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むる事數日になりぬ。八月の末には又旅立。柏崎といへる所まで夕こえ侍るに。村雨打そゝぎぬ。

 梢もる露に聞ともかしは崎下はに遠き秋のむらさめ

かくて重れる山つらなれる道を過行程。曠絕無人ともいふべし。越後信濃上野のさかひ三國峠といへるを越て侍るに。諏訪のふしおがみあり。

 諏訪の海にぬさとちらさは三國山よその紅葉も神や惜まむ

重陽の日。上州白井と云所にうつりぬ。則藤戶部定昌旅思の哀憐をほどこさる。十三夜には一續侍しに。寄月神祇。

 越ぬへき千とせの坂のひかしなる道まもる神も月やめつ覽

是より棧路をつたひて。草津の溫泉に二七日計入て。詞もつゞかぬ愚作などし。鎭守の明神に奉りし。又山中をへていかほの出湯にうつりぬ。雲をふむかとおぼゆる所より淺間嶽の雪いたゞき白くつもり初て。それよりしもは霞のうすくにほへるがごとし。

 なかはよりにほふかうへの初雪をあさまの嶽の麓にそみる

一七日いかほに侍りしに。出湯の上なる千嚴の道をはるとよぢ上りて大なる原あり。其一かたにそびえたる高峯あり。ぬのたけといふ。麓に流水あり。是をいかほのぬまといへり。いかにしてと侍る往躅をたづねてわけのぼるに。からころもかくるいかほの沼水にけふは玉ぬくあやめをそひくと侍りし京極黃門の風姿まことに妙なり。枯たるあやめのね霜を帶たるに。まじれる杜若のくきなどまで。むかしむつまじくおぼえて。

 種しあらはいかほの沼の杜若かけし衣のゆかりともなれ

神無月廿日あまりに彼國府長野の陣所に至る事晡時になれり。此野は秋の霜をあらそひし戰場いまだはらはずして。軍兵野にみてり。かれたる萩われもかうなどをひきむすびて夜を