80
渠工は水を導き、箭匠は箭を矯む、木工は材を曲げ、賢者は己を調ふ。
81
一塊の磐石の、風に動かされざるが如く、賢者は毀訾と稱譽とに動かさるることなし。
82
底深き池水の、澄みて、濁なきが如く、賢者は法を聞きて心を澄ましむ。
83
善人は一切處に〔欲を〕棄て、良士は(1)欲を求むるが爲に語らず、樂に觸れ、將又苦に〔觸れても〕、賢者は(2)變れる相を現すことなし。
84
自の爲にも他の爲にも〔惡を行はず〕、兒をも財をも國をも、之を求むることなく、非道によりて、己の利達を求むることなし、これぞ德者・智者・義者なる。
85
人閒の中にて、(3)彼岸に到るものは少く、其の他のものは岸邊にありて奔馳す。
86
善く說かれたる法に隨順する輩は、越え難き魔の領土を〔越えて〕彼の岸に到らん。
87 88
賢者は黑法を棄てて、白〔法〕を修すべし、家より〔離れて〕、家なき身となり、樂を得難き遠離の所に於て、此處に賢者は諸欲を棄てて、我有なき身なり、妙樂を求め、諸の心穢より、己を淨くすべし。
89
(4)正覺分に於て、善く心を修習し、執することなくして、著を棄つるを樂む、此の光輝ある(5)漏盡者は、世に靜穩を得たるなり。
(1) 諸欲を求め、諸欲の爲に閑語を交ふることなし。 (2) 浮みたる顏、沈みたる顏をなすことなし。 (3) 彼岸とは涅槃を云ひ、此岸とは生死を云ふ。次偈の彼岸の意も同じ。 (4) 所謂七菩提分法なり。 (5) 漏盡者とは煩惱を盡したる人の意にて阿羅漢を云ふ。