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ゲーナの思想は前に述べたる所にても知らるゝ如く敎會の方面より云へば餘りに獨立なるに過ぎたればなり。彼れは時代に先んじて出でたる深奧なる思想家なりき。スコラ哲學を組織することに於いて彼れよりも更に正當なる意味をもてスコラ學者と云はるべきはアンセルムスなり。

《スコラ哲學の正當なる組織者アンセルムス、其の辯證的論法。》〔七〕アンセルムスの出でたる時代とエリゲーナの時代との間には殆んど二世紀の隔たりあり。盖しシャルマーヌ帝の歿後歐洲の天地は復た擾亂の世となりて時勢はしばし學問の興隆に適せざりし也。アンセルムスの出でたるは十一世紀の前半に在り。スコラ哲學は彼れに於いて始めてそが正當の目的に適へる組織を成せりと謂ひつべし。


アンセルムス(Anselmus

アンセルムスは紀元千三十三年アオスタに生まれ千百九年に歿す、カンターベリーの大監督なりき。信仰と知識との關係は彼れに於いてスコラ哲學に取りての正當なる主義によりて更に明らかにせられたり。彼れ以爲へらく、宗敎上の信仰