ヘブレオ書 (ラゲ訳)

提供:Wikisource

<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書

『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、

1910年発行

〔ローマ・カトリック訳〕

ラゲ訳新約聖書エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)

ヘブレオ書

第1章[編集]

1かみむかし預言よげんしやたちもつて、幾度いくたびにもいくやうにも先祖せんぞたちかたたまひしに、 2このすゑいたり、かつ萬物ばんぶつ世嗣よつぎて、またこれによりてつくたまひたる御子おんこもつて、われかたたまへり。 3かれかみ光榮くわうえいかがやきその本體ほんたい印章いんしやうましまして、おの權能ちからことばもつて、萬物ばんぶつたもち、つみきよめたまひて、てんおい稜威みいつみぎたまふなり。 4かれ天使等てんしたちまさものたまへるは、なほそのたまひし御名みな彼等かれらまされるがごとし。 5けだしかみかつ天使等てんしたちいづれにかくのたまひしぞ、[いはく]、「なんぢわがなり、われ今日こんにちなんぢめり」と、またわれかれちちたりかれわれたらん」と。 6また冢子うひごさらたまひしときのたまはく、「かみ天使てんしみなこれ禮拜れいはいすべし」、と。 7しかして天使等てんしたちきては、「かれかぜその使者ししやし、ほのほ役者えきしやとなしたまふ」とへるに、 8御子おんこきては、「かみよ、なんぢ玉座ぎよくざ世々よより、なんぢ王位わうゐしやくしやくなり、 9なんぢ正義せいぎあい不義ふぎにくめり、ゆゑなんぢかみたるかみは、よろこびあぶらなんぢ同輩どうはいまさりてなんぢそそたまへり、」とふ。 10またいはく、「しゆよ、なんぢはじめ据置すゑおたまへり、しかしてもろもろてん御手みてわざなり、 11これほろびん、れどなんぢ永存えいそんたまひ、これみな衣服いふくごとふるびん。 12なんぢこれ上衣うはぎごとたたたまはんに、これかはるべしといへども、なんぢおなじきものにしてかはことなく、なんぢよはひをはりなかるべし」と。 13しかるにかつ天使等てんしたちいづれにむかひてか、「われなんぢてきなんぢあしだいらしむるまでわがみぎせよ」、とのたまひしことある、 14天使てんしことごと役者えきしやれいにして、救靈たすかり世嗣よつぎくべき人々ひとびとため役者えきしやとしてつかはさるるにあらずや。

第2章[編集]

1ゆゑわれ漂流へうりうすることなきやううけたまわりしところ一層ひとしほまもらざるべからず。 2天使等てんしたちもつげられしことばすらかたくせられ、犯罪はんざい從順じゆうじゆんとはことごとただしきむくいけたれば、 3もしわれにしてかくおほいなるすくひ等閑なほざりにせば、いかでかのがるることをん。このすくひもとしゆよりしめされてはじまりたるに、うけたまわりし人々ひとびとよりわれ言證いひかためられ、 4かみまた思召おぼしめししたがひて、しるし奇蹟きせきと、能力のうりよく樣々さまざまわざと、聖靈せいれいたまもの分配ぶんぱいもつて、かの人々ひとびとともこれ保證ほしようたまひしなり。 5けだしいまところ將來しやうらい世界せかい天使等てんしたちしたがはせたまひしにはあらず、 6あるひと何處いづこかにしようしていはく、「ひとたれなればしゆこれ記憶きおくたまひ、ひとたれなればこれ訪問はうもんたまふぞ、 7しゆこれをしてすこしく天使等てんしたちおとらしめ、かむらしむるに光榮くわうえい名譽めいよとをもつてし、御手みてわざうへこれて、 8萬物ばんぶつそのあししたふくせしめたまひしなり」と。萬物ばんぶつこれふくせしめたまひしうへは、ふくせざるものをのこたまはざりしならんに、われげんいま萬物ばんぶつこれふくするをざるなり。 9れど天使等てんしたちすこしくおとらせられしもの、すなはちイエズスをたてまつるに、かみ恩寵おんちようにより一切いつさい人間にんげんためたまはんとて、くるしみゆゑに、かむらしむるに光榮くわうえい名譽めいよとをもつてせられたまひしなり。 10けだし萬物ばんぶつかみために、またかみによりてつくられたるものなれば、おほくの光榮くわうえいみちびたまへるもの、すなは彼等かれら救靈たすかりもとましませるものをば、よろしくくるしみもつまつたうしたまふべきは、かみおい適當てきたうなることなりき。 11せいらしめたまふものも、せいらるる人々ひとびとも、ともどういつのものよりづ、ゆゑかれ人々ひとびと兄弟きやうだいぶをはぢとせずしてのたまはく、 12われ御名みなわが兄弟等きやうだいたちげん、集會しゆうくわいうちなんぢ贊美さんびたてまつらん」と。 13またわれかれ信賴しんらいせん」と、またわれかみわれたまひし子等こどもとをよ」と。 14そもそも子等こども血肉けつにくいうするものなれば、かれまたこれいうたまへり。これつかさどれるもの、すなは惡魔あくまほろぼすにもつてし、 15かつおそるるがため生涯しやうがい奴隷どれいぞくせる人々ひとびとすくたまはんためなり。 16けだしかつ天使等てんしたちすくたまはずして、アブラハムのすゑすくたまひしかば、 17萬事ばんじ兄弟等きやうだいたちるべきはずなりき、これかみ御前みまへ慈悲じひにして忠信ちゆうしんなる大司祭だいしさいり、たみつみあがなたまはんためなりき。 18けだしおんみづかくるしみてこころみられたまひたれば、こころみらるる人々ひとびとをもたすくるをたまふなり。

第3章[編集]

1ればせいなる兄弟等きやうだいたちよ、なんぢてんよりのめしあづかりたるものなれば、われ宣言せんげん[する信仰しんかう]の使徒しとましま大司祭だいしさいましますイエズスの、 2あたかもモイゼがかみ全家ぜんか忠義ちゆうぎなりしごとく、おのれたまひしもの忠義ちゆうぎましまことかんがみよ。 3けだしイエズスがモイゼにまさりておほいなる光榮くわうえいくべきものとせられたまひしは、いへつくりたるものそのいへまさりてたふとばるがごとし。 4いへすべひとつくらるれども、萬物ばんぶつよりつくたまひしはかみにてまします。 5しかしてモイゼがかみ全家ぜんか忠義ちゆうぎなりしは、しもべとして、のちげらるべきことしようせんためなるに、 6キリストはとして、かみいへ忠義ちゆうぎましませり。もし希望きぼうによる信賴しんらいほこりとををはりまでかたたもたば、われすなはそのいへなる。 7このゆゑ聖靈せいれいのたまへるごとく、「今日けふなんぢそのこゑかば、 8かつ荒野あれのおいいかりときかみこころみしりしごとく、こころ頑固かたくなにすることなかれ、 9彼處かしこにては、なんぢ先祖せんぞこころみてわれためし、四十ねんあひだわがわざたり、 10ゆゑわれその時代じだいひといかりてへらく、彼等かれら何時いつこころにて彷徨さまよひ、わがみちらざりき、 11ればわれいかりて、彼等かれらわが安息あんそくらじとちかへり」、と。 12兄弟等きやうだいたちよ、なんぢうちに、あるひ信仰しんかう惡心あくしんありて、たまへるかみとほざからんとすることたれにもこれなからんやう注意ちゆういせよ。 13むしろ今日けふとなふるあひだに、日々ひびあひすすめて、なんぢうちつみあざむきによりて頑固かたくなになるものなからしめよ。 14われもしはじめ信賴しんらいをはりまで堅固けんごたもたば、キリストにあづかものられたるなり。 15すなはち「今日けふなんぢそのこえかば、かのいかりときごとこころ頑固かたくなにすることなかれ」とはるればなり。 16きていからせし人々ひとびとたれなるぞ、これモイゼとともにエジプトよりでしすべてのひとならずや。 17また四十ねんあひだかみたれむかひていかたまひしぞ、つみをかしてしかばね荒野あれのよこたへられし人々ひとびとたいしてにあらずや。 18またわが安息あんそくらじとちかたまひしは、たれむかひてなるぞ、不順ふじゆんなりし人々ひとびとたいしてにあらずや。 19われところによれば、彼等かれら不順ふじゆんためことざりしなり。

第4章[編集]

1ればわれおそるべきは、あるひその安息あんそくいるおん約束やくそくきて、なんぢうちこれたつせざるものありとせらるることこれなり。 2われさいはひおとずれたること彼等かれらひとしけれども、彼等かれらきしはなしそのえきせざりしは、ける人々ひとびとおい信仰しんかうがつせざりしゆゑなり。 3けだししんじたるわれ安息あんそくるべきものなり、かつて、「われいかりて彼等かれらわが安息あんそくらじとちかえり」、とのたまひしがごとし。そもそもその安息あんそくは、開闢かいびやく事業じげふ成就じやうじゆせしときよりれり。 4けだしあるへん七日なぬかきていはく、「かみ七日なぬかそのすべての事業じげふやすたまへり」と、 5またこのへんのたまはく、「彼等かれらわれ安息あんそくらじ」と。 6ればかの安息あんそくるべき人々ひとびとなほりて、さきさいはひおとずれ人々ひとびと信仰しんかうによりてこれらざりしがゆゑに、 7かみかくごとひさしきをて、ダヴィドをもつさらに「今日けふ」とさだたまひしなり。すなはち「なんぢ今日けふそのこえかば、こころ頑固かたくなにすることなかれ」、とすではれしがごとし。 8けだしもしヨズエにして彼等かれら安息あんそくしめしならば、かみなほそののちしてのたまことなかりしならん。 9ればかみたみのこれる安息あんそくあり、 10かみ安息あんそくりたるひとも、あたかかみおの事業じげふやすたまひしがごとく、みづか事業じげふやすみたればなり。 11このゆゑかの信仰しんかうれいならひて墮落だらくするものなからんために、われいそぎてこの安息あんそくことつとむべきなり。 12けだしかみ御言おんことばきて效能かうのうあり、所有あらゆる兩刃もろはつるぎよりもするどくして、靈魂れいこん精神せいしんと、また關節くわんせつ骨髓こつづゐとのさかひたつし、こころおもひこころざしとをわかつ。 13またすべ造物ざうぶつとしてかみ御前みまへえざるはなく、そのおん目前めのまへには萬物ばんぶつ赤裸あかはだかにしてあらはなり、われかならその審判しんぱんくべし。 14ればわれは、てんたまひたるおほいなる大司祭だいしさいすなはかみ御子おんこイエズスをいうするがゆゑに、かたく[信仰しんかうの]宣言せんげんたもつべきなり。 15われいうせる大司祭だいしさいは、われ弱點じやくてんいたはたまはざるものあらずして、つみのぞくのほか萬事ばんじおいて、われおなじくこころみられたまへるものなればなり。 16ゆゑわれ慈悲じひかうむらんためまた適切てきせつなるたすけとなるべき恩寵おんちよう見出みいださんために、はばかりなく恩寵おんちよう玉座ぎよくざいたたてまつるべし。

第5章[編集]

1けだしすべ大司祭だいしさいひとうちよりえらまれ、かみくわんすることきて人々ひとびとため供物くもつ贖罪しよくざい犧牲いけにへとをささぐるのにんけ、 2みづからも弱點じやくてんかこまれたるものなれば、らざるひとまよへるひとおもひことざるべからず。 3これりて、たみためすがごとく、おのためにもまた贖罪しよくざい獻物ささげものすべきなり。 4またかみされたることアアロンのごとくならずしては、何人なにびとこのたふとくらゐみづかものなし、 5かくごとく、キリストも大司祭だいしさいたらんとしてみづかすすたまひしにはあらず、これむかひて、「なんぢわがなり、われ今日こんにちなんぢめり」とのたまひしもの、これたまひしなり。 6へんまた、「なんぢかぎりなくメルキセデクのごと司祭しさいなり」、とのたまひしがごとし。 7すなはちキリストは肉身にくしんましまししときおのれよりすくたまふべきものにむかひて、祈祷きたう懇願こんぐわんとをささぐるに、おほいなるさけびなみだとをもつてしたまひしかば、そのうやうやしさによりてききれられたまへり。 8かつかみの)御子おんこましましながら、たまひしくるしみによりて從順じゆうじゆんまなたまひ、 9まつたうせられたまひて、したがたてまつすべてのひと永遠えいゑん救靈たすかりもとり、 10かみよりメルキセデクのごと大司祭だいしさいしようせられたまひしなり。 11われはこれにきてかたるべきことおほけれども、なんぢくににぶりたれば、あきらかかたし。 12けだしなんぢときひさしきよりすれば、敎師けうしともるべきを、さらかみ御言おんことば初步しよほをしへらるるをえうし、かた食物しよくもつならで、ちちえうするものれり。 13そもそもちちえうするもの嬰兒みどりごなれば、をしへにたつすることず、 14かた食物しよくもつ大人おとなのもの、すなは慣習くわんしふによりて善惡よしあし弁別べんべつするに熟達じゆくたつせる人々ひとびとのものなり。

第6章[編集]

1ればわれは、キリストにくわんするをしへ初步しよほきて、せるわざよりの改心かいしんかみおけ信仰しんかう2およしよ洗禮せんれい按手あんしゆれい死者ししや復活ふくくわつ永遠えいゑん審判しんぱんとうくわんするをしへ基礎どだいふたたきづことずして、なほ完全くわんぜんなることすすまん、 3かみゆるたまはばわれこれすべし。 4けだし一度ひとたびらされて、てんたまものあじはひ、聖靈せいれい分配ぶんぱいにもあづかり、 5かつかみ御言おんことば來世らいせ勢力せいりよくとをあじはひながら、 6墮落だらくしたる人々ひとびとは、おのつみとしてかみ御子おんこふたた十字架じふじかけ、これはづかしたてまつものなれば、さら改心かいしんするやう一新いつしんせらるることず。 7すなはつちしばしばそのうへふりあめ吸入すひいれて、たがやひとえきすべきくさしやうずれば、かみより祝福しゆくふくくといへども、 8荊棘いばらあざみとをしやうずれば、てられてのろはるるにちかく、そのはてかるべきのみ。 9至愛しあいなるものよ、われふといへども、なんぢきてはなほくして救靈たすかりちかからんこと希望きぼうす。 10けだしかみは、なんぢかつ聖徒せいとたち供給きようきふし、いまなほ供給きようきふしつつあるに、なんぢわざなんぢ御名みなたいしてあらははししあいとをわすたまごとき、不義ふぎなるものにはましまさず。 11われのぞところは、なんぢおのおの希望きぼうまつたうするまで、始終しじゆう同樣どうやうはげみあらはし、 12怠慢たいまんながれずして、信仰しんかう忍耐にんたいとをもつて約束やくそく世嗣よつぎるべき人々ひとびとならものらんことこれなり。 13けだしかみアブラハムにやくたまひしときおのれよりおほいにしてしてもつちかふべきものなきがゆゑに、おんみづからをして、ちかひて、 14いはく、「われしゆくしてなんぢしゆくせん、ふやしてなんぢふやさん」と。 15かくてアブラハム忍耐にんたいもつまちおん約束やくそくことたり。 16すなは人々ひとびともつとおほいなるものをしてちかひ、また保證ほしようちかひその一切いつさいろんけつす。 17かくごとく、かみ約束やくそく世嗣よつぎたる人々ひとびとむかひて、その規定きていへんぜざることなほ十分じふぶんしめさんとて、ちかひくはたまひしなり。 18これそなへられたる希望きぼうとらへんとしてよりすがたてまつりたるわれに、かみいつはたまあたはざるふたつうごかざることもつて、もつとつよなぐさめさせたまはんためなり。 19この希望きぼうは、安全あんぜんにして堅固けんごなるたましひいかりとしてわれこれたもち、 20さらにイエズスがかぎりなくメルキセデクのごと大司祭だいしさいられて、われため先驅せんくとしてたまひし幕屋まくやうちまでも、[この希望きぼうは]るものなり。

第7章[編集]

1けだしこのメルキセデクはサレムのわう最上さいじやうかみ司祭しさいにして、アブラハムがわう打勝うちかちてかへれるをむかへ、これ祝福しゆくふくせしかば、 2アブラハムかれ分捕ぶんどりとりものの十ぶんいちわけあたへたり。メルキセデクのけば、まづわうにして、つぎにサレムのわうすなは平和へいわわうなり。 3かれちちなくははなく系圖けいづなく、そのはじめもなくよはひをはりもなく、かみ御子おんこあやかかりて永久えいきゆう司祭しさいとしてそんす。 4なんぢ祖先そせんアブラハムが、しゆなる分捕ぶんどりもの十分じふぶんいちをもあたへしひとの、如何いかおほいなるかをかんがみよ。 5そもそもレヴィの子孫しそんうち司祭しさいしよくくる人々ひとびとは、たみより、すなはおなじくアブラハムのこしよりでたるものなるも、おの兄弟等きやうだいたちより十分じふぶんいちことを、律法りつぱふによりてめいぜられたるなり。 6しかるにかの司祭しさいたち血脉ちすぢあらざるものは、アブラハムより十分じふぶんいちりて、約束やくそくかうむりしそのひと祝福しゆくふくせり。 7おとれるものまされるもの祝福しゆくふくせらるるは勿論もちろんなり、 8いま十分じふぶんいちくる人々ひとびとは、するものなれど、かのときけしは、けるものとしてしようせられしものなり。 9かく十分じふぶんいちくるところのレヴィも、アブラハムにおい十分じふぶんいちおさめたりとはるべきなり、 10はメルキセデクこれひしとき、レヴィなほそのちちこしりたればなり。 11たみはレヴィぞく司祭しさいしよくもとりて律法りつぱふけたれば、もしひと完全くわんぜんならしむることレヴィの司祭しさいしよくによりしならば、アアロンのごときとはれずして、にメルキセデクのごと司祭しさいおこ必要ひつえう何處いづこにかりし。 12すなは司祭しさいしよくうつりたらんには、律法りつぱふまたまさうつるべきなり。 13これことはれたるひとは、かつ祭壇さいだんつかへしものなきぞくでたり。 14けだしわれしゆがユダぞくよりたまひしことあきらかにして、モイゼはこのぞくきて、ひとつ司祭しさいくわんすることはざりき。 15かくてメルキセデクにたる司祭しさい16すなは肉的にくてきなるおきて律法りつぱふによらず、不朽ふきうなる生命せいめい能力ちからによりててられたる司祭しさいおこことあらば、律法りつぱふ移轉いてん尙更なおさらあきらかなり。 17は、「なんぢかぎりなくメルキセデクのごと司祭しさいなり」としようせられたればなり。 18そもそもさきおきてはいせらるるは、そのよわくしてえきなきによりてなり。 19けだし律法りつぱふ何事なにごとをも完全くわんぜんいたらしめず、ただわれもつかみちかづきたてまつるべき、なほ希望きぼうらしめしのみ。 20しかこれちかひなくしてられしにあらず、すなは司祭しさいちかひなくしててられたれど、 21イエズスはちかひもつて、すなはち、「しゆちかたまへり、取返とりかへたまことなかるべし、なんぢかぎりなく司祭しさいなり」とのたまひしものによりててられたまひしなり。 22これによりてイエズスは、まされる契約けいやくしようしやられたまへり。 23また司祭しさいもつさまたげられて、えず司祭しさいたるあたはざるがゆゑに、てられしもの數多かずおほし、 24れどイエズスはかぎりなくそんたまふによりて、不朽ふきう司祭しさいしよくいうたまふ。 25ゆゑひとため執成とりなしさんとてつねたまひ、おのれによりてかみちかづきたてまつ人々ひとびとまつたすくふことをたまふ。 26けだしわれかか大司祭だいしさいいうすること至當したうなりき、すなはせいにして、つみなく、けがれなく、罪人ざいにんとほざかりて、てんよりもたかくせられ、 27大司祭だいしさいごとく、日々ひびまづおのつみためつぎたみつみため犧牲いけにへささぐるをえうせざるものたるべし。けだしおのれささげてこれたまひしこと一度ひとたびのみ、 28律法りつぱふてし司祭しさい弱點じやくてんある人々ひとびとなるに、律法りつぱふのちなるちかひことばてしは、かぎりなく完全くわんぜんましま御子おんこなればなり。

第8章[編集]

1いまところ要點えうてんこれなり、すなはわれいうする大司祭だいしさいてんおい至大しだい[なる稜威みいつ]の玉座ぎよくざみぎたまひ、 2聖所せいじよ役者えきしやにして、ひとてしにはあらでしゆたまひし、まこと幕屋まくや役者えきしやにてまします。 3それすべ大司祭だいしさいてらるるは、供物くもつ犧牲いけにへとをささげんためなれば、かれまたかならささぐべき何者なにものかをいうたまはざるべからず。 4もし地上ちじやうたまはば司祭しさいたまはざるべし、律法りつぱふしたがひて供物くもつささぐる人々ひとびとすでにあればなり。 5この人々ひとびとは、在天ざいてん事物じぶつうつしおよかげ奉事ほうじするのみ、あたかもモイゼが幕屋まくやつくらんとせしときげられしがごとし、いはく、「よ、何事なにごとやまおいなんぢしめされし模型もけいしたがひてこれせ」と。 6れどわれ大司祭だいしさいげんなほせいえきたまひしは、なほ約束やくそくもつ保證ほしようせられたる、なほ契約けいやく仲介ちゆうかいしやたるにおうじてなり。 7けだしかのだいいち契約けいやく缺點けつてんなかりせば、だい二のものをつる餘地よちなかるべしといへども、 8[かみ]人々ひとびととがめてのたまひけるは、「しゆのたまはく、よ、きたらんとす、しかしてわれイスラエルのいへうへまたユダのいへうへ新約しんやくまつたうすべし、 9これ彼等かれら先祖せんぞをエジプトのより救出すくひいださんとてそのりしときこれししやくごときものにあらず、けだし彼等かれらわれやくとどまらざりしかば、われまた彼等かれらかへりみざりき、としゆのたまへり。 10すなはしゆのたまはく、かののち、イスラエルのいへてんとするやくこれなり、わが律法りつぱふその精神せいしんき、これそのこころかきしるさん、しかしてわれ彼等かれらかみり、彼等かれらわれたみるべし。 11またおのおのそのちかものその兄弟きやうだいをしへて、しゆれとことあらじ、ちひさものよりおほいなるものいたるまでことごとわれるべければなり。 12けだしわれ彼等かれら不義ふぎあはれみ、かつそのつみ記憶きおくせざるべし」と。 13しんのたまへば、さきのものをきゆうとしたまひしなり、きゆうにして老衰らうすいせるものはほろびちかし。

第9章[編集]

1そもそもさきやくには拜禮はいれい規定きていあり、ぞくする聖所せいじよありき。 2すなはだい一の幕屋まくやつくり、これ燈臺とうだいつくゑそなへぱんりて、これ聖所せいじよふ。 3まただい二のまくうしろ至聖所しせいじよ幕屋まくやありて、 4そのうちに、きん香臺かうだい全面ぜんめんきんせたる契約けいやくひつり、そのひつうちには、マンナをれたるきんつぼと、ざしたりしアアロンのつゑと、契約けいやくふたつ石標せきへうり、 5なほそのひつうへに、贖罪所しよくざいしよおほへ光榮くわうえいの[二]ケルビムありしが、これきてはいま逐一ちくいちふにおよばず。 6これものそなはることかくごとくにして、だい一の幕屋まくやには禮拜れいはいおこな司祭しさいたちつねれども、 7だい二の幕屋まくやには一ねん一度いちど大司祭だいしさいのみり、しかおのためまたたみ不知ふちざいためささぐるたざることなかりき。 8これ聖靈せいれいが、だい一の幕屋まくやそんするあひだは、聖所せいじよみちいまだひらけざるをしめたま所以ゆゑんにして、 9現時げんじため前表ぜんぺうなり。すなは供物くもつ犧牲いけにへとはささげらるといへども、これもの禮拜れいはいしやをしてその良心りやうしんをも完全くわんぜんならしむるあたはず、 10ただ改正かいせいときまでまうけられたる飲食いんしよくぶつ種々しゆじゆあらひきよめ肉身上にくしんじやうおきてとどまれり。 11しかるにキリストは、將來しやうらいめぐみ大司祭だいしさいとしてきたたまひ、さらひろく、さら完全くわんぜんにして、ひとらざる、すなはこの造物ざうぶつならざる幕屋まくやて、 12山羊やぎこうしもちひず、おのもつ一度ひとたび聖所せいじより、不朽ふきうあがなひさせたまひしなり。 13けだし山羊やぎうしおよわか牝牛めうし燒灰やきばひそそことは、けがれたる人々ひとびとを、肉身上にくしんじやうおいきよめてせいとするものなれば、 14いはん聖靈せいれいもつて、おのけがれなきかみささたまひしキリストの御血おんちは、たまへるかみつかたてまつらしめんために、せるわざよりわれ良心りやうしんきよむべきをや。 15ゆゑにキリストは新約しんやく仲介ちゆうかいしやましまして、しのぎてさきやくもとをかされたるあやまちあがなひ、されたる人々ひとびと永遠えいゑん世嗣よつぎ約束やくそくさせたまふなり。 16遺言ゆゐごんしよあるとき遺言ゆゐごんしやえうす、 17遺言ゆゐごんしよひとしてのち效力かうりよくあり、遺言ゆゐごんせるひと存命ぞんめいせるあひだは、いまそのかうあらざればなり。 18ればだい一のやくも、なくしててられしにはあらず、 19けだしモイゼ、律法りつぱふによれるおきてことごとたみ一同いちどうよみかせしのち緋色ひいろ、ヒソッポとともこうし山羊やぎみづとをり、律法りつぱふ卷物まきもの一般いつぱんたみとにそそぎて、 20ひけるは、これかみなんぢめいたまへるやくなる、と、 21また幕屋まくやすべての祭器さいきとにもおなじくそそぎたり。 22かく律法りつぱふしたがひては、ほとん一切いつさいのものもつきよめられ、ながことなくしてはゆるさるることなし。 23れば在天ざいてん事物じぶつかたどりたるものすら、によりてきよまれば、在天ざいてん事物じぶつそのものは、これまさ犧牲いけにへによりてきよめられざるべからず。 24けだしイエズスのたまひしは、眞實しんじつのもののすがたぎざる、にてつくられし聖所せいじよにはあらず、てんそのものたまひて、いまわれために、かみおん目前めのまへまみえたまふなり。 25また大司祭だいしさいのもののちて年々ねんねん至聖所しせいじよるがごとく、しばしばおのれささたまはんとにあらず、 26しからずんば、開闢かいびやく以來いらいしばしばくるしみたまふべかりしなり。れどいますゑあたりて、おのれ犧牲ぎせいとしてつみほろぼさんために、一度ひとたびあらはたまひしなり。 27かくひと一度ひとたびしてしかのち審判しんぱんあることさだまれるがごとく、 28キリストもおほくのひとつみあがなはんとて一度ひとたびささたまひ、これたてまつ人々ひとびとすくはんために、ふたたつみはずしてあらはたまふべし。

第10章[編集]

1そもそも律法りつぱふは、將來しやうらいめぐみかげのみをいうして、事物じぶつしんかたちいうせざるがゆゑに、每年まいねんえずおな犧牲いけにへささげて、祭壇さいだんちかづく人々ひとびと完全くわんぜんならしむることは、けつしてあたはざるなり。 2しからずんば、まつ人々ひとびと一旦いつたんきよめられては、またつみ意識いしきなかるべければ、まつりささぐることむべかりしなり。 3れどかのまつりおい年々ねんねんつみねんするは、 4うし山羊やぎとのもつてしてはつみのぞことあたはざるがゆゑなり。 5ればキリストたまひしときのたまひけるは、「しゆよ、犧牲いけにへ獻物ささげものとをいなみて肉體にくたいわれそなたまへり、 6燔祭はんさい罪祭ざいさいとは御心みこころかなはざりしをもつて、 7われへらく、たまへ、卷物まきものはじめわれきてかきしるしたれば、かみよ、われ御旨みむねおこなはんためきたれり」、と。 8はじめには、「しゆよ、犧牲いけにへ獻物ささげもの燔祭はんさい罪祭ざいさいとをいなたまひて、律法りつぱふしたがひてささげらるるものは御意みこころかなはざりき」、とのたまひて、 9のちには「かみよ、たまへ、われ御旨みむねおこなはんためきたれり」、とのたまへば、これはじめことはいしてそのつぎことたまふなり、 10この御旨みむねゆゑにこそ、イエズス、キリストのおんからだ一度ひとたびささげられしにりて、われせいられしなれ。 11司祭しさいは、すべ日々ひびちてせいえきおこなひ、何時いつつみのぞあたはざるおな犧牲いけにへささぐれども、 12この大司祭だいしさいつみためひとつ犧牲いけにへささたまひて、かぎりなくかみおんみぎし、 13かくてきおのあしだいられんことたまふなり。 14せいられたる人々ひとびとを、いつ獻物ささげものもつかぎりなくまつたうしたまひたればなり、 15聖靈せいれいまたこれわれしようたまふ。けだしさきには、 16しゆのたまはく、かののちてんとするやくこれなり、わが律法りつぱふ彼等かれらこころあたへ、これその精神せいしんかきしるさん」、とのたまひてのち17われ最早もはや彼等かれらつみ不義ふぎとを記憶きおくせざるべし」、とのたまひしなり。 18これゆるしありたるうへは、つみため獻物ささげものえてこれあることなし。 19れば兄弟等きやうだいたちよ、われはイエズスの御血おんちにより、 20イエズスのおのにくなるまくわれひらたまひし、あらたにしてけるみちより聖所せいじよるべきこと確信かくしんし、 21かつかみいへつかさど大司祭だいしさいいうするものなれば、 22こころあし料簡れうけんよりすすがれ、きよみづあらはれて、眞心まごころ完全くわんぜんなる信仰しんかうとをもつこれちかづきたてまつり、 23確乎かくことしてわれ希望きぼう宣言せんげんたもつべし、やくたまひしもの眞實しんじつにてましませばなり。 24またたがひかへりみて親愛しんあい善業ぜんげふとをあひはげまし、 25ある人々ひとびとれたるがごとくにあつまりことなく、むしろあひすすめて、ちかづくをるにしたがひていよいよはげむべきなり。 26けだしわれすで眞理しんり知識ちしきけたるのちことさらつみをかさば、のこところ最早もはやつみあがな犧牲いけにへあらずして、 27ただおそおそ審判しんぱんことと、てきたいするもの燒盡やきつくすべきはげしさとのみ。 28モイゼの律法りつぱふやぶりたるひとすら、二三にん證言しようげんによりて容赦ようしやなくするなれば、 29ましかみ御子おんこ蹂躪ふみつけ、おのりてもつせいられしやく蔑視べつしし、恩寵おんちようたま聖靈せいれい侮辱ぶじよくくはへたるひとくべき刑罰けいばつきびしさの、如何許いかばかりなるかをおもへ。 30復讐ふくしゆうわがことなり、われむくゆべし」とのたまひ、またしゆそのたみ審判しんぱんすべし」とのたまひしものたれなるかはわれれるところなり。 31おそるべきかなたまへるかみ御手みてかかこと32なんぢさきらされつつ、くるしみおほいなるたたかひしのびたりし追想つゐさうせよ。 33すなはあるひ侮辱ぶじよく患難くわんなんとをもつひと觀物みものられ、あるひかかことへる人々ひとびとともりたりき。 34けだし囚人しうじんうへをもおもひり、またおのたちまさりたる永存えいそんたからいうせるをりて、われ財産ざいさんうばはるるをもよろこびてしのびたるなり。 35ればおほいなるむくいべきなんぢ希望きぼううしななかれ。 36すなはかみ御旨みむねおこなひて約束やくそくのものをために、なんぢ必要ひつえうなるは忍耐にんたいなり。 37けだしきたらんとするものやがきたたまふべく、延引えんいんたまことあらじ。 38わが義人ぎじん信仰しんかうによりてく、もしみづか退しりぞかばわがこころかなはざるべし。 39われほろびいたらんとして退しりぞものあらず、たましひんとして信仰しんかうするものなり。

第11章[編集]

1そもそも信仰しんかう希望きぼうすべき事物じぶつ保證ほしようえざる事物じぶつ證據しようこなり、 2けだし故人こじんこれもつ好評かうひやうたり。 3信仰しんかうりてわれは、世界せかいかみ一言いちごんにて組立くみたてられ、げんゆるものがゆるものより成出なりいでざりしことをさとる。 4信仰しんかうりてアベルは、カインのそれまされる犧牲いけにへかみささげ、信仰しんかうりて義人ぎじんたる保證ほしようけ、かみその獻物ささげもの保證ほしようたまひ、かれ信仰しんかうりてしてもなほものいふなり。 5信仰しんかうりてヘノクは、ざらんためうつされ、かみこれうつたまひしにりて見出みいだされざりき、移轉いてんまへかみ御意みこころかなへることしようせられたればなり。 6信仰しんかうなくしてはかみ御意みこころかなふことあたはず、けだしかみちかづきたてまつひとは、かならずやかみ存在そんざいしてこれもとたてまつ人々ひとびとむくたまものなることしんぜざるべからず。 7信仰しんかうによりてノエは、いまえざる事柄ことがらきて默示もくじかうむり、かしこみて家族かぞくすくはんため方舟はこぶねつくり、これもつひとつみし、その信仰しんかうれる世嗣よつぎられたり。 8信仰しんかうりてアブラハムは、うけぐべきづべしとのめししたがひ、何處いづこくべきかをらずしてたちでたり。 9かれ約束やくそくおい他國たこくにあるがごとく、おな約束やくそく相繼あいつぐべきイザアク、ヤコブととも幕屋まくやめり、 10かみその設立せつりつしや建築けんちくしやいただける、基礎きそある都會とくわいてばなり。 11信仰しんかうりてサラも、石女うまずめにしてよはひぎたるにたねやどちからたり、これやくたまへるもの忠實ちゆうじつましまことしんじたるがゆゑなり、 12かく一人ひとりより、しかすでせるにひとしきものよりでしひとそらほしごとおびただしく、海邊うみべ眞砂まさごごとかぞがたし。 13彼等かれらみな信仰しんかうしたがひ、約束やくそくのものをけずしてしたれども、はるかのぞみてこれしゆくし、地上ちじやうおいおのれ旅人たびびとたり寄留きりうにんたること宣言せんげんせり。 14かた人々ひとびとは、これ本國ほんごくもとむることしめものなり。 15もしそのおもへるところかつでたる本國ほんごくならば、またかへときもありしならん、 16れど彼等かれらは、いま一層ひとしほきもの、すなはてんの[本國ほんごく]をしたひしなり、ゆゑかみ彼等かれらかみばるるをはぢとしたまはず、彼等かれらため都會とくわいそなたまひたればなり。 17信仰しんかうりてアブラハムは、こころみられしときイザアクをささげたり、そのささげたりしは、約束やくそくかうむりたりし獨子ひとりごにして、 18かつて「なんぢ子孫しそんとなへらるるはイザアクによるべし」とはれし其者そのものなりき。 19すなはかれへらく、かみしたる人々ひとびとをも復活ふくくわつせしむるをたまふなりと、しかして前表ぜんぺうとしてそのかへしあたへられたり。 20信仰しんかうりてイザアクは、將來しやうらいこときてヤコブとエザウとを祝福しゆくふくせり。 21信仰しんかうりてヤコブは、のぞみてヨゼフのたちおのおの祝福しゆくふくし、つゑかしらりて禮拜れいはいせり。 22信仰しんかうりてヨゼフは、のぞみてイスラエルの出立しゆつたつおもはしめ、おの骸骨がいこつきてめいくだせり。 23信仰しんかうりてモイゼは、うまれて三月みつきあひだ兩親ふたおやによりてかくされたり、これそのうつくしきをたるがゆゑにして、彼等かれら國王こくわう命令めいれいおそれざりき。 24信仰しんかうりてモイゼは、成長せいちやうしてファラオンのむすめたることいなめり、 25すなはつみによれる暫時ざんじ快樂くわいらくよりも、むしろかみたみともなやむことをえらみ、 26キリストの耻辱ちじよくもつてエジプトのたからまされるとみとせり、報酬はうしうながたればなり。 27信仰しんかうりてかれは、國王こくわういかりおそれずしてエジプトをれり、すなはえざるところるがごとくにして忍耐にんたいせしなり。 28信仰しんかうりてかれ過越すぎこしいはひ、また長子ちやうしほろぼせるもの彼等かれられざらんため、[こひつじの]そそれいおこなへり。 29信仰しんかうりて彼等かれらは、紅海こうかいくがごとくにしてわたれり、エジプトひとこれこころみておぼれたりき。 30信仰しんかうりてエリコの城壁じようへきは、七日なぬかあひだめぐられてくずれたり。 31信仰しんかうりて娼婦しやうふラハブは、探偵たんていしや懇切こんせつ接待せつたいせしかば、信者しんじやともにはほろびざりき。 32このほかわれなにをかはん、ゲデオン、バラク、サムソン、イエフテ、ダヴィド、サムエルおよ預言よげんしやたちことべんにはときらざるべし。 33信仰しんかうりて彼等かれらは、國々くにぐにち、おこなひ、約束やくそくかうむり、獅子ししくちふさぎ、 34いきほひし、つるぎやいばのがれ、よわきをつようせられ、いくさいさましきものりて異邦いはうじんぢんやぶり、 35婦人ふじんそのしたりしもの復活ふくくわつもつかへしあたへられ、ある人々ひとびと引裂ひきさかれて、すぐれたる復活ふくくわつためのがるることがへんぜず、 36ある人々ひとびと侮辱ぶじよく打擲ちやうちやくうへ捕縛ほばく入獄にふごくひ、 37いしなげうたれ、のこぎりにてかれ、ためされ、つるぎにてころされ、ひつじ山羊やぎ毛皮けがわまとひて萬事ばんじ缺乏けつぼうし、められなやまされて流浪るらうせり。 38この人々ひとびとくにへざりしに、彼等かれら荒地あれちやまに、ほらおよあなうち彷徨さまよひしなり。 39彼等かれらみな信仰しんかう稱揚しようやうたれども、約束やくそくのものをばざりき。 40これかみわれためさらよろしきことはかたまひて、われともにならでは彼等かれらまつたうせられざらんためなり。

第12章[編集]

1ればわれも、おびただしき證人しようにんくもかこまれたれば、一切いつさいまとへるつみとをおろして、 2われ信仰しんかう指導しどうしやましま完成くわんせいしやましますイエズスにかんがみつつ、忍耐にんたいもつわれそなはれる勝負しようぶはしるべし。すなはちイエズスはかつて、おのれそなはれるよろこびへて、はづかしめいとはず、十字架じふじかしのたまひ、しかしてかみ玉座ぎよくざみぎたまふ。 3なんぢみておのこころよわらざらんために、おのれたいする惡人あくにんのさしもはなはだしかりし反抗はんかうしのたまひしもの回想くわいそうせよ。 4けだしなんぢつみむかひてたたかふに、いまながほど抵抗ていかうせしことなし。 5なんぢまたおけるがごとくにげらるるすすめわすれたり。いはく、「わがよ、しゆこらしめ疎畧おろそかにすることなく、これらされたてまつときことなかれ、 6しゆそのいつくしたまひとらし、すべとしてたまものむちうたまへばなり」と。 7なんぢこらしめしのべ、かみなんぢたいたまふは、あたか子等こどもおけるがごとし。たれちちらされざるあらん、 8なんぢもしすべてのひとくるこらしめほからば、これ私生兒しせいじにして正子せいしあらざるべし。 9かつわれ肉身にくしんちちらされて、なほこれ尊敬そんけいしつつありしものを、いわんれいちちには歸服きふくして生命せいめいべきにあらずや。 10肉身にくしんちちは、すくな日數ひかずあひだこころままわれらしたるに、れいちちらしたまふは、おの聖德せいとくかうむらしめてわれえきたまはんためなり。 11すべこらしめその當時たうじりては、よろこばしくえず、かなしきがごとくなれども、のちにはこれもつ鍛鍊たんれんせられたるひとに、平穩へいおんなるむすぶものなり。 12ればなんぢえたるよわりたるひざてよ、 13たれ足萎あしなえて踏外ふみはずことなく、むしろいやされんためおのれ足踏あしぶみなほくせよ。 14なんぢすべてのひと和合わがふし、聖德せいとく追求つゐきうせよ、これなくてはたれしゆたてまつことじ。 15なんぢ注意ちゆういして、一人ひとり恩寵おんちようより退しりぞことなく、如何いかなるにがにもあれ、生出はえいでてさまたげし、おほくのひとけがすことなからしめ、 16一人ひとりたりとも、食物しよくもつため長子ちやうしけんりしエザウのごとく、私通しつうしや不敬ふけいしやことなからしめよ。 17けだしかれが、のち祝福しゆくふくがんことのぞみしも退しりぞけられ、なみだもつ回復くわいふくもとめたれどその餘地よちざりしは、なんぢるべきところなり。 18なんぢちかづけるは、べきやまゆる黑雲くろくも暗黑くらやみ暴風はやて19溂叭らつぱおとまたことばこゑにはあらず。かのこゑきし人々ひとびとは、ことばおのれかたられざらんことねがへり。 20けだしけものすらも、やまれなばいしなげうたるべしとめいぜられたるをしのず、 21ゆるものはなはおそろしくして、モイゼも、われ恐怖おそれをののけり、とへり。 22しかるになんぢちかづきたるは、シヨンのやまと、たまへるかみみやこなるてんのエルザレムと、億萬おくまん天使てんしよろこばしき集會しゆうくわいと、 23てんそのしるされたる長子ちやうし敎會けうくわいと、萬民ばんみん審判しんぱんしやましまかみと、まつたうせられし義人ぎじんたちれいと、 24新約しんやく仲介ちゆうかいしやましますイエズスと、アベルのまさりてものいそそがるることこれなり。 25なんぢつつしみて、ものいたまふをいなむことなかれ。けだし彼等かれら地上ちじやうものいたまへるをいなみてのがれざりしなれば、ましてんよりものいたまふを退しりぞくるわれのがるべけんや。 26かのときそのこゑうごかしたりしに、いまやくしてのたまはく、「われただをのみならずてんをもなほ一度ひとたびうごかさん」と。 27かくごとく「なほ一度ひとたび」とのたまへるは、震動しんどうせざる事物じぶつ永存えいそんせんために、震動しんどうせし事物じぶつの、つくられたるものとしてすたるべきをしめたまふなり。 28れば震動しんどうせざるくにけたるがゆゑに、われ感謝かんしやたてまつりて、御意みこころかなやうおそかしこみてかみつかまつるべし。 29これわれかみ燒盡やきつくにてましませばなり。

第13章[編集]

1なんぢあひだ兄弟きやうだいてき相愛さうあいあるべし。 2また旅人りよじん接待せつたいすることわするるなかれ、ある人々ひとびとは、これによりてらずらず天使等てんしたち宿やどしたり。 3囚人しうじんおもひること、わがとも囚人しうじんたるがごとく、おのれ肉身にくしんにあるをおもひて苦勞くらうせるひとおもひるべし。 4婚姻こんいん萬事ばんじおいたふとかるべし、また寢床ねどこけがさるべからず、かみ私通しつうしやおよ姦淫かんいんしや審判しんぱんたまふべければなり。 5行狀ぎやうじようおいては、金錢きんせんむさぼらず、げんところもつ滿足まんぞくせよ。けだしかみおんみづかのたまはく、「われなんぢはなれず、またなんぢてじ」と。 6ればわれ信賴しんらいもつて、「しゆ補助ほじよしやにてまします、われおそれじ、ひとわれなにをかさん」、とふことをるなり。 7なんぢかみ御言おんことばかたりし敎導けうどうたち記憶きおくし、そのよはひをはりかんがみてその信仰しんかうならへ。 8イエズス、キリストは昨日きのふ今日けふどういつましまして、世々よよにもまたしかり。 9なんぢ種々さまざま樣々さまざまことなるをしへまよはさるることなかれ。恩寵おんちようもつこころかたむるは、これもつとことにして、よりすがれる人々ひとびと有益いうえきならざりし食物しょくもつもつてすべきにはあらず。 10われ祭壇さいだんあり、幕屋まくやつかふる人々ひとびとは、この祭壇さいだんよりしよくするけんいうせず、 11けだしけものつみために、大司祭だいしさいによりて聖所せいじようちたづさへらるれども、*むくろぢんそとかる。 12イエズスが、おのれもつたみせいとならしめんため門外もんぐわいくるしみたまひしもこのゆゑなり。 13ればわれぢんでて、イエズスの耻辱ちじよくになひ御許おんもといたたてまつるべし、 14けだしわれ此處ここにては、永存えいそんする都會とくわいいうせずして、未來みらいのものをもとむ。 15これもつわれは、かれによりて、えず贊美さんびまつりすなは御名みなとなふるくちびるかみささぐべし。 16慈善じぜんおよほどこしすをわするるなかれ、かかまつりもつてこそかみ御意みこころかなへばなり。 17なんぢおの敎導けうどうしたがひてこれ歸服きふくせよ、彼等かれらなんぢ靈魂れいこんきて、みづか報告ほうこくめあるものとして警戒けいかいすればなり。これかこちながらにずして、よろこびてことさせよ、かこちながらにすはなんぢえきあらざればなり。 18われためいのれ、われが、萬事ばんじきてよろしくおこなはんことほつして、良心りやうしんいうせるを確信かくしんすればなり。 19しかせんことを、なほせつこひねがふは、すみやかなんぢかへされんためなり。 20ねがはくは永遠えいゑんやく御血おんちよりて、ひつじだい牧者ぼくしやにてましま我主わがしゆイエズス、キリストを、より復活ふくくわつせしめたまひし平和へいわかみ21御旨みむねおこなはしめんために、なんぢすべての善事ぜんじ完全くわんぜんならしめ、御前みまへおい御意みこころかなところを、イエズス、キリストによりて、なんぢうちたまはんことを。光榮くわうえい世々よよこれす、アメン。 22兄弟等きやうだいたちよ、わがすすめことばれよ、けだしわれ簡單かんたん書贈かきおくれり。 23われ兄弟きやうだいチモテオは放免はうめんせられしとれ、かれもしすみやかきたらば、われかれともなんぢんとす。 24すべなんぢ敎導けうどう聖徒せいととによろしくつたへよ。イタリアの兄弟等きやうだいたちなんぢよろしくとへり。 25ねがはくは恩寵おんちようなんぢ一同いちどうともらんことを、アメン。