昭和58 (ネ) 329

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昭和58(ネ)329から転送)


音楽著作権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件[編集]

福岡高裁昭五七(ネ)五九五号、五八(ネ)三二九号

昭和五九59年7月5日判決

主文[編集]

一 控訴人(附帯被控訴人)らの控訴並びに被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴(請求の拡張)及び当審における請求の減縮に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1 控訴人(附帯被控訴人)らは、北九州市小倉北区堺町一丁目六三番一号ニユー南国ビル二階「クラブキヤツツアイ」において、原判決別紙添付楽曲リスト同2、同3及び本判決別紙添付楽曲リスト4に各記載の音楽著作物を営業のために演奏してはならない。
2 控訴人(附帯被控訴人)らは、被控訴人(附帯控訴人)に対し、連帯して、金一、四四〇万五、六八五円及びその内金一、一二九万七、六八五円に対する昭和五五年八月一日から、内金二一一万二、〇〇〇円に対する昭和五七年五月一日から、内金九九万六、〇〇〇円に対する昭和五八年五月一七日から各支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人(附帯控訴人)の控訴人(附帯被控訴人)らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は、第一、二審を通じて全部控訴人(附帯被控訴人)らの負担とする。

三 本判決主文一項の1、2は仮りに執行することができる。

事実[編集]

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)らは「原判決を取消す。被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審を通じて全部被控訴人の負担とする。」との判決及び当審において附帯控訴に基づき拡張された請求部分についても請求棄却の判決を求めた。被控訴人は、「本件控訴をいずれも棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決(但し原判決主文一項については、「控訴人らは、北九州市小倉北区堺町一丁目六三番一号ニユー南国ビル二階『クラブ キヤツツアイ』において、原判決別紙添付楽曲リスト、同2および同3各記載の音楽著作物を営業のために演奏してはならない。」との判決を求める旨請求を減縮)及び附帯控訴に基づく請求の拡張により「一、原判決を次のとおり変更する。1、本判決主文一項の1同旨。2、控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して、金一、四四〇万七、五〇〇円及びその内金一、一二九万九、五〇〇円に対する昭和五五年七月二五日から、内金二一一万二、〇〇〇円に対する昭和五七年五月一日から、内金九九万六、〇〇〇円に対する昭和五八年五月一七日から各支払いずみまで、年五分の割合による金員を支払え。二、附帯控訴費用は、控訴人らの負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、次のとおり付加訂正するほか、原判決事実摘示(原判決別紙添付の別表(一)、同楽曲リスト、同2、同3を含み、同別紙添付別表(二)ないし(六)を除く)並びに原審及び当審記録中各証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

一 原判決二枚目表一三行目の「現に」から同裏一行目の「音楽著作物」までを「原判決別紙添付楽曲リスト、同2、同3及び本判決別紙添付楽曲リスト4に各記載の音楽著作物」と改める。

二 原判決三枚目表一行目の「被告らは、」から同四枚目表二行目末尾までを「控訴人らは、共同して、本判決別紙(一)控訴人らの営業一覧表に記載の各場所で、同表『営業種目及び店名』欄に記載の各店舗を、同表『営業期間』欄に記載の各期間にわたつて夫々経営し、その間、右店内でその営業日の営業時間中、被控訴人の許諾を受けないで管理著作物に含まれる音楽を演奏し、来集した不特定多数の客に聞かせ、被控訴人の音楽著作権の内容である演奏権を侵害した。」と改める。

三 原判決四枚目裏一行目の末尾に「また、右各店舗のうち、ミニクラブ水晶においては昭和五五年一一月一日以降、ギヤルにおいては全営業期間を通じて楽団、ピアノ、エレクトーン、ギター等による生演奏にかえ、カラオケの伴奏で店の従業員及び客に本件管理著作物を被控訴人の許諾をうけることなく歌唱させ、被控訴人の音楽著作権の内容である演奏権を侵害した。即ち、控訴人らの場合も、他におけると同様、カラオケ装置を利用して音楽演奏を行うときは、伴奏用に楽曲のみが録音されたテープの再生と、歌唱者がマイクを用いて歌詞を歌う歌唱行為とが一体として行われるものであるが、控訴人らは、カラオケ装置を右各店舗に営業設備として設置し従業員にこれを操作させ、本件管理著作物の楽曲が録音された多数のカラオケテープを陳列し、その歌詞集を用意して合間に従業員(ホステスら)が歌うほかは常時客に好みの曲目を選ばせ、来集した不特定多数の客の面前で歌わせるのである。そうして、控訴人らは、右の如く客(時に従業員)に歌わせ、客に聞かせることを自己の営業企画にとり入れ、自らの管理のもとに客(あるいは従業員)の歌唱を営業に利用し、店の雰囲気作りを行い、客を集め、その利益を収めているもので、本件管理著作物の演奏主体は控訴人らであり、右は店に来た不特定多数の客の前で行われるのであつて公の演奏(著作権法二二条参照)に該当する。なお、控訴人らが主張するカラオケのテープに支払われた使用料とは、著作者の専有する複製権に基づく複製の許諾をうけるための使用料であつて、本件で被控訴人が主張している管理著作物の歌唱(生演奏)によつて侵害された演奏権についての損害賠償請求権の発生を妨げるものではない。ちなみに、複製の許諾を得て作成されたテープの伴奏音楽の再生は、当分の間、原則的に自由利用が認められている(著作権法附則一四条、同法施行令附則三条参照)。」と付加する。

四 原判決四枚目裏一〇行目の「前記」から同一一行目の「において、」までを「『クラブ キヤツツアイ』において、」と改める。

五 原判決五枚目表一三行目の『「ニユーエメラルド」』から同裏三行目の「及んでいる。」までを「本判決別紙(二)の(1)ないし(5)の各『一日の使用料(使用曲数)』欄に記載の曲数を下まわつていない。」と改める。

六 原判決七枚目表五行目の「三〇%を乗じた」を「〇・三を乗じた」と改め、同九行目の「2」から同一一枚目表七行目までを次のとおり改める。

「2 控訴人らの前記各店舗の使用料算定上の参酌基準となる管理著作物の使用状況は、本判決別紙(二)の(1)ないし(5)表に各記載のとおりであり、前記使用料規程を控訴人らの各店舗の各条件下における管理著作物の使用の場合に適用してその使用料額を算出した結果は本判決別紙(三)に記載のとおりで、被控訴人は、控訴人らの前記侵害行為により、右使用料額に相当する損害を被つた。

3 なお右本判決別紙(二)の(1)ないし(5)の各表のうち『3軽音楽使用料』は、一曲あたりのそれであり、「5客席数に応じて参酌する係数』中分子の『一〇〇』は、当該店舗の客席数が一〇〇名未満であることを意味し、分母の『五〇〇』は当該店舗の定員が五〇〇名未満であることをあらわし、『6一曲の使用料』は『3軽音楽使用料』に『4控除係教(社交場使用)』と『5客席数に応じて参酌する係数』を乗じた金額である。

4 また、本判決別紙(二)の(3)表の9ないし11欄(カラオケ伴奏による歌唱)につき説明すると、前述の如くミニクラブ水晶では昭和五五年一一月以降、ギヤルでは全営業期間にわたりカラオケ伴奏が使用されたが、被控訴人がカラオケ伴奏による歌唱について現行使用料規程による生演奏の使用料を算定する場合は、前述の使用状況の参酌のほか(イ)特別使用許諾契約(著作物使用料規程取扱細則(社交場)七条参照)の場合と同率の五割の減額措置を講じ(前示9欄),(ロ)前述の著作権法附則一四条の録音物による演奏についての経過措置等に対応して更に〇・四の減額率を適用し(前示10欄)使用料の公正を期している次第である。」

七 原判決一一枚目表九行目から同裏二行目までを次のとおり改める。

「よって、被控訴人は、控訴人らに対し、著作権侵害の停止と侵害の予防のため、前示クラブキヤツツアイにおいて原判決別紙添付楽曲リスト、同2、同3及び本判決別紙添付楽曲リスト4に各記載の音楽著作物を営業のために演奏することの差止めを求めると共に損害の賠償として、次の金額の連帯支払いを求める。 

1 損害金合計一、四六一万四、五〇〇円(本判決別紙(三)合計欄参照)中(イ)右別紙(三)記載の一の1の九五万六、二五〇円、同2の一四六万二、五〇〇円同3のうち昭和五四年二月一九日から昭和五五年七月三一日までの一七二万一、二五〇円、同記載の二の一四六万二、五〇〇円、同記載の三のうち昭和五一年一〇月二五日から昭和五二年四月三〇日までの四三万二、〇〇〇円、同年五月一日から昭和五五年七月三一日までの三九ヵ月分五二六万五、〇〇〇円の合計一、一二九万九、五〇〇円、(ロ)右別紙(三)記載の一の3のうち昭和五五年八月一日から同月一〇月三一日までの一六万二、〇〇〇円、同記載の三のうち昭和五五年八月一日から昭和五六年五月三一日までの一〇ヵ月分一三五万円、昭和五六年六月一日から昭和五七年三月三一日までの一〇ヵ月分六〇万円の合計二一一万二、〇〇〇円、(ハ)右別紙(三)記載の一の3のうち、昭和五五年一一月一日から昭和五七年九月三〇日まで四一万四、〇〇〇円、同記載の一の4の九、〇〇〇円、同記載の三のうち昭和五七年四月一日から昭和五八年四月三〇日まで一三ヵ月分七八万円の合計一二〇万三、〇〇〇円の内九九万六、〇〇〇円の総計一、四四〇万七、五〇〇円。

2 右一、四四〇万七、五〇〇円の内(イ)の合計金に対する履行期到来の後である本件訴状送達の翌日(昭和五五年七月二五日)から、同(ロ)の合計金に対する履行期到来の後である原審における訴変更申立書送達の翌日(昭和五七年五月一日)から、同(ハ)の合計金の内金に対する履行期到来の後である本件附帯控訴状送達の翌日(昭和五八年五月一七日)から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金。」

八 原判決一一枚目裏一二行目の次に以下のとおり付加する。

「四 なお、カラオケについては、すでにカラオケのテープで著作権使用料が支払われているので、それを歌唱することによつて更に著作権使用料を請求することはできない。  またカラオケはそれを歌唱する客が演奏の主体であつて、しかも本人が歌つて楽しんでいるにすぎず、他に聴かせるのが目的ではない。従つて、店舗経営者が演奏の主体ではなく、また営利のための演奏でもない。」

理由[編集]

当裁判所は、本訴請求は、被控訴人が控訴人らに対し、「クラブ キヤツツアイ」において原判決別紙添付楽曲リスト、同2、同3及び本判決別紙添付楽曲リスト4に各記載の音楽著作物を営業のため演奏することの差止めを求める部分並びに損害賠償金一、四四〇万五、六八五円及びその内金一、一二九万七、六八五円に対する昭和五五年八月一日から、内金二一一万二、〇〇〇円に対する昭和五七年五月一日から、内金九九万六、〇〇〇円に対する昭和五八年五月一七日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める限度で相当として認容せらるべきであるが、その余の損害金請求部分(スナツク水晶関係の一部と遅延損害金の一部)は失当として棄却せらるべきものと判断する。

その理由は、次のとおり付加訂正するほか原判決理由中に説示されているところと同一の判断をするので、これを引用する。

一 原判決一二枚目表一一行目の「第二〇号証の一、二、」を削除して同裏一行目の冒頭「第四四号証、」の次に「木下観光事務所を撮影した写真であることにつき当事者間に争いなき甲第二〇号証の一、二、」と挿入し同一〇行目の「被告ら」から同一三枚目表一行目までを「成立に争いなき甲第四七号証の六、同第四八号証の二、同第五二、第五三、第五七、第五八、第六八号証、当審証人山本滋久(第一、二回)の供述、同第二回供述により成立を認める甲第四七号証の四、同第四八号証の一、同第四九号証の一、二、同第五〇号証、同第五九、第六〇号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第四七号証の五、当審証人加藤英夫の供述、これにより成立を認める甲第五五号証の一、二、三、同第五六号証の一、二、三、当審証人黒川靖司の供述、これにより成立を認める甲第二九、第三四、第五一号証、原審及び当審控訴本人木下三郎こと具三否、原審控訴本人中野すみ江の各供述の各一部に弁論の全趣旨及び前記当事者間に争いなき事実をあわせると、次のとおり認めることができる。

1 被控訴人は、著作権に関する仲介業務に関する法律に基づく許可を受け、原判決請求原因一項に記載のとおりの業務を行う団体で、原判決別紙添付楽曲リスト、同2、同3、本判決別紙添付楽曲リスト4に各記載の音楽著作物(管理著作物)について夫々著作権者より著作権及びその支分権の信託譲渡をうけ、管理している(甲第一、二号証、同第三号証の一ないし三、原審証人黒川靖司の供述参照)。

2 控訴人らは、共同して本判決別紙(一)控訴人らの営業一覧表記載の各場所で、同表営業種目及び店名欄各記載の店舗を、同表営業期間欄記載の期間にわたつて経営した。なお、そのうち「クラブ キヤツツアイ」は現在も経営している。(甲第一五、第一八号証、同第一九号証の一ないし六、同第二〇号証の一、二、同第二一号証の一ないし三、同第二五、第二六号証、同第二七号証の一ないし一八、同第二八号証の一ないし一二、同第二九、第三〇号証、同第三一号証の一ないし三、同第三二号証の一ないし三、同第三三号証の一ないし三、同第三四号証、同第三五号証の一ないし四、同第四一号証の一、二、同第五一号証、同第五二、第五三号証、同第五五号証の二、三、同第五六号証の二、三、原審(第一、二回)当審(第一、二回)証人山本滋久、原審及び当審証人黒川靖司の各供述参照)。更にこの点について、原判決一三枚目表二行目の「なお、」から同一四枚目の表一三行目までと同一の判断をするのでこれを引用する(但し、原判決一三枚目裏九行目の冒頭の「2」を削除し、「被告具本人の供述」から同一一行目の「訴外丸山茂樹に、」までを「原審及び当審控訴本人具三否の各供述中には、前記南国ビル地階の店舗は、昭和五一年一〇月一日から昭和五三年一〇月末日までは訴外丸山茂樹に、」と改め、同一四枚目表七行目の「店名はもとより」から同八行目の「従前のままであり、」までを「営業内容や店名はスナツクニユーエメラルド、スナツク水晶、カフエミニクラブ水晶と変わつたが、経営者の交替に伴う変更とは時期の点でも認められず、」と改める。)。

3 控訴人らは、前記の共同経営にかかる店舗において、店の雰囲気をつくり、客を喜ばせ、店の経営を維持するための営業手段として、楽団や楽士と契約し、その午後七時頃から深夜に及ぶ営業時間中毎日被控訴人の許諾をうけないで管理著作物たる曲目を楽団演奏及びピアノ又はエレクトーンあるいはギター等による生演奏のかたちで演奏させて店に来た不特定多数の客に聞かせた。右は、店の雰囲気を盛り上げ、営利の目的をもつて公衆の面前で演奏したことが明らかである。但し昭和五五年一一月一日以降のカフエミニクラブ水晶並びにスナツクギヤルにおいては、控訴人らは楽団、楽士による演奏にかえ店内にカラオケを設備し、管理著作物たる曲目の伴奏が録音されたテープを準備し、被控訴人の許諾を得ないでホステス等従業員がその装置を操作し、客にマイクと曲目の索引リストを渡して選曲をすすめ、希望の曲を客に歌唱させ、またしばしばホステス等も客と一緒に歌い、また合間にはホステスだけでも歌つた。なおすくなくともミニクラブ水晶の場合は、一曲につき一〇〇円を選曲や歌唱等をした客から徴収していた。以上の如く各店舗で楽団、楽士により演奏され、あるいはカラオケ伴奏により歌唱された管理著作物の曲数は、本判決別紙(二)の(1)ないし(5)の各表に記載の各営業期間内の各営業日一日につき夫々7欄に記載の曲数を下らず、またその一ヵ月の営業日数は、夫々同8欄に記載の日数を下らなかつた(甲第一四号証の一ないし四、同第一五ないし第一七号証、同第二三ないし第二五号証、同第三五号証の三、六、九、同第三六ないし第三八号証、同第四六号証、同第四七号証の四、同第四八、第四九号証の各一、同第五〇号証、同第五五、第五六号証の各一、原審(第一、二回)当審(第一、二回)証人山本滋久、原審及び当審証人黒川靖司、当審証人加藤英夫の各供述参照)。

以上のとおり認めることができ、原審及び当審における控訴本人具三否、原審控訴本人中野すみ江の各供述中以上の認定に反する部分及び乙第三号証の記載は採用できない。他にこの認定を左右するに足る証拠はない。」と改める。

二 原判決一四枚目裏一行目以下を全部削除し、次のとおり付加する。

1 カラオケ伴奏による歌唱について。

公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ聴衆又は観衆から対価をうけない場合は上演し、演奏することができる(著作権法三八条一項本文)。また、適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生は、原則として自由利用とされている(同法附則一四条、同法施行令附則三条)。そこで本件の如くスナツク等の店がカラオケ伴奏で客に歌唱させるとき、演奏権(同法二二条)の侵害がいかなる場合に成立するかを考えてみると、結局その具体的事情にてらして店側が歌唱の主体であり営利を目的として行つていると認められる場合ということができる。

前記一の3に認定の事実関係に当審(第一、二回)証人山本滋久、同黒川靖司の各供述をあわせると、控訴人らは、店舗にカラオケを設備してこれを管理し、客にすすめて管理著作物が録音された伴奏用テープを再生して他の客の面前で歌唱させ、またしばしばホステスも客と共に歌唱し、あるいは合間にはホステスだけで歌唱し、店の雰囲気をつくり、客の来集をはかつて利益をあげることを意図していると認められるから、ホステス等の歌唱は勿論、客の歌唱も含めて演奏の主体性は店側にあり、かつ営利を目的とし、公衆の面前で演奏しているものと認めるのが相当である。してみると、かかる歌唱は、被控訴人の許諾なき限り当該管理著作物にかかる被控訴人の演奏権を侵害するものと認められ、他に以上の認定を左右するに足る証拠はない。

2 前記認定の如き楽団や楽士による管理著作物の演奏が、被控訴人の許諾なく行われる限り、同様被控訴人の演奏権を侵害することも明らかである。

3 しかして、前掲甲第八ないし第一三号証の各一、二、原審証人黒川靖司、原審(第一、二回)証人山本滋久の各供述と原審控訴本人具三否の供述の一部に弁論の全趣旨をあわせると、控訴人らは、おそくとも昭和五一年一一月一二日頃以降被控訴人から音楽著作権侵害に関する警告と音楽著作物使用許諾契約締結申込みに関する書面申入れを受けていたほか、かかる警告の有無にかかわらず、本件行為の当初から前述の如きスナツク等経営という職業環境にてらして、前述の如く被控訴人の許諾を得ることなく楽団又は楽士との契約に基づいて音楽を演奏させ、あるいは客又はホステスをしてカラオケ伴奏により歌唱させる行為が、被控訴人の管理著作物に関する演奏権の侵害になることを知つていたか、仮りに知つていなかつたとしても知らなかつたことにつき過失があつたと認められ、前掲原審控訴本人具三否の供述中この認定に反する部分は採用できず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

なお控訴人らは、前示カラオケについて、すでに著作権使用料が支払われている旨主張するが、前掲甲第三号証の一と弁論の全趣旨によれば控訴人らの主張する使用料は、著作権法第二一条による著作権者の複製権に基づき、著作物使用料規程(被控訴人が定め、著作権に関する仲介業務に関する法律三条により文化庁長官の認可を受けたもの)により支払いをうけている使用料であり、被控訴人が本件で主張する演奏権の侵害に消長を来たさないものと認められる。この認定を左右するに足る証拠はない。

4 そこで、本件により被控訴人が被つた損害を検討するに、その損害額は控訴人らの各店舗の一ヵ月当りの管理著作物使用料額にその営業期間の月数を乗じた額に相当すると認めることができる。

5 前掲甲第三号証の一ないし三と弁論の全趣旨によると、(イ)被控訴人は、文化庁長官の認可をうけた前記著作物使用料規程に基づき、管理著作物たる軽音楽(本件の場合は全てこれに該当する)一曲一回の演奏会形式による演奏の使用料を、定員、平均入場料、使用時間によつて類別区分された料金表により原判決別表(一)の如く定め(本表は定員五〇〇名未満の表である)、これがカフエ、クラブ、スナツク等の社交場で使用される場合は、右演奏会形式による演奏の場合の使用料の一〇〇分の五〇の範囲内で使用状況等を参酌して具体的な使用料を決定する旨定めていること(前記規程第二章第二節4)、(ロ)被控訴人は右の定めに基づき、使用状況参酌の方法として、著作物使用料規程取扱細則(社交場)により、左記のとおり定めていることが認められる。この認定を左右するに足る証拠はない。

〈1〉定員五〇〇名未満のものを更に一〇〇名単位で段階的に区分し、各社交場の客席数に応じて逓減する。

〈2〉平均入場料は、入場料金を明示しないクラブ、スナツク等の場合は、当該社交場の営業料金中の一セツト料金(飲食税、サービス料を含む)又は同相当額の三〇%とする。テーブルチヤージ、席料がある場合は、右の金額にこれを加算する。

〈3〉使用時間は、一曲一回の演奏が五分以上一〇分未満の場合でも五分未満とみなす。

6 更に、前掲甲第三号証の一、二、三、当審証人黒川靖司の供述、これにより成立を認める甲第六六号証によると、社交場におけるカラオケ伴奏による歌唱の場合の使用料として、被控訴人は前記規程及び細則に準拠しながら、右5の〈1〉ないし〈3〉の取扱いに加えて、左記のとおり特例を定めていることが認められる。この認定を左右するに足る証拠はない。

〈1〉特別使用許諾契約(前記細則七条。一定の優遇措置を伴う長期契約の場合である。)に準じて前記5で算出した使用料に更に〇・五を乗ずる。但し最低基準額を一万五、〇〇〇円とする。

〈2〉伴奏の演奏(カラオケテープの再生)自体は原則として自由であるところ(著作権法附則一四条)、喫茶店その他客に飲食させるところで客に音楽を鑑賞させるためにレコードにより著作物を使用する場合は、演奏会方式による演奏の一〇〇分の一〇の範囲内で使用料を決定することになつていること(前記規程第二章第二節5の〈6〉)を考慮し、テープ再生部分の使用料相当額を控除する趣旨において右〈1〉によって算出した金額の二割を減じ、また素人である客が歌唱することにより職業歌手ほどの効果はあがらないという趣旨において更にその二割を減ずる(結局〇・六を乗ずる)。

7 以上の事実に前掲甲第一四号証の一、同第三一ないし第三三号証の各二、同第三五号証の二、同第四一号証の三、同第五〇号証、原審証人黒川靖司、当審(第二回)証人山本滋久の各供述に弁論の全趣旨をあわせると、控訴入らが経営する各店舗における前記使用料算定上の参酌基準となるべき営業期間、定員、平均入場料、一曲一回あたりの軽音楽使用料(演奏会方式による場合)、社交場としての控除係数、客席数に応じて参酌する係数、一曲の使用料、一日の使用料、一ヵ月の営業日数、これによつて算出した一ヵ月の使用料、さらにカラオケ伴奏による歌唱に関する特例(昭和五五年一一月一日から昭和五七年九月三〇日までの間のカフエミニクラブ水晶と全営業期間のスナツクギヤル)による一ヵ月の使用料については、本判決別紙(二)の(1)ないし(5)の各該当欄に記載のとおり認めることができ(なお客席数は全て一〇〇未満である)、これに基づいて各店舗の管理著作物使用月数に基づく各使用料を算定すると、被控訴人主張の本判決別紙(三)使用料金額一覧表の各算定期間、月数、使用料金額欄に記載のとおり(但し一の2スナツク水晶関係を除く)認めることができる(なお、同表中一の3「カフエ ミニクラブ水晶」中昭和五四年二月一九日から昭和五五年七月三一日まで、同二「クラブ タイガーアイ」の昭和五三年三月二四日から昭和五四年四月三〇日まで、同三「クラブ キヤツツアイ」の昭和五一年一〇月二五日から昭和五二年四月三〇日までの各算定期間の月数は、それぞれ当該欄に記載の月数を下らないものである。)。被控訴人は前記スナツク水晶における算定期間の月数を二六ヵ月と主張するが、前述の如く同店舗の営業期間は昭和五一年一二月二〇日から昭和五四年二月一八日までであるから、二五ヵ月と三一分の三〇(月)にあたり、前述の同店舗における一ヵ月の使用料五万六、二五〇円(本判決別紙(二)の(1)参照)をこれに乗ずると一四六万〇、六八五円(円位未満切捨)となり、これが同店の使用料金額である。

以上の認定を左右するに足る証拠はない。

8 してみると、本件において被控訴人が被つた損害の合計額は、一、四六一万二、六八五円であり、控訴人らは連帯して被控訴人に対し左記金額を損害賠償として支払う義務があることが明らかである。

右の金額のうち、以下述べる(イ)ないし(ハ)の元本合計一,四四〇万五、六八五円とその遅延損害金。

(イ)本判決別紙(三)記載の一の1の九五万六、二五〇円、同2の一四六万二、五〇〇円のうち一四六万〇、六八五円、同3のうち昭和五四年二月一九日から昭和五五年七月三一日までの一七二万一、二五〇円、同記載の二の一四六万二、五〇〇円、同記載の三のうち昭和五一年一〇月二五日から昭和五二年四月三〇日までの四三万二、〇〇〇円、同年五月一日から昭和五五年七月三一日までの三九ヵ月分の五二六万五、〇〇〇円の合計一、一二九万七、六八五円とこれに対する被控訴人主張の本訴状送達の翌日(昭和五五年七月二五日、同月二四日本訴状が控訴人らに送達されたことは記録上明らかである。)の後であり、全額につき履行期到来の後であることの明らかな昭和五五年八月一日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金。 

(ロ)本判決別紙(三)記載の一の3のうち昭和五五年八月一日から同年一〇月三一日までの一六万二、〇〇〇円、同記載の三のうち昭和五五年八月一日から昭和五六年五月三一日までの一〇ヵ月分一三五万円、同年六月一日から昭和五七年三月三一日までの一〇ヵ月分六〇万円の合計二一一万二、〇〇〇円とこれに対する履行期到来の後である原審における訴変更申立書送達の翌日(昭和五七年五月一日。同年四月三〇日同申立書が控訴人らに送達されたことは記録上明らかである。)から支払いずみまで前同様年五分の割合による遅延損害金。

(ハ)本判決別紙(三)記載の一の3のうち昭和五五年一一月一日から昭和五七年九月三〇日までの四一万四、〇〇〇円、同記載の一の4の九、〇〇〇円、同記載の三のうち昭和五七年四月一日から昭和五八年四月三〇日までの一三ヵ月分七八万円の合計一二〇万三、〇〇〇円の内被控訴人主張の内九九万六、〇〇〇円とこれに対する履行期到来の後である本件附帯控訴状送達の翌日(昭和五八年五月一七日。同月一六日右附帯控訴状が控訴人らに送達されたことは記録上明らかである。)から支払いずみまで前同様年五分の割合による遅延損害金。

9 従って、被控訴人が支払いを求める損害金は、右の限度で相当として認容されるべきであるが、その余(前記スナツク水晶関係の一部と遅延損害金の一部)は失当として棄却を免れない。

また前述の如く控訴人らは「クラブ キヤツツアイ」において被控訴人の許諾なく管理著作物の演奏を続け、将来も演奏権の侵害を続けることが予測できるから、その侵害の停止と予防のため著作権法一一二条により差止めを求める被控訴人の請求も相当として認容することができる。

以上の理由により、原判決損害賠償請求認容部分については一部(スナツク水晶関係の一部と遅延損害金の一部)これと異なる原判決を変更すると共に、前述の差止請求に関する請求の減縮並びに附帯控訴に基づく請求の拡張により原判決を変更することとし、民事訴訟法九六条、八九条、九二条、一九六条により主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡徳壽 岡野重信 松島茂敏)

この著作物は、日本国著作権法10条2項又は13条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同法10条2項及び13条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。

  1. 憲法その他の法令
  2. 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
  3. 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
  4. 上記いずれかのものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの
  5. 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道

この著作物は、米国政府、又は他国の法律、命令、布告、又は勅令等(Edict of governmentも参照)であるため、ウィキメディアサーバの所在地である米国においてパブリックドメインの状態にあります。“Compendium of U.S. Copyright Office Practices”、第3版、2014年の第313.6(C)(2)条をご覧ください。このような文書には、“制定法、裁判の判決、行政の決定、国家の命令、又は類似する形式の政府の法令資料”が含まれます。