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プロジェクト・マネジャーが知るべき97のこと/自分に対する約束をどう守るか

提供:Wikisource

 少人数で行う小さなプロジェクトから、社会を変革する大きなプログラムに至るまで、すべての成功の源には、個人が行うプロジェクトがあります。メンバー各人がチームへの約束や期限を守ることで、プロジェクト全体が成り立っています。個々人はそれ以外にもやるべきことをたくさん持っているのが普通です。多くの社会人に質問してきた限りでは、約束を守るために To-Do リストに書き出す習慣をもつ人は、半数以上います。

 ほとんどの人は他人への約束期限をなんとかして守るように努力します。プロジェクトマネジメントのプロフェッショナルなら、なおさら期限を大事に考えるでしょう。また、メンバーを成長させたいという強い動機を持ちます。しかし自分自身のためにやる仕事の期限についてはどうでしょう。無意識のうちに優先度が低くなり、ずるずると遅らせるようなことがありませんか? その理由の 1 つは、お客様あるいは他人のためにがんばることが、プロフェッショナルの仕事の強い動機付けだからということでしょう。相手の喜ぶ顔を具体的に思い浮かべれば、自然にやる気が湧くものです。それに対し、自分に対する約束はどうすれば守れるのでしょうか。

 ビジョンやゴール、大きな目的を実現するには、小さなマイルストーンを設定しながら、少しずつ達成していく方策がよく知られた PM の定石です。そうすることで大きなゴールに至るやり方は、1960 年代に月ロケットを成功させたアポロ計画でも、個人が成し遂げた偉業でも共通です。プログラムマネジメントの途中に設定したマイルストーンの期限が守れず、だらだらしてしまえばゴールへの確実な達成からは遠ざかっていくでしょう。

 さて、個人が行うプロジェクトやプログラムでも、PM 特有のノウハウは組織のプロジェクトとほぼ同じです。しかし、メンバー間のコミュニケーションやメンバーの動機付けなどについては、個人の場合はあまり関係がありません。実はこういう領域は組織を扱う「マネジメント」一般のノウハウと共通であって PM 特有というわけでもありません。しかし、時間、リスク、コスト(個人ならそのほとんどは時間)、ステークホルダーなどのマネジメント、プログラム、ポートフォリオの調整などは、プロジェクトをやるなら組織でも個人でも共通に特有です。ところが、個人の場合にはさらに必要な領域も見あたるのです。例えば「動機付け」は、普通はメンバーのやる気を引き出すのが目的ですが、個人の場合は他人ではなく自己の動機付けが欠かせません。また、個人が何か挑戦をするには、ある程度の自信が必要です。

 筆者は 10 数名の PM プロフェッショナル仲間と共に、5 年前に個人 PM の研究会を立ち上げました。多くの人に役立つノウハウ確立を目指して研究活動をしています。このプログラムの最近のマイルストーンとして、知識体系を整理しました。そこから引っ張り出せる主な答えを、ここでごく簡単にご紹介しましょう。

  1. 目標の構造:いつも大きな目的やゴールを持ち、それを目指して個々のプロジェクト目標を作れば、行き当たりばったりの目標よりも夢の実現、個人の成長、動機付けなどに有益です。明確で適切なゴールを持てば、各目標の目指す方向が揃います。
  2. To-Do リスト:項目ごとの予定・実績時間を記録する習慣を作れば、見積りにも段取りにも役立ちます。短い仕事はまずやってから、後付けであってもリストを更新する習慣にします。自分の今の調子に合う仕事をリストから選べば効率があがります。
  3. やる気の出し方:十選すれば、①目標の明確化、②人に宣言、③時間割に従う、④とにかく行動、⑤憧れのモデルのつもり、⑥ライバルへの意識、⑦他人のためにやる、⑧座右の銘を携帯、⑨自分にかけ声、⑩自分にご褒美、です。
  4. リスクマネジメント:個人の大事な仕事なら、頭の中で何度も進め方をシミュレーションすることで、想定外のことを防ぎやすくなります。これならどこでもできます。とはいえ、リスク対応を決めたらとにかく行動するのが一番です。
  5. プロジェクトの振り返り:せめて 1 分だけは行って一言を記録しましょう。自分に役立つノウハウ集に成長します。また、自分の大仕事のチェックリストになります。さらに、嫌な思い出を反芻する必要がなくなり、前向きの思考に役立ちます。