我は汝等を回復せしめん。
29我は柔和にして心謙遜なるが故に、汝等自我軛を取りて我に學べ、然らば汝等の魂に安息を得べし。
30其は我が[負はする]軛は快く、荷は輕ければなり。
1其頃、イエズス安息日に當りて[麥]畑を過ぎ給ひしが、弟子等飢ゑて穗を摘み食始めしかば、
2ファリザイ人之を見てイエズスに向ひ、看よ、汝の弟子等安息日に爲すべからざる事を爲すぞ、と云ひしに、
3イエズス曰ひけるは、ダヴィドが己及伴へる人々の飢ゑし時に爲しし事を、汝等讀まざりしか。
4卽彼は神の家に入り、司祭ならでは、彼も伴へる人々も食すべからざる、供の麪を食せしなり。
5又、安息日に司祭等[神]殿にて安息を犯せども罪なし、と律法にあるを讀まざりしか。
6我汝等に告ぐ、[神]殿よりも大なるもの此處に在り。
7汝等若「我が好むは憫なり、犧牲に非ず」とは何の謂なるかを知らば、罪なき人を罪せざりしならん、
8其は人の子は亦安息日の主なればなり、と。
9イエズス此處を去りて、彼等の會堂に至り給ひしに、
10折しも隻手痿たる人あり。彼等イエズスを訟へんとて、安息日に醫すは可きか、と問ひしかば、
11イエズス曰ひけるは、汝等の中一頭の羊有てる者あらんに、若其羊安息日に坑に陷らば、誰か之を取上げざらんや、
12人の羊に優れること幾何ぞや。然れば安息日に善を爲すは可し、と。
13頓て其人に、手を伸べよ、と曰ひければ、彼伸ばしたるに、其手痊えて他と齊しくなれり。
14斯てファリザイ人出でて、如何にしてかイエズスを亡ぼさんと謀り居るを、
15イエズス知りて此處を去り給ひしが、多くの人從ひしかば、悉く彼等を醫し、
16且我を言顯すこと勿れ、と戒め給へり。
17是預言者イザヤによりて云はれし事の成就せん爲なり、
18曰く「是ぞ我選みし我僕、我心に能く適へる最愛の者なる、我彼の上に我靈を置けり。彼は異邦人に正義を告げん。
19爭はず叫ばず、誰も衢に其聲を聞かず、
20正義を勝利に至らしむるまで、折れたる葦を斷たず、煙れる麻を熄す事なからん、
21又異邦人は彼の名を仰ぎ望まん」と。
22時に一人、惡魔に憑かれて瞽ひ口唖なるもの差出されしを、イエズス醫し給ひて、彼言ひ且見るに至りしかば、
23群衆皆驚きて、是ダヴィドの子に非ずや、と云へるを、
24ファイリザイ人聞きて、彼が惡魔を逐拂ふは、唯惡魔の長ベエルゼブブに籍るのみ、と云へり。
25イエズス彼等の心を知りて曰ひけるは、總て分れ爭ふ國は亡びん、又總て分れ爭ふ町と家とは立たじ。
26サタン若サタンを逐拂はば、自分るるなり、然らば其國如何にしてか立つべき。
27我若ベエルゼブブに籍りて惡魔を逐拂ふならば、汝等の子等は誰に籍りて逐拂ふぞ、然れば彼等は汝等の審判者となるべし。
28然れど我若神の靈に籍りて惡魔を逐拂ふならば、神の國は汝等に格れるなり。
29又人先强き者を縛るに非ずんば、爭でか强き者の家に入りて其家具を掠むることを得ん、[縛りて]後こそ其家を掠むべけれ。
30我に與せざる人は我に反し、我と共に歛めざる人は散らすなり。
31故に我汝等に告ぐ、凡ての罪及冒涜は人に赦されん、然れど[聖]靈に對する冒涜は赦されざるべし。
32又總て人の子に對して[冒涜の]言を吐く人は赦されん、然れど聖靈に對して之を吐く人は、此世、後世共に赦されざるべし。
33或は樹を善しとし其果をも善しとせよ、或は樹を惡しとし其果をも惡しとせよ、樹は其果によりて知らるればなり。
34蝮の裔よ、汝等惡しければ、爭でか善きを云ふを得ん、口に語るは心に充てる所より出ればなり。
35善き人は善き庫より善き物を出し、惡しき人は惡しき庫より惡しき物を出す。
36我汝等に告ぐ、總て人の語りたる無益な言は、審判の日に於て之を糺さるべし。
37其は汝其言によりて義とされ、又其言によりて罪せらるべければなり、と。
38其時數人の律法學士及ファリザイ人、彼に答へて云ひけるは、師よ、我等汝の爲す徵を見んと欲す、と。
39イエズス答へて曰ひけるは、奸惡なる現代は徵を求むれども、預言者ヨナの徵の外は徵を與へられじ。
40卽ヨナが三日三夜魚の腹に在りし如く、人の子も三日三夜地の中に在らん。
41ニニヴの人々は、審判の時現代と共に立ちて之を罪に定めん、彼等はヨナの說敎によりて改心したればなり、見よ、ヨナに優れるもの茲に在り。
42南方の女王は、審判の時現代と共に立ちて之を罪に定めん、彼はサロモンの智惠を聽かんとて地の極より來りたればなり、見よ、サロモンに優れるもの茲に在り。
43汚鬼人より出でし時、荒れたる處を巡りて息を求むれども得ず、
44是に於て、出でし我家に歸らんと云ひて、來りて其家の既に空き、掃清められ飾られたるを見るや、
45乃往きて己よりも惡き七の惡鬼を携へ、偕に入りて此處に住む。斯て彼人の末は、前よりも更に惡くなり增る。極惡なる現代も亦斯の如くならん、と。
46イエズス尙群衆に語り給へる折しも、母と兄弟等と、彼に物語せんとて外に立ちければ、
47或人云ひけるは、看よ、汝の母、兄弟汝を尋ねて外に立てり、と。
48イエズス己に告げし人に答へて曰ひけるは、誰か我母、誰か我兄弟なるぞ、と。
49卽手を弟子等の方に伸べて曰ひけるは、是ぞ我母我兄弟なる、
50其は誰にもあれ、天に在す我父の御旨を行ふ人、卽是我兄弟姉妹母なればなり、と。
1其日イエズス家を出でて湖邊に坐し居給へるに、
2群衆夥しく其許に集まりしかば、イエズス小舟に乘りて坐し給ひ、群衆皆濱に立ち居りしが、
3喩を以て數多の事を彼等に語りて曰ひけるは、種撒く人撒きに出でしが、
4撒く時或種は路傍に遺ちしかば、空の鳥來りて、之を啄めり。
5或種は土少き磽地に遺ちしかば、土の淺きに由りて直に生出でたれど、
6日出でて灼け、根なきに因りて枯れたり。
7或種は茨の中に遺ちしかば、茨長ちて之を塞げり。
8或種は沃土に遺ちて、或は百倍、或は六十倍、或は三十倍の實を結べり。
9聽く耳を有てる人は聽け、と。
10弟子等近づきて、何ぞ喩を以て彼等に語り給ふや、と云ひしかば、
11答へて曰ひけるは、汝等は天國の奧義を知る事を賜はりたれども、彼等は賜はらざるなり。
12夫有てる人は尙與へられて裕ならん、然れど有たぬ人は其有てる所をも奪はれん。
13喩を以て彼等に語るは、彼等見れども見えず、聞けども聞えず、又曉らざるが故なり、と。
14斯てイザヤの預言彼等に於て成就す、曰く「汝等は聞きて聞ゆれども曉らず、見て見ゆれども認らざらん。
15其は目に見えず、耳に聞えず、心に曉らず、立歸りて我に醫されざらん爲に、此民の心鈍くなりて、其耳は聞くに嬾く、其目は閉ぢたればなり」と。
16汝等の目は福なり、見ゆればなり、汝等の耳も[福なり、]聞ゆればなり。
17我誠に汝等に告ぐ、多くの預言者と義人とは、汝等の見る所を見んと欲せしかど見えず、汝等の聞く所を聞かんと欲せしかど聞えざりき。
18然れば汝等種捲く播く人の喩を聞け、
19總て人[天]國の言を聞きて曉らざる時は、惡魔來りて其心に播かれたるものを奪ふ、此路傍に播かれたるものなり。
20磽地に播かれたるは、言を聞きて直に喜び受くれども、
21己に根なく暫時のみにして、言の爲に患難と迫害と起れば、忽に躓くものなり。
22茨の中に播かれたるは、言を聞けども、此世の慮と財の惑と其言を塞ぎて、實らずなれるものなり。
23沃土に播かれたるは、言を聞きて曉り、實を結びて或は百倍、或は六十倍、或は三十倍を出すものなり、と。
24イエズス又他の喩を彼等に提出でて曰ひけるは、天國は良き種を其畑に播きたる人に似たり。
25人々の寢たる間に、其敵來りて麥の中に毒麥を播きて去りしが、
26苗長ちて實りたるに、毒麥も現れしかば、
27僕等近づきて家父に云ひけるは、主よ、良き種を畑に播きたるに非ずや、然れば毒麥は何によりてか生えたる。
28彼云ひけるは、敵なる人之を爲せり、と。僕等、我等往きて之を集めなば如何に、と云ひしに、
29家父云ひけるは、否、恐らくは、汝等毒麥を集むるに、是と共に麥をも拔かん。
30收穫まで兩ながら長て置け、收穫の時我刈る者に對ひて、先毒麥を集めて焚く爲に之を束ね、麥をば我倉に收めよ、と云はん、と。
31又他の喩を彼等に提出て曰ひけるは、天國は人の取りて其畑に播きたる芥種に似たり。
32凡ての種の中最小きものなれども、長ちて後は凡ての野菜より大くして、空の鳥其枝に來りて棲む程の樹と成る、と。
33又他の喩を彼等に語り給ひけるは、天國は麪酵に似たり、卽婦之を取りて三斗の粉の中に隱せば悉く脹るるに至る、と。
34イエズス總て是等の事を喩もて群衆に語り給ひしが、喩なしには語り給ふ事なかりき。
35是預言者に託りて云はれたりし事の成就せん爲なり、曰く「我喩を設けて口を開き、世の始より隱れたる事を告げん」と。
36然て群衆を去らしめ、家に至り給ひしに、弟子等に近づきて、畑の毒麥の喩を我等に解き給へ、と云ひければ、
37答へて曰ひけるは、良き種を撒く者は人の子なり、
38畑は世界なり、良き種は[天]國の子等なり、毒麥は惡魔の子等なり、
39之を撒きし敵は惡魔なり、收穫は世の終なり、刈る者は[天]使等なり、
40然れば毒麥の集められて火に焚かるる如く、此世の終にも亦然らん。
41人の子其使等を遣はし、彼等は其國より總て躓かする者と惡を爲す者とを集めて、
42火の窯に入れん。其處には痛哭と切齒とあらん。
43其時義人等は父の國にて日の如く輝かん。聽く耳を有てる人は聽け。
44天國は畑に藏れたる寶の如し、見出せる人は之を祕し置きて喜つつ去り、其所有物を悉く賣りて、其畑を購ふなり。
45天國は又、美き眞珠を求むる商人の如し、
46値高き眞珠一個を見出すや、往きて其所有物を悉く賣りて、之を購ふなり。
47天國は又、海に張りて種々の魚を集むる網の如し、
48充ちたる時人之を引揚げ、濱に坐して良き魚を器に入れ、否き魚をば棄つるなり。
49世の終に於て斯の如くなるべし、卽[天]使等出でて、義人の中より惡人を分ち、
50之を火の窯に入れん、其處には痛哭と切齒とあらん。
51汝等此事を皆曉りしか、と宣へるに、彼等然りと答へければ、
52イエズス曰ひけるは、然れば天國の事を敎へられたる凡ての律法學士は、新しきものと古きものとを其庫の中より出す家父に似たり、と。
53斯てイエズス此喩を宣ひ了り、其處を去りて、
54故鄕に至り、諸會堂にて敎へ給へるに、人々感嘆して云ひけるは、彼は此智惠と奇蹟とを何處より得たるぞ、
55彼は職人の子に非ずや、其母はマリアと呼ばれ、其兄弟はヤコボヨゼフシモンユダと呼ばるる[者等]に非ずや、
56其姉妹も皆我等の中に居るに非ずや。然れば此凡ての事は何處より得來りしぞ、と。
57遂に彼に關きて躓き居たりしに、イエズス曰ひけるは、預言者の敬はれざるは、唯其故鄕、其家に於てのみ、と。
58斯て彼等の不信仰に因りて、數多の奇蹟を其處に爲し給ふこと能はざりき。
1當頃分國の王ヘロデ、イエズスの名聲を聞きて、
2其臣下に云ひけるは、是洗者ヨハネなり、死人の中より、蘇りたる者なれば、不思議彼の手に行はる、と。
3蓋ヘロデ曾て、其兄弟[フィリッポ]の妻ヘロヂアデの事に由りてヨハネを捕へ、縛りて監獄に入れたりき。
4其はヨハネ彼に向ひて、汝が彼婦を有つは可からず、と云ひたればなり。
5斯て之を殺さんと欲せしかども、人民の彼を預言者と認め居れるを以て之に懼れたりき。
6然てヘロデの誕生日に當りて、ヘロヂアデの女席上にて踊り、ヘロデの心に適ひしかば、
7ヘロデ誓ひて、何物を求むるも之を與へんと約せり。
8女は母に旨を含められて、洗者ヨハネの頭を盆に載せて茲に我に賜へ、と云ひしかば、
9王心に憂ふれども、誓ひたるが爲、且は列席せる人々の爲、遂に之を與ふる事を命じ、
10人を遣はして監獄にヨハネを刎ねたり、
11斯て其頭盆に載せられて女に與へられしを、女母に持行きしが、
12ヨハネの弟子等至り、其屍を取りて之を葬り、且往きてイエズスに告げたり。
13イエズス之を聞き給ひて、小舟にて其處を去り、寂しき處に避け給ひしが、群衆之を聞きて、町々より徒步にて從ひしかば、
14出でて群衆の夥しきを見、之を憐みて其病者を醫し給へり。
15日暮れんとする時、弟子等イエズスに近づきて云ひけるは、處は寂しく時は既に過ぎたり。邑々に往きて己が食物を買はん爲に、群衆をして去らしめ給へ、と。
16イエズス彼等に向ひ、人々の往くを要せず、汝等是に食を與へよ、と曰ひしかば、
17彼等答へけるは、我等が此處に有てるは五の麪と二の魚とのみ。
18イエズス彼等に曰ひけるは、其を我に持來れ、と。
19斯て命じて群衆を草の上にすわらせ、五の麪と二の魚とを取り、天を仰ぎて祝し、擘きて其麪を弟子等に與へ給ひ、弟子等又之を群衆に與へしかば、
20皆食して飽足れり。殘を拾ひて屑十二の筐に滿ちしが、
21食せし者の數は、婦女と幼童とを除きて五千人なりき。
22イエズス直に弟子等を强ひて小舟に乘らしめ、自群衆を去らしむる間に、先ちて湖の彼方へ往かしめ給ひしが、
23群衆を去らしめて後、獨祈らんとて山に登り、日暮れて獨其處に居給へり。
24然て小舟は湖の眞中にて、逆風の爲波に漂ひてありしが、
25夜の三時頃イエズスの湖の上を步みて彼等に至り給ひければ、
26彼等湖の上を步み給ふを見て心騷ぎ、怪物なりとて怖れ叫べり。
27イエズス直に言を出して、賴もしかれ、我なるぞ、怖るること勿れ、と曰ひしかば、
28ペトロ答へて云ひけるは、主よ、汝ならば水を踏みて汝に至る事を我に命じ給へ、と。
29イエズス、來れと曰ひけるに、ペトロ小舟より下り、イエズスに至らんとて水の上を步み居りしが、
30風の强きを見て懼れ、沈まんとせしかば、叫びて、主よ我を救ひ給へ、と云へり。
31イエズス直に手を伸べ、之を捉へて曰ひけるは、信仰薄き者よ、何故に疑ひしぞ、と。
32卽共に小舟に乘りしに、風凪ぎたり。
33小舟に居合せし人々近づきて、汝は實に神の子なり、と云ひつつイエズスを禮拜せり。
34遂に渡りてゲネザルの地に至りしに、
35土地の人々イエズスを認めて、其全地方に人を遣はして、凡ての病者を是に差出し、
36其衣服の總にだも觸れんことを願ひたりしが、觸れたる者悉く痊えたり。
1時に、エルザレムより律法學士とファリザイ人と來り、イエズスに近づきて云ひけるは、
2汝の弟子等は何故に古人の傳を犯すぞ。蓋麪を食する時に手を洗はざるなり、と。
3答へて曰ひけるは、汝等も亦己が傳の爲に神の掟を犯すは何ぞや、蓋神曰く、
4「父母を敬へ。又父或は母を詛ふ人は殺さるべし」と。
5然るに汝等は云ふ、誰にても父或は母に向ひて、我獻物は皆汝の爲ならんとだに云へば、
6其父或は母を敬はずして可なりと、斯て汝等は己が傳の爲に神の掟を空しくせり。
7僞善者よ、イザヤは汝等に就きて能く預言して、
8云らく「此人民は唇に我を敬へども、其心は我に遠ざかり、
9人の訓戒を敎へて徒に我を尊ぶなり」と。
10イエズス群衆を召集めて曰ひけるは、
11汝等聞きて曉れ、
12口に入る物人を汚すに非ず、口より出づる者こそ人を汚すなれ、と。其時弟子等近づきて云ひけるは、ファリザイ人が此言を聞きて躓けるを知り給ふか。
13イエズス答へて曰ひけるは、總て我天父の植ゑ給はざる植物は拔かるべし、
14汝等彼人々を措け、彼等は瞽者にして瞽者の手引なり、瞽者若瞽者を手引せば二人とも坑に陷るべし、と。
15ペトロ是に答へて、此喩を我等に釋き給へ、と云ひしかば、
16イエズス曰ひけるは、汝等猶智惠なき者なるか、
17總て口に入る物は腹に至りて厠に落つと曉らざるか、
18然れど口より出づる物は、心より出でて人を汚すなり、
19即惡念人殺姦淫私通偸盜僞證冒讀は心より出づ、
20是等こそ人を汚すものなれ、然れど手を洗はずして食する事は人を汚さざるなり、と。
21イエズス此處を去りて、チロとシドンとの地方に避け給ひしに、
22折しもカナアンの或婦其地方より出で、叫びて、主よ、ダヴィドの子よ、我を憫み給へ、我が女甚く惡魔に苦しめらる、と云へるに、
23イエズス一言も答へ給はざれば、弟子等近づきて、彼婦我等の後に叫ぶ、彼を去らしめ給へ、と請へども、
24イエズス答へて、我は唯イスラエルの家の迷へる羊に遣はされしのみ、と曰へり。
25然るに婦來り禮拜して、主よ、我を助け給へ、と云ひしに、
26答へて、子等の麪を取りて犬に投與ふるは可からず、と曰ひしかば、
27婦云ひけるは、主よ、然り、然れども子犬も其主人の食卓より落つる屑を食ふなり、と。
28イエズス遂に彼に答へて、嗚呼婦よ、大なる哉汝の信仰、望める儘に汝に成れと、曰ひければ、其女卽時に痊えたり。
29イエズス此處を過ぎて、ガリレアの湖邊に至り、山に登りて坐し給ひければ、
30夥しき群衆あり、唖者瞽者跛者不具者其外多くの者を携へて彼に近づき、其足下に放置きしに、イエズス是等を醫し給へり。
31然れば群衆は唖者の言ひ、跛者の步み、瞽者の見ゆるを見て感嘆し、光榮をイスラエルの神に歸し奉れり。
32時にイエズス、弟子等を召集めて曰ひけるは、我[此]群衆を憐む、蓋忍びて我と共に居る事既に三日にして食すべき物なし、我之を空腹にして去らしむるを好まず、恐らくは途にて倒れん、と。
33弟子等云ひけるは、然りとて此荒野にて、斯程の群衆を飽かすべき麪を、我等何處よりか求め得ん。
34イエズス曰ひけるは、汝等幾個の麪をか有てる、と。答へて、七と少しの小魚とあり、と云ひしかば、
35イエズス命じて群衆を地に坐らせ、
36七の麪と其魚とを取り、謝して擘き、弟子等に與へ給ひ、弟子等之を人民に與へ、
37皆食して飽足れり。殘の屑を拾ひて七の筐に滿ちしが
38食せし者は、婦女と幼童とを除きて四千人なりき。
39イエズス群衆を去らしめ、小舟に乘りてマゲダンの地方に至り給へり。
1ファリザイ人とサドカイ人と、イエズスを試みんとて近づき、天よりの徵を示されん事を請ひしかば、
2答へて曰ひけるは、汝等夕暮には、空紅ければ、晴天ならんと云ひ、
3朝には、空曇りて赤味あれば、今日暴風あらんと云ふ。
4然れば空の景色を見分くる事を知りて、時の徵を知る事を得ざるか。奸惡なる現代は徵を求むれども、預言者ヨナの徵の外には徵を與へられじ、と。遂に彼等を離れて去り給へり。
5弟子等湖の彼方に至りしに、麪を携ふる事を忘れたり。
6イエズス彼等に向ひ、愼みてファリザイ人サドカイ人の麪酵に用心せよ、と曰ひしかば、
7彼等案じ合ひて、我等が麪を携へざりし故ならん、と云へるを、
8イエズス悟りて曰ひけるは、信仰薄き者よ、何ぞ麪を有たぬ事を案じ合へる。
9未曉らざるか、五の麪を五千人に分ちて、尙幾筐を拾ひ、
10又七の麪を四千人に分ちて、尙幾筐を拾ひしを記憶せざるか
11ファリザイ人サドカイ人の麪酵に用心せよ、と汝等に云ひしは、麪の事に非ざるものを、何ぞ曉らざる、と。
12是に於て彼等、イエズスの用心すべしと曰ひしは麪の酵に非ずして、ファリザイ人サドカイ人の敎なる事を曉れり。
13イエズスフィリッポのカイザリア地方に至り、弟子等に問ひて、人々は人の子を誰なりと云ふか、と曰ひしかば、
14彼等云ひけるは、或人は洗者ヨハネなりと云ひ、或人はエリアなりと云ひ、或人はエレミア若くは預言者の一人なり[と云ふ]、と。
15イエズス彼等に曰ひけるは、然るに汝等は我を誰なりと云ふか、
16シモンペトロ答へて、汝は活ける神御子キリストなり、と云ひしに、
17イエズス答へて曰ひけるは、汝は福なり、ヨナの子シモン、其は之を汝に示したるは血肉に非ずして、天に在す我父なればなり。
18我も亦汝に告ぐ、汝は磐なり、我此磐の上に我敎會を建てん、斯て地獄の門是に勝たざるべし。
19我尙天國の鍵を汝に與へん、總て汝が地上にて繫がん所は、天にても繫がるべし、又總て汝が地上にて釋かん所は、天にても釋かるべし。
20然て我がイエズス、キリストたる事を誰にも語ること勿れ、と弟子等を戒め給へり。
21此時よりイエズス、己のエルザレムに往きて、長老律法學士司祭長等より多くの苦を受け、而して殺され、而して三日目に復活すべき事を、弟子等に示し始め給ひしかば、
22ペトロイエズスを呼退けて、諌め出でて云ひけるは、主よ、然らざるべし、此事御身上に在るまじ、と。
23イエズス顧みてペトロに曰ひけるは、サタンよ退け、汝我を躓かせんとす、其は汝が味へるは、神の事に非ずして人の事なればなり、と。
24時にイエズス弟子等に曰ひけるは、人若我後に跟きて來らんと欲せば、己を棄て、己が十字架を取りて我に從ふべし、
25其は己が生命を救はんと欲する人は之を失ひ、我爲に生命を失ふ人は之を得べければなり。
26人全世界を贏くとも、若其生命を失はば何の益かあらん、又人何物を以てか其魂に易えん。
27蓋人の子は、其父の光榮の衷に、其使等と共に來らん、其時人每に其行に從ひて報ゆべし。
28我誠に汝等に告ぐ、茲に立てる者の中、人の子が其國を以て來るを見るまで死なざるもの數人あり、と。
1六日の後イエズス、ペトロとヤコボと其兄弟ヨハネとを別に、高き山に連行き給ひしに、
2彼等の前にて御容變り、御顏は日の如く輝き、其衣服は雪の如く白くなれり。
3折しもモイゼとエリアと、彼等に現れてイエズスと語り居りしが、
4ペトロ答へてイエズスに云ひけるは、主よ、善哉我等が此處に居る事。思召ならば、此處に三の廬を造り、一は汝の爲、一はモイゼの爲、一はエリアの爲にせん、と。
5彼尙語れるに、折しも輝ける雲彼等を蔽ひ、雲より聲して曰はく、「是ぞ能く我心を安んぜる我愛子なる、是に聽け」、と。
6弟子等聽きつつ倒伏し、懼るる事甚しかりき。
7イエズス近づきて彼等に觸れ、起きよ、懼るること勿れ、と曰ひしかば、
8彼等目を翹げしに、イエズスの外誰をも見ざりき。
9彼等が山を下る時、イエズス是を戒めて、人の子死人の中より蘇る迄は、汝等が見し事を誰にも語ること勿れ、と曰ひしに、
10弟子等問ひて云ひけるは、然らばエリア先に來るべし、と律法學士等の云へるは何ぞや。
11答へて曰ひけるは、實にエリアは來りて萬事を改むべし。
12但我汝等に告ぐ、エリアは既に來れり、然れど人々之を識らず、而も縱に遇へり。斯の如く、人の子も亦彼等より苦を受けんとす、と。
13是に於て弟子等、是洗者ヨハネを斥して曰ひしものなる事を曉れり。
14イエズス群衆の處に來り給ひしに、或人是に近づき、前に跪きて云ひけるは、
15主よ、我子を憐み給へ、癲癇にて屡火の中に倒れ、苦しむこと甚し、
16之を汝の弟子等に差出したれど、彼等は醫すこと能はざりき、と。
17イエズス答へて、嗚呼不信邪惡の代なる哉。我何時まで汝等と共に居らんや、何時まで汝等を忍ばんや。彼を我に携へ來れ、と曰ひて、
18惡魔を戒め給ひしかば、惡魔出でて子は卽時に痊えたり。
19時に弟子等竊にイエズスに近づきて、我等が之を逐出す能はざりしは何故ぞ、と云ひしに、
20イエズス曰ひけるは、汝等の不信仰に由れり。我誠に汝等に告ぐ、汝等若芥種ほどの信仰だにあらば、此山に向ひて、此處より彼處に移れと云はんに、山移らん、斯て汝等に能はざる事なからん。
21然れど此類は、祈祷と斷食とに由らざれば逐出されざるなり、と。
22弟子等ガリレアに居れるに、イエズス曰ひけるは、人の子は人々の手に付されんとす、
23彼等は之を殺すべく、斯て三日目に蘇るべし、と。弟子等憂ふる事甚しかりき。
24彼等カファルナウムに來りし時、二ドラクマ銀貨を取立つる人々ペトロに近づき、汝等の師は二ドラクマ銀貨を納めざるか、と云ひしかばペトロ、
25納む、と云ひしが、頓て家に入りしに、イエズス先ちて之に曰ひけるは、シモンよ汝如何に思ふぞ、世の帝王は、貢又は稅を誰より取るぞ、己が子等よりか、他人よりか、と。
26ペトロ、他人より取るなり、と云ひしに、イエズス曰ひけるは、然らば子等は自由なり。
27然れど彼等を躓かせざる爲に、汝湖に往きて釣を垂れよ、さて初に上る魚を取りて其口を開かば、スタテル銀貨を得べし、之を取りて我と汝との爲に彼等に納めよ、と。
1其時弟子等、イエズスに近づきて云ひけるは、天國にて大なる者は誰なりと思ひ給ふか、と。
2イエズス一人の幼兒を召寄せ、彼等の眞中に立たせて、
3曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、汝等若飜りて幼兒の如くに成らずば、天國に入らざるべし、
4然れば總て此幼兒の如く自謙る人は、天國にて大なる者なり、
5又我名の爲に斯の如き一人の幼兒を承くる人は、我を承くる者なり。
6然れど我を信ずる此最小き者の一人を躓かする人は、驢馬挽磨を頚に懸けられ、海の深處に沈めらるるこそ彼に益あるなれ。
7躓あるが爲に世は禍なる哉。躓は來らざるを得ざれども、躓を來す人は禍なる哉。
8然れば若汝の手或は足汝を躓かすならば、之を切りて棄てよ、隻手或は隻足にて生命に入るは、兩手或は兩足ありて永遠の火に投入れらるるより、汝に取りて勝れり。
9又若汝の眼汝を躓かすならば、之を抉りて棄てよ、隻眼にて生命に入るは、兩眼ありて地獄の火に投入れらるるより、汝に取りて勝れり。
10汝等愼みて、此最小き者の一人をも輕んずること勿れ、我汝等に告ぐ、彼等の[天]使等天に在りて、天に在す我父の御顏を常に見るなり。
11蓋人の子は失せたる者を救はんとて來れり。
12汝等之を何とか思へる、百頭の羊を有てる者、若其一頭を失はば、九十九頭を山に措き、往きて其迷へるものを尋ぬるに非ずや。
13然て之を見出すに至らば、我誠に汝等に告ぐ、迷はざる九十九頭の羊の上よりも、尙此一頭の上を喜ぶなり。
14斯の如く、此最小き者の一人にても、其亡ぶるは、天に在す汝等の父の御旨にあらざるなり。
15若汝の兄弟汝に罪を犯さば、往きて汝と彼と相對して彼を諌めよ、若汝に聽きなば汝兄弟を得たるべし。
16汝に聽かずば、二三の證人の口によりて事の凡て定らん爲に、一二人を伴へ、
17若是等に聽かずば敎會に告げよ、敎會にも聽かずば、汝に取りて異邦人稅吏の如き者と見視做すべし。
18我誠に汝等に告ぐ、總て汝等が地上にて繫がん所は、天にても繫がるべし、又總て汝等が地上にて釋かん所は、天にても釋かるべし。
19我更に汝等に告ぐ、若汝等の中二人地上にて同意せば、何事を願ふとも、天に在す我父より賜はるべし。
20蓋我名を以て二三人相集れる處には、我其中に在り、と。
21時にペトロイエズスに近づきて云ひけるは、主よ、我兄弟の我に罪を犯すを、幾度か宥すべき、七度までか。
22イエズス曰ひけるは、我汝に七度までとは云はず、七度を七十倍するまでせよ。
23然れば天國は、其臣下に會計せしめんとせる王の如し、
24會計を始めしに、王に一萬タレントの負債ある者差出されしが、
25返す術なき儘に、主君は彼と、其妻子と凡ての所有物とを賣りて還す事を命ぜり。
26然るに其臣下平伏して願ひけるは、暫く我を忍容し給へ、我悉く返濟せん、と。
27主君其臣下を憐みて之を許し、其負債をも免せり。
28然て彼臣下出でて、己に百デナリオの負債ある、一人の同僚に遇ひしかば、負債を還せと云ひつつ、執へて其喉を扼むるに、
29同僚平伏して、姑く我を忍容し給へ、我悉く返濟せん、と願へども、
30彼肯ぜずして去り、負債を還すまで之を監獄に入れたり。
31同僚等は、其顛末を見て甚く憂ひ、來りて事の次第を悉く主君に語りしかば、
32主君彼を召して云ひけるは、汝兇惡の臣、汝の願に因りて、我悉く負債を汝に免せり、
33然れば我が汝を憐みし如く、汝も亦同僚を憐むべかりしに非ずや、と。
34斯て主君怒りて、負債を盡く還すまで彼を刑吏に付せり。
35汝等若各心より己が兄弟を宥さずば、我が天父も亦、汝等に斯の如く爲し給ふべし。
1是等の談を畢りて、イエズス遂にガリレアを去り、ヨルダン[河]の向なるユデアの境に至り給ひしが、
2群衆夥しく之に從ひければ、其處にて彼等を醫し給へり。
3ファリザイ人近づきて、彼を試みて云ひけるは、如何なる理由の下にも、人は其妻を出すを得べきか。
4イエズス答へて曰ひけるは、汝等讀まざりしか、卽元始に人を造り給ひしもの、之を男女に造りて曰はく、
5「此故に、人は父母を離れて、其妻に就き兩人一體と成るべし」と、
6然れば既に二人に非ずして一體なり、故に神の配せ給ひしもの、人之を分つべからず、と。
7ファリザイ人云ひけるは、然らば離緣狀を與へて妻を出すべし、とモイゼの命ぜしは何ぞや。
8答へて曰ひけるは、モイゼは汝等の心の頑固なるが爲に、妻を出す事を汝等に許したれど、元始より然はあらざりき。
9卽我汝等に告ぐ、總て私通の故ならで其妻を出し、他の女を娶る人は姦淫するなり、又出されたる女を娶る人も姦淫するなり、と。
10弟子等イエズスに向ひ、若人の妻に於る事斯の如くば、娶らざるに若ず、と云ひしかば、
11イエズス曰ひけるは、人皆此言を肯容るるには非ず、[肯容るるは]賜はりたる者のみ。
12卽母の胎内より生れながらの閹者あり、人より爲られたる閹者あり、又天國の爲に自ら作せる閹者あるなり。肯容るるを得る人は肯容るべし、と。
13時に按手して祈られんが爲、孩兒等イエズスに差出されしが、弟子等之を拒みければ、
14イエズス彼等に曰ひけるは、孩兒等を容せ、其我に來るを禁ずること勿れ、天國は斯の如き人の爲なればなり、と。
15斯て彼等に按手し給ひ、さて此處を去り給へり。
16折しも一人[の青年]イエズスに近づきて云ひけるは、善き師よ、我永遠の生命を得んには、如何なる善き事をか爲すべき。
17イエズス曰ひけるは、何ぞ善を我に問ふや、善き者は獨のみ、卽神なり。但汝若生命に入らんと欲せば掟を守れ、と。
18彼、何れ[の掟]ぞや、と云ひしにイエズス曰ひけるは、汝人を殺す勿れ、姦淫する勿れ、偸盜する勿れ、僞證する勿れ、
19汝の父母を敬へ、又汝の近き者を己の如く愛せよ、と。
20青年云ひけるは、是皆我幼年より守りし所、猶我に缼けたるは何ぞや。
21イエズス曰ひけるは、汝若完全ならんと欲せば、往きて有てる物を賣り、之を貧者に施せ、然らば天に於て寳を得ん、而して來りて我に從へ、と。
22此言を聞くや青年憂ひて去れり、是多くの財産を有てる者なればなり。
23イエズス弟子等に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、富者は天國に入り難し、
24又汝等に告ぐ、駱駝が針の孔を通るは、富者の天國に入るよりも易し、と。
25弟子等聞きて甚怪しみ、然らば誰か救はるるを得ん、と云ひければ、
26イエズス彼等を凝視めつつ曰ひけるは、是人に於ては能はざる所なれども、神に於ては何事も能はざる所なし、と。
27其時ペトロ答へて云ひけるは、然て我等は一切を棄てて汝に從へり、然れば何を得べきぞ、と。
28イエズス彼等に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、我に從ひたる汝等は、世革りて人の子其光榮の座に坐せん時、汝等も十二の座に坐して、イスラエルの十二族を審くべし。
29又總て我名の爲に、或は家、或は兄弟、或は姉妹、或は父、或は母、或は妻、或は子等、或は田畑を離るる人は百倍を受け、且永遠の生命を得べし。
30但多く、先なる人は後になり、後なる人は先にならん。
1天國は恰、家父朝早く出でて、其葡萄畑の爲に働く者を雇うが如し。
2彼働く者に一日一デナリオの約束を爲して、之を葡萄畑に遣はししが、
3又九時頃出でて、空しく市場に立てる他の人々を見て、
4汝等も我葡萄畑に往け、正當の物を與へん、と云ひければ彼等卽往けり。
5然て十二時と三時頃と出でて、又同じ樣に爲ししが、
6五時頃又出でて、他の立てる人々に遇ひて、何ぞ終日空しく此處に立てる、と云ひしに、
7彼等、雇ふ人なき故なり、と云ひしかば、彼、汝等も我葡萄畑に往け、と云へり。
8然るに日没に至りて、葡萄畑の主其會計役に向ひ、働く者を呼びて、後の者より始め、先の者に至るまで賃金を與へよ、と云ひしかば、
9五時頃來りし者至りて、各一デナリオを受けたり。
10先の者も亦來りて、我等は多く受くるならんと思ひしに、同じく各一デナリオを受けたれば、
11之を受け取りつつ家父に向ひて呟き、
12彼人々は一時働きしのみなるに、汝は終日の勞苦と暑氣とを忍びし我等と均しく之をあ遇へり、と云ひければ、
13家父其一人に答へて、友よ、我汝に不義を爲すに非ず、汝は銀一枚にて我に約せしにあらずや、
14汝の分を取りて往け。我は此後の者にも、亦汝と齊しく與へんと欲す。
15抑又我が欲する所を爲すは善からざるか、我が善ければとて汝の目惡きか、と云ひしが、
16斯の如く後の人は先になり、先の人は後にならん。夫召されたる人は多けれども、選まるる人は少し、と。
17イエズスエルザレムに上り給ふに、竊に十二人の弟子を呼寄せて曰ひけるは、
18今や我等エルザレムに上る、然て人の子は司祭長律法學士等に付されん、彼等は之を死罪に處し、
19又異邦人に付して弄らしめ、且鞭たしめ、且十字架に釘けしめん、斯て三日目に蘇るべし、と。
20時にゼベデオの子等の母、其子等と共にイエズスに近づき、禮拜して何事かを願はんとしければ、
21イエズス、何を望むか、と曰ひしに彼云ひけるは、此我二人の子を、御國に於て一人は汝の右に、一人は左に坐すべく命じ給へ。
22イエズス答へて曰ひけるは、汝等は願ふ所を知らず、汝等我が飲まんとする杯を飲み得るか、と。彼等得るなり、と云ひしかば、
23イエズス彼等に曰ひけるは、汝等實に我杯を飲まん、然れど我右左に坐するは、我が汝等に與ふべきに非ず、我父より備へられたる人々にこそ與ふべきなれ、と。
24斯て十人の弟子之を聞きて、二人の兄弟を憤りければ、
25イエズス彼等を呼寄せて曰ひけるは、異邦人の君主が人を司り、大なる者人の上に權を振ふは汝等の知る所なり。
26汝等の中には然あるべからず、汝等の中に大ならんと欲する人は、却て汝等の僕となるべし、
27又汝等の中に第一の者たらんと欲する人は、汝等の奴隷となるべし。
28是恰も人の子の來れるは仕へらるる爲に非ずして、却て仕へん爲、且衆人の贖として生命を棄てん爲なるが如し。
29一行エリコを出づる時、群衆夥しくイエズスに從ひしが、
30折しも路傍に坐せる二人の瞽者、イエズスの過ぎ給ふを聞き、主よ、ダヴィドの裔よ、我等を憐み給へ、と叫びければ、
31群衆彼等を拒みて默せしめんとすれども、彼等益叫びて、主よ、ダヴィドの裔よ、我等を憐み給へ、と云ひ居れり。
32イエズス立止り、彼等を呼びて曰ひけるは、我汝等に何を爲さん事を欲するか、と。
33彼等、主よ我等が目の開かれん事を、と云ひしに、
34イエズス彼等を憐みて其目に觸れ給ひしかば、彼等の目忽見えて、イエズスに從へり。