國譯妙法蓮華經
卷の第一
序品第一
是の如きを、我聞きき。一時、佛、(一)王舍城(二)耆闍崛山の中に住たまひ、(三)大比丘衆、萬二千人と倶なりき。皆是(四)阿羅漢󠄇なり。(五)諸漏已に盡して復(六)煩惱無し。己利を逮󠄂得し、諸の有結を盡して、心自在を得たり。其の名を(七)阿若憍陳如、(八)摩󠄃訶迦葉、(九)優樓頻蠃迦葉、那提迦葉、(一〇)舍利弗、(一一)大目犍連󠄁、(一二)摩󠄃訶迦旃延、
【一】王舍城(Rājagriha)は中印度摩󠄃竭陀國の都󠄁城なり。紀元前六世紀に頻婆娑羅王(Bimbisāra)の築く所󠄁なりと傳ふ。
【二】耆闍崛山(Gṛdharakūṭa)は靈鷲山と譯す。王舍城の東北にある山、釋尊󠄁說法の地として有名なり。
【三】大比丘衆。比丘(Bhikṣu)は乞士、除饉、勤事男と譯す。男子の出家、卽ち僧をいふ。大比丘衆は戒德具足の僧衆なり。
【四】阿羅漢󠄇(Arhan)は應供、殺賊、無生、離惡等と譯す。小乘の敎によりて悟れる聖者の敬稱。
【五】諸漏。漏は漏泄と熟す、煩惱の異名。諸漏は三毒五慾等の煩惱なり。
【六】煩惱は惑また漏とも云ふ。吾人の心身を煩擾惱亂する精󠄀