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プロジェクト・マネジャーが知るべき97のこと/人を従えるのか、人が従うのか

提供:Wikisource

 プロジェクトとは、何が起こるかわからない未経験領域を含んでいて、資源も時間も厳しい制約の下にあります。プロジェクト・マネジャーは、これらを調整し円滑に進むよう判断し、目的を達成する事を職務としますが、これは席を温める間もないほど多忙なものとなります。プロジェクトの目的を理解し、自主的に業務遂行できるメンバーばかりであればプロジェクト・マネジャーはどんなに楽しくプロジェクトを遂行できることでしょうか。

 プロジェクト・マネジャーは、優れたリーダーでもあることを期待されます。リーダーには、フォロワーが不可欠です。フォロワーの行動を通じて、プロジェクトの目的とするものを正しく実現してゆくのです。ですから、リーダーはフォロワーを納得させ同意させるだけではなく、納得の上指示に従ってもらい、実際の行動を通じて結果を出し、プロジェクト目標を実現してゆかなければならないのです。

 有効なリーダーシップ・スタイルとは何でしょう? 指示をきっかけに容易に実行できるのは、手順の決まった作業の場合です。しかし、例えば IT プロジェクトの企画、要件の定義、業務処理仕様の開発、システム基盤への展開などは、非常に高度な専門的検討と推考が不可欠です。「作業にかかれ」では、指示している事にさえならないでしょう。

 リーダーの指示が有効に機能するかどうかは、実作業をする人達(ここではフォロワー)のスキルレベル、チームの一員として成熟度、対象の作業内容についての習熟度などによって、大きくゆらぐものなのです。つまりリーダーの優秀さは、リーダー自身では作り出すことができないと考えてください。

 どんなリーダーシップ・スタイルが有効なのか、という問いには要求している作業内容と担当するフォロワーの条件を明確にする必要があります。それ抜きで、一律に有効なリーダーシップ・スタイルを考える事は、あまり有効とはいえません。

 また、フォロワーの行動を通じて目的を達成するためには、フォロワーが従う権威が必要になりますが、戦場での軍隊の指揮命令といった国家権力による厳しいもの、上司・部下といった職制を通じた強制力によるもの、人望によるもの、専門家としての優れた知見、またそのことへの尊敬によるものまで、非常に多くのバリエーションがあります。先ほど例を挙げた様な、IT プロジェクトの企画、要件の定義といった、フォロワー自身のもっている創造的能力を十分発揮することを要求される場合には、高圧的な作業指示よりも、権限委譲や相互の信頼関係、相談と支援といった自発的な作業者の能力発揮を促すようなスタイルの方が、はるかに有効だと考えられます。メンバー相互に敬意を払うようなチーム風土も大切です。他方、技術レベルがまだ十分な水準にないとか、初心者である場合には、相談にのるというより、具体的で明確な作業指示の方が効果的で有効でしょう。

 プロジェクト・マネジャーは結果責任を果たさなければなりません。最近のソフトウェア・プロジェクトは稼動すればよいという程度の基礎的なプロセス支援を行うようなものはほとんどありません。とうにそのレベルのシステムはできあがってしまっています。もっと付加価値の高い、経営戦略に近いところでプロジェクトが運用され、特に早い段階での創造的な思考が強く要求されるようになっています。

 プロジェクト・マネジャーのリーダーとしての振る舞いはプロジェクトの成果達成の能率に大きな影響を及ぼすものですが、こうすればよいという定型的なスタイルを見つけることは困難です。どんな状況にも有効なリーダーシップ・スタイルはないと言うことに気が付けば、今日のプロジェクトが要求している、プロジェクト・メンバーの自発的で創造的な能力発揮を促すことを、プロジェクト・マネジャーの基本スタイルとし、その軌道修正は、プロジェクト・メンバーの「指示受け取り能力」の成熟度に応じて行う事になると、ご理解いただけるでしょう。

 特に、プロジェクトの立ち上がり時期は、多くの場合、初対面のメンバーでチームを構成するので、プロジェクト・マネジャーはチームワークの醸成をリードして行かなければなりません。この時期は、プロジェクト・ステークホルダーを把握し、プロジェクトの目的や達成基準をメンバーに伝え、チームのムードを作り上げてゆく最も大切な時期です。また、プロジェクトのゴールについて思いを込めて語れるのはこの時期しかありません。

 創造的で相互に助け合えるようなチームを作り上げるには、チームの組織風土の醸成が大きくかかわります。メンバーの技術的能力の向上、目標に対するコミットメント、信頼といった成熟度向上が、プロジェクト・マネジャーにとってどんなに重要な影響を及ぼすのか、深く理解し、それをどのように支援し推進できるかが、鍵となるのです。

 メンバーを従えるのではありません。メンバーがついてきてくれないのではプロジェクト・マネジャーとしての仕事は達成できないのです。