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〈無題〉『雪󠄁の降らんとする』
雪󠄁の降らんとする
降誕祭の前󠄁夜
われは裏に雜木林を
ひかえたる寂しき下宿の
二階にありて、
炬燵造󠄁りて人を待てり
今宵󠄁人々は街に出でて
酒にさざめき明󠄁き灯の下を
をかしき面してざればみ遊󠄁べど
われは一人寂しき下宿の
家具乏しき部屋ぬちにあり
街のどよめきはすれど
わが耳に入らず
わが耳に入るはただ一つ
そはかかる時、しめやかにひたひたと
忍󠄁び來るかのをみなの跫音のみ
闇深き森かげを過󠄁ぎ、
電車道󠄁をよぎり、
土橋を越え、
八百屋の角をまがり、
市場の橫を通󠄁ひ來る
かの息をひそめたる跫音のみ
早く來よをみな
われは汝を待ちて
暖󠄁き炬燵を造󠄁り、
そが上に蜜柑を盛れり