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まへの御あそびはじまる。頭大夫冬方御箱の蓋に御笛入れてもちて參る。關白とりて御前にまゐらせたまふ。右大將も笛、中宮大夫琵琶、大宮大納言笙、春宮大夫琴、右宰相中將和琴、光忠宰相篳篥。兼尊も吹きしにや。拍子左大臣、すゑ冬忠の宰相。更けゆくまゝにうへの御笛の音すみのぼりて、いみじくさえたり。左のおとゞの安名尊、伊勢のうみ限なくめでたく聞ゆ。事どもはてぬれば御贈物まゐる。錦の袋に入れたる御笛、箱の蓋にすゑらる。左大臣とりつぎて關白にたてまつる。御前に御らんぜさせて、冬方を召してたまはす。次に唐の赤地の錦の袋に、御琵琶入れてまゐる。その後御馬殿上人口をとりて、御まへにひきいでたり。ほのぼのと明くるほどにぞ歸らせ給ひぬる。法皇はやゝもすれば、大覺寺殿にのみ籠らせおはします。人々世の事ども奏しにまゐりつどふ。今は一すぢに御行にのみ御心入れ給へるに、いとうるさくおぼせば、その夏頃定房の大納言あづまへ遣さる。御門に天の下の事ゆづり申さむの御消息なるべし。大方はいとあさましうなりはてたる世にこそあめれ。かばかりの事は父御門の御心に、いとやすく任せぬべきものをとめざましけれど、きのふ今日にはじまりたるにもあらず。承久よりこなたはかくのみなりもてきにければなめり。內に近く侍ふ上達部などのなまはらぎたなき、わが思ふ事のとゞこほりなどするを、法皇をうれはしげに思ひ奉りて、此の事いかであづまより許し申すわざもがなと祈などをさへぞしける。かくて大納言ほどなく歸りのぼりぬ。御心のまゝなるべく奏したりとて、院のふどの議定所にうつされ、評定衆などせうせうかはるもあり。さて世をしたゝめさせ給ふ事、いとかしこうあきらかにお