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フィリッピ書 (ラゲ訳)

提供:Wikisource

<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書

『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、

1910年発行

〔ローマ・カトリック訳〕

ラゲ訳新約聖書エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)

フィリッピ書

第1章

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1イエズス、キリストのしもべたるパウロおよびチモテオ、すべてフィリッピにおいてキリスト、イエズスに聖徒せいとならび監督かんとくおよ執事しつじとうに[書簡しよかんおくる]。 2ねがはくはわがちちにてましまかみおよしゆイエズス、キリストより、恩寵おんちよう平安へいあんとをなんぢたまはらんことを。 3われなんぢおもひおこごとに、わがかみ感謝かんしやし、 4すべての祈祷きたうおいつねなんぢ一同いちどうためよろこびて懇願こんぐわんたてまつる。 5けだしなんぢ最初さいしよよりいまいたまで、キリストの福音ふくいんため協力けふりよくしたれば、 6なんぢうち善業ぜんげふはじたまひしものの、キリスト、イエズスのまで、これまつたうしたまはんこと信賴しんらいせり。 7なんぢ一同いちどうきておもへるは至當したうことなり、なんぢわがこころり、また縲絏なはめうちるにも、福音ふくいん弁護べんごしてこれかたむるにも、なんぢみなわれとも恩寵おんちようあずかればなり。 8けだしが、キリストのはらわたもつて、如何いかばかなんぢ一同いちどう戀慕こひしたふかは、かみわがためこれしようたまふ。 9いのところは、すなはなんぢあいますます智識ちしきすべてのさとりとにみ、 10なんぢ一層ひとしほことわきまへて、キリストのいたるまできよとがなくして、 11イエズス、キリストによりて、かみ光榮くわうえい讃美さんびとのために、好果かうくわ滿たされんことこれなり。 12兄弟等きやうだいたちよ、われなんぢらんことほつす、わがくわんする事柄ことがらは、かえつ福音ふくいん裨益ひえきるにいたりしことを。 13すなは縲絏なはめへることのキリストのためなるは、近衞このゑへい全營ぜんえいにも何處いづこにもあきらかられたり。 14かく兄弟きやうだいちゆう多數たすうは、わが縲絏なはめゆゑしゆたのたてまつりて、一層ひとしほはばからずかみ御言おんことばかたるにいたれり。 15じつそねみあらそひとのためにキリストをぶるものもあれど、好意かういもつてするものもあり、 16また福音ふくいん守護しゆごせんためかれたるをりて、愛情あいじやうよりするひともあれば、 17眞心まごころたず、縲絏なはめおけわが困難こんなんさんことおもひ、黨派心たうはしんよりキリストのことものもあり。 18りとてなにかあらん、如何樣いかやうにもあれ、あるひ口實こうじつとしてなりとも、あるひ眞心まごころもつてなりとも、キリスト宣傳せんでんせられたまへば、われこれよろこぶ、[以後いごも]またよろこばん。 19われなんぢいのりとイエズス、キリストのれい助力じよりよくとによりて、このことわがすくひとなるべきをればなり。 20これてるところ希望きぼうせるところかなへり、すなはわれなにおいてもづることなかるべく、かえつ何時いつしかあるごとく、いままたきてもしても、キリストは安全あんぜんわがおいあがめられたまふべきなり。 21けだしわれりて、くるはキリストなり、ぬるはえきなり。 22もし肉身にくしんおいくることわれ事業じげふ好果かうくわあるべくば、そのいづれえらむべきかはわれこれしめさず、 23われ雙方さうほうはさまれり、立去たちさりてキリストとともらんことのぞむ、これわれりてもつとことなり、 24れど肉身にくしんとどまことは、なんぢためなほ必要ひつえうなり。 25確信かくしんするがゆゑに、われなんぢ信仰しんかう進步しんぽ喜悦よろこびとをきたさんために、なんぢ一同いちどうともとどまり、かつ逗留とうりうすべきことる。 26われふたたなんぢいたらば、キリスト、イエズスにおいて、われきてなんぢほこところ彌增いやますべし。 27なんぢただキリストの福音ふくいん相應ふさわしく生活せいくわつせよ、これあるひいたりてなんぢときも、あるひはなれてなんぢことときも、なんぢどういつ精神せいしんどういつこころもつてることと、福音ふくいん信仰しんかうため一致いつちしてたたかことと、 28いささかてきおどろかされざることとをらんためなり。このおどろかされざることこそ、てきには亡滅ほろびしるしなんぢには救靈たすかりしるしにして、かみよりづるものなれ。 29なんぢキリストのためたまはりたるは、ただこれしんずることのみならず、またこれためくるしむことなればなり。 30なんぢへるたたかひは、かつわれおいところまたわれきてきしところひとしきものなり。

第2章

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1もし幾許いくばくのキリストにおけすすめ幾許いくばくあいなぐさめ幾許いくばく聖靈せいれいまじはり幾許いくばくあはれみはらわたあらば、 2なんぢわがよろこび滿たせよ。すなはこころおなじうし、あいおなじうし、同心どうしん同意どういにして、 3何事なにごと黨派心たうはしん虛榮きよえいしんためにせず、謙遜けんそんしてたがひひとおのれまされるものおもひ、 4おのおのおのことのみをかへりみずして他人たにんことかへりみよ。 5なんぢこころざことはキリスト、イエズスのごとくなれ、 6すなはかれかみかたちましましてかみならことぬすみとはおもたまはざりしも、 7おのれきものとして奴隷どれいかたちり、ひとたるものり、外貌ぐわいばうおいひとごとくにえ、 8みづかへりくだりて、しか十字架じふじかじやういたるまで、したがへるものとなりたまひしなり。 9このゆゑかみまたこれ最上さいじやうげて、たまふに一切いつさいまされるもつてしたまへり、 10すなはちイエズスの御名みなたいしては、天上てんじやうのもの、地上ちじやうのもの、地獄ぢごくのもの、ことごとひざかがむべく、 11またすべてのしたちちにてましまかみ光榮くわうえいために、イエズス、キリストのしゆましませること公言こうげんすべし。 12ればわが至愛しあいなるものよ、なんぢつねしたがひしごとく、わが面前めんぜんときのみならず、いま不在ふざいときあたりても、一層ひとしほおそれおののきつつおの救靈たすかりまつたうせよ、 13こころざこと爲遂しとぐることとは、かみ御好意ごかういもつなんぢうちさしめたまところなればなり。 14なんぢつぶやことなくあらそことなく、一切いつさいことおこなへ、 15これなんぢあしかつよこしまなるりて、とがむべきところなく、かみ純粹じゆんすゐなる子兒こどもとして、とがなきものとならんためなり。なんぢかか人々ひとびとあひだに、世界せかいおけほしごとひかりて、 16生命せいめいことばたもてり、かくはしりしことむなしからず、らうせしことむなしからずして、キリストのおいわが名譽めいよるべし。 17假令たとひなんぢ信仰しんかう供物そなへものまつりとのうへに、が[は]そそがるるも、われこれよろこびてなんぢ一同いちどうともこれしゆくす、 18なんぢこれよろこびてわれとも祝賀しゆくがせよ。 19われなんぢことりてこころやすんぜんためすみやかにチモテオをなんぢつかはさんことを、しゆイエズスにおい希望きぼうす。 20くまでわれ同心どうしんして、眞心まごころもつなんぢためおもんぱかひとまたほからざればなり。 21けだしひとみなイエズス、キリストのこともとめず、おのこともとむ、 22いへども、かれ福音ふくいんために、ちちおけごとわれともつとめたるは、なんぢそのしようれるところなり。 23ればわがうへ成行なりゆきば、ただちかれなんぢつかはさんことせり。 24われみづからもまたほどなくなんぢいたるべきことを、しゆおい信賴しんらいす。 25れどわれおもふに、なんぢよりつかはされてえうするところきようせしわが兄弟きやうだいにして協力けふりよくしやたり戰友せんいうたるエパフロヂトをなんぢつかはさざるべからず。 26けだしかれなんぢ一同いちどう戀慕こひしたひ、そのめるよしなんぢきこえしとてうれたりしなり。 27じつかれやまいかかりて、ぬばかりにりたれど、かみかれあはれたまひ、ただかれのみならず、わがかなしみうへまたかなしみかさならざるやうわれをもあはれたまへり。 28このゆゑかれことによりて、さらなんぢよろこばせ、われうれひをもげんぜんために、一層ひとしほはやかれつかはせるなり。 29ればなんぢしゆおいあつかれ歡迎くわんげいし、鄭重ていちようかか人物じんぶつ待遇たいぐうせよ、 30かれわれたすけてなんぢけたるところおぎなはんと、キリストの事業じげふため生命せいめいとうじてをかしたればなり。

第3章

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1其外そのほかわが兄弟等きやうだいたちよ、なんぢしゆおいよろこべ、繰返くりかへしておなこと書遣かきおくるも、われことなくしてしかなんぢえきあり。 2なんぢかのいぬども用心ようじんし、あし働人はたらきて用心ようじんし、にせ割禮かつれい用心ようじんせよ。 3けだしれいによりてかみ禮拜れいはいし、肉身にくしんたのまずして、キリスト、イエズスにほこれるわれこそ割禮かつれいなれ。 4れどわれ肉身にくしんにもたのこと他人たにんもし肉身にくしんたのむをとせば、われ尙更なおさらことなり。 5われ八日やうか割禮かつれいけて、イスラエルのすゑ、ベンヤミンのぞく、ヘブレオじんよりのヘブレオじん律法りつぱふたいしてはファリザイじん6奮發ふんぱつきてはかみ敎會けうくわい迫害はくがいせしもの律法りつぱふによれるきてはとがなく生活せいくわつせしものなり。 7しかるにわがえきとなりしこれことを、われはキリストにたいしてそんなりとみとめたり。 8しか我主わがしゆイエズス、キリストをるの超越てうえつせる學識がくしきたいしては、一切いつさいことみなそんなるをおもふ。われキリストのため一切いつさい損失そんしつかうむりしかど、これこと糞土ふんどごとし。これキリストをまうたてまつらんためにして、 9また律法りつぱふによれるわがいうせず、キリスト、イエズスにおけ信仰しんかうよりのすなは信仰しんかうによりてかみよりづるいうしつつ、キリストにおいみとめられんため10キリストをり、キリストの復活ふくくわつ能力のうりよくり、キリストのかたどれるものとなり、そのくるしみあずからんため11如何いかにもして死者ししやうちより復活ふくくわつするにいたらんためなり。 12へばとてわれすでたつすることあるひ完全くわんぜんりたるにはあらず、ただわれキリスト、イエズスにとらへられたれば、如何いかにもしてこれとらたてまつらんと追求つゐきうするのみ。 13兄弟等きやうだいたちよ、われとらへたりとおもはず、つとむるところただひとつすなは背後あとことわすれて前面さきことむかひ、 14かみがイエズス、キリストによりてうへたまへるところ襃美ほうびんとて、目的もくてき追求つゐきうするのみ。 15完全くわんぜんる[にすすむ]われは、こころざことみなかくごとくなるべし。なんぢもし何等なんらかの異議いぎあらば、かみこれをもなんぢしめたまはん。 16ただしすでいたれるところよりして、われすすむべきなり。 17兄弟等きやうだいたちよ、われまなべ、またなんぢわれかたとせるごとくにあゆめる人々ひとびと注目ちゆうもくせよ。 18けだしわれしばしばなんぢへるごとく、いまなほきつつふ、キリストの十字架じふじかてきとしてあゆひとおほく、 19そのはてほろびなり、彼等かれらはらそのかみし、づべきことほこりし、ことをのみあじはふ。 20しかれどもわれ國籍こくせきてんりて、われ我主わがしゆイエズス、キリストの救主すくひぬしとしててんよりきたたまふをつなり。 21かれ萬物ばんぶつおのれふくせしむるをたま能力ちからもつて、われいやしきからだへんぜしめ、おの榮光えいくわうからだかたどらしめたまふべし。

第4章

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1ればわが至愛しあいにして、いとなつかしき兄弟等きやうだいたちよ、わがよろこびわがかんむりなる至愛しあいものよ、しゆおいかくごとて、 2われエヴォヂアにもすすめ、シンチケにもすすむ、しゆおいこころおなじうせんことを。 3くびきともにする忠實ちゆうじつなるともよ、われなんぢにも、これをんなたすけんことこひねがふ。彼等かれらはクレメンスと、生命せいめいしよしるされたるわが助力者じよりよくしやともに、われともなひて福音ふくいんためはたらきしなり。 4なんぢつねしゆおいよろこべ。われかさねよろこべ。 5なんぢ溫良をんりやうなることすべてのひとれよかし、しゆちかましますなり。 6何事なにごとをもおもわづらなかれ、ただ萬事ばんじきて祈祷きたう懇願こんぐわん感謝かんしやとによりて、なんぢねがひは、かみられよかし、 7かく一切いつさい智識ちしきまされるかみ平安へいあんは、キリスト、イエズスにおいなんぢこころおもひとをまもるべし。 8其外そのほか兄弟等きやうだいたちよ、すべまことなることすべたふとぶべきことすべただしきことすべいさぎよことすべあいらしきことすべ好評かうひやうあること如何いかなるとくも、規律きりつ如何いかなるほまれも、なんぢこれおもんぱかれ。 9なんぢわれきてまなびしことけしこときしことことこれおこなへ、かく平和へいわかみなんぢともましまさん。 10なんぢわがうへおもこころの、つひまたきざしたることを、われしゆおいはなはだよろこべり。なんぢもとよりわれおもたれど、機會きくわいざりしなり。 11われ缺乏けつぼうによりてこれふにあらず、るがままにて事足ことたりれりとするは、まなびたるところなればなり。 12われいやしめらるることり、またゆたかなることをも、れり。一々いちいち萬事ばんじにつけてことをもううことをも、ゆたかなることをも、缺乏けつぼうしのぐことをも修行しゆげうせり。 13われつよたまものおいて、一切いつさいことざるはなし。 14りながらなんぢは、まことわが困難こんなんたすけたり。 15フィリッピじんよ、なんぢれり、福音ふくいんつたふるはじめ、マケドニアを出發しゆつぱつせしときには、いづれの敎會けうくわい授受やりとりふうもつわれまじはらず、なんぢのみこれして、 16一度ひとたび二度ふたたびもテサロニケにおくりてわがようきようしたりき。 17われ贈物おくりものもとむるにはあらず、ただなんぢ利益りえき好果かうくわゆたかならんこともとむるなり。 18われには何事なにごとそなはりてあまりあり、なんぢおくりしものそのかをりかんばしく、かみ御意みこころかなひて嘉納かなふせらるる犧牲いけにへを、エパフロヂトよりけてあきれり。 19わがかみおのとみによりて、光榮くわうえいうちなんぢえうするところことごとくキリスト、イエズスにおい滿たしたまふべし。 20ねがはくはわがちちにてましまかみ世々よよ光榮くわうえいあらんことを、アメン。 21キリスト、イエズスに聖徒せいとおのおのよろしくつたへよ。 22われとも兄弟等きやうだいたちなんぢよろしくとへり。すべての聖徒せいとことにセザルのいへぞくする人々ひとびとなんぢよろしくとへり。 23ねがはくは我主わがしゆイエズス、キリストの恩寵おんちようなんぢれいともらんことを、アメン。