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レースに至り益〻發揮せられて全く明瞭に靈智者の存在をば萬物の原因また極致として說くこととなれり。またアリストテレースが此の思想は希臘に於ける哲學的一神論の最も明らかに形づくられたるものにして已にクセノファネースに於いて現はれたる神學的思想の發達がこゝに至りて極まれるなり。彼れが哲學的一神論は後世の歐羅巴の思想に甚大なる影饗を與へたるもの、また此の純智を以て神明とせる彼れの哲學に於いて希臘の學術は其が最高理想を謳歌したるものといふべし。(アリストテレースの謂ふ神は純理的思想(θεωρία)にして後世の有神論者の謂ふが如き人格ある有情の神にはあらず)。盖し彼れが斯く自ら足りて毫も他に求むる所なき純智の自觀を說きてこれを神の樂みとなせるは希臘人の一大理想を語り出だせるなり。

《神の超絕的存在。》〔二二〕アリストテレースが神は自ら動くことなく唯だ他の一切の物の極致として他の一切の物のそれに向かひて進み來たるなりと云へるは是れ神を以て萬物以外に在りて超絕的存在を有するものと見たるにて此の點に於いて明らかにプラトーンのイデア論を保存せり。即ち超絕的存在を有するものとしてのイ