<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書
『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、
1910年発行
〔ローマ・カトリック訳〕
『ラゲ訳新約聖書』エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)
ヘブレオ書
1神は昔預言者等を以て、幾度にも幾樣にも先祖等に語り給ひしに、
2此末の日に至り、曾て萬物の世嗣に立て、又之によりて世を造り給ひたる御子を以て、我等に語り給へり。
3彼は神の光榮の輝、其本體の印章に在して、己が權能の言を以て、萬物を保ち、罪の潔を爲し給ひて、天に於て稜威の右に坐し給ふなり。
4彼が天使等に優る者と成り給へるは、猶其受け給ひし御名の彼等に優れるが如し。
5蓋神曾て天使等の敦れに斯は曰ひしぞ、[曰く]、「汝は我子なり、我今日汝を生めり」と、又「我彼に父たり彼我に子たらん」と。
6又冢子を更に世に入れ給ひし時に曰く、「神の天使皆之を禮拜すべし」、と。
7而して天使等に就きては、「彼風を其使者と爲し、焔を其の役者となし給ふ」と言へるに、
8御子に就きては、「神よ、汝の玉座は世々に在り、汝の王位の笏は義の笏なり、
9汝正義を愛し不義を憎めり、故に汝の神たる神は、喜の油を汝が同輩に優りて汝に注ぎ給へり、」と言ふ。
10又曰く、「主よ、汝初に地を据置き給へり、而して諸の天も御手の業なり、
11是等は亡びん、然れど汝は永存し給ひ、是等は皆衣服の如く古びん。
12汝之を上衣の如く疊み給はんに、是等は變るべしと雖も、汝は同じきものにして變る事なく、汝の齡終なかるべし」と。
13然るに曾て天使等の敦れに向ひてか、「我汝の敵を汝の足臺と成らしむるまで我右に坐せよ」、と曰ひし事ある、
14天使は悉く役者と成る靈にして、救靈の世嗣を受くべき人々の爲に役者として遣はさるるに非ずや。
1故に我等は漂流する事なき樣、承りし所を一層能く守らざるべからず。
2其は天使等を以て告げられし言すら固くせられ、犯罪と不從順とは悉く正しき報を受けたれば、
3若我等にして斯も大いなる救を等閑にせば、爭でか迯るることを得ん。此救は原主より示されて始りたるに、承りし人々より我等に言證められ、
4神も亦思召に從ひて、徵と奇蹟と、能力の樣々の業と、聖靈の賜の分配を以て、彼人々と共に之を保證し給ひしなり。
5蓋今言ふ所の將來の世界を天使等に從はせ給ひしには非ず、
6或人何處かに證して曰く、「人は誰なれば主之を記憶し給ひ、人の子は誰なれば之を訪問し給ふぞ、
7主之をして少しく天使等に劣らしめ、冠らしむるに光榮と名譽とを以てし、御手の業の上に之を立て、
8萬物を其足の下に服せしめ給ひしなり」と。然て萬物を之に服せしめ給ひし上は、服せざるものを殘し給はざりしならんに、我等は現に未だ萬物の之に服するを見ざるなり。
9然れど天使等に少しく劣らせられしもの、卽ちイエズスを見奉るに、神の恩寵により一切の人間の爲に死を嘗め給はんとて、死の苦の故に、冠らしむるに光榮と名譽とを以てせられ給ひしなり。
10蓋萬物は神の爲に、又神によりて造られたるものなれば、多くの子を光榮に導き給へるもの、卽ち彼等の救靈の原に在せるものをば、宜しく苦を以て全うし給ふべきは、神に於て適當なる事なりき。
11然て聖と成らしめ給ふものも、聖と爲らるる人々も、共に同一のものより出づ、故に彼、人々を兄弟と呼ぶを耻とせずして曰はく、
12「我御名を我兄弟等に告げん、集會の中に汝を贊美し奉らん」と。
13又「我彼に信賴せん」と、又「我と神の我に賜ひし子等とを見よ」と。
14抑子等は血肉を有する者なれば、彼も亦之を有し給へり。是死を司れるもの、卽ち惡魔を亡ぼすに死を以てし、
15且死を懼るるが爲に生涯奴隷に屬せる人々を救ひ給はん爲なり。
16蓋曾て天使等を救ひ給はずして、アブラハムの裔を救ひ給ひしかば、
17萬事兄弟等に似るべき筈なりき、是神の御前に慈悲にして忠信なる大司祭と成り、民の罪を贖ひ給はん爲なりき。
18蓋御自ら苦みて試みられ給ひたれば、試みらるる人々をも助くるを得給ふなり。
1然れば聖なる兄弟等よ、汝等は天よりの召に與りたる者なれば、我等が宣言[する信仰]の使徒に在し大司祭に在すイエズスの、
2恰もモイゼが神の全家に忠義なりし如く、己を立て給ひし者に忠義に在す事を鑑みよ。
3蓋イエズスがモイゼに優りて大いなる光榮を受くべき者とせられ給ひしは、家を造りたる者の其家に優りて尊ばるが如し。
4家は總て人に造らるれども、萬物を無より造り給ひしは神にて在す。
5而してモイゼが神の全家に忠義なりしは、僕として、後に告げらるべき事を證せん爲なるに、
6キリストは子として、神の家に忠義に在せり。若希望による信賴と誇とを終まで堅く保たば、我等ぞ卽ち其家なる。
7此故に聖靈の曰へる如く、「今日汝等其聲を聞かば、
8曾て荒野に於て怒の時神を試みし日に在りし如く、心を頑固にすること勿れ、
9彼處にては、汝等の先祖試みて我を驗し、四十年の間我業を見たり、
10故に我其時代の人に怒りて謂へらく、彼等は何時も心にて彷徨ひ、我道を知らざりき、
11然れば我怒りて、彼等は我安息に入らじと誓へり」、と。
12兄弟等よ、汝等の中に、或は不信仰の惡心ありて、活き給へる神に遠ざからんとする事の誰にも之なからん樣注意せよ。
13寧今日と稱ふる間に、日々相勸めて、汝等の中に罪の欺によりて頑固になる者なからしめよ。
14我等若始の信賴を終まで堅固に保たば、キリストに與る者と爲られたるなり。
15卽ち「今日汝等其聲を聞かば、彼怒の時の如く心を頑固にすること勿れ」と謂はるればなり。
16聞きて怒らせし人々は誰なるぞ、是モイゼと共にエジプトより出でし凡ての人ならずや。
17又四十年の間、神は誰に對ひて怒り給ひしぞ、罪を犯して屍を荒野に橫たへられし人々に對してに非ずや。
18又我安息に入らじと誓い給ひしは、誰に對ひてなるぞ、不順なりし人々に對してに非ずや。
19我等の見る所によれば、彼等は實に不順の爲に入る事を得ざりしなり。
1然れば我等の懼るべきは、或は其安息に入の御約束を措きて、汝等の中に之に達せざる者ありとせらるる事是なり。
2其は我等が福の音を得たること彼等と等しけれども、彼等が聞きし話の其身に益せざりしは、聞ける人々に於て信仰に合せざりし故なり。
3蓋信じたる我等は安息に入るべき者なり、曾て、「我怒りて彼等は我安息に入らじと誓えり」、と曰ひしが如し。抑其安息は、開闢の事業の成就せし時より成れり。
4蓋或篇に七日目に就きて曰く、「神七日目に其凡ての事業を息み給へり」と、
5又此篇に曰はく、「彼等は我安息に入らじ」と。
6然れば彼安息に入るべき人々尙在りて、前に福の音を得し人々、不信仰によりて之等に入らざりしが故に、
7神は斯の如く久しきを經て、ダヴィドを以て更に「今日」と云ふ日を定め給ひしなり。卽ち「汝等今日其聲を聞かば、心を頑固にすること勿れ」、と既に謂はれしが如し。
8蓋若ヨズエにして彼等に安息を得しめしならば、神は尙其後他の日を指して曰ふ事なかりしならん。
9然れば神の民に殘れる安息あり、
10其は神の安息に入りたる人も、恰も神の己が事業を息み給ひしが如く、自ら事業を息みたればなり。
11是故に彼不信仰の例に倣ひて墮落する者なからん爲に、我等は急ぎて此安息に入る事を努むべきなり。
12蓋神の御言は活きて效能あり、所有兩刃の剣よりも鋭くして、靈魂と精神と、又關節と骨髓との境に達し、心の思と志とを分つ。
13又凡て被造物として神の御前に見えざるはなく、其御目前には萬物赤裸にして露なり、我等は必ず其審判を受くべし。
14然れば我等は、天に入り給ひたる偉いなる大司祭、卽ち神の御子イエズスを有するが故に、堅く[信仰の]宣言を保つべきなり。
15其は我等が有せる大司祭は、我等の弱點を勞り得給はざる者に非ずして、罪を除くの外、萬事に於て、我等と同じく試みられ給へる者なればなり。
16故に我等は慈悲を蒙らん爲、又適切なる助となるべき恩寵を見出さん爲に、憚りなく恩寵の玉座に至り奉るべし。
1蓋總て大司祭は人の中より選まれ、神に關する事に就きて人々の爲に供物と贖罪の犧牲とを獻ぐるの任を受け、
2自らも弱點に圍まれたる者なれば、知らざる人、迷へる人を思遣る事を得ざるべからず。
3是に由りて、民の爲に爲すが如く、己が爲にも亦贖罪の獻物を爲すべきなり。
4又神に召されたる事アアロンの如くならずしては、何人も此尊き位を自ら取る者なし、
5斯の如く、キリストも大司祭たらんとして自ら進み給ひしには非ず、之に對ひて、「汝は我子なり、我今日汝を生めり」と曰ひしもの、之を立て給ひしなり。
6他の篇に又、「汝は限なくメルキセデクの如き司祭なり」、と曰ひしが如し。
7卽ちキリストは肉身に在しし時、己を死より救ひ給ふべきものに對ひて、祈祷と懇願とを獻ぐるに、大いなる叫と淚とを以てし給ひしかば、其恭しさによりて聽容れられ給へり。
8且(神の)御子に在しながら、受け給ひし苦によりて從順を學び給ひ、
9然て全うせられ給ひて、從ひ奉る凡ての人に永遠の救靈の原と成り、
10神よりメルキセデクの如き大司祭と稱せられ給ひしなり。
11我等はこれに就きて語るべき事多けれども、汝等聞くに鈍く成りたれば、明に言ひ難し。
12蓋汝等時の久しきよりすれば、敎師とも成るべきを、更に神の御言の初步を敎へらるるを要し、固き食物ならで、乳を要する者と成れり。
13抑乳を要する者は嬰兒なれば、義の敎へに達する事を得ず、
14固き食物は大人のもの、卽ち慣習によりて善惡を弁別するに熟達せる人々のものなり。
1然れば我等は、キリストに關する敎の初步を措きて、死せる業よりの改心、神に於る信仰、
2及び諸洗禮、按手禮、死者の復活、永遠の審判等に關する敎の基礎を再び築く事を爲ずして、尙完全なる事に進まん、
3神許し給はば我等は之を爲すべし。
4蓋一度照らされて、天の賜を味ひ、聖靈の分配にも與り、
5且神の善き御言と來世の勢力とを味ひながら、
6墮落したる人々は、己が罪として神の御子を再び十字架に釘け、之を辱め奉る者なれば、更に改心する樣一新せらるる事を得ず。
7卽ち土屡其上に降來る雨を吸入れて、耕す人を益すべき草を生ずれば、神より祝福を受くと雖も、
8荊棘と薊とを生ずれば、棄てられて詛はるるに近く、其終は燒かるべきのみ。
9至愛なる者よ、我等は斯く言ふと雖も、汝等に就きては尙善くして救靈に近からん事を希望す。
10蓋神は、汝等が曾て聖徒等に供給し、今も尙供給しつつあるに、汝等の業と汝等が御名に對して顯はしし愛とを忘れ給ふ如き、不義なる者には在さず。
11我等の望む所は、汝等が各希望を全うするまで、始終同樣の勵を顯し、
12怠慢に流れずして、信仰と忍耐とを以、約束の世嗣と成るべき人々に倣う者と成らん事是なり。
13蓋神アブラハムに約し給ひし時、己より大いにして指して以て誓ふべきものなきが故に、御自らを指して、誓ひて、
14曰く、「我祝して汝を祝せん、殖して汝を殖さん」と。
15斯てアブラハム忍耐を以て待御約束の事を得たり。
16卽ち人々は最も大いなるものを指して誓ひ、又保證と成る誓は其一切の論を決す。
17斯の如く、神は約束の世嗣たる人々に對て、其規定の變ぜざる事を尙十分に示さんとて、誓を加へ給ひしなり。
18是備へられたる希望を捉へんとして倚縋り奉りたる我等に、神の僞り給ふ能はざる二の動かざる事を以て、最も强き慰を得させ給はん爲なり。
19此希望は、安全にして堅固なる魂の碇として我等之を保ち、
20更にイエズスが限なくメルキセデクの如き大司祭と爲られて、我等の爲に先驅として入り給ひし幕屋の中までも、[此希望は]入るものなり。
1蓋此メルキセデクはサレムの王、最上の神の司祭にして、アブラハムが王等に打勝ちて歸れるを迎へ、之に祝福せしかば、
2アブラハム彼に分捕物の十分の一を分與へたり。メルキセデクの名を釋けば、先義の王にして、次にサレムの王、卽ち平和の王なり。
3彼は父なく母なく系圖なく、其日の始もなく齡の終もなく、神の御子に肖かりて永久の司祭として存す。
4汝等斯く祖先アブラハムが、主なる分捕物の十分の一をも與へし人の、如何に大いなるかを鑑みよ。
5抑レヴィの子孫の中、司祭職を受くる人々は、民より、卽ち同じくアブラハムの腰より出でたる者なるも、己が兄弟等より十分の一を取る事を、律法によりて命ぜられたるなり。
6然るに彼司祭等の血脉に非ざる者は、アブラハムより十分の一を取りて、約束を蒙りし其人を祝福せり。
7然て劣れる者の優れる者に祝福せらるるは勿論なり、
8今十分の一を受くる人々は、死する者なれど、彼時に受けしは、活ける者として證せられし者なり。
9斯て十分の一を受くる所のレヴィも、アブラハムに於て十分の一を納めたりと謂はるべきなり、
10其はメルキセデク之に會ひし時、レヴィ尙其父の腰に在りたればなり。
11民はレヴィ族の司祭職の下に在りて律法を受けたれば、若人を完全ならしむる事レヴィの司祭職によりしならば、アアロンの如きと謂はれずして、他にメルキセデクの如き司祭の起る必要は何處にか在りし。
12卽ち司祭職移りたらんには、律法も亦當に移るべきなり。
13是等の事を言はれたる人は、曾て祭壇に事へし者なき他の族に出でたり。
14蓋我等の主がユダ族より出で給ひし事は明にして、モイゼは此族に就きて、一も司祭に關する事を言はざりき。
15斯てメルキセデクに似たる他の司祭、
16卽ち肉的なる掟の律法によらず、不朽なる生命の能力によりて立てられたる司祭の起る事あらば、律法の移轉は尙更明なり。
17其は、「汝は限なくメルキセデクの如き司祭なり」と稱せられたればなり。
18抑前の掟の廢せらるるは、其弱くして益なきによりてなり。
19蓋律法は何事をも完全に至らしめず、唯我等が以て神に近づき奉るべき、尙善き希望に入らしめしのみ。
20而も是誓なくして爲られしに非ず、卽ち他の司祭は誓なくして立てられたれど、
21イエズスは誓を以て、卽ち、「主誓ひ給へり、取返し給ふ事なかるべし、汝は限なく司祭なり」と曰ひし者によりて立てられ給ひしなり。
22是によりてイエズスは、優れる契約の保證者と爲られ給へり。
23又他の司祭は死を以て妨げられて、絕えず司祭たる能はざるが故に、立てられし者の數多し、
24然れどイエズスは限なく存し給ふによりて、不朽の司祭職を有し給ふ。
25故に人の爲に執成を爲さんとて常に活き給ひ、己によりて神に近づき奉る人々を全く救ふことを得給ふ。
26蓋我等が斯る大司祭を有する事は至當なりき、卽ち聖にして、罪なく、穢れなく、罪人に遠ざかりて、天よりも高くせられ、
27他の大司祭の如く、日々先己が罪の爲、次に民の罪の爲に犧牲を獻ぐるを要せざる者たるべし。蓋己を獻げて之を爲し給ひし事一度のみ、
28其は律法の立てし司祭は弱點或人々なるに、律法の後なる誓の言の立てしは、限なく完全に在す御子なればなり。
1今言ふ所の要點は是なり、卽ち我等の有する大司祭は天に於て至大[なる稜威]の玉座の右に坐し給ひ、
2聖所の役者にして、人の立てしにはあらで主の立て給ひし、眞の幕屋の役者にて在す。
3夫總て大司祭の立てらるるは、供物と犧牲とを獻げん爲なれば、彼も亦必ず獻ぐべき何者かを有し給はざるべからず。
4若地上に居給はば司祭と成り給はざるべし、其は律法に從ひて供物を獻ぐる人々既にあればなり。
5此人々は、在天の事物の模、及び影に奉事するのみ、恰もモイゼが幕屋を造らんとせし時に告げられしが如し、曰く、「看よ、何事も山に於て汝に示されし模型に從ひて之を爲せ」と。
6然れど我等の大司祭が現に尙善き聖役を得給ひしは、尙善き約束を以て保證せられたる、尙善き契約の仲介者たるに應じてなり。
7蓋彼第一の契約に缺點なかりせば、第二のものを立つる餘地なかるべしと雖も、
8[神]人々を咎めて曰ひけるは、「主曰く、看よ、日來らんとす、而して我イスラエルの家の上、又ユダの家の上に新約を全うすべし、
9是我が彼等の先祖をエジプトの地より救出さんとて其手を取りし時、之に爲しし約の如きものに非ず、蓋彼等は我約に止らざりしかば、我も亦彼等を顧みざりき、と主曰へり。
10卽ち主曰はく、彼日の後、イスラエルの家に我が立てんとする約は斯なり、我律法を其精神に置き、之を其心に書記さん、而して我は彼等に神と成り、彼等は我に民と成るべし。
11又各其近き者、其兄弟に敎へて、主を知れと言ふ事あらじ、其は小き者より大いなる者に至るまで悉く我を知るべければなり。
12蓋我彼等の不義を憫み、曾て其罪を記憶せざるべし」と。
13然て新と曰へば、前のものを舊とし給ひしなり、舊にして老衰せるものは亡に近し。
1抑前の約には拜禮の規定あり、世に屬する聖所ありき。
2卽ち第一の幕屋を造り、是に燈臺と机と供の麪と在りて、之を聖所と云ふ。
3又第二の幕の後に至聖所と云ふ幕屋ありて、
4其内に、金の香臺と全面金を着せたる契約の櫃と在り、其櫃の内には、マンナを入れたる金の壷と、芽ざしたりしアアロンの杖と、契約の二の石標と在り、
5尙其櫃の上に、贖罪所を覆る光榮の[二]ケルビム有しが、是等に就きては今逐一言ふに及ばず。
6然て是等の物の備はる事斯の如くにして、第一の幕屋には禮拜を行ふ司祭等常に入れども、
7第二の幕屋には一年に一度大司祭のみ入り、而も己が爲、又民の不知罪の爲に獻ぐる血を持たざる事なかりき。
8是聖靈が、第一の幕屋の存する間は、聖所に入る道の未開けざるを示し給ふ所以にして、
9現時の爲の前表なり。卽ち供物と犧牲とは獻げらると雖も、是等の物は禮拜者をして其良心をも完全ならしむる能はず、
10唯改正の時まで設けられたる飲食物、種々の洗潔、肉身上の掟に止れり。
11然るにキリストは、將來の惠の大司祭として來り給ひ、更に廣く、更に完全にして、人の手に成らざる、卽ち此造物ならざる幕屋を經て、
12牡山羊、犢の血を用ひず、己が血を以て一度聖所に入り、不朽の贖を得させ給ひしなり。
13蓋牡山羊、牡牛の血、及び若き牝牛の燒灰を注ぐ事は、穢れたる人々を、肉身上に於て潔めて聖とするものなれば、
14况や聖靈を以て、己が穢なき身を神に献げ給ひしキリストの御血は、活き給へる神に事へ奉らしめん爲に、死せる業より我等の良心を潔むべきをや。
15故にキリストは新約の仲介者に在して、死を凌ぎて前の約の下に犯されたる過を贖ひ、召されたる人々に永遠の世嗣の約束を得させ給ふなり。
16遺言書ある時は遺言者の死を要す、
17其は遺言書は人死して後に效力あり、遺言せる人の存命せる間は、未だ其效あらざればなり。
18然れば第一の約も、血なくして立てられしには非ず、
19蓋モイゼ、律法によれる掟を悉く民一同に讀聞かせし後、緋色の毛、ヒソッポと共に犢の血と牡山羊の血と水とを取り、律法の卷物と一般の民とに沃ぎて、
20言ひけるは、是ぞ神の汝等に命じ給へる約の血なる、と、
21又幕屋と凡ての祭器とにも同じく血を沃ぎたり。
22斯て律法に從ひては、殆ど一切のもの血を以て潔められ、血を流す事なくしては赦さるる事なし。
23然れば在天の事物に象りたるものすら、血によりて潔まれば、在天の事物其物は、是等に優る犧牲によりて潔められざるべからず。
24蓋イエズスの入り給ひしは、眞實のものの象に過ぎざる、手にて造られし聖所には非ず、天其物に入り給ひて、今は我等の爲に、神の御目前に謁給ふなり。
25又大司祭が他のものの血を持ちて年々至聖所に入るが如く、屡己を獻げ給はんとに非ず、
26然らずんば、開闢以來屡苦しみ給ふべかりしなり。然れど今世の末に當りて、己を犧牲として罪を亡ぼさん爲に、一度現れ給ひしなり。
27斯て人一度死して然る後に審判ある事の定まれるが如く、
28キリストも多くの人の罪を贖はんとて一度身を獻げ給ひ、然て之を待ち奉る人々を救はん爲に、再び罪を負はずして現れ給ふべし。
1抑律法は、將來の惠の影のみを有して、事物の眞の像を有せざるが故に、每年絕えず同じ犧牲を獻げて、祭壇に近づく人々を完全ならしむる事は、決して能はざるなり。
2然らずんば、祭る人々一旦潔められては、復罪の意識なかるべければ、祭を獻ぐる事止むべかりしなり。
3然れど彼祭に於て年々罪を紀念するは、
4牡牛と牡山羊との血を以てしては罪を除く事能はざるが故なり。
5然ればキリスト世に入り給ひし時曰ひけるは、「主よ、犧牲と獻物とを否みて肉體を我に備へ給へり、
6燔祭と罪祭とは御心に適はざりしを以て、
7我言へらく、看給へ、卷物の初に我に就きて錄したれば、神よ、我は御旨を行はん爲に來れり」、と。
8然て初には、「主よ、犧牲と獻物と燔祭と罪祭とを否み給ひて、律法に從ひて獻げらるるものは御意に適はざりき」、と曰ひて、
9後には「神よ、看給へ、我は御旨を行はん爲に來れり」、と曰へば、是初の事を廢して其次の事を立て給ふなり、
10此御旨の故にこそ、イエズス、キリストの御體が一度獻げられしに由りて、我等は聖と爲られしなれ。
11然て司祭は、總て日々に立ちて聖役を行ひ、何時も罪を除く能はざる同じ犧牲を獻ぐれども、
12此大司祭は罪の爲に一の犧牲を獻げ給て、限なく神の御右に坐し、
13斯て敵の己が足臺と爲られん事を待ち給ふなり。
14其は聖と爲られたる人々を、一の獻物を以て限なく全うし給ひたればなり、
15聖靈も亦之を我等に證し給ふ。蓋前には、
16「主曰はく、彼日の後我が立てんとする約は斯なり、我律法を彼等の心に與へ、之を其精神に錄さん」、と曰ひて後、
17「我最早彼等の罪と不義とを記憶せざるべし」、と曰ひしなり。
18是等の赦ありたる上は、罪の爲の獻物は絕えて之ある事なし。
19然れば兄弟等よ、我等はイエズスの御血により、
20イエズスの己が肉なる幔を經て我等に開き給ひし、新にして活ける道より聖所に入るべき事を確信し、
21且神の家を司る大司祭を有する者なれば、
22心を惡き料簡より濯がれ、身を清き水に洗はれて、眞心と完全なる信仰とを以て之に近づき奉り、
23確乎として我等が希望の宣言を保つべし、約し給ひし者は眞實にて在せばなり。
24又互に顧みて親愛と善業とを相勵まし、
25或人々の爲馴れたるが如くに集を缺く事なく、寧相勸めて、日の近づくを見るに隨ひて愈勵むべきなり。
26蓋我等既に眞理の知識を受けたる後、故に罪を犯さば、殘る所は最早罪を贖ふ犧牲に非ずして、
27唯懼る懼る審判を待つ事と、敵對する者を燒盡すべき火の烈しさとのみ。
28モイゼの律法を破りたる人すら、二三人の證言によりて容赦なく死するなれば、
29况て神の御子を蹂躪け、己が由りて以て聖と爲られし約の血を蔑視し、恩寵を賜ふ聖靈に侮辱を加へたる人の受くべき刑罰の嚴しさの、如何許なるかを思へ。
30「復讐は我事なり、我報ゆべし」と曰ひ、又「主は其民を審判すべし」と曰ひし者の誰なるかは我等の知れる所なり。
31恐るべき哉、活き給へる神の御手に罹る事。
32汝等曩に照らされつつ、苦の大いなる戰を忍びたりし日を追想せよ。
33卽ち或は侮辱と患難とを以て人の觀物と爲られ、或は斯る事に遇へる人々の侶と成りたりき。
34蓋囚人の上をも思遣り、又己が立勝りたる永存の寳を有せるを知りて、我財産を奪はるるをも喜びて忍びたるなり。
35然れば大いなる報を得べき汝等の希望を失ふ勿れ。
36卽ち神の御旨を行ひて約束のものを得ん爲に、汝等に必要なるは忍耐なり。
37蓋來らんとする者は軈て來り給ふべく、延引し給ふ事あらじ。
38我義人は信仰によりて活く、若自ら退かば我心に適はざるべし。
39我等は亡に至らんとして退く者に非ず、魂を得んとして信仰する者なり。
1抑信仰は希望すべき事物の保證、見えざる事物の證據なり、
2蓋故人之を以て好評を得たり。
3信仰に由りて我等は、世界が神の一言にて組立てられ、現に見ゆるものが見ゆるものより成出でざりしことを曉る。
4信仰に由りてアベルは、カインの其に優れる犧牲を神に獻げ、信仰に由りて義人たる保證を受け、神其獻物を保證し給ひ、彼は信仰に由りて死しても猶言ふなり。
5信仰に由りてヘノクは、死を見ざらん爲に移され、神之を移し給ひしに由りて見出されざりき、其は移轉の前に神の御意に適へる事を證せられたればなり。
6信仰なくしては神の御意に適ふこと能はず、蓋神に近づき奉る人は、必ずや神の存在して之を求め奉る人々に報い給ふ者なる事を信ぜざるべからず。
7信仰によりてノエは、未だ見えざる事柄に就きて默示を蒙り、畏みて家族を救はん爲に方舟を造り、之を以て世の人を罪し、其身は信仰に由れる義の世嗣と爲られたり。
8信仰に由りてアブラハムは、承繼ぐべき地に出づべしとの召に從ひ、何處に行くべきかを知らずして立出でたり。
9彼は約束の地に於て他國にあるが如く、同じ約束を相繼ぐべきイザアク、ヤコブと共に幕屋に住めり、
10其は神を其設立者、建築者に戴ける、基礎ある都會を待てばなり。
11信仰に由りてサラも、石女にして齡過ぎたるに孕を胎す力を得たり、是約し給へる者の忠實に在す事を信じたるが故なり、
12斯て一人より、而も既に死せるに齊しき者より出でし人、空の星の如く夥しく、海邊の眞砂の如く數へ難し。
13彼等は皆信仰に從ひ、約束のものを受けずして死したれども、遥に望みて之を祝し、地上に於て己は旅人たり寄留人たる事を宣言せり。
14斯く語る人々は、是本國を求むる事を示す者なり。
15若其懷へる所曾て出でたる本國ならば、復還る時もありしならん、
16然れど彼等は、今一層善きもの、卽ち天の[本國]を慕ひしなり、故に神は彼等の神と呼ばるるを耻とし給はず、其は彼等の爲に都會を備へ給ひたればなり。
17信仰に由りてアブラハムは、試みられし時イザアクを獻げたり、其獻げたりしは、約束を蒙りたりし獨子にして、
18曾て「汝の子孫と稱へらるるはイザアクによるべし」と謂はれし其者なりき。
19卽ち彼謂へらく、神は死したる人々をも復活せしむるを得給ふなりと、而して前表として其子を還與へられたり。
20信仰に由りてイザアクは、將來の事に就きてヤコブとエザウとを祝福せり。
21信仰に由りてヤコブは、死に臨みてヨゼフの子等を各祝福し、杖の首に倚りて禮拜せり。
22信仰に由りてヨゼフは、死に臨みてイスラエルの子等の出立を思はしめ、己が骸骨に就きて命を下せり。
23信仰に由りてモイゼは、生れて三月の間兩親によりて匿されたり、是其子の美しきを見たるが故にして、彼等は國王の命令を懼れざりき。
24信仰に由りてモイゼは、成長してファラオンの女の子たる事を否めり、
25卽ち罪によれる暫時の快樂よりも、寧神の民と共に惱むことを擇み、
26キリストの耻辱を以てエジプトの寳に優れる富とせり、其は報酬を眺め居たればなり。
27信仰に由りて彼は、國王の怒を怖れずしてエジプトを去れり、卽ち見えざる所を見るが如くにして忍耐せしなり。
28信仰に由りて彼は過越を祝ひ、又長子を亡ぼせる者の彼等に觸れざらん爲、[羔の]血を沃ぐ禮を行へり。
29信仰に由りて彼等は、紅海を陸の如くにして渡れり、エジプト人は之を試みて溺れたりき。
30信仰に由りてエリコの城壁は、七日の間廻られて崩れたり。
31信仰に由りて娼婦ラハブは、探偵者を懇切に接待せしかば、不信者と共には亡びざりき。
32此外に我何をか言はん、ゲデオン、バラク、サムソン、イエフテ、ダヴィド、サムエル及び預言者等の事を述べんには時足らざるべし。
33信仰に由りて彼等は、國々に打ち勝ち、義を行ひ、約束を蒙り、獅子の口を塞ぎ、
34火の勢を消し、剣の刃を迯れ、弱きを强うせられ、軍に勇ましき者と成りて異邦人の陣を破り、
35婦人等は其死したりし者を復活を以て還與へられ、或人々は引裂かれて、勝れたる復活を得ん爲に迯るる事を肯ぜず、
36或人々は侮辱打擲の上に捕縛入獄に遇ひ、
37石を擲たれ、鋸にて挽かれ、試され、剣にて殺され、羊山羊の毛皮を纏ひて萬事に缺乏し、責められ惱まされて流浪せり。
38世は此人々を置くに堪へざりしに、彼等は荒地に山に、地の洞及び穴の内に彷徨ひしなり。
39彼等も皆信仰の稱揚を得たれども、約束のものをば得ざりき。
40是神が我等の爲に更に宜しき事を圖り給ひて、我等と共にならでは彼等の全うせられざらん爲なり。
1然れば我等も、斯く夥しき證人の雲に圍まれたれば、一切の荷と纏へる罪とを卸して、
2我等の信仰の指導者に在し完成者に在すイエズスに鑑みつつ、忍耐を以て我等に備はれる勝負に走るべし。卽ちイエズスは曾て、己に備はれる喜に代へて、辱を厭はず、十字架を忍び給ひ、而して神の玉座の右に坐し給ふ。
3汝等倦みて己が心の弱らざらん爲に、己に對する惡人のさしも甚しかりし反抗を忍び給ひし者を回想せよ。
4蓋汝等の罪に對ひて戰ふに、未だ血を流す程に抵抗せし事なし。
5汝等は又、子に於るが如くに告げらるる勸を忘れたり。曰く、「我子よ、主の懲を疎畧にすることなく、之に懲らされ奉る時倦む事勿れ、
6主は其寵み給ふ人を懲らし、總て子として受け給ふ者を鞭ち給へばなり」と。
7汝等懲を忍べ、神の汝等に對し給ふは、恰も子等に於るが如し。誰か父に懲らされざる子あらん、
8汝等若凡ての人の受くる懲の外に在らば、是私生兒にして正子に非ざるべし。
9且我等は肉身の父に懲らされて、尙之を尊敬しつつありしものを、况や靈の父には歸服して生命を得べきに非ずや。
10肉身の父等は、少き日數の間に心の儘に我等を懲らしたるに、靈の父の懲らし給ふは、己が聖德を蒙らしめて我等を益し給はん爲なり。
11總て懲は其當時に在りては、喜ばしく見えず、悲しきが如くなれども、後には之を以て鍛鍊せられたる人に、義の平穩なる果を結ぶものなり。
12然れば汝等、萎えたる手、弱りたる膝を立てよ、
13誰も足萎えて踏外す事なく、寧醫されん爲に己の足踏を直くせよ。
14汝等凡ての人と和合し、聖德を追求せよ、之なくては誰も主を見奉る事を得じ。
15汝等注意して、一人も恩寵より退く事なく、如何なる苦き根にもあれ、生出でて妨を爲し、多くの人を汚すことなからしめ、
16一人たりとも、食物の爲に長子權を賣りしエザウの如く、私通者不敬者と成る事なからしめよ。
17蓋彼が、後に祝福を繼がん事を望みしも退けられ、淚を以て回復を求めたれど其餘地を得ざりしは、汝等の知るべき所なり。
18汝等の近づけるは、觸れ得べき山、燃ゆる火、黑雲、暗黑、暴風、
19溂叭の音、又言の聲には非ず。彼聲を聞きし人々は、言の己に語られざらん事を願へり。
20蓋獸すらも、山に觸れなば石を擲たるべしと命ぜられたるを忍び得ず、
21見ゆる物甚だ恐ろしくして、モイゼも、我恐怖慄けり、と言へり。
22然るに汝等の近づきたるは、シヨンの山と、活き給へる神の都なる天のエルザレムと、億萬の天使の喜ばしき集會と、
23天に其名を記されたる長子等の敎會と、萬民の審判者に在す神と、全うせられし義人等の靈と、
24新約の仲介者に在すイエズスと、アベルの血に優りて能く言ふ血の沃がるる事と是なり。
25汝等愼みて、言ひ給ふを否むこと勿れ。蓋彼等は地上に言ひ給へるを否みて迯れざりしなれば、况て天より言ひ給ふを退くる我等の迯るべけんや。
26彼時は其聲地を動かしたりしに、今は約して曰はく、「我唯に地をのみならず天をも尙一度動かさん」と。
27斯の如く「尙一度」と曰へるは、震動せざる事物の永存せん爲に、震動せし事物の、造られたるものとして廢るべきを示し給ふなり。
28然れば震動せざる國を受けたるが故に、我等は感謝し奉りて、御意に適ふ樣、恐れ畏みて神に事へ奉るべし。
29是我等の神は燒盡す火にて在せばなり。
1汝等の間に兄弟的相愛あるべし。
2又旅人を接待する事を忘るる勿れ、或人々は、是によりて知らず識らず天使等を宿したり。
3囚人を思遣ること、我身も共に囚人たるが如く、己も肉身にあるを思ひて苦勞せる人を思遣るべし。
4婚姻は萬事に於て尊かるべし、又寢床は汚さるべからず、神は私通者及び姦淫者を審判し給ふべければなり。
5行狀に於ては、金錢を貪らず、現に在る所を以て滿足せよ。蓋神御自ら曰く、「我は汝を離れず、又汝を捨てじ」と。
6然れば我等は信賴を以て、「主は我が補助者にて在す、我は懼れじ、人我に何をか爲さん」、と言ふことを得るなり。
7汝等に神の御言を語りし敎導師等を記憶し、其齡の終を鑑みて其信仰に倣へ。
8イエズス、キリストは昨日も今日も同一に在して、世々にも亦然り。
9汝等種々樣々の異なる敎に迷はさるること勿れ。恩寵を以て心を固むるは、是最も善き事にして、倚縋れる人々に有益ならざりし食物を以てすべきには非ず。
10我等に祭壇あり、幕屋に事ふる人々は、この祭壇より食する權を有せず、
11蓋獸の血は罪の爲に、大司祭によりて聖所の内に携へらるれども、*は陣の外に燒かる。
12イエズスが、己の血を以て民を聖とならしめん爲に門外に苦を受け給ひしも此故なり。
13然れば我等は陣を出でて、イエズスの耻辱を擔つ御許に至り奉るべし、
14蓋我等は此處にては、永存する都會を有せずして、未來のものを求む。
15是を以て我等は、彼によりて、絕えず贊美の祭、卽ち御名を稱ふる唇の果を神に獻ぐべし。
16慈善及び施を爲すを忘るる勿れ、其は斯る祭を以てこそ神の御意に適へばなり。
17汝等己が敎導師に從ひて之に歸服せよ、彼等は汝等の靈魂に就きて、自ら報告の責めあるものとして警戒すればなり。之を喞ちながらに爲ずして、喜びて爲す事を得させよ、喞ちながらに爲すは汝等に益あらざればなり。
18請ふ我等の爲に祈れ、其は我等が、萬事に就きて宜しく行はん事を欲して、善き良心を有せるを確信すればなり。
19然せん事を、我が尙切に冀ふは、我が速に汝等に返されん爲なり。
20願はくは永遠の約の御血に由て、羊の大牧者にて在す我主イエズス、キリストを、死より復活せしめ給ひし平和の神、
21御旨を行はしめん爲に、汝等を凡ての善事に完全ならしめ、御前に於て御意に適ふ所を、イエズス、キリストによりて、汝等の中に爲し給はん事を。光榮世々之に歸す、アメン。
22兄弟等よ、請ふ我勸の言を容れよ、蓋我は簡單に書贈れり。
23我等の兄弟チモテオは放免せられしと知れ、彼若速に來らば、我彼と共に汝等を見んとす。
24總て汝等の敎導師と聖徒とに宜しく傳へよ。イタリアの兄弟等、汝等に宜しくと言へり。
25願はくは恩寵汝等一同と共に在らん事を、アメン。