スポーツ振興基本計画
総論
[編集]1. スポーツの意義
[編集]スポーツは、人生をより豊かにし、充実したものとするとともに、人間の身体的・精神的な欲求にこたえる世界共通の人類の文化の一つである。心身の両面に影響を与える文化としてのスポーツは、明るく豊かで活力に満ちた社会の形成や個々人の心身の健全な発達に必要不可欠なものであり、人々が生涯にわたってスポーツに親しむことは、極めて大きな意義を有している。
すなわち、スポーツは、体を動かすという人間の本源的な欲求にこたえるとともに、爽快感、達成感、他者との連帯感等の精神的充足や楽しさ、喜びをもたらし、さらには、体力の向上や、精神的なストレスの発散、生活習慣病の予防など、心身の両面にわたる健康の保持増進に資するものである。特に、高齢化の急激な進展や、生活が便利になること等による体を動かす機会の減少が予想される21世紀の社会において、生涯にわたりスポーツに親しむことができる豊かな「スポーツライフ」を送ることは大きな意義がある。
また、スポーツは、人間の可能性の極限を追求する営みという意義を有しており、競技スポーツに打ち込む競技者のひたむきな姿は、国民のスポーツへの関心を高め、国民に夢や感動を与えるなど、活力ある健全な社会の形成にも貢献するものである。
更に、スポーツは、社会的に次のような意義も有し、その振興を一層促進していくための基盤の整備・充実を図ることは、従前にも増して国や地方公共団体の重要な責務の一つとなっている。
ア スポーツは、青少年の心身の健全な発達を促すものであり、特に自己責任、克己心やフェアプレイの精神を培うものである。また、仲間や指導者との交流を通じて、青少年のコミュニケーション能力を育成し、豊かな心と他人に対する思いやりをはぐくむ。さらに、様々な要因による子どもたちの精神的なストレスの解消にもなり、多様な価値観を認めあう機会を与えるなど、青少年の健全育成に資する。
イ スポーツを通じて住民が交流を深めていくことは、住民相互の新たな連携を促進するとともに、住民が一つの目標に向い共に努力し達成感を味わうことや地域に誇りと愛着を感じることにより、地域の一体感や活力が醸成され、人間関係の希薄化などの問題を抱えている地域社会の再生にもつながるなど、地域における連帯感の醸成に資する。
ウ スポーツを振興することは、スポーツ産業の広がりとそれに伴う雇用創出等の経済的効果を生み、我が国の経済の発展に寄与するとともに、国民の心身両面にわたる健康の保持増進に大きく貢献し、医療費の節減の効果等が期待されるなど、国民経済に寄与する。
エ スポーツは世界共通の文化の一つであり、言語や生活習慣の違いを超え、同一のルールの下で互いに競うことにより、世界の人々との相互の理解や認識を一層深めることができるなど、国際的な友好と親善に資する。
このように多様な意義を有する文化としてのスポーツは、現代社会に生きるすべての人々にとって欠くことのできないものとなっており、国民一人一人が自らスポーツを行うことにより心身ともに健康で活力ある生活を形成するよう努めることが期待される。
なお、人間とスポーツとのかかわりについては、スポーツを自ら行うことのほかに、スポーツをみて楽しむことやスポーツを支援することがある。スポーツをみて楽しむことは、スポーツの振興の面だけでなく、国民生活の質的向上やゆとりある生活の観点からも有意義である。また、スポーツの支援については、例えば、ボランティアとしてスポーツの振興に積極的にかかわりながら、自己開発、自己実現を図ることを可能とする。人々は、このようにスポーツへの多様なかかわりを通じて、生涯にわたる豊かなスポーツライフを実現していくのである。従って、スポーツへの多様なかかわりについても、その意義を踏まえ、促進を図っていくことが重要である。
2. 計画のねらい
[編集]我が国においては、年間労働時間の短縮や学校週5日制の実施等による自由時間の増大、仕事中心から生活重視への国民の意識の変化などにより、主体的に自由時間を活用し、精神的に豊かなライフスタイルを構築したいという要望が年々強まっている。
しかしながら、一方では、科学技術の高度化、情報化等の進展により、人間関係が希薄となり、精神的なストレスが増大したり、日常生活において体を動かす機会が減少し、体力や運動能力が低下したりするなどの心身両面にわたる健康上の問題が顕在化してきている。
また、我が国は、平均寿命の伸長と出生率の長期的な低下という少子・高齢化に直面しており、2050年(平成62年)には、ほぼ3人に1人が65歳以上のいわゆる老年人口となることが予測されている。このような社会において国民が全体として生涯にわたり健康的で明るく、活力ある生活を送ることが、個々の国民の幸福にとどまらず社会全体の活力の維持のためにも強く求められている。
このような社会環境の変化に伴い、国民のスポーツの実施目的、実施内容も高度化・多様化し、行政や関係団体等に求められる内容も変化してきている。
一方、長野オリンピック冬季競技大会にみられるように、我が国のトップレベルの競技者の世界の舞台での活躍は、国民に大きな夢と感動を与えるものであり、今後の国際競技大会における活躍への期待も年々高まっているが、我が国の国際競技力は相対的には低下傾向にある。
このような状況の中、現代社会におけるスポーツの果たす意義、役割を考えたとき、国民のスポーツへの主体的な取組みを基本としつつ、国民のニーズや期待に適切にこたえ、国民一人一人がスポーツ活動を継続的に実践できるような、また、競技力の向上につながるようなスポーツ環境を整備することは、国、地方公共団体の重要な責務である。こうしたスポーツ振興施策を効果的・効率的に実施するに当たっては、施策の定期的な評価・見直しを行いつつ、新たにスポーツ振興投票制度が実施される運びとなっていることも踏まえ、中・長期的な見通しに立って、スポーツの振興をめぐる諸課題に体系的・計画的に取り組むことが求められている。
本計画は、このような視点から、スポーツの機会を提供する公的主体及び民間主体と、利用する住民や競技者が一体となった取組みを積極的に展開し、一層のスポーツ振興を図ることにより、21世紀における明るく豊かで活力ある社会の実現を目指すものである。
3. 計画の主要な課題
[編集]本計画においては、上に述べたような「ねらい」を踏まえ、今後のスポーツ行政の主要な課題として次のものを掲げ、その具体化を図ることとする。
(1)生涯スポーツ社会の実現に向けた、地域におけるスポーツ環境の整備充実方策
(2)我が国の国際競技力の総合的な向上方策
(3)生涯スポーツ及び競技スポーツと学校体育・スポーツとの連携を推進するための方策
また、地方公共団体において、本計画を考慮しながら地方の実情に即したスポーツの振興に関する計画を定めることとなっているが、これらの計画とあいまって、スポーツ振興のための各種施策を総合的かつ積極的に推進していくこととする。
なお、これらの施策の実施に当たっては、国や地方公共団体における連携はもとより、スポーツ団体相互の連携の促進に努めるとともに、公的主体と民間主体との間の役割分担にも配慮しつつ、スポーツ団体や国民各層に対して積極的に各種施策を周知するなど効果的な推進に努めていくこととする。
4. 計画の性格
[編集]本計画は、スポーツ振興法に基づいて、長期的・総合的な視点から国が目指す今後のスポーツ振興の基本的方向を示すものであると同時に、地方公共団体にとっては、地方の実情に即したスポーツ振興施策を主体的に進める上での参考指針となるものである。現在、個性豊かで活力に満ちた地域社会を実現すること等を基本として、地域の特性を生かしつつ、魅力ある地域づくりを進めている各地方公共団体においては、自らの選択と責任に基づく主体的な地域づくりの一環として、創意と工夫を凝らしたスポーツ振興施策を推進することが期待される。
また、民間のスポーツ団体においては、本計画で示された基本的なスポーツ振興の方向を踏まえて、各団体に期待される役割に応じ、その事業活動の強化を積極的に図るとともに、必要な組織体制の充実に努めることが望まれる。
5. 計画の実施
[編集](1) 計画の期間等
本計画は、平成13年度から概ね10年間で実現すべき政策目標を設定するとともに、その政策目標を達成するために必要な施策を示したものである。
本計画に基づく施策の実施に際しては、適宜その進捗状況の把握に努めるとともに、5年後に計画全体の見直しを図るものとする。
(2) 本計画に掲げる施策の推進に必要な財源の確保
本計画に掲げる施策の推進に当たっては、スポーツ振興のための財源確保が重要である。このうち国が推進すべき施策に必要な財源については、予算措置以外に、平成2年にはスポーツ振興基金が設立されたところであるが、更に平成10年には、スポーツ振興投票を通じてスポーツの振興のために必要な資金を得ることを目的としたスポーツ振興投票制度が成立するなど、多様な財源確保のための取組みが行われてきている。
とりわけ、スポーツ振興投票を実施して得られる収益は、身近な場所で気軽にスポーツに親しむことのできるような地域のスポーツ環境づくりや、世界的レベルで活躍できる競技者を育てる環境づくりなど、我が国におけるスポーツの一層の振興を図るために行う各種の事業に対して助成することとされており、本計画に掲げる施策を推進する上で重要な役割を果たすことが期待される。
本計画に掲げる国の施策の推進に必要な資金の充実のため、財政事情等を考慮しつつ、スポーツ振興のために必要な予算措置等について今後ともその充実に努めるとともに、特にスポーツ振興投票の収益については、できる限りその安定的な確保に努めることとする。
また、上に述べた多様な財源の配分に当たっては、各種財源の役割を明確にしつつ、これらの財源を効率的に活用するよう努めるものとする。
スポーツ振興施策の展開方策
[編集]1. 生涯スポーツ社会の実現に向けた、地域におけるスポーツ環境の整備充実方策
[編集]政策目標: | (1) 国民の誰もが、それぞれの体力や年齢、技術、興味・目的に応じて、いつでも、どこでも、いつまでもスポーツに親しむことができる生涯スポーツ社会を実現する。 (2) その目標として、できるかぎり早期に、成人の週1回以上のスポーツ実施率が2人に1人(50パーセント)となることを目指す。 |
A. 政策目標達成のため必要不可欠である施策
[編集]誰もがスポーツに親しむことのできる生涯スポーツ社会を21世紀の早期に実現するため、国民が日常的にスポーツを行う場として期待される総合型地域スポーツクラブの全国展開を最重点施策として計画的に推進し、できるかぎり早期に成人の週1回以上のスポーツ実施率を50パーセントとする。
○総合型地域スポーツクラブの全国展開
到達目標
- 2010年(平成22年)までに、全国の各市区町村において少なくとも1つは総合型地域スポーツクラブを育成する。
- 2010年(平成22年)までに、各都道府県において少なくとも1つは広域スポーツセンターを育成する。
現状と課題
(スポーツ環境の現状と課題)
我が国では、学校と企業を中心にスポーツが発展してきた。このため、地域のスポーツクラブを中心にスポーツ活動が行われているヨーロッパ諸国などと異なり、学校を卒業するとスポーツに親しむ機会が減少する傾向にある。平成9年に総理府が実施した「体力・スポーツに関する世論調査」に基づく推計によると、我が国の週1回以上のスポーツ実施率は約35パーセントと、50パーセントを超えるヨーロッパの先進諸国に比べて低い状況にある。
確かに、現在、公共スポーツ施設を拠点とした地域スポーツクラブや従業員の福利厚生を目的とした職場のスポーツクラブ、民間の商業スポーツクラブも存在するが、公共スポーツ施設を拠点とするスポーツクラブの約9割が単一種目型であることに代表されるように、これらのスポーツクラブは性別、年齢、種目が限定的であったりするため、誰もが、いつでも、どこでも、いつまでも各自の興味・目的に応じてスポーツに親しめるようになっているとは言い難い状況にある。
こうした状況を改善し、国民の誰もが生涯にわたりスポーツに親しむことができる生涯スポーツ社会を実現するためには、多世代、多様な技術・技能レベルに属し、多様な興味・関心を有する者が参加できる地域スポーツクラブの育成が必要である。
(総合型地域スポーツクラブの必要性)
「総合型地域スポーツクラブ」とは、地域住民が主体的に運営するスポーツクラブの形態である。我が国では、身近な生活圏である中学校区程度の地域において、学校体育施設や公共スポーツ施設を拠点としながら、地域の実情に応じて民間スポーツ施設も活用した、地域住民の誰もが参加できる総合型地域スポーツクラブが定着することが適当と考えられる。特に学校体育施設は地域の最も身近なスポーツ施設であり、住民のスポーツ活動における期待は大きい。なお、総合型地域スポーツクラブを育成することは、完全学校週5日制時代における地域の子どものスポーツ活動の受け皿の整備にもつながり、さらには地域の連帯意識の高揚、世代間交流等の地域社会の活性化や再生にも寄与するものである。
総合型地域スポーツクラブの特徴は、次のとおりである。
ア 複数の種目が用意されている。
イ 子どもから高齢者まで、初心者からトップレベルの競技者まで、地域の誰もが年齢、興味・関心、技術・技能レベルなどに応じて、いつまでも活動できる。
ウ 活動の拠点となるスポーツ施設及びクラブハウスがあり、定期的・継続的なスポーツ活動を行うことができる。
エ 質の高い指導者の下、個々のスポーツニーズに応じたスポーツ指導が行われる。
オ 以上のようなことについて、地域住民が主体的に運営する。
(総合型地域スポーツクラブの課題)
これまで我が国では、学校と企業を中心にスポーツ活動が行われてきたため、地域においてスポーツ施設や指導者などのスポーツ活動の基盤となる環境が十分整備されてきていない。こうした状況の中で、地域住民には、自らのスポーツ活動のための環境を地域で主体的に創り出すという意識が根付いておらず、ボランティア精神で主体的に運営する地域スポーツクラブの意義が未だ十分理解されていない現状にある。また、地域のスポーツ行政担当者や体育指導委員、スポーツ団体の間においても、総合型地域スポーツクラブの意義・必要性が十分認識されていない場合が少なくない。さらに、総合型地域スポーツクラブ創設へのニーズが高まっている地域でも、地域の関係者間の調整を行いながら創設を推進していく熱意と能力を有する人材を得るのが難しいという問題もある。
現在、地域によっては、学校体育施設や公共スポーツ施設を拠点として、青少年健全育成組織やPTA、スポーツ少年団などの組織を核とした総合型地域スポーツクラブの育成の取組みが進んでいるところもある。しかし、このような先進的な地域においても、地域のスポーツサービスは無料又は廉価で行政から提供されるものという従来の意識が残っていることから、クラブは会員である地域住民の会費により自主的に維持、運営されるものであるという基本認識が足りない場合など、会費収入によりクラブの安定的な財源を確保することが困難な事例も見られる。この傾向はクラブ創設初期ほど顕著と言える。
また、事業体としての総合型地域スポーツクラブを円滑に運営するためには、経営能力を有する専門的な人材(クラブマネージャー)が必要である。しかし、こうした人材の育成に関するノウハウやカリキュラムが蓄積されていないために、必要なスタッフの確保は容易ではない現状にある。
さらに、総合型地域スポーツクラブは、単にスポーツ活動の場であるだけでなく、地域住民の交流の場としても期待され、そのためには地域住民の交流の場(たまり場)となるクラブハウスは欠かせない。しかし、我が国の総合型地域スポーツクラブの活動の拠点として期待される学校体育施設や公共スポーツ施設にはクラブハウスがない場合が多く、地域住民から期待される役割を果たすために必要な機能を備えているとは言い難い状況にある。
(広域スポーツセンターによる支援)
個々の総合型地域スポーツクラブが、地域住民のニーズを踏まえて創設され、継続的かつ安定的に運営されるためには、前述のような多くの課題があり、個々の総合型地域スポーツクラブだけでは解決できない課題も少なくない。このため、総合型地域スポーツクラブの創設や運営、活動とともに、スポーツ活動全般について、効率的に支援することのできる広域スポーツセンターが必要である。広域スポーツセンターは次の機能を備え、各広域市町村圏単位に設けられることが必要である。
ア 総合型地域スポーツクラブの創設、育成に関する支援
イ 総合型地域スポーツクラブのクラブマネージャー・指導者の育成に関する支援
ウ 広域市町村圏におけるスポーツ情報の整備・提供
エ 広域市町村圏におけるスポーツ交流大会の開催
オ 広域市町村圏におけるトップレベルの競技者の育成に関する支援
カ 地域のスポーツ活動に対するスポーツ医・科学面からの支援
今後10年間の具体的施策展開
21世紀において生涯スポーツ社会の実現に取り組む中で、総合型地域スポーツクラブの全国展開は本計画の根幹となるものであり、将来的には、中学校区程度の地域での総合型地域スポーツクラブの定着及び広域市町村圏程度の地域での広域スポーツセンターの設置が最終的目標である。この目標に向け、全国の市区町村を挙げた総合型地域スポーツクラブの育成と都道府県を挙げた広域スポーツセンターの育成を行う。
1) 緊急に対応すべき重要施策
(国)
総合型地域スポーツクラブの全国展開を積極的に推進するため、総合型地域スポーツクラブ育成環境の整備、人材の育成及び生涯スポーツ社会の実現に向けた普及啓発の施策を講ずる。
ア 総合型地域スポーツクラブ育成環境の整備 総合型地域スポーツクラブ及び広域スポーツセンターの全国展開のためのモデル事業を推進するとともに、その実施により得られた成果について、全国の関係者に対して情報提供を行う。
また、総合型地域スポーツクラブの設立・運営を円滑に進めるためのマニュアルを策定するとともに、広域スポーツセンターの在り方に関するガイドラインを策定する等により、各都道府県における総合型地域スポーツクラブの育成事業や広域スポーツセンターの育成事業を支援する。
さらに、総合型地域スポーツクラブが地域のスポーツ振興やコミュニティ形成など地域で果たす公共的な役割を踏まえ、地域住民からの会費収入等による運営を基本としつつ、クラブの根幹的な要素や事業、具体的には、ロッカールーム、シャワー室、喫茶・談話室等を備えたクラブハウスの整備、スポーツ大会の開催等の事業、広域スポーツセンターの機能の整備、同センターにおけるクラブマネージャーの育成等のクラブ支援事業等に対する効果的な支援方策について、特に創設時の安定運営や施設の状況に配慮しながら検討を行い、具体化を図る。
イ 人材育成 地域で関係者間の調整を行い総合型地域スポーツクラブを創設する能力を有する人材を育成するため、先進事例に関するセミナー等の開催や情報提供等を進める。
また、クラブマネージャーの育成を推進するため、育成カリキュラムの策定、育成講習会の開催や情報提供等を推進する。
ウ 生涯スポーツ社会の実現に向けた普及啓発 成人の2人に1人が毎週スポーツを行うような生涯スポーツ社会の実現に向けて、国民一人一人が自らの関心や体力に応じて、スポーツを生活文化として日常生活の中で行うことにつながるキャンペーンを実施する。
また、生涯スポーツ社会の実現に向けた総合型地域スポーツクラブの意義や効果について、国民全般への普及啓発を行う。
(地方公共団体)
総合型地域スポーツクラブの育成を図るため、地方公共団体においては、次の事項にも配慮しながら、国と連携する施策やその他の独自の施策を自主的・積極的に行うなど、多様な施策を地域において総合的に展開することが期待される。
ア 都道府県及び市町村は、本基本計画を考慮しながら、自らのスポーツ振興計画を策定・改定する際、総合型地域スポーツクラブの育成を計画の中に位置付けること。
イ 都道府県は、総合型地域スポーツクラブに関する普及啓発を、地域住民に対して行うとともに、広域スポーツセンターの育成を推進し、総合型地域スポーツクラブの円滑な運営を支援すること。
なお、広域スポーツセンターは、都道府県が新たに建設する場合のほか、既にある基幹的スポーツ施設を都道府県が指定し、必要に応じて整備することも考えられる。
ウ 市町村は、総合型地域スポーツクラブの育成を積極的に推進すること。特に、総合型地域スポーツクラブの創設の核となる熱意と能力のある人材を、地域住民の中から得て育成すること。なお、我が国の総合型地域スポーツクラブは、中学校区程度の地域ごとにあることが望ましいが、育成の初期段階においては、地域の実態に応じて多様な規模の総合型地域スポーツクラブが形成されることも考えられる。
また、総合型地域スポーツクラブの活動拠点となる地域の公共スポーツ施設の充実を図るとともに、学校体育施設の開放、地域との共同利用を一層促進すること。その際、地域の実情に応じて活動施設の1つとして民間スポーツ施設の活用も考えられる。
さらに、クラブハウスの整備を推進すること。なお、クラブハウスは新たに建設するほか、学校の余裕教室や既存の公共スポーツ施設を積極的に活用することによる整備が考えられる。
エ 都道府県及び市町村は、総合型地域スポーツクラブに対し、その組織の継続性、透明性を高め、地域のスポーツ振興という公益活動に一層貢献するために、特定非営利活動法人(NPO法人)として法人格を取得することについて助言を行うこと。
(スポーツ団体)
各種のスポーツ事業を実施するスポーツ団体は、総合型地域スポーツクラブの全国展開を推進するため、次のような取組みに早急に着手することが期待される。
ア 地域の体育協会やレクリエーション協会、体育指導委員協議会など各種スポーツ団体においては、スポーツ指導者の派遣や事業の運営等の面で連携・協力し、総合型地域スポーツクラブの育成を支援すること。その際、体育協会の内部組織であるスポーツ少年団を創設母体の一つとすることも考えられる。
イ 既存の地域スポーツクラブにおいては、地域の状況や住民の多様なスポーツニーズを踏まえ、有機的な連合や、将来的には総合型地域スポーツクラブへの転換を図ること。
(総合型地域スポーツクラブ)
創設後の総合型地域スポーツクラブにおいては、円滑かつ継続的に事業を展開するため、次のような取組みが望まれる。
ア NPO法人格を取得すること。 法人格を取得することで総合型地域スポーツクラブは、組織として権利義務の主体となることが可能となる。また、事業内容や会計が透明化されることにより地域の行政関係者の信頼を得ることから、行政との連携の円滑化にも資すると考えられる。さらに、事業内容や会計の透明化は、会費を納める地域住民の一層の信頼を得ることにもつながり、クラブの継続性にも寄与すると考えられる。
イ 傷害保険に総合型地域スポーツクラブとして加入するなど、活動中に生じる可能性のある事故に備えること。
2) 中長期的に対応すべき施策
(国)
総合型地域スポーツクラブの育成環境の整備、人材の育成及び生涯スポーツ社会の実現に向けた普及啓発について、総合型地域スポーツクラブの全国展開の進捗状況等を踏まえて施策の見直しを行い、必要な施策の効果的推進に努める。
また、全国広域スポーツセンター連絡協議会(仮称)の開催等を通じ各都道府県の広域スポーツセンターの連携・強化を図るとともに、クラブマネージャーの資質の確保のための仕組みをスポーツ団体と協力して確立する。
(地方公共団体)
都道府県においては、総合型地域スポーツクラブの育成に取り組んでいる域内の市町村の連絡協議会を設けるなど、総合型地域スポーツクラブの育成を支援するとともに、広域スポーツセンターの整備・運営を推進することが期待される。
また、市町村においては、総合型地域スポーツクラブの育成を推進するとともに、クラブハウス等、地域住民にとって身近で利用しやすく親しみやすい施設の整備を推進することが期待される。その際、事務の効率化や地域住民へのサービス向上に配慮し、地域の実情に応じて管理運営を総合型地域スポーツクラブに委託することも期待される。
(スポーツ団体)
中央のスポーツ団体においては、国の協力を得て、クラブマネージャーの資質の確保のための仕組みを確立するとともに、広域スポーツセンターと連携してクラブマネージャーの育成を推進することが期待される。
地域のスポーツ団体においては、引き続き、総合型地域スポーツクラブの育成を支援することが期待される。
(総合型地域スポーツクラブ)
NPO法人化を進めるとともに、地方公共団体のスポーツ事業やスポーツ施設の管理運営を受託するなど、地域のスポーツ活動の中核組織として基盤の充実を図ることが望まれる。
また、総合型地域スポーツクラブへの加入層を広げてスポーツ実施率を高めていくため、地域住民の関心に対応して、スポーツ活動にとどまらず、健康に関するイベント、健康教室の開催や、レクリエーション・文化・福祉活動等も加えたクラブに発展させていくことも期待される。
なお、会員のニーズや地域の実情に応じて、カフェテリア、託児室、体力・スポーツ相談等のためのトレーナー室等をクラブハウスに設けたり、民間スポーツ施設も活動の場に活用したりするなど、会員に対する多様なサービスの提供が望まれる。
(地域住民)
日常、生活文化としてスポーツに親しむため、自らのスポーツ環境を主体的に整備し、総合型地域スポーツクラブの育成に取り組むことが期待される。特に、スポーツ指導に関する実績や能力を有する学校教員をはじめとする地域住民においては、より積極的に総合型地域スポーツクラブの活動に参加することが期待される。また、スポーツに関する認定資格を持つ地域の医師においては、地域住民の健康相談やスポーツ傷害等の医療面で積極的に総合型地域スポーツクラブの活動に参加することが期待される。
(大学等の高等教育機関、プロスポーツ組織、企業、民間スポーツ施設)
施設、人材等の面でスポーツに関する豊富な資源を有している大学等の高等教育機関においては、学生のスポーツ活動の充実はもとより、地域の一員として地域スポーツ振興に積極的に関わり、総合型地域スポーツクラブの育成に参画することが期待される。
プロスポーツ組織や企業においては、大学等と同様に地域の一員として総合型地域スポーツクラブの育成に参画するなど、地域の実態に即した形での貢献を行うことが期待される。例えば、プロスポーツ組織は、トップチームの下部組織として、地域住民が参加するスポーツクラブを育成することが考えられる。
さらに、民間スポーツ施設においては、総合型地域スポーツクラブに活動の場を提供したり、スポーツ指導者の派遣を行うなど地域のスポーツ活動により一層寄与することが望まれる。
B. 政策目標達成のための基盤的施策
[編集]総合型地域スポーツクラブの全国展開を効果的に推進するために不可欠な基盤的施策として、各主体がその役割に応じ、スポーツ指導者の養成・確保、スポーツ施設の充実、地域における的確なスポーツ情報の提供体制の整備、住民のニーズに即応した地域スポーツ行政の見直しを推進する。
(1) スポーツ指導者の養成・確保
到達目標
ニーズに対応した質の高いスポーツ指導者を養成・確保する。
現状と課題
地域住民のスポーツ活動へのニーズが高度化・多様化する中、質の高い技術・技能を有するスポーツ指導者に対する需要は高まっている。しかし、実際に地域住民がスポーツ活動を行う場においては、質の高いスポーツ指導者が量的に不足しているため、地域住民への指導が行われていない場合が多い。
さらに、地域の身近なスポーツ施設の指導者に関する情報に関しては、地方公共団体ではスポーツリーダーバンク等を設置している。しかし、地域住民まで情報が十分届いていないために、地域住民が自らのスポーツ活動に同バンクを十分活用していないという問題に加え、指導を行いたい者がその存在を知らないために登録されず、指導を行えないという問題も生じている場合がある。
スポーツ指導者の養成は、文部大臣認定のもとに、財団法人日本体育協会(以下「日体協」という。)をはじめ各スポーツ団体が実施している養成事業があるが、制度創設後10年以上経過している中、スポーツニーズの変化に十分には応えられなくなってきているという意見もある。
また、市町村の非常勤職員である体育指導委員に関しては、従来の実技指導だけではなく、地域住民と行政の調整役(コーディネーター)としての役割が期待されているが、市町村によっては、必ずしも適任者が任命されていない場合があると指摘されている。
今後10年間の具体的施策展開
質の高い技術・技能を有したスポーツ指導者の養成方策の充実を図るとともに、総合型地域スポーツクラブの全国展開など、スポーツ活動の場の拡大に伴って必要となる指導者の確保を図り、スポーツ指導者が指導を円滑に行うことのできる環境を整備する。
(国)
国民の量的・質的ニーズに応えるため、スポーツ指導者養成事業についての日体協等のスポーツ団体における検討状況に配慮しつつ、当該事業の文部大臣認定制度の見直しを行う。
(地方公共団体)
都道府県及び市町村においては、体育系大学等を卒業したり、あるいはスポーツ指導者養成事業に基づく指導者の資格を有する、質の高いスポーツ指導者をスポーツ振興部局や広域スポーツセンター、主要な公共スポーツ施設に配置するとともに、指導者の研修の充実を図る等、地域のニーズに即した人材活用方策を検討することが期待される。
さらに、市町村においては、今後は総合型地域スポーツクラブの創設の中心的な役割を果たす等、地域住民のニーズを踏まえたスポーツ振興の推進役として期待される体育指導委員について、女性の積極的な委嘱にも配慮しつつ、熱意と能力のある有資格の指導者をこれに積極的に委嘱するとともに、研修の充実を図ることが強く期待される。
(スポーツ団体)
日体協と加盟団体は連携して、「資格制度が現在のニーズに十分には応じられなくなっている」、あるいは、「受講科目、受講日程が硬直していて受講しづらい」という意見も踏まえて、年齢や技術・技能レベルなどによって異なる国民の多様なスポーツニーズに応えることができるよう、スポーツ指導者養成事業について、地域スポーツ指導者と競技力向上指導者の一本化も含めた制度の見直しを行うとともに、受講科目、受講形態の弾力化をさらに推進することが期待される。
また、スポーツ団体は、高齢者のスポーツ指導を適切に行うことのできる指導者の講習会を実施するなど、高齢社会における高齢者の多様なスポーツ・レクリエーション活動を支援したり、青少年のスポーツ活動や自然体験活動の振興を図るため、青少年教育団体との連携を強化したりすることが期待される。
さらに、障害者のスポーツ活動を支援する観点から、財団法人日本障害者スポーツ協会等の障害者スポーツ団体とも連携し、一般のスポーツ指導者が、障害者へのスポーツ指導を適切に行う能力を修得するための講習会を実施することも期待される。
(2) スポーツ施設の充実
到達目標
全国展開される総合型地域スポーツクラブに必要な、魅力あるスポーツ空間を確保する。
現状と課題
地域の公共スポーツ施設は、都道府県や市町村において整備が進められているが、身近で利用しやすく親しみやすいスポーツ施設の不足感は現在も大きい。また、総合型地域スポーツクラブの活動の場として期待されるものの、クラブの利用を前提とした整備、管理運営が行われていないため、高齢者や障害者等が利用しにくい場合が見られる。
地域住民の最も身近に所在するスポーツ施設である学校体育施設に関しては、総合型地域スポーツクラブの拠点施設としての期待も大きい。現在、学校体育施設は、地域への単なる場の開放にとどまらず、地域の有益なスポーツ施設として、共同利用が図られつつある。しかし、学校体育施設はそもそも学校教育活動に使うことを主たる目的として整備されており、スポーツ施設として地域住民から期待される機能を満たすには十分でない場合がある。さらに利用日時や利用者が限定されているなど、施設の十分な有効活用という面においても、地域住民のニーズを満たしていない場合がある。
今後10年間の具体的施策展開
学校体育施設や公共スポーツ施設を、総合型地域スポーツクラブの活動の場として有効活用できるよう充実させるとともに、地域の実情に応じて、管理運営を総合型地域スポーツクラブへ委託する等、管理運営の弾力化を図る。
(国)
総合型地域スポーツクラブのニーズを踏まえつつ、地域住民が日常的にスポーツに親しむことができるよう、地方公共団体が行うスポーツ施設の充実を支援する。
また、総合型地域スポーツクラブによるスポーツ施設の管理運営に関する先進事例を調査し、情報提供を進めるとともに、PFI事業による民間活力を導入したスポーツ施設の建設、管理運営についての調査を行う。
(地方公共団体)
地域住民の日常スポーツ活動の場である学校体育施設や公共スポーツ施設は、総合型地域スポーツクラブの全国展開を効果的に推進するために不可欠な基盤となるものである。このため、地方公共団体においては、次の事項にも留意しつつ、これらのスポーツ施設の充実及び効果的な管理運営の促進に努めることが期待される。
ア 公共スポーツ施設の充実、管理運営について、総合型地域スポーツクラブ側のニーズを踏まえるとともに、障害者や高齢者を含む地域住民が日常的にスポーツに親しむことができるよう、バリアフリーに留意しながら整備を進めること。
イ 地域の実情に応じて管理運営を総合型地域スポーツクラブへ委託すること。
ウ 新たな整備、管理運営の手段としてPFIを活用すること。
エ 学校体育施設については、総合型地域スポーツクラブの拠点として共同利用をさらに推進すること。
オ なお、学校施設については、スポーツだけではなく、レクリエーション・文化・福祉活動等も含めて、地域住民が様々な分野で生涯学習活動を行うことが可能となるよう、地域コミュニティの拠点施設としての建設、管理運営を推進すること。
カ 運動場については、子どもから高齢者まで地域住民の誰もがいつでも楽しく安全にスポーツ活動に親しむことを通じて、心身の両面にわたる健康の保持増進を図ることができる場として、地域の実態に応じて芝生化を促進すること。
キ 地域の河川敷、休耕田、空地等、地域スポーツ活動に資することが可能な空間について、土地の所有者・管理者の協力を得て、地域住民の多様なスポーツ活動の場としての有効な活用を図ること。
(3) 地域における的確なスポーツ情報の提供
到達目標
地域のニーズに即したスポーツ情報提供体制を整備する。
現状と課題
地域住民が主体的にスポーツ活動に取り組むためには、スポーツに関する様々な情報を容易に入手できる環境が整備されていることが望ましい。しかし、スポーツ施設の利用、スポーツイベント等の各種のスポーツ事業や質の高いスポーツ指導者等に関する情報の提供体制は、地域の実情に応じて整備が行われつつあるものの、情報の入手場所が限定されていたり、あるいは入手の手続きが煩雑であるといった問題が見られる場合がある。このため、スポーツをしたいと思っている者にとっては、スポーツ情報を入手することが困難であることから、主体的なスポーツ活動から遠ざかり、ひいてはスポーツ実施率が伸び悩む一因となっている。
今後10年間の具体的施策展開
スポーツ情報の提供体制の整備は、地域住民がスポーツに親しむための基盤であり、地域の実態及び住民のニーズに応じた情報提供システムの構築を図る必要がある。
(国)
地方公共団体に対して、地域住民一人一人に有益な情報を提供するシステムについてのモデル事例の提示等を行う。
(地方公共団体)
地方公共団体においては、広報誌等の紙媒体を中心とした情報提供の在り方を見直し、単に地域住民が受け取るにとどまらず、興味・関心を持ち、スポーツ活動に積極的に結びつくよう、多様な媒体を活用した有益な情報提供の実施が期待される。その際、インターネットを活用して、スポーツ情報に関するホームページを開設するなど、地域住民がより簡便な方法で情報を入手できるシステムを構築することが期待される。
(スポーツ団体)
スポーツ団体においては、自らが積極的な情報発信に努めることはもとより、地方公共団体と連携・協力して、地域住民のスポーツ活動に結びつくスポーツ情報を提供する体制を構築することが期待される。
(4) 住民のニーズに即応した地域スポーツ行政の見直し
到達目標
地域住民の主体的なスポーツ活動を支援する方向へ地域スポーツ行政の重点を移行する。
現状と課題
地域におけるスポーツ行政においては、施設整備を行うほかは、単発的・定型的なスポーツイベントやスポーツ教室等の開催に偏る傾向にあり、その結果参加者が固定化されたり、障害者の参加が困難であるなど、地域住民の継続的なスポーツ活動に十分結びついていない場合がある。
さらに、総合型地域スポーツクラブの意義・効果に関する認識も十分でなかったり、認識はしていても、総合型地域スポーツクラブの育成に積極的には関与しない等、地域住民の総合型地域スポーツクラブ創設への主体的な活動に対する行政の支援が十分ではない場合が多い。
今後10年間の具体的施策展開
(国及び地方公共団体)
総合型地域スポーツクラブの全国展開に向けて、国と都道府県、市町村のスポーツ振興を担当する部局相互間の連携・協力を推進する。さらに、それぞれのスポーツ振興部局においては、社会福祉・健康づくりやまちづくり等のスポーツ活動に資する施策を行う関係部局との連携・協力を図り、総合的・効率的なスポーツ行政を推進する。特に障害者については、そのスポーツニーズが多様化していることを踏まえ、スポーツ振興部局は福祉関係部局と連携した障害者スポーツ行政を推進する。
また、総合型地域スポーツクラブの全国展開を効果的に推進するためには、地域住民にとって最も身近な行政主体である市町村の役割は特に大きい。このため、市町村においては、次の事項にも留意しつつ、スポーツ行政の見直しを図ることが期待される。
ア 総合型地域スポーツクラブの育成計画を盛り込んだ、市町村のスポーツ振興計画を策定・改定すること。
イ イベント中心に陥りがちなスポーツ行政ではなく、地域住民に対するスポーツ行政への定期的な需要調査の実施等を通じて、変化する住民ニーズを適時適切に把握し、総合型地域スポーツクラブの育成等のように、地域住民自らが主体的に取り組むスポーツ活動への支援を推進する方向へ行政の重点を移行すること。
ウ 地域のニーズを反映した行政を推進するためにも、住民と行政の調整役としての役割が期待される体育指導委員の資質の向上及び積極的活用を図ること。
エ 総合型地域スポーツクラブの活動を促進するため、指導者の養成や施設の充実、活動の機会の場の提供などの環境整備を行うこと。
2. 我が国の国際競技力の総合的な向上方策
[編集]政策目標: | (1) オリンピック競技大会をはじめとする国際競技大会における我が国のトップレベルの競技者の活躍は、国民に夢や感動を与え、明るく活力ある社会の形成に寄与することから、こうした大会で活躍できる競技者の育成・強化を積極的に推進する。 (2) 具体的には、1996年(平成8年)のオリンピック競技大会において、我が国のメダル獲得率※が1.7パーセントまで低下したことを踏まえ、我が国のトップレベルの競技者の育成・強化のための諸施策を総合的・計画的に推進し、早期にメダル獲得率が倍増し、3.5パーセントとなることを目指す。 |
※「メダル獲得率」とは、オリンピック競技大会におけるメダルの獲得数をそのオリンピック競技大会における総メダル数で除したものである。我が国のメダル獲得率は、1976年(昭和51年)の夏季及び冬季オリンピック競技大会では3.5パーセントであったが、その後諸外国において競技者の育成・強化のための施策が組織的・計画的に推進される中、長期的に低下する傾向にある。
A. 政策目標達成のため必要不可欠である施策
[編集]国際競技力の向上を図るためには、広くジュニア層まで視野に入れ、優れた素質を有する競技者に対し、個人の特性や各年齢期における発達の特徴に応じた指導を行い、世界で活躍できるトップレベルの競技者を組織的・計画的に育成する必要がある。
このため、競技団体は、競技者の育成・強化を行う主体として、トップレベルの競技者の育成方針を作成し、これに基づき競技者を育成する仕組みを構築する。国、地方公共団体をはじめとする関係機関・団体は、この仕組みの基盤となる強化拠点の整備をはじめとして、指導者の養成・確保及び競技者が安心して競技に専念できる環境の整備を総合的に推進する。
(1) 一貫指導システムの構築
到達目標
トップレベルの競技者を組織的・計画的に育成するため、一貫指導システムを構築する。具体的には、2005年(平成17年)を目途に、競技団体がトップレベルの競技者を育成するための指導理念や指導内容を示した競技者育成プログラムを作成するとともに、このプログラムに基づき競技者に対し指導を行う体制を整備する。
現状と課題
我が国においては、ジュニア期の競技者については学校における指導者が、トップレベルを目指している競技者については大学、企業等における指導者が、それぞれの考え方に基づき指導を行い、これらの競技者のうち国内の競技大会で好成績を収めた者をオリンピックをはじめとする国際競技大会への参加に当たり強化するという競技者の育成方法が主体となっている。
しかしながら、この方法では、競技者の能力を将来に向けて適切に伸ばすための指導が十分行われず、とりわけ競技者の育成において最も重要なジュニア期における指導が各学校段階を通じて継続的に行われにくい。このことが、競技者の育成を計画的に行う諸外国と比較して、我が国ではトップレベルの競技者が多く輩出されず、国際競技力の低下を招いた要因の一つに挙げられている。
また、少子化の進行等により競技人口の縮小が懸念される中、自然に淘汰されて選び出された競技者を強化するという現在の育成方法では、今後の国際競技力の向上は望みにくい状況にある。
このため、現在の育成方法を見直し、優れた素質を有する競技者が、指導者や活動拠点等にかかわらず、一貫した指導理念に基づく個人の特性や発達段階に応じた最適の指導を受けることを通じ、トップレベルの競技者へと育成されるシステム(以下「一貫指導システム」という。)を各競技で構築する必要がある。
一貫指導システムの構築に当たり、競技団体は、国際的な競技者育成の動向等を踏まえ、トップレベルの競技者を育成するための指導理念や指導内容等を競技者の発達段階や技術水準に応じて明確にし、優れた素質を有する競技者にこの指導理念等に基づく高度な指導を継続して行うことが不可欠である。
また、一貫指導システムが円滑に機能するためには、競技者が日常のトレーニングを行う学校等における指導内容と競技団体の指導内容とが大きく異なり、競技者の効果的な育成に支障が生じないよう、学校、財団法人日本中学校体育連盟や全国高等学校体育連盟等の学校体育・スポーツ活動の振興を図る団体(以下「学校体育団体」という。)及び総合型地域スポーツクラブをはじめとする地域スポーツクラブと競技団体との十分な連携が必要である。
今後10年間の具体的施策展開
1) 競技者育成プログラムの作成
2005年(平成17年)を目途に、競技ごとに競技者の育成・強化の指導理念や指導内容を示した競技者育成プログラムが作成されるよう、現在文部省が財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)に委嘱して実施している「一貫指導システム構築のためのモデル事業」の成果を踏まえて、競技者育成プログラムのマニュアルを作成する。
競技団体は、競技者育成プログラムにスポーツ医・科学面の研究成果が反映されるよう、その作成に当たり体育系大学等の研究者の参画を得ることが望ましい。
2) 競技者育成プログラムに基づく競技者の育成の促進
各地域の優れた素質を有する競技者や大学、企業等でトップレベルを目指している競技者に競技者育成プログラムに基づく高度な指導を継続して実施する競技団体等に対する支援を充実する。
競技団体は、各地域等での指導を行うに当たり、競技者の体力・運動能力、スポーツ適性等の情報の把握に努め、この情報を基に特に将来が嘱望される者を全国レベルで選考し、これらの者に対するより高度な指導が効果的に行われるよう十分配慮する。
3) 一貫指導を実施するための体制の整備
学校や地域スポーツクラブにおける指導者をはじめとするスポーツ関係者に対して、一貫指導システムの意義や競技ごとの競技者育成プログラムの趣旨及び内容に関する普及啓発活動を推進する。この場合、ジュニア期の競技者を効果的に育成するため、ジュニア期に複数の競技種目を体験する機会の確保、競技者の心身両面での負担の軽減等について関係者の理解の醸成に努める。また、競技大会については、学校対抗形式にとらわれず、複数校合同及び地域スポーツクラブからの参加の促進や児童生徒の発達に即した年齢別グループごとの競技の実施等の工夫がなされるよう、関係者の相互の理解と連携を図る。
競技団体は、この普及啓発活動の一環として、中央組織にあっては大学の運動部や企業の指導者と、地方組織にあっては各学校や地域スポーツクラブの指導者との連絡会議や合同練習等を積極的に開催するなど、中央レベルから地域レベルまでが一体となった競技者の組織的な育成体制を整備することが望ましい。
さらに、JOCや競技団体は、競技力の向上のための各種事業を円滑に推進するため、競技力向上の企画立案やマーケティング活動等を担当する職員に対する研修活動の充実やこうした職員の専任化等を推進し、地方組織を含めてマネジメント機能の強化と財政基盤の充実を図るとともに、組織内の責任体制を明確にすることが期待されている。
4) 優れた素質を有する競技者の発掘手法の研究開発等 競技団体が、競技特性を踏まえた客観的な指標に基づき、優れた素質を有する競技者を発掘できるよう、各競技における競技者育成プログラムの内容等を勘案した上で、競技者の発掘手法に関する調査研究を行う。この調査研究を行うに当たっては、現在整備が進められている国立スポーツ科学センター(仮称)(以下「JISS」という。)や体育系大学等に蓄積されるトップレベルの競技者の身体特性等の情報を活用する。
競技団体は、JISSの協力を得て、優れた素質を有する競技者について各団体が保有する情報の共有化を図ることが望ましい。
(2) トレーニング拠点の整備
到達目標
一貫指導システムに基づく競技者の育成・強化を効果的に行うため、トップレベルの競技者や地域の優れた素質を有する競技者が集中的・総合的にトレーニングを行う拠点を整備する。特に、トップレベルの競技者の強化のため、ハード・ソフト両面において充実した機能を有するナショナルレベルの本格的なトレーニング拠点を早期に整備する。
現状と課題
トップレベルの競技者の強化に当たっては、競技者が同一の活動拠点で集中的・継続的にトレーニングを行う環境を整える必要がある。特に、国際的な動向を踏まえると、トップレベルの競技者はスポーツ医・科学の成果を活用した高度なトレーニングを十分な時間をかけて行う必要があり、こうしたトレーニングを行う拠点を恒常的に確保することが求められている。
諸外国では、こうした観点から、トップレベルの競技者が高度なトレーニングを行う拠点としてナショナルトレーニングセンターを設置しており、アトランタオリンピックの金メダル獲得数上位10か国のうち9か国までがこうした施設を有している。
このため、我が国においても、国際競技力の向上を図るためには、ナショナルレベルの本格的なトレーニング拠点の整備が不可欠になっている。
また、一貫指導システムによる競技者の育成のためには、各地域の優れた素質を有する競技者に対して個人の特性に応じた高度な指導を継続して行う必要がある。こうした指導は使用施設によっては十分な効果を得られない場合もあることから、あらかじめ各地域におけるトレーニング拠点を確保した上で計画的に行うことが重要である。
今後10年間の具体的施策展開
1) 我が国のナショナルレベルのトレーニング拠点の整備
ナショナルレベルのトレーニングセンターの在り方についての調査研究協力者会議の結論を踏まえ、我が国におけるナショナルレベルのトレーニング拠点の整備指針を作成する。
ハード・ソフト両面において充実した機能を有するナショナルレベルの本格的なトレーニング拠点の整備をこの指針に基づいて早期に着手する。
その際、JISSや体育系大学をはじめとする研究機関等が担うスポーツ医・科学面の支援方策を具体化する。
2) 地域における強化拠点の整備等
各地域の優れた素質を有する競技者が効果的なトレーニングを恒常的に行うことができる地域の強化拠点の整備を促進する。この整備に当たっては、既存の公共スポーツ施設や企業等が所有するスポーツ施設の活用に十分留意する。
また、競技団体は、この地域の拠点を核として一貫指導が適切に実施されるよう、地方公共団体と連携を図りながら、この拠点における専門的な技術指導者の確保やスポーツ医・科学面でのサポート体制の整備に努める。
(3) 指導者の養成・確保
到達目標
一貫指導システムにおいて、優れた素質を有する競技者への指導を担う高度な専門的能力を有する指導者の養成・確保と指導者の専任化を促進する。
現状と課題
国際競技力の向上のためには、競技者の育成・強化方法に関する世界の先進事例等を十分に理解した指導者が、トップレベルの競技者やこれを目指す優れた素質を有する競技者(以下「トップレベル競技者等」という。)に十分な時間をかけて指導を行う必要があるが、我が国の指導者は質的、量的にみて以下の状況にある。
(質的な面)
国際競技力の向上を図るためには、トップレベル競技者等に対して、競技者育成プログラムを踏まえつつ、競技者各人の特性に応じた専門的な技術指導を行うことができる指導者を十分に確保する必要がある。とりわけ、トップレベルの競技者の指導者は、オリンピック等の国際競技大会に向けて、国際的な競技水準を踏まえた戦術・戦略を構築するとともに、これに基づきスポーツ医・科学に関する知識等を活用した強化方法を立案・指導する能力が求められている。
しかしながら、我が国では専門性の高い指導者の養成を計画的に行う仕組みが確立されていない。
(量的な面)
国際的な競技者育成の動向を踏まえると、トップレベル競技者等は十分な時間をかけてトレーニングに専念することが必要であり、その指導者についても指導に専念することが求められている。
このため、諸外国では、指導者の専任化が積極的に推進されており、トップレベル競技者等を指導する有給の指導者は、ドイツにおいては789名(1996年)、フランスでは1,654名(1991年)を数えている。
我が国でも、1989年(平成元年)から、JOCがオリンピックでのメダル獲得が有望な競技団体に専任コーチを配置し、国もこれに対する支援を行っているが、この数は、現在29競技29名に止まっている。また、スポーツ団体の中には、独自の財源により指導者を確保している団体もあるが、その数は十分とはいえない状況にある。
このため、我が国においても指導者が指導に専念できる体制の充実を図ることが求められている。
さらに、技術的な専門指導者に加え、体力トレーニングや栄養面の指導、心理面のサポート、コンディショニング等の競技水準の向上に重要な役割を果たす分野において、高い専門性を有するスタッフを確保することも課題となっている。
今後10年間の具体的施策展開
1) 一貫指導システムを担う指導者の養成・確保
中央から各地域まで一貫指導システムを担う指導者が十分に確保されるよう、競技団体が作成する指導者養成・確保計画に基づき、トップレベル競技者等の指導者の専任化の促進や各地域における指導者の適正な確保を図る。この場合、日体協と加盟競技団体が連携して実施しているスポーツ指導者養成事業について、競技者育成プログラム等に基づく指導に必要となる知識を効果的に習得でき、また、トップレベル競技者等の指導者にも受講し易いものとなるよう、必要な見直しを行う。
また、スポーツ団体は、指導者がトップレベルの競技者への指導に専念できるようにするため、例えばこうした指導者がトップレベルの競技者への指導から離れた後も、各地域等における指導者として継続して活躍できる体制を整備すること等を検討することが望ましい。
さらに、JOCと競技団体は、指導者養成・確保計画の作成に当たり、日体協との連携を図りつつ、競技者育成プログラムを実施する上で必要となる指導者の資質を明確に示すとともに、競技力向上の企画立案、体力トレーニングや栄養面の指導、心理面のサポート、コンディショニング等に高い専門性を有するスタッフの養成・確保に十分配慮する。
2) ナショナルコーチアカデミーの設置
トップレベル競技者等の指導者が国際的な競技水準を踏まえた戦術・戦略の構築やスポーツ医・科学に関する知識を活用した強化方法の立案・指導を行うために必要となる、高度な専門的能力を習得するための研修制度(ナショナルコーチアカデミー制度)の創設を支援する。制度の創設に当たっては、スポーツ指導者養成事業の効果的な活用、ナショナルチーム等での実践指導の機会の提供、スポーツ医・科学面の最新の専門的知識等の効果的な習得、既存のスポーツ指導者在外研修制度の活用等に十分留意する。
また、この研修が効果的に行われるよう、JISSや体育系大学との連携体制を確立し、スポーツ医・科学の研究成果の活用や研究者の協力の確保を図る。
3) 学校や地域における指導者に対する一貫指導システムについての理解の増進
競技者が日常のトレーニングを行う学校や地域スポーツクラブの指導者に対して、一貫指導システムの意義や競技力育成プログラムの内容についての普及啓発活動を推進する。この場合、競技団体は、日体協及び地域の体育協会と連携を図り、競技者育成プログラムを踏まえた指導の優良事例を学校等の指導者に積極的に提供することが望ましい。
(4) 競技者が安心して競技に専念できる環境の整備
到達目標
トップレベル競技者等が世界の頂点に向け競技に専念できるような体制を整備する。
現状と課題
トップレベルの競技者がオリンピック等の国際競技大会でその実力を発揮するためには、十分な時間をかけてトレーニングに専念することが不可欠であるが、我が国におけるトップレベル競技者等を取り巻く環境は、以下の状況にある。
(我が国のスポーツを取り巻く環境の変化)
我が国の国際競技力は、企業が社会貢献という観点も踏まえて運動部を運営し、トップレベル競技者等がこの運動部でトレーニングを行うとともに、各種大会へ参加するなど多くの企業の支援に支えられてきた。しかしながら、近年の厳しい経済状況等から、1995年(平成7年)から1999年(平成11年)までの5年間で100以上の企業の運動部が休廃部する事態が発生しており、トップレベル競技者等が安心して競技に専念できる環境を確保する上で支障が生じ始めている。
こうした中で、国際競技力の一層の向上を図るためには、我が国における今後の企業スポーツの在り方をはじめとして、競技者が安心して競技に専念できる環境の整備に向けて取り組むべき課題を明確にする必要がある。
また、我が国の競技スポーツにおいては、企業等の民間セクターが重要な役割を果たしていることを踏まえ、スポーツへの支援を行う企業の社会的な評価の向上に努めるなど、企業が積極的にスポーツを支援するための誘導措置を講じることが求められている。さらに、企業等からの支援を積極的に導入するため、JOCや各競技団体によるマーケティング活動の充実を図ることも不可欠になっている。
(競技者の引退後への配慮)
トップレベル競技者等の生活を考えた場合、トレーニングに専念している期間には学業や仕事の停滞が生じ、引退後の生活全般に負担が生じるおそれがある。
このため、トップレベル競技者等については、人格的にも優れた社会性を培うとともに、トレーニングに専念している期間や競技生活から引退した時点で、引退後の生活に必要となる職業的知識や技能を習得する機会を提供することが重要である。
また、国際競技力の向上を図るためには、トップレベルの競技者の国際競技大会等における経験や日常のトレーニングで得た経験が世代を超えて蓄積され、次代の競技者に活用されることが重要である。
しかしながら、我が国のトップレベルの競技者は、引退後スポーツ以外の職業につく場合が多く、競技生活で培ったノウハウが十分活用されているとは言い難いことから、これらの競技者が引退後に指導者として活躍できる環境を整備する必要がある。
(傷害への適切な対応)
競技者の活動中の傷害への補償については、スポーツ安全保険や競技団体等が加入する民間保険等により対応しているが、こうした保険への加入状況や一部保険における保険金額は、競技者が安心して競技に専念するためには十分とは言えない状況にある。
今後10年間の具体的施策展開
1) スポーツ環境の変化への対応
企業スポーツの現状について企業の経営環境や競技者のトレーニング環境を中心に課題を抽出するとともに、諸外国におけるトップレベル競技者等のトレーニング環境に関する調査を行い、これを踏まえて、行政、スポーツ団体、企業及び地域の役割を明確化しつつ、今後の我が国におけるトップレベル競技者等が競技に専念できる環境の整備に向けた指針を作成する。
2) トップレベルの競技者の指導者への活用の促進
トップレベルの競技者が引退後に一貫指導システムを担う指導者として活躍できるよう、指導者となるための研修活動に対する支援措置を充実する。特に、ナショナルレベルのトレーニング拠点において、指導者となるための研修をトレーニングと同時に受講できるよう十分配慮する。
地方公共団体は、トップレベルの競技者を引退後に学校の特別非常勤講師等として採用し、その経験を競技力向上や青少年の教育へ活用することが望ましい。
3) 競技力向上を支える企業に対する支援措置の充実
スポーツの振興に貢献した企業の顕彰制度を設け、スポーツ振興のために行う企業の活動を積極的に周知するとともに、日体協及びJOCが行う免税募金制度が企業にこれまで以上に活用されるよう、事務の簡素化等の見直しや企業に対する一層の周知に努めるなど、企業からスポーツへの支援を広く受けることができるような多様な措置を積極的に講じる。
JOCや競技団体は、こうした観点から、選手の肖像利用の在り方の多様化等マーケティング活動について必要な措置を講ずることが望ましい。また、スポーツへの支援を行う企業に使用する権利が与えられているシンボルやエンブレム等を第三者が不正に使用し、スポーツを支援する企業に不利益が生じることのないよう、こうした知的財産の保護に向けた取組みを一層推進する。
4) 傷害への適切な対応
スポーツ活動中の傷害に対する保険への競技者の加入を一層促進するとともに、保険金額の面を中心に必要に応じて競技者の傷害に対する補償の在り方について必要な見直しや関係者への協力要請を行う。
B. 政策目標達成のために必要な側面的な施策
[編集](1) スポーツ医・科学の活用
到達目標
スポーツ医・科学の研究成果を活用した競技者の育成を行うため、その基盤となる実践的なスポーツ医・科学の研究体制を整備する。
現状と課題
国際競技力の向上を図るためには、競技者のトレーニングやコーチングにスポーツ医・科学の研究成果を適切に反映させる必要がある。このためには、体育系大学をはじめとする研究機関等におけるスポーツ医・科学の基礎研究の成果を実際の指導に活用するための総合的・実践的な研究を行い、この研究成果を競技者の育成の場に還元する必要がある。
このため、2001年度(平成13年度)から本格的な活動が開始されるJISSにおいて、国際競技力の向上のためのスポーツ医・科学研究の促進、科学的トレーニング方法の開発、スポーツに関する各種情報の収集・提供、スポーツ障害等に関する予防法の研究や競技者として復帰するための治療やリハビリテーションを総合的に実施することが求められている。
こうしたJISSの活動には、研究スタッフの確保や共同研究の実施等の面で、スポーツ団体、体育系大学をはじめとする研究機関等からの協力が不可欠である。
また、スポーツ医・科学の研究成果を活用した指導が全国で行われるためには、地域における競技者の強化拠点やスポーツ医・科学研究機関等に対し、JISSがスポーツ医・科学を中心とする各種のスポーツ情報を積極的に提供する必要がある。
今後10年間の具体的施策展開
1) スポーツ医・科学に基づいたトレーニング、コーチング方法等の開発
JISSは、競技団体と連携して、スポーツ医・科学の研究成果や最新の情報技術等の活用により、トップレベル競技者等の能力等を総合的に分析し、その結果を踏まえて競技者の特性に応じた効果的なトレーニングやコーチング方法を開発するとともに、競技力向上に資するスポーツ用品の開発を支援する。
また、JISSは、トップレベル競技者等の身体特性、運動能力等に関する総合的な分析を推進し、この成果を活用して、地域のスポーツ医・科学研究機関等との連携のもと、競技団体等が行う優れた素質を有する競技者の発掘を支援する。
2) スポーツ医・科学研究の推進等
JISSは、体育系大学をはじめとする研究機関、スポーツ団体、地方公共団体等と積極的に研究協力、情報交換を行いつつ、国際競技力の向上に直結するスポーツ医・科学研究、競技者として復帰するための治療やリハビリテーション等を行う。
3) 我が国におけるスポーツ情報に関する中枢的機能の確立
JISSは、我が国におけるスポーツ情報に関する中枢的な機関として、体育系大学をはじめとする研究機関、スポーツ団体及び地方公共団体等との連絡体制を確立し、スポーツ医・科学に基づいたトレーニングやコーチングの方法、スポーツ医・科学研究の最新成果及び優れた素質を有する競技者に関する情報の収集及び提供を行う。
4) JISSの組織運営体制の充実
JISSの事業が円滑に行われるよう、その研究員の確保や研究の質的向上等に努め、JISSの組織運営体制の充実を図る。
(2) アンチ・ドーピング活動の推進
到達目標
我が国のアンチ・ドーピング体制の整備と国際機関との連携強化を促進する。
現状と課題
競技成績の向上を目的として筋肉増強剤等の禁止薬物を使用するドーピングは、フェアプレイの精神に反することはもとより、競技者自身の健康を害するおそれや青少年の薬物使用を助長する懸念があり、決して容認できるものではない。しかしながら、ドーピング違反の疑いがある者の検出数は、国際的には1991年(平成3年)の805名から1998年(平成10年)の1,926名へと、我が国においても1991年(平成3年)の15名から1998年(平成10年)の32名へと、ともに増加する傾向にある。また、我が国の検出者数は低水準にあるものの、検査数も多くないことから、国際的にみて、我が国はドーピング違反が少ないとは言えない状況にある。
国際的には、1999年(平成11年)11月、国際オリンピック委員会(以下「IOC」という。)を中心に、スポーツ界、政府、競技者、学識経験者等の協力のもと、国際的なドーピング検査の基準、ドーピング違反に対する制裁手続き等の統一、アンチ・ドーピング活動に関する教育・啓発活動等を行うことを目的とする世界アンチ・ドーピング機構(以下「WADA」という。)が設立され、世界的なアンチ・ドーピング活動の推進体制の整備が行われている。
こうした中で、欧米諸国では、アンチ・ドーピング活動を行う公的機関がスポーツ界から独立して設けられ、競技外検査の実施、競技者や指導者に対する教育・啓発活動等が積極的に行われているのに対し、我が国のアンチ・ドーピング活動は、現在、主に国際競技大会において義務付けられているドーピング検査の実施にとどまっている。
このため、我が国においても、アンチ・ドーピングについて統括的、中立的に活動を行う機関(国内調整機関)によるアンチ・ドーピング活動を充実する必要がある。
アンチ・ドーピング活動を推進するに当たっては、ドーピング違反が競技者やその指導者のドーピングに関する知識の欠如によるものも多いことから、アンチ・ドーピングに関する教育・啓発活動を積極的に推進することが求められている。
今後10年間の具体的施策展開
1) 国内調整機関の設置と支援
国、スポーツ団体及びスポーツ医・科学研究者が連携して、公正なアンチ・ドーピング施策の策定及び推進に関しスポーツ界を統括する「国内調整機関」を公益法人として設立するとともに、その運営に対し必要な支援を行い、競技者に対する教育・啓発活動をはじめとするアンチ・ドーピング活動の充実・強化を図る。
2) 国際機関との連携の確立
WADAにおけるアジア地域を代表する常任理事国として、アンチ・ドーピングに関する国際的な教育・啓発活動等に積極的に取り組む。
(3) 国際的又は全国的な規模の競技大会の円滑な開催等
到達目標
国際的又は全国的な規模の競技大会の円滑な開催のための体制を整備する。
現状と課題
国際競技大会や国民体育大会等の全国規模の競技大会の開催は、競技水準の向上やスポーツの普及のみならず、多くの人々のゆとりある生活の形成にも貢献するものである。特に、青少年が国際競技大会等を実際に観戦することは、スポーツへの興味・関心を高め、我が国のスポーツの振興に資するとともに、豊かな国際性を培う機会となる。
国際競技大会等を円滑に開催するためには、開催地の地方公共団体や競技団体が、過去の大会の招致や準備・運営に関する情報、大会を支えるボランティアに関する情報等を十分に活用する必要があり、こうした情報を収集・提供するための仕組みを構築することが求められている。
また、近年の厳しい経済状況等を踏まえ、国際競技大会や国民体育大会等の開催が開催地に過重な負担とならないよう、大会運営の簡素化や効率化に十分配慮する必要がある。
さらに、パラリンピックをはじめとする障害者スポーツ大会が、障害のある人のスポーツへの参加の契機となるばかりでなく、多くの国民に感動を与えるものであることを踏まえ、我が国における障害者のスポーツ大会の開催や国際的な障害者のスポーツ大会への参加が円滑に行われるよう、スポーツ団体も協力することが求められている。
今後10年間の具体的施策展開
1) 国際競技大会の円滑な開催
今後とも我が国で国際競技大会を積極的に開催するとともに、その開催について必要な支援を行う。また、国際競技大会等の運営の簡素化・効率化を推進するとともに、大会の招致や円滑な準備運営にとって不可欠である国際経験の豊富なスタッフの養成に努める。
2) 国際競技大会等の開催に必要なノウハウの共有化
国際競技大会等の招致や円滑な準備運営のため、過去に我が国で開催された大会の招致や準備・運営に関する情報をJISSに集約し、提供する。
3) 国際競技大会等に参加するボランティアの組織化
地方公共団体やスポーツ団体は、相互に協力しつつ、国際競技大会等におけるボランティアの窓口となる組織を整備し、その募集に関する広報活動等を行うことが望ましい。
4) パラリンピック等に対する支援
パラリンピック等の障害者スポーツの大会への障害者の参加が円滑に進むよう、スポーツ団体は財団法人日本障害者スポーツ協会等との連携を強化することが望ましい。
(4) プロスポーツの競技者等の社会への貢献の促進
到達目標
スポーツの振興や活力ある社会の形成に向けたプロスポーツの競技者等の活動を促進する。
現状と課題
スポーツの楽しみ方として、スポーツを競技場で観戦したり、テレビで見たりする「みるスポーツ」の重要性が高まっている。こうした中で、多くの人々に親しまれているプロスポーツは、青少年のスポーツへの関心を高め、スポーツの裾野を広げる役割を果たすとともに、プロスポーツの競技者の高度な技術はスポーツ全体の競技力の向上にも貢献するなど大きな意義を有している。
しかしながら、プロスポーツには未だに興業のイメージを持つ国民が少なくない現状にあり、プロスポーツを一層振興するためには、プロスポーツの競技者が素晴らしい技術により人々に楽しみを与えるなど社会に大きく貢献する存在であるとの意識を国民各層に浸透させていくことが望まれている。
こうした中で、プロスポーツの競技者や引退した者が、青少年や地域のスポーツ愛好者等にその高度な技術や経験を伝えることをはじめとする社会貢献活動を積極的に行い、その社会的な評価の向上に努めることが求められている。
また、現在では、IOCのオリンピック憲章で「アマチュア」の文言が削除されるとともに、プロの競技者がオリンピックや国際競技大会に参加できる競技が増加するなど、アマ・プロのオープン化が進んでおり、我が国のスポーツ振興や国際競技力の向上の観点から、プロスポーツとアマチュアスポーツとの間の連携の強化を推進する必要がある。
今後10年間の具体的施策展開
1) プロスポーツの競技者等の技術指導等を通じた社会貢献活動の促進
「プロスポーツ選手等による技術活用事業」を一層推進し、プロスポーツの競技者等が青少年を中心とするアマチュアの競技者に指導を行う機会を積極的に提供する。
2) プロスポーツ団体と競技団体等の連携の強化
プロスポーツとアマチュアスポーツの関係者との研究協議や情報交換の機会を充実し、両者が一体となって競技者の育成・強化を推進する環境を整備する。
3. 生涯スポーツ及び競技スポーツと学校体育・スポーツとの連携を推進するための方策
[編集]政策目標: | 生涯にわたる豊かなスポーツライフの実現と国際競技力の向上を目指し、生涯スポーツ及び競技スポーツと学校体育・スポーツとの連携を推進する。 |
A. 政策目標達成のため必要不可欠である施策
[編集]生涯を通じた豊かなスポーツライフの実現やトップレベルの競技者への育成に結びつく、子どもたちの多様なスポーツニーズに応えるため、学校と地域社会・スポーツ団体との連携を推進する。
(1) 子どもたちの豊かなスポーツライフの実現に向けた学校と地域の連携の推進
到達目標
学校と地域社会が連携して地域のスポーツ環境づくりを推進することにより、子どもたちの学校内外のスポーツ活動を充実する。
現状と課題
完全学校週5日制の実施に向けて、学校においても、家庭や地域の人々とともに子どもを育てていくという視点に立ち、学校開放の一層の推進など学校運営全体にわたる工夫改善を図ることが求められている。一方、今後、生涯スポーツ振興の主柱となる総合型地域スポーツクラブの全国展開が進むことにより、子どもたちを取り巻く地域のスポーツ環境は格段に充実していくと考えられる。
このような状況の中で、今後の子どもたちのスポーツ活動についても、学校、家庭、地域社会がそれぞれの教育機能を発揮することを前提に、地域スポーツクラブの人材も活用しながら子どもたちが学校で多様な指導を受けることができるよう配慮することと、学校と地域スポーツクラブとの一層の連携を通じて子どもたちに学校外でのスポーツ活動の機会を積極的に提供することにより、学校内外を通じた子どもたちのスポーツ活動を充実していくことが課題となっている。
また、開かれた学校づくりの一環として、地域の貴重なスポーツ環境としての学校の体育施設をより有効に活用することは極めて有意義なことであり、学校体育施設の共同利用の一層の促進を通して、子どもたちを含めた地域の人々のスポーツ活動の場を広げていくことが重要な課題となっている。
今後10年間の具体的施策展開
次の事項に配慮しながら、総合型地域スポーツクラブなど地域スポーツクラブ等との連携を図ることについて、各学校の取組みを促すとともに、学校体育施設の地域との共同利用を促進する。また、児童生徒の地域スポーツクラブにおける活動中の災害に対する補償制度の充実について、関係団体の取組みを促す。なお、学校体育団体においては、学校内外を通じたスポーツ活動充実の観点から、総合型地域スポーツクラブ育成への協力が期待される。
ア 地域においてスポーツ活動が活発に行われており、しかも学校に指導者がいない場合には、競技種目によっては運動部の活動を地域のスポーツ活動と連携して実施できるよう、教職員と地域住民との協議の場を設ける等連携体制の工夫に努めること。
イ 運動部と地域スポーツクラブに同時に所属することを柔軟に認めること。
ウ 開かれた学校づくりの一環として、地域のスポーツ指導者を学校教育へ活用することや地域社会の一員としての教職員のボランティア活動の意義について教職員間で共通理解を図ること。
エ 地域のスポーツ環境の状況や学校の実態等に応じて、総合型地域スポーツクラブの育成への協力など地域社会と連携したスポーツ活動の展開に努めること。
(2) 国際競技力の向上に向けた学校とスポーツ団体の連携の推進
到達目標
学校体育・スポーツと競技力向上の一貫指導システムが連携した国際競技力の向上のための環境づくりを推進することにより、特に優れた素質を有する生徒の競技力向上を実現する。
現状と課題
学校においては、生徒の能力・適性、興味・関心等を踏まえた「個に応じた指導」の充実を図るため、将来において生きがいをもち、個性豊かで活力に満ちた生活を送れるよう、一人一人の個性を最大限伸ばしていくことが求められている。特に、優れた素質を有し、競技力向上の意欲のある生徒については、発達段階や個人の特性に応じた最適の指導を受けることを通じて、組織的・計画的にトップレベルの競技者へと育成されることが望ましい。
しかしながら、こうした生徒については、進学するたびに指導者が替わり、各学校段階を通じて継続した指導が受けられず、その能力を十分に発揮できないこともあり、これが我が国の国際競技力の向上を阻害する要因の一つとなっている。
このため、競技団体が構築する一貫指導システムと学校体育・スポーツの連携が必要である。
今後10年間の具体的施策展開
地域における競技力向上体制の整備状況に応じて、地域の強化拠点への生徒の派遣や、競技団体が作成した競技者育成プログラムの活用などにより、各学校において生徒の資質や能力を育成できるような方策を検討する。
また、地方の競技団体や地域スポーツクラブの指導者が各学校の要請に基づき必要に応じて定期的に運動部活動を指導できるようなシステムの構築を図る。なお、学校と地方の競技団体や地域スポーツクラブとの連携を促進するよう、中央の競技団体の作成した競技者育成プログラムや指導者などに関する情報の各学校への提供について、競技団体の取組みを促す。
B. 政策目標達成のための基盤的施策
[編集]豊かなスポーツライフの実現と国際競技力の総合的な向上とを効果的に進めるための基盤的施策として、児童生徒の運動に親しむ資質・能力の育成や体力の向上を図るとともに、学校体育指導者・施設の充実や運動部活動の改善・充実を図る。
(1) 児童生徒の運動に親しむ資質・能力や体力を培う学校体育の充実
到達目標
- 運動に親しむ資質・能力を育成し、児童生徒が生涯にわたり豊かなスポーツライフを送れるようにする。
- たくましく生きるための体力の向上を目指し、児童生徒の体力の低下傾向を上昇傾向に転じるため、児童生徒が進んで運動できるようにする。
現状と課題
スポーツライフが充実したものとなるかどうかは、青少年の時期に様々なスポーツに接したか否かにより決まると言われている。学校体育・スポーツは生涯にわたる豊かなスポーツライフの基礎を培うものであり、学校において、体育の授業や運動部活動などを通じ、児童生徒がスポーツに親しみ、その楽しさや喜びを味わう機会を確保することは、我が国のスポーツ振興の観点から極めて重要である。
このため、平成10年度に改訂された学習指導要領においては、心と体を一体としてとらえ、生涯にわたる豊かなスポーツライフ及び健康の保持増進の基礎を培う観点に立って、体育や保健の内容が改善された。
一方、最近の児童生徒は、日常生活における身体活動の機会や場の減少などを背景に基礎的な体力や運動能力が低下する傾向にある。また、運動やスポーツに興味を持ち、積極的に活動する児童生徒とそうでない者の二極化や、生活習慣の乱れや精神的なストレス及び不安感が高まっている現状も見られる。
今後も、生活が便利になること等により、日常生活の中で体を動かす機会がますます減少することが予想されるところであり、運動の機会を定期的に提供し、生涯にわたりスポーツに親しむ契機となる学校体育の重要性は、従来にも増して高まっている。
特に、児童生徒の体力については、体育の授業のみならず、特別活動、総合的な学習の時間、運動部活動など学校教育活動全体や地域のスポーツ活動を通じて、その向上を図ることが課題となっている。また、小学校と中学校あるいは中学校と高等学校の間で連携や交流を進めて、広い視野に立って教育活動の改善充実を図り、体力の向上を含めて学校体育の充実に取り組むことも課題である。
今後10年間の具体的施策展開
心と体を一体としてとらえ、運動についての理解と合理的な実践を通して、積極的に運動に親しむ資質・能力を育てることや体力の向上を図ることなどを定めた新学習指導要領の趣旨の徹底により、学校体育の充実を図る。
また、体育の授業だけでなく、特別活動、総合的な学習の時間、運動部活動など学校教育活動全体を通じて、豊かなスポーツライフの基礎を培うとともに体力の向上を図ることについて、各学校の取組みを促す。
さらに、地域社会との連携や学校間連携を図りながら、日常生活における適切な運動の実践に結びつく運動の学び方や体力の高め方を児童生徒の発達段階に応じて身に付けることができるよう、研修会の実施や指導資料などを活用した情報提供を通じて、体育の授業の改善・充実を図る。
(2) 学校体育指導者・施設の充実
到達目標
- 教員の指導力の向上を図るとともに、優れた指導者を養成・確保する。
- 児童生徒の生涯にわたる運動への意欲を高めるとともに、地域との共同利用も可能となる学校体育施設を整備・充実する。
現状と課題
学校体育の充実には、優れた指導者の確保が重要である。しかしながら、実技を伴う体育科では、小学校において、特に、高学年では指導内容が高度化するために児童の関心・意欲や技能レベルに合った体育指導が困難と感じる教員が少なくない。中学校、高等学校においても、実技指導力をもった教員の配置や、複数教員による指導など創意工夫を生かした体育指導の充実により、一人一人の能力等に応じた指導ができるようにすることが求められている。また、我が国固有の文化に触れるための武道の指導も重要である。
さらに、学校体育の充実のためには、教員に加えて地域の指導者の活用が望まれているが、地方公共団体において学校のニーズに応じて地域の指導者を受け入れるシステムが十分整備されていない状況がある。
また、学校体育施設や設備の充実は、児童生徒の運動への興味・関心、意欲を高めるために重要である。従って、より効果的な指導を行うためにも、また、地域との共同利用を促進するためにも、「誰もが行きたくなるようなスポーツ施設」という観点に配慮し、その充実を図る必要がある。
特に、児童生徒の体力は長期的には低下若しくは停滞傾向にある状況を踏まえると、児童生徒が学校はもとより地域においても、緑豊かな環境でスポーツ活動を安心して自発的に楽しめることが求められる。とりわけ小・中学校の時期は、多様な動きや運動を日常的に実践することにより体力を高めることができることから、児童生徒が多様なスポーツ活動を身近な場で楽しむことを促進する学校の屋外運動場の芝生化は、体力の向上を図る上で極めて効果的であるとともに、学校生活に大きな潤いをもたらすものである。また、主体的に体力の向上のための活動を行う場所として余裕教室等を活用したトレーニングルームの設置を図ることも課題である。
今後10年間の具体的施策展開
1) 教員の指導力の向上
児童生徒の発達段階に応じて、運動の楽しさや喜びを味わうことや基礎的な体力の向上についての各学校の取組みが適切に進められるよう、実技を伴う研究協議会や学校種別間の連携への対応なども含めた講習会の開催、大学院修学休業制度も活用した大学院への派遣等を通じて、教員の指導力の向上を図る。
また、具体的な指導事例や実践研究の成果などの指導情報を体系的に整備し、様々なニーズに対応した指導情報が各教員に正確かつ的確に提供されるシステムを整備するなど、教員の指導力の向上のための支援を行う。
2) 優れた指導者の確保
小学校においては、特に指導内容が高度化する高学年段階において、個に応じた指導や基礎的な体力向上が求められていることを踏まえ、体育専科教員の活用等により指導の充実を図る。中・高等学校においては、生徒の能力・適性、興味・関心等が多様化することを踏まえ、生徒の選択履修の幅の拡大に応じられるよう、複数の教員による指導など創意工夫を生かした指導の充実を図る。
また、体育の授業においても、地域や競技団体の指導者を教諭の補助者や特別非常勤講師として活用することなどを積極的に推進するとともに、そのための人材を確保するため、日体協等との連携のもと、地方公共団体が設置しているスポーツリーダーバンク等の一層の活用・充実に努める。
3) 学校体育施設の充実
児童生徒が緑豊かなグラウンドで楽しく安全にスポーツに親しめる環境を創り出すため、学校の実態等に応じて屋外運動場の芝生化を促進する。
また、学校体育施設の設置者が次の事項にも配慮しながら学校体育施設の改善・充実を図れるよう、効果的な方策を検討し、具体化を図る。
ア 既存の学校体育施設については、地域との共同利用を促進するとともに、児童生徒や地域住民の多様なニーズに応えるようにするため、温水シャワーや更衣室を備えたクラブハウスを整備するなど施設の整備・充実を今後とも図ること。
イ 今後新たに設置する学校体育施設については、地域との共同利用の観点から整備を行うこと。
ウ 地域と共同利用できるトレーニング機材等を備えた「トレーニングルーム」の設置を促進するため、公立学校の余裕教室の利用を推進すること。
エ 我が国固有の文化としての武道に親しむことができるよう武道場の整備・充実を今後とも図ること。
(3) 運動部活動の改善・充実
到達目標
児童生徒のスポーツに関する多様なニーズに応えるため、運動部活動の指導者を充実するとともに、学校の実態等に応じて複数校合同で運動部活動が柔軟に実施できるようにする。
現状と課題 運動部活動は、学校の指導のもとにスポーツに興味と関心をもつ同好者で組織し、部員同士の切磋琢磨や自己の能力に応じてより高い水準の技能や記録に挑戦する中で、スポーツの楽しさや喜びを味わい、豊かな学校生活を経験する活動であり、学校教育活動の一環として位置付けられている。運動部活動では、教員は顧問や監督など指導者として重要な役割を果たしている。
しかしながら、最近、少子化による生徒数の減少、運動以外の活動への興味・関心などによる運動部活動への参加生徒数の減少、指導者の高齢化や実技指導力不足のために、競技種目によっては、チームが編成できない、あるいは、十分な指導ができなくなるなどの状況がある。
このような顧問の高齢化や実技の指導力不足を補うため、地域の指導者を活用することが課題となっているが、地域の指導者を学校に迎えることに対する学校関係者の理解が不十分であること、地域によっては地域の指導者を派遣するシステムが整備されていないこと、地域の指導者が安心して協力できる条件が整備されていないことなどから、地域の指導者の協力を十分得ているとは言えないのが現状である。その一方で、地域の指導者においても、運動部活動の意義や運営の在り方に対する理解が十分でない場合もある。
また、生徒数の減少等により単独の学校では運動部の活動を継続することが困難な場合も出てきており、スポーツを行いたいという生徒の関心や意欲に応えるため、複数校合同の運動部活動の円滑な運営を促進することやその全国大会への参加の道を拡げていくことなど環境の整備が必要である。
なお、運動部活動の運営については、学校週5日制の趣旨も踏まえつつ、競技志向や楽しみ志向など児童生徒のそれぞれのスポーツニーズに応じて地域のスポーツ活動を同時に楽しむことができるよう、必要に応じて見直しを図っていく必要がある。また、運動部活動について、一部では、地域のスポーツ活動との関係が疎遠になっているとの問題点も指摘されており、地域の実態等に応じて、運動部活動と地域のスポーツ活動が連携して児童生徒のスポーツ活動を豊かにしていくための関係者の取組みが求められている。
さらに、運動部活動の成果の発表の場である学校体育大会の支援とともに、大会規模等が過大になり関係者の財政負担が大きいという状況を踏まえ、その規模や回数などが適切なものとなるよう運営が改善されることも必要である。
なお、学校体育大会については、学校外のスポーツ活動の状況等を踏まえ、地域スポーツクラブの参加の道を開くなど参加条件の弾力化を図ることや、様々な競技レベルの生徒ができるだけ多く試合を楽しむことができるような大会を開催することなどが検討課題となっている。
今後10年間の具体的施策展開
1) 地域の指導者の協力の拡大
地域の指導者の運動部活動への導入が促進されるようなシステムの構築を図るとともに、運動部の顧問に加えて地域の指導者に対しても研修の充実を図る。
また、事故発生時の補償の充実について地方公共団体の取組みを促すなど、地域の指導者が安心して協力できるような環境の整備に努める。
さらに、地域の指導者の活用を促進するため、地域の指導者の学校教育への活用について学校関係者の理解を深めるとともに、各学校が地域の指導者の協力を得やすくするよう、地方公共団体が設置しているスポーツリーダーバンク等の活用・充実を図る。
2) 複数校合同運動部活動の推進
学校の実態等に応じて近隣の学校と合同で運動部を組織し、日常の活動を行う複数校合同運動部活動について、各学校における取組みを促すとともに、複数校合同運動部の全国規模の大会等への参加について、学校体育団体等の関係者の取組みを促す。
3) 運動部活動の運営の改善
次の事項に配慮しながら運動部活動の運営の見直しを図り、学校教育活動の一環として一層その充実を図るための各学校における取組みを促す。
ア 児童生徒が豊かな学校生活を送りながら人格的に成長していくという運動部活動の基本的意義を踏まえ、例えば、一部に見られる勝利至上主義的な運動部活動の在り方を見直すなど、児童生徒の主体性を尊重した運営に努めること。
イ スポーツに関する多様なニーズに応える観点からは、例えば、競技志向や楽しみ志向などの志向の違いに対応したり、一人の児童生徒が複数の運動部に所属することを認めるなど、柔軟な運営に努めること。
ウ バランスのとれた生活やスポーツ障害を予防する観点から、学校段階に応じて、年間を通じての練習日数や1日当たりの練習時間を適切に設定すること。
エ 学校週5日制の趣旨も踏まえて、児童生徒が学校外の多様な活動を行ったり、体を休めたりできるよう、例えば、全国学校体育大会や都道府県学校体育大会などの試合期を除いて、学校や地域の実態等に応じ土曜日や日曜日などを休養日とするなど、適切な運営に努めること。
オ 合同練習や定期的な交流大会で異校種間も含めた学校間の連携を図るなど、運動部活動の活性化に努めること。
4) 学校体育大会の充実
学校教育活動の一環として開催される全国中学校体育大会や全国高等学校総合体育大会などの学校体育大会は、日頃の運動部活動の成果の発揮、異なる学校の児童生徒相互の交流など、大きな教育的効果があることを踏まえ、今後とも支援の充実を図る。
また、学校体育大会の意義を踏まえ、学校体育大会における児童生徒の引率や学校体育大会に向けた週休日等における部活動の指導が行われる場合に支給される指導手当の充実に努める。
なお、学校体育団体等においては、主催する大会について、大会規模、日程や回数、種目、開催地負担の軽減方策等に関して国や地方公共団体と常に協議しながら対応するとともに、開催に伴う負担にも配慮しながら、参加のための条件や大会の方式に関しても柔軟な対応が図られるよう検討することが望ましい。
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