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チモテオ前書 (ラゲ訳)

提供:Wikisource

<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書

『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、

1910年発行

〔ローマ・カトリック訳〕

ラゲ訳新約聖書エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)

チモテオ前書

第1章

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1わが救主すくひぬしにてましまかみおよわれ希望きぼうにてましますキリスト、イエズスのめいによりてキリスト、イエズスの使徒しとたるパウロ、信仰しんかうじやう實子じつしチモテオに[書簡しよかんおくる]。 2ねがはくはちちにてましまかみおよ我主わがしゆキリスト、イエズスより恩寵おんちよう慈悲じひ平安へいあんとをたまはらんことを。 3われかつてマケドニアにきしときなんぢねがひしごとく、なんぢはエフェゾにとどまり、ある人々ひとびとめいじてことなることをしへざらしめ、 4かつ信仰しんかうもとづけるかみみちつるにはあらでかえつ樣々さまざま議論ぎろんおこさする寓言ぐうげんと、究極きはまりなき系圖けいづとに從事じうじすることなからしめよ。 5そもそもこの命令めいれい目的もくてきは、きよこころ良心りやうしんいつはりなき信仰しんかうとにづるあいなり。 6しかれどもかの人々ひとびとは、これことはづれて無益むえきなる談話ものがたりうつり、 7みづか律法りつぱふ敎師けうしたらんとほつして、そのところをも斷言だんげんするところをもさとらざるなり。 8しかれどもわれ律法りつぱふひとただしくこれもちふればきものなることをれり。 9律法りつぱふまうけられしは義人ぎじんためあらずして、不法ふはふじん反抗はんかうしや不敬ふけいしや罪人ざいにん宗敎しうけうしや卑俗ひぞくしやちちころものははころもの殺人さつじんしや10私通しつうしや男色だんしよくしや誘拐いうかいしや虛言きよげんしや僞證ぎしようしやおよ健全けんぜんなるをしへはんする一切いつさいことためなりとるべきなり、 11われゆだねられたる至福しふくましまかみ光榮くわうえい福音ふくいんるがごとし。 12われ堅固けんごならしめたまひし我主わがしゆキリスト、イエズスに感謝かんしやたてまつる。われせいえきにんじて忠信ちゆうしんなるものとしたまひたればなり。 13すなはわれさきには冒涜ばうとくしや迫害はくがいしや侮辱ぶじよくしやたりしかど、しんぜざるときらずしてししがゆゑに、慈悲じひかうむりて、 14キリスト、イエズスにおけ信仰しんかうおよあいともに、我主わがしゆ恩寵おんちようあまれり。 15眞實しんじつにしてまつたしんずべきはなしなるかな、キリスト、イエズスのきたたまひしは罪人ざいにんすくはんためなることわれその罪人ざいにんだい一なり。 16しかるに慈悲じひかうむりしはキリスト、イエズスそのもろもろ堪忍かんにんわれおいだいいちあらはたまひ、永遠えいえん生命せいめいんとてまさしんぜんとする人々ひとびとれいしめたまはんためなり。 17ねがはくは萬世ばんせいわうましま不朽ふきうにしてたまはざるゆゐいつかみに、世々よよ尊崇そんすう光榮くわうえいらんことを、アメン。 18わがチモテオよ、なんぢかかはれるかねての預言よげんしたがひ、この命令めいれいなんぢす、これおうじてたたかひたたかひ、 19信仰しんかう良心りやうしんとをたもて。ある人々ひとびとこれて、信仰しんかうきて破船はせんせしが、 20そのうちにヒメネオとアレキサンデルとりしを、冒涜ばうとくせざることまなばしめんとてわれこれをサタンにわたせり。

第2章

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1ればだい一にすすむるは、衆人しゆうじんため2帝王ていわうたちおよすべ上位じやうゐ人々ひとびとために、懇願こんぐわんし、祈祷きたうし、請願せいぐわんし、かつ感謝かんしやせられんことなり。われまつた敬虔けいけん正直せいちよくとにおいて、やすらかにしづかなる生活せいくわついとなまんためなり、 3かくごときは善事ぜんじにしてわが救主すくひぬしにてましまかみ御前みまへ嘉納かなふせらるればなり。 4すなはかみ一切いつさいひとすくはれ、眞理しんりるにいたらんことのぞたまふ。 5けだしかみゆゐいつましまし、かみひととの仲裁ちゆうさいしやまた唯一ゆゐいつなり。これひとたるキリスト、イエズスにましまして、 6衆人しゆうじんためおのれあがなひとしてささたまひ、ときいたりてその證據しようこありしなり。 7われこれためてられて宣敎せんけうしやたり、かつ使徒しとたり、――われまことひていつはらず――信仰しんかう眞理しんりとにおけ異邦いはうじん敎師けうしたり。 8ればわれは、男子だんしいずれのところおいてもきよげていかりなくあらそひなくいのらんことのぞむ。 9婦人ふじんまたかくごとくして相應さうおう衣服いふくけ、おのれかざるに羞耻心しうちしん節制せつせいとをもつてし、ちぢみかみ黃金わうごん眞珠しんじゆ高價かうか衣服いふくもつてせず、 10敬虔けいけん約束やくそくせる婦人ふじん相當さうたうするごと善業ぜんげふもつてすべし。 11婦人ふじんまつた服從ふくじゆうしてしづかまなぶべし。 12われ婦人ふじんをしふることまた男子だんしつかさどことゆるさず、しづかにすべきなり。 13けだしアダンはさきつくられ、エワはそののちなり。 14またアダンはまどはされず、をんなまどはされてつみおちいれり。 15しかれども信仰しんかうあい聖德せいとく節制せつせいとにとどまらば、子女しぢよぐることによりてすくひかるべし。

第3章

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1ひとありて監督かんとくつとめほつするはげふほつするなりとはまことはなしなり、 2れば監督かんとくは、とがむべきところなく、ただ一婦いつぷをつとたり、謹愼きんしん怜悧れいり端正たんせい貞潔ていけつにして旅人りよじん接待せつたいし、をしへほどこし、 3さけたしまず、ひとたず、柔和にうわにしてあらそはず、むさぼらず、 4そのいへをさめ、その子女しぢよつつしみてこれ服從ふくじゆうするひとたらざるべからず。 5ひともしおのいへをさむるをらずば、如何いかにしてかかみ敎會けうくわい奮勵ふんれいせん。 6監督かんとくしん信徒しんとたるべからず、おそらくはたかぶりて惡魔あくまひとしき審判さばきおちいらん。 7またそと人々ひとびと好評かうひやうあるひとたるべし、これ耻辱ちじよく惡魔あくまわなとにおちいらざらんためなり。 8執事しつじたちかくごとく、たふとくして兩舌りやうぜつならず、さけたしまず、づべきむさぼらず、 9きよ良心りやうしんもつ信仰しんかう奧義おくぎたもてるものたるべし。 10彼等かれらまづためしけて、とがむべきところなくばつとむべきなり。 11婦人ふじんたちかくごとく、たふとくしてそしらず、節制せつせいして萬事ばんじ忠實ちゆうじつなるものたるべし。 12執事しつじたちは、一婦いつぷをつとにしてその子女しぢよいへとををさむるものたるべし、 13つとめたるもの階級かいきふて、キリスト、イエズスにおけ信仰しんかうきておほいなる勇氣ゆうきべければなり。 14われはやなんぢいたらんことのぞみつつこれこと書遣かきおくるは、 15もしおそからんときなんぢをしてかみいへおい如何いかおこなふべきかをらしめんためなり、かみいへとはたまへるかみ敎會けうくわいなり、眞理しんりはしらにしてかつもとゐなり。 16にもおほいなるかな敬虔けいけん奧義おくぎすなはち[キリストは]にくおいあらはされ、れいによりてしようせられ、天使等てんしたちあらはれ、異邦いはうじんつたへられ、しんぜられ、光榮くわうえいげられたまひしなり。

第4章

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1しかるに[せい]れいあきらかのたまところによれば、末世まつせいたりてある人々ひとびとまどひの[種々しゆじゆの]れい惡鬼あくきをしへとにこころかたむけて、信仰しんかうとほざかることあらん、 2これいつはりかた人々ひとびと僞善ぎぜんによることにして、彼等かれらその良心りやうしん燒鐡やきがねてられ、 3めとこときんじ、信徒しんとおよ眞理しんりれる人々ひとびと感謝かんしやもつしよくするやうかみつくたまひし食物しよくもつことめいぜん。 4そもそもかみつくたまひしものみなものにして、感謝かんしやもつしよくせらるるものつべきはなし、 5かみ御言おんことば祈祷いのりとをもつきよめらるればなり。 6これこと兄弟等きやうだいたちべなば、なんぢかつたるをしへ信仰しんかうことばとをもつ修養しうやうせられたる、キリストの役者えきしやたらん。 7れど世俗せぞくばなし老婆らうばばなしてて、みづか敬虔けいけん練習れんしふせよ。 8けだし身體しんたい練習れんしふえきするところわづかなれども、敬虔けいけん今世こんせ來世らいせとにかか約束やくそくいうして萬事ばんじえきあり。 9これまつたしんずべきまことはなしなり、 10われらうしてののしらるるはこれがためにして、すなは萬民ばんみんとく信徒しんと救主すくひぬしにてましまたまへるかみ希望きぼうたてまつゆゑなり。 11なんぢこれことめいかつをしへよ。 12たれなんぢとしわかきをかろんずべからず、かえつなんぢは、言語げんご行狀ぎやうじよう慈愛じあい信仰しんかう貞操ていそうもつ信徒しんと模範もはんたれ。 13いたるまで讀書どくしよ敎訓けうくん說敎せつけう從事じゆうじせよ。 14預言よげんにより、長老ちやうらうたち按手あんしゆもつたまはりし、なんぢうちなるたまものゆるかせにすることなかれ、 15なんぢ進步しんぽ衆人しゆうじんあきらかならんために、これこと熟考じゆくかうしてこれゆだねよ。 16おのれ說敎せつけうとにかへりみてこれ耐忍たいにんせよ、これおこなひておのれなんぢ人々ひとびととをすくふべければなり。

第5章

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1老人らうじん譴責けんせきせず、ちちごとくにしてこひねがへ、わかひと兄弟きやうだいごとく、 2いたるをんなははごとく、わかをんな姉妹しまいごとくにして完全くわんぜん節操せつそうまもりつつすすめよ。 3しん寡婦やもめたる寡婦やもめうやまへ、 4れど寡婦やもめにしてあるひまごあらば、彼等かれらまづいへ孝行かうかうし、おやおんむくゆることまなぶべし、これかみ御前みまへ嘉納かなふせらるればなり。 5しん寡婦やもめにして倚邊よるべなきものかみ倚賴よりたのみ、晝夜ちうや祈願きぐわん祈祷きたう從事じゆうじすべし、 6けだし快樂くわいらく寡婦やもめは、きながらにしてしたるものなり、 7彼等かれらとがなからんためこれことめいぜよ。 8おの家族かぞくこと家人かじんかへりみざるひとは、信仰しんかうてて信者しんじやおとれるものなり。 9寡婦やもめせきしるさるるは、一夫いつぷつまたりしものにして六十さいよりくだらず、 10善業ぜんげふ好評かうひやうあるものすなは子女しぢよそだて、もしくはきやく接待せつたいし、もしくは聖徒せいとあしあらひ、もしくは困難こんなんへる人々ひとびとたすけしなどすべての善業ぜんげふししものたらざるべからず。 11わか寡婦やもめことわれ、けだし彼等かれらはキリストにそむきておこなひみだるればとつことこのみ、 12最初さいしよしんやぶりたるゆゑつみさだめられ、 13また亂惰らんだにして家々いへいへあそびまはり、ただ亂惰らんだなるのみならず、ことばおほまた指出さしいでてふまじきことかたる。 14ればわれわか寡婦やもめの、とつぎて家事かじをさめ、反對者はんたいしやをしていささか惡口あくこう機會きくわいたざらしめんことほつす、 15はサタンにたちかへりたるものすで數人すにんあればなり。 16信徒しんとたるものもし[親族しんぞくに]寡婦やもめあらば、敎會けうくわいわづらはさずしてみづかこれたすくべし、これ敎會けうくわいをしてしん寡婦やもめたすくるに不足ふそくなからしめんためなり。 17長老ちやうらうにしてつかさどひとことことばをしへとにらうするひとは、ばいしてたふとばるべきものとせらるべし。 18けだし聖書せいしよいはく、「なんぢ穀物こくもつ踏碾ふみこなうしくちむすなかれ」と、またいはく、「はたらひとよろしくそのむくいべし」と。 19長老ちやうらうたいする訴訟うつたへは、二三の證人しようにんあるにあらずばこれ受理じゆりすることなかれ。 20つみをかものは、ひとをもおそれしめんために、一同いちどうまへこれとがめよ。 21われかみとキリスト、イエズスとえらまれし天使等てんしたち御前みまへしようして、なんぢ偏頗へんぱなくこれことまもり、贔屓ひいきもつ何事なにごとをもさざらんことめいず。 22たれにもはや按手あんしゆすることなく、また他人たにんつみあづかことなく、貞操ていそうにしておのまもれ。 23最早もはやみづまずして、ためまた度度たびたびやまいために、すこしく葡萄ぶだうしゆもちいよ。 24ある人々ひとびとつみ審判さばきにもさきだちてあきらかに、ある人々ひとびとつみあとにてあらはる、 25おこなひあらはるるもまたかくごとし、しからざるものは[つひに]かくるるあたはず。

第6章

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1すべくびきした奴隷どれいは、その主人しゆじんまつたたふとぶべきものとおもふべし、これしゆ御名みなをしへとのののしられざらんためなり。 2信徒しんとたる主人しゆじんてるものは、兄弟きやうだいなりとてこれかろんずべからず、かえつ慈善じぜんともにせるもの信徒しんとにしておのれこれあいせらるるにより、一層ひとしほつかふべし。これことをしかつすすめよ。 3ひとありて、もしことなることをしへ、我主わがしゆイエズス、キリストの健全けんぜんなる談話だんわ敬虔けいけんかなへるをしへとにふくせずば、 4これ何事なにごとをもらずしてみづかたかぶり、病的びやうてき議論ぎろんことばあらそひとをこのものなり、これよりおこるは嫉妬しつと口論こうろん侮辱ぶじよく邪推じやすゐ5また精神せいしん腐敗ふはい眞理しんり缺乏けつぼうして、敬虔けいけん利益りえきみちなりとおも人々ひとびとあらそひとうなり。 6そもそもことれる敬虔けいけんこそはおほいなる利益りえきみちなれ、 7われこのきたりしときなにものをもたづさへざりしかば、ときまたなにものをもあたはざるはうたがひなきところなればなり。 8衣食いしよくだにあらば、われそれにて滿足まんぞくすべし。 9けだしまんとほつする人々ひとびとは、誘惑いざなひ惡魔あくまわなとにおちいり、ひと墮落だらく滅亡めつぼうとにしづむる、にして有害いうがいなる種々しゆじゆ慾望よくぼうおちいる。 10すなはよく一切いつさい惡事あくじなり、ある人々ひとびとこれため信仰しんかうとほざかりてまよひ、おほくのくるしみもつおのれさしつらぬけり。 11れどかみひとよ、なんぢこれことけて、正義せいぎ敬虔けいけん信仰しんかう慈愛じあい忍耐にんたい柔和にうわもとめ、 12信仰しんかうたたかひたたかひて永遠えいえん生命せいめいとらへよ。これされて、おほくの證人しようにんまへこれため宣言せんげんしたればなり。 13われ萬物ばんぶつかしたまかみ御前みまへおよびポンシオ、ピラトのとき立證りつしようして宣言せんげんたまひしキリスト、イエズスの御前みまへに、なんぢめいず、 14我主わがしゆイエズス、キリストのあらはたまふまで、けがれなくとがめなくおきてまもれ、 15その時期じきいたりては、至福しふくゆゐいつ主權しゆけんしや諸王しよわうわうすべしゆたるものしゆはイエズス、キリストをあらはたまはんとす、 16かれひとり不死ふしいうし、ちかづくべからざるひかりたまひ、一人ひとりかつたてまつりしことなくまたたてまつあたはざるものましまし、尊榮そんえい永遠えいえん權能けんのうこれす、アメン。 17なんぢこの富者ふしやめいぜよ、たかぶことなく、たしかならぬとみたのまず、快樂くわいらくためにも萬物ばんぶつゆたか供給きようきふたまたまへるかみたのたてまつり、 18ぜんして善業ぜんげふめるものり、こころよほどこかつわけあたへ、 19しん生命せいめいとらふるやう將來しやうらいため資本しほんたくはへんことを。 20嗚呼ああチモテオよ、たくせられしものをまもりて、世俗せぞく空言くうげん有名いうめい無實むじつなる學識がくしき反論はんろんとをけよ、 21ある人々ひとびとこれよそほひて信仰しんかうまとはづれたるなり。ねがはくは恩寵おんちようなんぢともらんことを、アメン。